脂肪肝(NAFLD/NASH)の完全ガイド:非肥満でも要注意な原因と改善法
消化器疾患

脂肪肝(NAFLD/NASH)の完全ガイド:非肥満でも要注意な原因と改善法

健康診断(人間ドック)で「脂肪肝」という結果を受け取り、不安や疑問を抱えている方も少なくないのではないでしょうか。これは非常に一般的な状態でありながら、放置すると深刻な健康問題につながる可能性も秘めています。この記事では、JAPANESEHEALTH.ORG編集委員会が、日本国内外の最新の科学的根拠と診療ガイドラインに基づき、脂肪肝、特に非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)とその進行形である非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に関する包括的で信頼できる情報を提供します。ご自身の状態を正しく理解し、具体的な改善策へと踏み出すための一助となれば幸いです。

この記事の科学的根拠

この記事は、引用されている信頼性の高い情報源にのみ基づいて作成されています。提示される医学的ガイダンスは、以下の主要な典拠に基づいています。

  • 日本消化器病学会 (JSGE)・日本肝臓学会 (JSH): 本記事における非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)および非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の定義、病態分類、治療の基本方針は、日本の臨床現場における最も権威ある指針である「NAFLD/NASH診療ガイドライン2020(改訂第2版)」に基づいています12
  • 厚生労働省 (MHLW): 日本国内における脂肪肝の有病率や、心血管疾患との関連性に関する統計データは、厚生労働省の科学研究費助成事業による大規模な疫学研究報告書を典拠としています3
  • 米国消化器病学会 (AGA): アジア人に多いとされる「非肥満NAFLD(痩せ型脂肪肝)」に関する定義や管理指針については、米国消化器病学会が発行した臨床実践アップデートの勧告を参考にしています4
  • 国際的な系統的レビューおよびメタアナリシス: 運動療法やビタミンE補充療法の有効性に関する記述は、複数の質の高い研究を統合・解析した査読済み学術論文(J Hepatol誌、Clin Nutr ESPEN誌掲載など)の結果に基づいています56

要点まとめ

  • 脂肪肝には、単純な脂肪蓄積(NAFL)と、肝炎を伴い肝硬変や肝がんへ進行しうる危険な状態(NASH)があります。
  • 病気の真の危険度は、肝臓の「線維化(せんいか)」(硬さ)の進行度(F0~F4)によって決まります。
  • 肥満だけでなく、痩せている人でも発症する「非肥満NAFLD」がアジア人に多く、注意が必要です。
  • 治療の基本は、食事と運動を中心とした生活習慣の改善であり、体重の7~10%減量が目標とされています。
  • 脂肪肝は心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患の危険性も高めるため、全身の健康問題として捉えることが重要です。

脂肪肝とは?沈黙の病気の正しい理解

脂肪肝とは、肝臓に中性脂肪が過剰に蓄積した状態を指します。健康な人の肝臓にも脂肪はわずかに含まれますが、肝細胞の5%以上に脂肪が溜まると「脂肪肝」と診断されます。かつてはアルコールの飲み過ぎが主な原因と考えられていましたが、近年、アルコールをほとんど飲まない人にも脂肪肝が急増しており、これを「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD:ナッフルディー)」と呼びます。このNAFLDこそが、現代日本の肝臓病における最大の課題となっています。

医学的な定義:NAFLD、NAFL、そしてNASHの違い

日本消化器病学会および日本肝臓学会の「NAFLD/NASH診療ガイドライン2020」によると、NAFLDは飲酒量がエタノール換算で男性30g/日、女性20g/日未満の人に発症する脂肪肝と定義されています12。このNAFLDは、その後の経過が大きく異なる2つのタイプに分類されます。

  • 非アルコール性脂肪肝(NAFL: ナッフル): 肝臓に脂肪が蓄積しているだけの、比較的進行リスクの低い状態です。「単純性脂肪肝」とも呼ばれます。
  • 非アルコール性脂肪肝炎(NASH: ナッシュ): 脂肪の蓄積に加えて、肝細胞の炎症や破壊(風船様膨化など)を伴う状態です。NAFLと異なり、治療せずに放置すると年月をかけて肝臓が硬くなる「線維化」が進行し、最終的には肝硬変や肝がんに至る可能性があります。

つまり、同じ「脂肪肝」と診断されても、それがNAFLなのかNASHなのかによって、その後の見通しは大きく異なります。NASHへの移行を防ぎ、早期に発見・介入することが極めて重要です。

最も重要な指標「肝線維化」とは?(ステージF0~F4)

NAFLD/NASHの予後を決定づける最も重要な要素は、「肝線維化」の進行度です。線維化とは、炎症によって肝細胞が壊れ、その修復過程でコラーゲンなどの線維組織が蓄積し、肝臓が次第に硬くなっていく状態を指します。この進行度はF0からF4の5段階で評価されます1

  • F0: 線維化なし
  • F1: 軽度の線維化
  • F2: 中等度の線維化
  • F3: 高度の線維化(肝硬変の一歩手前)
  • F4: 肝硬変

線維化が進むほど、肝がんの発症率や死亡率が高まることが明らかになっています。したがって、NAFLDの管理においては、単に脂肪の量を減らすだけでなく、線維化を進行させないこと、そして現在の線維化の段階を正確に評価することが治療方針を決定する上で不可欠です。

日本における脂肪肝の現状:推定患者数1000万人以上の国民病

脂肪肝はもはや稀な病気ではありません。厚生労働省の研究班による2019年の報告では、日本の人間ドック受診者のうち、実に27.7%に脂肪肝が認められたとされています3。日本の人口に当てはめると、潜在的な患者数は1000万人から3000万人にも上ると推定されており、まさに「国民病」と言える状況です。さらに、脂肪肝と診断された人のうち約85.8%が非アルコール性であるというデータもあり、生活習慣の変化が背景にあると考えられます3


なぜ脂肪肝になるのか?多様な原因と危険因子

脂肪肝の発症には、様々な要因が複雑に関与しています。その中でも最大の危険因子は、内臓脂肪型肥満を基盤とした生活習慣病です。

最大の危険因子:メタボリックシンドロームとの深い関係

NAFLDは、しばしば「メタボリックシンドロームの肝臓における表現型」と称されます7。メタボリックシンドロームとは、内臓脂肪の蓄積に加えて、高血圧、高血糖、脂質異常症のうち2つ以上を合併した状態を指します。これらの要素は、インスリン抵抗性(インスリンの効きが悪くなる状態)を引き起こし、肝臓への脂肪の蓄積を強力に促進します。肥満、糖尿病、脂質異常症は、NAFLDの最も強力な危険因子です。

【特に注意】「非肥満NAFLD」がアジア人に多い理由

一般的に脂肪肝は肥満と関連づけられますが、特筆すべきは「痩せているのに脂肪肝」というケースです。これを「非肥満NAFLD」または「Lean NAFLD」と呼びます。米国消化器病学会(AGA)の指針では、アジア人における非肥満NAFLDの基準を体格指数(BMI)が23未満としており、欧米人の基準(BMI 25未満)よりも厳しく設定されています4

アジア人は欧米人に比べて皮下脂肪よりも内臓脂肪が蓄積しやすく、同じ体重でもインスリン抵抗性を起こしやすい体質があると考えられています。また、特定の遺伝的素因(例:PNPLA3遺伝子多型など)も非肥満NAFLDの発症に関与することが知られています4。痩せているからといって安心せず、食生活の乱れや運動不足がある場合は注意が必要です。

食生活と生活習慣の影響

日々の食生活は、肝臓の健康に直接的な影響を及ぼします。特に、果糖(フルクトース)の過剰摂取はNAFLDの強力な促進因子であることが、数多くの研究で示されています8。果糖は砂糖や、清涼飲料水、加工食品に多く含まれる異性化糖の主成分であり、肝臓で直接中性脂肪に変換されやすい性質を持っています。総摂取カロリーの過多はもちろんのこと、糖質の多い食事、特に甘い飲み物の習慣的な摂取は大きな危険因子となります。


脂肪肝の症状と放置する危険性

脂肪肝の最も厄介な特徴の一つは、その「沈黙」にあります。病気がかなり進行するまで、自覚症状がほとんど現れないのです。

初期症状はほぼ「無症状」:だからこそ検査が重要

NAFLや初期のNASHの段階では、ほとんどの人が症状を感じません。倦怠感や右上腹部の違和感を訴える人もいますが、特異的な症状ではないため見過ごされがちです。だからこそ、症状がない段階で病気を発見できる健康診断や人間ドックでの血液検査(AST, ALT, γ-GTPなど)や腹部超音波検査が極めて重要な役割を果たします。

進行した場合の合併症:肝硬変、肝がん、心血管疾患

NAFLDを放置し、NASHから線維化が進行すると、命に関わる深刻な合併症を引き起こす可能性があります。

  • 肝硬変・肝がん: 日本のガイドラインによれば、NASHから年間約5.29/1000人の割合で肝がんが発生すると報告されています1。これは、C型肝炎ウイルスに次ぐ肝がんの原因となりつつあります。
  • 心血管疾患: 脂肪肝は肝臓だけの問題ではありません。厚生労働省の研究によると、NAFLDと診断された人は、そうでない人と比べて心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患の発症率が著しく高い(7.4% vs 2.0%)ことが示されています3。これは、NAFLDの背景にあるインスリン抵抗性や慢性炎症が、動脈硬化を促進するためと考えられています。

科学的根拠に基づく脂肪肝の改善・治療法

幸いなことに、NAFLD、特に初期段階であれば、生活習慣の改善によって劇的に改善する可能性があります。治療の根幹は、食事療法と運動療法です。

治療の基本:体重の7~10%減量を目指す生活習慣の改善

現在、NAFLD/NASHに対する特効薬として承認された薬はありません。最も確実で効果的な治療法は、生活習慣を改善し、体重を減らすことです。日本の多くの専門機関は、現在の体重の7~10%の減量を目標とすることを推奨しています9。体重を7%減らすことで肝臓の脂肪と炎症が、10%減らすことで線維化までもが改善する可能性があると報告されています。

食事療法:何を、どのように食べるべきか?

食事療法の基本は、総摂取カロリーを適正化し、栄養バランスを整えることです。具体的な食品の選択について、以下にまとめます1011

積極的に摂取したい食品 控えるべき食品
  • 良質なたんぱく質: 鶏むね肉(皮なし)、ささみ、魚(特にサバ、イワシなどの青魚)、豆腐、納豆
  • 食物繊維: 野菜全般、きのこ類、海藻類
  • 良質な炭水化物: 玄米、全粒粉パン
  • その他: 緑茶(カテキンを含む)
  • 糖質の多いもの: 清涼飲料水、菓子類、ジュース、果物の過剰摂取
  • 飽和脂肪酸の多いもの: 脂身の多い肉(バラ肉など)、バター、ラード
  • 加工食品: スナック菓子、インスタント食品
  • 精製された炭水化物: 白米、白いパン、うどん

特に、清涼飲料水などの「液体からの糖質」は吸収が速く、血糖値を急激に上昇させるため、最も避けるべきものの一つです。

運動療法:最も効果的な運動の種類と頻度

運動は、体重減少とは独立したメカニズムでも肝臓の脂肪を減らす効果があることが、質の高い研究(メタアナリシス)によって証明されています5。つまり、体重があまり減らなくても、運動するだけで肝臓は健康になります。推奨される運動は以下の通りです912

  • 種類: 有酸素運動(ウォーキング、ジョギング、水泳、サイクリングなど)が中心。筋力トレーニングを組み合わせるとさらに効果的です。
  • 頻度と時間: 週に3~4回以上、1回あたり30分以上の運動を目指しましょう。まずは日常生活の中で歩く時間を増やすことから始めるのが現実的です。

薬物療法とサプリメント:ビタミンEの役割と注意点

前述の通り、標準的な治療薬はまだありません。しかし、肝生検でNASHと診断され、糖尿病がない患者さんに対しては、抗酸化作用を持つビタミンEの投与が検討されることがあります。複数の研究を統合したメタアナリシスでは、ビタミンEが肝機能酵素(AST, ALT)や肝臓の組織所見を改善する可能性が示唆されています6。ただし、ビタミンEの長期的な安全性には議論もあり、自己判断での摂取は絶対に避けるべきです。薬物療法は、必ず専門医の診断と指導のもとで行われる必要があります。


よくある質問

アルコールは全く飲んではいけませんか?

非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の定義は、純アルコール換算で男性は1日30g未満、女性は1日20g未満の飲酒量です1。この基準内であれば定義上はNAFLDとなりますが、脂肪肝と診断された場合は、肝臓へのさらなる負担を避けるため、可能な限り飲酒量を減らすか、禁酒することが強く推奨されます。アルコールはカロリーも高く、それ自体が脂肪肝を悪化させる要因となりえます。

急激なダイエットは効果的ですか?

いいえ、急激な減量は推奨されません。1ヶ月に体重の5%を超えるような急激な減量は、かえって肝臓の炎症を悪化させる可能性があると報告されています。1週間に0.5kgから1kg程度の、ゆっくりとした持続可能なペースでの減量を目指すことが、安全かつ効果的です。


結論

非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、自覚症状がないまま進行し、肝硬変や肝がん、さらには心血管疾患といった深刻な病気につながる可能性がある「沈黙の病気」です。しかし、その一方で、生活習慣の改善、特に食事と運動によって十分に管理・改善が可能な病気でもあります。健康診断で「脂肪肝」を指摘されたことは、ご自身の生活習慣を見直し、より健康な未来への一歩を踏み出すための重要な機会と捉えることができます。最も大切なことは、専門の医療機関を受診し、ご自身の肝臓の状態、特に線維化の程度を正確に評価してもらうことです。本記事で提供した情報が、皆様の正しい理解と行動の一助となることを心より願っています。

免責事項本記事は情報提供を目的としたものであり、専門的な医学的アドバイスを構成するものではありません。健康に関する懸念や、ご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

  1. 日本消化器病学会・日本肝臓学会. NAFLD/NASH診療ガイドライン2020(改訂第2版). 2020. Available from: https://www.jsge.or.jp/committees/guideline/guideline/pdf/nafldnash2020_2_re.pdf
  2. 宮崎大学医学部. NAFLD/NASH診療ガイドライン2020を概説する. 2023. Available from: http://www.med.miyazaki-u.ac.jp/home/gastroenterology/files/2023/11/5abb0a490d379544b487401a2abe4c9a-1.pdf
  3. 厚生労働省. 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の疫学的実態把握 大規模健診受診者における検討. 2019. Available from: https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2019/192161/201921003A_upload/201921003A0014.pdf
  4. Long MT, Noureddin M, Lim JK. AGA Clinical Practice Update: Diagnosis and Management of Nonalcoholic Fatty Liver Disease in Lean Individuals: Expert Review. Clin Gastroenterol Hepatol. 2022;20(9):1962-1971. doi:10.1016/j.cgh.2022.04.032. Available from: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9398982/
  5. Keating SE, Hackett DA, George J, Johnson NA. Exercise and non-alcoholic fatty liver disease: a systematic review and meta-analysis. J Hepatol. 2012;57(1):157-66. doi:10.1016/j.jhep.2012.02.023. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22414768/
  6. Al-Izzawi S, Al-Shalah M, Al-Jezawi K, Al-Bakr A, Abd Al-Rhman S, Taha M. The efficacy of vitamin E in reducing non-alcoholic fatty liver disease: a systematic review, meta-analysis, and meta-regression. Clin Nutr ESPEN. 2020;40:175-184. doi:10.1016/j.clnesp.2020.10.003. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33335561/
  7. European Association for the Study of the Liver (EASL), European Association for the Study of Diabetes (EASD), European Association for the Study of Obesity (EASO). EASL-EASD-EASO Clinical Practice Guidelines for the management of non-alcoholic fatty liver disease. J Hepatol. 2016;64(6):1388-402. doi:10.1016/j.jhep.2015.11.004. Available from: https://easl.eu/wp-content/uploads/2018/10/NAFLD-English-report.pdf
  8. Tsochatzis EA, Newsome PN. Systematic Review and Meta-analysis: The Role of Diet in the Development of Nonalcoholic Fatty Liver Disease. Clin Gastroenterol Hepatol. 2021;19(11):2289-2301.e7. doi:10.1016/j.cgh.2021.03.048. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34838723/
  9. 東京都予防医学協会. 専門医が解説する脂肪肝. [インターネット]. [引用日: 2025年7月19日]. Available from: https://www.genkiplaza.or.jp/column_health/detail0121/
  10. 内田内科クリニック. 脂肪肝の改善に良い食べ物ランキングTOP5. [インターネット]. [引用日: 2025年7月19日]. Available from: https://www.uchida-naika.clinic/blog/good_for_fattyliver/
  11. 大阪内視鏡クリニック. 脂肪肝を早く治す方法は?脂肪肝に良い食べ物について医師が解説. [インターネット]. [引用日: 2025年7月19日]. Available from: https://www.osaka-endoscopy.jp/fatty_liver/
  12. 公立八女総合病院企業団. 脂肪肝の運動療法. [インターネット]. [引用日: 2025年7月19日]. Available from: https://www.hosp-yame.jp/files/team_kanzo_78.pdf
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