腎臓を守るための脂肪燃焼ダイエット完全ガイド:専門家が解説する食事療法の全貌
腎臓と尿路の病気

腎臓を守るための脂肪燃焼ダイエット完全ガイド:専門家が解説する食事療法の全貌

日本の「新たな国民病」とも呼ばれる慢性腎臓病(CKD)。その患者数は成人のおよそ8人に1人、約1400万人から2000万人にものぼると推定されており、これはもはや他人事ではない深刻な健康問題です12。特に懸念されるのは、透析導入の最大の原因が糖尿病性腎症であり、全体の39.5%を占めているという事実です3。このことは、肥満や不健康な食生活といった生活習慣が、腎機能の低下に直接的に、かつ強力に関与していることを示唆しています。この記事では、JHO編集委員会が最新の科学的知見と日本の臨床ガイドラインに基づき、腎臓の健康を維持しながら安全かつ効果的に体脂肪を減らすための食事療法について、その科学的根拠から具体的な実践方法までを徹底的に解説します。単なる減量ではなく、腎臓という生命維持に不可欠な臓器を生涯にわたって守り抜くための、信頼できる知識と行動計画をご提供します。

この記事の科学的根拠

この記事は、入力された研究報告書で明示的に引用されている最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下に示すリストには、実際に参照された情報源と、提示された医学的指針への直接的な関連性のみが含まれています。

  • 日本腎臓学会: 本記事における慢性腎臓病(CKD)のステージ分類、たんぱく質制限、塩分、カリウムなどの栄養指導目標に関する記述は、同学会が発行した「CKD診療ガイドライン2023」に基づいています311
  • KDIGO (Kidney Disease: Improving Global Outcomes): 腎臓病の評価と管理に関する国際的な標準治療の指針は、世界的に最も影響力のあるKDIGOの臨床実践ガイドラインを参考にしています29
  • KDOQI (Kidney Disease Outcomes Quality Initiative): 米国腎臓財団によるCKD患者の栄養に関する詳細なガイダンスは、特に脂質管理やエネルギー摂取の重要性を裏付ける情報源として活用されています1830
  • 厚生労働省: 日本人全体の栄養摂取基準に関する記述は、厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」を基礎としており、これを腎臓病患者向けに調整する際の土台としています20
  • 主要な学術研究: 脂肪細胞が腎臓に与える「脂肪毒性」のメカニズムや、超加工食品(UPFs)に含まれるリン酸塩の危険性に関する科学的分析は、複数の査読付き学術論文に基づいています623

要点まとめ

  • 体重管理、特に内臓脂肪の減少は、腎臓の炎症や細胞障害を直接的に抑制し、腎機能を保護するための最も重要な戦略の一つです。
  • 食事における脂質は「量」よりも「質」が重要です。肉の脂身や加工食品に多い飽和脂肪酸・トランス脂肪酸を減らし、青魚や植物油に含まれる不飽和脂肪酸に置き換えることが推奨されます。
  • 腎臓病を持つ方の減量計画は、①減塩、②適切なたんぱく質管理、③十分なエネルギー確保、④医師の指示に基づくカリウム・リン管理、という4つの安全基盤の上で成り立たなければなりません。
  • 「ベジファースト(野菜から先に食べる)」や、有害な添加物を含むことが多い超加工食品を避けるといった、日々の簡単な食習慣の改善が、腎臓保護に大きな効果をもたらします。
  • 自己判断による極端な食事制限は、低栄養や筋肉量の減少を招き、かえって腎臓病を悪化させる危険性があります。必ず主治医や管理栄養士に相談の上、個別化された指導を受けてください。

なぜ過剰な脂肪は腎臓を傷つけるのか?その科学的根拠

肥満と慢性腎臓病の関連は、単なる統計上の相関関係ではありません。その背後には、過剰な脂肪組織、特に内臓脂肪が腎臓の微細な構造を直接攻撃する、明確な生物学的メカニズムが存在します。

日本の現状:CKDは「新たな国民病」

慢性腎臓病(CKD)は、日本において「新たな国民病」と称されるほど蔓延しています1。その患者数は1400万人から2000万人にも達するとされ、成人の5人から8人に1人が罹患している計算になります1。これらの数字は、静かに進行し、生活の質と医療制度に甚大な影響を与える健康危機の実態を浮き彫りにします。日本のBMI(体格指数)25以上の肥満は、末期腎不全に至る重要な危険因子として特定されています4。さらに憂慮すべきは、日本が人口100万人あたりの透析患者数で世界第3位であるという事実であり、これはCKDがもたらす社会的・経済的負担の大きさを物語っています1

肥満が腎臓を攻撃するメカニズム:脂肪毒性とは

肥満による腎障害の根本的な原因は、体重そのものではなく、過剰な脂肪組織、特に内臓脂肪の異常な代謝活動にあります。脂肪組織は不活性な塊ではなく、炎症を引き起こすサイトカインなどを分泌する活発な内分泌器官として機能します4。これらの物質は全身の慢性的な微弱炎症を引き起こし、腎臓の繊細な構造を直接傷つけます。

細胞レベルでの中核的な有害作用は「脂肪毒性(lipotoxicity)」と呼ばれる現象です6。肥満状態では、脂肪組織での脂質分解が過剰に進み、大量の遊離脂肪酸(Free Fatty Acids – FFAs)が血中に放出されます。この過剰なFFAsは、腎臓を含む他の臓器の処理能力を超えてしまいます。特に腎臓の尿細管細胞がFFAsに「浸水」されると、細胞内に異常な脂質が蓄積し、以下のような一連の障害を引き起こします6

  • 酸化ストレス:過剰なFFAsの代謝過程で大量の活性酸素が発生し、細胞膜やDNAを損傷します。
  • ミトコンドリア機能障害:細胞のエネルギー工場であるミトコンドリアが過負荷となり、エネルギー産生の低下と細胞死(アポトーシス)の亢進を招きます。
  • 炎症と線維化:脂肪毒性は炎症反応を誘発し、正常な腎組織が機能しない瘢痕組織に置き換わる「線維化」を促進します。これにより、腎機能は不可逆的に低下していきます6

したがって、腎臓保護を目的とした減量とは、単に体重計の数値を減らすことではありません。その本質的な目標は、内臓脂肪量を減らし、炎症性物質の「工場」を停止させ、血中のFFAs濃度を下げることで、腎細胞を脂肪毒性から救出することにあるのです。


腎臓病食事療法の基本:減量戦略を立てる前の4つの鉄則

減量戦略を具体化する前に、全てのCKD患者が遵守すべき栄養療法の基本原則を理解することが不可欠です。日本腎臓学会のガイドラインなどに基づき、腎臓への負担を軽減し、病状の進行を遅らせるために確立された4つの柱が存在します711。いかなる減量法も、これらの原則の枠内で安全に行われなければなりません。

第一の柱:減塩(1日6g未満)

減塩は、ほぼ全てのCKDステージで適用される最も基本的な原則です。目標は1日6g未満とされています911。塩分を制限することは、腎障害を促進する最大の要因の一つである高血圧の管理に直結します。また、体内の水分貯留や浮腫(むくみ)を軽減し、糸球体への直接的なろ過負担を減らす効果もあります11

第二の柱:たんぱく質制限(ステージに応じた調整)

たんぱく質は代謝されると、尿素などの窒素性老廃物を生成し、これらは腎臓によって排泄されます。腎機能が低下すると、これらの老廃物が体内に蓄積し、尿毒症の症状を引き起こしたり、残存するネフロン(腎臓の機能単位)に過剰な負担をかけたりします7。そのため、病気の進行度(ステージ)に応じたたんぱく質の制限が必要です。日本のガイドラインでは、ステージG3aで標準体重1kgあたり0.8〜1.0g/日、G3b〜G5では0.6〜0.8g/日への制限が推奨されています11

第三の柱:十分なエネルギー摂取(低栄養の防止)

これは極めて重要でありながら、見過ごされがちな原則です。たんぱく質を制限すると、食事からの総摂取エネルギーが不足しがちになります。エネルギーが不足すると、体は自らの筋肉を分解してエネルギー源としてしまい、「るいそう(Protein-Energy Wasting – PEW)」と呼ばれる危険な状態に陥ります10。PEWは低栄養、免疫力低下を招き、病状をかえって悪化させます。したがって、標準体重1kgあたり25〜35kcal/日のエネルギーを、主に炭水化物や良質な脂質から確保することが目標となります8

第四の柱:カリウム・リンの管理(医師の指示に基づく)

腎機能が著しく低下すると、カリウムの排泄能力も低下し、高カリウム血症のリスクが高まります。これは不整脈や心停止を引き起こす可能性のある危険な状態です。そのため、カリウム制限は血液検査の結果に基づき、医師から指示があった場合にのみ適用されます12。通常、ステージG3bで2,000mg/日未満、G4〜G5で1,500mg/日未満が目安とされます11。同様に、リンの管理も腎臓病の進行を抑える上で重要です。


脂肪を科学する:「味方」と「敵」を見極める

腎臓病の文脈において、「脂質」をひとくくりに考えることはできません。脂質の種類を明確に区別し、有害な脂質を減らし、有益な脂質を積極的に摂取する「賢い置き換え」こそが、減量と心血管保護を両立させる鍵となります。

避けるべき「敵」の脂肪:飽和脂肪酸とトランス脂肪酸

これらの脂質は、体内の炎症を促進し、血中脂質プロファイルを悪化させ、動脈硬化を進行させることで、腎臓内の微細な血管にダメージを与えます。

  • 飽和脂肪酸(飽和脂肪酸):豚や牛の脂身、鶏肉の皮、バター、生クリームなどの動物性脂肪に多く含まれます。過剰摂取はLDL(悪玉)コレステロールを増加させ、動脈硬化の主因となります15
  • トランス脂肪酸(トランス脂肪酸):植物油を加工して固形にする過程で生成される、最も有害な脂質です。マーガリン、ショートニング、業務用クッキー、ファストフードなどに多く含まれます。LDLコレステロールを急増させるだけでなく、HDL(善玉)コレステロールを減少させるという二重の害をもたらします15

積極的に摂りたい「味方」の脂肪:不飽和脂肪酸

これらの脂質は、血中脂質を改善し、炎症を抑制し、心血管系を保護する効果があります。これは、心血管イベントの危険性が非常に高いCKD患者にとって極めて重要です。

  • 一価不飽和脂肪酸:オリーブオイル、キャノーラ油、アボカド、アーモンドなどに豊富です。LDLコレステロールを下げ、HDLコレステロールを維持するのに役立ちます17
  • 多価不飽和脂肪酸:オメガ6系とオメガ3系に大別されます。特に重要なのがオメガ3系です。
    • オメガ3系脂肪酸(n-3系不飽和脂肪酸):腎臓と心臓の保護における「スター選手」です。さば、いわし、さんまといった日本の「青魚」に豊富なEPA(エイコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)は、中性脂肪を下げ、抗炎症作用を持ち、動脈硬化プラークの形成を防ぐことが数多くの研究で示されています4

たんぱく質制限下でエネルギーを確保するためにも、良質な脂質は不可欠です。オリーブオイルやごま油などの植物油は、たんぱく質を含まずにカロリーを補給できる理想的なエネルギー源であり、低栄養を防ぐ上で重要な役割を果たします1019


腎臓を守る脂肪燃焼ダイエット:今日から実践できる10の具体策

ここでは、科学的原則を具体的な10の行動計画に落とし込みます。各方法は「なぜそれが必要か(科学的根拠)」と「どう実践するか(具体的方法)」を明確に示し、日々の生活にすぐに取り入れられるように解説します。

方法1:青魚と植物油で「良質な脂肪」を主役に

理由:青魚に豊富なオメガ3脂肪酸(EPA・DHA)は、中性脂肪を減らし、抗炎症作用によって動脈硬化を防ぎ、腎臓の微細な血管を守ります4。米国国立衛生研究所(NIH)などの機関も、心臓と腎臓の健康のために魚の摂取を推奨しています9

実践法:

  • 週に2〜3回、さば、いわし、さんまなどの青魚を食卓に取り入れましょう。調理法は塩分を控えた焼き魚、蒸し料理、煮付けが最適です。
  • 調理油はオリーブオイルやキャノーラ油(菜種油)を基本にします。えごま油や亜麻仁油はサラダにかけるなど、非加熱で使うとオメガ3を効率よく摂取できます。

方法2:飽和脂肪酸とトランス脂肪酸を徹底的に避ける

理由:これらの「悪い脂肪」は、動脈硬化を促進し、腎臓への血流を悪化させ、腎機能低下を加速させる元凶です15

実践法:

  • 豚バラ肉や霜降り肉、鶏の皮、バター、生クリーム、ラードの使用を減らしましょう。
  • 食品表示ラベルを確認する習慣をつけ、「ショートニング」「マーガリン」「硬化油」といった表示があるクッキー、菓子パン、スナック菓子、インスタントラーメンなどを避けてください。

方法3:「良質なたんぱく質」を賢く選ぶ

理由:日本の腎臓病栄養指導で強調される「良質なたんぱく質」とは、必須アミノ酸をバランス良く含み、かつ飽和脂肪酸が少ないたんぱく源のことです21。これを賢く選ぶことで、たんぱく質制限を守りながら、脂質管理と心血管保護を同時に達成できます。

実践法:

  • 肉類は、ヒレ肉やもも肉などの赤身、皮を取り除いた鶏むね肉やささみを選びましょう15
  • 魚、特に白身魚や、豆腐、納豆などの大豆製品は、コレステロールを含まず飽和脂肪酸も少ない優れたたんぱく源です9。卵も良質なたんぱく質です。

方法4:「減塩の工夫」をマスターする

理由:1日6g未満の減塩は、血圧をコントロールし、腎臓への負担を直接軽減するための絶対的な基本です9

実践法:

  • 酢、レモン、ゆず、すだちなどの酸味、にんにく、しょうが、しそ、ネギなどの香味野菜、こしょうやカレー粉などの香辛料を積極的に活用し、味に深みを出しましょう。
  • 昆布や鰹節でとった天然のだし(旨味)を基本にすることで、加える塩や醤油の量を減らせます10
  • ラーメンやうどんの汁は飲まない、減塩醤油やポン酢を利用するなどの習慣をつけましょう9

方法5:「ベジファースト」戦略を徹底する

理由:食事の最初に野菜や海藻、きのこなどの食物繊維が豊富なものを食べることで、後から食べる脂質や糖質の吸収速度を穏やかにし、血糖値の急上昇と脂肪の蓄積を抑制します4

実践法:

  • 「野菜・きのこ・海藻 → 肉・魚・大豆製品 → ご飯・パン」の食べる順番を徹底しましょう。
  • 食事の前に、小鉢一杯のサラダや、わかめ入りの味噌汁、きのこのソテーなどを食べる習慣をつけるのが効果的です。

方法6:発酵食品と酢の力を活用する

理由:酢の主成分である酢酸は、脂肪の合成を抑制し、脂肪の燃焼を促進する遺伝子を活性化させることが研究で示されています15。また、納豆は良質なたんぱく質と食物繊維の宝庫であると同時に、納豆キナーゼや善玉菌が心血管や腸内環境の健康に貢献します。

実践法:

  • 1日に大さじ1杯(約15ml)の酢を水で薄めて飲むか、ドレッシングや料理の調味料として積極的に使いましょう。
  • 1日1パックの納豆を食事に取り入れることを目指しましょう。付属のタレの塩分には注意が必要です。

方法7:食べる習慣を見直す(マインドフル・イーティング)

理由:脳が満腹を感じるまでには約20分かかります。ゆっくりよく噛んで食べることで、適切なタイミングで満腹感を得られ、食べ過ぎを防ぎます15。「腹八分目」という日本の伝統的な知恵は、過剰なカロリー摂取を防ぐための実践的な方法です。また、夜遅い食事は、消費されなかったエネルギーが脂肪として蓄積されやすくなります15

実践法:

  • 一口ごとに箸を置く、テレビやスマートフォンを見ながらの「ながら食い」をやめるなど、食事に集中しましょう。
  • 満腹になるまで食べるのではなく、「もう少しいけるかな」というところで食事を終える習慣をつけましょう。
  • 夕食はできるだけ夜9時までに済ませるように心がけましょう。

方法8:飲み物の選択を再評価する

理由:アルコールは栄養価のない「空のカロリー」であり、過剰摂取は中性脂肪を増やし、肝臓と腎臓に負担をかけます4。一方、緑茶やウーロン茶に含まれるカテキンは、脂質代謝を活発にし、特に内臓脂肪の減少に効果的であることが示されています15

実践法:

  • アルコールは適量を守るか、控えるようにしましょう。
  • 甘いジュース、缶コーヒー、スポーツドリンクを水、無糖の緑茶やウーロン茶、ほうじ茶に置き換えましょう。

方法9:超加工食品(UPFs)との戦いを宣言する

理由:超加工食品(カップ麺、ソーセージ、冷凍食品など)は、悪い脂肪・糖・隠れ塩分が多いだけでなく、腎臓病患者にとって特に危険な「無機リン酸塩」を添加物として含んでいることが多いです。この種のリンは体内にほぼ100%吸収され、腎臓に大きな負担をかけ、血管の石灰化を促進して病状を悪化させます2223

実践法:

  • 原材料表示を確認し、「リン酸塩」や「〜リン酸」といった表記がある食品は極力避けましょう。
  • できるだけ素材そのものを購入し、家庭で調理することを基本としましょう。

方法10:エネルギー不足による消耗(るいそう)を防ぐ

理由:これは腎臓病患者の減量において最も重要な安全上の注意点です。極端なカロリー制限は、筋肉を減少させ、免疫力を低下させる「るいそう(PEW)」を引き起こし、腎臓病を悪化させる可能性があります10。目標は「絶食」ではなく、食事内容の「再構築」です。

実践法:

  • たんぱく質や悪い脂肪から得ていたカロリーを、良質な脂質(オリーブオイルなど)や複合炭水化物(玄米、芋類など)からのカロリーに置き換え、総エネルギー摂取量を維持しましょう19
  • 十分なエネルギー確保が難しい場合は、医師や管理栄養士に相談し、低たんぱく・低リン・低カリウムで高カロリーの治療用特殊食品の利用も検討しましょう10

実践ツールと参考資料

知識を行動に変えるために、日々の生活で使える具体的なツールを提供します。

表1:CKD患者の栄養目標基準(参考値)

以下の表は、日本の成人CKD患者における栄養目標の一般的な参考値です。個々の目標は必ず主治医や管理栄養士によって決定される必要があります。

CKDステージ別栄養目標基準(日本腎臓学会ガイドライン等に基づく)
栄養素 ステージG1-G2 ステージG3a ステージG3b ステージG4-G5 単位 出典
エネルギー 25–35 25–35 25–35 25–35 kcal/kg標準体重/日 13
たんぱく質 過剰摂取(>1.3)を避ける 0.8–1.0 0.6–0.8 0.6–0.8 g/kg標準体重/日 11
食塩 < 6 < 6 < 6 < 6 g/日 11
カリウム 制限なし 制限なし < 2,000 (指示時) < 1,500 (指示時) mg/日 11

注:標準体重(kg) = 身長(m) × 身長(m) × 22 で計算されます。

1日のモデル献立:「腎臓に優しい」食事プラン

理論を実践に移すための、日本の食文化に根差した1日の献立例です15

  • 朝食:玄米ご飯(小盛り)、わかめと豆腐の減塩味噌汁、納豆1パック(タレは少なめに)、ゆで卵1個。
    分析:複合炭水化物、良質なたんぱく質、発酵食品をバランス良く摂取。
  • 昼食:鶏むね肉のサラダ(皮なし鶏むね肉100g、多めの緑黄色野菜)。ドレッシングは酢、えごま油、減塩醤油、こしょうで手作り。
    分析:高たんぱく低脂肪の主菜と豊富な食物繊維。「ベジファースト」を実践。
  • 夕食:さばの塩焼き(塩はごく少量)、ほうれん草のおひたし(胡麻和え、醤油は数滴)、白米(小盛り)。
    分析:オメガ3脂肪酸を豊富に含む青魚が主役。茹でる調理法でカリウムを低減。
  • 飲料:無糖のウーロン茶、緑茶、または水。
    分析:糖分や余分なカロリーを避け、カテキンの脂肪燃焼効果を活用。

表2:賢い食品選択のための置き換えガイド

日々の買い物や調理で迷わないための、具体的な食品選択ガイドです。

食品選択比較表
食品カテゴリー 推奨される選択肢 控えるべき選択肢
主食 玄米、全粒粉パン、そば、いも類 白米(適量に)、菓子パン、インスタントラーメン、ケーキ
主菜(たんぱく質源) 青魚、白身魚、鶏むね肉・ささみ(皮なし)、豚・牛ヒレ肉、卵、豆腐、納豆 豚バラ肉、霜降り肉、鶏皮、ソーセージ・ハム等の加工肉、揚げ物
副菜(野菜) 緑黄色野菜、きのこ類、海藻類(カリウム制限時は茹でこぼし等の調理法を工夫) 漬物、フライドポテト、市販のポテトサラダ(マヨネーズ多用)
油脂 オリーブ油、キャノーラ油、えごま油、ごま油 バター、ラード、マーガリン、ショートニング、パーム油
調味料 酢、レモン、香味野菜、香辛料、減塩醤油、天然だし 食塩、普通醤油、焼肉のタレ等の市販ソース、だしの素、化学調味料
飲み物 水、無糖の緑茶・ウーロン茶・ほうじ茶 加糖ジュース、缶コーヒー、スポーツドリンク、アルコール類

よくある質問

腎臓病でも減量して大丈夫ですか?かえって体に負担がかかりませんか?

はい、適切に管理された減量は、腎臓の負担を軽減し、病気の進行を遅らせるために非常に有益です。問題となるのは、自己流の不適切な減量法です。例えば、極端なカロリー制限は低栄養(PEW)を招き、高たんぱく質ダイエットは腎臓に直接的な負担をかけます。重要なのは、体重を落とすこと自体ではなく、炎症の原因となる内臓脂肪を減らすことです。そのためには、本記事で解説したように、十分なエネルギーを確保しつつ、脂質の質を改善し、たんぱく質を適切に管理することが不可欠です。必ず医師や管理栄養士の指導のもとで行ってください。

たんぱく質を制限すると、筋肉が落ちてしまいませんか?

これは多くの方が心配される点ですが、正しく行えば筋肉量の減少は最小限に抑えられます。鍵となるのは「十分なエネルギー摂取」です。炭水化物や良質な脂質から十分なエネルギーが供給されていれば、体は筋肉を分解してエネルギー源にする必要がなくなります10。たんぱく質は「量」を制限する一方で、「質」の高いもの(アミノ酸スコアの高い食品)を選ぶことで、体内で効率よく利用され、筋肉の維持に役立ちます。適度な運動を組み合わせることも重要です。

カリウム制限が必要と言われました。野菜や果物が食べられなくて困っています。

カリウム制限は、全ての腎臓病患者に必要なわけではなく、血液検査の結果に基づき医師から指示があった場合にのみ行います12。制限が必要な場合でも、全ての野菜や果物が禁止されるわけではありません。一般的に、野菜は生で食べるよりも「茹でてお湯を捨てる(茹でこぼし)」、「水にさらす」といった下処理をすることで、カリウム量を大幅に減らすことができます。どの食品にカリウムが多く、どの程度なら摂取可能かについては、個人差が大きいため、必ず管理栄養士に相談し、自分に合った具体的な食品リストと調理法について指導を受けてください。

結論

過剰な脂肪、特に内臓脂肪と腎臓の健康との間には、科学的に証明された深い関連性があります。腎臓を守るための食事療法は、厳しい絶食や特定の食品群を完全に排除するような苦行ではありません。それは「賢い選択」と「合理的な置き換え」を基本とした、持続可能な戦略です。体重を管理することは、すなわち腎臓の健康を管理することに他なりません。有害な飽和脂肪酸やトランス脂肪酸を有益な不飽和脂肪酸に置き換え、減塩・適切なたんぱく質管理・十分なエネルギー確保という安全な基盤の上で、健康的な食生活を再構築することが重要です。このプロセスは、一時的なダイエットではなく、あなたの腎臓を生涯にわたって守るための新しいライフスタイルを築くための第一歩なのです。

免責事項この記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスに代わるものではありません。健康上の懸念がある場合や、健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。特に、慢性腎臓病の食事療法は個々の病状、検査結果、合併症によって大きく異なるため、自己判断で食事内容を大幅に変更することは極めて危険です。本記事で紹介した内容は、必ず主治医(主治医)や管理栄養士(管理栄養士)と相談の上で、ご自身の治療計画に取り入れるようにしてください1125

参考文献

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