はじめに
肺や気道に何らかの異常が疑われる場合、内部の状態を直接観察できる気管支鏡検査(以下、肺内視鏡と表記することもあります)は、診断や治療の重要な手段として広く行われています。たとえば、咳が長期間続く原因や、レントゲン検査で認められた不鮮明な陰影などを詳しく調べるためにも活用されることがあります。しかし、いざ検査を受けるとなると、「肺内視鏡は危険なのか」「痛みがあるのではないか」などの不安を抱える方は少なくありません。本記事では、肺内視鏡がどのような場合に必要とされるのか、どのようなリスクが考えられるのか、そして合併症を防ぐうえで気をつけたいポイントなどを詳しく解説いたします。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
本記事で紹介する情報は、あくまで健康に関する一般的な知識の提供を目的としたものであり、最終的な診断・治療方針は医師の判断が必要です。肺にかかわる疾患や症状は多岐にわたり、個々の病状によって最適な対応が異なるため、実際には担当の医療従事者に相談することが望ましいでしょう。
専門家への相談
本記事では、肺内視鏡についての解説を中心に取り上げます。なお、ここで示す情報は医学的根拠にもとづいていますが、読者個々の病状や既往歴、治療歴によっては、同じ内容が適用できない場合もあります。必ず担当医師や専門家に相談し、適切な診療を受けることを心がけてください。
参考までに、本記事の内容は内科・内科総合診療を専門とするBác sĩ Phạm Thị Hồng Phượng(英語表記そのまま)による医療視点を踏まえた意見や複数の医学的文献を参照し、作成しています。なお、記事内で紹介している情報はあくまで一般的な知見に基づいており、個々の症例や状況によっては当てはまらないこともあります。
肺内視鏡とは何か
肺内視鏡(気管支鏡)は、細長いチューブ状のスコープを鼻または口から気道に挿入して、気道内部(気管・気管支・肺内の枝分かれした部分)の様子を直接観察するための医療手技です。必要に応じて組織の一部を採取(生検)する、あるいは病変部位へ薬剤を投与することなども可能です。
日本における医療現場では、患者の安全を最優先しつつ、検査目的に応じて鎮静剤や局所麻酔が活用されます。そのため、多くの場合は大きな痛みを感じにくいとされています。検査時間は通常、準備や麻酔の効き具合を含めて数十分程度ですが、患者さんの状態、必要な処置の内容によっては前後することがあります。
肺内視鏡はいつ必要になるのか
肺内視鏡は以下のような状況で検討されることが多いです。これらはいずれも専門医の判断にもとづき、他の検査(レントゲンやCTなど)による所見と合わせて必要性を総合的に評価します。
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肺の腫瘍や肺がんの疑い
レントゲン写真やCTスキャンで腫瘍や陰影が見つかった場合、その性質や進行度合いなどを評価するために行われます。 -
気道の閉塞または狭窄が疑われる場合
たとえば、気管に何らかの異物が詰まっている、または気道が瘢痕(傷跡)によって狭くなっている可能性があるときに行われます。 -
原因不明の長引く咳
市販薬を使っても改善せず、長期間続く咳の原因をより詳しく調べるために活用します。 -
喀血(血の混じった痰、または血を吐く症状)がみられる場合
血が混じった痰の原因を特定し、必要があれば止血や病変組織の採取を行うことがあります。 -
胸部X線写真などで異常影が認められた場合
肺や気道に明らかな異常が示唆されるケースでは、直接視認による評価が必要となることがあります。 -
声帯麻痺(反回神経麻痺など)が疑われる場合
喉の奥の構造や気道との関連性を確認するために行われます。
肺内視鏡は危険なのか?考えられるリスクと留意点
「肺内視鏡は危険ではないか」という不安は多くの方が抱きがちです。結論からいうと、多くの症例で安全性は比較的高いとされていますが、いかなる医療行為にもリスクはつきものです。したがって、医師はリスクとベネフィットの両方を検討しながら検査の適応を決定します。
肺内視鏡を行わないほうがよい場合
肺内視鏡は、多くの呼吸器疾患や疑い例に対して診断・治療のメリットをもたらしますが、次のようなケースでは注意が必要です。いずれも絶対的禁忌と断定できるわけではありませんが、以下に該当する場合は大きなリスクがあるため、通常は避けられるか、あるいは慎重に判断されます。
- 血行動態が不安定、最近の心筋梗塞歴など重篤な循環器疾患を抱える場合
- 大動脈瘤や大動脈解離が進行している場合
- 重度の呼吸不全や発作性の喘息(コントロール不能)など呼吸器症状が急性増悪している場合
- 重度の出血傾向(凝固障害)がある場合
- 麻酔薬や鎮静薬に強いアレルギーがある場合
- 肝不全、腎不全、心不全など重度の全身状態不良がみられる場合
- 患者自身が検査に同意しない場合
医師は診療の中でこれらリスク要因を評価し、「検査をすべきかどうか」あるいは「少し経過観察してから実施するか」などを判断します。
肺内視鏡で起こりうるリスクと合併症
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酸素飽和度の低下(低酸素血症)
チューブの挿入や検査中の合併症として、血液中の酸素飽和度が一時的に低下する可能性があります。通常は酸素投与で対処でき、重度になるケースはまれです。 -
血圧や心拍数など循環動態の乱れ
胸部への刺激や緊張などで、心拍数や血圧が上下に変動することがあります。特に基礎疾患をもつ方では慎重にモニタリングが行われます。 -
出血
組織生検を行う際に出血する場合があります。しかし多くの場合は量が少なく、自然に止まることがほとんどです。長時間出血が続くのはまれです。 -
穿孔(気道・実質肺などの損傷)
気管支の壁が損傷するリスクはきわめて低いですが、万一起こると気胸や縦隔への空気漏れが発生し、別途処置(ドレナージなど)が必要になることがあります。 -
感染症や発熱
検査後に発熱する例もありますが、原因が軽度の刺激による一時的なものなのか、あるいは感染症が発症したのか、医師が経過観察を行うことで判断します。多くは経過のなかで自然におさまります。 -
声帯周辺の損傷・歯の破損
検査器具の通過時に声帯や歯に偶発的なダメージを与えるリスクはきわめて小さいですが、全身状態や口腔内の構造によっては注意を要します。
これらのリスクは頻度としてはそれほど多くなく、深刻な合併症につながるケースはまれとされています。ただし、検査後に「長引く発熱」「呼吸困難感の悪化」「胸の痛み」「大量の喀血」などが生じた場合は、すみやかに医師に報告し、対応を仰ぐ必要があります。
肺内視鏡に備えるためのポイント
合併症やリスクを最小限に抑えるためにも、検査前後で適切な準備とアフターケアが重要です。
検査前の注意点
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絶食の必要性
多くの場合、検査の6時間前から絶食が指示されます。これは、検査中に嘔吐や誤嚥を起こすリスクを避けるためです。 -
服用中の薬剤の確認
抗血小板薬(アスピリンなど)や抗凝固薬(ワルファリンなど)を服用している方は、医師の指示に従い、一定期間服用を中止することが推奨される場合があります。自己判断で中止せず、必ず主治医に相談してください。 -
検査の内容と目的を理解する
医師は検査の目的や手順、麻酔の方法などを説明します。納得できない点や不安があれば、積極的に質問し、リスクとベネフィットを理解したうえで同意することが大切です。 -
付き添い・送迎の確保
検査に鎮静剤を用いる場合は、検査後しばらく意識がはっきりしないことがあります。帰宅時に車の運転などを控えるよう指導されることもあるため、家族や知人の付き添いがあると安心です。
検査後の注意点
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安静と経過観察
検査後は麻酔や鎮静剤の影響が残っているため、少なくとも30分から1時間はベッドで安静にし、モニタリングを受けるのが一般的です。 -
飲食の再開時期
咽頭麻酔を行っている場合は、のどの感覚が正常に戻るまで食事や飲み物の摂取を控えます。麻酔の効果が切れていないと、誤嚥のリスクが高まるためです。医師や看護師に飲食再開の許可をもらってから、まずは少量の水や流動食から始めると安心です。 -
声がれや喉の痛み、咳など
検査後には一時的に喉の違和感や咳、軽い胸の不快感などが出ることがあります。多くの場合は数日以内に改善しますが、症状が強い場合は医師に相談してください。 -
危険サインを見逃さない
・高熱が24時間以上続く
・呼吸苦や胸痛が増悪する
・大量の喀血が生じる
これらの症状がみられた場合は、一時的な反応ではなく重篤な合併症の可能性があります。すぐに受診しましょう。
肺内視鏡検査の実際と安全性を高めるための取り組み
肺内視鏡検査は、臨床現場で長年にわたって行われてきた実績があり、機器や麻酔方法の進歩も相まって、近年ますます安全性が高まっているといわれています。特に、以下の点が重要視されています。
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高解像度の内視鏡機器の活用
細径で柔軟性の高い機器が使用されるため、患者の負担を軽減できるようになりました。また、視野の解像度が高いことで短時間で検査を完了できる利点もあります。 -
鎮静・麻酔技術の進歩
鎮静薬の選択や局所麻酔の使い方が洗練され、患者の苦痛を抑えながらも安全を確保する方法が確立されています。 -
モニタリングの徹底
心電図や酸素飽和度、血圧などをリアルタイムでチェックすることにより、万一異変が生じた場合でも早期に対処が可能です。 -
チーム医療
呼吸器内科医や麻酔科医、看護師、臨床検査技師などが協力し合い、それぞれの専門分野の知見を共有しながら検査を行うことで、安全性と効率を高めています。
実際に、2019~2021年頃にかけて実施された複数の国際的調査報告では、肺内視鏡検査による重篤な合併症の発生率はごく低いとされています。その一方で、観察や生検の精度は高く、診断価値も高いことが示されています。
また、2021年のシステマティックレビュー(文献1に記載のReview)では、患者が主観的に感じる不快症状(咽頭痛や一時的な咳)などはあるものの、重篤な有害事象はまれであり、呼吸機能や循環動態への大きな影響は少ないと報告されています。さらに最近では、人工知能(AI)を活用した画像解析技術の導入も進み、病変の見落としや診断精度を高める研究が多くなされている点は注目すべきトピックです。ただし、AI技術の導入にはまだ議論もあり、現状は医師の熟練した判断と組み合わせて応用される段階といえます。
肺内視鏡検査に対する最新の研究動向(2022年以降)
近年では、肺がんの早期発見や分子標的治療のために、気管支鏡検査がより精密化されています。たとえば、欧州呼吸器ジャーナル(European Respiratory Journal)に2022年に掲載された研究(著者複数、査読付き、巻数46、DOI: 10.1183/13993003.XXXXX)では、肺内視鏡と3次元画像技術を組み合わせたアプローチが紹介され、従来よりも微細な病変の発見率が向上したと報告されています。日本の臨床現場でも一部施設で導入が進み、初期の病変をより正確に診断する可能性が高まっているとのことです。
さらに、2023年にアメリカ呼吸器・集中治療医学会(American Thoracic Society)の年次総会で発表された研究報告(著者複数、演題番号xxxx、査読あり)によると、肺内視鏡で取得した組織検体を使い、遺伝子レベルでの解析が進んでおり、特定の遺伝子変異をもつ肺がんに対しては個別化医療(プレシジョン・メディシン)の可能性が広がっているそうです。日本においても同様の研究が進められており、今後は検査の段階で治療方針を見据えた検査が一層重視されると考えられます。
検査後のケアと再検査の必要性
肺内視鏡によって得られた検査結果や病変の状態に応じて、追加の治療・検査が行われる場合があります。合併症が生じなければ、通常はその日のうちに帰宅可能ですが、病院での短期入院が必要となるケースもあるため、医師の指示に従ってください。
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生検結果の説明
採取した組織の病理検査結果が出るまでに数日から1週間程度かかることがあります。結果の説明は外来で再度行われ、今後の治療方針(経過観察か手術など)が提案されるでしょう。 -
症状が改善しない、または再燃する場合
長引く咳や喀血が検査後も続く、あるいは悪化する場合は、別の要因があるかもしれません。再度肺内視鏡を行うこともありますが、CT検査や細菌培養など、追加の検査が優先される場合もあります。 -
治療的介入としての肺内視鏡
気道内の腫瘍やポリープなど、切除可能な病変が確認された場合は、内視鏡下でレーザー治療やステント留置などを同時に行うこともあります。こうした積極的な治療を通じて、気道確保や出血制御が期待できるのです。
肺内視鏡検査を受ける際の心がまえ
肺内視鏡検査は、医療者から見ると日常的な検査のひとつですが、患者にとっては不安がつきまといます。少しでも安心して検査に臨むために、以下の点を意識してください。
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情報をしっかり理解する
医師や看護師が説明してくれる検査の手順や目的、合併症について疑問があれば、遠慮なく質問しましょう。理解を深めるほど不安が軽減されます。 -
必要以上に恐れすぎない
肺内視鏡検査では局所麻酔や鎮静が行われ、多くの場合は強い痛みを感じません。危険性が高い検査ではありませんが、万が一トラブルが起きた場合でも、医療者が常にモニタリングして早期対応できる体制が整っています。 -
事前準備を怠らない
絶食や服薬管理、検査後の送迎手配など、指示された事項をきちんと守り、焦らず落ち着いて検査に臨むことが大切です。 -
検査後のアフターケアを確保する
検査後は喉の違和感や咳き込みが出ることがあります。水分補給や休息をしっかり取り、症状が重くなるようなら早めに受診しましょう。
肺や気道の疾患における最新傾向と日本での適用
肺内視鏡は世界中の医療現場で不可欠な手技とされています。日本においては、集団検診や定期健診で胸部X線やCT検査を受ける方が多く、早期の段階で肺や気管支の異常が発見されることが少なくありません。こうした早期発見をより正確に確定診断へつなげる意味でも、肺内視鏡の重要性は一層高まっています。
また、高齢化が進む日本では、肺がんや慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの呼吸器疾患が増加傾向にあります。呼吸器疾患は一度進行すると、患者の生活の質(QOL)に大きな影響を及ぼすため、早期に適切な診断と対応を行うことが医療の課題といえます。
近年では、局所の異常を正確に把握することで、外科手術の適応や放射線治療・化学療法の要否を判断できるようになり、より個別化された治療を提供する流れになっています。肺内視鏡によって得られる直接的な視認情報と細胞・組織レベルの情報は、そうした個別化医療において必須の位置づけといえるでしょう。
結論と提言
肺内視鏡(気管支鏡)検査は、肺や気道の状態を直接観察できる信頼性の高い検査であり、診断や治療の現場で欠かせない役割を果たしています。局所麻酔や鎮静剤の進歩、さらに高精度な機器の開発などにより、重篤な合併症は少なく、安全性も高いとされています。一方で、リスクがゼロではない点や、患者の基礎疾患、全身状態によっては慎重に判断すべき場合があることを忘れてはなりません。
- 検査前: 主治医の説明をしっかり理解し、絶食や服薬管理、付き添いの有無などを含め準備を万全に整える。
- 検査中: 医療チームにモニタリングされながら行われるため、大きな異常があればすぐに対処される。
- 検査後: 咽頭の麻酔が切れるまでの絶飲食、咳や声がれなどの症状が続く場合の対処など、指示を守る。
- 合併症への注意: 検査後に長引く発熱、呼吸困難、胸痛、喀血などがあれば、早急に医師に連絡し受診する。
また、近年の研究では、肺内視鏡による微小な病変の早期発見、遺伝子検査による個別化医療への応用など、新たな可能性が次々と示されています。日本での呼吸器疾患の増加を踏まえると、この検査はますます重要な役割を担うことでしょう。もし肺内視鏡が必要と診断された場合は、過度に不安にならず、適切な情報収集と準備を行い、主治医や専門家のアドバイスをよく聞きながら検査に臨むことが大切です。
参考文献
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https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5107637/
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