胸の中央の激痛とは?原因となる病気を徹底解説
筋骨格系疾患

胸の中央の激痛とは?原因となる病気を徹底解説

はじめに

胸の中央部分、いわゆる「胸骨(きょうこつ)」付近に突き刺すような痛みが走ると、多くの方がまず心臓の異常を疑うかもしれません。しかし実際には、必ずしも心疾患が原因とは限らず、消化器や呼吸器、筋骨格系など、さまざまな要因がこの痛みを引き起こす可能性があります。本稿では、胸の中央が鋭く痛むときに考えられる代表的な原因と、その背景となる病態を詳しく解説します。日常生活にも大きく影響しうる痛みであるからこそ、正しい知識を身につけ、必要があれば医療機関で適切な検査・治療を受けることが大切です。

免責事項

当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。

専門家への相談

本記事における医学的な専門的見解には、Thạc sĩ – Bác sĩ – Giảng viên Nguyễn Hữu Đức Minhの知見が反映されています。胸の中央付近に起こる痛みには多岐にわたる原因が考えられるため、自己判断のみで対処するのではなく、必要に応じて医師への相談をおすすめします。

胸の中央が鋭く痛むときにみられる主な症状

胸の中央、あるいはやや左寄りに鋭い痛みが生じる場合、下記のような症状を伴うことがあります。

  • 押さえつけられるような圧迫感、締めつけ感が胸骨周辺に起こる
  • 痛みが数分続くこともあれば、消えてはまた出現し、強さが変動する場合もある
  • 息切れが生じやすい
  • 大量の発汗
  • めまいやふらつき
  • 吐き気

これらの症状は、必ずしも心臓が原因とは限りません。特に痛みとともに呼吸困難や大量の冷や汗などが同時に起こる場合は、原因を明らかにするためにも速やかに受診することが望ましいです。

胸骨付近の痛みを引き起こす主な原因

1. 消化器系の問題による胸の中央の痛み

消化器の不調が、胸の真ん中付近に鋭い痛みや圧迫感を生じさせるケースは少なくありません。日本では食生活の変化やストレスなどを背景として、逆流性食道炎(GERD)やヘルニアなどの病態が増えているともいわれています。

1-1. 逆流性食道炎(GERD)や酸の逆流

逆流性食道炎は、胃酸や胃の内容物が食道に逆流し、食道粘膜を刺激・損傷することで胸焼けや胸の痛みを引き起こす疾患です。胸やけや呑酸(どんさん:酸っぱい液が喉元まで上がる感覚)のほか、喉の奥に常に何か引っかかっているような感じ、声のかすれ、慢性的な咳などもみられることがあります。日本国内でも、食習慣の欧米化により増加傾向にあるとされ、患者の生活の質を著しく低下させる要因になり得ます。

近年、アメリカ消化器病学会のガイドラインでは、逆流性食道炎に対する診断と治療指針が更新されています。具体的には、2022年に“The American Journal of Gastroenterology”誌で公表されたACG(American College of Gastroenterology)の診療ガイドライン(Katz POら、2022, 117(1):27-56, doi:10.14309/ajg.0000000000001538)において、生活習慣の見直し(食後すぐに横にならない、脂質の多い食事を避ける、食後2~3時間は就寝を控えるなど)や薬物療法(プロトンポンプ阻害薬、H2受容体拮抗薬など)が推奨されています。こうした治療や予防策は日本人にも応用可能であり、胸骨付近の痛みを和らげるうえで有効です。

1-2. 食道裂孔ヘルニア(横隔膜ヘルニア)

横隔膜の裂孔(穴)を通じて、胃の一部が本来の位置から胸腔に飛び出す病態です。食後に頻回のげっぷや胸の圧迫感、胸やけといった症状が起こり、胸骨周辺に痛みを感じる場合があります。上体を倒したときや過度な腹圧(例えば重い物を持ち上げる動作など)がかかったときに症状が強くなることが特徴です。食道裂孔ヘルニアの症状が強い場合、専門医による適切な治療(薬物療法やまれに外科的治療)が必要となることがあります。

1-3. 食道けいれん

食道が突発的にけいれんを起こし、食べ物の通過が円滑に行われなくなると、胸の中央に鋭い痛みが生じることがあります。日本人では逆流性食道炎などを合併している例もあり、食道内視鏡検査や内科的診察が推奨される場合があります。

1-4. Boerhaave症候群

過度の嘔吐や強い力みなどによって食道壁に高い内圧がかかり、食道が破裂(穿孔)してしまう非常に危険な状態です。胸骨付近に激痛を生じ、緊急処置が必要になることが多いです。もし繰り返し嘔吐した後に胸や背中に鋭い痛みを感じる場合には、すぐに医療機関へ連絡し、診察を受けることが重要です。

1-5. 胃潰瘍

胃潰瘍では主にみぞおち付近の痛みが典型とされますが、まれに胸の中央近くに痛みを感じる場合があります。食事との関連が強く、空腹時や食後に痛むなどの特徴が出ることが多いです。日本でもピロリ菌感染や慢性的な胃酸分泌過多などが要因となり得ます。

2. 筋骨格系の問題による痛み

胸の中央付近には、肋骨や胸骨をつなぐ軟骨・靭帯・筋肉などが存在します。これらが損傷・炎症を起こすと、心臓や消化器の異常とは異なるメカニズムで痛みを引き起こします。

2-1. 肋軟骨炎(肋軟骨症)による胸骨周辺の炎症

肋骨と胸骨をつなぐ軟骨部が炎症を起こす病態です。特に中高年以降に発症しやすいと言われています。胸の中央あたり、押さえると痛む部位がはっきりしており、深呼吸や姿勢の変化、腕を大きく動かすなどの行為で痛みが増幅するケースが多いです。胸痛で救急受診した患者のうち13〜36%は肋軟骨炎が原因だったとの報告もあり(米国の家庭医療学会のデータより)、必ずしも心臓疾患だけが胸痛の要因ではないと示唆されています。

2-2. 胸鎖関節の損傷

胸骨と鎖骨が合わさる部分(胸鎖関節)がケガによって炎症を起こすと、胸骨中央に鋭い痛みが生じることがあります。胸の上部を押さえたときの痛み、肩関節を動かすときの異音や違和感などが特徴的です。スポーツや交通事故による衝撃、肩の使いすぎなどが誘因となりやすいです。

2-3. 鎖骨自体の損傷

鎖骨は胸骨との接合部に軟骨組織を介してつながっているため、鎖骨が骨折または亀裂骨折を起こすと、その近辺に強い痛みを生じることがあります。腕を上げたときに胸骨付近が強く痛む、患部が腫れる、肩の高さが左右で異なるなどが典型的です。治療は固定や手術など、損傷の程度によって変わります。

2-4. 胸骨の骨折

正面から強い衝撃を受けるなどにより胸骨が骨折すると、痛みは非常に強いものになりがちです。深呼吸や咳をするだけでも激痛が走り、呼吸に支障をきたす場合があります。骨折が疑われる際には、レントゲン検査やCT検査で正確な診断を受け、必要なら専門的な治療を受けることが推奨されます。

3. 呼吸器系の問題による痛み

肺や気管支などの呼吸器が原因となり、胸の中央付近に痛みが生じるケースも多々あります。特に咳や発熱などの症状が合併する場合、呼吸器系の異常を考慮する必要があります。

3-1. 胸膜炎(肋膜炎)

肺を覆う胸膜が何らかの刺激により炎症を起こし、呼吸をするときに擦れるような痛みが胸骨付近に生じます。吸気時やくしゃみ、咳のときに鋭い痛みが走るのが特徴です。場合によっては発熱、原因不明の体重減少などがみられることもあります。胸膜炎の原因には、ウイルスや細菌感染、自己免疫疾患などがあります。

3-2. 気管支炎

風邪やインフルエンザなどによる感染症が気管支に波及し、気管支の粘膜が炎症を起こす病態です。長引く咳によって胸骨周辺が痛むことがあります。とくに咳込みが強いときは、胸の中央が締めつけられるように痛むと感じる人も少なくありません。日本では気温変化の激しい季節やウイルス流行期に、急性気管支炎が多くみられます。

3-3. 肺炎

ウイルスや細菌などが肺胞内に感染・炎症を引き起こす病態です。ひどい咳や高熱、膿性(緑〜黄色)の痰が出ることが多く、胸の中央付近の痛みは、咳をしすぎることによる肋間筋や胸骨付近の負担からくるケースもあります。日本では高齢者を中心に肺炎が重症化しやすく、注意が呼びかけられています。

4. その他の原因

上記以外にも、胸の中央が鋭く痛む原因として以下のような要因があげられます。

  • パニック発作(突発的な強い不安とともに、胸の圧迫感や動悸、息苦しさが起こる)
  • 身体症状症(ストレスや精神的要因が身体症状として現れる状態)
  • 帯状疱疹など皮膚疾患の神経痛
  • 筋肉の過度な緊張や圧迫による胸部痛

こうした原因を把握したうえで、自分の痛みが当てはまるかを見極め、悪化する前に医療機関で診断を受けることが大切です。

どのように対処すべきか

胸の中央に鋭い痛みが生じた際、まずは痛みの出方や持続時間、伴う症状を意識して観察してください。例えば、食後に痛みが強まる場合は消化器が、深呼吸や咳で悪化する場合は呼吸器や肋骨周辺が、運動や体位変換で増強する場合は筋骨格系が関与している可能性が高まります。心臓が原因でないからといって放置すると、他の疾患(逆流性食道炎や肺炎など)が悪化し、生活の質を大きく下げるリスクがあります。

また、胸の痛みの程度が激しく、冷や汗や強い息切れを伴うなど、いわゆる心筋梗塞のような重篤な症状を少しでも疑う場合は、ためらわずに緊急受診をすることが重要です。症状の背景には必ず何らかの原因が存在し、それを早期に見極めることが安全と安心につながります。

推奨される検査・治療の一例

  • 内科的検査
    胸部X線、心電図、血液検査など。必要に応じて胃カメラ(内視鏡)検査やCTスキャン、MRI検査が行われることもあります。
  • 薬物療法
    逆流性食道炎であればプロトンポンプ阻害薬(PPI)がしばしば使用され、気管支炎・肺炎では抗生物質や解熱鎮痛薬などが投与される場合があります。筋骨格系の炎症に対しては痛み止めや消炎鎮痛薬(NSAIDs)などが検討されることも多いです。
  • 生活習慣の見直し
    過度の飲酒や喫煙、睡眠不足、ストレス、肥満などは胸の痛みを助長する可能性があるため、生活習慣を改善することで症状の軽減を目指します。
  • 外科的介入
    胸骨や鎖骨の骨折、食道破裂やヘルニアなどの重篤な場合には手術が検討されることがあります。

参考文献

結論と提言

胸の中央が鋭く痛む場合、その原因は心臓疾患だけとは限りません。消化器、筋骨格系、呼吸器、さらには精神的要因まで、多岐にわたります。痛みの性質や併発症状を自分なりに把握し、必要であれば早めに医療機関へ相談することが重要です。

痛みの背景にある病態を正しく診断できれば、適切な治療を受けることで症状の改善や再発予防につながります。たとえば、逆流性食道炎であれば薬物療法と生活習慣の見直しで大幅に改善するケースが多く、肋軟骨炎ならば炎症を抑える治療と安静が有効です。また、万が一心疾患のリスクが否定できない場合は、緊急の検査による早期発見と早期治療が命を守る手段となり得ます。

注意事項および医師への相談のすすめ

本記事で紹介した情報は、あくまで一般的な知識を提供することを目的としており、最終的な診断や治療方針を確定するものではありません。胸骨付近の痛みが続いたり、痛みの性質が不明瞭であったり、不安な点がある場合は自己判断に頼らず、専門医(内科、消化器内科、呼吸器内科、整形外科など)に相談してください。

免責事項
本記事は情報提供を目的として作成されたものであり、医療従事者による直接の診断・治療の代替とはなりません。症状や病歴には個人差がありますので、必ず医師や薬剤師などの専門家の判断を仰いでください。

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