肺がんの予後は?患者が知っておくべきこと
がん・腫瘍疾患

肺がんの予後は?患者が知っておくべきこと

はじめに

肺がんは、高齢層に多いがんの一種とされ、喫煙習慣や大気汚染などの要因が複合的に関与して発症することが知られています。特に初期段階では症状がほとんど表れない場合も多く、診断が遅れると進行した状態で発見されることが少なくありません。そのため、肺がんと診断されたときに「いったいどれくらい生きられるのだろうか」と不安になられる方は少なくありません。本記事では、肺がんに関する基礎知識や生存期間の目安、各段階での治療方針、実際にどのような要因が生存率に影響するのか、そして研究によって明らかにされている最新の知見などを幅広く解説します。読者の方が肺がんについて理解を深め、適切な治療やサポートを受けるきっかけになれば幸いです。

免責事項

当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。

専門家への相談

本記事の内容は、複数の医療機関や研究機関が公表している情報をもとにまとめております。ただし、肺がんの治療方針は患者さんの個々の状態や合併症の有無、進行度合いによって大きく異なるため、必ず専門の医師(呼吸器内科や腫瘍内科など)に相談の上で治療を検討してください。

肺がんとは何か

肺がんは、肺の組織を構成する細胞が異常増殖を起こして形成される悪性腫瘍です。大きく分けて、小細胞肺がんと非小細胞肺がんの2種類があり、日本を含む世界各国で最も多く見られるのは非小細胞肺がんと報告されています。非小細胞肺がんには、腺がんや扁平上皮がん、大細胞がんなどが含まれます。また、喫煙習慣や受動喫煙、大気汚染、職業性の曝露(アスベストなど)による影響が危険因子として挙げられます。一方、小細胞肺がんは進行が速い傾向があり、診断時にはすでに転移している例も少なくありません。

日本では健康診断や人間ドックで胸部画像検査を定期的に受ける習慣がある程度定着しているため、早期に発見される例も増えつつあります。しかしながら、肺がんは症状が乏しいまま進行することも多く、検診機会を逃して診断が遅れると治療の選択肢が限られてしまうリスクがあります。

肺がんの進行度と病期分類

肺がんの進行度はおもに病期(ステージ)という形で分類されます。一般的には以下のように大別されます。

  • ステージI(I期):がんが肺の一部に限局している状態
  • ステージII(II期):肺の中ではある程度広がりがあるものの、まだ比較的局所にとどまっている状態
  • ステージIII(III期):肺や胸部内のリンパ節に浸潤・転移がある状態(IIIA、IIIBなど細分化がある)
  • ステージIV(IV期):遠隔転移(脳、骨、肝臓、副腎など)がみられる状態

このようにステージが進むほど手術が困難になり、症状や治療方針も変化します。非小細胞肺がんは主に上記のステージ分類により治療法を選択し、小細胞肺がんの場合には、「限局型(LD: Limited Disease)」と「進展型(ED: Extensive Disease)」という分類が広く用いられます。限局型は病巣が胸部内に限定され、放射線治療と化学療法を組み合わせる積極的な治療が検討されることが多いですが、進展型になると遠隔転移を伴うケースが多く、化学療法や免疫療法が主軸となる場合が一般的です。

肺がんの症状

肺がんは初期段階では症状がほとんどなく、進行してから以下のような症状が出現しやすくなります。

  • 長引くせき・血痰
    慢性的にせきが続き、痰に血が混じる場合があります。特に喫煙者の場合、「喫煙習慣だからせきが出やすい」と放置しがちですが、血痰をともなうような場合は早めに医療機関で検査を受けることが推奨されます。
  • 胸の痛み・背中の痛み
    肺や胸膜に腫瘍が浸潤している場合、呼吸時や咳嗽時に胸や背中に痛みを感じることがあります。
  • 呼吸困難・息切れ
    肺機能が低下すると息切れしやすくなったり、呼吸が苦しくなったりします。
  • 体重減少・全身倦怠感
    食欲不振や著しい体重減少、疲れやすさなどが生じる場合もあります。

こうした症状は肺がん以外の病気(慢性閉塞性肺疾患、肺結核など)でも起こる可能性がありますが、いずれにせよ放置せずに医師の診察を受けることが重要です。

肺がんの診断

肺がんの診断は以下のような検査を組み合わせて行われます。

  1. 画像検査
    胸部X線検査やCTスキャン、PET-CTなどによって肺やリンパ節、他の臓器への転移の有無を確認します。
  2. 気管支鏡検査
    気管支鏡を用いて肺内を直接観察し、疑わしい組織を採取して病理検査を行います。
  3. 腫瘍マーカー検査
    一部の肺がんでは血液中の腫瘍マーカー(例えばPro-GRP、NSE、CYFRA21-1など)が上昇することがあります。ただし、あくまで補助的な指標であり、確定診断には病理検査が必要です。
  4. 病理検査
    採取した組織を顕微鏡で観察し、がん細胞の種類や悪性度を判定します。

日本国内ではがん検診の一環として胸部X線検査を受ける機会が比較的多いものの、早期の肺がんを見逃してしまうこともあります。特に喫煙歴が長い方や40歳以上の方、慢性的なせきがある方などは定期的な検査を受けることが勧められています。

肺がんの生存率と影響要因

肺がんの生存率

肺がんの5年生存率に関しては、がんの種類や病期、治療法などによって大きく異なります。非小細胞肺がん全体の5年生存率は約20%前後とされるデータもあり、ほかの大腸がんや乳がんに比べると低い数字です。ただし、近年は分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬など新しい治療法が登場しており、適切な患者さんに適切な治療が施されれば、生存期間の延長が期待されるケースも増えています。

また、イギリスの統計では、肺がんと診断された患者さんのうち、

  • 約40%が診断後1年以上生存
  • 約15%が5年以上生存
  • 約10%が10年以上生存
    といった報告があります。これらの値はあくまでも全体統計であり、個々の患者さんの状態によって大きく変わります。

病期別の目安

病期が早ければ早いほど治療の選択肢が広がり、5年生存率が高くなる傾向があります。イギリスでの報告例を参考にすると、

  • ステージI(I期):55%以上の患者が5年以上生存
  • ステージII(II期):35%前後の患者が5年以上生存
  • ステージIII(III期):15%前後の患者が5年以上生存
  • ステージIV(IV期):5%前後の患者が5年以上生存

ただし、患者さんの年齢や全身状態(パフォーマンスステータス)、合併症の有無、がんのタイプ(小細胞か非小細胞か、遺伝子変異の有無など)によっても大きく変動するため、一概に当てはめられないことは理解しておく必要があります。

治療への応答性

治療への応答性は生存期間に大きく影響します。たとえば、

  • 限局した小さな腫瘍
    早期に発見された場合には、外科的切除(手術)や放射線治療で根治を目指せる可能性があります。健康状態が良好で、外科的に切除可能なステージIやIIであれば、完治も期待できます。
  • 進行期や転移がある場合
    転移が見られた場合には、手術による完治は難しくなることが多く、化学療法や免疫療法、分子標的薬などを用いた治療を継続して腫瘍の進行を抑えます。これらの全身治療によって、延命効果や生活の質(QOL)の維持を図ることができます。

近年の臨床研究では、PD-L1やEGFR、ALKなど特定の遺伝子変異やタンパク質を標的とした治療法の効果が示されています。たとえば、EGFR変異陽性の非小細胞肺がんに対するチロシンキナーゼ阻害薬や、PD-L1高発現の肺がんに対する免疫チェックポイント阻害薬などが代表的です。これらの薬剤は、従来の化学療法単独に比べて生存期間の延長や副作用プロファイルの改善が期待できる例もあります。

なお、2020年から2023年にかけて多数の免疫療法関連研究が世界的に実施されています。例えば、2020年に『New England Journal of Medicine』で報告された研究(Herbst RSら、doi:10.1056/NEJMoa1917346)では、PD-L1陽性患者に対する免疫チェックポイント阻害薬の一次治療で、従来の化学療法と比較して全生存期間が有意に延長する結果が示されました。こうした成果は国内でも応用が進み、患者さんの状態に合わせた治療戦略が一層期待されています。

肺がんの治療

肺がんの治療法は、大きく以下のように分けられます。

  1. 外科的治療(手術)
    腫瘍が局所に限局している場合は、根治を目指して手術が行われます。肺葉切除や肺部分切除など、病変の範囲や患者さんの肺機能によって適切な術式が選択されます。
  2. 放射線治療
    外科的切除が難しい場合や、手術後の補助療法として放射線治療が用いられます。早期の小細胞肺がんの場合は、化学療法と放射線治療の併用で高い奏効率が得られることがあります。
  3. 化学療法(抗がん剤)
    シスプラチンやカルボプラチンなどのプラチナ製剤を中心とした化学療法が進行肺がんや再発肺がんに対して行われます。非小細胞肺がん、小細胞肺がんともにステージが進んだ場合は化学療法が主体となります。
  4. 分子標的薬
    EGFR変異やALK融合遺伝子など特定の変異を持つ患者に対しては、分子標的薬(チロシンキナーゼ阻害薬など)が投与されることがあります。従来の抗がん剤と比べて副作用が異なり、特定の遺伝子変異を有する患者では長期のコントロールが得られるケースもあるとされています。
  5. 免疫療法(免疫チェックポイント阻害薬など)
    PD-1やPD-L1を標的とした免疫チェックポイント阻害薬(ニボルマブ、ペムブロリズマブ、アテゾリズマブなど)が、進行非小細胞肺がんのファーストライン(一次治療)やセカンドラインで用いられる場合があります。免疫療法単独、または化学療法や他の分子標的薬との併用で有効性が示唆されています。
  6. 支持療法や緩和ケア
    症状緩和や生活の質を維持するための支持療法も重要です。がんの痛みや呼吸困難、倦怠感など、患者さんが抱えるつらさを軽減し、日常生活をより快適にすることを目的とします。

治療法の選択はステージや全身状態、遺伝子変異の有無など複数の要因によって決まるため、必ず専門医と相談し、自身の病状に最も合った方針を検討することが大切です。

日本における肺がんの実情と研究アップデート

日本では、高齢化や喫煙率などの要素を背景に、肺がんは死亡原因の上位を占め続けています。しかし近年は健康意識の高まりや行政・地域の取り組みによる検診率の向上などを通じて、より早期に発見される例が増えつつあります。また、国内外の研究機関や製薬企業による新薬開発が進んでおり、分子標的薬や免疫療法の進歩は著しいといえます。

たとえば、2021年に『JAMA』で公表された米国予防医学専門委員会による肺がん検診に関する推奨事項(Krist AHら、doi:10.1001/jama.2021.1117)では、喫煙歴のある一定年齢以上の成人を対象に低線量CT(LDCT)を活用したスクリーニングの効果が再確認されました。日本においても同様の枠組みで肺がん検診を行う地域があり、早期発見につながる取り組みが継続されています。日本人の喫煙率は徐々に低下傾向にあるとはいえ、受動喫煙対策の徹底や就業環境の改善など、さらなる肺がん予防のための課題も残されています。

肺がんと生活習慣・サポート体制

肺がんの治療を受けるにあたっては、身体面だけでなく、心理面・社会面でもさまざまなサポートが必要になることがあります。特に進行期の患者さんでは長期間にわたる化学療法や免疫療法を継続する場合が多く、治療に伴う副作用(倦怠感、食欲低下、皮膚障害など)への対処も重要です。以下の点に留意すると、生活の質を維持しながら治療に取り組みやすくなります。

  • 栄養管理
    体力維持や副作用緩和のために、バランスのとれた食事が推奨されます。必要に応じて管理栄養士や専門医の指導を仰ぐことが役立ちます。
  • 運動とリハビリテーション
    無理のない範囲での軽い運動や呼吸リハビリが、筋力や肺機能の維持に有用です。
  • 心のケアと家族の協力
    がん治療は長い闘いになることが多く、精神的負担が大きくなる場合があります。カウンセリングや患者会、家族・友人とのコミュニケーションが助けになることがあります。
  • 緩和ケア・在宅医療
    痛みや不快感の緩和を目的としたケアを早い段階から利用することで、治療と日常生活を両立しやすくなります。必要に応じて在宅医療や訪問看護の体制を整えることも検討が重要です。

日本国内外の最新研究動向

肺がんに関する近年の研究は非常に活発です。特に個別化医療と呼ばれる患者さんごとの遺伝子変異や病態に合わせた治療の分野が大きく進歩しています。たとえば免疫チェックポイント阻害薬は、過去数年の間に世界的に標準治療の一端を担うようになりました。2023年に『Journal of Thoracic Oncology』で報告されたIMpower132試験の最終解析では、アテゾリズマブと化学療法の併用による全生存期間の延長が示唆され、PD-L1発現レベルなど患者背景を考慮したうえでの治療戦略の重要性がより明確になりました(Reck Mら、doi:10.1016/j.jtho.2023.02.021)。

日本国内でも同様の治験や実臨床での検証が進み、保険適用が拡大するにつれて、これまで治療が難しかった患者さんにも新たな選択肢が提供されるようになってきています。ただし、免疫療法はすべての患者さんに有効というわけではなく、遺伝子変異や腫瘍細胞の性質によっては十分な効果を示さない場合や、重篤な免疫関連副作用(自己免疫疾患など)が発生するリスクもあるため、導入の際には慎重な評価とモニタリングが不可欠です。

肺がんの予後改善に向けたポイント

肺がんの予後(生存期間や再発リスク)を少しでも改善するには、以下のような取り組みや要素が重要と考えられます。

  • 早期発見・早期治療
    肺がんは早期であれば外科的切除や放射線治療のみで完治をめざすことも可能です。胸部画像検査や喫煙者向けの低線量CT検診を定期的に受けることで、病気の進行を抑えるチャンスが高まります。
  • 禁煙・受動喫煙対策
    喫煙は肺がんリスクを大きく高める要因の一つです。自分自身の喫煙習慣を見直すだけでなく、家族や職場での受動喫煙を防ぐ対策も大切です。
  • 個別化医療の推進
    EGFRやALK、ROS1、PD-L1などのバイオマーカーを検査し、合致する遺伝子変異等があれば分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬を活用することで高い効果が期待されます。
  • 継続的フォローアップと再発監視
    治療後も定期的な画像検査・血液検査などのフォローアップが必要です。万が一再発が疑われる場合でも、早期のうちに発見すれば追加治療の効果が上がる可能性があります。

肺がんの進行度別「どれくらい生きられるか」の考え方

実際に「肺がんはどれくらい生きられるのか」を一概に数字で示すのは困難です。前述のように統計データによる生存率はありますが、それは大多数の患者さんを平均的に見たものであり、個別の患者さんの病状や治療への応答性、合併症などによって大きく差が生じます。たとえばステージIIIでも治療に非常によく反応して長期生存が得られる例もあれば、ステージIでも腫瘍の性質が非常に強力で転移が急速に進む例もあります。

ただし、一般的にステージが早い段階で発見されればされるほど予後は良好で、長期生存や完治も十分期待できます。一方、ステージIVなどで遠隔転移を起こしている場合でも、近年の治療の進歩によって生存期間の延長や症状コントロールが可能になり、QOLを維持しながら過ごせる期間が伸びている患者さんも増えています。

おわりに:肺がんと向き合うために

肺がんは、未だに厳しい予後が報告されることの多い疾患ですが、近年は治療の選択肢が増え、個々の患者さんの病状や遺伝子変異に応じて治療が最適化されつつあります。初期段階で発見し、外科的切除や放射線治療で根治を目指せる症例もあれば、進行期でも免疫療法や分子標的薬によって長期間にわたり病状が安定するケースも期待されます。

治療と同じくらい大切なのは、患者さん自身が自分の病状を理解し、必要に応じたサポートを受けながら生活の質を保つことです。家族や医療スタッフとのコミュニケーションを密にし、心身のケアにも目を向けることで、治療に伴う負担を軽減できる可能性があります。また、食事・運動・禁煙などの日常習慣を見直すことが予防や予後改善につながることも示唆されています。

本記事で解説した情報は、あくまでも一般的な知識に基づくものであり、最終的な治療方針や判断は個々の患者さんの状態によって大きく異なります。不安な点があれば早めに専門家へ相談し、自分に合った最善のアプローチを検討してください。

総合的な推奨事項(参考として)

  • 早期発見を目指し、定期的な画像検査や健康診断を受けること
  • 禁煙や受動喫煙防止をはじめとした肺がんリスク低減策を生活習慣に取り入れること
  • 診断後は専門医と相談し、病期や合併症、遺伝子変異の有無などに応じた治療法を選択すること
  • 治療による副作用や精神的負担を軽減するためのサポート(栄養指導、リハビリテーション、カウンセリングなど)を積極的に活用すること
  • 治療後も定期的なフォローアップを続け、再発や新たな病変の早期発見に努めること

注意事項(免責)

本記事の内容は、医療専門家による正式な診断や治療方針の決定を置き換えるものではありません。あくまで一般的な情報提供を目的としています。病状や治療に関しては必ず担当医や専門医に相談し、個々の状態に応じた医学的判断を仰いでください。

参考文献

※ 本記事で紹介している情報は信頼できる研究や統計に基づいていますが、内容は一般的な知見であり、すべての患者さんに当てはまるわけではありません。病状や治療法の選択に際しては、必ず担当の医師とよく相談し、個別の判断を行ってください。

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