肺癌治療薬の全貌を探る:最新のアプローチと選択肢
がん・腫瘍疾患

肺癌治療薬の全貌を探る:最新のアプローチと選択肢

はじめに

肺がん治療においては、さまざまな薬剤が使用されます。特に、肺がん細胞を攻撃する目的で処方される薬には、経口薬(カプセルや錠剤など)から静脈内投与薬まで多岐にわたる選択肢があります。こうした薬剤は、腫瘍を縮小させたり、症状を軽減したり、また手術の前後で再発リスクを下げることを目的として使用されます。本記事では、肺がんの治療で代表的に用いられる薬剤について、具体的な特徴や副作用などを詳しく解説します。治療の選択肢は患者さんの病期や全身状態によって異なり、医師の判断のもと行われることが基本です。そのため、本記事の情報はあくまで参考としてお役立ていただき、実際の治療方針については必ず専門医にご相談ください。

免責事項

当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。

専門家への相談

本記事では、肺がん治療に詳しい専門医や薬剤に関する専門家(例:腫瘍内科医、呼吸器外科医、薬剤師など)の意見をもとに、信頼できる医療機関や学術団体の情報を参照しています。特に、Thạc sĩ – Dược sĩ – Giảng viên Lê Thị Mai(学位:修士・薬剤師、教育機関:大学機関で講師経験あり)による薬学的見地を含むアドバイスを参考にしつつ、複数の国際的・公的医療機関が公表している治療ガイドラインや情報(アメリカの大規模がん研究機関、世界保健機関など)を踏まえて記事を作成しています。ただし、個別の病状に応じた最終的な治療法の決定は、必ず主治医の判断を仰いでください。

肺がん治療に用いられる薬剤の概要

肺がんの治療薬は、大きく「化学療法(抗がん剤)」「標的治療薬」「免疫療法薬」に分類されます。それぞれの薬剤は、細胞の増殖経路やタンパク質のはたらきを標的に、がん細胞を死滅・抑制することを狙いとします。病期によっては、手術や放射線治療と組み合わせて使われることも多く、複数の治療法を組み合わせる「集学的治療」が推奨される場合があります。

肺がんには大きく分けて「小細胞肺がん」と「非小細胞肺がん」の2種類があり、特に非小細胞肺がん(NSCLC)は病期や遺伝子変異の有無によって、標的治療薬や免疫療法薬を使い分けることがあります。一方、小細胞肺がんでは化学療法に放射線を組み合わせる治療が選択されることが多いですが、病期が進行している場合は免疫療法薬が考慮されることもあります。以下、各治療薬について具体的に解説していきます。


化学療法(抗がん剤)

化学療法の役割と概要

化学療法は、細胞分裂を活発に行うがん細胞を薬剤によって破壊し、がんの進行を抑える治療法です。肺がんの病期や組織型を問わず、多くの患者さんに適応されることがあります。とくに進行期肺がんや手術の前後(術前・術後)に行われることが多く、手術前には腫瘍を縮小して摘出しやすくする目的、術後には残存しているかもしれない微小ながんを攻撃し再発リスクを下げる目的などで用いられます。

代表的な化学療法薬

  • カルボプラチン(Carboplatin)
  • シスプラチン(Cisplatin)
  • ドセタキセル(Docetaxel)
  • エトポシド(Etoposide)
  • ジェムシタビン(Gemcitabine)
  • ナブ-パクリタキセル(Nab-paclitaxel)
  • パクリタキセル(Paclitaxel)
  • ペメトレキセド(Pemetrexed)
  • ビノレルビン(Vinorelbine)

これらの薬剤は点滴による静脈内投与が一般的ですが、患者さんの状態によっては経口薬が使われる場合もあります。また、2種類以上の薬剤を組み合わせて投与することもあり、数週間から数カ月にわたるサイクル治療を行うのが典型的です。

化学療法の副作用と対策

抗がん剤は正常細胞にも影響を及ぼす場合があります。代表的な副作用には以下のようなものがあります。

  • 疲労感・倦怠感
  • 血球減少(白血球・赤血球・血小板など)
  • 感染症リスクの上昇
  • 口内炎
  • 悪心・嘔吐(吐き気)
  • 食欲不振
  • 下痢
  • 四肢末端のしびれ(手足のしびれ)
  • 脱毛

これらの副作用を軽減するために、医師は制吐剤や栄養補助剤など補助的な薬剤を処方することがあります。副作用は治療終了後に軽減する場合が多いですが、個人差があり、治療中のケアが重要です。


非小細胞肺がんにおける標的治療薬

標的治療薬(分子標的薬)とは

標的治療薬は、がん細胞が増殖・分裂するために必要な特定の遺伝子変異やタンパク質を狙い撃ちする薬剤です。正常細胞へのダメージを最小限に抑えつつ、がん細胞特有の経路をブロックするため、従来の化学療法より副作用が少ないケースもあります。しかし、対象となる遺伝子変異やタンパク質を持つ患者さんにしか効果が期待できない場合があるため、治療開始前に遺伝子検査を行い、適応を確認することが多いです。

EGFR阻害薬

非小細胞肺がんのうち、約30~35%の患者さんではEGFR(上皮成長因子受容体)の変異が見られると報告されています。EGFR変異陽性の患者さんには、以下のようなEGFR阻害薬が投与されます。

  • アファチニブ(Afatinib)
  • ダコミチニブ(Dacomitinib)
  • エルロチニブ(Erlotinib)
  • ゲフィチニブ(Gefitinib)
  • オシメルチニブ(Osimertinib)
  • アンバンタマブ(Amivantamab)
  • モボセルチニブ(Mobocertinib)

これらの薬は経口薬が多く、EGFR変異を抑制し、腫瘍の成長を遅らせたり、縮小させたりします。

副作用の例

  • 皮膚障害(発疹、乾燥肌など)
  • 下痢
  • 食欲低下
  • 口内炎
  • 倦怠感 など

ALK阻害薬

ALK(アナプラスチックリンパ腫キナーゼ)という遺伝子の変化は、非小細胞肺がん全体の約4%程度で見られます。ALKが活性化すると腫瘍細胞の増殖が促されるため、これを阻害する薬剤が用いられます。

  • アレクチニブ(Alectinib)
  • ブリガチニブ(Brigatinib)
  • セリチニブ(Ceritinib)
  • クリゾチニブ(Crizotinib)
  • ロルラチニブ(Lorlatinib)

ROS1融合遺伝子を標的とする薬

ROS1遺伝子変化は、非小細胞肺がんの1~2%で観察されます。細胞の分化や増殖を促すタンパク質が過剰に活性化するため、以下の阻害薬が使われます。

  • セリチニブ(Ceritinib)
  • クリゾチニブ(Crizotinib)
  • エントレクチニブ(Entrectinib)

KRAS G12C変異を標的とする薬

KRAS変異は非小細胞肺がんの20~25%で認められ、そのうちKRAS G12C変異が注目されています。FDA(海外当局)で承認された薬剤としては、次のようなものがあります。

  • ソトラシブ(Sotorasib)

NTRK融合遺伝子を標的とする薬

NTRK融合は多様ながんでまれに見られますが、肺がんでは1%未満とされています。これに対し承認されている薬としては、以下が挙げられます。

  • ラロトレクチニブ(Larotrectinib)

BRAF V600E変異を標的とする薬

BRAF変異は、NSCLCにおいて約4%程度存在するとされています。V600E変異がある場合、下記2剤の併用が効果を示すことがあります。

  • ダブラフェニブ(Dabrafenib)
  • トラメチニブ(Trametinib)

抗血管新生療法(アンチエンジェネシス療法)

腫瘍は血管を新生して養分を得ることで成長や転移を続けます。そこで血管新生を抑える薬剤が用いられます。肺がんで用いられる代表的な薬は以下の通りです。

  • ベバシズマブ(Bevacizumab):化学療法やアテゾリズマブ(免疫療法薬)と併用されることが多い
  • ラムシルマブ(Ramucirumab):ドセタキセルなどと併用される場合がある

標的治療の主な副作用

  • 皮膚や髪、爪、目へのトラブル
  • 悪寒や発熱、筋肉痛などインフルエンザ様症状
  • 下痢
  • 食欲不振
  • 口内炎
  • 倦怠感 など

標的治療薬は遺伝子検査で特定の変異がある患者さんに対して投与されるため、従来の化学療法に比べ効率的にがん細胞を狙える反面、適応範囲は限られます。また、治療中に別の耐性変異が生じることがあるため、効果の持続期間や併用療法の可能性などを医師とよく相談する必要があります。


免疫療法

免疫療法(免疫チェックポイント阻害薬)とは

免疫療法は、患者さん自身の免疫細胞ががん細胞を認識して攻撃しやすくするよう作用する治療です。通常、がん細胞は免疫から逃れるために特定のたんぱく質を使って免疫細胞の監視をかいくぐっています。免疫チェックポイント阻害薬は、その「逃げ道」をふさぎ、免疫が正常に働きやすい状況をつくり出します。

肺がんでは、進行期や再発例において免疫療法薬が使用されることが増えてきており、特に非小細胞肺がんの進行例で有効性が示唆されています。さらに、小細胞肺がんでも、進行度が高いケースや再発時において免疫療法が検討されることがあります。

PD-1/PD-L1経路を阻害する薬

がん細胞はPD-L1などのたんぱく質を用いて、免疫細胞(T細胞)のはたらきを抑制します。PD-1はT細胞側にある受容体で、PD-L1と結合するとT細胞が働きにくくなります。これを阻害するのが以下の薬剤です。

  • アテゾリズマブ(Atezolizumab)
  • デュルバルマブ(Durvalumab)
  • セミプリマブ(Cemiplimab-rwlc)
  • ニボルマブ(Nivolumab)
  • ペムブロリズマブ(Pembrolizumab)

CTLA-4経路を阻害する薬

CTLA-4も、免疫チェックポイント経路として重要なたんぱく質です。肺がん治療で承認されている代表的なCTLA-4阻害薬は以下の通りです。

  • イピリムマブ(Ipilimumab)
  • イピリムマブ+ニボルマブ+化学療法の併用

免疫療法の投与スケジュール・副作用

免疫療法薬は多くの場合、点滴による静脈内投与を2~4週間ごとに継続します。治療効果がある場合や大きな副作用が問題にならない場合は、概ね2年程度を目安に使用されるケースが多いです。副作用には以下のようなものがあります。

  • 倦怠感
  • 体力低下
  • 下痢
  • 食欲不振
  • 筋肉痛、関節痛
  • 呼吸困難感
  • 肺炎(間質性肺炎など)
  • 皮膚の乾燥・かゆみ
  • 体重減少

免疫療法の副作用は、従来の化学療法と異なり自己免疫性の炎症が主体です。そのため、症状によってはステロイド剤などを用いて炎症を抑える治療が必要となる場合があります。副作用や有効性には個人差が大きいので、治療中に気になる症状があればすぐ医療者に相談しましょう。


治療効果を支える実際のエビデンス

肺がん治療において、化学療法・標的治療薬・免疫療法薬の有効性は数多くの臨床試験で検証されています。たとえば進行性非小細胞肺がんに対する免疫療法では、近年の大規模臨床試験(例:Forde PMらによる2022年の研究(New England Journal of Medicine, 386:1973-1985, doi:10.1056/NEJMoa2202170))において、化学療法にニボルマブを併用することで術前治療の効果が向上し、完全寛解率や治療後の再発抑制効果が改善したとの報告があります。このように、免疫チェックポイント阻害薬が肺がん治療に対して重要な役割を果たす可能性が指摘されています。

ただし、全ての患者さんに対して同様の効果が得られるわけではなく、遺伝子変異やPD-L1の発現レベルによって治療方針が変わる点に留意しなければなりません。


副作用管理と支持療法の重要性

肺がん治療薬はどれも腫瘍に対して大きな効果が期待される反面、少なからず副作用が生じる可能性があります。副作用をうまくコントロールすることは治療継続のカギであり、以下のような対応がとられます。

  • 制吐薬の使用:抗がん剤や一部の標的治療薬で起こる吐き気を抑える
  • 感染症対策:白血球数が低下した場合に備え、抗菌薬や日常生活の予防策を行う
  • 栄養管理:食欲不振が生じる場合、栄養補助食品や経管栄養などを検討
  • 体力維持・リハビリ:適度な運動療法を取り入れ、筋力低下を予防
  • ステロイド投与:免疫療法による自己免疫性の副作用などを緩和する

治療効果をより高めるためには、医師や看護師、薬剤師、栄養士など多職種チームと連携して支持療法(症状や副作用を緩和する治療)を受けながら治療を進めることが大切です。


日常生活で留意すべきポイント

薬物療法を受けながら生活するうえで、次のようなポイントに気を配ると副作用対策や体力維持に役立ちます。

  • 休養と睡眠:治療中は疲れやすいため、十分な睡眠と休息を確保する
  • バランスの良い食事:高タンパク・高エネルギーの食事やビタミン・ミネラル補給を意識する
  • 水分補給:下痢や発熱などがある場合は特にこまめに水分補給を行う
  • 感染予防:人混みを避けたり、手洗い・うがいを徹底する
  • 適度な運動:無理のない範囲で散歩などを続け、筋力の低下を防ぐ
  • 通院スケジュールの管理:定期的な採血・検査で副作用のモニタリングを欠かさない

肺がん治療薬の将来展望

肺がん治療は、分子生物学や免疫学などの進歩により急速に変化しています。近年は、従来の化学療法だけでなく、遺伝子変異を詳細に調べて最適な標的治療薬を選択する「プレシジョン・メディシン(個別化医療)」が重視され、さらに免疫療法薬の併用によって治療成績の向上が期待されています。今後は新しい標的分子の発見や、新規免疫療法薬の臨床試験が進み、多くの患者さんにより有効で副作用の少ない治療が提供される可能性があります。


結論と提言

肺がん治療で使用される薬剤は、化学療法薬、標的治療薬、免疫療法薬など多岐にわたります。病期や遺伝子変異の有無、患者さんの全身状態などによって最適な治療戦略は異なり、手術や放射線療法と併用してより高い効果を狙うケースも少なくありません。

  • 化学療法は幅広い患者さんに適応され、副作用管理が重要。
  • 標的治療薬は遺伝子検査で特定の変異がある患者さんに選択される。
  • 免疫療法薬は進行期肺がんや再発性肺がんの新たな選択肢となっている。

いずれの治療法でも副作用は避けて通れない課題ですが、近年の研究や副作用管理の進歩により治療継続が容易になってきています。副作用を抑えながら効果を高めるためには、主治医や医療チームとのコミュニケーションが欠かせません。治療法の最新動向や自身の体調変化について遠慮なく尋ね、個別の状況に応じた最適な治療を一緒に模索することが重要です。


参考文献


免責事項と医療機関への受診のすすめ

本記事で紹介した情報は、信頼性の高い医療情報をもとにまとめたものですが、あくまで参考資料としてお考えください。治療方法や薬剤の選択は患者さん一人ひとりで異なり、医師の総合的な判断が必要となります。必ず専門の医療機関で詳しい検査や診察を受け、医師の説明を十分に理解した上で治療方針を決定してください。自己判断による治療の変更や中断は大変危険ですのでお控えください。

この記事はお役に立ちましたか?
はいいいえ