胃がんは治るのか?科学で迫る治療の可能性
がん・腫瘍疾患

胃がんは治るのか?科学で迫る治療の可能性

はじめに

胃がんは日本においても非常に関心が高い健康問題の一つです。多くの人が「胃がんは治るのか?」という疑問を抱きます。この問いは、診断を受けた患者やその家族にとって極めて重要であり、医療従事者にも頻繁に寄せられるものです。胃がんは消化器系で発生するがんの中では、大腸がんに次いで高い発生率を示すことが知られています。初期症状が非特異的であるため早期発見が難しく、進行すると死亡率が高まるのが特徴です。本記事では、胃がんの治療可能性について詳細に解説し、どのような要因が予後に影響を与えるのかを紹介します。胃がんに関する正しい知識を身につけることは、治療や予防に大いに役立ちます。ここでは、国内外の専門家の意見や信頼できる情報源から得られたデータをもとに、私たちJHO編集部が分かりやすく解説いたします。

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当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。

専門家への相談

本記事の内容は、国際的に信頼されている複数の医療機関が公開しているデータや資料を参照しています。たとえば、American Cancer Society(米国の主要ながん専門機関)やCleveland Clinic(世界的に著名な総合医療機関)などからの情報は医学的根拠がしっかりしており、日本の患者にとっても有用な示唆が得られます。これらの機関から報告された知見は、今日の胃がん治療や予防の考え方を理解するうえで重要です。ただし、本記事で述べる情報はあくまでも一般的な参考情報であり、個別の症状や状況によって最適な治療法や経過観察の方法は異なります。疑わしい症状がある場合や治療方針を検討する場合は、必ず専門の医師に相談することをおすすめします。

胃がんは治療可能か?

胃がんの治療可能性は、がんの種類や進行度によって大きく変わります。日本人に多い胃がんの病理組織型はその約95%が「腺がん」と呼ばれるタイプであり、比較的ゆるやかに進行する傾向があります。しかし適切な治療を受けなければ、がん細胞は胃壁を深く浸潤していき、ほかの臓器へ転移する可能性が高くなります。

胃の壁は内側から外側に向かって

  • 粘膜
  • 粘膜下層
  • 筋層
  • 漿膜下層
  • 漿膜

という5層構造をとっています。胃がん細胞は粘膜層にとどまっている状態(ごく早期)から徐々に深部へ侵攻し、漿膜を越えて転移を起こす場合があります。胃がんが治療可能かどうかは下記のような要因で大きく左右されます。

  • 腫瘍の種類、位置、および大きさ
  • 診断時のがんの進行度
  • 治療への反応
  • 患者の年齢と全体的な健康状態

以下では、こうした要因がどのように治療可能性に影響を与えるのか、さらに詳しく見ていきます。

胃がんの治療可能性と症例の進行度

胃がんの治療可能性を考えるうえで、何よりもがん発見時の進行度が大変重要とされています。初期症状が一般的な風邪や消化不良に似ている場合も多く、受診が遅れると診断時にはすでに進行しているケースが少なくありません。とはいえ、早期に発見して転移が起こる前に治療を実施できれば、治癒の見込みは大幅に高まります。最近の日本国内の医療機関では、胃の内視鏡検査を定期的に受けることで比較的早い段階で異常を捉えられるようになってきました。自覚症状がなくとも健診や人間ドックで発見されるケースが増加しているため、早期治療につながりやすい環境が徐々に整っているとされています。

また、2021年に発表された日本胃癌学会ガイドライン第5版(Japanese Gastric Cancer Association. Japanese gastric cancer treatment guidelines 2018 (5th edition)Gastric Cancer. 2021;24(1):1-21. doi:10.1007/s10120-020-01042-y)でも、内視鏡検査による早期発見が胃がん治療成績の向上に寄与することが改めて示されています。特に日本では内視鏡技術が世界的に見ても非常に発展しており、初期段階のがん病変を捉える精度が高いため、これをいかに早く受けるかが重要だという考えが広く共有されています。

早期ステージの胃がん

病変が胃の粘膜や粘膜下層に留まっている早期ステージで発見されれば、手術や内視鏡治療(内視鏡的粘膜切除術など)によって治癒できる可能性が非常に高くなります。病巣が小さい段階であれば、周囲への転移が起こる前にがんを根治的に切除できるため、その後の再発リスクも低く抑えられます。

たとえば2022年に報告されたSunらの研究(JAMA Netw Open. 2022;5(3):e221792. doi:10.1001/jamanetworkopen.2022.1792)では、局所進行がんを含めた患者に対しても早期に内視鏡検査を受け、適切なタイミングで外科的治療・補助化学療法を導入した場合、5年生存率が著しく改善したというメタ解析結果が示されています。これは欧米のデータも含めた総合的な検討ですが、日本の医療水準と比較的近い手技(内視鏡診断や外科的切除など)を行っている施設の情報が反映されているため、日本国内の患者にも応用できる可能性が高いと考えられます。

中等進行の胃がん(ステージII)

ステージIIの胃がんでは、腫瘍が筋層や漿膜下層まで達していても、まだ転移が限定的な場合があります。こうした中等度進行例でも、外科的治療や補助化学療法を適切なタイミングで組み合わせることにより、比較的良好な経過を辿ることがあります。ただし、がんが大きくなるほど治療の難易度は上がり、また周辺リンパ節への転移があると手術範囲が広くなる可能性があります。そのため、少しでも早く精密検査を受けることが、治療方針の決定において重要です。

ステージIIの治療では、手術による胃切除術(部分切除または全摘)リンパ節郭清が行われ、術後には再発リスク低減を目的とした化学療法が推奨されるケースが多くなっています。日本の多施設共同研究においても、ステージII〜IIIに対して術後化学療法(S-1など)を行うことで生存率が向上するとの結果が示されています。さらに2020年に医学誌Lancetに掲載されたSmythらによる大規模レビュー(Smyth EC et al. Gastric cancer. Lancet. 2020;396(10251):635-648. doi:10.1016/S0140-6736(20)31288-5)でも、局所的な進行度合いが中等程度の場合に、手術と術後化学療法を組み合わせる戦略が長期予後の改善につながる可能性が高いと報告されています。こうした知見をもとに、現在のガイドラインでもステージIIに対する集学的治療の有効性が強調されています。

進行期および末期(ステージIIIおよびIV)

ステージIII~IVと診断される胃がんは、すでに胃壁を深く浸潤し、周辺組織や遠隔臓器に転移が及んでいることが多いため、根治をめざす治療が困難な場合が増えます。完全な治癒が期待しにくくなる一方、化学療法放射線療法、あるいは免疫療法の併用により、症状緩和や生存期間の延長を図ることは可能です。特に近年は免疫チェックポイント阻害薬などの分子標的治療薬が開発されており、一部の患者では従来の化学療法単独に比べて治療効果が上がることが示唆されています。

たとえば免疫療法に関しては、PD-1やPD-L1を標的とした薬剤が承認されており、末期症例であっても一定の腫瘍縮小効果や病状コントロールが得られる可能性があります。ただし、免疫療法は有効性に個人差が大きく、事前のバイオマーカー検査や専門医による評価が必要です。治療目的としては根治ではなく延命症状緩和が主になることが多いですが、近年の研究(例:日本国内を含む多国籍研究の一部結果として、NCCN Guidelines [Version 1.2023] など)では、一部の患者では腫瘍縮小後の再評価で手術適応が検討される場合もあるとされ、積極的に取り組む意義は依然として大きいと考えられます。

治療への反応と治癒の可能性

胃がんの治療方針は、患者がどの程度治療に反応するかによって最終的な転帰が大きく変わります。医師は、診断された進行度や腫瘍の種類、患者の全身状態を踏まえて治療計画を立案します。体力や他の合併症の有無など個人差が大きいため、必ずしも同じステージの患者であっても同一の治療方針になるわけではありません。ここでは代表的な治療法を挙げ、それぞれの概要とポイントを整理します。

手術

胃がんが局所にとどまっている場合、あるいはリンパ節転移が限定的な場合は、手術による根治的切除が可能であれば治癒が期待できます。早期段階ならば胃の部分切除や内視鏡的切除が選択され、患者への負担も比較的軽く済むケースが多いです。ただし、ステージIII以上で広範囲に浸潤や転移がある場合、根治切除は技術的にも難しい上に、手術後の合併症リスクも高くなります。進行期でも、症状改善(止血や通過障害の改善など)生活の質の向上を目的として姑息的手術が行われることがあります。

さらに日本では、リンパ節郭清の技術水準が高いこともあり、D2郭清(広範囲リンパ節郭清)を行うことで再発リスクを下げる戦略が一般的に行われています。D2郭清は欧米に比べると手術時間や侵襲が大きくなる可能性がありますが、長期的な生存率の向上や局所再発の抑制を見込めるというデータが蓄積されてきました。

化学療法

手術単独では再発リスクを抑えきれない場合や、進行期で手術適応を検討する前後には、化学療法(抗がん剤)が併用されることが多くあります。日本で頻用されるレジメンとしては、S-1やカペシタビン、オキサリプラチンなどを組み合わせた治療が代表的です。術前化学療法(ネオアジュバント療法)により腫瘍を縮小させてから切除率を上げる戦略や、術後化学療法(アジュバント療法)で微小転移を抑え再発を防止する戦略が一般的に行われます。

近年では、分子標的薬(HER2を標的としたトラスツズマブなど)を含むレジメンも開発が進んでおり、特にHER2陽性胃がんには従来の化学療法+分子標的薬の組み合わせが予後改善に寄与することが明らかになっています。実際に、2020年以降に発表された複数の臨床試験データによると、HER2陽性患者に対してはトラスツズマブ併用療法を取り入れることで生存期間の延長に一定の貢献があると報告されています。

放射線療法

放射線療法は、欧米では食道がんや大腸がんなどで積極的に使われる一方、胃がんにおいては局所進行が著しい場合や他の治療法と組み合わせる形で検討されることが多い治療手段です。日本では手術や化学療法を中心とした戦略が主体であり、放射線療法は症状緩和や出血コントロール、あるいは骨転移の痛み対策などの目的で行われる例が多いです。ただし、個々の症例によっては治療効果の最大化を狙って放射線療法を併用する場合もあり、担当医と十分に相談して治療計画を立てることが重要です。

免疫療法

近年注目を集めている免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞が免疫細胞の攻撃を逃れる仕組みを阻害することでがん細胞を排除しようとする治療薬です。PD-1やPD-L1を標的とする薬剤(ニボルマブやペムブロリズマブなど)が先進医療として実用化され、胃がん治療でも一部の患者に投与されています。特に再発や転移が進んだ患者でも、腫瘍縮小や病状コントロールが得られる可能性があるため、従来の化学療法と組み合わせることで生存期間の延長を期待できるケースがあります。ただし、

  • 投与後に重篤な免疫関連副作用(肺炎、肝機能障害など)が起きる可能性がある
  • 有効率が患者のバイオマーカー(PD-L1発現など)によって変動する

といった点で注意を要し、治療対象の選別や実施期間の設定には専門医の判断が欠かせません。

胃がんの早期発見と検診の重要性

前述のように、胃がんは早期であればあるほど治癒の可能性が高まりますが、問題は初期症状がわかりにくいことです。日本では40代以降から胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)を定期的に受ける人が増えていますが、なお年齢や地域によっては受診率に偏りがあります。以下に、早期発見のために推奨される検診方法や、受診時に注意すべきポイントを整理します。

  • 定期的な内視鏡検査の受診
    胃がんリスクが高いとされる40代後半以降や、ピロリ菌の既感染・現感染が疑われる人は、1〜2年に一度は上部消化管内視鏡検査を受けることが推奨されます。バリウム検査(胃透視)と比較すると、内視鏡検査のほうが精密な観察が可能で、病変のごく早期段階から把握できるとされています。
  • ピロリ菌感染の有無の確認
    ヘリコバクター・ピロリ菌に感染すると慢性胃炎や胃潰瘍を経て胃がんリスクが上昇することが広く知られています。検査で感染が確認された場合、除菌療法を行うことで胃がん発症リスクをある程度低減できる可能性があります。
  • 生活習慣の見直し
    塩分の過剰摂取や喫煙、大量飲酒などは胃がんのリスクを上昇させる要因とされています。野菜や果物を十分に摂り、喫煙や過度の飲酒を避けることが推奨されています。

実際に日本国内を含むアジア各国では、ピロリ菌の感染率が比較的高い地域で胃がん発症率が高いという疫学的データも存在します。さらに、2022年に報告された複数の研究では、内視鏡検診の受診率向上によって胃がんによる死亡率が有意に低下した地域があることが示されています。こうした結果は、生活習慣改善と定期的な内視鏡検査の併用が早期発見や予防に寄与する可能性を強調する材料といえます。

先進治療と再発予防

胃がんの治療法は日進月歩で進化しており、新しい抗がん剤や手術手技、免疫療法、遺伝子解析を活用した個別化医療など、さまざまなアプローチが研究・実用化されています。特に再発予防策としては、術後に長期的な経過観察と適宜の補助療法を組み合わせることが肝要です。たとえば術後3〜5年は定期的にCT検査や内視鏡検査を行い、再発リスクに応じて追加の化学療法や放射線療法が考慮されるケースもあります。

最近は、患者自身のがん組織や血液検査から得られる遺伝子情報をもとに、よりターゲットを絞った分子標的薬を選択するプレシジョン・メディシン(個別化医療)の考え方が進んでいます。これは患者個々人のがんの特徴を調べ、最も効果が期待できる薬剤や治療順序を選ぶというもので、副作用の軽減治療効果の最大化をめざす点に特徴があります。

結論と提言

胃がんの治療可能性を左右する最大の要素は、発見のタイミング適切な治療方針の選択です。日本では内視鏡技術やリンパ節郭清技術が世界的にも高い水準にあり、早期に診断されれば内視鏡的切除や外科的切除による根治が期待できます。ステージII〜IIIであっても、術前・術後の化学療法や分子標的薬を併用することで、長期生存や再発リスク低減を目指す治療戦略が確立されつつあります。ステージIVなど末期段階の進行胃がんであっても、免疫療法などの先進的治療が選択肢に加わったことで、延命や症状緩和の可能性が高まっています。

生活習慣の改善と定期検診

  • 塩分控えめの食事や禁煙の励行
  • 適度な運動と過度な飲酒の回避
  • 定期的な内視鏡検査

上記のような取り組みは、がんリスクを下げるだけでなく、高血圧や肥満など他の生活習慣病の予防にも役立ちます。胃がんの場合、初期に発見できれば負担の少ない治療で済むことが多いため、各自治体や医療機関が行っている検診制度を積極的に活用しましょう。

先進医療の活用

近年の研究成果や治療ガイドラインの更新情報を踏まえると、従来の術前・術後化学療法に加えて、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などの新たな選択肢が拡大しています。遺伝子検査やバイオマーカー検査を行うことで効果が期待できる薬剤を的確に選び、患者ごとに最適化された治療を行うことが今後さらに重要になります。

専門家への受診のすすめ

胃の不調が続く、体重減少や食欲不振が長引く、吐き気や嘔吐が起こるなど、少しでも気になる症状がある場合には消化器内科や内視鏡専門医を早急に受診することが大切です。早期診断・早期治療が原則ですが、進行してしまった場合でも医師と相談しながら最適な治療を受けることで、少しでも長く健やかな生活を送る可能性を追求できます。

注意喚起と免責事項

本記事で扱った情報は、国際的・国内的に信頼性の高い医療機関や研究による知見に基づいていますが、一般的な情報提供を目的としたものであり、医学的助言の提供や診断の代替を意図するものではありません。実際の治療にあたっては、症状や病状が一人ひとり異なるため、必ず専門医と相談のうえ、個別の治療方針を決定してください。また、本記事は最新の研究結果やガイドラインに基づいて記載していますが、医療情報は日々更新されており、施設や医師によって推奨される治療内容が異なることがあります。定期的に新しい情報を確認することをおすすめします。

参考文献

上記のように、胃がんについては国内外から多くの知見が報告されており、特に最近では新たな治療選択肢が広がりつつあります。常に最新の情報を取り入れながら、適切な治療を選択・実施していくことが重要です。少しでも気になる症状があれば早めに専門医へ相談し、定期的な検査を受けながら健康状態を確認することが、将来にわたって安心できる生活につながると考えられます。

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