腎障害の危険性: 隠れたリスクが腎不全につながる可能性
腎臓と尿路の病気

腎障害の危険性: 隠れたリスクが腎不全につながる可能性

はじめに

突然の腎機能の低下によって、血液中に老廃物や余分な水分がたまりやすくなる「急性腎障害(急性腎不全)」は、適切に対応しないと慢性的な腎機能障害へ移行し、将来的に透析や腎移植を要する深刻な状態に陥るおそれがあります。腎臓は体の老廃物や余分な水分をろ過し、電解質や水分バランスを調節する重要な臓器であり、ここに障害が生じると全身の健康に影響を及ぼします。とくに急性腎障害は短期間で機能低下を起こすため、気づかず放置してしまうと心臓や脳、肺などにも合併症をもたらし、さらには慢性腎臓病や心疾患のリスク増大、ひいては死亡リスクの増加にもつながる可能性があります。

免責事項

当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。

本稿では、急性腎障害の主な原因、症状、診断方法、そして治療と予防の基本的な考え方について、できるだけわかりやすく詳述いたします。日常生活で見過ごしやすいリスク要因や、急性腎障害と関連する慢性的な病態についても掘り下げながら、腎臓を保護するための実践的なヒントを示し、近年発表された研究結果をあわせて紹介します。

専門家への相談

本稿では腎臓内科や総合内科分野での臨床経験をもとにまとめられた情報を参照しています。さらに、腎疾患に関する海外・国内の学会や公的機関(National Health Service、American Academy of Family Physicians など)が提示しているエビデンスを取り入れ、最新の研究にも触れながら説明しています。また、文中で言及している医師としては、Bác sĩ Nguyễn Thường Hanh(Nội khoa – Nội tổng quát · Bệnh Viện Đa Khoa Tỉnh Bắc Ninh)が専門的見解を示している内容をもとに再構成しています。ただし、本稿での情報提供はあくまで参考を目的としたものであり、個別の症状や状態に応じた治療方針は必ず医師に相談するようお願いいたします。

急性腎障害(急性腎不全)の概要

腎機能は通常、体内の老廃物や余分な水分を尿として排出するだけでなく、電解質や酸塩基平衡の維持、ホルモンの産生など、あらゆる面で重要な働きを担っています。急性腎障害は、数時間から数日の短期間で腎機能が大きく低下し、血中の老廃物(クレアチニンや尿素窒素など)が急激に上昇したり、尿量が著しく減少したりする状態を指します。最初は特有の症状が目立たないケースもあり、検査で偶然発覚することがあります。

急性腎障害を放置すると、慢性腎臓病(CKD)へ移行し、心臓や血管系への負担が増大しやすくなります。さらに、むくみ、肺水腫、電解質異常(カリウムやナトリウムなど)、酸塩基平衡の崩れが進行すると、呼吸困難や不整脈、意識障害など重篤な合併症を引き起こすこともあります。そのため、急性腎障害を早期に認識し、原因に応じた適切な治療を行うことが非常に重要です。

2021年にThe Lancetで公表された包括的レビューによれば(Kellum JAら, 2021, The Lancet, 397(10272):189-201, doi:10.1016/S0140-6736(20)32567-3)、急性腎障害の世界的な発症率は入院患者を中心に増加傾向にあり、その背景には高齢化、糖尿病や高血圧など生活習慣病の増加、集中治療下での重症患者の増加などがあると指摘されています。また、近年のCOVID-19流行で入院患者が増えた際にも急性腎障害の発生率は顕著に上昇したとする報告があります(Chan Lら, 2021, J Am Soc Nephrol, 32:151–160, doi:10.1681/ASN.2020050615)。こうした世界的な傾向は、日本でも例外ではなく、高齢化社会に伴う基礎疾患を抱えた患者の増加もあって、腎障害の早期発見と予防がますます重要視されています。

以下では、急性腎障害を招きやすい具体的な要因とメカニズム、さらに主な症状について順を追って解説します。

主な原因

急性腎障害は、大きく分けて「腎臓への血流が低下する場合」「腎臓自体が直接ダメージを受ける場合」「排尿経路のどこかが塞がって尿の排出が滞る場合」の3つのメカニズムによって生じやすいとされています。いずれの原因でも、時間の経過とともに老廃物が蓄積して電解質バランスが崩れ、全身症状に至る可能性があります。

1. 腎臓への血流が低下する要因

腎臓に十分な血液量が送られなくなると、ろ過機能が低下して急性腎障害が起こります。たとえば以下の状態があげられます。

  • 心不全や心筋梗塞
    心機能低下によって血液循環量が減少すると、腎臓へ送られる血液量も減ります。
  • 重度の脱水
    下痢や嘔吐による激しい水分喪失、あるいは大きな火傷や大量出血などで血液量そのものが減少する場合です。
  • 重度の感染症(敗血症など)
    体内の炎症反応が強くなると、血管拡張や血圧低下が起こり、結果として腎血流が不足する場合があります。
  • 肝不全
    肝臓の機能低下に伴い血流動態が乱れ、腎血流が低下することがあります。
  • アナフィラキシーショック
    重篤なアレルギー反応で血管が拡張し急激に血圧が低下すると、腎臓への血液供給が著しく減ります。
  • NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)の使用
    アスピリン、イブプロフェン、ナプロキセンなどを過度に使用することで腎血流が低下する場合があります。

2. 腎臓自体が直接ダメージを受ける要因

腎臓そのものに障害が及ぶ場合、炎症や壊死が生じ、糸球体や尿細管に深刻なダメージを与えます。具体例としては以下が挙げられます。

  • 薬剤性腎障害
    化学療法薬や一部の抗生物質、造影剤など腎毒性をもつ薬剤を使用することで腎組織が傷害されることがあります。
  • アルコールや薬物乱用
    長期あるいは大量のアルコール摂取や特定の薬物(違法薬物など)が、腎実質に直接的な毒性を及ぼします。
  • 糸球体や血管の炎症性疾患
    ループス腎炎や急速進行性糸球体腎炎、血管炎などにより腎臓の微小血管や糸球体が損傷します。
  • 腎血管の血栓(腎梗塞など)
    腎臓の動脈や静脈に血栓が生じると、局所的に組織壊死を起こします。
  • 重度の高血圧
    長期間にわたり血圧が高い状態が続くと、腎臓の細小血管にダメージを与え、急性期にも障害が強まる可能性があります。

3. 排尿経路の閉塞(尿路閉塞)

尿路(腎盂・尿管・膀胱・尿道)に障害が生じ、尿のスムーズな排出が阻害されると、腎臓に逆圧がかかって急性腎障害に至るケースがあります。原因の例は以下のとおりです。

  • 尿路結石
    腎臓や尿管、膀胱に結石があると物理的に尿の流れを妨げます。
  • 前立腺肥大
    高齢男性に多く、尿道の圧迫によって排尿が困難になり、腎盂へと尿が逆流することがあります。
  • 膀胱内や尿道周辺の血栓
    外傷や手術後の出血などにより尿道が詰まることがあります。
  • 悪性腫瘍(膀胱、前立腺、子宮頸部など)
    がんが尿管や膀胱を圧迫したり浸潤したりすると、尿が滞ります。
  • 神経因性膀胱
    脳血管障害や脊髄損傷などによって排尿コントロールが失調し、うまく排尿できなくなることがあります。

主な症状と特徴

急性腎障害は、原因によって症状の現れ方や重症度が異なる場合があります。早期に症状を自覚しにくいこともあり、検査異常が出てから気づくケースも少なくありません。しかし、以下のような兆候がみられたら腎障害の可能性を念頭において、早めに医療機関を受診することが大切です。

  • 尿量の減少
    通常より明らかに尿量が減少する「乏尿」。逆に、初期段階では多尿になる場合もあります。
  • むくみ(浮腫)
    とくに下肢や足首、まぶた周囲に浮腫がみられやすい。
  • 呼吸苦・息切れ
    体液貯留や酸塩基平衡の乱れにより、肺に水分がたまって呼吸困難を起こす可能性がある。
  • 倦怠感や疲労感
    老廃物が蓄積してエネルギー代謝が乱れ、だるさや疲れやすさが顕著になる。
  • 吐き気や嘔吐
    血中に有害物質が増えることで消化器症状が出やすい。
  • 胸の痛みや圧迫感
    電解質異常や体液の過剰によって心臓に負担がかかり、胸部症状が起こることがある。
  • 意識混濁やけいれん
    重篤な症例では、脳機能に影響し、けいれんや意識障害、昏睡などが生じる場合もある。

こうした症状は他の疾患でもみられる場合があり、自己判断で経過をみると対応が遅れるリスクが高まります。少しでも疑わしい症状があれば、できるだけ早く医療機関で検査を受けることが望ましいでしょう。

検査と診断

急性腎障害を正確に診断し、原因を把握するためには、複数の検査結果を総合的に評価する必要があります。以下、主な検査方法を示します。

  • 血液検査
    クレアチニン、尿素窒素(BUN)、電解質(ナトリウム、カリウム、リンなど)を測定し、腎機能の状態を推定します。急性腎障害ではクレアチニンやBUNが急激に上昇するのが特徴です。
  • 尿検査
    尿中の蛋白、血尿、沈渣などを確認して、糸球体疾患や尿路感染症、尿細管障害の有無を推測します。
  • GFR(糸球体濾過量)の測定
    血清クレアチニンから推定GFR(eGFR)を算出し、腎機能の推定を行います。
  • 画像検査(超音波検査など)
    腎臓のサイズや構造異常、腎結石、尿管の拡張などを確認します。
  • 尿量測定
    1日あたりの尿量を測定し、乏尿や無尿の場合は急性腎障害の可能性が高まります。
  • 腎生検
    特定の原因(糸球体腎炎など)を確定するために腎組織を一部採取し、顕微鏡で評価します。

腎障害を引き起こしやすいリスク要因として、下記のような背景があると要注意です。

  • 高血圧
    長期間にわたる血圧コントロール不良は腎臓に負担をかけます。
  • 65歳以上の高齢者
    加齢により腎機能が自然に低下しやすく、急性障害を起こしやすい。
  • 既存の慢性腎臓病や腎障害
    すでに腎機能が低下している場合は、さらなる腎障害が起こりやすい。
  • 慢性疾患(心疾患・肝疾患・糖尿病など)
    全身状態に影響を及ぼし、腎血流の確保が難しくなることがある。
  • 末梢動脈疾患
    体の末梢への血液供給が悪い状態は腎臓への血流にも影響する。

治療・管理方法

急性期の入院管理

急性腎障害が疑われる場合、通常は原因精査と早期の内科的治療が必要となります。入院下で血液検査や画像検査を頻回に行い、必要に応じて以下の対策を検討します。

  • 補液と利尿薬の調整
    体液量を適切に保つために点滴などで補液を行い、場合によっては利尿薬で尿量を確保します。ただし過剰な利尿薬使用は低血圧や電解質異常を招くため注意が必要です。
  • 血圧管理
    血圧が極端に低い場合は昇圧薬を用い、高すぎる場合は降圧薬を調整して腎血流を安定させます。
  • 原因疾患へのアプローチ
    感染症があれば適切な抗菌薬治療を行い、自己免疫疾患ならステロイドや免疫抑制薬を検討するなど、根本原因を治療します。
  • 腎毒性薬剤の中止
    腎機能をさらに悪化させるおそれのある薬剤(NSAIDsや一部の抗菌薬、造影剤など)は中断や代替薬への切り替えを検討します。
  • 透析療法(血液透析または腹膜透析)の導入
    カリウム上昇や肺水腫など、生命にかかわる合併症を伴う重症例では、一時的に人工透析を行い老廃物と水分の除去をサポートします。

退院後の在宅管理と生活習慣

入院治療を経て腎機能が回復してきた場合でも、一定期間は再発予防のための管理が非常に重要となります。退院後の生活面で気をつけるポイントは以下です。

  • 医師の指示に従った薬物管理
    血圧を適正に保つための降圧薬、血糖値コントロールのための薬などを正しく内服します。鎮痛薬の使用には注意が必要です。
  • 低塩分・低脂肪の食事
    加工食品や外食を控え、塩分摂取を控えることで血圧を安定させ、腎臓に負担をかけにくい食生活を続けます。
  • 水分バランスの調整
    過不足のない範囲での水分摂取に努めます。とくに発熱や下痢などで脱水になりやすい状況に注意しましょう。
  • 適度な運動
    心肺機能や血管の健康を保つために、週5日程度、1回30分の有酸素運動(ウォーキングなど)を取り入れることが勧められています。
  • 定期的な検査受診
    退院後しばらくは血液・尿検査を行い、腎機能が安定しているかを確認します。
  • 早期受診の徹底
    尿量減少、むくみ、倦怠感などの再発兆候を感じたら、速やかに医療機関を受診します。

このように、急性期から退院後まで継続的にケアすることで、腎機能の回復を最大限に促し、再発リスクを下げることが期待できます。

予防のポイント

腎機能は一度大きく損なわれると完全回復が難しい場合もあるため、日常生活の中で予防的な視点をもつことが大切です。ここでは、急性腎障害の予防に役立つ具体的なポイントを挙げます。

  • 適切な水分補給
    日常生活での軽度~中等度の脱水は、腎血流低下に直結します。のどが渇く前にこまめに水分摂取する習慣を心がけましょう。
  • NSAIDsの乱用回避
    腰痛や関節痛などで痛み止めを長期・大量に使用すると腎血流が低下しやすいです。医師に相談し、用量・使用期間を守ることが大切です。
  • 高血圧や糖尿病の管理
    血圧が高すぎる・血糖値が安定しない状態が続くと、腎臓へのダメージが蓄積します。生活習慣改善や薬物療法でコントロールすることが予防につながります。
  • 適度な運動と体重管理
    肥満やメタボリックシンドロームは腎機能低下のリスク要因になります。ウォーキングや筋力トレーニングを継続的に行い、適正体重を維持しましょう。
  • 過剰なアルコールの制限
    アルコールは脱水や血圧変動を引き起こす場合があり、腎臓にも影響を与えます。
  • 腎毒性薬剤の使用時に注意
    造影検査などを受ける際に使用する造影剤は腎障害を引き起こすことがあります。事前に腎機能を評価し、点滴や水分補給を十分に行いながら検査を受けることが推奨されています。

結論と提言

急性腎障害は短期間で腎機能が低下するため、早期の発見・対応が極めて重要です。主な原因は「腎への血流低下」「腎そのものの障害」「尿路閉塞」の三つに大別されますが、高齢者や基礎疾患をもつ方、あるいは何らかの薬剤を使用している方は特にリスクが高いとされています。急性腎障害が悪化すると慢性腎臓病へ移行しやすくなり、長期にわたって血液透析などの集中的な管理を要する場面も増えるため、症状が軽度の段階で原因を特定し、適切な処置を受けることが何よりも大切です。

治療においては、まずは原因となる要因(感染症・自己免疫疾患・薬物など)の除去、血液検査や画像検査を通じた綿密なモニタリングが必須です。さらに、薬物療法や補液、利尿薬・透析などを組み合わせて腎機能を維持または回復させるアプローチがとられます。退院後も生活習慣の改善や定期的な検査受診を継続し、再発リスクを最小限に抑えることが望ましいです。

とくに日本では高齢化が進行し、糖尿病や高血圧といった生活習慣病を背景に腎障害を抱える患者が増えています。そのため、自覚症状が乏しくても、日ごろから腎機能を把握し、医療者と連携してケアを行う意識がますます重要になっています。定期健康診断やかかりつけ医の受診機会を活用し、血圧測定、尿検査、血液検査を受けることで、早期に異常を発見できる可能性が高まります。

なお、腎臓の健康を守るためには塩分・脂質を抑えたバランスの良い食生活や適度な運動習慣、十分な水分摂取、そして薬の使用に関する正しい知識が欠かせません。海外や国内の最新研究でも、健康的な生活スタイルの継続が腎機能低下の予防に有用であるという報告が相次いでいます。こうした根拠に基づくアドバイスを日常に取り入れて、腎臓への負担を軽減することを心がけましょう。

参考文献

参考にしていただく際のご注意

これはあくまで一般的な情報提供を目的としたものであり、個々の症状や病歴に応じた医療上の判断を下すものではありません。実際の治療やケアを行う場合は、必ず専門の医師や医療従事者にご相談ください。特に慢性的な疾患や複数の病気を抱えている方は、専門家の指導のもとで最適な治療プランを組み立てる必要があります。早期受診や定期的な健康診断、適切な生活習慣の実践によって腎臓を守り、合併症のリスクを下げることにつなげましょう。

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