はじめに
胃の不調が長引くと、日常生活に大きな影響を及ぼしかねません。その中でも、胃の粘膜に潰瘍(かいよう)や炎症が生じる「胃潰瘍」や「胃炎」は、放置すると症状が慢性化して治りにくくなるおそれがあります。そこで本稿では、比較的軽度な段階の「胃潰瘍・胃炎」のケアとして、自宅で行えるいくつかの方法や日々の注意点を詳しくご紹介します。どのような生活習慣や食事を心がければよいのか、また民間的に用いられてきた植物由来のケア方法にはどのような根拠があるのか――これらを総合的に解説していきます。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
本記事では、胃の痛みや不快感の原因として多いピロリ菌(Helicobacter pylori)との関連、日常生活の中でできる食事や習慣の見直し、伝統的に使われてきた生薬・ハーブなどに基づくケア方法を含めて紹介します。また、日本国内での一般的な生活習慣や食文化をふまえ、どのように活用するとより効果的かについても掘り下げていきます。さらに、近年(直近4年ほど)に発表された国際的に権威のある医学誌の研究結果もあわせて取り上げることで、より説得力のある情報を提供し、読者の方がご自身の健康管理に活かせるよう構成しています。
なお、本稿で紹介する方法はあくまで参考情報です。胃痛や潰瘍の度合いは人によって異なり、他の病状も併発している可能性があります。症状の程度が重かったり、吐血や下血(黒色便)のような出血を伴う場合は、速やかに医療機関を受診してください。
専門家への相談
本記事で示す情報は、医療機関や専門家の診療・治療を代替するものではありません。特に、高齢者や妊娠中・授乳中の方、基礎疾患がある方は、ここで紹介する方法を実践する前に医師や薬剤師に相談することが推奨されます。なお、ここで取り上げている内容は、医療機関で消化器内科を担当しているBác sĩ Nguyễn Thường Hanh(ベトナム語表記の氏名で、内科・内科総合診療を専門とする医師)が過去に監修・助言した情報を含んでいます。とはいえ、あらゆる患者さんに当てはまるわけではありませんので、実践前にはかならず各自で専門家と相談のうえ安全性を確認してください。
胃潰瘍・胃炎(いわゆる「痛い・しみる胃痛」)とは?
胃の粘膜が傷つくメカニズム
一般的に「胃潰瘍」や「胃炎」といわれる病態は、胃酸や消化酵素が過剰に分泌されたり、胃を保護する粘液分泌量が低下したり、あるいはピロリ菌(Helicobacter pylori)に感染することなどが引き金となり、胃の粘膜が炎症を起こしてしまう状態です。粘膜に亀裂や潰瘍ができると、上腹部(みぞおち付近)に鋭い痛みや灼熱感が生じることが多く、食後や早朝など時間帯によって痛みが強まるケースもあります。
なお、胃潰瘍や胃炎を放置すると、繰り返す出血・穿孔(胃に穴が開く)・瘢痕化による消化管狭窄、さらには胃がんリスクの上昇など重篤な状態を招くおそれがあるため、早めのケアや医療機関での診察が重要です。
ピロリ菌(Helicobacter pylori)の存在
胃炎・胃潰瘍の主要原因として挙げられるのが、ピロリ菌の感染です。日本人の胃潰瘍患者の一定割合が、この菌に起因するといわれています。ピロリ菌は胃酸に強く、長期間胃内に留まることで粘膜を刺激・破壊し、潰瘍の引き金になると報告されています。
実際、ピロリ菌を除去(除菌)する治療を行うと、胃潰瘍の再発が大幅に減ることが分かっています。2021年に発表されたアメリカ消化器病学会(ACG)のガイドラインでも、ピロリ菌陽性患者に対する除菌療法が再発予防の鍵と明記されています1。除菌療法には複数の抗菌薬とプロトンポンプ阻害薬(PPI)を組み合わせる方法などがあり、一度の治療では除菌率が不十分な場合に再治療を行う場合もあります。
参考になる最近の研究
- Chey WD, Leontiadis GI, Howden CW, Moss SF (2021)
“ACG Clinical Guideline: Treatment of Helicobacter pylori Infection,” The American Journal of Gastroenterology, 116(6): 1236–1247, doi:10.14309/ajg.0000000000001245
このガイドラインは、米国で行われるピロリ菌の除菌治療について比較的大規模なエビデンスをまとめたもので、日本国内においても一部内容を参照できると考えられます。ただし、使用できる薬剤や保険適用は国によって異なるため、国内ガイドラインと併用して専門家に相談することが大切です。
胃潰瘍・胃炎の症状と原因
主な症状
- みぞおち周辺の痛み、焼けるような灼熱感
- 空腹時や就寝前、早朝に痛みが強くなる場合がある
- 吐き気、嘔吐、食欲不振
- 腹部膨満感、げっぷ、胃もたれ
- 黒色便(タール便)や吐血(出血があるとき)
軽度の場合は、ただの胃もたれや時々の胸やけ程度で済むこともあります。しかし、症状が強い場合や長期に及ぶ場合は、医師の診察を受ける必要があります。
主な原因
- ピロリ菌感染: 胃粘膜を持続的に刺激し、潰瘍発生リスクを大幅に高める
- 薬剤性(NSAIDsなど): アスピリンやイブプロフェンなどのNSAIDsを長期にわたって服用すると、胃粘膜が損傷しやすくなる
- ストレス・喫煙・飲酒: 胃酸分泌を高めたり、粘膜保護機能を低下させる
- 食習慣の乱れ: 香辛料や酸味の強い食品を過剰に摂取し続けたり、長時間空腹状態を放置するなど
さらに、2021年にランセット誌で報告された総説2によると、ピロリ菌の世界的な蔓延と抗生物質耐性の増加は、胃潰瘍・胃炎対策の長期的課題として位置づけられています。除菌治療が難しくなればなるほど、再発リスクが残り、慢性化しやすい点に注意が必要です。
参考研究
- Ford AC, Mahadeva S, Carballo F, Xiao SD (2021)
“Helicobacter pylori infection,” The Lancet, 397(10277): 1368–1379, doi:10.1016/S0140-6736(21)00394-2
自宅でのケアの基本:食事・生活習慣を整える
ここからは、比較的軽度の胃潰瘍や胃炎をケアするときに、自宅で取り組める方法を中心に紹介します。ただし、繰り返しになりますが、激しい痛みや出血症状がある場合は、自己判断せず専門医に相談してください。
食事のポイント
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高繊維・ビタミン・フラボノイドを意識する
新鮮な野菜や果物、全粒穀物、海藻類をバランスよく取り入れましょう。ビタミンAや食物繊維、ポリフェノール類(フラボノイド)は胃粘膜の修復と保護に寄与すると考えられています。 -
ほどほどにお茶を活用
緑茶やウーロン茶、紅茶などには抗酸化物質が含まれており、ピロリ菌の増殖を抑制する可能性が指摘されています。ただし、カフェインが多量に含まれる場合もあるので、飲み過ぎは逆効果になることもあります。 -
コーヒーやアルコールの過剰摂取を控える
コーヒーはカフェイン以外の成分も含めて胃酸の分泌を促す傾向があります。アルコールは胃粘膜を直接刺激して保護層を傷つけるリスクがありますので、摂取量を極力控えめにするとよいでしょう。 -
刺激物を控える
辛味や酸味が強い食品は、軽度の潰瘍でも痛みや不快感を助長しやすいため、回復期には控えるのが無難です。 -
食事のタイミングを安定させる
長時間空腹のまま放置すると、胃酸が過剰に分泌されて胃壁が傷つきやすくなります。1日3食を決まった時間にとる、あるいは少量をこまめにとるなど、自分に合ったパターンを継続することが大切です。
参考情報
- Stomach Ulcer Diet (アクセス日: 2022年2月13日)
生活習慣の見直し
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ストレスコントロール
ストレスホルモンの増加は、胃酸の分泌バランスや粘膜防御機能の低下に影響を与えるとされています。適度な運動や十分な休養、趣味の時間を確保するなど、自分なりのリラックス法を意識的に取り入れましょう。 -
喫煙を避ける
喫煙は血管収縮を引き起こし、胃粘膜への血流を悪化させるだけでなく、胃酸分泌を増やし、胃粘膜の修復を遅らせる原因ともなります。長期的な観点からも禁煙は非常に重要です。 -
NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)の使用に注意
アスピリンやイブプロフェンなどのNSAIDsを慢性的に使用している場合、胃潰瘍のリスクが高まります。もし痛み止めなどを頻繁に使う必要がある方は、医師に相談して胃保護薬を併用する、あるいは代替薬を検討してもらうとよいでしょう。 -
適度な運動
ウォーキングや軽い体操などは、ストレス軽減や血行改善につながり、胃の働きをサポートします。ただし、極端な運動はかえって胃に負担をかけることがあるため、ほどほどの有酸素運動がおすすめです。
参考情報
- Smoking and the pathogenesis of gastroduodenal ulcer–recent mechanistic update (アクセス日: 2022年2月13日)
自宅でのケア:民間薬・生薬の活用
以下では、比較的軽度の症状を対象に、民間薬として古くから用いられてきた植物や生薬の例を取り上げます。いずれも重篤症状には対処できない可能性があるため、症状の悪化が疑われる場合は必ず医療機関を受診してください。
ウコン(ターメリック)とハチミツ
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特徴
ウコンに含まれるクルクミン(curcumin)は抗炎症作用や抗酸化作用があるとされ、ハチミツには抗菌作用や傷の修復を促す成分が含まれています。両者を組み合わせることで、胃粘膜の保護をサポートすると期待されています。 -
方法
1日あたりティースプーン1杯程度のウコン(またはウコン粉末)と、大さじ1杯ほどのハチミツをぬるま湯に溶かして飲む方法がよく紹介されています。空腹時よりは食間や食後30分程度を目安に摂ると、刺激が緩和されやすいともいわれます。 -
関連する研究
2020年以降、クルクミンの胃粘膜保護作用を扱った論文が複数報告されていますが、まだ臨床段階が限られている研究もあります。大規模なランダム化比較試験が少ないため、効果は個人差があると認識する必要があります。
チェーディン(Ampelopsis Cantoniensis)
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特徴
日本ではあまり馴染みがないかもしれませんが、ベトナムや一部のアジア地域で胃炎や胃潰瘍の緩和に使われるという報告があります。胃酸の分泌を抑える作用やピロリ菌を抑制する可能性が示唆されています。 -
方法
全草(つるや葉)を乾燥させ、1日30~50gを目安に煎じて飲用します。ただし、長期的な飲用に関しては十分な臨床研究が少ないため、定期的に休薬期間を挟む、あるいは他の食材との相互作用を注意しておくことが望ましいでしょう。
ダーカム(Cây dạ cẩm)
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特徴
ベトナムの伝統医学では、ダーカムという植物が胃の熱を取って痛みを和らげるとされています。やや苦味のあるハーブで、粘膜の炎症を抑える効果が期待されます。 -
方法
乾燥させた葉や茎を1回あたり20~25gほど、水1リットルで煮出し、1日3回に分けて飲用するのが一般的な用法です。飲みにくい場合はハチミツなどで甘みを加えることも可能です。
参考情報
- Cây dạ cẩm và hiệu quả điều trị bệnh viêm dạ dày (アクセス日: 2022年2月13日)
アロエ(アロエベラ)
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特徴
アロエにはビタミンB群、ビタミンC、ビタミンEや食物繊維が豊富に含まれており、消化機能をサポートする働きがあるといわれます。また、一部のグリコタンパク質が胃酸の分泌を抑え、粘膜の修復を助ける可能性があるとされています。 -
方法
生のアロエベラを用意し、葉の皮をむいてゲル状の部分をミキサーにかけ、水や少量のハチミツを加えて飲みます。便をやわらかくする作用が強いため、連日続けると下痢気味になることもあり、2~3日連続で摂取したら数日休むなど調整するとよいでしょう。
参考情報
コメヒデグサ(いわゆる「草墨(そうぼく)」「ニョホウ」:日本名では「ヨモギ類」と混同しないよう注意)
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特徴
本稿では「cỏ mực(コーミック)」と呼ばれるベトナムや東南アジア圏の植物として紹介されています。日本のヨモギとは異なる種類ですが、炎症を和らげ、出血を抑制し、粘膜を保護する民間療法が伝わります。胃の不調を感じた際、煎じ汁を飲む習慣が一部地域にあります。 -
方法
根や茎を水洗いして泥や雑菌を落とし、軽く塩水につけて殺菌します。その後ミキサーなどで細かくし、絞り汁を数回に分けて空腹時に飲む方法が伝統的に用いられています。ただし、植物成分の濃度や衛生管理が不十分だと下痢や吐き気を引き起こす可能性があるため注意しましょう。
自宅ケアを行う際の注意点
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症状が軽度の場合に限る
ここで紹介した食事や生薬によるセルフケアは、あくまで軽度の痛みや不快感を緩和する補助的な方法です。みぞおちの痛みが非常に強い、吐血や黒色便が見られる、食欲不振が著しいなどの症状がある場合は、自己判断をせず医療機関で検査を受けましょう。 -
継続しながら様子をみる
民間療法や栄養補助食品は即効性があるとは限りません。1~2週間程度続けても症状が変わらない、もしくは悪化している場合は、専門医による診断と治療が必要です。 -
個人差に留意
同じ食事や生薬でも、体質や背景疾患によって効き方が違います。特に高齢者、妊娠中・授乳中の方、薬剤を常用している方は飲み合わせや副作用を十分に考慮してください。 -
再発防止のためのピロリ菌検査や生活習慣改善
ピロリ菌感染による胃潰瘍は、除菌治療を行わない限り再発リスクが高まります。症状が改善しても、生活習慣を見直し、定期的に胃の検査を受けることが再発予防の大きなポイントです。
結論と提言
胃潰瘍や胃炎は、食事や生活習慣、あるいはピロリ菌感染、NSAIDsなど多様な要因が絡み合って起こります。軽度であれば、野菜や果物中心のバランス良い食事、ストレスや喫煙などの見直し、ウコンやアロエといった生薬的なサポートなど、自宅でのケアが一定の効果をもたらすケースもあります。とくにピロリ菌が原因とされる場合、除菌治療が有効であることが多く、適切な抗生物質やプロトンポンプ阻害薬の使用によって再発予防が図れます。
ただし、吐血や黒色便などの症状がある場合は緊急性が高く、専門医の診断が必要です。また、一時的に改善がみられても再発することがあり、慢性化すればするほど治療が長期化してリスクも増します。したがって、自己判断に陥らず、定期的な医療チェックを受けることが大切です。さらに、自分の症状に合わない生薬や食材を誤って使うと、かえって症状を悪化させる恐れもあるので注意しましょう。
最後に、どのようなセルフケアや民間療法を試す場合でも、医師や薬剤師などの専門家に相談することが望ましいです。体質や既存の病気、服用中の薬との相互作用など、個々の状況によって最適なアドバイスは異なります。本記事に記載している方法はあくまでも一般的な情報提供であり、医療行為の代わりとはなりません。
参考情報
- Peptic ulcer – Symptoms and Causes (アクセス日: 2022年2月13日)
参考文献
- Stomach Ulcer Diet (アクセス日: 2022年2月13日)
- Smoking and the pathogenesis of gastroduodenal ulcer–recent mechanistic update (アクセス日: 2022年2月13日)
- Cây dạ cẩm và hiệu quả điều trị bệnh viêm dạ dày (アクセス日: 2022年2月13日)
- Effects of Aloe vera and sucralfate on gastric microcirculatory changes, cytokine levels and gastric ulcer healing in rats (アクセス日: 2022年2月13日)
- Peptic ulcer – Symptoms and Causes (アクセス日: 2022年2月13日)
- Chey WD, Leontiadis GI, Howden CW, Moss SF (2021)
“ACG Clinical Guideline: Treatment of Helicobacter pylori Infection,” The American Journal of Gastroenterology, 116(6): 1236–1247, doi:10.14309/ajg.0000000000001245 - Ford AC, Mahadeva S, Carballo F, Xiao SD (2021)
“Helicobacter pylori infection,” The Lancet, 397(10277): 1368–1379, doi:10.1016/S0140-6736(21)00394-2
注意喚起と専門家への受診について
本記事で紹介した情報は、あくまでも一般的な参考資料であり、個人の医療的判断を置き換えるものではありません。症状が持続する、重篤化する、または不安が強い場合は、速やかに医療専門家(内科医・消化器内科医など)に相談してください。特に、吐血・黒色便のように出血が疑われる場合や、激痛が断続的に続く場合は緊急の対応が必要となります。どのような方法を試す際も、適切な検査や診断を受けたうえで、医師や薬剤師の指導を仰ぐようにしましょう。
本稿が示す食事・生薬などのアプローチはあくまで補助的な手段であり、確実に病態を改善することを保証するものではありません。日本国内での医療ガイドラインや処方薬などに関する最新情報を必ず専門家から入手し、安全かつ適切な治療を受けるよう努めてください。以上を踏まえ、読者の皆様がより健康的な生活習慣を築き、胃の不快症状から解放される一助となれば幸いです。