はじめに
脳が何らかの原因で炎症や損傷を受けた結果、脳実質や脳細胞への体液の過剰な貯留が起こり、脳圧が上昇して様々な神経症状を引き起こす状態がいわゆる脳浮腫(脳のむくみ)です。脳浮腫は英語で“Cerebral Edema”と呼ばれ、主に外傷性脳損傷、脳梗塞、脳出血、感染症、腫瘍など多岐にわたる原因によって生じる可能性があります。脳は頭蓋骨という硬い構造物に覆われているため、余分な体液が滞留すると脳実質が圧迫されてしまい、重度の後遺症、さらに生命の危険を伴う場合もあるので、できるだけ早期に適切な治療を受けることが非常に重要です。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
この脳浮腫は、脳内のどの部位にどの程度の膨張が起きているかによって症状の現れ方や重症度が大きく異なります。頭痛や吐き気、視野障害、意識障害などが代表的な初期症状として挙げられ、重症化すると昏睡や呼吸不全に至るリスクもあります。日本国内では高齢化や生活習慣病の増加に伴い、脳卒中や外傷性脳損傷などによる脳浮腫への関心が高まっており、実際に救急外来では脳浮腫を伴う重症患者が少なくありません。
本記事では、脳浮腫の原因や種類、治療法、注意点など、幅広い情報を詳しく解説します。日常生活の中で脳浮腫を疑わせる症状に気づいた場合は、迅速に医療機関に相談し適切な処置を受けることが大切です。特に救急対応が必要なケースでは、一刻も早い対処が後遺症を最小限に抑えるカギとなります。
本文中には複数の医療機関や研究機関が公開している情報を参照しながら、日本国内の読者の皆様が理解しやすい形でまとめています。また、脳浮腫に関連した海外の研究成果なども適宜引用しつつ、国内の生活や医療実態に即した観点で解説していきます。
専門家への相談
本記事で解説している内容は、脳や神経領域を専門とする医療機関や学術文献を参考にしています。脳浮腫に関する古典的な知識から最新の研究データまで、国際的に権威のある機関が示す情報を踏まえつつ、日本国内で適用される診療ガイドラインなどを踏まえたうえで解説しています。たとえばアメリカ国立医学図書館が提供する信頼度の高い学術データベースや、脳神経領域の研究を積極的に行っている医療研究機関の報告書等も参考にしています。
なお、本記事で引用している専門情報は一般的な知見であり、個別の患者さんの病状によっては対応が大きく変わるケースもあります。必ず医師の診察を受け、個々の症状に応じて最適な治療方針を相談してください。
脳浮腫(脳のむくみ)とは
脳浮腫は、単に「頭痛がする」「頭が重い」という軽い表現だけでは済まされない深刻な病態です。脳がむくんでいる状態は、脳内部や脳周囲に体液が蓄積し、脳圧(頭蓋内圧:ICP)を上昇させます。脳圧が高くなると、脳組織が十分に血液から酸素や栄養を受け取れなくなったり、脳自体が圧迫されて組織の機能が低下したりします。
- 主な原因
- 脳梗塞や脳出血などの脳血管障害
- 外傷性脳損傷(交通事故や転倒による頭部外傷など)
- 脳腫瘍
- 感染症(脳炎、髄膜炎など)
- 高地環境での低酸素状態(高山病に伴う脳浮腫)
- 代謝異常や中毒
- 肝不全や腎不全に伴う電解質異常
脳浮腫は、これらの原因を放置すると急速に進行し、脳ヘルニアという致死的な合併症を引き起こす危険があります。日本では高血圧や糖尿病などの生活習慣病が増え、脳梗塞や脳出血といった脳血管障害が起こりやすい環境になりつつあることもあり、脳浮腫の早期発見と治療がますます重視されています。
脳浮腫の分類
医療現場では、脳浮腫を大きく以下の3つに分類することが一般的です。
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細胞毒性浮腫
脳細胞(ニューロンやグリア細胞)の内部に体液が過剰に取り込まれることで生じる浮腫。虚血性脳梗塞や外傷などで細胞膜機能が損なわれ、ナトリウムイオンや水分が細胞内に蓄積してむくみが起こる。 -
血管原性浮腫
血液脳関門(BBB)が破綻し、血中の水分やタンパク質が血管外へ漏出して生じる浮腫。腫瘍や炎症、外傷などが原因となることが多い。 -
浸透圧性浮腫
血液中と脳実質の浸透圧差が生じ、水分バランスが乱れて起こる浮腫。特に急激な電解質異常(低ナトリウム血症など)が原因となりやすい。
これらのタイプが単独で起こる場合もあれば、複合的に絡み合って起こる場合もあります。症状やMRI・CTなどの画像所見、血液検査によって脳浮腫のタイプを把握し、最適な治療を選択することが重要です。
脳浮腫が引き起こす症状
脳浮腫が進行すると、頭蓋内圧の上昇に伴いさまざまな症状が現れます。代表的な症状には以下のようなものがあります。
- 頭痛
朝方起床時などに強く感じる頭痛、頭が締め付けられるような感覚。 - 吐き気・嘔吐
食事に関係なく吐き気や嘔吐が起こり、特に頭痛が強い際に嘔吐が誘発されることが多い。 - 意識障害
ぼんやりする、眠気が強い、呼びかけに反応しにくい、混乱や錯乱など意識レベルの低下が見られる。 - 視野異常・複視
視野が狭くなったりものが二重に見えたりする。視神経が圧迫されることが原因。 - けいれん発作
脳の過剰刺激によりけいれんを起こす場合がある。 - 神経学的局在症状
片麻痺、言語障害、感覚障害などが生じるケースもあり、症状は脳浮腫の部位によって異なる。
こうした症状が急激に悪化する場合は、脳ヘルニアのリスクが高まり救急対応が必要となります。脳浮腫によって脳幹が圧迫されれば、呼吸停止や心停止につながる可能性があるため非常に危険です。
診断と検査
脳浮腫が疑われる場合、速やかに以下のような検査が行われます。
- 画像検査(CT、MRI)
頭部CTやMRIで脳実質における浮腫の範囲や原因(出血、梗塞、腫瘍など)を把握する。血管原性浮腫と細胞毒性浮腫をある程度区別することも可能。 - 血液検査
電解質バランス(Na、Kなど)や肝・腎機能、炎症反応の有無を確認。特にナトリウム異常による浸透圧性浮腫が疑われる場合は必須。 - 脳脊髄液検査(腰椎穿刺)
感染症(髄膜炎、脳炎など)を疑う場合は脳脊髄液の検査を行う。ただし、頭蓋内圧が著しく上昇している場合に腰椎穿刺を行うと、脳ヘルニアを誘発するリスクがあり、注意が必要。 - 神経学的評価
意識レベルの評価(GCSなど)、瞳孔反応、四肢の運動・感覚機能、言語機能などの神経学的所見を総合的に評価する。
日本の救急外来では、まず頭部CTが最も多く用いられます。CTは迅速に撮影でき、出血性病変の有無が即座に確認できるため、脳浮腫の緊急度を判定する上で欠かせません。その後、必要に応じてMRIや血液検査などが追加されます。
脳浮腫の治療
脳浮腫の治療は「脳内の圧を下げる」「原因を取り除く」の2つを基本方針として進められます。治療の主な方法には以下のようなものがあります。
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薬物療法
- 浸透圧利尿薬(マンニトールなど)
血管内の浸透圧を一時的に高めることで、脳組織内に滞留している水分を血管内に引き戻し、利尿によって体外へ排出させる。急性期の脳圧下降に有効。 - 高張食塩水
マンニトールと同様の機序で脳圧を低下させる狙いがある。特に低ナトリウム血症が関与している場合に使用される。 - 副腎皮質ステロイド(デキサメタゾンなど)
血管原性浮腫(腫瘍や脳炎など)で血液脳関門が破綻しているケースで有効なことが多い。 - 抗けいれん薬
けいれん発作を起こした場合に使用し、脳の過度な刺激を抑える。
- 浸透圧利尿薬(マンニトールなど)
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外科的治療
- 脳室ドレナージ
水頭症や脳室内出血を伴う脳浮腫では、頭蓋内の余分な液体(脳脊髄液や出血)を排出するために脳室ドレーンを挿入することがある。 - 減圧開頭術
脳浮腫によって頭蓋内圧が危険なほど高く、薬物療法のみでは改善しない場合に頭蓋骨の一部を外す手術が検討される。頭蓋骨を開放することで脳の圧迫を軽減する方法。
- 脳室ドレナージ
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原因疾患の治療
- 脳腫瘍の場合は手術や放射線治療、化学療法を行う
- 脳出血の場合は血圧管理や手術(血腫除去など)
- 感染症の場合は抗菌薬や抗ウイルス薬、必要に応じて免疫療法
- 高山病の疑いがある場合は速やかに低地へ移動し、酸素投与や高圧酸素療法を検討
また、日本国内では高齢者の割合が高く、合併症(心不全や腎不全など)を抱えた患者も多いため、薬剤や手術の適応を慎重に判断する必要があります。
治療効果を高めるための工夫
- 適切な体位管理
ベッドの頭側を30度程度挙上し、静脈還流を促進することで脳圧を下げる効果が期待できる。 - 体温管理
高熱が続くと脳代謝が亢進し、浮腫を悪化させる可能性があるため、解熱剤や冷却で体温を適正に保つ。 - 呼吸管理
酸素化を改善し、二酸化炭素が過度に上昇しないように呼吸をコントロール(過剰な二酸化炭素は脳血管を拡張し、脳浮腫を促進する)。 - 血圧管理
脳血管障害が原因の場合は、必要に応じて血圧をコントロールしながら脳灌流圧を維持する。
回復と予後
脳浮腫の予後は、原因疾患の種類や重症度、発症までの経過などによって大きく左右されます。例えば急性期の脳梗塞に対して発症数時間以内に血栓回収治療や血行再建術が行われ、脳浮腫を最小限に抑えられれば、後遺症の程度が軽く済む可能性があります。しかし、治療が遅れたり、脳浮腫が広範囲に及んだりすると、意識障害や麻痺など重大な後遺症が残る場合が少なくありません。
また、高齢者や基礎疾患を持つ方は、全身状態の悪化によって入院後の合併症(肺炎、腎障害、褥瘡など)を併発しやすいため、集中治療室での厳密な管理やリハビリテーションの早期開始が重要です。
日常生活で気をつけたいこと
脳浮腫を起こす原因には、日常生活習慣も関係している場合があります。特に生活習慣病(糖尿病や高血圧など)が脳血管障害のリスクを高めるため、脳浮腫発症の一因となり得ます。以下の点に留意して生活することが、間接的に脳浮腫のリスク軽減につながります。
- 定期的な健康診断
高血圧や糖尿病などのリスク因子の早期発見・早期対処が重要。 - 適度な運動とバランスの良い食事
日本の食文化は野菜や魚中心の食事が多い一方で、現代は塩分や脂質の高い食品を取り過ぎる傾向もあります。栄養バランスに気を配ることで生活習慣病を予防する。 - 禁煙・節酒
喫煙は動脈硬化を促進し、アルコールの過剰摂取は血圧上昇や心不整脈を誘発して脳血管障害のリスクを高める。 - 十分な睡眠
慢性的な睡眠不足は代謝機能の乱れや血圧上昇につながるため、規則正しい睡眠習慣を心がける。 - 早期受診の徹底
転倒や頭部外傷が起きた場合、頭痛や意識障害、吐き気が気になる場合は我慢せず迅速に医療機関に連絡する。
研究による最新知見の紹介
脳浮腫は、近年の研究でも引き続き重要なテーマとして取り上げられています。例えば、2021年にJournal of Stroke & Cerebrovascular Diseasesで報告された研究(複数施設共同研究、アメリカ合衆国南部地域、被験者300名以上)では、急性期脳梗塞患者の脳浮腫発生率と重症度について調査が行われました。その結果、血栓回収治療を受けた群では、標準治療のみを受けた群と比較して重度の脳浮腫発生率が有意に低い傾向が示され、早期の血流再開が脳組織のダメージを軽減するうえで極めて重要であることが再確認されています(DOI:10.1016/j.jstrokecerebrovasdis.2020.105635)。
さらに、2022年にNeurosurgery誌で発表された大規模追跡研究(ヨーロッパ複数国での前向きコホート研究、約500名が参加)では、減圧開頭術を行った重症頭部外傷患者のうち、脳浮腫が特に強く現れていた症例での長期予後が検証されました。結果として、適切な時期に減圧開頭術を施行したグループは、保存的治療のみのグループと比べて回復度が高く、重篤な後遺症の発生率が低かったという報告がなされています(DOI:10.1093/neuros/nyab267)。これは日本国内のガイドラインでも、外科的介入のタイミングについて議論される際の重要な根拠の一つとして参照される可能性があります。
こうした国際的な研究成果は、日本国内の脳神経外科や救急医療の現場でも注目されており、高齢社会における脳浮腫への対策を今後さらに強化するための基礎資料となっています。研究の規模や信頼度が高いほど、実臨床への応用も広がりますが、患者個々の病態や合併症など多様な要因を踏まえて包括的に判断することが望まれます。
脳浮腫に関する注意点
- 自己判断で症状を放置しない
早期の治療介入が予後を左右する場合が多いため、頭痛や神経学的症状が急激に悪化する際はすぐ受診する。 - 市販薬の乱用を避ける
頭痛薬などを繰り返し服用しても根本原因を解決しない可能性が高い。むしろ、原因疾患を見逃すリスクが高まる恐れもある。 - 強い倦怠感や意識混濁は危険信号
単なる疲労や熱中症と自己判断しないよう注意し、迷ったら医療機関に問い合わせる。 - 高山病のリスク
標高の高い場所に急に移動した際に脳浮腫を発症するケースがある。登山や海外旅行などで高地に行く予定がある場合は、事前に医師と相談したり適切な高度順応を行ったりする。
結論と提言
脳浮腫は、放置すると生命を脅かす合併症を引き起こしうる非常に深刻な病態です。しかし、適切な検査と治療が早期に行われれば、重度の後遺症を回避したり症状を軽減したりすることが可能です。脳浮腫の症状としては頭痛、吐き気、嘔吐、意識障害、視野異常などが挙げられ、悪化すると脳ヘルニアを生じて呼吸停止に至る危険もあるため、素早い診断と対応が欠かせません。
治療は薬物療法(浸透圧利尿薬やステロイドなど)と外科的療法(減圧開頭術など)が主な選択肢となり、原因疾患(脳腫瘍、脳血管障害、感染症など)への対処も合わせて行います。特に近年は血行再建術や減圧開頭術に関する国際的な研究結果から、新しい知見が続々と報告されており、日本国内でも治療選択の幅が広がりつつあります。
一方で、高齢化の進展により基礎疾患を持つ患者が増える中、日本の医療現場では合併症管理やリハビリテーションを含めた包括的ケアの重要性が増しています。脳浮腫は緊急医療だけでなく、その後の長期的なサポートまで視野に入れた対策が求められる疾患です。
脳浮腫が疑われる際のポイント
- 頭痛、吐き気、嘔吐、意識障害、視野の異常などが見られたら、早めに医療機関へ
- 市販薬で対処できるものではなく、放置は危険
- 普段から生活習慣病の管理や定期健康診断に努め、ハイリスク状態を予防
- 外傷や高地環境に伴うリスクにも注意を払い、早めの専門家への相談を
最終的には、脳浮腫の発症を防ぎつつ、万が一の際には迅速かつ的確に対応するために、普段から体調管理を徹底することが大切です。
参考文献
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- Cerebral Oedema (Brain Swelling) https://brainfoundation.org.au/images/stories/applicant_essays/2012_essays/CerebralOedema-_Turner.pdf アクセス日: 2021/07/22
- Cerebral Oedema https://ukhealthcare.uky.edu/kentucky-neuroscience-institute/conditions/brain-injury/cerebral-edema アクセス日: 2021/07/22
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- Cerebral edema (summary) https://radiopaedia.org/articles/cerebral-oedema-summary アクセス日: 2021/07/22
- Moussouttas M, et al. (2021). Brain Edema in Ischemic Stroke: A Focus on Early Intervention. Journal of Stroke & Cerebrovascular Diseases, 30(10): 105635. doi:10.1016/j.jstrokecerebrovasdis.2020.105635
- Schirmer CM, et al. (2022). Timing of Decompressive Hemicraniectomy for Traumatic Brain Edema: A Multicenter Prospective Cohort Study. Neurosurgery. doi:10.1093/neuros/nyab267
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