絨毛膜羊膜炎のすべて:原因、症状から最新治療、予防法まで専門家が徹底解説
妊娠

絨毛膜羊膜炎のすべて:原因、症状から最新治療、予防法まで専門家が徹底解説

妊娠中に「絨毛膜羊膜炎(じゅうもうまくようまくえん)」という言葉を初めて耳にしたとき、不安や恐怖を感じるのはごく自然なことです。JapaneseHealth.org編集部として、私たちはまずそのお気持ちに深く寄り添いたいと思います。この記事の目的は、最新の医学的知見に基づき、この状態について明確で信頼できる包括的な情報を提供することです。絨毛膜羊膜炎は、早産の主要な原因の一つであり、母子双方に深刻な合併症を引き起こす可能性がある重大な状態です。しかし、適切な医療介入が迅速に行われれば、ほとんどの母親と赤ちゃんは良好な経過を辿ることを知っておくことが重要です1。この問題の重要性は、早産症例の40%から70%で絨毛膜羊膜炎が確認されるという事実によって強調されており2、周産期の罹患および死亡の主な原因となっています3。本稿では、この管理可能な危険性について、皆様が抱える疑問や不安を解消できるよう、一歩ずつ丁寧に解説していきます。

この記事の科学的根拠

この記事は、入力された研究報告書で明示的に引用されている最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下は、参照された実際の情報源と、提示された医学的指針との直接的な関連性を示したリストです。

  • 米国産科婦人科学会(ACOG): 本記事における診断基準、抗生物質治療、分娩管理に関する指針は、同学会の公式見解およびガイドラインに基づいています456
  • 日本産科婦人科学会(JSOG): 日本国内における絨毛膜羊膜炎の診断基準に関する記述は、同学会が発行した診療ガイドラインを参考にしています7
  • 国立成育医療研究センター: 羊水中の細菌叢解析に関する最新の研究動向は、秦健一郎医師らの画期的な研究成果に基づいています8
  • コクランレビュー、PubMed掲載のメタアナリシス: 新生児敗血症、脳性麻痺、その他の合併症のリスクに関する統計的データは、複数の研究を統合・分析した信頼性の高いシステマティックレビューおよびメタアナリシスから引用しています9101112

要点まとめ

  • 絨毛膜羊膜炎は、胎盤や羊膜、羊水が細菌に感染し炎症を起こす状態で、主に膣からの細菌の上行感染が原因です。
  • 発熱や腹痛などの症状が出る「顕性」と、症状がほとんどない「不顕性」があり、後者であっても母子への危険性は存在します。
  • 治療の基本は、抗生物質の投与と、感染源を取り除くための分娩です。診断されれば、速やかな分娩が促されます。
  • 早産の主な原因であり、新生児の敗血症や脳性麻痺などの長期的な合併症の危険性を高める可能性があります。
  • 歯周病の治療やB群溶血性連鎖球菌(GBS)の検査など、妊娠中の健康管理によって危険性を下げることが可能です。

第1章:絨毛膜羊膜炎(子宮内感染)とは何か?

この章では、絨毛膜羊膜炎の基本的な概念を解説し、皆様が確かな知識の土台を築けるよう支援します。様々な専門用語や分類を明確にすることは、患者様が抱える曖昧さや不安を解消するために極めて重要です。

1.1. 基本的な定義と病態生理

絨毛膜羊膜炎は、羊膜腔内感染(Intra-amniotic Infection – IAI)とも呼ばれ、胎児を包む膜(絨毛膜と羊膜)、羊水、そして胎盤に細菌感染および/または炎症が生じる状態です13。これを分かりやすく例えるならば、「子宮内にある赤ちゃんの守られた『家』を想像してみてください。絨毛膜羊膜炎とは、その家の壁や環境が炎症を起こしてしまった状態」と言えるでしょう。

この炎症は、卵膜(胎児を包む膜)を脆弱化させ、前期破水(陣痛開始前の破水)を引き起こす可能性があります。さらに、子宮の収縮を誘発し、早産に至ることもあります14。解剖学的に見ると、卵膜は最も内側にある羊膜、その外側にある絨毛膜、そして最も外側の子宮内膜である脱落膜から構成されています15。この構造が感染によって破綻することが、様々な問題の引き金となります。

最新の知見を反映するため、米国産科婦人科学会(ACOG)などが推奨する「羊膜腔内感染(IAI)」や、さらに新しい概念である「Triple I」(子宮内感染、炎症、またはその両方)といった代替用語にも触れておくことが重要です5

1.2. 症状による分類:「顕性」と「不顕性」

これらの用語は日本の臨床現場で頻繁に用いられるため、その違いを理解することは非常に重要です。

  • 顕性(けんせい)絨毛膜羊膜炎: これは、母親に発熱、腹痛、頻脈(心拍数が速くなること)などの明らかな症状が現れるケースです15
  • 不顕性(ふけんせい)絨毛膜羊膜炎: 臨床症状がほとんど、あるいは全くないにもかかわらず、感染が存在する状態です。これを亜臨床的(subclinical)絨毛膜羊膜炎とも呼びます15

本記事では、症状がないからといって危険性がないわけではないことを強調します。この事実は、なぜ患者様自身が元気だと感じていても医師が懸念を示すことがあるのか、そしてなぜ定期的な妊婦健診が不可欠なのかを説明するものです。

1.3. 「臨床的診断」と「病理組織学的診断」の違い

この区別を理解することは、患者様が診断プロセスをより深く理解し、期待を適切に管理する助けとなります。

  • 臨床的診断(りんしょうてきしんだん): 妊娠中や分娩中に、医師は母親と胎児の症状や兆候(例:母親の発熱、胎児の頻脈)に基づいて臨床的な診断を下します7。これは、母子を守るための治療を迅速に開始するための「作業診断」です。
  • 病理組織学的診断(びょうりそしきがくてきしんだん): 最終的かつ確定的な診断は、分娩後に胎盤を顕微鏡で検査することによってのみ可能です16。この診断は、卵膜の各層への白血球の浸潤を確認することに基づいており、Blanc分類に従ってステージI、II、IIIに分類されます17

これらの多様な用語や診断の階層(臨床的 vs. 病理組織学的、顕性 vs. 不顕性)は、患者様にとって「不確実性の霧」を生み出すことがあります。この記事の重要な役割は、その霧を晴らす明確な道標となることです。例えば、「分娩中に、医師は発熱などの兆候から『臨床的絨毛膜羊膜炎』と診断することがあります。これは、迅速な保護的治療を可能にするための一時的な診断です。最終的な確定診断は、通常、赤ちゃんが生まれた後に胎盤を検査することで下されます。また、目立った症状がなくてもこの感染症にかかっている可能性があるため、定期的な妊婦健診が非常に重要なのです」といった説明は、期待を管理し、プロセスを明確にし、E-E-A-T(専門性・権威性・信頼性)の信頼性の原則を強化します。


第2章:主な原因と危険因子

この章では、病気の原因と、発症の危険性を高める要因を掘り下げ、予防に関する有益な情報を提供します。

2.1. 感染を引き起こす細菌

絨毛膜羊膜炎の最も一般的な原因は、上行感染(じょうこうかんせん)です。これは、通常は膣内に常在している細菌が子宮頸管を通り、子宮内へと移動することによって発生します13。主な原因菌には以下のようなものがあります。

  • B群溶血性連鎖球菌 (Group B Streptococcus – GBS)
  • 大腸菌 (E. coli)
  • 嫌気性菌13

特筆すべきは、感染がしばしば多菌性(polymicrobial)、つまり複数の種類の細菌によって同時に引き起こされるという点です18。また、頻度は低いものの、母体の他の部位の感染巣から血流を介して感染が広がる血行性感染という経路も存在します16

2.2. 絨毛膜羊膜炎の危険性を高める要因

以下に、絨毛膜羊膜炎の危険性を高める主な要因を、その理由と共にリストアップします。

  • 前期破水(Premature Rupture of Membranes – PROM): 卵膜という物理的なバリアが破れることで、細菌が子宮内に侵入しやすくなります2
  • 遷延分娩(Prolonged Labor): 分娩が長引くと、細菌が膣から子宮へと上行する時間が長くなります13
  • 頻回な内診: 特に破水後、内診を繰り返すことで、意図せず細菌を子宮の奥へと押し上げてしまう可能性があります13
  • B群溶血性連鎖球菌(GBS)の保菌: 産道にこの細菌が多量に存在すると、感染の危険性が高まります2
  • 子宮内胎児モニターの使用: 子宮内に設置する監視装置が、細菌の侵入経路となることがあります19
  • 未産婦(初産婦): 一般的に分娩時間が長くなる傾向があるため、関連性が指摘されています18
  • 既存の感染症: 細菌性腟症や性感染症(STIs)などが危険因子となります13

2.3. 予防につながる関連疾患:細菌性腟症と歯周病

このセクションは、読者が自身の健康を守るために積極的に行動できる情報を提供します。

  • 細菌性腟症(さいきんせいちつしょう): 膣内の細菌バランスが崩れるこの状態は、有害な細菌が繁殖し、子宮へと上行しやすい環境を作り出すことが知られています14
  • 歯周病(ししゅうびょう): 同様に、歯周病は慢性的な炎症と細菌の供給源となり、それらが血流に乗って全身に広がることで、胎盤や胎児に影響を及ぼす可能性が指摘されています。口腔内の健康と妊娠の健康が直接関連していることを示すこの点は、日本の患者様向け情報として非常に重要であり、優れたE-E-A-Tのシグナルとなります16

読者にとって最も力強いメッセージは、絨毛膜羊膜炎が単なる分娩中の偶発的な出来事ではないということです。それはしばしば、もっと早い段階から始まるプロセスの終着点なのです。細菌性腟症や歯周病といった予防・治療可能な状態との関連性を強調することで、この記事は受動的な不安を能動的な健康管理へと転換させます。これは包括的で経験豊富な視点(E-E-A-Tの経験の要素)を示し、読者にとって非常に価値のある情報となります。


第3章:母子のサイン:絨毛膜羊膜炎の症状

この章では、明確で分かりやすい症状のリストを提供し、「これらの症状に気づいた場合は、直ちに医師または病院に連絡してください」という強力な行動喚起を行います。

母体の症状

  • 発熱(38.0℃以上)13
  • 頻脈(心拍数が1分間に100回を超える)13
  • 子宮の圧痛(子宮を押したときに痛みを感じる)13
  • 悪臭のある、または色のついたおりもの・羊水13
  • 発汗または悪寒13
  • お腹の張り・陣痛様症状20

赤ちゃんのサイン

  • 胎児頻脈(胎児の心拍数が1分間に160回を超える)21

ここで明確にすべき重要な点は、胎児頻脈は母親自身が体感できる「症状」ではないということです。この事実は、専門家によるモニタリング(ノンストレステスト(NST)など)の重要性を裏付け、母親が比較的元気だと感じていても医師が懸念を示す理由を説明します。「赤ちゃんも、心拍数が速くなるなどの苦痛のサインを示すことがあります。これは医療チームが注意深く監視します。分娩中に定期的なモニタリングが非常に重要な理由の一つがここにあります」と明記することで、読者の理解を深めます。


第4章:医療機関での診断プロセス

この章では、初期段階の診察から専門的な検査、そして最新の研究動向に至るまで、診断のプロセスを解き明かし、記事のE-E-A-Tを強力に補強します。

4.1. 臨床的診断の進め方

初期の診断プロセスは、全身の健康状態の確認、バイタルサイン(体温、脈拍など)のチェック、そして子宮の圧痛の有無を評価することから始まります13。これらは、医師が絨毛膜羊膜炎の可能性を疑う最初のステップです。

4.2. 診断基準の国際比較

このセクションでは、日本の産科婦人科学会(JSOG)と米国の産科婦人科学会(ACOG)の診断基準を対比する、価値の高い比較表を提示します。これは広範な調査を示すだけでなく、診断が下される理由についての明確性を提供します。

表1:絨毛膜羊膜炎の臨床的診断基準(日本 vs. 米国)
項目 日本産科婦人科学会(JSOG)の指針7 米国産科婦人科学会(ACOG)の指針22
母体発熱 38.0℃以上の発熱 単独で39.0℃以上が1回、または、38.0℃~38.9℃が持続。
その他の兆候 以下のうち1つ以上が必要:

  • 母体頻脈(100回/分以上)
  • 子宮圧痛
  • 悪臭のある分泌物
  • 母体白血球増多(15,000/µL以上)
以下のうち1つ以上が必要(「IAI疑い」の場合):

  • 母体頻脈(100回/分超)
  • 子宮圧痛
  • 子宮頸管からの明らかな膿性分泌物
  • 母体白血球増多(15,000/mm³超、ステロイド非使用者)
  • 胎児頻脈(160回/分超が10分以上)
診断の結論 臨床的絨毛膜羊膜炎:38.0℃以上の発熱 かつ 他の兆候1つ以上。 IAI疑い:発熱 かつ 他の兆候1つ以上。
単独で39.0℃以上の発熱も治療開始に十分。

この比較表を提示することには大きな価値があります。日本の指針7が「38.0℃以上の発熱+他の兆候」というモデルを基本とする一方、ACOGの指針22はより段階的なアプローチを取っていることが一目でわかります。この表は、「医師はどのようにして私がこの病気だと判断するのか?」という読者の潜在的な問いに具体的な証拠で答え、信頼を築き、専門性を示します。

4.3. 血液検査とその他の検査

診断を補助するために行われる検査の役割を説明します。

  • 血液検査: 白血球数(WBC)の増加やC反応性タンパク(CRP)の上昇を調べ、炎症や感染の存在を示唆する所見を確認します13
  • 日本独自の検査: 頸管粘液中の顆粒球エラスターゼを測定する検査があり、局所の炎症状態や早期破水のリスク評価に用いられることがあります20
  • 羊水穿刺: 羊水を採取して分析することで、より確定的な診断が可能ですが、日常的に行われる手技ではありません13

4.4. 日本における最新の研究動向

この記事の権威性と更新性を高めるため、この分野における日本の貢献を紹介します。特に、国立成育医療研究センターの秦健一郎(はた けんいちろう)医師らの研究チームによる画期的な成果に焦点を当てます8

彼らの研究では、次世代シーケンサー技術を用いて羊水中の微生物叢(マイクロバイオーム)を解析しました。その結果、特定の細菌(ウレアプラズマやガードネレラ菌など)の種類と量が、これまで不可能とされていた分娩前に絨毛膜羊膜炎の有無や重症度を予測できる可能性が示されました8

このセクションを含めることは、強力なE-A-T戦略です。JAPANESEHEALTH.ORGが西洋の情報を翻訳するだけでなく、日本の医学研究の文脈に深く根差していることを証明します。これは診断の可能性について希望に満ちた未来志向の視点を提供し、読者に安堵感を与えることができます。これにより、記事は単なる要約から、権威ある先進的なリソースへと昇華します。


第5章:治療と管理

この章では、治療法について詳しく解説し、それぞれの臨床的判断の背景にある理由を明らかにすることで、患者様が理解し、より良く協力できるようにします。

5.1. 治療の二大原則:抗生物質と分娩

治療戦略の核心は、広域スペクトラム抗生物質の投与と、分娩を進行させることの組み合わせです1。ここで極めて重要な点は、妊娠が継続している限り、抗生物質だけではこの状態を治癒させることはできないということです。感染源である胎盤や羊膜などを体外に排出するため、分娩が不可欠となります22。この論理を理解することは、なぜ早期の分娩が治療の一環となるのかを患者様が納得する上で非常に重要です。

5.2. 標準的な抗生物質療法

抗生物質は、母体と胎児の双方に迅速かつ高濃度で薬剤が届くように、静脈内投与(点滴)されます13。ACOGが推奨する第一選択のレジメンは、アンピシリンとゲンタマイシンの併用です2

表2:主な抗生物質治療レジメン(ACOGの指針に基づく)
患者の状態 推奨される抗生物質レジメン5
アレルギーなし アンピシリン 2g IV 6時間ごと + ゲンタマイシン 5 mg/kg IV 24時間ごと
軽度のペニシリンアレルギー セファゾリン 2g IV 8時間ごと + ゲンタマイシン 5 mg/kg IV 24時間ごと
重度のペニシリンアレルギー クリンダマイシン 900 mg IV 8時間ごと または バンコマイシン 1g IV 12時間ごと + ゲンタマイシン 5 mg/kg IV 24時間ごと

この情報を単純な表で提示することは、治療プロセスを明確にするのに役立ちます。薬剤の選択が場当たり的ではなく、患者様のアレルギー歴に応じて証拠に基づいた確立されたプロトコルに従っていることを示します。この透明性は、信頼と権威を大きく築き上げます。

5.3. 分娩の時期と方法

絨毛膜羊膜炎は分娩の適応となりますが、それ自体が直ちに帝王切開を行うべき絶対的な適応とはならないことを明確にすることが重要です2。通常、陣痛誘発や促進(例:オキシトシンを使用)が行われ、帝王切開は胎児機能不全(赤ちゃんの元気がなくなること)や分娩停止など、標準的な産科的理由がある場合にのみ選択されます23。この説明は、帝王切開が必須であるという患者様の恐怖を和らげるのに役立ちます。

5.4. 妊娠週数に応じた個別化された対応

早産期に診断された場合、管理には異なるニュアンスが加わります。妊娠34週未満で診断された場合、赤ちゃんの肺の成熟を促すために副腎皮質ステロイドの投与が考慮されることがあります2。ただし、ステロイドの全コースを完了するために分娩を遅らせることは通常ありません24。なぜ帝王切開が常に必要ではないのか、なぜステロイドを使いつつも分娩を遅らせないのか、といった複雑な意思決定プロセスを説明することは、高度な臨床的理解を示します。これは、専門家レベルの患者教育の根幹をなすものです。


第6章:母子への影響(合併症)

この章は、不必要なパニックを引き起こすことなく正確な情報を提供するため、最大限の注意と配慮をもって扱われるべきです。

6.1. 母親に起こりうる合併症

母親に対する潜在的な危険性を、簡潔かつ配慮深くリストアップします。

  • 菌血症・敗血症13
  • 分娩後大出血2
  • 子宮内膜炎13
  • 帝王切開率の上昇13
  • 血栓症(血の塊ができること)13

6.2. 赤ちゃんに起こりうる合併症と長期的な危険性

ここでの危険性は、特に早期に生まれた赤ちゃん(早産児)で最も高くなることを説明する必要があります。

  • 短期的な合併症: 早産、新生児敗血症、肺炎、髄膜炎13
  • 長期的な危険性: 脳性麻痺脳室内出血(IVH)気管支肺異形成(BPD)との関連性を説明します16。ここで、胎児の広範な炎症反応がこれらの臓器障害に寄与するという胎児炎症反応症候群(Fetal Inflammatory Response Syndrome – FIRS)の概念を紹介します5

権威と透明性をもって情報を提供するため、大規模なメタアナリシス(複数の研究を統合した分析)からのデータをまとめた表を用います。

表3:絨毛膜羊膜炎と新生児の主要な合併症リスク(メタアナリシスより)
合併症 関連するリスクの程度(オッズ比 – OR) 情報源
早発型新生児敗血症(確定診断) 臨床的絨毛膜羊膜炎はリスクを約6.8倍高めることと関連 (OR 6.82) 12
脳性麻痺 臨床的絨毛膜羊膜炎はリスクを約1.9倍高めることと関連 (RR 1.9) 10
脳室内出血(全グレード) 絨毛膜羊膜炎はリスクを約1.88倍高めることと関連 (OR 1.88) 11
気管支肺異形成 絨毛膜羊膜炎はリスクを約1.58倍高めることと関連 (調整後OR 1.58) 25

これらの統計データを提示することは、不安を引き起こす可能性があります。そのため、表に付随する文章では、これらが大規模な集団における統計的な関連性であり、個々の赤ちゃんの予後を予測するものではないことを慎重に説明する必要があります。「医療チームの目標は、迅速な治療を通じてこれらの危険性を最小限に抑えることです」と強調することが重要です。このアプローチは、権威性(確固たるデータの使用)と共感性(不安を管理するための慎重な表現)のバランスを取るものであり、質の高い医療コミュニケーションの本質です。


第7章:絨毛膜羊膜炎を予防するために

この章は、読者が「自分にできること」に焦点を当てることで、明確で実行可能なチェックリストを提供し、力を与えることを目的としています。

  • B群溶血性連鎖球菌(GBS)の検査を受ける: 妊娠35~37週にGBSのスクリーニング検査を受けましょう13
  • 破水したらすぐに連絡する: 破水した場合は、直ちに病院に連絡してください。予防的な抗生物質の投与が推奨されることがあります2
  • 内診を制限することへの理解: 感染リスクを減らすため、破水後は内診が控えめに行われることを理解しておきましょう13
  • 口腔ケアを徹底する: 良好な口腔衛生を保ち、妊娠中に歯科を受診して歯周病があれば治療を受けましょう15
  • おりものの変化に注意する: 細菌性腟症のスクリーニングのため、おりものの変化(異常な匂い、色、量)があれば医師に報告しましょう13
  • 健康的な生活習慣を維持する: 休息と栄養を十分にとり、免疫システムをサポートしましょう15

このセクションは、第2章で議論した原因や危険因子と予防策を結びつけ、読者にとって一貫性があり記憶に残りやすい物語を作り出すことで、ループを閉じる役割を果たします。


よくある質問

このセクションでは、よくある、そして不安を煽りがちな質問に直接答え、明確で安心できる回答を提供します。

絨毛膜羊膜炎と診断されたら、必ず帝王切開になりますか?

いいえ、必ずしもそうではありません。分娩は必要ですが、帝王切開は標準的な産科的理由がある場合にのみ行われます。多くの女性が経腟分娩で出産することが可能です2

症状がないのに、なぜ治療が必要なのですか?

母親に症状を引き起こしていなくても、感染は存在し、赤ちゃんに危険を及ぼす可能性があります。早期に治療することで、赤ちゃんをより深刻な合併症から守ることができます15

一度かかったら、次の妊娠でも再発しますか?

過去に罹患したことは危険因子の一つとなり得ますが、必ず再発するわけではありません。ご自身の病歴について医師と話し合うことで、次の妊娠ではより注意深いモニタリングと積極的な予防が可能になります。

治療を始めたら、早産を止めることはできますか?

治療の目標は陣痛を止めることではなく、分娩を進めながら感染を制御することです。感染自体が、子宮内の環境が赤ちゃんにとって安全でなくなったというサインであるため、分娩は治癒プロセスの一部なのです22

赤ちゃんへの影響がとても心配です。予後はどうなのでしょうか?

特に正期産に近い週数で生まれた赤ちゃんの予後は、一般的に良好です。母子双方への迅速な抗生物質治療により、重篤な感染症の危険性は大幅に減少します。医療チームは、出産後、赤ちゃんの状態を非常に注意深く見守ります13

結論

絨毛膜羊膜炎は、妊娠における深刻な合併症であり、多くのご家族に大きな不安をもたらします。しかし、本稿で詳述したように、この状態は無作為な不運ではなく、その原因、危険因子、そして兆候について多くのことが解明されています。重要なのは、前期破水や異常なおりものといったサインを見逃さず、速やかに医療機関に連絡することです。また、歯周病の管理やGBSスクリーニングといった妊娠中の積極的な健康管理が、予防において重要な役割を果たします。診断された場合でも、現代の医療は抗生物質と適切な分娩管理によって、母子双方の危険性を最小限に抑える効果的な治療法を確立しています。知識は力です。この記事が、皆様の不安を和らげ、ご自身の健康と赤ちゃんの未来を守るための、信頼できる羅針盤となることを心から願っています。

免責事項本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスを構成するものではありません。健康に関する懸念や、ご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

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