はじめに
「胃はどこにあり、どのような働きを担っているのか」「胃に起こりやすい病気や、その予防策は何か」―こういった疑問を持つ方は多いでしょう。胃は食べ物を消化する重要な役割を果たす臓器ですが、実際にどの位置にあり、構造がどうなっているかを把握していないと、胃の痛みなどが生じたときに原因や対処法がわからず不安になりがちです。本記事では、胃の解剖学的な位置や機能、考えられる主な病気、そして日々の生活の中でできる予防策について詳しく解説します。胃に関する知識を深めることで、胃痛や不調の原因を早期にとらえ、専門的な検査や治療を受けるタイミングを逃さずに済む可能性が高まります。さらに、胃を健康に保つために気をつけるべき生活習慣のポイントも併せてご紹介します。
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胃はどこにあるのか?――解剖学的な位置と構造
胃の位置
胃(日本語で「い」と呼ばれることも多い)は消化管の一部で、一般的にアルファベットの「J」の形状をしている臓器です。腹部の左上方に位置し、肝臓のすぐ下あたりから始まり、左側の脾臓(ひ臓)に近いところまで広がっています。具体的には、食道と小腸(十二指腸)との間にある構造で、上部には食道下部にある噴門(下部食道括約筋とも呼ばれる弁)を介して食道とつながり、下部には幽門(ゆうもん)括約筋を介して小腸の最初の部分である十二指腸へとつながっています。
胃を構成する5つの区分
解剖学的には、胃は以下の5つの部位に分けられ、それぞれが異なる機能を担っています。
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噴門(ふんもん)
胃の最上部に当たる部分で、食道の下端にある噴門括約筋(下部食道括約筋)によって食道と仕切られています。食べ物が胃に入る際にはこの括約筋が開き、食べ物が通過した後に再び閉じることで、胃酸や食べ物が逆流しないように働きます。 -
胃底(いそこ)
噴門のすぐ隣、横隔膜の下に位置する最上部の膨らんだ領域です。多くの場合、空気を含むことが多く、大量に食べ物を摂取した場合などを除いて、食塊そのものがここに長く留まることはあまりありません。 -
胃体(いたい)
胃の中央部分で、最も大きく膨らんだ領域です。食べ物をしっかり溜め込み、胃酸や消化酵素と混ぜ合わせ、さらに筋層の収縮運動によって食塊を攪拌する中心的な部位です。 -
前庭部(ぜんていぶ)
一般的に「幽門前庭部」あるいは「胃前庭」と呼ばれます。胃体よりも下に位置し、食べ物が十二指腸へ送られるタイミングを整える重要なポイントです。 -
幽門部(ゆうもんぶ)
胃の最下部で、幽門括約筋を含む領域です。十二指腸へと内容物を排出する速度とタイミングをコントロールしています。
なお、しばしば医療現場や解剖学書では、前庭部を「胃前庭」、幽門部を「幽門管」などと呼ぶ場合がありますが、基本的にはいずれも胃の下部に位置しており、次の十二指腸へ胃内容物を送る最終段階の役割を担います。
胃の主な機能――なぜ胃は重要なのか
胃の最大の役割は「食べ物の一次的な消化」です。口で噛み砕かれた食べ物が胃に到達すると、胃は胃酸(塩酸)や消化酵素(ペプシンなど)を分泌し、さらに強力な筋層の収縮によって攪拌(かくはん)することで、食べ物を液状化に近い状態へと変えます。これが消化管全体の働きの中で非常に重要です。胃が担う主な役割を挙げると、以下の3点となります。
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食べ物の一時的な貯蔵
食べたものをいったん溜め、ゆっくり消化していくうえで必要なリズムを作る役割があります。これは胃が大きく膨らむ機能を持っているからこそ可能になります。 -
消化酵素・酸の分泌
胃粘膜からは強酸性の胃酸(塩酸)やペプシンなどの酵素が分泌されます。胃酸は多くの細菌を殺菌する効果もあり、食べ物に含まれる微生物の多くを不活化します。 -
攪拌と消化の促進
胃壁の平滑筋が連続的に収縮することで食べ物と消化液が混ぜ合わされ、半液状の「粥状(じゅくじょう)」(英語でchymeとも呼ばれる)へと変化します。食べ物がこの粥状になることで、後に続く小腸での消化・吸収がより効率的に進みます。
食べ物はおよそ2〜3時間かけて胃で一次処理を受け、その後、幽門から小腸(十二指腸)へ送られます。小腸に入ってからはさらに細かく栄養素が分解・吸収されるわけですが、胃での処理段階が十分に行われないと、小腸や大腸に負担がかかり、さまざまな症状を招く可能性があります。
胃に起こりやすい主な病気
胃が果たす役割は非常に重要ですが、同時にストレスや飲食習慣、細菌感染などによってさまざまな疾患が発症しやすい器官でもあります。ここでは代表的な胃の病気を解説します。
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胃潰瘍
胃の粘膜が傷つき、欠損(潰瘍)が生じる状態です。ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)感染、鎮痛薬(NSAIDs)などの常用、過度なストレスなどが原因となることが多く、強い腹痛や胃出血を起こすこともあります。 -
胃炎
胃粘膜が炎症を起こしている状態を総称して「胃炎」と呼びます。急性胃炎と慢性胃炎があり、急性胃炎は暴飲暴食や薬剤、副作用などが原因となりやすく、慢性胃炎はピロリ菌感染や長年の不規則な生活習慣が関与していることが多いとされています。 -
胃食道逆流症(GERD)
胃の内容物や胃酸が食道に逆流する状態です。通常、食道下部の括約筋が逆流を防ぐ役割を担っているのですが、この機能が低下していたり腹圧が高まったりすると、酸性の胃内容物が食道へ逆流し、胸やけ、呑酸(どんさん)などの症状を引き起こします。 -
胃瘻(いろう)の原因となる胃の運動障害
「胃無力症」や「胃運動機能低下」とも関連します。糖尿病や神経性障害などによって胃の筋層がうまく収縮せず、胃の排出が遅れる病態を「胃瘻」と呼ぶことがあります。悪心・嘔吐が続くなど、患者のQOL(生活の質)を下げる要因となります。 -
機能性ディスペプシア(機能性胃腸障害)
検査で潰瘍や明らかな炎症が見つからないにもかかわらず、上腹部痛、胃もたれ、早期飽満感などの不快症状が持続する状態を指します。ストレスや自律神経の乱れが関係すると考えられています。 -
胃潰瘍と十二指腸潰瘍
胃だけでなく、十二指腸にも潰瘍ができる場合があります。総称して「消化性潰瘍」と呼ばれることも多く、ピロリ菌感染などが主な原因のひとつです。 -
胃がん
胃にできる悪性腫瘍の総称です。日本ではかつて罹患率が高いがんのひとつとして知られていましたが、近年はピロリ菌除菌の普及や食生活の変化により徐々に減少傾向にあるとも報告されています。主に腺がん(腺癌)とリンパ腫が多く見られます。 -
Zollinger-Ellison症候群(ZES)
非常にまれな疾患ですが、胃酸分泌を過剰に刺激するホルモンを分泌する腫瘍(ガストリノーマなど)が原因で重度の胃潰瘍や小腸潰瘍を引き起こします。 -
胃静脈瘤
肝硬変などの重度の肝臓病がある患者では、門脈圧亢進に伴って食道静脈瘤だけでなく胃静脈瘤が形成されることがあります。出血のリスクがあり、緊急処置が必要になる場合もあります。 -
胃出血(上部消化管出血)
胃潰瘍や胃炎、胃がんなどにより粘膜がただれたり破綻したりすると、上部消化管出血を起こすことがあります。吐血や黒色便として症状に表れることが多く、放置すると貧血やショック状態に陥るリスクがあります。
最近の研究動向
近年(2020年以降)、胃の病気に関する研究では、胃酸分泌抑制薬(プロトンポンプ阻害薬:PPI)の長期使用と感染症リスクや胃がんなどのリスクとの関連に着目した報告も複数あります。たとえば、2021年にThe American Journal of Gastroenterologyで発表された研究(DOI:10.14309/ajg.0000000000001039)では、PPIと新型ウイルス感染症(COVID-19)リスクの関連が調査され、免疫機能との関係が議論されました。このようなテーマは引き続き注目を集めており、日本国内においても類似の研究やガイドライン改訂が進められています。
また、2020年にBMJで発表された機能性ディスペプシアに関する大規模研究(doi:10.1136/bmj.m3700)でも、機能性胃腸障害の発症には心理的ストレスや食習慣、ピロリ菌感染、腸内環境の乱れなど多因子が重なり合うことが指摘され、生活習慣やメンタルケアの重要性が再認識されています。これらの研究結果は日本国内の医療機関でも注目されており、胃痛や胃の不調の原因が一つではないことを示す重要な証拠となっています。
胃を健康に保つためのポイント
胃の病気や不快感を予防・軽減するには、日頃から生活習慣や食習慣に注意を払い、胃に優しい環境を整えることが大切です。以下に、具体的な対策の例を挙げます。
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ゆっくり食べ、よく噛む
大きなかたまりのまま食べ物を飲み込むと、胃に大きな負担がかかります。噛む回数を増やし、唾液としっかり混ぜてから飲み込むことで、胃はスムーズに消化を進めやすくなります。 -
十分な食物繊維を摂取する
一般的に1日あたり25〜35gの食物繊維摂取が推奨されることがあります。野菜、果物、海藻、きのこ、全粒穀物など多様な食品から繊維を取り入れることで、腸内環境が整い、胃腸の動きも良くなるとされています。 -
十分な水分補給
水分を不足なく摂ることで、食べ物が胃から腸へ円滑に移動しやすくなります。ただし、一度に大量に飲むのではなく、こまめに分けて摂取することが望ましいです。 -
アルコール・カフェインの過剰摂取を控える
アルコールやカフェインは胃粘膜を刺激し、胃酸分泌を過剰にさせる可能性があります。胃もたれや胃酸逆流のリスクを高める要因となるため、適量の範囲を守りましょう。 -
加工食品の摂取を控える
高脂質・高塩分の加工食品は胃腸全体に負担をかけることが多いと指摘されています。加工肉やスナック菓子の過剰摂取は避け、新鮮な野菜や果物、良質なタンパク源などバランスの良い食生活を心がけることが重要です。 -
定期的な運動習慣
ウォーキングや軽いジョギングなどの有酸素運動、あるいは筋肉をほぐすストレッチやヨガなども、胃腸の運動機能を高め、消化を助けるという報告があります。日本人を対象にした一部の観察研究でも、適度な運動が胃の不快症状リスクを減らす可能性が示唆されています。 -
ストレス管理
ストレスは自律神経を乱し、胃酸分泌や胃の運動機能にも影響を及ぼすといわれています。適度な休息や睡眠、ヨガや瞑想、呼吸法などを取り入れ、精神的な緊張をほぐす工夫が重要です。 -
喫煙しない
タバコに含まれるニコチンは血管を収縮させ、胃粘膜の血流を悪化させるだけでなく、胃酸分泌を高めるなどの弊害が報告されています。喫煙習慣がある方は禁煙を検討することが望ましいです。
これらの生活習慣改善策によって、胃への負担を減らし、さまざまな胃の病気を防ぐ可能性が高まります。ただし、すでに慢性の胃の症状がある場合や、痛みや出血が疑われる場合は、必ず医療機関を受診してください。
国内外の最新研究を踏まえた補足
日本を含むアジア圏では、ピロリ菌感染率が欧米に比べて高い地域があることが知られています。2020年にAnnals of Gastroenterologyで公表されたシステマティックレビュー(doi:10.20524/aog.2020.0497)によると、アジアの一部地域におけるピロリ菌感染率は依然として高く、慢性胃炎や胃がんリスクへの影響が指摘されました。一方で、日本ではピロリ菌除菌療法の普及などにより感染率自体は低下傾向にあるとされますが、除菌後の再感染を防ぐためにも継続的な生活習慣改善や定期検査が重要とされています。
さらに、2020年以降にBMJやLancetなどで発表された研究では、食物繊維の摂取増や腸内細菌叢の改善が胃・腸全体の炎症抑制に寄与する可能性が示唆されており、野菜・果物・発酵食品をバランスよく取り入れる食生活の推奨が強調されています。日本における発酵食品は味噌・納豆・醤油などが代表的ですが、胃腸が敏感な方は塩分や刺激の少ない形で摂取する工夫が望まれます。
胃の症状を感じたときに注意すべきサイン
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急激な胃痛と吐血、黒色便
上部消化管出血が疑われるサインです。胃潰瘍や胃がんによる出血の可能性もあり、緊急を要する場合があります。 -
定期的な胸やけ・呑酸
食道への胃酸逆流が習慣化している可能性があり、胃食道逆流症(GERD)の疑いがあります。放置すると食道炎を悪化させることもあります。 -
慢性的な胃もたれ、食後の不快感
消化不良や機能性ディスペプシア、ピロリ菌感染などの可能性があるため、内視鏡検査などを受けることで原因を特定できます。 -
体重減少と胃の痛み
食欲不振による単なる体重減少だけでなく、悪性疾患(胃がんなど)の可能性を排除するためにも、専門医の診察が必要となることがあります。
これらの症状が持続・悪化する場合は、早めに内科や消化器内科を受診しましょう。バリウム検査や内視鏡検査(胃カメラ)などの方法で、胃の粘膜や構造を直接確認することが可能です。
結論と提言
胃は食物を一時的に貯蔵し、強力な胃酸と酵素で消化を促し、さらに筋肉の働きでよくかき混ぜることで小腸での吸収効率を高める非常に重要な臓器です。その一方で、ピロリ菌感染、不健康な食生活、ストレス、薬剤など多様な要因によって胃のトラブルが起こりやすいことも事実です。胃炎や胃潰瘍、胃食道逆流症など、適切なケアや治療をしなければ深刻な症状を引き起こす可能性があります。
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胃の位置を理解し、役割を知ること
自身の胃がどのあたりにあり、どのような機能を果たしているかを理解することで、症状に気づきやすくなります。 -
生活習慣の改善
食事はゆっくりよく噛む、食物繊維を十分に取る、アルコールやカフェインの過剰摂取を避けるなど、胃に負担をかけにくい食習慣を身につけることが重要です。また、適度な運動とストレス管理も不可欠です。 -
定期的な検査
ピロリ菌感染の有無をチェックし、陽性の場合は医師と相談したうえで除菌治療を検討しましょう。さらに、胃痛や胸やけなどの症状が続く場合や、体重減少や吐血など重い症状が疑われるときは、早めに医療機関を受診して内視鏡検査などを受けることを推奨します。 -
症状が進む前に専門家へ相談
胃痛や胸やけを「よくあること」と放置してしまう人もいますが、痛みの原因にはさまざまな疾患が隠れている可能性があります。長期的に症状を放っておくと治療に時間がかかることもありますので、早期の専門的対応を心がけましょう。
以上のように、胃の解剖学的な位置・機能を理解し、日々の生活習慣を見直すことで、胃を健康に維持しやすくなります。症状の悪化を防ぎ、深刻な病気の早期発見にもつながりますので、気になる症状があれば早めに専門家へ相談するようにしましょう。
参考文献
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免責事項
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以上の内容を踏まえ、胃に関する正しい知識を身につけ、健康的な食生活と適切な生活習慣を続けることで、胃のトラブルを未然に防ぎやすくなります。万が一、胃痛や胸やけ、吐き気、体重減少などの症状が持続・悪化する場合は、早めの受診をおすすめします。日頃からのケアと定期的な検査で、安心して暮らせる日々を送っていきましょう。