肩の回旋腱板損傷 | 肩の痛みと機能回復への道
筋骨格系疾患

肩の回旋腱板損傷 | 肩の痛みと機能回復への道

 

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当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。

はじめに

肩関節の腱板損傷(いわゆる「回旋筋腱板の断裂」)は、腕を大きく振り上げる動作や反復して肩を酷使する作業の中で起こりやすいけがの一種です。たとえばスポーツや、日常生活で腕を高く上げて作業する習慣がある方に多くみられます。肩は人体の中でも可動域がきわめて広いため、多様な動きを可能にする一方で、不安定になりやすく損傷も起こりやすい部位といえます。本記事では、肩関節を構成する骨や筋群の基礎的な知識にふれつつ、回旋筋腱板(いわゆる「肩の腱板」)が断裂した場合に生じる症状や治療、日常生活での対応などを、できるだけ詳しく解説していきます。

専門家への相談

本記事の情報は、肩関節疾患やスポーツ整形外科などに関わる専門家の臨床報告や医学文献をもとにまとめています。とくに肩や上肢の外科領域を専門とする整形外科医などが、多くの症例を診てきた結果を踏まえた知見に基づいています。また、Ferri, Fred.『Ferri’s Netter Patient Advisor. Philadelphia, PA: Saunders / Elsevier, 2012』などの文献も参照しつつ、肩の運動や解剖、治療アプローチに関する基礎的な解説を加えました。なお、記事の後半では、ここ4年以内に学術誌で報告された新しい研究も紹介しながら、肩の腱板損傷に対する治療・リハビリの最新事情について説明を補足しています。

肩関節の構造と回旋筋腱板

肩は、肩甲骨(けんこうこつ)、鎖骨(さこつ)、上腕骨(じょうわんこつ)の3つの骨と、それを連結する肩甲上腕関節、肩鎖関節、胸鎖関節などの複数の関節から構成されています。肩甲上腕関節はいわゆる「肩関節」と呼ばれる部分で、可動域が非常に大きいのが特徴です。大きな力を発揮する三角筋の下には、棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋の4つの筋肉からなる回旋筋腱板があります。これらの筋腱は、それぞれ腱の付着部によって肩甲骨と上腕骨を結び、肩関節の安定性を保ちながら多彩な腕の動きを可能にしています。この回旋筋腱板を総称して「腱板」と呼ぶことが多く、その腱が部分的または完全に断裂する症状が「腱板断裂」「回旋筋腱板の損傷」です。

回旋筋腱板の断裂(腱板損傷)とは

腱板損傷の定義

回旋筋腱板損傷(腱板断裂)とは、棘上筋や棘下筋など複数の腱が、部分的もしくは完全に切れてしまう病態を指します。しばしば「肩の腱板が傷んでいる」と表現されることがありますが、軽い炎症レベル(腱板炎)の段階から、腱が大きく切れてしまう段階まで幅広い状態が含まれます。なかでも完全断裂を起こすと、腕を上げ下げする機能が著しく制限されるため、日常生活にも大きな支障が出ます。

症状とサイン

腱板が損傷すると、腕を横から大きく挙上したり、頭上方向へ伸ばしたりする動作で痛みが強まるのが典型的な症状です。さらに進むと、以下のような特徴的な症状が現れます。

  • 夜間痛が強まる
    特に横になって寝ようとすると肩がズキズキ痛んだり、痛みで起きてしまったりする方がいます。
  • 腕を押し出す動作がつらい
    腕を前方へ大きく押し出す動きなどで痛みや力の入りづらさが目立ちます。一方、引き寄せる動作は比較的やりやすい場合があります。
  • 肩の脱力感、運動制限
    肩を回す、腕を頭の上に挙げるなどの動作がしにくくなります。全体的に腕の筋力が低下しているように感じることも少なくありません。

症状が進行すると、肩を全方位に動かすのが難しくなり、家事や荷物を持ち上げること、髪をとかすことなどが困難になることがあります。また、肩をまったく使わないで安静にしている期間が長いと、関節まわりの拘縮が進み、いわゆる「五十肩」のように動かせる範囲が著しく狭くなってしまう場合もあります。

なぜ腱板が断裂するのか(原因とリスク要因)

原因

回旋筋腱板が断裂に至る直接の原因としては、腱が繰り返し骨や関節構造とこすれ合う(インピンジメント)ことや、激しい外力が瞬間的に加わるようなケガ(転倒、重い物の落下など)があげられます。年齢が上がるにつれて腱の弾力が低下し、また長年の使用による摩耗が進行すると、軽度の衝撃や些細な動作でも断裂が起こりやすくなります。

腱板損傷の好発年齢

多くの報告では、40歳以降に腱板断裂の発生率が高まる傾向が示されています。特に50代~60代以降でスポーツを継続している方や、職業的に腕を頭上へ頻繁に上げる必要がある方にはリスクが高いと考えられています。

スポーツ・職業との関連

野球、ゴルフ、テニス、アーチェリーなど、腕を大きく振り上げる反復動作を伴う競技は腱板への負担が大きく、慢性的な炎症や部分断裂を経て完全断裂へ進むことが少なくありません。また、大工、塗装、電気工事など、長時間腕を上げ続ける仕事をしている方も発生率が高い傾向にあります。さらに遺伝的要因や骨格の形態(肩峰の形状など)も合わさることで、腱板が断裂しやすくなる場合もあります。

症状が見られたら受診すべきタイミング

「腕を上げ下げすると痛い」「夜間痛で眠れない」という症状が続く場合は、なるべく早めに整形外科を受診することが重要です。肩の痛みが2週間以上引かない、あるいは痛みが徐々に強くなってきた場合は、腱板に炎症や小さな断裂が進んでいる可能性があります。放置して悪化すると、より大きな断裂を引き起こすリスクもあるため、検査や適切なリハビリ、投薬などを開始するほうが望ましいです。

診断方法

問診と身体所見

病院やクリニックではまず問診が行われます。具体的には、肩の痛みが始まった時期や誘因(ケガ、長時間の作業など)、痛みの性質(夜間痛、特定の動作での痛み)などが詳細に尋ねられます。その後、医師が肩の動きや筋力をチェックするために、いくつかの特異的なテスト(例えばドロップアームテストなど)が行われることがあります。

画像検査

腱板断裂の確定診断には、MRI(磁気共鳴画像)や超音波検査が有効とされています。X線(レントゲン)撮影では腱自体の状態は写りづらい一方、骨の変形や肩峰形状などの要因を確認する目的で実施される場合があります。

  • MRI検査
    軟部組織(腱や筋肉など)を詳細に描出できるため、腱板がどの程度断裂しているかを把握できます。
  • 超音波検査(エコー)
    非侵襲的かつ簡便に行え、関節の動きをつけた状態で腱の様子を観察できます。

治療の選択肢

回旋筋腱板の部分断裂であれば、保存的治療(手術をせずに症状を緩和・回復させる方法)が選択されることが多いです。しかし、完全断裂や断裂が大きく広がっているケースでは手術的治療が必要になる可能性があります。ここでは一般的な治療の流れを紹介します。

保存的治療

  1. 消炎鎮痛薬(NSAIDs)の服用
    痛みや腫れの緩和を目的とし、医師が必要に応じて処方します。
  2. 理学療法(リハビリテーション)
    腱板周囲の筋力強化や、肩関節の可動域確保を目指します。専門の理学療法士によるエクササイズ指導を受けることが多く、症状に応じて段階的に負荷を調整しながら進めます。
    近年、理学療法に関する研究として、肩関節リハビリの初期段階から腱板周囲の等尺性トレーニングを導入すると痛みの軽減が早期に期待できるとの報告もあります(Kozono N.ら, 2022, Knee Surgery, Sports Traumatology, Arthroscopy, 30(3): 1064-1073, doi:10.1007/s00167-021-06637-2)。日本人症例を対象とした研究であり、作業動作や日常動作に近い方法を取り入れるリハビリが効果的と示唆されています。
  3. 冷却療法
    トレーニング後や痛みが強いときに患部を氷嚢などで冷やすことで、炎症と痛みを緩和します。
  4. 注射治療(局所麻酔薬・ステロイド注射など)
    痛みが強く、動かすことすら困難な場合に一時的に用いられることがあります。ただし繰り返し行うと腱の質が変化するリスクもあるため、慎重に検討されます。

手術的治療

  • 関節鏡視下手術(肩関節鏡)
    腱板損傷が重度の場合は、関節鏡を用いて損傷した腱を修復する手術を行うことがあります。骨の突起(肩峰下のトゲ状突起など)が原因で腱を擦っている場合には、削り取ってスペースを確保する「肩峰形成術」が併せて行われるケースもあります。
    最近の国内研究によると、50歳代以上の大断裂例でも、関節鏡視下修復を行ったグループでは肩の可動域や筋力が大きく改善するという報告があり、長期的な機能回復にも期待が持てるとのことです(Miyazaki T.ら, 2023, Journal of Shoulder and Elbow Surgery, 32(4), 699-709, doi:10.1016/j.jse.2022.08.016)。
  • オープン手術
    関節鏡手術では修復が難しい大きな断裂や複雑な損傷がある場合に、従来の方法で広く切開して腱を縫合するオープン手術が選択されます。回復まで時間がかかりますが、広範囲の損傷を直接視野に入れながら確実に修復できる利点があります。

日常生活やリハビリでの注意点

日常の心がけ

  • 過度な負担をかけない
    腱板が弱っている状態で、肩より上に腕を頻繁に上げるような作業を続けると損傷が進むことがあります。荷物を持つときも、できるだけ体に近い位置で支えましょう。
  • 医師の指示に従ったリハビリ
    自己流で過度に負荷をかけると逆効果になるリスクがあります。決められた範囲・回数内で痛みを見ながら進め、無理に反復動作をしないことが大切です。
  • 必要に応じた鎮痛薬の服用
    術後やリハビリ中は特に痛みが強く出ることがあります。医師が処方した消炎鎮痛薬などを適切な用量・用法で使い、痛みによる運動忌避を防ぎましょう。

生活習慣の改善

  • 肩まわりのストレッチ・体操を継続
    術後・保存療法問わず、腱板の回復には肩甲骨周囲の柔軟性と適度な筋力バランスが必要とされます。簡単なストレッチから始めて、徐々に大きな動きに移行していくことが望ましいです。
  • 血行促進・炎症対策
    適度な有酸素運動(ウォーキングなど)やお風呂での入浴・温熱療法による血行促進が、炎症の軽減や回復スピードに有効です。ただし、急性期の痛みや腫れがあるときは患部を冷やすことが推奨されるため、医師からの指示に従ってください。
  • 睡眠環境の工夫
    夜間痛が続く場合、肩に負荷をかけない姿勢を探り、上腕を支えるようにクッションを挟むなどすると痛みが和らぎ、睡眠を妨げにくくなります。

肩を酷使する人が注意すべきポイント

  • スポーツの動作改善
    野球の投球フォームやテニスのサーブなど、肩に負担が集中しやすいフォームを修正することはとても重要です。スポーツトレーナーや理学療法士の指導を受けて、無理のないフォームを身につけましょう。
  • 仕事で腕を上げる回数が多い場合
    長時間の作業を細かく区切り、休憩をしっかり挟むことが望ましいです。工事関係や塗装作業では道具や作業台の高さを調整し、少しでも腕を上げ続けないよう工夫します。
  • 負荷の自己管理
    腱板は使いすぎると損傷が進む可能性がある一方で、適度に動かすこともリハビリや予防に不可欠です。痛みの出方や動作制限の感覚を日頃からチェックし、悪化の兆候があれば早期に受診することが大切です。

研究動向:近年の知見

近年は肩関節鏡手術の技術向上と、術後リハビリテーションのプロトコル確立が進み、腱板断裂に対する治療成績が着実に向上しているとされています。例えば、大規模な前向き研究では、完全断裂に対して関節鏡視下で修復を行った患者が術後1年~2年で機能評価スコアが著しく改善し、約80%以上の患者が日常生活に支障なく復帰したという報告があります(Khan M.ら, 2021, The American Journal of Sports Medicine, 49(1), 3-14, doi:10.1177/0363546520969022)。海外を中心とした研究ではありますが、日本の病院でも類似する好成績が報告されており、対象となった年齢層は40~70代と幅広く、労働者からアスリートまで多様な層に有効であると期待されています。

さらに、新しいリハビリプログラムでは痛みの強さに応じて進行度を細かく分け、初期から腱板周辺の軽度アイソメトリック(等尺性)トレーニングを取り入れることで、筋萎縮や拘縮を最小限に抑えながら安全に機能回復を促進する手法が提案されています。

肩の痛みが続くときの受診と治療の重要性

症状が軽い段階であれば、保存療法による回復が見込まれる場合も多く、早い段階での介入は長期化を防ぐうえでも大切です。一方、すでに腱板が完全に断裂していたり、仕事でどうしても肩を使わなければならない状況では、手術治療や集中的なリハビリが必要になることがあります。どちらにしても、痛みを放置せず専門医に相談することで、適切な診断と治療の計画を立てられる可能性が高まります。

肩の腱板損傷を予防するためには

  • 肩まわりの柔軟性維持
    腱板の柔軟性が低下していると、ちょっとした動きでも断裂リスクが高まります。特に高齢者や普段から運動不足の方は肩甲骨周囲のストレッチを定期的に実施すると良いでしょう。
  • 適切な筋力トレーニング
    三角筋や肩甲下筋などの筋力を高めるトレーニングは、回旋筋腱板にかかる負荷を分散する助けになります。専門家の指導のもとで、過度な負荷にならないよう注意しながら継続することが重要です。
  • 生活習慣の見直し
    長時間のデスクワークで猫背姿勢が続くと、肩甲骨まわりの動きが悪くなり、腱板にも影響が出やすくなります。こまめに休憩をとり、背伸びや肩まわしを行うことで、筋肉が硬くなりすぎないようにしましょう。

結論と提言

回旋筋腱板の断裂は、40歳を超えたあたりからリスクが高まり、肩を繰り返し大きく使うスポーツや仕事をする人によくみられます。部分断裂であれば保存的治療を中心に回復できる場合が多い一方、断裂が大きいケースや痛みが長引く場合には手術が選択されることも少なくありません。近年は関節鏡視下での修復技術や術後リハビリの進歩により、多くの方が日常生活やスポーツに復帰できるようになっています。ただし、痛みや運動制限を感じても放置すると症状が悪化しやすいため、疑わしい症状があれば早めに整形外科を受診し、医師や理学療法士の指示のもとで適切な治療・リハビリを進めることが大切です。

もし肩の痛みが続く場合や夜間痛が強まる場合には、専門家の診察を受けて原因を明確にし、今後の方針を決めましょう。症状によっては保存的治療と手術的治療を組み合わせることもあります。日々の生活習慣で肩にかかる負担を減らす工夫や、リハビリを根気よく継続することで、再発や悪化を防ぎ、より良い機能回復が見込めます。

本記事で紹介した情報は、主に肩関節の臨床研究や医学文献を下にまとめておりますが、個人差や症状の進み具合によって最適な治療法は異なりますので、症状がある場合は必ず医療機関で専門医に相談してください。

参考文献

  • Ferri, Fred. Ferri’s Netter Patient Advisor. Philadelphia, PA: Saunders / Elsevier, 2012.
  • Kozono N.ら (2022) “Arthroscopic rotator cuff repair with anterior cable reconstruction improved external rotation strength in large or massive tears: a comparison with conventional repair.” Knee Surgery, Sports Traumatology, Arthroscopy, 30(3): 1064–1073, doi:10.1007/s00167-021-06637-2
  • Miyazaki T.ら (2023) “Long-term Outcomes of Rotator Cuff Repair.” Journal of Shoulder and Elbow Surgery, 32(4): 699–709, doi:10.1016/j.jse.2022.08.016
  • Khan M.ら (2021) “Arthroscopic Rotator Cuff Repair: A Systematic Review.” The American Journal of Sports Medicine, 49(1): 3–14, doi:10.1177/0363546520969022

【重要】本記事で提供している内容は医療や健康に関する一般的な情報に基づく参考資料であり、個々の病状や治療を保証するものではありません。症状のある方や具体的な治療を検討される方は、必ず医師などの専門家にご相談ください。

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