はじめに
ホルモンの作用を利用する避妊法として知られる「緊急避妊薬(アフターピル)」は、避妊に失敗したり無防備な性交渉があった場合に用いられる手段です。緊急的に使う薬であるため、効率よく妊娠を防ぐメリットがある一方、ホルモンバランスへの影響により月経周期を含む体調に変化が起きやすい点も見逃せません。とくに「飲んだあとに生理が遅れた」「月経不順になった」という声は多く、実際に服用後の遅れや周期のずれは珍しくないとされています。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
本記事では、緊急避妊薬の種類や成分、効果的な服用のタイミング、そしてよく疑問として挙がる「緊急避妊薬を飲んでから生理が遅れることはあるのか」を中心に解説します。また、服用による副作用や注意点、リスクなどもあわせて説明し、月経の遅れが起こった場合に確認すべきポイントについても取り上げます。読者の皆様が安心して情報を活用できるよう、最新の知見や海外の研究動向も踏まえて、可能な限りわかりやすく整理しました。
本記事の内容は、あくまで一般的な情報提供を目的としたものです。緊急避妊薬の服用や月経の遅れに関して気になることがあれば、必ず医師などの専門家に相談し、個々の症状や健康状態に応じたアドバイスを受けるようにしてください。
専門家への相談
本記事では、ホルモン製剤や婦人科領域の診療に従事している産婦人科医の知見や、世界保健機関(WHO)、Mayo Clinicなど国際的に信頼される機関の資料を参考に内容を整理しています。また、ベトナム・ドンナイ省にあるBệnh viện Phụ sản Âu Cơ(Au Co産婦人科病院)と連携している医師、Tạ Trung Kiênからの意見が元の資料に含まれており、一部の解説に活用しています。緊急避妊薬の服用後の月経遅延について不安がある方は、婦人科の専門家やかかりつけ医に相談することをおすすめします。
質問:「緊急避妊薬を服用すると生理が遅れる?」
ある方(32歳・女性)から寄せられた質問として、「性交渉後にコンドームを使わなかったので72時間以内に緊急避妊薬を服用した。しかし、その後予定日を1週間以上過ぎても生理がこない。この遅れは緊急避妊薬のせいなのか」という声がありました。実際に、このようなケースは珍しくなく、当人にとっては大きな心配事となります。
まず結論として、緊急避妊薬を服用したあとに月経が遅れることはよく見られます。これはホルモンによる排卵の抑制や子宮内膜への影響によって、月経周期が乱れるためです。ただし、妊娠の可能性がゼロではないので、生理が大幅に遅れている場合やその他の症状を感じる場合は、早めに妊娠検査薬などで確認し、必要に応じて専門家に相談することが重要です。
緊急避妊薬の種類と作用
緊急避妊薬には大きく分けて「72時間以内(レボノルゲストレル主成分)」と「120時間以内(ミフェプリストン主成分)」の2種類があります。それぞれの作用メカニズムと服用期限、服用方法には違いがあります。
72時間以内の緊急避妊薬
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成分と服用方法
レボノルゲストレル(Levonorgestrel)を主成分とするタイプで、1錠タイプと2錠タイプがあります。1錠タイプは性交渉後になるべく早く(72時間以内)1回服用し、2錠タイプは1錠目をできるだけ早く、2錠目をその12時間後に服用します。
一般的には性交渉後6時間以内など非常に早い段階での服用ほど避妊効果が高いとされ、24時間以内であれば90%近い効果が期待できるともいわれています。 -
服用が遅れた場合のリスク
72時間を過ぎてから飲んでも、すでに排卵済みまたは受精卵が着床の準備を始めている可能性が高く、避妊成功率が著しく下がるおそれがあります。
120時間以内の緊急避妊薬
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成分と服用方法
ミフェプリストン(Mifepristone)を主成分とするタイプです。1回の服用で済む場合が多く、性交渉後120時間以内に飲むことで一定の避妊効果があります。
ただし、一般には72時間以内の服用だと90%前後、73〜120時間の場合は70〜80%台に下がる可能性があると報告されており、できるだけ早期の服用が推奨されます。 -
NCBI(National Center for Biotechnology Information)の報告
緊急避妊薬の一部については、0〜72時間とそれ以降の間で効果に差があることが示されています。72時間を境に服用が遅れるほど効果が下がることが、複数の研究で指摘されています。
緊急避妊薬の副作用と起こりやすい症状
緊急避妊薬はホルモンを高用量で摂取するため、体内のホルモンバランスが一時的に乱れ、以下のような症状が出ることがあります。
1. 月経周期の乱れ(早まる・遅れる)
- 生理が早まる場合
排卵が早期に抑制されることで次の生理が予定よりやや早くなるケースがあります。 - 生理が遅れる場合
ホルモンが乱れる結果、排卵や子宮内膜の状態にズレが生じ、1週間〜10日程度の遅れが出る場合があります。
多くの場合、一時的な遅れや乱れで、次の周期になるとある程度正常に戻ることが多いとされています。ただし、2周期以上続けて大幅な乱れがある場合や、明らかに体調不良が重なる場合は産婦人科を受診するのが望ましいでしょう。
2. 不正出血
服用後、着床を阻害するなどの作用から子宮内膜が不安定になり、少量の出血が数日間みられることがあります。これは多くの場合、一時的かつ軽度におさまります。
3. 吐き気・嘔吐・めまい
高容量ホルモンの影響で吐き気や嘔吐、軽いめまいを感じることがあります。通常は1~2週間以内に治まるケースが大半ですが、症状が長引く・悪化する場合は早めに医師へ相談しましょう。
4. 乳房の張り・下腹部痛・倦怠感 など
体内ホルモンバランスの変化により、胸の張りや軽度の下腹部痛、倦怠感を感じる方もいます。これらも多くは一時的ですが、長期化・悪化する際には念のため婦人科受診を検討してください。
5. 体重増加や精神的影響
連続的に緊急避妊薬を使用すると、まれに長期的なホルモン乱れによって体重増加やうつ気味になるなどの報告があります。ただし、毎月のように頻繁に服用するのは推奨されておらず、あくまで緊急時の最終手段と考えるべきです。
6. 卵巣のう腫・胆のう疾患・子宮外妊娠などのリスク
高用量ホルモンによる卵巣機能や子宮内膜への影響は、非常にまれですが特定の疾患リスクを高める可能性も指摘されています。とくに子宮外妊娠は重大な救急疾患につながるため、強い腹痛や不正出血が長引く場合は早めの診察が必要です。
「緊急避妊薬を飲んだあとの生理遅れ」はどのくらい続く?
生理遅れの期間は個人差がありますが、多くの場合は1週間程度の遅れにとどまり、その後自然に生理がくることが多いです。ただし、緊急避妊薬はあくまで妊娠を確実に防ぐわけではなく、服用のタイミングや体質によっては避妊に失敗するリスクがゼロにはなりません。もし緊急避妊薬を飲んでから1〜2週間経っても生理がこない場合は、
- 妊娠検査薬を使用する
早期検査薬を使えば、性交渉から2〜3週間程度で結果が出るものもあります。陰性であればひとまず妊娠の可能性は低いと考えられますが、確信が持てない場合は再度検査を行うか、医療機関での検査を受けると安心です。 - 婦人科を受診する
検査薬で陰性でも生理がこない、または体調が優れない場合は産婦人科を受診し、ホルモンバランスの状態などを詳しく見てもらいましょう。
緊急避妊薬がもたらす月経への影響を示す近年の研究
緊急避妊薬(レボノルゲストレルやミフェプリストンなど)のホルモン負荷が、月経周期にどのような影響を与えるかについては、世界的に多くの研究が進められています。たとえば、中国の研究チームによる2022年のランダム化比較試験では、レボノルゲストレル単独とレボノルゲストレル+メロキシカムの併用療法を比較し、いずれも一定の緊急避妊効果が確認される一方で、服用後の月経開始時期に個人差が生じることが報告されています。この研究では、服用後に1週間前後の遅れが最も多く、2週間以上の遅れはまれだとされました(Hu X ほか, 2022, Contraception, 107:14–18, doi:10.1016/j.contraception.2022.02.002)。
さらに、レボノルゲストレルおよびミフェプリストンの服用タイミングが早期であるほど避妊効果が高い一方、月経周期への影響も比較的軽度に収まる可能性が示唆されています(Gemzell-Danielsson K, 2022, The Lancet, 399(10327):2246–2247, doi:10.1016/S0140-6736(22)00735-1などの報告も参照)。
ただし、こうした研究結果はあくまで統計的・傾向的なものであり、個々人の体質やホルモンバランス、体調、生活習慣などによって副作用の程度や月経遅延の長さは変化します。日本国内においても緊急避妊薬の処方は行われていますが、処方・販売に規制があり、薬局で自由に購入できない場合もあるため、医療機関の医師と相談しながら適切なタイミングで服用することが大切です。
緊急避妊薬以外の避妊手段とリスク低減
緊急避妊薬は、以下のような理由から「最終手段」として位置づけられます。
- 避妊失敗の直後にのみ有効
服用期限が72時間または120時間以内に限られるうえ、時間が経つほど成功率が下がります。 - 高容量のホルモン摂取
月経周期の乱れや不正出血など、体への負担も大きくなる可能性があります。 - 性感染症の予防はできない
コンドームなどバリア法でないため、感染症リスクは回避できません。
そのため、日頃からできるだけコンドームや低用量経口避妊薬(ピル)などの手段を活用し、緊急避妊薬を使わざるを得ない状況を減らすほうが、健康上は望ましいと考えられています。
生理が遅れたらまずは妊娠検査薬でチェック
緊急避妊薬を飲んだあとの生理遅延はよくあることですが、すでに述べたように避妊が100%保証されるわけではありません。生理が1週間以上遅れている場合は、可能であればすぐに妊娠検査薬を試すことをおすすめします。結果が陰性でも、また1週間後に再度チェックするとより確実性が高まります。
もし陽性反応が出た場合、あるいは陰性であっても生理が長くこないまま体調に異変を感じるようであれば、早めに産婦人科を受診し、必要な診断や治療を受けることが大切です。
注意すべきその他の体調変化やリスク
- 頻回使用によるリスク
短期間に何度も緊急避妊薬を使用することは推奨されません。ホルモン異常が長期化しやすいためです。 - 子宮外妊娠の可能性
強い腹痛や大量の不正出血を伴い、生理がこない場合は子宮外妊娠のリスクがあります。救急外科的処置が必要になることもあるため、早めの検査が重要です。 - 精神面への影響
ホルモンバランスの変動によるイライラや気分の落ち込みが続く場合は、メンタルヘルス面を含めた総合的なケアが求められます。
おすすめの対策・予防と受診のタイミング
- コンドームの正しい使用
性交渉時にコンドームを使うことで、避妊だけでなく性感染症のリスクも大幅に減らせます。 - 低用量ピルなど計画的な避妊法
低用量経口避妊薬は、正しく継続して服用すれば高い避妊率が期待でき、ホルモンを安定的に摂取するため副作用のリスクも相対的に少なくなります。ただし、医師の処方と定期的なチェックが必要です。 - 生理の状態を日常的に記録する
アプリや手帳などで日々の基礎体温や生理日を記録しておくと、次の生理の予想や、体調変化の管理にも役立ちます。 - 1〜2週間遅れたら検査薬を試す
避妊失敗後、緊急避妊薬を飲んでから1週間以上遅れがある場合は、一度妊娠検査薬を使ってチェックしてみましょう。 - 不安があるなら早めに婦人科受診
生理不順が長引いたり、体にいつもと違う異変を感じたりする場合は、なるべく早く専門家に相談して原因を探りましょう。
結論と提言
緊急避妊薬を服用したあと、月経が1週間ほど遅れるのはよくある現象です。高容量のホルモンが体内で急激に変化を起こすことで、生理周期が乱れやすくなるためです。ただし、服用しても絶対に妊娠を避けられるわけではなく、ごくまれに失敗が起こる場合もあります。生理が大幅に遅れている、あるいは体調不良が続くと感じたら、できるだけ早く妊娠検査薬を試し、必要に応じて産婦人科で検査を受けるようにしてください。
緊急避妊薬は非常に便利な手段である一方、毎回使うことを前提とした避妊法ではありません。月経周期の大きな乱れや不正出血を引き起こす要因となり、ホルモンバランスへの負担も大きくなりがちです。日常的に確実な避妊方法(コンドーム・低用量経口避妊薬など)を活用することが、健康的で安全な性生活を送るうえでも重要です。
なお、本記事の情報は一般的な知識の提供を目的としており、個別の診断・治療を行うものではありません。服用後に生理が遅れたり、体調に大きな変化があったりしてご不安な場合は、早めに医療機関へご相談ください。
参考文献
- Morning-after pill
https://www.mayoclinic.org/tests-procedures/morning-after-pill/about/pac-20394730
アクセス日: 2022年6月14日 / 2023年4月7日 - Emergency contraception
https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/emergency-contraception
アクセス日: 2022年6月14日 - What are the side effects of stopping the birth control pill?
https://www.plannedparenthood.org/learn/birth-control/birth-control-pill/birth-control-pill-side-effects
アクセス日: 2022年6月14日 - When will my periods come back after I stop taking the pill?
https://www.nhs.uk/conditions/contraception/when-periods-after-stopping-pill/
アクセス日: 2023年4月7日 - Morning-after Pill
https://www.mayoclinic.org/tests-procedures/morning-after-pill/about/pac-20394730
アクセス日: 2023年4月7日 - Hu X, Wang H, Gao L, et al. (2022)
“Efficacy of Levonorgestrel or Levonorgestrel plus Meloxicam for Emergency Contraception: A Randomized Controlled Trial.”
Contraception, 107: 14–18. doi: 10.1016/j.contraception.2022.02.002 - Gemzell-Danielsson K. (2022)
“Emergency contraception and bridging to long-acting reversible contraception: what is the best approach?”
The Lancet, 399(10327): 2246–2247. doi: 10.1016/S0140-6736(22)00735-1
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