この記事は、「腎臓病だから果物はダメ」という一方的な制限から脱却し、ご自身の病状を正しく理解し、医師や管理栄養士と協力しながら、果物を安全に、そして豊かに食生活へ取り入れるための「管理方法」を包括的に解説することを目的としています。信頼できる医学的根拠に基づき、制限ではなく「賢い管理」への道筋を示す、あなたのための完全ガイドです。
本記事の科学的根拠と編集体制について
本記事は、厚生労働省や日本腎臓学会などの公的機関・専門学会、大学病院、国際的なガイドライン、査読付き論文などの信頼できる情報に基づき、JHO(JapaneseHealth.org)編集委員会が作成しました。編集部では、AIツールも補助的に活用しつつ、人間の編集者がすべての内容を確認し、日本の生活者にとって分かりやすい形に整理しています。
以下に、本稿で提示される医学的指針に直接関連する主要な情報源を記載します。
- 日本腎臓学会(JSN): 本記事における慢性腎臓病(CKD)のステージ分類、血清カリウム値の管理目標、およびステージごとのカリウム摂取目標に関する指針は、日本腎臓学会発行の「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」に基づいています56。これは日本における腎臓病診療の最も権威ある基準です。
- 新潟大学: 果物や野菜の摂取頻度が死亡リスクに与える影響、および摂取頻度と血清カリウム値との間に必ずしも強い相関が見られないという近年の知見は、新潟大学が発表した日本人CKD患者を含むコホート研究に基づいています1216。
- 文部科学省: 記事内に掲載されている各果物のカリウム含有量に関する具体的な数値データは、文部科学省が公表している「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」から算出されたものです23。
- 植物性食品を重視した食事パターン: CKD患者さんにおける植物性食品中心の低たんぱく食(plant-dominant low-protein diet)の可能性については、最新の総説論文などのエビデンスも参考にしています17。
要点まとめ
- 腎臓病の食事療法は「禁止」ではなく「管理」が基本です。自己判断で果物を完全に断つことは、他の健康上の不利益を生む可能性があります。
- カリウム制限は、CKDの全患者に一律で必要なのではなく、主に血液検査で高カリウム血症を認める場合に、病気の進行度(ステージ)に応じて行われます。
- 果物に含まれるカリウム量は種類によって大きく異なります。「低カリウム」「中カリウム」「高カリウム」の果物を知り、食べる「量」を管理することが最も重要です。
- 調理法(茹でこぼし、缶詰の利用など)を工夫することで、食品中のカリウムを減らし、食事の選択肢を広げることが可能です。
- 食事療法に関する最終的な判断は、必ず主治医や管理栄養士に相談してください。定期的な血液検査に基づいた、あなただけの最適な食事プランを作成することが不可欠です。
腎臓病と果物管理
「腎臓病だから果物は我慢したほうがいい」「カリウムが高いと言われてから何を食べていいのか分からない」と、好きな果物を前に不安や罪悪感を覚えている方も少なくありません。検査でカリウム値を指摘されると、「一口でも食べたら危険なのでは?」と怖くなり、食事そのものが楽しめなくなることもあります。さらに、インターネットや周囲の情報がバラバラで、「何を信じればいいのか」という戸惑いも重なっているかもしれません。
この解説では、腎臓病と果物の関係を「禁止」ではなく「上手な管理」という視点から整理し、この記事の内容をより実生活に落とし込みやすくすることを目指します。腎機能のステージ別にカリウム管理の考え方を整理しながら、「どの果物を」「どのくらいの量で」取り入れていくかの考え方を、やさしく言い換えていきます。腎臓病全体の原因・症状・検査・治療の全体像を確認したい場合は、腎臓や尿路の病気を体系的にまとめた腎臓と尿路の病気 完全ガイドもあわせて参考にすると、現在の自分の位置づけがより分かりやすくなります。
まず押さえておきたいのは、「カリウム管理はCKD患者さん全員に一律ではなく、血清カリウム値と病期によって必要性が変わる」という点です。腎臓のろ過機能がある程度保たれているステージでは、果物を完全にゼロにする必要がないケースも多く、高カリウム血症を認める段階で初めて厳格な制限が求められます。日本腎臓学会のガイドラインでも、GFRや血清カリウム値に基づいて食事中カリウムの目標量が整理されており、この記事が紹介する「ステージ別の考え方」は、その流れに沿ったものです。腎機能や検査値と食事療法の関係をより広い視点から理解したいときは、慢性腎臓病の食事全体を整理した慢性腎臓病の食事療法ガイドを読みながら、自分にとって本当に必要な制限の強さを整理してみてください。
次に大切なのは、「自分のCKDステージと現在の血清カリウム値を正確に把握すること」です。ステージG1〜G3aで高カリウム血症がない場合と、G3b以降でカリウム値が高めに推移している場合とでは、同じ果物でも許される量や頻度が変わります。この記事で紹介されているようなカリウム摂取量の目安表や果物の「信号機システム」も、こうしたステージ別の前提があってこそ意味を持ちます。自分がどのステージにいるのか、リスクが高まりやすいステージ3前後で何に注意すべきかを整理したいときは、CKDステージ3を軸に解説したCKDステージ3の詳しい解説を通じて、主治医との会話のポイントを整理しておくと安心です。
そのうえで実際の果物選びでは、この記事で紹介されているように「緑(低カリウム)・黄(中カリウム)・赤(高カリウム)」という信号機のイメージで考えると、日々の選択がぐっと分かりやすくなります。りんごやなしのような緑ゾーンを基本にしつつ、黄ゾーンの果物は1回量と頻度を調整し、赤ゾーンのバナナやメロンなどは「食べるとしてもごく少量・特別な日だけ」といった位置づけにするイメージです。また、1日のカリウム「予算」は果物だけでなく、乳製品や飲み物からも使われていくため、牛乳やヨーグルトなど他の食品とのバランスを見ることも重要です。リンとカリウムの両方を意識した飲用の工夫については、腎臓病患者さん向けに乳製品の選び方を詳しく解説したリン・カリウム管理の実践的な解説も参考になるでしょう。
さらに、果物のカリウム量は調理や加工の仕方でも変化するため、「生でそのまま食べる以外の選択肢」を知っておくと、食事の幅が広がります。記事で紹介されているような「細かく切って茹でこぼす」「缶詰のシロップをしっかり切って使う」「コンポートにして実だけを食べる」といった工夫は、カリウム量を減らしながら甘みや満足感を得るうえでとても有効です。また、1回量をテニスボール大や自分の握りこぶしといった身近な目安で覚えておくと、外食や間食の場面でも直感的に調整しやすくなります。このように、「何を食べてはいけないか」ではなく「どうすれば自分の予算内で楽しめるか」という視点に切り替えることで、果物との付き合い方はぐっと前向きなものになります。
注意したいのは、「怖さのあまり果物や野菜を極端に避けてしまうこと」と、「逆に自己判断で急に増やしてしまうこと」のどちらもリスクになり得るという点です。ドライフルーツや野菜ジュース、果汁100%ジュースのように、見た目の量の割にカリウムが濃縮されている食品は、カリウム制限が必要な方にとっては特に慎重な判断が求められます。また、「減塩」と書かれた調味料の中には塩化カリウムを使っているものもあり、知らず知らずのうちにカリウム摂取が増えてしまうケースも少なくありません。この記事が繰り返し強調しているように、最終的な判断は必ず主治医や管理栄養士と相談し、定期的な血液検査の結果を確認しながら微調整していくことが、安全な果物の楽しみ方につながります。
腎臓病と付き合いながら果物を楽しむためには、「自分のステージと検査値を知ること」「果物の種類と量の感覚を身につけること」「調理や選び方を工夫すること」の三つの軸を、あせらず少しずつ身につけていくことが大切です。この記事で得た知識をもとに、次回の外来では主治医や管理栄養士に自分の疑問や希望を率直に伝えてみてください。果物を完全にあきらめるのではなく、あなたの腎臓と生活の質の両方を守りながら「安心して食べられるライン」を一緒に探していければ、食卓はきっと今より明るく、楽しいものになるはずです。
なぜ腎臓病でカリウム管理が重要なのか?
腎臓は、体内の水分やミネラルのバランスを調整する重要な役割を担っています。その中でもカリウムは、筋肉の収縮や神経の伝達に不可欠なミネラルですが、腎機能が低下すると、余分なカリウムを尿として十分に排泄できなくなります。その結果、血液中のカリウム濃度が異常に高くなる「高カリウム血症」を引き起こす可能性があります。高カリウム血症は、不整脈や心停止といった命に関わる深刻な状態を招くことがあるため、腎臓病の食事療法においてカリウムの管理は極めて重要となります9。
日本腎臓学会が示すCKDステージ別の目標値
しかし、重要なのは、カリウム制限は全てのCKD患者に一律で課されるものではないという点です。日本腎臓学会(JSN)が発行する「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」では、カリウム制限は主に血清カリウム値が高い場合に推奨されており、その目標値はCKDの進行度を示す「ステージ」によって異なります59。CKDのステージは、腎臓がどれくらい働いているかを示すGFR(糸球体濾過量)の値によって、G1からG5までの5段階に分類されます8。ご自身のステージを把握し、それに応じた管理目標を知ることが、適切な食事療法の第一歩です。最終的な目標は、血清カリウム値を心血管疾患などの危険性が低いとされる至適範囲内(4.0 mEq/L以上、5.5 mEq/L未満)に維持することです5。
| CKDステージ | GFR (mL/分/1.73m²) | カリウム摂取目標量 (mg/日) | 血清カリウム値 管理目標 (mEq/L) |
|---|---|---|---|
| G1, G2, G3a | GFR ≥ 45 | 原則として制限なし (高カリウム血症を認めない場合) | 4.0 – 5.5 未満 |
| G3b | 30 – 44 | ≤ 2,000 (高カリウム血症を認める場合) | 4.0 – 5.5 未満 |
| G4, G5 | < 30 | ≤ 1,500 (高カリウム血症を認める場合) | 4.0 – 5.5 未満 |
| 出典: 日本腎臓学会「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」569。カリウム摂取目標量は高カリウム血症を認める場合に適用される目安であり、必ず主治医や管理栄養士の指示に従ってください。 | |||
自分のCKDステージと血清カリウム値を確認するポイント
表1の目標値を安全に活かすためには、「自分はどのステージにいるのか」「今のカリウム値は高いのか正常なのか」を具体的に知っておくことが欠かせません。外来受診の際には、次のような点を主治医や医療スタッフに確認しておくと安心です。
- 最新のeGFR値と、G1〜G5のどのステージに該当するか。
- 最近3〜6か月の血清カリウム値の推移(グラフや一覧で見せてもらう)。
- 現時点で「厳格なカリウム制限が必要な状態」なのか、「注意は必要だが果物を完全にゼロにする必要はない状態」なのか。
- 服用中の薬(RA系阻害薬、利尿薬、カリウム保持性下剤など)がカリウム値に与える影響。
- どのくらいの頻度で血液検査を行い、数値をチェックすべきか。
こうした情報を共有しながら、「今の自分なら、どのゾーンの果物を、どのくらいまでなら安全に楽しめるのか」を主治医や管理栄養士と一緒に確認していきましょう。
【最新研究】果物摂取と健康リスクの新しい考え方
これまで「果物・野菜 = 高カリウム = 危険」という考え方が主流でしたが、近年の研究は、この単純な図式に新たな視点を加えています。特に、日本のCKD患者を対象とした研究は、私たちにとって重要な示唆を与えてくれます。
新潟大学の研究が示す重要な視点
新潟大学から発表された注目すべき研究では、日本人のCKD患者を含む集団を調査した結果、果物や野菜の摂取頻度が低いグループほど、総死亡リスクが高いという関連性が示されました1213。この傾向は、CKDの有無にかかわらず認められたのです。さらに、この研究では、果物・野菜の摂取頻度が異なるグループ間で、血液検査における血清カリウム値に統計的に意味のある差は見られませんでした16。
これは、「果物を多く食べると、必ず血清カリウム値が危険なレベルまで上昇する」という考えが、全ての人に当てはまるわけではない可能性を示唆しています。果物や野菜には、カリウム以外にも食物繊維、ビタミン、抗酸化物質が豊富に含まれています。これらの成分は、便通を改善してカリウムの排泄を助けたり、体内の酸化ストレスや酸性度を和らげたりする有益な効果が期待できます15。
さらに、植物性食品を中心とした低たんぱく食(plant-dominant low-protein diet)が、CKDの進行抑制や心血管リスクの軽減に役立つ可能性を示す総説も報告されています17。ただし、こうした食事パターンでもカリウムの管理は不可欠であり、果物や野菜の量・種類を医療チームと相談しながら調整することが前提です。
したがって、私たちの目標は「果物をゼロにすること」ではなく、「専門家と相談しながら、安全な範囲で食生活に取り入れる方法を見つけること」であるべきです。自己判断で摂取を中止したり、逆に増やしたりすることは絶対に避け、必ず主治医や管理栄養士に相談しましょう。
カリウム含有量で見る果物リスト【管理栄養士推奨】
安全な果物管理の鍵は、「何を選ぶか」と「どのくらい食べるか」を正しく知ることです。ここでは、文部科学省の「日本食品標準成分表」の正確なデータに基づき23、果物をカリウム含有量に応じて「緑」「黄」「赤」の3つのカテゴリーに分類する「信号機システム」をご紹介します。これは、あなたが日々の食事選択を直感的に行えるようにするための実践的なツールです。
| 果物名 | 100gあたりのカリウム量 (mg) | 1食の目安量 | 目安量あたりのカリウム量 (mg) | カリウムカテゴリー |
|---|---|---|---|---|
| りんご | 120 | 中1/2個 (125g) | 150 | 緑 |
| なし (日本なし) | 140 | 中1/2個 (125g) | 175 | 緑 |
| ぶどう (皮なし) | 130 | 1/2房 (100g) | 130 | 緑 |
| ブルーベリー | 170 | 1/2カップ (70g) | 119 | 緑 |
| いちご | 170 | 中7粒 (105g) | 179 | 黄 |
| もも (白肉種) | 180 | 中1個 (200g) | 360 | 黄 |
| みかん | 150 | 中2個 (160g) | 240 | 黄 |
| キウイフルーツ (緑肉) | 300 | 1個 (85g) | 255 | 赤 |
| メロン (緑肉種) | 350 | 1/8カット (120g) | 420 | 赤 |
| バナナ | 360 | 1本 (120g) | 432 | 赤 |
| アボカド | 590 | 1/3個 (50g) | 295 | 赤 |
| 干し柿 | 670 | 1個 (40g) | 268 | 赤 |
| 出典: 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」より算出23。目安量は一般的なサイズであり、個体差があります。この表はあくまで目安であり、実際の食事計画は必ず主治医や管理栄養士の指導のもとで行ってください。 | ||||
緑(低カリウム)の果物:比較的安心して選べる
りんご、なし、ぶどう、ブルーベリーなどは、100gあたりのカリウム含有量が比較的少ない果物です29。これらは食事管理において基本となる選択肢ですが、「低カリウムだからいくら食べても良い」というわけではありません。後述する「量」の概念を常に意識することが重要です。
黄(中カリウム)の果物:量に注意して楽しむ
もも、いちご、みかんなどはカリウム含有量が中程度の果物です29。これらを食べる際は、1食の目安量を守り、食べる頻度を調整するなどの注意が必要です。例えば、1日のカリウム摂取目標が1,500mgの方が中サイズのももを1個食べると、それだけで1日の目標の4分の1近くを摂取することになります。
赤(高カリウム)の果物:厳格な管理が必要
バナナ、メロン、キウイフルーツ、アボカド、そして干し柿などのドライフルーツはカリウム含有量が非常に多いため、特に注意が必要です20。血清カリウム値が高い方は、医師からこれらの摂取を控えるよう指示されることがほとんどです。食べる場合は、医師や管理栄養士との綿密な相談の上で、ごく少量に留める必要があります。
「量」の概念:『何を』から『どのくらい』へ
食事療法で最も重要なのは、「食べて良い食品」「悪い食品」という二元論から脱却し、「量」の概念を身につけることです。例えば、低カリウムのりんごでも、一度に3個も食べれば高カリウム摂取になります。逆に、高カリウムのバナナでも、管理栄養士の指導のもとで1/3本だけにするなど、量を調整すれば食事計画に組み込める場合もあります22。
自分の1日のカリウム摂取目標を「予算」と考え、食品の選択が予算にどう影響するかを考える習慣をつけましょう。例えば、テニスボール1個分がおおよそ100gの目安になります。このように、自分の拳や手のひらなど、身近なもので量を把握する練習をすると、日々の食事管理がしやすくなります。
果物以外のカリウム源と、全体としてのバランスの考え方
カリウム制限が必要な場合、「果物だけ」に注目してしまいがちですが、実際には、カリウムの多い食品は日々の食事全体に広く含まれています242530。果物を我慢しているのに血清カリウム値がなかなか下がらない、という方は、次のようなポイントも見直してみる必要があります。
- いも類やかぼちゃ、ほうれん草、ブロッコリーなどの野菜・芋類
- 豆類(大豆製品、レンズ豆など)、ナッツや種子類
- 乳製品(牛乳、ヨーグルト、チーズなど)
- スポーツドリンクや野菜ジュース、一部の健康飲料
- 加工食品・インスタント食品に含まれるリン酸塩・カリウム塩
- 前述の「減塩調味料」やだしの素、スープの素 など
主治医や管理栄養士と一緒に「1日あたりのカリウムの予算表」を作り、果物だけでなく、これらの食品からどのくらいカリウムをとっているのかを、ざっくりと把握しておくと安心です。果物をすべて我慢するのではなく、「どこを減らせば果物のための余裕をつくれるか」という発想で全体を調整していくことが大切です。
カリウムを減らす調理の工夫:今日からできる実践テクニック
食品に含まれるカリウムは、調理法を工夫することで減らすことが可能です。これらのテクニックを知ることで、食事の選択肢が広がり、より豊かな食生活を送ることができます。
基本の「茹でこぼし」と「水さらし」
カリウムは水に溶けやすい性質を持っています。この性質を利用したのが「茹でこぼし」や「水さらし」です34。野菜や果物を細かく切ることで水に触れる表面積が増え、カリウムが溶け出しやすくなります。具体的な手順は以下の通りです。
- 野菜や果物を細かく切る。
- たっぷりの水またはお湯で茹でる(あるいは水にさらす)。
- 茹で汁やさらし水はカリウムが溶け出しているため、必ず捨てる。
この一手間を加えるだけで、カリウム摂取量を効果的に減らすことができます。
缶詰やコンポートを上手に活用するコツ
果物の缶詰は、製造過程で果物からシロップへカリウムが溶け出しているため、シロップをしっかりと切ってから食べれば、生の果物を食べるよりもカリウム摂取量を抑えられます22。ただし、ある研究ではカリウムの減少は30%程度に留まる場合もあると指摘されており、食べ過ぎは禁物です35。「缶詰は便利な選択肢ですが、食べ放題ではない」と覚えておきましょう。
また、果物を砂糖で煮る「コンポート」も、茹でこぼしと同様の効果が期待できる調理法です29。果実だけを食べ、煮汁は飲まないようにしましょう。食事制限の中でも「おいしく楽しむ」工夫を取り入れることは、QOLを保つ上で非常に大切です。
日常のメニューでの応用例:果物を「予算内」で楽しむ
例えば、ステージG3aで高カリウム血症がなく、医師から「厳格な制限ではなく注意程度でよい」と言われている方であれば、1日のカリウム「予算」の中で、次のような組み合わせが許容されることもあります。
- 朝食:りんご1/4個+プレーンヨーグルト少量
- 昼食:野菜の茹でこぼしを活用したサラダ(ドレッシングは減塩タイプを少量)
- おやつ:みかん小1個、または缶詰のみかんをシロップを切って少量
- 夕食:カリウムを減らした温野菜+果物なし
これはあくまで一例であり、すべての方に当てはまるわけではありません。必ず主治医や管理栄養士と相談し、ご自身の腎機能やカリウム値、他の持病や薬とのバランスを踏まえて、具体的なメニューを調整してください91118。
高カリウム血症が疑われるときのサインと受診の目安
血清カリウム値は、定期的な血液検査でしか正確には分かりませんが、値が大きく乱れると、次のような症状が現れる場合があります931。
- 脈が飛ぶ感じ、動悸、胸の違和感
- 理由の分からない筋力低下やだるさ
- 手足のしびれ感
- ひどい場合は、めまいや失神 など
これらの症状は、他の心臓病や電解質異常でも起こり得るため、「カリウムが原因だ」と自己判断することはできません。しかし、CKDがある方で、いつもと違う強い動悸や胸の痛み、呼吸の苦しさなどを感じた場合は、ただちに救急受診を検討してください。
定期外来の場面では、「最近の食生活で変わった点」「果物や野菜、サプリメントの量」「新しく飲み始めた薬」などをメモにして伝えると、医師が原因を推測しやすくなります。一方で、症状がなくても血液検査で高カリウム血症が見つかることも少なくありません。指示された検査間隔を守り、結果を主治医や管理栄養士と一緒に振り返ることで、「どのくらい果物を食べると自分のカリウム値がどう変わるか」を少しずつ掴んでいきましょう。
腎臓病の食事療法 Q&A:患者さんの疑問に答えます
バナナやメロンは絶対に食べてはいけませんか?
「絶対にダメ」というわけではありませんが、これらはカリウムが非常に多い果物なので、特に血清カリウム値が高い方は、主治医から控えるよう指示されることがほとんどです。病状が安定しており、医師や管理栄養士の厳格な指導のもとで、食事全体のカリウム量を計算し尽くした上で、ごく少量(例えばバナナ1/3本など)を楽しむことが例外的に可能な場合もあります。自己判断で食べることは絶対に避けてください22。
ドライフルーツや野菜ジュースはどうですか?
ドライフルーツは水分を飛ばして栄養素を凝縮しているため、少量でも非常に多くのカリウムを含みます。同様に、市販の野菜ジュースや果汁100%ジュースも濃縮されているためカリウムが多くなりがちです。これらはカリウム制限が必要な場合は、原則として避けるのが賢明です22。
減塩調味料を使ってもいいですか?
これは見落とされがちな重要な注意点です。減塩醤油や減塩味噌の中には、塩化ナトリウムの代わりに「塩化カリウム」を使用して塩味を補っている製品があります。これを知らずに使うと、かえってカリウムを大量に摂取してしまう危険性があります。製品を購入する際は、必ず栄養成分表示を確認し、「カリウム」の含有量を確認するか、カリウムを使用していないタイプの減塩調味料を選びましょう22。
果物を食べないと、ビタミンや食物繊維が不足しませんか?
はい、それは非常に重要なご指摘です。だからこそ、食事療法は「ゼロにする」のではなく「管理する」ことが大切なのです。先にご紹介した新潟大学の研究でも、果物や野菜を全く食べないことの健康上の不利益が示唆されています12。まずは、りんごやなしのような低カリウムの果物を少量から試すこと、そして、カリウムを減らす調理法を活用した野菜をしっかり摂ることで、必要なビタミンや食物繊維を補うことができます。どのようなバランスが良いかは個人差が大きいため、管理栄養士に相談して、あなたに合ったプランを立ててもらいましょう。
CKDでも果物を食べられる具体的な1日のイメージを教えてください。
外食や旅行中に、果物やデザートをどう選べば良いですか?
外食や旅行では、果物の量や調理方法を細かくコントロールすることが難しくなります。そのため、次のような工夫を心がけると安心です1820。
- ビュッフェでは、バナナやメロンなどの赤ゾーンよりも、りんごやなしなどの緑ゾーンの果物を少量選ぶ。
- ケーキやパフェなど、乳製品と果物が組み合わさったデザートは、カリウムだけでなくリンや糖分も多くなりやすいため、頻度を減らす。
- どうしても量が分からないときは、「今日は果物を少し楽しむ代わりに、他のカリウムの多いおかずを控えめにする」といった調整を意識する。
- 旅行中も、可能であれば処方された血圧の薬や利尿薬などを飲み忘れないようにし、帰宅後の血液検査で数値を確認する。
外食や旅行を楽しむことはQOLの観点からも大切です。我慢しすぎず、しかし「連日続けない」「量を決めておく」といったルールを自分なりに準備しておきましょう。
カリウム制限と同時に、たんぱく質や塩分も制限と言われました。優先順位はどう考えれば良いですか?
CKDの食事療法では、カリウムだけでなく、塩分(ナトリウム)やたんぱく質、リン、エネルギー量など、複数の要素を総合的に調整する必要があります5101121。一般的には、
- 血圧や心血管リスクの観点から「塩分制限」が最優先となることが多い。
- 腎機能の進行を抑えるために、「たんぱく質量の調整」が重要になる。
- 高カリウム血症がある場合には、「カリウム制限」が追加で強く求められる。
どれをどの程度重視するかは、CKDのステージ、血圧や体重、心臓病・糖尿病の有無、年齢、筋肉量などによって変わります。自己判断で「カリウムだけ」「たんぱく質だけ」に注目するのではなく、主治医と管理栄養士に「今の自分にとって、最優先で気をつける項目はどれですか?」と尋ね、優先順位を一緒に整理してもらうことをおすすめします。
結論
腎臓病と共に生きる上での果物との付き合い方は、単純な「禁止」ではなく、個々の病状に応じた賢明な「管理」が求められます。この記事でご紹介した知識は、そのための第一歩です。ご自身のCKDステージ、血清カリウム値を正しく把握し、カリウムの多い食品と少ない食品、そして量をコントロールする術を学ぶこと。さらに、調理の工夫で選択肢を広げること。これらを実践することで、食事制限によるストレスを軽減し、より豊かで健康的な食生活を送ることが可能になります。
しかし、最も重要なことは、決して自己判断しないことです。あなたの体と病状を最もよく知る主治医、そして食事の専門家である管理栄養士と密に連携し、定期的な血液検査で体の状態を確認しながら、あなただけの最適な食事療法を共に見つけていくことが、腎臓を守り、健やかな毎日を送るための最も確実な道筋となるでしょう。
免責事項
本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的助言に代わるものではありません。健康に関する懸念がある場合、または健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格を持つ医療専門家にご相談ください。
参考文献
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- 野菜・果物の消費動向 – 農林水産省. [インターネット]. [引用日: 2025年6月24日]. Available from: https://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/engei/attach/pdf/iyfv-115.pdf
- 前文 – 日本腎臓学会. [インターネット]. [引用日: 2025年6月24日]. Available from: https://jsn.or.jp/data/gl2023_ckd_ch08.pdf
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