はじめに
肺がんは世界中で死亡率が高いがんの一種であり、日本国内でも非常に深刻な健康課題となっています。特に初期段階では症状があまりはっきり出ず、検査や健康診断で偶然に見つかる場合も珍しくありません。こうした背景から、早期発見・早期治療が患者さんの予後や生活の質を左右する大きな要因になります。そのため、肺がんを疑う場合や肺の状態を詳しく調べたい場合には、胸部X線検査(以下、本稿では「X線検査」と表記することがあります)がよく行われます。本記事では、肺がんのX線検査の基礎から、受診すべき方、検査の流れ、そして受診後の留意点などについて、詳細かつ分かりやすく解説いたします。あわせて、日本国内で最近注目されている研究成果や専門家の見解も交え、できる限り説得力のある情報を提供したいと思います。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
専門家への相談
本記事では、肺がんを疑う際や既に診断を受けている際に行われるX線検査の重要性について解説します。本記事の内容を補強するために参考とした医療情報は、信頼できる医療機関のガイドラインや最新の学術誌に掲載された研究結果を中心に構成しています。また、本記事では医師(Bác sĩ Trần Kiến Bình)による専門的な視点も踏まえつつ、肺がんやX線検査に関する基本情報を整理しました。ただし、最終的な診断や治療の判断は、必ず担当の医師と相談しながら進めてください。
チュプX線による肺がん検査の概要
X線検査とは何か
X線検査とは、放射線(X線)を用いて体内の構造を画像化する方法です。肺がんの疑いがあるときや肺疾患が疑われるときに行われる「胸部X線」は、日本の医療現場でも最も基本的かつ広く普及している検査の一つです。肺の状態を大まかに把握するうえで、特に以下のようなメリットがあります。
- 短時間で撮影が終わる
- 費用が比較的安い
- 放射線被ばく量が少ない
- 異常陰影を発見しやすい(一定以上の大きさの腫瘤に限る)
一方、X線検査のみで発見できる病変には限界があり、非常に小さい初期の腫瘍(1cm以下など)は映りにくいことがあります。また、画像上の“かたまり”が良性か悪性かをX線写真だけで完全に判別することは難しく、精密検査(CTやPET-CT、内視鏡検査、組織検査など)が追加で必要となる場合が多いです。
X線検査で肺がんが発見できるのか
「X線検査だけで肺がんを早期発見できるのか」という質問に対しては、ある程度の大きさになっていれば確認は可能だが、微細な腫瘤まで網羅的に捉えるには限界があると言えます。特に、骨への浸潤(肋骨への侵食)などがなければX線上の白い影で悪性か良性かを完全に判定することは困難です。
そのため、もしX線検査で異常陰影が認められた場合には、CT(コンピュータ断層撮影)やPET-CT、あるいは気管支鏡検査(内視鏡)といったさらに詳しい検査を受け、組織診断などを行う必要が出てきます。
なお、日本国内だけでなく世界的にも、肺がんの早期発見には低線量CT(LDCT)によるスクリーニングの有用性が近年注目されています。X線検査よりさらに詳細な画像を得られるため、微小病変の発見率が高いと報告されていますが、検査コストや被ばく線量、要精密検査となる頻度などの課題も挙げられています。
新しい研究の知見
- 2020年にNew England Journal of Medicine誌に掲載されたNELSON試験(doi:10.1056/NEJMoa1911793)では、低線量CTスクリーニングにより肺がん死亡率の低下が示唆されました。対象はオランダとベルギーで行われた大規模ランダム化試験で、約1万5000名以上を追跡調査した結果、CT検査によるスクリーニング群は従来の無検診群に比べて肺がん死亡率が明らかに低下したという報告です。ただし、これは欧州での集団を対象にした結果であり、日本を含むアジア人集団でも同様の結果が得られるかどうかについては、今後の研究を待つ必要があります。
- 2021年から2022年にかけて、日本の複数施設が協力して行った研究(Journal of Thoracic Oncology, doi:10.1016/j.jtho.2021.11.012)では、肺がん診療において画像検査と分子標的治療の連携を評価していますが、特に早期発見の手段として低線量CTの有効性にも一部言及があります。日本人集団を対象としたデータであるため、国内臨床にも参考になる可能性があります。
こうした研究を踏まえても、X線検査は負担やコスト面でメリットがある一方、小さな病変の見落としというデメリットがあるため、状況に応じた検査方法の選択が重要です。
いつX線検査を受けるべきか
症状がある場合
以下のような症状がある場合は、肺がんや他の呼吸器系の病気を疑い、まずはX線検査を含む一連の診察を検討することが一般的です。
- 長引く咳
- 血痰(痰に血が混じる)
- 動いたときの息切れ
- 胸の痛み(呼吸や咳で増強する場合も)
- 原因不明の体重減少
- 慢性的な肺感染症(繰り返す肺炎など)
もちろん、これらの症状すべてが肺がんに直結するわけではありませんが、放置すると重大な病気を見逃してしまう可能性があります。早期発見のためにも、症状が長引く場合は医療機関に相談し、X線検査を含む詳しい検査を受けることが推奨されます。
ハイリスク群へのスクリーニング
特に、以下のようなハイリスク群とされる方々は、定期的なスクリーニングとしてX線検査やCT検査を受けることが考えられます。国や地域によって基準は異なりますが、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)などの国際的機関も以下のような基準を目安にしています。
- 長期間にわたる喫煙歴がある方(1日1箱×20年、または2箱×10年など「20パックイヤー以上」の喫煙)
- 現在喫煙中、もしくは過去15年以内に禁煙した方
- 50〜80歳以上の高齢者
- 石綿(アスベスト)などの化学物質や粉塵に長期間さらされる職場環境の方
- 受動喫煙リスクが高い環境に長年いる方
- 家族に肺がんの既往がある方
日本国内でも、上記のような要因に複数当てはまる場合、肺がん発症リスクが一般的な人よりも高いと考えられます。定期健診などで胸部X線を撮影する習慣がある方も多いと思いますが、特にハイリスク群の方は医師に相談のうえ、より精密な検査(CTなど)を提案されるケースが増えています。
X線検査にともなう注意点とリスク
放射線被ばくのリスク
X線検査では微量ながら放射線を使用します。多くの専門家が指摘しているように、1回のX線検査による被ばく線量は非常に少量であり、人体への影響はごくわずかとされています。厚生労働省が公表している医療放射線に関する資料でも、1回の胸部X線撮影の被ばく線量は日常生活で自然界から受ける放射線量と同程度、あるいはそれより低いとされています。したがって、リスクとベネフィットを比較すると、検査による早期発見・治療のメリットのほうが大きいと言えます。ただし、妊婦の方や放射線感受性が高い年齢層の場合は注意が必要です。担当医と相談し、必要性の有無をしっかり確認しましょう。
結果が陰性でも安心とは限らない
X線検査を受けて「異常なし」と判断されても、100%肺がんが否定されるわけではありません。前述の通り、非常に小さい病変はX線写真に映らないことがあるため、症状があり医師が強く疑う場合には、追加検査(CTやMRIなど)の提案を受ける可能性があります。特に進行が早いタイプのがんや、小さな病変の場合は経過観察や別の検査と組み合わせることが重要です。
結果が陽性でもがんとは限らない
X線写真で肺に白い影や結節が映ったとしても、それが必ずしも肺がんとは限りません。例えば肺炎や良性腫瘍(過誤腫など)、膿瘍、結核後の瘢痕組織など、別の病気や状態によっても異常陰影は認められます。そのため、X線検査で“要精密検査”といわれた際には、必ず追加検査を受けることが大切です。
X線検査の流れ
事前準備
X線検査の前に特別な準備はほとんど必要ありません。通常は食事や水分、内服薬の制限はなく、普段どおりの生活をして来院できます。ただし、検査中に金属が写り込まないよう、撮影部位周辺のアクセサリーや金属製のボタンなどは外す必要があります。女性の場合、ブラジャーの金属部分が影に映り込む可能性があるため、病院やクリニックで貸与される検査着に着替えることが一般的です。
撮影手順
-
検査室への移動
レントゲン撮影室に入り、技師から撮影方法の説明を受けます。 -
検査着への着替え
必要に応じて検査着に着替え、アクセサリーや時計など金属を含むものは外します。 -
姿勢の調整
撮影は立位で行うことが多いですが、体調や病状によっては椅子に座った状態やベッドで仰向けに撮影する場合もあります。技師が体の向きや姿勢を指示し、正面像・側面像など複数方向から撮影することがあります。 -
撮影時の呼吸指示
撮影時には「大きく息を吸って止めてください」などの指示を受ける場合が多いです。ブレがあると画像が不鮮明になり、異常の有無を正しく評価できなくなるため、短時間でもしっかり息を止めるように注意します。 -
撮影
実際の撮影時間はごくわずかで、1回のシャッターのように瞬時に終わります。ただし、複数アングルを撮る場合があるので、数分ほどかかることが一般的です。 -
終了
問題がなければ、そのまま着替えて終了です。検査自体は痛みや大きな不快感を伴わないため、終了後は普段どおりの生活に戻れます。
検査後の流れ
撮影した画像は放射線科医や担当医によって読影(画像診断)されます。結果は数分から数時間、または数日かかる場合があります。施設にもよりますが、多くの場合は数十分〜数時間程度で読影が完了し、その後医師から説明を受けることになるでしょう。
もし異常が確認された場合は、CTやPET-CTを用いた精密検査や気管支鏡検査、さらには生検(組織を一部取って顕微鏡で詳しく調べる検査)などを行い、腫瘍の種類や進行度を判断します。
逆に、「特に異常なし」との結果であっても症状が続く場合や、他の可能性を除外できない場合には再度医師と相談し、追加検査や経過観察の方法を検討する必要があります。
X線検査後の追加検査と今後の治療方針
CT検査
X線検査で異常陰影が見つかった場合、あるいは症状や血液検査の結果から肺がんを強く疑う場合は、詳細な断面画像が得られるCT検査へと進みます。CT検査では、X線が身体を360度回転しながら撮影するため、より立体的かつ詳細な画像解析が可能となります。小さな腫瘍やリンパ節転移、肺門部周辺の病変など、X線写真では見えにくい病変の検出率が上がるのが大きな利点です。
PET-CT検査
がん細胞は正常細胞よりブドウ糖の取り込みが活発であることを利用し、放射性同位元素で標識したブドウ糖類似物質を注射して全身を撮影するのがPET-CTです。遠隔転移の評価などに優れ、X線検査やCT検査だけでは分かりにくい転移巣の有無を把握することができます。肺がんの病期分類にも役立つため、治療方針の決定(手術が適応になるか、放射線治療や化学療法が必要かなど)にも大きく影響します。
内視鏡検査(気管支鏡検査)
肺や気管支の内側を直接観察できるため、異常部位の生検や細胞診が行いやすい検査です。もしX線やCTで疑わしい影が見つかれば、内視鏡で直接その部位から組織を採取し、良性・悪性の判定およびがんの種類や遺伝子変異の有無などを確定します。
治療方針の決定
もし肺がんと確定診断された場合、病期(ステージ)や組織型によって治療方針が大きく変わります。主な治療法には以下の選択肢があります。
- 手術(腫瘍が限局している場合)
- 放射線治療(切除が難しい場合や術後の補助療法など)
- 化学療法(抗がん剤)
- 分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などの新規治療
- 緩和ケア(進行がんで症状緩和を目的とする場合)
日本でも近年、分子標的治療や免疫治療といった新しい治療法が進歩しており、これらを適切に組み合わせることで患者さんの生存率や生活の質が向上してきています。早期発見であれば手術や放射線治療のみで根治が期待できるケースもあり、定期検診や症状の早期受診が改めて重要となっています。
まとめ:X線検査は肺がん早期発見の第一歩
X線検査は、肺がんを含む肺疾患の初期スクリーニングとして欠かせない検査です。放射線被ばくのリスクは極めて低く、短時間で終了し、費用も比較的安いため、まずはX線で大まかな評価を行い、必要に応じてCTやPET-CTなどの精密検査へとステップアップしていく流れが一般的です。
もちろん、X線検査だけでは微小病変や病巣の良悪性を正確に判定できない場合も多いので、撮影結果の評価に加えて、症状の有無や血液検査の数値、さらに医師の診察所見など総合的な判断が欠かせません。
特に喫煙歴がある方や受動喫煙・職場環境などでリスクが高い方は、専門医と相談しながら定期的に胸部X線やCT検査を受けることが早期発見につながります。
もし肺がんと診断された場合でも、現在は多様な治療法が確立されており、早期ほど治療選択肢が広がり、治療成績も良い傾向が報告されています。自覚症状がある場合はもちろん、「なんとなく長引く咳が気になる」「肺がんリスクが高いかも」と思った段階で、ぜひ一度医療機関に相談してみてください。
おすすめの受診タイミングと検診のポイント
- ハイリスク群(喫煙歴、職場環境、家族歴など)の方は、年1回程度のX線検査や場合によっては低線量CT検査によるスクリーニングを検討
- 咳が数週間続く、痰に血が混じる、胸の痛みなどがある場合は、速やかに受診
- 正常でも油断しない:一度のX線検査が陰性でも、必要に応じてCTや内視鏡検査を検討
- 異常影があっても焦らない:良性疾患との鑑別が必要なので、必ず追加検査で確定診断を受ける
推奨事項(あくまで参考)
以下は一般的な推奨事項であり、最終的には医師との相談が不可欠です。
- 定期的な健康診断を怠らない:職場健診や自治体のがん検診などの機会を活用
- 自己判断で終わらない:画像の読影は専門家による総合的評価が欠かせない
- 生活習慣の改善:禁煙、受動喫煙を避ける、バランスの良い食生活、適度な運動など
- 疑わしい症状を放置しない:咳、痰、息切れ、胸痛などを軽視しない
結論と提言
肺がんは、日本国内でも非常に死亡率が高いがんの一つですが、近年の医療の進歩により早期発見・早期治療の重要性が再認識され、多様な治療選択肢も増えています。X線検査は肺がんを疑う際や、ハイリスク群を対象とした初期スクリーニングとして、まず最初に行われるケースが多い検査です。放射線被ばく量が少なく検査時間も短いという利点がある一方、小さな病変を捉えにくいという限界もあるため、結果に応じてCT検査やPET-CT検査などを追加で実施します。
万一、X線検査で異常があっても良性病変の可能性もあるため、決して自己判断で結論づけず、専門医の診断と追加検査を受けることが必須です。逆に症状があるのにX線写真が陰性だったからと安心するのも危険です。医師に相談し、疑いが強い場合はCTや内視鏡など、さらに詳しい検査を受ける必要があります。
早期であればあるほど、肺がんの治療成績や生活の質が向上する可能性が高いとされます。喫煙習慣が長い方や受動喫煙、職場環境などでリスクを抱える方は、より積極的に定期検査を活用し、異常を見逃さないようにしていただければと思います。
参考文献
- Chest x-ray for lung cancer. アクセス日: 2022/12/06
- Diagnosis-Lung cancer. アクセス日: 2022/12/06
- Diagnosing lung cancer: X-ray and CT scan. アクセス日: 2022/12/06
- Chest X-ray – Lung cancer. アクセス日: 2022/12/06
- Lung cancer. アクセス日: 2022/12/06
- Lung Cancer and Radiological Imaging. アクセス日: 2022/12/06
- Tests for Lung Cancer. アクセス日: 2022/12/06
- Who Should Be Screened for Lung Cancer?. アクセス日: 2022/12/06
- De Koning HJ ほか. Reduced Lung-Cancer Mortality with Volume CT Screening in a Randomized Trial. New England Journal of Medicine. 2020; 382(6):503–513. doi: 10.1056/NEJMoa1911793
- Furuya N ほか. A prospective single-arm multicenter clinical trial on the effect of molecular analysis for advanced lung cancer in real-world practice in Japan. Journal of Thoracic Oncology. 2022; 17(7):854–864. doi: 10.1016/j.jtho.2021.11.012
最後に
本記事で紹介した情報は、あくまでも医療に関する一般的な知見と参考情報です。肺がんをはじめとした呼吸器の病気に対する診断・治療は症状や病状、個々の患者さんの背景によって異なります。必ず専門の医師に相談し、適切な検査や治療方針を決定してください。また、健康状態やリスク要因について気になることがあれば、定期健診を積極的に受診し、早めに対処することが重要です。本記事の内容は医療従事者の診断や治療に代わるものではなく、最終的な判断は担当医の指示を仰いでください。
本記事はあくまで参考情報であり、自己診断や自己治療は推奨されません。もし異常を感じたり、気になる症状が長引く場合は、お近くの医療機関を受診し、専門家のアドバイスを受けるようにしましょう。どうぞお大事になさってください。