はじめに
腎臓は体内の老廃物や余分な水分を尿として排出する、非常に重要な臓器です。しかし、尿の成分バランスが崩れると、腎臓や尿管などに結石(いわゆる「腎臓結石」や「尿路結石」)が生じやすくなります。結石が小さい場合は自覚症状がほとんどないことも多いのですが、大きくなったり、結石が移動して尿路を刺激すると強い痛みや血尿などの症状を引き起こし、日常生活に大きな負担をもたらす場合があります。とくに「食事内容」と「水分摂取量」は、結石の予防や治療効果を左右する重要な要素と考えられています。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
本記事では、腎臓結石(以下「結石」と表記)がある場合に「何を食べればいいのか」「どのような食品は避けるべきか」といった疑問に答える形で、食生活のポイントや実践的な注意点を詳しく解説します。結石は再発しやすいといわれており、実際に日本国内でも結石を何度も繰り返す方が増えているとの報告があります。そのため、日常的に気をつけられる「食事面での工夫」がとても重要です。ここでは、日本の生活習慣や食習慣に即した具体的なアドバイスと、近年発表されたいくつかの研究を織り交ぜながら、わかりやすくまとめていきます。
専門家への相談
本記事の内容は、腎臓結石に関する一般的な情報や、国内外の医療機関・研究機関などのガイドライン、研究データなどをもとにしています。また、文中でも触れるとおり、腎臓結石のタイプや大きさ、合併症の有無、個々人の食事嗜好や身体状態によって最適な治療や食事法は異なります。そのため、結石の治療や食事制限について検討する際には、必ず医師や管理栄養士など専門家の判断を仰ぐことが大切です。本記事でも引用している、信頼度の高い医療・公的機関(たとえばアメリカ国立糖尿病・消化器・腎疾患研究所、英国保健サービス、米国腎臓財団など)や、日本国内の病院・診療ガイドラインを参考にしつつ、必要に応じて専門家に相談してください。
なお、本記事の監修には内科系診療科での経験を持つ医師(Nội khoa – Nội tổng quát · Bệnh Viện Đa Khoa Tỉnh Bắc Ninh)である「Nguyễn Thường Hanh」医師が携わっており、文献的根拠を可能な限り示していますが、個別の診療行為や治療計画まではカバーしておりません。必ず担当医に相談のうえで適切な対処を検討してください。
結石の種類と主な症状
結石は大きく分けると、主に以下の4種類に分類されます。
- カルシウム結石
カルシウムとシュウ酸(オキサラート)、あるいはリン酸などが結合してできるタイプ。日本を含む世界各国でもっとも頻度が高いとされています。 - 尿酸結石
尿中の尿酸値が上昇し、結晶化したもの。痛風との関連も指摘されます。 - ストルバイト(トリプル)結石
細菌感染(主に尿路感染症)と関わりが深く、マグネシウムやアンモニウムなどが結合してできる結石。 - シスチン結石
遺伝性の代謝異常であるシスチン尿症によって生じる珍しいタイプ。
結石は小さいうちは自覚症状がほとんどなく、自分で気づかないケースも珍しくありません。しかし、結石がある程度大きくなったり、腎臓や尿管内で移動すると激しい痛み(腰やわき腹を刺すような痛み)や血尿、排尿時の痛み、尿の出にくさなどが起こります。こうした症状が出現した場合、早めの受診や検査が重要です。
食事が与える影響とは?
結石の治療・予防において、食事のとり方が大きな影響力を持つことは、昔から指摘されてきました。実際、結石が再発するリスクは、以下のような要素によって左右されるとされています。
- 水分不足
- ナトリウム(塩分)やシュウ酸の過剰摂取
- 動物性たんぱく質の過剰摂取
- カルシウム摂取不足(逆に「カルシウムをとると結石ができる」と誤解されることが多い)
- 肥満やメタボリックシンドロームとの関連
最近では結石のリスクに関する研究が増加しています。2022年にJournal of Clinical Medicine誌で発表されたGhummanらの研究(doi: 10.3390/jcm11113107)では、結石の形成リスクに食生活や水分摂取量が大きく関与していることが改めて検証されました。これは比較的規模の大きい総説(レビュー)であり、欧米やアジアを含む多地域の研究データを総合した結果として、塩分過多や水分摂取不足、たんぱく質摂取の極端な偏りが結石の発症率を高めると示唆されています。さらに日本国内の生活習慣にも通じる点が多く、私たちの日常食習慣を見直すうえで示唆に富む内容となっています。
ここからは、結石の予防・再発リスク低減のために「積極的に摂るべき食材・飲み物」と「控えたほうがよい食材・飲み物」について詳しく見ていきましょう。
結石がある人におすすめの食事
1. 十分な水分摂取
水分をたっぷり摂取することは、結石予防や小さい結石を排出するうえでも最重要といえます。水分摂取によって尿量を増やし、尿中の結石成分(カルシウムやシュウ酸、尿酸など)を薄める効果が期待できます。1日あたり約2リットル前後を目安に、こまめな水分補給を行いましょう。とくに夏場や運動後など発汗が多い時期は意識して増やすことが推奨されます。
水やお茶、柑橘系ジュースの活用
水はもちろん、麦茶やほうじ茶などカフェインが少ないお茶、オレンジやレモンなど柑橘系果実の果汁を加えた水分補給もおすすめです。柑橘類に含まれるクエン酸は尿中のシュウ酸やカルシウムと結びつきにくくする可能性があり、結石の形成抑制に効果的と考えられています。
2023年にWorld Journal of Urology誌でSorokinらが発表した疫学研究(doi: 10.1007/s00345-022-04059-z)でも、柑橘系果汁に含まれるクエン酸の摂取が結石形成リスクを低減する一因となることが示唆されています。この研究は欧米を中心とした多施設共同で行われたもので、日本の食文化にも応用できる面が多いと考えられています。
2. 柑橘系フルーツ
前述の通り、柑橘類(オレンジ、レモン、グレープフルーツなど)にはクエン酸が多く含まれます。クエン酸には、尿中でカルシウム結晶を作りにくくするはたらきがあるため、結石リスクを下げる可能性が期待されています。日本の食卓では、ポン酢やレモン果汁をドレッシング代わりに使用するなど、日常的に取り入れやすい点も魅力です。
3. 適切なカルシウム摂取
「結石はカルシウムからできるから、カルシウムは避けるべき」と考えてしまいがちですが、実はカルシウムを適度に摂ることはむしろ結石の予防につながります。カルシウム不足になるとシュウ酸(オキサラート)の吸収量が増え、尿中のシュウ酸濃度が上がって結石を形成しやすくなるためです。
カルシウムは食品から摂取するのが望ましく、牛乳・チーズ・ヨーグルトといった乳製品、豆腐などの大豆製品、小魚、青菜などが代表的な供給源です。ただし、過剰摂取は推奨できませんので、1日の摂取量の目安を大きく超えないように注意しましょう。
4. ビタミンDの確保
ビタミンDはカルシウムの腸管吸収を助けるはたらきがあるため、カルシウムが不足気味の人には特に重要です。鮭やサンマなどの魚類、キノコ類に多く含まれており、日光浴も体内でのビタミンD合成に寄与します。ビタミンDが不足すると、カルシウムの代謝バランスが乱れ、結果的に結石リスクの増大につながる可能性も指摘されています。
5. 野菜や果物のバランス良い摂取
食物繊維や抗酸化物質を豊富に含む野菜や果物をしっかり摂ることは、体内の代謝バランスを整え、尿のpHに影響を与えるうえでも有用です。ただし、シュウ酸の多いホウレンソウやビーツなどは、調理法や食べる量に注意が必要です(詳細は後述)。
控えたほうがよい、または摂取を控えるべき食事
1. 塩分(ナトリウム)の過剰摂取
ナトリウムを過剰にとると、腎臓でのカルシウム再吸収が低下し、尿中のカルシウム量が増えて結石形成のリスクが高まる可能性があります。具体的には、漬物、味噌汁、ラーメン、インスタント食品、スナック菓子など、塩分の多い食品の摂りすぎに気をつけましょう。日本人はもともと塩分摂取量が多い傾向がありますので、日頃から味付けを薄めにする、外食時は塩分控えめメニューを選ぶなどの工夫が必要です。
2. 動物性たんぱく質の過剰摂取
牛肉や豚肉、鶏肉をはじめとする動物性たんぱく質を過剰に摂ると、尿酸やカルシウムの排泄量が増えるとされ、結石リスクが上がりやすいです。尿酸結石は、動物性たんぱく質の過多摂取が原因のひとつと考えられています。ただし、たんぱく質は身体に必要な栄養素でもあるため、完全に排除するのではなく、摂取量をコントロールしてバランスを保つことが重要です。
もし動物性たんぱく質を控える場合は、豆腐や納豆、大豆ミートなどの植物性たんぱく質を適度に取り入れてみましょう。2023年にBMJ誌に掲載されたDauwの総説(doi: 10.1136/bmj-2022-071609)でも、植物性食品を上手に取り入れることで結石リスクや再発率の低減に寄与する可能性が報告されています。同総説では、たんぱく質の質や種類を検討することが重要であり、日本人の食文化とも親和性が高い「大豆食品」の活用が特に有望と解説されています。
3. シュウ酸(オキサラート)を多く含む食品
カルシウム結石のうち、シュウ酸カルシウム結石は最も多く見られるタイプです。シュウ酸が多く含まれる食品には、ホウレンソウ、ビーツ、紅茶、コーヒー、チョコレート、ナッツ類などがあります。これらの食品を全く口にしないのは現実的ではありませんが、摂取を控えめにしたり、ホウレンソウなどは茹でこぼしてシュウ酸を減らしてから食べるなど、調理法を工夫することが推奨されます。
4. 糖分過多やリン酸塩を含む清涼飲料水
砂糖やブドウ糖果糖液糖、リン酸塩などが含まれる清涼飲料水を頻繁に飲むと、結石リスクが高まるといわれています。日本でも若年層を中心に糖分の多い炭酸飲料やエナジードリンクなどを日常的に摂取する人が増えていますが、これらを控えるだけでも結石の予防に一定の効果があると考えられます。とくに清涼飲料水に含まれるリン酸は、カルシウムとの複合体をつくりやすく、結石生成を助長するとされるため注意が必要です。
5. アルコールの過剰摂取
アルコールは直接的に結石を作るわけではありませんが、利尿作用の偏りや脱水を招く可能性があるため、飲みすぎは禁物です。アルコールを過剰摂取すると体内の水分が失われやすくなり、尿量が減って結石ができやすい環境になることもあります。お酒を飲む場合は、水やノンアルコールドリンクも適度に摂りつつ、適量を守りましょう。
日々の食生活で役立つポイント
結石の発症を予防したり、既に結石がある方が再発リスクを下げるためには、日々の小さな工夫の積み重ねが大切です。以下に具体的なポイントをまとめます。
- こまめに水分を摂る
喉が渇く前に少しずつ水分補給を行います。外出時にも水筒やペットボトルを携帯し、意識的に摂りましょう。 - 塩分を控える
出汁や香草、レモン汁、少量の香辛料などを活用して、味のバリエーションを広げながら塩分を減らす工夫をします。 - 柑橘類を取り入れる
レモン、ゆず、かぼす、すだちなど、日本ならではの柑橘も豊富です。食事や飲み物に少量加えることで、香りや味を引き立てつつ結石予防が期待できます。 - カルシウム補給を欠かさない
牛乳やヨーグルトなどの乳製品、大豆製品、小魚などを毎日の食事に少しずつ組み合わせるようにします。 - シュウ酸が多い食品は加熱や下茹でで対策
ホウレンソウは茹でるとシュウ酸が減少します。紅茶やコーヒーの場合、摂取頻度や量をコントロールするのも大切です。 - たんぱく質は動物性・植物性をバランスよく
肉だけでなく、大豆製品や魚、卵などを組み合わせ、過剰摂取にならないように注意します。 - 甘味飲料・加工食品を控えめに
スナック菓子、ファストフード、糖分が多い清涼飲料水などはリン酸や塩分が多く、結石リスクを高めます。
研究事例の紹介
結石の食事管理に関してはさまざまな研究が行われています。以下は近年(過去4年以内)に発表され、比較的規模が大きかったり信頼度が高いとされる研究例の一部です。内容は日本の食習慣にも応用可能な示唆を含むものが多いため、ご参考にしてください。
- 2022年・Journal of Clinical Medicine(doi: 10.3390/jcm11113107)の総説
世界各地の結石に関する疫学研究を総括し、塩分・動物性たんぱく質・水分摂取などが結石形成リスクに大きく影響することを再確認した。 - 2023年・World Journal of Urology(doi: 10.1007/s00345-022-04059-z)の疫学研究
柑橘類に含まれるクエン酸の摂取が、結石リスクを抑制する一因になると示唆。日本の柑橘類(ゆずやすだち等)への応用可能性にも言及がある。 - 2023年・BMJ(doi: 10.1136/bmj-2022-071609)の総説
結石の医療的・外科的管理に関する最新の知見をまとめる一方で、食事や水分摂取のバランス調整が再発率低減に有効であることを強調。
これらの研究は欧米のデータをベースとしたものが多いものの、日本でも近年は食の欧米化や生活習慣病が増加しているため、かなりの部分が該当します。結石の再発に悩む方は、こうした研究成果にも留意しつつ専門家の指導を受けましょう。
結石予防・改善のための実践例
水分摂取の工夫
- 朝起きたらコップ一杯の水を飲む
- 外出時は500ml以上の水を携帯
- 食事中や食後も少しずつ水やお茶を飲む
- 気温が高い日は意識して多めに水分を摂る
食材選びと調理
- ホウレンソウは茹でて水にさらすなどしてシュウ酸を減らす
- サラダにレモン汁やポン酢を使うことでクエン酸を取り入れる
- だしをしっかりとって薄味でも美味しくする
- 乳製品や大豆製品を適度に組み合わせてカルシウムを確保
調味料
- 塩やしょうゆ、味噌はなるべく控えめに
- ハーブやスパイス、レモン・かぼすなどの柑橘を活用し、風味豊かな料理に
- 砂糖を多用しない。甘味料を使う場合でも少量に
外食や市販品の選び方
- 外食時はラーメンや濃い味付けの丼ものばかり選ばず、野菜中心の定食を意識する
- レストランで注文する際、「塩分控えめでお願いします」と一言添える
- 加工食品やファストフードは、できるだけ頻度を減らす
- 清涼飲料水の代わりに無糖の炭酸水やお茶を選択
結論と提言
結石は、腎臓や尿管内で結晶化した塊が生じる病態であり、小さいうちは症状が目立たなくとも、ある程度大きくなると強い痛みや排尿困難などを伴うことがあります。結石は再発しやすく、適切な予防策を取らないと何度も同じ症状に苦しめられるケースが珍しくありません。特に「食事」と「水分摂取量」は、結石の形成や増大を抑える上で不可欠な要素とされています。
本記事では、結石がある人が積極的に摂るべき食品(水分、柑橘類、適度なカルシウムなど)や、控えるべき食品(塩分、動物性たんぱく質の過剰摂取、シュウ酸の多い食品、リン酸塩を含む清涼飲料水など)を中心に解説しました。さらに、近年の研究成果として、水分摂取量や塩分制限、クエン酸の摂取が結石予防や再発率低減に有用である点、動物性たんぱく質の摂取量のコントロールが重要である点が明らかになっています。日本では豊富な野菜や魚介類、大豆製品が身近に手に入るため、動物性たんぱく質だけに偏らず、さまざまな食材を使ってバランスよく栄養を摂取することが推奨されます。
もし結石によって激しい痛みや血尿が見られる場合は、速やかに医療機関を受診し、画像検査や血液検査などを通じて結石の大きさや種類を把握することが必要です。また、結石のタイプによっては、薬物治療や内視鏡的治療、体外衝撃波砕石術などの治療法が選択される場合もありますので、必ず担当の医師に相談しましょう。
参考文献
- Eating diet nutrition
https://www.niddk.nih.gov/health-information/urologic-diseases/kidney-stones/eating-diet-nutrition (アクセス日:不明) - Kidney Stone Diet Plan and Prevention
https://www.kidney.org/atoz/content/diet (アクセス日:不明) - Kidney stones – self-care
https://medlineplus.gov/ency/patientinstructions/000135.htm (アクセス日:不明) - Kidney stones – Prevention
https://www.nhs.uk/conditions/kidney-stones/prevention/ (アクセス日:不明) - Kidney stones
https://www.urologyhealth.org/urology-a-z/k/kidney-stones (アクセス日:不明) - Ghummanら (2022) 「Kidney Stone Disease: An Update on Current Concepts」
Journal of Clinical Medicine, 11(11), 3107, doi: 10.3390/jcm11113107 - Sorokinら (2023) 「Epidemiology of stone disease in the new millennium」
World Journal of Urology, 40(11), 2893–2905, doi: 10.1007/s00345-022-04059-z - Dauw (2023) 「Contemporary medical and surgical management of kidney stones」
BMJ, 381, e071609, doi: 10.1136/bmj-2022-071609
注意点(参考程度)
- 本記事は一般的な情報提供を目的としており、医学的診断や治療方針を示すものではありません。
- 記載された情報や研究結果は、必ずしもすべての方に当てはまるわけではありません。個人差、疾患の進行度、合併症の有無、体質などによって最適な食事・治療法は異なります。
- 新しい知見やガイドラインの更新により、推奨事項は変更される場合があります。常に最新の情報を確認し、具体的な治療や指導については専門家のアドバイスを受けてください。
(※これはあくまでも参考情報であり、医療上の決定は医師等の専門家にご相談ください)