胸郭出口症候群とは?痛みと戦う新たなアプローチ
脳と神経系の病気

胸郭出口症候群とは?痛みと戦う新たなアプローチ

はじめに

JHOの記事をご覧いただき、ありがとうございます。本記事では「胸郭出口症候群」という、一見するとあまり馴染みのないかもしれない症候群について詳しく解説していきます。胸郭出口症候群は、頸部から腕にかけて走行する神経や血管が鎖骨と第一肋骨のあいだなどで圧迫されることにより、肩・腕・手指に多彩な症状を引き起こす病態です。適切な治療や予防策を取らなかった場合、日常生活の質を大きく下げる恐れがあります。

免責事項

当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。

本記事では、胸郭出口症候群の基本的な定義から、症状・原因・リスク因子・治療法・生活習慣上の留意点、そして実践的な予防策までを網羅的に解説します。さらに、近年の研究結果や専門家の見解も交えて、最新の知見をできる限りわかりやすくお伝えいたします。読み終える頃には、この症候群に関する理解がより深まり、適切な対処の糸口をつかんでいただけることでしょう。

なお、本記事は信頼できる研究や文献を参照しつつ作成しておりますが、あくまでも一般的な情報提供を目的としたものであり、医療専門家の直接的な診断や治療に代わるものではありません。何らかの症状を感じる場合は、必ず医師などの専門家にご相談ください。

専門家への相談

この記事の情報には、実績ある信頼できる専門家および組織からのデータが基づいています。胸郭出口症候群に関する情報は、Merck Research Laboratoriesによるガイドライン『The Merck manual home health handbook』からも多く引用されており、これは医療関係者にとっても非常に参考になる内容です。加えて、Ferri’s Netter Patient Advisorなどの医療書籍も参考として挙げられます。

しかし、本症候群の症状や程度は個々人で異なる場合があり、とくに神経や血管への圧迫の度合いによって症状の強さ・種類が変わります。したがって、記事内で紹介する対策や治療法はあくまで一般論であり、すべての方に完全に当てはまるわけではありません。症状が疑われる場合、あるいは既に痛みやしびれなどが深刻化している場合には、整形外科や循環器内科、血管外科などの医療専門家に相談することを強くおすすめします。

胸郭出口症候群とは?

胸郭出口症候群(きょうかくでぐちしょうこうぐん)は、頸部から腕へ向かう神経や血管が、主に鎖骨と第一肋骨の間や小胸筋近傍で圧迫されることにより、痛み・しびれ・感覚異常・血行不良などを引き起こす症候群の総称です。英語では“Thoracic Outlet Syndrome”とも呼ばれますが、日本語表記では「胸郭出口症候群」として紹介されることが多いです。

具体的には、以下の3つのタイプがよく知られています。

  • 神経性胸郭出口症候群
    神経が主に圧迫されることで起こるタイプで、患者の約90〜95%がこれに当てはまると言われています。肩から腕、手指にかけての痛みやしびれ、筋力低下などが典型的です。
  • 動脈性胸郭出口症候群
    鎖骨下動脈が圧迫されることで血流障害が起こるタイプで、腕や手指の冷感、皮膚の色の変化、動脈瘤の形成などが見られます。神経性に比べると頻度は低いですが、重篤化する場合もあるため注意が必要です。
  • 静脈性胸郭出口症候群
    鎖骨下静脈が圧迫されることによって起こるタイプで、腕のむくみ、色調変化、血栓形成に伴う疼痛などが特徴です。

これらの区分けは病態生理学的な分類ですが、実際の臨床現場では複数のタイプが併存している場合もあります。中でも最も多い神経性の胸郭出口症候群は、肩や腕、手指にかけてのしびれ・痛みが中心症状となり、日常生活動作や仕事に大きな支障を来すことが多いです。

症状と徴候

胸郭出口症候群の症状は、圧迫される部位や性質によって多岐にわたります。最も多い神経性の症状を中心に、代表的なものを挙げてみましょう。

  • 肩から腕、手指にかけての痛みやしびれ
    特に薬指や小指にかけて強くしびれが生じることが一般的です。首から肩甲骨付近、上腕、前腕、手のひら全体まで違和感が広がる場合もあります。
  • 握力の低下や物を落としやすくなる
    神経性の症状が進むと、腕や手の筋力が低下し、物をしっかりつかめない、持続的に持つのがつらいなどの訴えが見られます。
  • 手を動かすと症状が悪化する
    例えばパソコン作業やスマートフォンの操作、長時間同じ姿勢を取るような行為で痛みやしびれが増強することがあります。
  • 血行障害に伴う症状(血管性の場合)
    動脈が圧迫されている場合は、腕や手指に冷感やチアノーゼ(皮膚が青紫色になる)などが生じ、静脈が圧迫されている場合は、むくみや皮膚の色の変化などが生じることがあります。また、血栓ができると皮膚の色の急激な変化や強い痛みが発生し、重篤な合併症につながるリスクも否定できません。

胸郭出口症候群の症状は、いずれも日常生活に大きな影響を与える可能性があります。痛みやしびれが長引く、あるいは悪化傾向にあると感じたら、早めに医療機関を受診し、原因の特定と適切な治療を検討することが重要です。

原因

胸郭出口症候群を引き起こす原因はさまざまですが、大きく以下のようなものがあります。

  1. 骨格構造や解剖学的な要因
    先天的に第一肋骨の形状や位置が通常と異なる場合や、頸肋(けいろく)と呼ばれる余分な肋骨の存在が原因になることがあります。これらの先天異常により、神経や血管が圧迫されやすくなる可能性があります。
  2. 長期にわたる重労働や反復動作
    肩や頸部を酷使する仕事や、重い荷物を長時間持つような生活習慣が原因となるケースが指摘されています。反復的な動作が続くことで筋肉や腱、靭帯が肥厚し、神経や血管にかかる圧迫力が増大しやすくなります。
  3. 外傷による影響
    交通事故や転倒などで首や肩を強く打撲したり、骨折・脱臼が生じたりすると、骨格や筋肉のバランスが乱れ、神経および血管に過度の圧迫がかかる状況に陥りやすくなります。
  4. 血栓の形成
    血管内に血栓が生じると、その血管を通る血流が妨げられ、圧力が上流側に高まりやすくなります。これが局所的に血管を拡張させ、周囲の神経などを圧迫することで症状が悪化する場合もあります。

これらの原因は先天性か後天性かによって異なりますが、共通しているのは、首から腕に至る解剖学的な“トンネル”を狭窄させる要素があるという点です。また、胸郭出口症候群は感染症のように他人にうつることはないため、遺伝や伝播が関わる病気ではありません。ただし、骨格や体型、姿勢のくせといった生活習慣による影響が大きい点には注意が必要です。

リスク因子

胸郭出口症候群のリスクを高める因子として、以下のような要素が挙げられます。

  • 長時間のパソコン作業や組み立てラインでの作業
    一定の姿勢を長時間続けたり、腕や手を反復して使う仕事は、首・肩周辺の筋肉が緊張しやすく、血管や神経が圧迫されるリスクが高まります。
  • スポーツ選手やアスリートへの負担
    投球動作やサーブ動作など、肩関節や腕を大きく振り回す運動を頻回に行う競技では、肩周辺の筋肉や靭帯が肥厚し、神経や血管を圧迫する傾向が指摘されています。特に野球の投手やバレーボール・テニスの選手などが該当しやすいとされています。
  • 体重増加
    肥満によって脂肪組織や筋肉量に変化が生じ、鎖骨付近から腕にかけての空間が物理的に狭くなって圧迫を起こしやすくなる場合があります。
  • 妊娠
    妊娠中はホルモンの影響で関節や靭帯が緩みやすくなるうえ、体重増加や体液量の増加も重なり、神経や血管への圧迫リスクが上がるとされています。特に腕や肩にむくみが出ると、局所的に圧迫が強まる可能性があります。
  • 悪い姿勢や猫背
    長年にわたって姿勢が悪い状態が続くと、首や肩甲骨周辺の筋肉バランスが乱れ、鎖骨と肋骨のスペースが狭くなることがあります。

これらのリスク因子は重複する場合もあり、個人差が大きいのが特徴です。予防のためには、まず自分の生活習慣や仕事環境を見直し、リスク要因があればできる範囲で修正していくことが重要です。

治療

胸郭出口症候群の治療は、神経や血管への圧迫を緩和し、症状の改善を図ることが主な目的となります。具体的には以下のような方法があります。

1. 保存的治療

  • 理学療法(リハビリテーション)
    肩周辺や首周りの筋肉をほぐし、柔軟性と筋力をバランスよく高める運動療法が基本となります。作業療法士や理学療法士の指導のもと、正しい姿勢づくりや筋肉のストレッチを行うことで、圧迫を軽減し、症状の改善を目指します。
    近年の研究(Gelabert HA, Wei D, 2021, J Vasc Surg, 74(2):593-600, doi:10.1016/j.jvs.2020.10.066)によれば、特に競技スポーツにおける投動作を行うアスリートを対象に、適切なリハビリを徹底することで、症状軽減とパフォーマンス維持を両立させやすいという結果が示されています。これは日本国内でも応用可能と考えられており、スポーツ障害としての胸郭出口症候群でも効果が期待できます。
  • 薬物療法
    圧迫による炎症や痛みを抑えるための消炎鎮痛薬(非ステロイド性抗炎症薬など)や筋弛緩薬が処方される場合があります。症状が強く眠れないほどの痛みがある場合には、一時的な痛み止めの使用が有効なこともあります。
  • 血液凝固防止薬(抗凝固療法)
    血管性(とくに静脈性)胸郭出口症候群が疑われる場合や、血栓形成が確認された場合、warfarinなどの抗凝固薬が使われることがあります。血栓が拡大すると重篤な合併症につながりかねないため、血行障害が疑われた際には早急な検査と治療が必要です。

2. 手術的治療

保存的治療を行っても症状が強く、日常生活に支障を来す場合や、血管が高度に圧迫され血流障害が深刻な場合、手術が検討されることがあります。一般的には、第一肋骨の一部を切除する方法や、狭くなった腱・筋を切離して神経・血管の通り道を広げる方法などが行われます。また、血管の損傷が大きい場合には血管を修復する術式も考慮されることがあります。

近年では低侵襲手術の技術が向上し、術後の回復が早くなる傾向がありますが、手術適応は症状の程度や患者の生活背景などを総合的に評価して決定されます。例えば静脈性胸郭出口症候群のうちPaget-Schroetter症候群(上肢深部静脈血栓症の一種)などの場合は、血栓溶解療法と併せて早期に手術的処置を行うことで、良好な長期予後が得られる可能性があるという研究(Sheah K ら, 2022, J Vasc Surg Venous Lymphat Disord, 10(4):868-873, doi:10.1016/j.jvsv.2021.12.008)も報告されています。この研究は米国の単一施設で行われたものですが、若いアスリートに多いという指摘もあり、日本の若年層やスポーツ愛好家にも一定の示唆を与えています。

生活習慣と予防策

胸郭出口症候群は、生活習慣や姿勢の改善によって予防および症状緩和が期待できる場合が少なくありません。以下に具体的な習慣や工夫を挙げます。

  • 日常的なストレッチとエクササイズ
    自宅でも簡単にできる肩甲骨周囲のストレッチや、首の傾斜運動、肩甲骨回しなどを取り入れると、肩や首の筋肉バランスが整いやすくなります。就寝前や起床直後など、毎日一定の時間に取り組むのが効果的です。
  • 肩や胸郭周辺に不必要な負荷をかけない
    重たいカバンを一方の肩だけにかけ続ける習慣や、長時間の猫背姿勢などは避けるようにしましょう。買い物袋を両手で分散して持つ、小まめに姿勢を変えるなどの対策が、神経や血管への負担を軽減します。
  • 正しい姿勢の維持
    パソコンやスマートフォンを使用する際は、目線の高さを適度に調整し、首や肩が前に突き出る姿勢をなるべく避けます。椅子に深く腰掛け、背筋を伸ばしつつ、足裏を床にしっかりとつける姿勢が基本です。
  • 定期的な休憩の確保
    デスクワークや立ち仕事など、同じ姿勢が続きやすい職場環境では、1時間に1回程度は休憩を取り、軽いストレッチや姿勢のリセットを行うと良いでしょう。
  • 健康的な体重の維持
    適切な食生活と適度な運動による体重管理は、あらゆる健康維持に有効ですが、胸郭出口症候群の予防・改善のためにも大切です。体重の急激な増加は、首や肩、胸郭周辺への負担を増やす大きな要因となります。

これらの習慣は、一見すると小さな積み重ねに思えるかもしれませんが、長期的にみると症状の進行を遅らせたり、再発を防ぐうえで非常に重要です。どうしても日常的なケアが難しいと感じる場合は、理学療法士などに相談して、専門的なアドバイスをもとに自分に合ったプログラムを作成してもらうのもおすすめです。

結論と提言

胸郭出口症候群は、神経や血管が圧迫されることで起こる痛みやしびれ、血行障害などの症状を総称した疾患です。先天的な骨格の特徴や後天的な外傷、長時間の反復動作、悪い姿勢などが誘因となり得ます。放置すると症状が悪化し、日常生活に大きな支障を来す可能性があるため、早期の対処と予防が重要となります。

  • 原因とリスク因子の認識
    自分の生活習慣や仕事環境、スポーツの動作などを見直し、圧迫を引き起こしやすい要因がないか確認してみることが大切です。
  • 保存的治療から手術的治療まで幅広い選択肢
    軽度から中度の症状は、ストレッチや運動療法、薬物療法などの保存的治療によって十分に改善が期待できます。しかし、重症例や血管への影響が深刻な場合には手術が必要となることもあります。
  • 生活習慣の見直しと予防策
    正しい姿勢、適度なエクササイズ、体重管理など、基本的な生活習慣の改善が症状の緩和と再発防止に大いに寄与します。

胸郭出口症候群は、原因とリスク因子を早期に把握し、適切な治療法と予防策を講じることによって、症状の進行を抑え、生活の質を維持することが可能です。痛みやしびれなどの違和感が少しでもある場合は、まずは医療専門家に相談し、個々の状況に合わせたアドバイスや治療方針を確認することをおすすめします。

重要な注意
本記事の内容は、あくまでも一般的な情報提供を目的とした参考資料です。十分な臨床的エビデンスに基づいた情報も含みますが、個人の症状や状態によって最適な対処法は異なります。自己判断で治療を始める前に、必ず医療従事者にご相談ください。

参考文献

  • Gelabert HA, Wei D. (2021). “Mid-term outcomes of transaxillary first rib resection for neurogenic thoracic outlet syndrome in competitive overhead athletes.” J Vasc Surg, 74(2):593-600. doi:10.1016/j.jvs.2020.10.066
  • Sheah K, Shah SK, Arko FR, Avgerinos ED, Ragukonis RE, Wang GJ. (2022). “Optimal timing of thoracic outlet decompression in Paget-Schroetter syndrome influences outcomes: single center experience.” J Vasc Surg Venous Lymphat Disord, 10(4):868-873. doi:10.1016/j.jvsv.2021.12.008

本記事は、多くの研究および文献に基づく情報をもとに作成されていますが、最終的な判断は医療専門家の診断と指導に従うようお願いいたします。自覚症状がある場合は、早めに医師や専門家に相談して適切な治療を受けましょう。長期的な視点で見れば、正しい姿勢・適切なエクササイズ・健康的な体重管理といった基本的な対策が、胸郭出口症候群による痛みやしびれの軽減に大いに役立ちます。また、妊娠中や肥満、スポーツにおける負荷が高い場合などのリスク要素を抱えている方は、早めの予防と専門的なアドバイスを得ることによって、より良好な生活の質を維持しやすくなるでしょう。どうぞご自身の体と向き合い、最適なケアを続けてください。

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