肉食性細菌とは?危険なウィットモア病の真実
感染症

肉食性細菌とは?危険なウィットモア病の真実

はじめに

近年、いわゆる「食肉細菌」と呼ばれる微生物が原因となる深刻な感染症が注目されています。その中でも、特に危険性が高いとされているのがウイトモア病(メリオイドーシス)です。日本では耳慣れない病名かもしれませんが、東南アジアやオーストラリア北部を中心に散発的な流行や重症例が報告されています。さらに近年は、海外から帰国した人や熱帯地域に滞在していた人が国内で発症し、重篤化した事例もみられます。2023年には、ある15歳の女性がウイトモア病に罹患し、多臓器不全を起こして亡くなったという報道があり、不安を感じている方も多いでしょう。

免責事項

当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。

この記事では、ウイトモア病を引き起こす細菌の特徴、感染経路、症状、治療・予防法について詳しく解説します。病名が「食肉細菌」と俗称される背景から、いかに早期発見と正しい治療が大切かを理解し、安全な日常生活を送るためのポイントを明らかにしていきます。なお、本記事は信頼できる専門機関や研究などをもとに情報を整理したものですが、最終的な診断や治療方針は医師の判断が必要です。ウイトモア病は重篤化すると致死率が非常に高いため、疑わしい症状がある場合は早めに医療機関へ相談してください。

専門家への相談

本記事の内容には、感染症分野に従事する医療専門家の意見や医学的根拠を参考として盛り込みました。特に、Thạc sĩ – Bác sĩ – Giảng viên Nguyễn Văn Hoàn(感染症分野・ハイフォン医科大学所属)による知見が示すように、ウイトモア病(メリオイドーシス)は迅速かつ的確な診断と長期にわたる抗生物質治療が必要な感染症です。また、本文中で引用する各種海外研究や公的機関の情報は、世界保健機関(WHO)、アメリカ合衆国CDC(疾病予防管理センター)など国際的に認められた機関や権威ある医学雑誌から得られたものであり、信頼度の高いデータをもとに解説しています。

もしご自身や身近な方に心当たりのある症状やご不安があれば、一人で判断せず医師(感染症専門医など)にご相談ください。本記事は日本国内で暮らす方向けにまとめたものですが、ウイトモア病に関しては熱帯・亜熱帯地域での感染事例が多く、海外渡航歴や現地滞在の有無、生活環境なども重要なヒントになります。正確な診断・治療のためには、専門家との連携が何より大切です。


「食肉細菌」ウイトモア病(メリオイドーシス)とは?

ウイトモア病は英語でMelioidosisとも呼ばれ、病原体はBurkholderia pseudomallei(バークホルデリア・シュードマレイ)というグラム陰性桿菌です。おもに土壌や淡水域に生息しており、人や動物が汚染された土や水に触れることで感染リスクが生じます。たとえば小さな傷口や擦り傷が皮膚にある状態で汚染水に触れたり、微細な菌を含む埃を吸い込んだりすることで、体内に菌が入り込むのです。

「食肉細菌」という俗称は、この細菌が引き起こす病変に組織の壊死(壊疽や化膿)がみられるため一般に恐れられる呼び名となったと考えられます。実際には細菌自体が“肉を食べる”わけではなく、菌の増殖によって組織が壊死したり膿瘍(のうよう)が形成されたりする過程で「食われているように見える」状態を引き起こすことが由来です。

1912年にイギリス人医師Alfred Whitmoreによって初めて詳しく報告された経緯から、「ウイトモア病」と名づけられました。東南アジアやオーストラリア北部の熱帯気候地帯に多く見られますが、それ以外の地域でも潜在的なリスクはゼロではありません。特にこの菌は抗生物質に対して高い耐性をもつことがあり、治療が難航しやすいのが大きな特徴です。

新しい研究の知見

最近の国際的な研究では、Burkholderia pseudomalleiの分布が想定より広範囲に及んでいる可能性が示唆されました。たとえば2019年にActa Tropica誌で公表された系統的レビュー(Limmathurotsakul D, Dance DAB, Wuthiekanun Vら)によれば、この菌は東南アジアやオーストラリア北部に限らず、南アメリカやアフリカ大陸の一部地域でも検出例が報告されているとのことです。さらに2022年には、Infect Genet Evol誌のレビュー(Dance DAB, Wuthiekanun Vら)で動物由来のメリオイドーシス症例も改めて整理・分析され、人獣共通感染症としての潜在的な広がりが再確認されています。日本国内での感染事例は比較的まれですが、海外での流行地域を訪れたことのある方や土壌を介した職業的曝露がある方はリスクが高まる可能性があります。


この病気はうつるのか?

ウイトモア病は、Burkholderia pseudomalleiに汚染された水や土と直接接触することで感染するのが典型的です。具体的には以下の経路が考えられます。

  • 傷口や皮膚の小さな裂傷からの侵入
  • 汚染された埃や水滴を吸い込む(エアロゾル感染)
  • 汚染された水や食品を口にする

アメリカCDC(Centers for Disease Control and Prevention)の情報では、人から人への感染例は極めてまれだとされています。ただし、患者の血液や分泌物に直接触れる機会がある医療従事者などはリスクを否定できないため、標準感染予防策の実施が推奨されています。また、犬や猫、馬、豚、ヤギなどの動物も感染する可能性があり、家畜を扱う際には注意が必要とされています。


感染リスクの高い人

ウイトモア病は健康な人でも感染しうるものの、特定の基礎疾患を抱えている人や生活習慣によって免疫が低下している人ほど重症化しやすい傾向があります。主なリスク要因は以下のとおりです。

  • 糖尿病をもつ人
  • 慢性肝疾患がある人
  • 大量の飲酒習慣がある人
  • 慢性腎不全など腎機能に問題がある人
  • がんなどにより免疫力が低下している人
  • ステロイドや免疫抑制療法を継続している人
  • 結核や慢性肺疾患(肺結核・肺サルコイドーシスなど)をもつ人

上述のような状態の方が、東南アジアやオーストラリア北部など汚染リスクが高い地域を訪れる、あるいは土壌を扱う仕事をしていると感染率が高まる可能性があります。また、日本国内でも土壌や水たまりなどが汚染されるリスクがゼロではないため、重症化リスクの高い方はできる限り防護対策をとることが望ましいでしょう。


症状と兆候

ウイトモア病はさまざまな臓器に感染が拡がる可能性があり、症状も非常に多様です。そのためしばしば別の病気と間違われ、診断が遅れる原因にもなります。ここでは典型的な症状を大きく4つのパターンに分けて説明します。ただし、実際には複数のパターンが同時進行することもあり得るため注意が必要です。

1. 肺感染

最も多いパターンとして挙げられるのが肺の感染です。軽度の気管支炎から重度の肺炎まで広範囲の呼吸器症状を引き起こす可能性があり、以下のような症状がみられます。

  • 高熱
  • 咳、痰
  • 胸部痛
  • 呼吸困難
  • 全身の倦怠感や筋肉痛
  • 食欲不振、頭痛

この肺感染が進行すると、肺内部に膿瘍を形成しやすくなり、悪化のスピードも早いことが知られています。早期に適切な抗生物質治療を行わないと、やがて血液に菌が侵入して菌血症を引き起こすリスクが高まります。

2. 局所感染

皮膚や軟部組織(皮下組織など)に局所的な感染を起こす場合、次のような症状が見られます。

  • 皮膚の腫脹(しゅちょう)や疼痛
  • 潰瘍・膿瘍の形成
  • 患部周辺の発熱や赤み
  • 全身症状としての筋肉痛

特に傷や切り傷などから細菌が侵入すると、蜂窩織炎(ほうかしきえん)のように皮膚全体が炎症を起こしたり、皮下や筋肉内に膿瘍ができたりします。深部まで感染が及ぶと複数の臓器へ転移的に菌が拡散することもあるため、軽い症状でも早めに医療機関でチェックを受けるほうが安心です。

3. 菌血症

ウイトモア病が進行し、血流内に菌が入り込んで菌血症(あるいは敗血症)を起こすと、急速に全身状態が悪化する恐れがあります。ときに「敗血症性ショック」を合併し、生命に関わる危険性が非常に高まります。代表的な症状は以下のとおりです。

  • 高熱、悪寒、発汗
  • 激しい頭痛
  • 咽頭痛
  • 呼吸苦
  • 腹部痛
  • 下痢
  • 関節痛や筋肉痛
  • 意識混濁や錯乱
  • 皮膚や内臓臓器への膿瘍形成

この状態に陥ると治療が遅れるほど死亡率が跳ね上がります。特に免疫力が低下している人では短時間で多臓器不全を引き起こしやすいことが指摘されています。

4. 全身へ拡散する感染

皮膚などの局所感染から血流を介して各臓器へ広がる「播種(はしゅ)感染」の形をとる場合、慢性経過をたどり、心臓・脳・肝臓・腎臓・関節など多岐にわたる症状を呈することがあります。たとえば、心内膜炎や脳膿瘍などの重篤な合併症を引き起こすこともあり、慢性的な体重減少や長引く発熱、痙攣(けいれん)など、多岐にわたる症状が出現するケースも報告されています。


ウイトモア病の診断

ウイトモア病は他の肺炎や皮膚感染、あるいは細菌性敗血症と類似の症状を示すため、医師でも診断が難しく、見落とされることが少なくありません。確定診断のためには、以下のような検査がおこなわれます。

  • 血液培養検査
  • 痰(たん)培養
  • 尿検査
  • 膿瘍からの培養
  • 画像検査(X線、CT、MRIなど)
  • 超音波検査

培養検査でBurkholderia pseudomalleiの存在を確認できればウイトモア病と診断されます。胸部の感染が疑われる場合は胸部X線やCTなどを用いて肺内の影や膿瘍の有無をチェックしますし、腹部に膿瘍を生じるときは腹部超音波やCTで病巣を確認します。早期診断・早期治療が最も重要であり、少しでも疑いがある場合は早めに医療機関に行くことが推奨されます。


ウイトモア病の治療

ウイトモア病の治療は、抗菌薬(抗生物質)を用いた長期間の治療が基本となります。菌が強い耐性をもつ場合があるため、以下のようなステップで慎重に進められます。

  1. 抗生物質点滴(2〜8週間)

    • セフタジジム
    • メロペネム
    • など
  2. 経口抗生物質内服(3〜6か月)

    • スルファメトキサゾール・トリメトプリム
    • ドキシサイクリン
    • など

まずは入院のうえ、点滴で強力な抗生物質を投与し、重症化や臓器合併症を防ぎます。その後、外来通院や在宅での内服治療に移行し、完全に菌を排除するために数か月にわたって薬を飲み続けなければなりません。治療途中で自己判断による薬の中断をすると、菌が再活性化し、再燃や重篤化を引き起こす危険性が高まります。また、膿瘍が大きい場合は外科的処置(ドレナージなど)で排膿が必要になることもあります。


ウイトモア病の予防方法

残念ながら、現在のところウイトモア病を確実に防ぐワクチンは存在していません。しかし、日頃の生活で以下のような点に気をつけることで、感染リスクを大きく下げることが可能です。

  • 手指衛生の徹底
    土壌や汚染リスクのある水に触れたあとは、石鹸でしっかりと手を洗いましょう。
  • 清潔な飲食物の確保
    しっかり沸騰させた水を飲む、加熱した食品を食べるなど、基本的な衛生管理が重要です。
  • 防護具の着用
    農作業や工事などで土壌や汚泥と触れる機会が多い方は、ゴム手袋や長靴などを着用し、皮膚への直接的な接触を避けることが推奨されます。
  • 傷口の保護
    皮膚に傷がある場合は防水性のあるテープやガーゼなどで覆い、汚染環境への曝露を避けます。
  • 高リスク地域への渡航時の注意
    東南アジアやオーストラリア北部などでアウトドア活動をする際は、可能な限り土壌や泥水に素手や素足で触れないよう心がけましょう。
  • 体調が優れないときは早めに受診
    とくに糖尿病や慢性肝疾患、がん治療中など免疫力の低い方は、微熱や不調が続くだけでも医療機関で診察を受けることが大切です。

日本国内でもごくわずかながら報告例があり、重症化した場合の死亡率が高いことは海外と変わりません。医療体制の整っている場所であれば適切な抗生物質治療が可能ですが、初期段階での検査と診断が不可欠です。


結論と提言

ウイトモア病(メリオイドーシス)は、Burkholderia pseudomalleiという耐性の強い細菌によって引き起こされる深刻な感染症です。感染が肺や皮膚などの局所にとどまる段階で治療を開始できれば、大事に至らないケースも多々ありますが、敗血症多臓器不全に至ると致死率が非常に高くなります。特に糖尿病や慢性疾患を抱える方は、海外渡航歴や土壌との接触リスクなどを医師にしっかり伝えることで、早期診断と適切な治療につなげることができます。

また、ワクチンのない現状では予防策が何より重要です。手洗いや防護具の使用、飲食物の衛生管理など、基本的な衛生対策を徹底しましょう。万が一、発熱や皮膚病変などの症状が長引く、もしくは渡航歴があって体調不良が続く場合には、なるべく早めに医療機関で受診し、ウイトモア病の可能性を伝えてください。

本記事は、信頼できる医療機関や研究論文をもとにした参考情報であり、正式な診断や治療方針を示すものではありません。症状や検査については必ず医師にご相談ください。重症化すると命にかかわるため、少しでも疑われる症状がある場合には速やかに受診することが最善策です。


参考文献

この記事はお役に立ちましたか?
はいいいえ