この記事の科学的根拠
この記事は、入力された研究報告書で明示的に引用されている最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下の一覧には、実際に参照された情報源と、提示された医学的ガイダンスとの直接的な関連性のみが含まれています。
- 日本腎臓学会 (JSN): この記事における慢性腎臓病(CKD)の早期発見の重要性に関する指針は、日本腎臓学会が発行した「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」に基づいています6。
- SNMMI/EANM (米国核医学会/欧州核医学会): 利尿レノグラムの標準的な手順、特に薬剤(フロセミド)の投与量や99mTc-MAG3の使用を推奨する指針は、これらの国際的な学会が共同で発行したガイドラインに基づいています5。
- 日本核医学会 (JSNM): 小児に対する検査の安全性と適切な放射性医薬品の投与量に関する記述は、日本核医学会が公表した「小児核医学検査適正施行のコンセンサスガイドライン 2020」を参考にしています78。
- 東京女子医科大学医療センター: 放射性医薬品による副作用の発生率に関する具体的な数値は、同センターが公開している資料に基づいています13。
- 東京都立大塚病院: 検査費用に関する具体的な目安は、同病院が公開している料金表を参考に提示しています1。
要点まとめ
- 腎臓シンチグラフィーは、CTやMRIが腎臓の「形」を見るのに対し、その「働き(機能)」を画像化する専門的な検査です。
- 検査には、尿の流れを時間と共に評価する「腎動態シンチグラフィー(レノグラム)」と、腎臓の機能している組織を詳しく見る「腎静態シンチグラフィー」の2種類があります。
- 腎血管性高血圧、水腎症、腎移植後の評価など、特定の疾患の診断や治療方針の決定に不可欠な情報を提供します。
- 検査による放射線被ばく量は胃のバリウム検査よりも少ないレベルで、副作用も極めて稀であり、非常に安全性の高い検査とされています13。
- 費用は健康保険が適用され、3割負担の場合、約15,000円から20,000円が目安です1。
- 結果の解釈は、レノグラム曲線などを用いて専門医が総合的に行い、今後の治療に役立てられます。
腎シンチ検査の基礎知識
主治医から腎臓シンチグラフィー(レノグラム)を勧められ、「放射線は大丈夫なのか」「どれくらい正確な検査なのか」「自分の腎臓がどの程度悪いのか」と不安や疑問を抱いている方も多いと思います。慢性腎臓病(CKD)は自覚症状に乏しく、気づいたときには病気が進行していることも少なくありません。そのような中で、腎臓シンチという聞き慣れない検査を急に提示されると、必要性が分からず戸惑ってしまうのは当然です。このボックスでは、記事本編の内容を踏まえながら、腎臓シンチグラフィーを受ける意味をもう一度整理し、不安を少しでも和らげるための視点をお伝えします。
腎臓シンチグラフィーは、CTやMRIのように腎臓の「形」を見る検査ではなく、左右それぞれの腎臓がどのくらい働いているか、尿の流れに異常がないかといった「機能」を詳しく評価できることが大きな特徴です。検査の目的や流れ、安全性を理解しておくと、「何のためにこの検査をするのか」「結果が治療方針にどう生かされるのか」が見えやすくなります。腎臓病は一つの検査だけで判断するのではなく、血液検査や尿検査、画像検査などを組み合わせて総合的に評価していく必要があります。腎臓や尿路全体の病気の位置づけや、他の検査との関係性を整理したい場合は、腎臓と尿路の病気を総合的に解説している腎臓と尿路の病気 完全ガイドを併せて読むと、全体像をつかみやすくなります。
そもそも腎臓シンチグラフィーが必要になる背景には、腎臓が「沈黙の臓器」と呼ばれるほど症状が出にくく、慢性腎臓病(CKD)が長い時間をかけて進行していくという特性があります。日本腎臓学会のガイドラインでも、CKDの早期発見と適切な管理の重要性が強調されており、血液検査や尿検査だけでは分かりにくい左右差や尿路閉塞の有無を把握するために、腎臓シンチグラフィーのような機能検査が役立ちます。特に、日本では「沈黙の国民病」とされる慢性腎臓病が広く知られるようになり、腎機能を守るためにどのタイミングでどの検査を行うべきかを理解することが大切です。その全体像を整理するうえでは、日本の2000万人が知るべきとされる慢性腎臓病(CKD)の解説記事も参考になります。CKDの特性を理解しておくと、なぜ自分に腎臓シンチグラフィーが勧められたのか、その必然性が見えやすくなるはずです。
実際の診療では、腎臓シンチグラフィーだけでなく、血液検査や尿検査、とくに1日の尿をまとめて評価する検査と組み合わせて腎機能を多面的に評価します。記事本編にもあるように、スポットの尿検査や血液検査だけでは「その瞬間」の情報しか分からないため、より安定した全体像をつかむことが重要です。例えば、1日の尿量やナトリウム・カルシウムなどの排泄量を調べる24時間尿検査は、腎臓シンチグラフィーで得られる機能的情報を補完し、生活習慣や食事療法の見直しにも役立つ検査です。腎臓シンチグラフィーと合わせてどのように検査計画が組まれるのか、24時間尿でどのようなデータが得られるのかを詳しく知りたい場合は、24時間尿検査の詳細解説も目を通しておくと、検査同士の役割分担が理解しやすくなります。
腎臓シンチグラフィーには、記事で解説されているようなレノグラム(動態シンチ)だけでなく、腎臓の皮質機能や瘢痕を詳しく評価する静態シンチグラフィー(DMSAシンチ)もあります。レノグラムが血流や尿の流れを時間経過とともに追いかける「動きの検査」であるのに対し、DMSAシンチは腎実質のどの部分がどれだけ機能しているかを高精細に可視化する「静止画の検査」とイメージすると分かりやすいでしょう。繰り返す尿路感染症後の瘢痕評価や、先天性の形態異常を伴う症例では、この静態シンチが治療方針の決定に大きく貢献します。自分のケースでレノグラムとDMSAシンチのどちらが適しているのか、あるいは両方が必要なのかを知りたい方は、DMSA腎シンチグラフィー完全ガイドをあわせて読むと、それぞれの役割や適応の違いがよりクリアになります。
また、腎臓シンチグラフィーが行われる場面は、慢性腎臓病だけに限られません。急激な腎機能の悪化(急性腎障害)が疑われる場合や、尿の流れが急に悪くなった疑いがある場合には、血液検査・尿検査・超音波検査などとともに、腎臓シンチグラフィーが原因検索の一つとして検討されます。突然の尿量低下やむくみ、強い倦怠感などがあるときは、自己判断で様子をみ続けるのではなく、専門的な検査を組み合わせた体系的な診断アプローチが重要です。こうした急性の状態に対する評価手順は、急性腎障害(AKI)の診断ガイドに詳しく整理されています。さらに、初期症状から末期までの腎臓のサインを見逃さないためのポイントは、腎臓からの危険信号の解説を通じて確認しておくと安心です。
腎臓シンチグラフィーは、放射線量が胃のバリウム検査より少なく、副作用もまれとされる安全性の高い検査でありながら、左右の腎機能や尿の流れを定量的に把握できる大きなメリットがあります。記事本編とここで紹介した関連情報を組み合わせて読むことで、「なぜ自分にこの検査が必要なのか」「結果が今後の治療や生活にどうつながるのか」を、より納得感をもって理解できるはずです。不安な点や疑問が残る場合は、一人で抱え込まずに、主治医に率直に質問してみてください。検査の意味を理解し、自分の腎臓の状態を正しく知ることが、将来の腎機能を守るための第一歩になります。
腎臓シンチグラフィーとは?他の検査(CT/MRI)との決定的な違い
腎臓の検査と聞くと、多くの方がCT検査やMRI検査を思い浮かべるかもしれません。これらの検査は、腎臓の形、大きさ、腫瘍や結石の有無といった「解剖学的な構造」を非常に鮮明に描き出すことに長けています18。いわば、腎臓の精密な「地図」を作成するようなものです。
一方で、腎臓シンチグラフィーは全く異なる側面に光を当てます。この検査の目的は、腎臓の「形」ではなく、その「働き(機能)」を評価することです。ごく微量の放射性医薬品(ラジオアイソトープ)を体内に投与し、その薬剤が腎臓に取り込まれ、尿として排泄されていく様子を特殊なカメラ(ガンマカメラ)で撮影します。これにより、左右の腎臓がそれぞれどの程度の割合で機能しているのか(分腎機能)、腎臓への血流は十分か、尿はスムーズに流れているか、といった動的な情報を得ることができます15。これは、腎臓の「活動報告書」を得るようなものと言えるでしょう。
| 検査の種類 | 主な目的 | わかること |
|---|---|---|
| 腎臓シンチグラフィー | 機能の評価 | 左右別々の腎機能、血流、尿の排泄動態 |
| CT/MRI検査 | 形態の評価 | 腎臓の形、大きさ、腫瘍、結石、嚢胞の有無18 |
| 超音波(エコー)検査 | 形態の評価(簡易) | 腎臓の大きさ、水腎症の有無、副作用がほとんどない19 |
このように、腎臓シンチグラフィーは他の画像検査では得られない「機能的情報」を提供し、多くの腎疾患の正確な診断と治療方針の決定に不可欠な役割を担っています。
検査の2つの主要な種類:目的によって薬と方法が違う
腎臓シンチグラフィーは、医師が何を知りたいかという臨床的な疑問に応じて、大きく2つの種類に分けられます。使用する放射性医薬品と検査方法がそれぞれ異なります。
腎動態シンチグラフィー(レノグラム):腎臓の「働き」と尿の流れをリアルタイムで見る
これは、腎臓の活動を時系列で追う「ドキュメンタリー映画」のような検査です。薬剤の注射後、連続的に撮影を行い、腎臓への血流、腎臓での濃縮、そして尿管への排泄という一連の流れを評価します。この検査で得られる時間と放射能の関係を示したグラフはレノグラム曲線と呼ばれ、腎機能の診断に極めて重要です4。
- 使用する薬剤: 主に99mTc-MAG3(メルカプトアセチルグリシルグリシルグリシン)または99mTc-DTPA(ジエチレントリアミン五酢酸)が用いられます20。
- 特徴と使い分け: MAG3は腎臓の尿細管から効率よく排泄され、腎臓への有効な血流(実効腎血漿流量)を反映します。一方、DTPAは糸球体でろ過されるため、糸球体ろ過量(GFR)を反映します20。特に尿路の閉塞が疑われる場合、SNMMI(米国核医学会)とEANM(欧州核医学会)の共同ガイドラインでは、MAG3がDTPAよりも優先的に推奨されています。これは、MAG3の方が腎臓からの排出効率が高く、閉塞の評価に適しているためです5。
腎静態シンチグラフィー:腎臓の「形」と機能する組織を詳しく見る
こちらは、機能している腎臓の皮質を詳細に写し出す「高精細な肖像画」のような検査です。薬剤を注射してから数時間後、薬剤が腎臓の皮質細胞に十分集まった時点で撮影します。
- 使用する薬剤: 99mTc-DMSA(ジメルカプトコハク酸)が用いられます。
- 特徴: DMSAは腎臓の尿細管細胞に長時間とどまる性質があります15。これにより、機能している腎組織の分布を鮮明に画像化できます。特に、腎盂腎炎などによる腎臓の瘢痕(はんこん)の評価や、異所性腎(通常とは異なる場所にある腎臓)の機能組織の同定に非常に有用です20。
どのような場合に腎臓シンチグラフィーが必要か?具体的な適応疾患
腎臓シンチグラフィーは、以下のような特定の病状が疑われる、または評価が必要な場合に実施されます。これらの適応は、国内外の診療ガイドラインによって裏付けられています。
- 腎血管性高血圧の疑い: 降圧薬を複数使用しても血圧のコントロールが難しい高血圧の場合、その原因が腎臓へ血液を送る動脈の狭窄にある可能性があります。この検査は、カプトプリルという薬剤を負荷することで、血流の変化を評価し、診断に役立てます15。
- 閉塞性尿路疾患(水腎症など)の評価: 尿の流れが結石や狭窄などによって妨げられている(閉塞)かどうか、またその閉塞がどの程度腎機能に影響を与えているかを判断します。利尿薬(フロセミド)を投与して尿の排出を促し、その反応を見ることで、閉塞の重症度を客観的に評価できます。これは、国際的なガイドラインでも主要な適応とされています5。
- 腎移植後の機能評価: 移植された腎臓が正常に血液供給を受け、機能しているか、また急性拒絶反応やその他の合併症の兆候がないかを経時的に評価するために不可欠です4。
- 小児の先天性腎尿路異常: 生まれつきの腎臓や尿管の形の異常に伴う機能評価、特に繰り返す尿路感染症後の腎瘢痕の評価(DMSAシンチ)に重要です。日本核医学会のガイドラインでは、小児に対する安全な施行方法が詳細に定められています7。
- 分腎機能の評価: 手術などで片方の腎臓を摘出する前に、残る側の腎臓が単独で十分な機能を果たせるかを確認するため、左右の腎機能の割合を正確に測定します3。
検査の実際:当日の流れ、準備、所要時間
検査を受けることが決まった患者さんやご家族の不安を和らげるため、一般的な検査当日の流れを具体的に説明します。これは、日本の多くの医療機関で採用されている手順です3。
検査前の準備
水分補給が重要です
国際的なガイドラインでは、正確な検査結果を得るために、患者さんが十分に水分補給されている状態であることが推奨されています5。特に腎動態シンチグラフィー(レノグラム)の場合、脱水状態だと尿の生成が少なくなり、正しい評価が困難になるためです。検査の30分から60分前に、約500ml(ペットボトル1本分)の水やお茶を飲むよう指示されるのが一般的です。食事については、通常は制限ありませんが、施設によって異なる場合があるため、事前に確認してください。
検査当日の流れ
- 受付と問診、着替え: 指定された時間に病院の放射線科または核医学検査室の受付に行きます。問診で体調やアレルギーの有無などを確認し、検査着(けんさぎ)に着替えます3。
- 静脈路の確保と薬剤投与: 検査室に入り、ベッド(寝台)に仰向けになります。腕の静脈から、ごく微量の放射性医薬品を注射します。痛みは通常の採血と同じ程度です。多くの患者体験談でも、この注射は心配するほどではなかったと報告されています21。
- 撮影開始: 薬剤の注射とほぼ同時に、ガンマカメラによる撮影が始まります(動態シンチの場合)。カメラは体の近くに設置されますが、体に触れたり、痛みや圧迫感を与えたりすることはありません。検査中は体を動かさずに、リラックスして仰向けのままでいることが求められます。所要時間は、動態シンチで約30分、静態シンチでは薬剤投与から撮影開始まで2~3時間待機し、撮影自体は30分程度です。
- 利尿薬の投与(必要な場合): 閉塞性尿路疾患の評価では、検査の途中で利尿薬(フロセミド、商品名ラシックスなど)を追加で注射することがあります。これにより尿の生成が促進され、排出の様子を詳しく観察します5。
- 検査終了と検査後の注意: 撮影が終われば検査は終了です。着替えて帰宅できます。検査後の日常生活に特別な制限はありません。体内に残った放射性医薬品は尿と共に速やかに排出されるため、当日は意識して水分を多めに摂ることが推奨されます。
安全性と費用:放射線被ばくと自己負担額への不安に答える
未知の検査を受ける際、その安全性と費用は誰もが抱く大きな関心事です。ここでは、科学的データに基づいて、これらの疑問に明確にお答えします。
安全性:放射線の影響は心配ないレベル
放射性医薬品と聞くと不安に思われるかもしれませんが、腎臓シンチグラフィー1回あたりの放射線被ばく線量は、検査の種類にもよりますが約1.8~3.6mSv(ミリシーベルト)です。これは、私たちが自然界から1年間に受ける平均的な放射線量(約2.4mSv)と同程度であり、また胃のX線バリウム検査(約4mSv)よりも低いレベルです2。健康への影響が懸念されるレベルをはるかに下回っており、医学的に見て非常に安全な検査と考えられています。
副作用も極めて稀です。東京女子医科大学医療センターの報告によると、核医学検査全体での副作用の発生率は10万件あたり1.2件程度とされています13。ほとんどは軽微なアレルギー反応であり、重篤なものは極めてまれです。
費用:健康保険が適用されます
腎臓シンチグラフィーは、その医学的有用性が確立されているため、健康保険の適用対象となる標準的な検査です。日本の公的医療保険制度のもと、自己負担割合が3割の方の場合、費用は約15,000円から20,000円程度が目安となります1。ただし、この金額は使用する薬剤の種類や、同時に行う処置(利尿薬負荷など)、各医療機関の設備や体制によって変動する可能性があります。正確な費用については、受診する医療機関に事前に問い合わせることをお勧めします。
結果の解釈:レノグラム曲線は何を示しているのか?
検査結果は、専門の医師(放射線科医または核医学専門医)が画像を分析し、主治医に報告書として提出します。特に腎動態シンチグラフィーで得られる「レノグラム曲線」は、腎機能の核心を示す重要なデータです。この曲線は通常、3つの相に分けられます4。
(注:以下は一般的な解釈であり、実際の診断は個々の症例と他の検査結果と合わせて総合的に行われます。)
図1:レノグラム曲線の模式図(JHO編集委員会作成)
第1相:血管相(Vascular Phase)
薬剤注射後、約30~60秒間の急峻な立ち上がりを示します。これは薬剤が血流に乗って腎臓に到達したことを反映しており、腎臓への血流状態を表します。この立ち上がりが低い、または緩やかな場合、腎動脈の狭窄などによる血流低下が疑われます。
第2相:濃縮相(Parenchymal Phase)
薬剤が腎臓の実質細胞に取り込まれ、濃縮されていく過程を示します。曲線はピークに達するまで上昇を続けます。この相の上昇が緩やかであったり、ピークが低かったりすると、腎臓自体の機能(濃縮能力)が低下していることを示唆します。
第3相:排泄相(Excretion Phase)
ピークを過ぎた後、曲線は下降に転じます。これは、腎臓で生成された尿が腎盂から尿管へと排泄されていく様子を示します。この下降が遅い、または全く下降しない場合、尿路に閉塞や狭窄があり、尿の流れが滞っている可能性が強く疑われます。
専門家からのアドバイスと今後の展望
腎臓病の診療において、正確な機能評価は治療方針を決定し、病気の進行を予測する上で極めて重要です。日本核医学会会長の絹谷清剛教授(金沢大学)のような専門家たちは、核医学検査の適正な利用と安全性の確保に努めています1112。また、日本腎臓学会理事長の南学正臣教授(東京大学)らが監修したガイドラインが示すように、腎機能の正確な評価はCKDの進行を抑制するための鍵です91014。腎臓シンチグラフィーは、この評価プロセスにおいて、CTや超音波検査では得られない独自の「機能的情報」を提供し、患者さん一人ひとりに合わせた個別化された治療計画の立案に大きく貢献します。
近年、画像解析技術の進歩により、より定量的な評価が可能になりつつあります。将来的には、AI技術の導入による自動解析なども期待されており、腎臓シンチグラフィーは今後も腎疾患診療において重要な役割を果たし続けるでしょう。
よくある質問 (FAQ)
Q1: 左右の腎機能に差があると言われました。どういう意味ですか?
A1: 腎臓シンチグラフィーの大きな利点の一つは、左右の腎臓の機能を別々に評価できること(分腎機能)です。例えば、全体の腎機能を100%とした場合、「右腎40%、左腎60%」というように数値で示されます。これは、片方の腎臓に血流障害や瘢痕などの問題があり、機能が低下している可能性を示唆しています。この情報は、手術の方針を決めたり、病気の原因を特定したりする上で非常に重要です3。
Q2: 検査後、周囲の人(特に子供や妊婦)に影響はありますか?
A2: 検査で使用する放射性医薬品は半減期が短く、体から速やかに排出されます。検査当日は、念のため乳幼児との長時間の密着した接触を避けるよう指示されることがありますが、翌日にはほとんど影響はなくなります。日常生活を送る上で、家族など周囲の人への特別な配慮は基本的に不要です。ただし、授乳中の方は、検査後一定期間(通常24時間程度)の授乳中断が必要となる場合がありますので、必ず事前に医師に申し出てください8。
Q3: 検査は痛いですか?
A3: 検査自体に痛みは伴いません。唯一の痛みは、最初に放射性医薬品を注射する際の、通常の採血や点滴と同じ程度の針を刺す痛みだけです。撮影中はただベッドに横になっているだけなので、リラックスして受けることができます。
Q4: なぜDMSAシンチは注射してから数時間も待つのですか?
A4: 腎静態シンチで使われる薬剤(99mTc-DMSA)が、腎臓の皮質にある尿細管の細胞に十分に取り込まれ、安定して集積するまでに時間が必要だからです。この待ち時間があることで、機能している腎組織だけを鮮明に画像化し、瘢痕などを正確に評価することが可能になります15。
結論
腎臓シンチグラフィーは、腎臓の「形」ではなく「働き」を詳細に評価するための、現代の腎疾患診療に不可欠な検査です。特に、左右の腎機能を個別に評価したり、尿の流れを動的に観察したりする能力は、他の検査にはない大きな利点です。放射線被ばくや副作用に関する安全性は非常に高く、費用も健康保険の適用範囲内です。もし主治医からこの検査を勧められた場合、それはあなたの腎臓の状態をより深く理解し、最適な治療法を見つけるための重要な一歩です。この記事で得た知識が、皆さんの検査に対する不安を和らげ、前向きに治療に取り組むための一助となれば幸いです。
医師への相談が第一歩です本記事は正確な情報提供を目的としていますが、個々の病状に対する医学的アドバイスに代わるものではありません。検査に関する疑問やご自身の健康状態についての不安は、必ず主治医や専門の医療機関にご相談ください。専門医と連携し、適切な治療を受けることが、あなたの腎臓を守るために最も重要です17。
免責事項本記事は、一般的な情報提供を目的としたものであり、医師の診断や治療に代わるものではありません。個別の健康状態や医療上の決定については、必ず専門の医療機関にご相談ください。
参考文献
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