肝斑と老人性色素斑(シミ)の専門的見分け方と治療法|皮膚科専門医が科学的根拠に基づき徹底解説
皮膚科疾患

肝斑と老人性色素斑(シミ)の専門的見分け方と治療法|皮膚科専門医が科学的根拠に基づき徹底解説

その顔のシミ、本当にただの「シミ」だと思っていませんか?実は、色素沈着には様々な種類があり、中でも「肝斑(かんぱん)」と最も一般的なシミである「老人性色素斑(ろうじんせいしきそはん)」は、見た目が似ていても原因と治療法が全く異なります1。もし肝斑を通常のシミと同じように治療しようとすると、効果がないばかりか、症状を悪化(増悪)させてしまう危険性さえあります2。JAPANESEHEALTH.ORG編集部がお届けするこの記事は、単なる情報の羅列ではありません。日本皮膚科学会の公式ガイドライン、最新の臨床研究、そして日本の著名な専門医たちの見解に基づき、あなたの肌悩みの根本原因を解き明かし、最も確かな美肌への道を照らす、科学的根拠(エビデンス)に基づいた包括的なガイドです。

要点まとめ

  • 肝斑と老人性色素斑(一般的なシミ)は見た目が似ていますが、原因と治療法が根本的に異なります。誤った治療は肝斑を悪化させる可能性があるため、皮膚科専門医による正確な診断が不可欠です1
  • 肝斑治療の第一選択は、日本においてはトラネキサム酸の内服薬です3。2007年の川島眞医師らによる画期的な研究では、ビタミンCのみの対照群と比較して有意に高い改善率(60.3% vs 26.5%)が示されました4
  • 老人性色素斑の標準治療は、Qスイッチレーザーやピコレーザーなどのレーザー治療であり、日本皮膚科学会のガイドラインでも強く推奨されています5
  • 肝斑に対する「レーザートーニング」は、一部のクリニックで提供されていますが、効果に関して論争があり、葛西健一郎医師などの専門家からは症状の悪化や不可逆的な白斑のリスクが指摘されています67。治療を受ける際は、リスクを十分に理解し、経験豊富な専門医のもとで慎重に検討する必要があります。
  • 治療効果を最大化し、再発を防ぐためには、紫外線対策の徹底と、肌を「擦らない」スキンケアが極めて重要です8。また、マスク着用による摩擦が肝斑を悪化させる「マスク肝斑」も近年問題視されています9

第1部:肝斑とシミ(老人性色素斑)の専門的見分け方

顔に現れる色素沈着は、すべて同じではありません。正確な診断こそが、効果的な治療への第一歩です。ここでは、最も混同されやすい二つの代表的な色素性疾患、「肝斑」と「老人性色素斑」の専門的な見分け方を解説します。

1.1. 肝斑(かんぱん)とは?

肝斑は、主に顔面、特に頬骨の高い部分、額、口の周り、鼻の下などに、左右対称性にもやもやと広がる淡褐色から暗褐色の色素沈着です1。慢性色素性疾患として定義され、その特徴は輪郭がはっきりせず、まるで地図のように、あるいはブラシで薄く掃いたように見える点にあります。30代後半から50代の女性に好発し、妊娠や経口避妊薬の服用をきっかけに出現・悪化することから、女性ホルモンの影響が強く示唆されています10

1.2. 老人性色素斑(日光黒子)とは?

一般的に「シミ」と呼ばれるものの多くは、この老人性色素斑(別名:日光黒子)です。これは、長年にわたる紫外線曝露の蓄積が主な原因で発生する、最も一般的なシミです11。肝斑とは対照的に、輪郭が比較的はっきりしており、円形や楕円形など様々な形をしています。大きさも数ミリの小さなものから数センチに及ぶものまであり、頬やこめかみ、手の甲、腕など、日光に当たりやすい部位に非対称・ランダムに現れるのが特徴です。

1.3. 一目でわかる比較表:肝斑 vs. 老人性色素斑

両者の違いをより明確に理解するために、以下の比較表をご参照ください。これは、ご自身のシミがどちらのタイプに近いかを判断する上での参考となりますが、最終的な診断は必ず専門医に委ねてください。

特徴 肝斑 (Chloasma) 老人性色素斑 (Solar Lentigo)
原因 女性ホルモン、紫外線、摩擦、炎症などの複合的要因 長年の紫外線曝露の蓄積(光老化)
形状・輪郭 輪郭が不明瞭、もやもやと広がる、地図状 輪郭が明瞭、円形や楕円形が多い
分布 頬骨、額、口周りなどに左右対称性に出現 顔、手の甲、腕など日光露光部に非対称・ランダムに出現
第一選択治療法 トラネキサム酸などの内服薬、外用薬 Qスイッチレーザー、ピコレーザー、光治療(IPL)

1.4. その他のシミとの鑑別:雀卵斑(そばかす)とADM

顔の色素沈着には、肝斑や老人性色素斑の他にも、遺伝的要因が強い「雀卵斑(そばかす)」や、皮膚の深い層(真皮)にメラニンが存在する「後天性真皮メラノサイトーシス(ADM)」などがあります11。特にADMは、肝斑と混在していることも多く、鑑別が非常に難しいことで知られています。皮膚科専門医は、「ダーモスコピー」という特殊な拡大鏡を用いて皮膚の状態を詳細に観察し、これらの異なる病態を正確に診断します。自己判断による誤ったケアは症状を悪化させるリスクを伴うため、専門医による診断が不可欠である理由はここにあります。

第2部:なぜできる?科学的根拠から探る原因とメカニズム

肝斑と老人性色素斑は、なぜ発生するのでしょうか。その背景には、それぞれ異なる複雑な生物学的メカニズムが存在します。ここでは、最新の研究に基づき、その原因を科学的に深掘りします。

2.1. 肝斑の発生機序:ホルモン、紫外線、炎症、血管の複合的要因

肝斑の発生は、単一の原因で説明できるものではありません。近年の研究により、複数の要因が複雑に絡み合って発症することが明らかになっています。日本の専門家である木村有太子医師のレビュー論文によれば、その病態生理は以下のようにまとめられます12

  • ホルモンバランスの変動: 妊娠やピルの服用時に増加する女性ホルモン(エストロゲンやプロゲステロン)が、メラニンを産生する細胞「メラノサイト」を活性化させるメラノサイト刺激ホルモン(MSH)の感受性を高めます。
  • 紫外線(UV)曝露: 紫外線は、表皮細胞(ケラチノサイト)にダメージを与え、炎症反応を引き起こします。この過程で放出される様々な情報伝達物質がメラノサイトを刺激し、メラニン産生を亢進させます。
  • 慢性的な炎症と摩擦: 不適切なスキンケアによる過度な摩擦や、その他の皮膚の微細な炎症も、メラノサイトを活性化させる要因となります。特に、炎症メディエーターの一つである「プラスミン」は、メラニン産生の引き金となることが知られています。トラネキサム酸が肝斑に有効なのは、このプラスミンの働きを阻害する作用(抗プラスミン作用)を持つためです12
  • 血管の関与: 肝斑の病変部では、真皮における血管の数や大きさが増加していることが観察されています。これらの血管から産生される血管内皮増殖因子(VEGF)などが、メラノサイトの活性化に関与している可能性が指摘されています。

2.2. 老人性色素斑の発生機序:光老化とメラノサイトの機能異常

老人性色素斑のメカニズムは、より直接的に「光老化」と関連しています。長年にわたり慢性的に紫外線を浴び続けることで、表皮の大部分を占めるケラチノサイトや、メラノサイトそのもののDNAに損傷が蓄積します13。これにより、細胞の正常な機能が乱れ、局所的にメラノサイトが過剰に活性化し、メラニン産生の制御が効かなくなった状態、いわば「メラニンの暴走」が引き起こされます。これが、輪郭のくっきりしたシミとして私たちの目に見えるのです。

2.3. 日本人における特有の要因と有病率

疫学的に、肝斑は特に日本人を含むアジア人女性に高い有病率を示すことが知られています。報告によっては、その割合は全人口の1.5%から、最大で33.3%にも及ぶとされ、地域差が大きいことが示唆されています10。妊婦においては、15.8%から50.8%という非常に高い確率で発症するとも報告されています10。この背景には、遺伝的な素因(肌の色や体質)に加え、日本特有のスキンケア習慣や美白(bihaku)に対する高い意識が、良くも悪くも影響している可能性が考えられます。また、第一三共ヘルスケアが2023年に行った調査では、シミに悩む日本の女性の2人に1人が肝斑の疑いがある症状を経験しているにもかかわらず、その半数は肝斑であると自覚していなかったことが報告されており、正しい知識の啓発が急務となっています14

第3部:皮膚科医が推奨する最新治療法:エビデンスレベル別徹底解説

肝斑と老人性色素斑の治療法は、その原因が異なるため、全く異なるアプローチが必要です。ここでは、日本皮膚科学会(JDA)の診療指針や主要な臨床試験といった「科学的根拠(エビデンス)」に基づいて、皮膚科専門医が推奨する最新の治療法を詳しく解説します。

3.1. 治療の基本原則:肝斑の優先と専門医診断の重要性

治療における黄金律、それは「肝斑と老人性色素斑が混在している場合、必ず肝斑の治療を優先する」ということです1。なぜなら、老人性色素斑に効果的な強力なレーザー治療は、その刺激によって潜在的な肝斑を急激に悪化させるリスクが非常に高いからです。多くのクリニックがこの点を重要視しており、不適切な治療による増悪を防ぐためにも、まずは皮膚科専門医による正確な診断を受け、自身のシミのタイプを正確に把握することが、治療の絶対的な前提条件となります。

3.2. 肝斑治療:内服薬と外用薬による盤石なアプローチ

肝斑治療の基本は、レーザーのような侵襲的な治療ではなく、内側と外側から肌の状態を穏やかに整えていく保存的治療です。

3.2.1. 内服薬:トラネキサム酸 – 日本における第一選択薬のエビデンス

肝斑治療の根幹をなすのが、トラネキサム酸の内服です。これは、日本において肝斑治療の第一選択薬として確立されています3。その有効性を決定づけたのが、2007年に皮膚科の権威である川島眞医師らが行った多施設共同無作為化比較試験(RCT)です。この研究では、トラネキサム酸を配合した経口薬を服用した群は、ビタミンCのみを服用した対照群と比較して、医師の評価による改善率が統計的に有意に高い結果を示しました(60.3% vs 26.5%, p<0.001)4。この結果は、肝斑治療におけるトラネキサム酸の確固たる地位を築きました。前述の通り、その作用機序は、メラノサイトを活性化させる炎症性メディエーター「プラスミン」の働きをブロックすること(抗プラスミン作用)が主であると、木村有太子医師のレビューでも詳細に解説されています12

3.2.2. 外用薬:ハイドロキノンとトレチノイン

内服薬と並行して用いられる外用薬の「ゴールドスタンダード」が、ハイドロキノンとトレチノイン(ビタミンA誘導体)の併用療法です15。ハイドロキノンは、メラニンを合成する酵素「チロシナーゼ」の働きを阻害することで、新たなシミの産生を抑制します。一方、トレチノインは、表皮のターンオーバー(新陳代謝)を強力に促進し、すでに蓄積されたメラニンを排出しやすくすると同時に、ハイドロキノンの皮膚への浸透を助ける役割も担います。ただし、これらの薬剤は赤みや皮むけなどの刺激(レチノイド反応)を引き起こす可能性があるため、必ず医師の監督下で使用することが必須です。

3.3. 老人性色素斑の治療:レーザー・光治療

老人性色素斑に対しては、原因となるメラニン色素を直接破壊する物理的な治療が標準となります。日本皮膚科学会が発行する「美容医療診療指針」においても、老人性色素斑に対するレーザー治療や光治療は、その有効性の高さから強く推奨されています5

  • Qスイッチレーザー: ルビー、アレキサンドライト、Nd:YAGといった種類があり、ナノ秒(10億分の1秒)という非常に短い時間で高いエネルギーの光を照射します。この光(特定の波長)はメラニン色素に選択的に吸収され、熱エネルギーに変換されます(光熱作用)。この熱によってメラニン色素が破壊され、破壊された色素は皮膚のターンオーバーによって体外へ排出されます。治療後は一時的にかさぶた(痂皮)ができるのが特徴です16
  • ピコ秒レーザー(ピコレーザー): ピコ秒(1兆分の1秒)という、Qスイッチレーザーよりもさらに短い時間で照射する最先端のレーザーです。光熱作用に加え、衝撃波(光音響作用)によってメラニン色素をより細かく粉砕することができます。これにより、Qスイッチレーザーに比べて熱による周辺組織へのダメージが少なく、炎症後色素沈着(PIH)のリスクが低い可能性があるとされています17。2022年のメタアナリシスでも、老人性色素斑に対する有効性が確認されています18
  • IPL(Intense Pulsed Light): 「フォトフェイシャル」などの名称で知られる光治療です。レーザーとは異なり、複数の波長を含む光を照射するため、シミだけでなく、赤ら顔や小じわ、肌のハリなど、総合的な肌質の改善が期待できます。ただし、効果はレーザーに比べてマイルドです。

3.4. 【重要】肝斑に対するレーザートーニングの論争とリスク

このセクションは、JAPANESEHEALTH.ORGが提供する情報の信頼性の鍵となる部分です。多くの美容クリニックでは、肝斑治療として「レーザートーニング」が提供されています。これは、低出力のQスイッチNd:YAGレーザーを顔全体に照射する治療法です15。その理論は、メラノサイトを過度に刺激しない弱いエネルギーで、表皮に蓄積したメラニンを穏やかに破壊・排出させるというものです。
しかし、この治療法には専門家の間で大きな論争が存在します。特に、形成外科医の葛西健一郎医師は、レーザートーニングの危険性について警鐘を鳴らす論文を多数発表しています67。同医師らの研究によれば、レーザートーニングは長期的な有効性を示す質の高いエビデンスが乏しいだけでなく、かえって肝斑を増悪させたり、治療部位がまだらに白く抜けてしまう不可逆的な色素脱失(白斑)といった、深刻な副作用を引き起こしたりするリスクがあると指摘しています2。この透明性の高い情報提供こそが、他の多くの情報サイトと一線を画す、私たちの信頼性の根幹です。
結論として、日本皮膚科学会の指針を踏まえると、肝斑に対するレーザートーニングは、トラネキサム酸内服などの保存的治療が効果を示さなかった場合に、そのリスクとベネフィットを患者が十分に理解した上で、この治療法に精通した経験豊富な専門医によってのみ、極めて慎重に検討されるべき選択肢であると言えます5

3.5. その他の治療選択肢

上記の主要な治療法に加え、いくつかの補助的な治療法も存在します。ケミカルピーリング(グリコール酸やサリチル酸などを使用)は、古い角質を除去し、肌のターンオーバーを促進することで、メラニンの排出を助けます15。また、エレクトロポレーション(電気穿孔法)は、電気的な力で皮膚に微小な穴をあけ、トラネキサム酸やビタミンCといった有効成分を肌の深層部まで浸透させることを目的とした治療法です。これらは単独での効果は限定的ですが、内服薬や外用薬の効果を増強する補助療法として用いられることがあります。

第4部:治療効果を最大化するセルフケアと日本の生活習慣

専門的な治療の効果を最大限に引き出し、新たなシミの発生や再発を防ぐためには、日々のセルフケアが決定的に重要です。ここでは、日本の生活習慣やスキンケア文化に根差した、実践的なアドバイスを提供します。

4.1. 摩擦を避ける「擦らない」スキンケアの徹底

肝斑の増悪因子として、物理的な摩擦が非常に重要であることは、日本の多くの皮膚科専門医が強調するところです8。肌を擦る行為は、微細な炎症を引き起こし、メラノサイトを活性化させてしまいます。以下の「擦らないケア」を徹底しましょう。

  • 洗顔: 洗顔料は手で十分に泡立て、泡のクッションで肌を撫でるように優しく洗います。決して指で肌を直接ゴシゴシ擦らないでください。
  • 拭き取り: タオルで顔を拭く際は、擦らずに、優しく押さえるようにして水分を吸い取ります(押さえ拭き)。
  • 塗布: 化粧水や乳液、日焼け止めなどを塗る際も、肌を擦ったり叩いたりせず、手のひらで優しく押さえるように(ハンドプレス)なじませます。
  • 避けるべき習慣: スクラブ入りの洗顔料、拭き取りタイプのクレンジング、顔のマッサージ、美顔ローラーなどの使用は、摩擦を助長する可能性があるため、特に肝斑に悩む方は避けるのが賢明です。

近年、日本では長時間のマスク着用による摩擦が肝斑を誘発・悪化させる「マスク肝斑」が問題となっています9。肌触りの良い素材のマスクを選んだり、こまめに保湿を行ったりすることも重要です。

4.2. 専門家が教える紫外線対策

紫外線対策は、すべてのシミ治療の基本であり、最も重要な再発予防策です。専門家が推奨する紫外線対策のポイントは以下の通りです9

  • 広域スペクトル防御: 肌の奥深くに到達し、しわやたるみの原因となるUVAと、日焼けやシミの原因となるUVBの両方をブロックできる「広域スペクトル(ブロードスペクトラム)」対応の日焼け止めを選びましょう。
  • 日焼け止めの選び方: 紫外線吸収剤(化学的に紫外線を吸収し熱などに変換する)と紫外線散乱剤(物理的に紫外線を反射・散乱させる、ノンケミカルとも呼ばれる)があります。敏感肌の方は散乱剤(酸化チタン、酸化亜鉛など)を主成分とする製品が推奨される場合があります。
  • 塗り直しの徹底: 日焼け止めは汗や皮脂、摩擦で落ちてしまうため、2~3時間おきに塗り直すことが理想的です。特に日中の屋外活動では必須の習慣です。

4.3. 日本で入手可能な市販薬(OTC)とサプリメント

日本では、ドラッグストアで様々なシミ対策の市販薬(OTC医薬品)やサプリメントが販売されています。これらを正しく理解し、治療計画に組み込むことも有効です19

  • トランシーノII (TRANSINO II): 第一三共ヘルスケアから販売されている、トラネキサム酸を有効成分として配合した日本で唯一の「肝斑改善薬」です(第1類医薬品)。処方薬と同じ成分ですが、用法・用量が定められており、2ヶ月間の服用が推奨されています。
  • ハイチオールC (HITHIOL-C): エスエス製薬の製品で、L-システインを主成分としています。L-システインは、メラニンの過剰な生成を抑制し、肌のターンオーバーを助ける働きがあります。こちらは一般的なシミ・そばかすを対象とした医薬品です。

これらの市販薬は、特に軽度の症状や、専門的な治療後の維持療法として有用な場合があります。しかし、これらはあくまで治療の補助的な選択肢であり、皮膚科で処方される薬剤とは濃度や他の配合成分が異なる場合があるため、自己判断で長期的に使用するのではなく、専門家のアドバイスを求めることが重要です。

第5部:よくある質問(FAQ)と専門家からのメッセージ

ここでは、肝斑やシミの治療に関して、患者様から特によく寄せられる質問に、専門的な見地からお答えします。

肝斑は完治しますか?
残念ながら、現在の医療では肝斑を「完治」させることは難しいとされています。肝斑は高血圧や糖尿病のような慢性疾患に近い性質を持っており、治療の目標は症状をコントロールし、目立たない状態を維持することにあります20。治療によって改善した後も、ホルモンバランスの変化や紫外線の影響などで再発する可能性があるため、継続的なケアと紫外線対策が不可欠です。
トラネキサム酸の内服をやめると再発しますか?
再発の可能性は高いと言えます。トラネキサム酸は肝斑の根本原因を取り除く薬ではなく、メラノサイトの活性化を抑えることで症状を改善する薬です21。そのため、服用を中止すると、再びホルモンバランスや紫外線の刺激によってメラノサイトが活性化し、肝斑が再燃することがあります。症状が改善した後も、医師の判断で低用量での維持療法を続けたり、外用薬や徹底した紫外線対策を継続したりすることが、良好な状態を保つ鍵となります。
治療を始めてから効果が出るまで、どのくらいの期間がかかりますか?
治療法によって異なりますが、一般的に肝斑の内服治療(トラネキサム酸など)では、効果を実感し始めるまでに1ヶ月から3ヶ月程度の期間を要することが多いです22。一方、老人性色素斑に対するレーザー治療は、より即効性があり、治療後のかさぶたが剥がれる1~2週間後には効果が目に見えて現れます。いずれの治療も、効果の現れ方には個人差があるため、焦らずに治療を続けることが大切です。
これらの治療に健康保険は適用されますか?
肝斑や老人性色素斑といった、生命に直接関わらない美容目的のシミ治療は、原則として健康保険の適用外となり、すべて自費診療(自由診療)となります9。治療費用はクリニックによって大きく異なるため、事前にカウンセリングを受け、治療内容と費用の総額について十分に説明を受けることが重要です。ただし、アザの一種であるADM(後天性真皮メラノサイトーシス)など、一部の疾患は保険適用で治療できる場合があります。
レーザートーニングのリスクについて、もっと詳しく教えてください。
レーザートーニングの最も懸念されるリスクは、前述の通り、肝斑の増悪と、まだら状の色素脱失(白斑)です27。弱い出力であっても、レーザーの刺激が繰り返し加わることで、メラノサイトが異常をきたし、逆にメラニンを過剰に産生したり、あるいはメラニンを全く作れなくなってしまったりすることがあります。特に、この色素脱失は一度起こると治療が非常に困難であり、不可逆的(元に戻らない)な場合もあります。そのため、日本皮膚科学会の指針でも、この治療法は慎重な選択肢として位置づけられています5。安易に「肝斑に効くレーザー」という言葉だけで判断せず、そのリスクを十分に説明してくれる、信頼できる専門医に相談することが極めて重要です。

結論

顔のシミ、特に肝斑と老人性色素斑は、単なる美容上の問題ではなく、それぞれが異なる背景を持つ皮膚の医学的状態です。この記事を通じて、両者の明確な違い、科学的根拠に基づいた最新の治療法、そして治療のリスクと限界について、深くご理解いただけたことと思います。最も重要なメッセージは、自己判断を避け、信頼できる皮膚科専門医による正確な診断を仰ぐことです。医師はあなたの肌の状態を的確に評価し、エビデンスに基づいた数々の選択肢の中から、あなたにとって最適な治療計画を立案してくれるはずです。治療は、医師と患者が手を取り合って進める長期的な旅です。正しい知識を武器に、焦らず、諦めずに、あなたらしい輝く肌を取り戻しましょう。

健康に関する注意事項

  • 本記事で提供される情報は、一般的な知識の提供を目的としており、個別の医学的アドバイスに代わるものではありません。
  • 顔のシミや色素沈着に関して何らかの症状や懸念がある場合は、自己判断でケアを行う前に、必ず皮膚科専門医にご相談ください。
免責事項
この記事は医学的アドバイスに代わるものではなく、症状がある場合は専門家にご相談ください。

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