【専門医が解説】インスリン治療の「怖い」を「頼れる」へ変える完全ガイド
糖尿病

【専門医が解説】インスリン治療の「怖い」を「頼れる」へ変える完全ガイド

「インスリン療法」と聞くと、漠然とした不安を感じる方は少なくないかもしれません。「これが『最終手段』なのだろうか?」1、「毎日の自己注射は痛くて複雑ではないか?」2、「一度始めたら、一生やめられないのだろうか?」3。これらの恐怖や誤解は、決して不自然なものではありません。しかし、近年の医療は目覚ましい進歩を遂げています。本記事は、日本糖尿病学会(JDS)の最新ガイドラインや科学的研究に基づき、専門家の視点から、その「怖い」という感情を、ご自身の健康を主体的に管理するための「頼れる」ツールへと変えるための完全な指針(ガイド)となることを目指します。

この記事の科学的根拠

本記事は、入力された研究報告書で明示的に引用されている最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下は、参照された実際の情報源と、提示された医学的指導との直接的な関連性を示したリストです。

  • 日本糖尿病学会(JDS): 本記事におけるHbA1c目標値、インスリン開始基準、インスリン製剤の分類、合併症管理に関する推奨は、同学会の「糖尿病診療ガイドライン2024」に基づいています。4
  • 米国糖尿病協会(ADA): 持続血糖測定(CGM)やインスリンポンプなどの新技術に関する記述は、国際的な比較・参照のため、同学会の「Standards of Care in Diabetes」を参考にしています。5
  • 厚生労働省(MHLW): 日本国内の糖尿病患者数や国の健康政策(健康日本21)に関するデータは、同省の公式発表に基づいています。6
  • 主要な科学論文: インスリン製剤の進歩や将来の治療法に関する記述は、「J Diabetes Investig.」や「Diabetes Technol Ther.」などの査読付き学術雑誌に掲載された研究論文を根拠としています。78

要点まとめ

  • インスリン療法は治療の「失敗」や「最終手段」ではなく、疲弊した膵臓を休ませ、機能を回復させるための積極的で効果的な治療法です。
  • 特に2型糖尿病の場合、インスリンは必ずしも一生涯のものではありません。状態が改善すれば、減量や離脱も可能です。
  • 最新の注射針は極めて細く、痛みは大幅に軽減されています。正しい手順と工夫で、痛みは最小限に抑えられます。
  • 最も注意すべき副作用である「低血糖」は、症状や対処法を正しく理解していれば、予防・管理が可能です。
  • 技術革新により、持続血糖測定(CGM)やスマートペン、人工膵臓などが登場し、より安全で質の高い血糖管理が実現しつつあります。

第1部:インスリン療法の基礎知識 ー 不安を解消する第一歩

インスリン療法に対する漠然とした不安や恐怖は、多くの場合、誤解から生じています。まずは正しい知識を身につけ、その不安を解消することから始めましょう。

1.1. なぜインスリン治療が必要になるのか?膵臓を「休ませる」という考え方

インスリン療法を開始するということは、決してこれまでの治療が「失敗」したことを意味するわけではありません。むしろ、これは疲弊したご自身の膵臓を積極的に保護するための、戦略的な一歩と捉えるべきです。長期間にわたり血糖値が高い状態が続くと、膵臓はインスリンを過剰に分泌しようとして疲弊してしまいます。この状態は「高血糖毒性」と呼ばれ、膵臓の機能をさらに低下させる悪循環に陥ります。9

この状況でインスリン分泌を促す経口薬を使い続けるのは、「エンジンが過熱している車でアクセルを踏み続ける」ようなものです。そこで、外部からインスリンを補充する「インスリン療法」が必要となります。これにより、高血糖毒性の状態が解除され、ご自身の膵臓はインスリンを過剰に作り出す負担から解放されます。つまり、膵臓に「休息を与える」ことができるのです。この休息期間によって、膵臓の機能が回復する可能性も期待できます。310

1.2. 「一生やめられない」は大きな誤解

「一度インスリン注射を始めたら、一生やめられない」という考えは、最も広まっている誤解の一つです。特に日本の患者の多くを占める2型糖尿病の場合、これは必ずしも事実ではありません。311

前述の通り、インスリン療法によって膵臓が休息し、機能を取り戻すことがあります。生活習慣の改善(食事療法や運動療法)と組み合わせることで血糖コントロールが安定すれば、インスリンの注射回数や量を減らしたり、場合によっては経口薬のみの治療に再び戻したりすることも十分に可能です。1012 もちろん、インスリンを産生する膵臓のβ細胞そのものが破壊されてしまう1型糖尿病の場合は、生命を維持するために生涯にわたるインスリン補充が不可欠です。この違いを正しく理解することが重要です。11

1.3. 注射は痛い? 最新器具の進歩と痛みを和らげる工夫

注射に対する恐怖心、特に痛みの心配は、多くの方が抱く自然な感情です。しかし、この恐怖は、過去の太い注射針の経験に基づいていることが少なくありません。板谷内科クリニックによると、現代のインスリン自己注射に用いられる専用の注射針は、技術の進歩により驚くほど細くなっており、その直径は採血で使われる針の約3分の1ほどしかありません。122 さらに、針の先端は痛みを最小限にするために特殊な形状にカットされており、皮膚をスムーズに通過するよう設計されています。

LIFULL Kaigoが推奨するように、痛みをさらに和らげるための簡単な工夫もいくつかあります13

  • 注射部位を消毒後、アルコールが完全に乾いてから注射する。
  • 注射器を皮膚に対して垂直に、迷わず素早く刺す。
  • インスリンの注入はゆっくりと行う。
  • 冷蔵庫から出したインスリンは、室温に戻してから使用する。

これらの知識と工夫により、注射に伴う身体的・心理的な負担は大幅に軽減できるのです。


第2部:インスリン療法の実際 ー 安全で効果的な使い方

インスリン療法を安全かつ効果的に行うためには、製剤の種類を理解し、正しい自己注射の手順を習得し、そして最も重要な副作用である低血糖について万全の備えをしておくことが不可欠です。

2.1. インスリン製剤の種類と役割:あなたに合うのはどれ?

健康な人の膵臓は、24時間を通じて少量ずつインスリンを分泌する「基礎分泌」と、食事による血糖値の上昇に対応して追加で分泌する「追加分泌」という、2つの方法で血糖値を調節しています。911 インスリン療法の目的は、これらの自然な分泌パターンを可能な限り忠実に模倣することです。そのため、作用時間や効果の現れ方が異なる様々な種類のインスリン製剤が開発されています。日本糖尿病学会の「糖尿病診療ガイドライン2024」4に基づき、主な種類を以下の表にまとめます。

表1:主なインスリン製剤の種類と特徴
分類 主な役割 作用発現時間 作用持続時間 主な製剤名(例)
超速効型 追加分泌の補充(食直前) 約10~20分 3~5時間 リスプロ、アスパルト、グルリジン
速効型 追加分泌の補充(食前30分) 30分~1時間 5~8時間 レギュラーインスリン
中間型 基礎分泌の補充 30分~3時間 最大24時間 NPHインスリン
持効型溶解 基礎分泌の補充 1~2時間 約24時間以上 グラルギン、デテミル、デグルデク
配合溶解/混合型 基礎・追加分泌を同時に補充 約10~20分 最大24時間 各種配合剤

どの種類のインスリンを、いつ、どのくらい使用するかは、患者さん一人ひとりの病型、血糖値のパターン、そしてライフスタイルによって大きく異なります。主治医とよく相談し、ご自身に最適な治療法を見つけることが重要です。

2.2. 正しい自己注射の手順(図解付きステップ・バイ・ステップ)

インスリンの効果を最大限に引き出し、安全性を確保するためには、正しい自己注射の手順を厳守することが極めて重要です。ここでは、複数の信頼できる情報源1312を基に、一般的なペン型注入器の使用手順を解説します。

  1. 準備:まず、石鹸で手をきれいに洗います。使用するインスリンペン、新しい注射針、アルコール綿を準備します。
  2. 注射針の装着:ペンのキャップを外し、新しい注射針をまっすぐ、しっかりと取り付けます。
  3. 空打ち(からうち):針が詰まっていないか、インスリンが正常に出るかを確認するため、医師の指示に従い1〜2単位で空打ちを行います。針先からインスリンが一滴出れば正常です。
  4. 単位の設定:ダイヤルを回し、医師から指示された注射単位数に合わせます。
  5. 注射部位の消毒:腹部、太もも、臀部、上腕部など、注射する部位をアルコール綿で消毒し、乾かします。
  6. 注射:消毒した部位の皮膚を軽くつまみ、皮膚に対して針を垂直(90度)に刺します。
  7. 注入:注入ボタンを、ダイヤルの表示が「0」になるまで、ゆっくりと最後まで押し込みます。
  8. 秒数維持:注入が終わってもすぐに針を抜かず、そのままの状態で10秒ほど数えます。これにより、インスリンが確実に体内に入ります。
  9. 抜針と後処理:針をまっすぐ抜き、使用済みの針は安全に廃棄します。

また、同じ場所に繰り返し注射を続けると、皮膚が硬くなる「リポハイパートロフィー」という状態になり、インスリンの吸収が悪くなることがあります。12 これを避けるため、毎回2〜3cmずつ場所をずらして注射する「部位のローテーション」が非常に重要です。米国糖尿病協会(ADA)も、腹部、太もも、腕など、注射部位によってインスリンの吸収速度が異なることを指摘しており、部位の計画的な管理を推奨しています。5

2.3. 最も重要な副作用「低血糖」:症状・原因・対処法

インスリン療法における最も注意すべき副作用が「低血糖」です。これは血糖値が下がりすぎることで起こる状態で、迅速かつ適切な対応が求められます。しかし、事前に知識を身につけておけば、低血糖は管理可能であり、過度に恐れる必要はありません。

  • 症状:LIFULL Kaigoによると、低血糖の症状は段階的に現れます13。初期症状としては、冷や汗、手足の震え、動悸などがあります。進行すると、強い空腹感、めまい、かすみ目、生あくびなどが現れ、さらに重症化すると意識障害やけいれんを引き起こす危険性があります。
  • 原因:主な原因として、インスリンの過剰投与、食事量の不足や食事を抜くこと、予定外の激しい運動などが挙げられます。
  • 対処法(極めて重要):
    1. 即時対応:初期症状を感じたら、直ちにブドウ糖10g、またはそれに相当する糖分(砂糖20g、糖分を含むジュース150-200mlなど)を摂取します。
    2. 経過観察:15分ほど安静にし、症状が改善しない場合や血糖値が低いままの場合は、再度同じ量の糖分を摂取します。
    3. 緊急時の対応:意識を失っている場合は、無理に口から飲食物を与えようとすると窒息の危険があります。直ちに救急車を呼び、家族など周りの人は、ブドウ糖のジェルやハチミツなどを口の中の粘膜(歯茎や頬の内側)に塗りつける応急処置を行うことができます。

日本糖尿病協会は、万が一に備え、ブドウ糖や補食を常に携帯すること、そして自身の状態を周囲に知らせるための「糖尿病患者用IDカード」を携帯することを強く推奨しています。14


第3部:最新の進歩と未来の展望 ー インスリン治療の最前線

インスリン療法は、発見から100年以上が経過した今もなお、進化を続けています。最新の製剤やテクノロジーは、より生理的な血糖コントロールと、患者さんの生活の質の向上を目指しています。

3.1. より生理的に:超長時間作用型と配合剤の登場

近年のインスリン製剤の開発は、より安定した血糖コントロールを実現し、低血糖のリスク、特に夜間の低血糖を減らすことに焦点を当てています。

  • 超長時間作用型インスリン:インスリン デグルデク(商品名:トレシーバ)やインスリン グラルギンU300(商品名:ランタスXR)といった製剤は、作用時間が24時間を超え、効果が非常に平坦であることが特徴です。これにより、1日を通して安定した基礎インスリンレベルを維持し、血糖値の変動を大幅に抑制することができます。8
  • 配合溶解注射薬(FRC):これは、基礎インスリンと、GLP-1受容体作動薬という別の種類の糖尿病治療薬を一つの製剤に配合したものです。この治療法は、血糖コントロールを改善するだけでなく、GLP-1受容体作動薬の効果により体重増加を抑制、あるいは体重減少を促す可能性があり、1日1回の注射で済むため治療の簡便化にも繋がります。7

これらの新しい選択肢は、患者さん一人ひとりの生活に合わせた、より柔軟な治療計画を可能にしています。

3.2. テクノロジーとの融合:CGM、スマートペン、そして人工膵臓へ

テクノロジーの進化は、糖尿病管理を革命的に変えつつあります。指先穿刺による「点」の血糖測定から、持続的な「線」での血糖変動の把握へと移行しています。

  • 持続血糖測定(CGM):皮下に装着した小さなセンサーが、5分ごとなど、継続的に間質液中の糖濃度を測定し、血糖の変動をリアルタイムで可視化するシステムです。血糖値のトレンド(上昇中、下降中、安定)が矢印で表示され、高血糖や低血糖になる前にアラートで知らせてくれるため、早期の対処が可能になります。7
  • スマートペン:注射したインスリンの量や時刻を自動的に記録し、スマートフォンのアプリと連携するペン型注入器です。これにより、患者さんは注射履歴を正確に管理でき、医師も治療遵守状況を客観的に把握しやすくなります。
  • ハイブリッド・クローズドループシステム(人工膵臓):これは、CGMとインスリンポンプが連動し、アルゴリズムに基づいて基礎インスリンの注入量を自動で調節するシステムです。例えば、MiniMed™ 770Gシステムなどがこれにあたります。これにより、特に1型糖尿病患者さんの管理負担が大幅に軽減されることが期待されています。7

3.3. 未来の治療法:週1回投与から細胞治療まで

医学研究の最前線では、さらに利便性が高く、根治をも視野に入れた治療法の開発が進められています。

  • 週1回投与のインスリン:現在、週に1回の注射で済む超長時間作用型の基礎インスリンが開発の最終段階にあります。これが実用化されれば、注射の頻度が劇的に減少し、患者さんの負担はさらに軽くなるでしょう。8
  • β細胞補充療法:これは、iPS細胞などから作り出したインスリン産生細胞(β細胞)を患者さんに移植し、体内で再びインスリンを自然に作れるようにすることを目指す治療法です。特に1型糖尿病の根治につながる可能性を秘めた、究極の治療法として研究が進められています。7

第4部:日常生活との両立 ー 賢く、豊かに生きる

インスリン療法は、日常生活から切り離されたものではありません。食事や仕事、そして災害時など、様々な場面で賢く対応することで、治療を続けながら豊かで安心な生活を送ることが可能です。

4.1. 日本の食生活とカーボカウント入門

インスリンの効果を食事と適切に合わせるために、「カーボカウント」という考え方が役立ちます。これは、食事に含まれる炭水化物(カーボ)の量を把握し、それに見合ったインスリン量を調整する方法です。厳格な食事制限ではなく、食事の自由度を高めるためのツールと捉えることができます。以下に、一般的な日本食に含まれる炭水化物量の目安を挙げます。1516

表2:一般的な日本食の炭水化物量(目安)
食品 炭水化物量(約)
ご飯(白米) 1杯(150g) 55g
食パン 1枚(6枚切り) 30g
うどん(麺のみ) 1玉(200g) 50-60g
ラーメン(麺のみ) 1玉 60-70g
にぎり寿司 1貫 5-8g

Health2Sync Blogでは、外食時のコツとして、ラーメンや丼物のような炭水化物中心の食事の前に、サラダや野菜の小鉢、味噌汁などを先に食べる「ベジファースト」を推奨しています。これにより、食物繊維が糖の吸収を穏やかにし、食後の急激な血糖上昇を抑える効果が期待できます。17

4.2. シックデイ(病気の日)と災害時への備え

風邪や胃腸炎などで体調を崩した日(シックデイ)や、地震などの災害時は、血糖コントロールが乱れやすくなります。事前の準備と知識が、ご自身の安全を守る鍵となります。

シックデイルール

体調が悪い時でも、自己判断でインスリンを中断してはいけません。特に基礎インスリンは、食事を摂れなくても体が必要とするため、通常通り注射を続けるのが原則です。9 脱水を防ぐために水分を十分に摂取し、血糖値を頻繁に測定しましょう。どのように対応すべきか、事前に主治医とシックデイルールについて話し合っておくことが重要です。

災害時への備え

日本は災害の多い国です。日本糖尿病協会や日本IDDMネットワークは、糖尿病患者さんに対して以下のような備えを呼びかけています。141819

  • 医薬品・物資の備蓄:インスリン、注射針、血糖測定器、センサー、消毒綿などを、最低でも1〜2週間分は余分に確保しておきましょう。
  • インスリンの保管:停電で冷蔵庫が使えなくても、未開封のインスリンは多くの場合、涼しい場所(30℃以下)で約1ヶ月は品質が保たれます。14 直射日光や高温を避けて保管してください。
  • 緊急持ち出し品の準備:普段使うものとは別に、お薬手帳のコピー、ブドウ糖、非常食などをまとめた緊急用のバッグを準備しておくと安心です。
  • 情報の伝達:避難所などでは、ご自身が糖尿病であることを医療スタッフや責任者に伝え、必要な支援を受けられるようにしましょう。20

4.3. 職場や社会との関わり方

糖尿病であることを職場でどのように伝えるべきか、悩む方も少なくありません。法的に開示する義務はありませんが、戦略的に情報を共有することが、ご自身の安全と円滑な職場生活につながることがあります。

さんぎょうい株式会社の報告によると、働く世代の糖尿病患者にとって、職場での理解とサポートは非常に重要です。2122 「病気です」と漠然と伝えるのではなく、「昼食時にインスリン注射をするためのプライベートな場所が必要です」とか、「もし様子がおかしかったら、低血糖かもしれません。このブドウ糖を摂らせてください」というように、具体的にどのような配慮や助けが必要かを伝えることが、相手の理解を得やすくするコツです。信頼できる上司や同僚に事前に話しておくことで、万が一の低血糖時にも迅速な対応を期待でき、安心して業務に集中できます。職場の理解は、ストレスの軽減にもつながり、長期的な血糖コントロールにも良い影響を与えるでしょう。23


結論

本記事を通じて、インスリン療法に対する「怖い」という感情が、少しでも「頼れる」という確信に変わりましたでしょうか。インスリンは「最終手段」などではなく、進歩した現代医療が提供する、安全で効果的な治療の選択肢の一つです。最新の製剤やテクノロジーは、かつてないほど安全で柔軟な血糖管理を可能にし、患者さんの生活の質を大きく向上させています。

正しい知識を身につけ、ご自身の体と向き合い、そして災害時などの備えを怠らないことで、インスリン療法を行いながら、豊かで活動的な人生を送ることは十分に可能です。この記事が提供する情報は、そのための土台となる知識です。次に行うべき最も重要なステップは、これらの情報を携えて、主治医や医療専門家と、より深く、よりオープンな対話を始めることです。共に協力し合うことで、あなた自身のライフスタイルや健康目標に最も適した、個別化された治療計画を築き上げていくことができるでしょう。

よくある質問

インスリンを始めると太りやすくなるというのは本当ですか?

はい、その可能性があります。インスリンには、体内でエネルギーとして使われなかったブドウ糖を脂肪として蓄える働きがあるため、体重が増加することがあります。24 しかし、これはインスリン治療によって血糖コントロールが改善し、それまで尿中に排泄されていた余分な糖が体内に効率よく取り込まれるようになった結果とも言えます。適切な食事療法と運動療法を組み合わせることで、体重増加は最小限に抑えることが可能です。主治医や管理栄養士と相談し、カロリー摂取量を見直すことが重要です。また、最近では体重増加に影響しにくい、あるいは体重減少効果も期待できるGLP-1受容体作動薬との配合剤も登場しています。7

旅行や出張に行くときは、どうすればよいですか?

インスリン治療中でも、事前の計画と準備で安全に旅行を楽しむことができます。まず、旅行の日数分より多めのインスリンや注射針、血糖測定関連の物品を準備しましょう。手荷物として機内に持ち込むことをお勧めします(預け荷物は紛失や温度変化のリスクがあるため)。航空機内への液体物や注射針の持ち込みについては、英文の診断書や処方箋のコピーを用意しておくとスムーズです。時差がある地域へ行く場合は、インスリン注射のタイミングや量の調整について、事前に主治医と必ず相談してください。また、旅行先での食事や活動量の変化も血糖値に影響するため、こまめな血糖測定を心がけましょう。

インスリンの費用はどのくらいかかりますか?

インスリン療法の費用は、使用するインスリンの種類、量、そして加入している健康保険の種類によって大きく異なります。日本では、国民健康保険や社会保険などの公的医療保険が適用されるため、自己負担額は通常、総医療費の1割から3割となります。さらに、高額療養費制度を利用することで、1ヶ月の自己負担額が一定の上限を超えた場合に、その超過分が払い戻されます。また、1型糖尿病など特定の条件を満たす場合は、小児慢性特定疾病医療費助成制度や指定難病医療費助成制度などの公的助成の対象となることもあります。具体的な費用については、主治医や病院のソーシャルワーカー、またはお住まいの自治体の担当窓口にご相談ください。

免責事項本記事は情報提供を目的としたものであり、専門的な医学的アドバイスを構成するものではありません。健康に関する懸念や、ご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

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