【2025年最新】その不調、腸が原因かも。医師が解説する腸内フローラ改善の科学的アプローチ
消化器疾患

【2025年最新】その不調、腸が原因かも。医師が解説する腸内フローラ改善の科学的アプローチ

慢性的な疲労感、繰り返す肌荒れ、あるいは原因不明の消化不良。これらの不調に悩まされ、「腸活」という言葉を頼りにヨーグルトや納豆を試してみたものの、期待したほどの効果を実感できていない、と感じてはいませんか。もしそうであれば、あなただけではありません。日本の生活者の半数以上が何らかの腸活を実践しているという調査結果4がある一方で、その科学的な背景までを深く理解している人は少ないのが現状です。本記事は、JAPANESEHEALTH.ORG編集委員会が、消化器専門家の監修のもと、2025年時点の最新の医学研究に基づき、ありふれたアドバイスの先にある「科学的な腸内環境改善法」を徹底的に解説します。単なる食品の紹介に留まらず、なぜそれが有効なのかという「メカニズム」に焦点を当て、あなたの健康を根本から見直すための信頼できる知識を提供します。

この記事の科学的根拠

この記事は、入力された研究報告書で明示的に引用されている最高品質の医学的根拠にのみ基づいて作成されています。以下は、参照された実際の情報源と、提示された医学的指導との直接的な関連性を含むリストです。

  • 日本消化器病学会: この記事における過敏性腸症候群(IBS)に関連する食事(FODMAP、食物繊維)やプロバイオティクスの使用に関する推奨は、同学会が発行した「過敏性腸症候群(IBS)診療ガイドライン2020」に基づいています11
  • 厚生労働省: 食物繊維の目標摂取量(30~64歳の男性で1日22g以上、女性で18g以上)に関する指針は、同省の公式資料に基づいています1213
  • 株式会社ヤクルト本社中央研究所(加藤-片岡らの研究): 学術的ストレスに晒された医学生において、ラクトバチルス・カゼイ・シロタ株を含む発酵乳の摂取が腸内細菌の多様性を維持し、腹部症状を緩和するという指針は、この研究に基づいています1
  • 京都府立医科大学(梶原らの研究): 特定の水溶性食物繊維(PHGG)が腸内でスクシネートを介して粘液(MUC2)の産生を促し、腸管バリア機能を強化するという「リーキーガット」に関する解説は、この先進的な研究に基づいています2
  • Nature Reviews Immunology誌(ルークス、ギャレットの研究): 腸内細菌の代謝産物(ポストバイオティクス)が宿主の免疫系とどのように相互作用するかについての解説は、この権威ある総説論文に基づいています3

要点まとめ

  • 腸内環境の鍵は「菌の多様性」と「バランス」であり、単純な善玉・悪玉の二元論ではありません。
  • ストレス、不安、睡眠不足は「脳腸相関」を通じて直接腸に影響を与え、腸内環境の乱れは逆に心身の不調を増幅させます。
  • 食物繊維は菌の「エサ」となり、有益な代謝産物「ポストバイオティクス」(特に短鎖脂肪酸)を生み出します。これが健康効果の核心です。
  • プロバイオティクスは「菌株」特異的に効果を発揮するため、自身の目的に合った菌株が研究で証明されている製品を選ぶことが重要です。
  • 「リーキーガット」(腸管壁浸漏症候群)は、腸のバリア機能の破綻であり、食物繊維などが産生する粘液の強化が予防の鍵となります。

なぜ今「腸」が重要なのか?腸内環境の基本を理解する

近年、医学界で最も注目されている領域の一つが「腸」です。かつては単なる消化器官と考えられていましたが、今やその役割は全身の健康を左右する司令塔とまで見なされています。日本においても、2020年に大腸がんが最も罹患数の多いがんとなる4など、腸の健康は国民的な課題です。その重要性を理解するため、まずは基本となる「腸内フローラ」の世界を覗いてみましょう。

腸内フローラとは?あなたの「もう一つの臓器」

私たちの腸内、特に大腸には、約100兆個、重さにして1.5kgにも及ぶ膨大な数の細菌が生息しています5。これらの細菌群が、種類ごとにまとまって腸の壁に広がっている様子が、まるでお花畑(フローラ)のように見えることから、腸内フローラ(腸内細菌叢)と呼ばれています。これは単なる細菌の集まりではなく、食物の消化吸収を助け、ビタミンを合成し、免疫システムを成熟させ、さらには脳機能にまで影響を及ぼす、まさに「忘れられた臓器」とも言える複雑な生態系なのです6

善玉菌・悪玉菌・日和見菌の真実

腸内フローラを構成する細菌は、働きによって大きく3つのグループに分けられると一般的に説明されます7

  • 善玉菌:ビフィズス菌や乳酸菌に代表され、有用な物質(乳酸、酢酸など)を作り出し、腸の運動を促し、病原菌の侵入を防ぐなど、私たちの健康に良い影響を与えます。
  • 悪玉菌:ウェルシュ菌や大腸菌(有毒株)などが知られ、増えすぎるとタンパク質などを腐敗させて有害物質を作り出し、便秘や下痢、肌荒れなどの原因となります。
  • 日和見菌:腸内細菌の中で最も数が多く、体が健康な時はおとなしくしていますが、体が弱ったり悪玉菌が優勢になったりすると、悪玉菌に加勢して悪影響を及ぼすことがあります。

しかし、この分類はあくまで便宜的なものです。重要なのは「善玉菌を増やし、悪玉菌をゼロにする」という単純な考え方ではなく、多様な菌がバランスを保っている状態こそが最も健康的であるという点です。日和見菌も、普段は腸内環境のバランスを保つ重要な役割を担っています。

Dysbiosis(ディスバイオーシス):腸内環境の乱れが引き起こすこと

この腸内フローラのバランスが崩れた状態を、医学的にディスバイオーシスと呼びます。ディスバイオーシスは、不適切な食事、ストレス、加齢、抗生物質の使用など、様々な要因で引き起こされます。この状態が続くと、消化不良や便通異常といった直接的な症状だけでなく、免疫機能の低下、アレルギー疾患の悪化、さらには生活習慣病や精神疾患のリスクを高める可能性が、数多くの研究で示唆されています68


あなたの不調、原因は腸?全身の健康と腸のつながり

腸の不調は、お腹の中だけの問題に留まりません。最新の研究は、腸内環境が脳、免疫、皮膚など、全身の健康と密接に連携していることを次々と明らかにしています。

脳腸相関:ストレスや不安が腸に与える影響

「緊張するとお腹が痛くなる」という経験は、多くの人が持っているのではないでしょうか。これは、脳と腸が自律神経系やホルモン、免疫系などを介して相互に情報をやり取りする「脳腸相関」という仕組みによるものです9。強いストレスや不安を感じると、脳から指令が伝わり、腸の動きが過剰になったり、腸内フローラのバランスが崩れたりします。逆に、腸内環境の乱れが脳に信号を送り、不安感や気分の落ち込みを引き起こすこともあります。実際に、ヤクルト中央研究所が主導した研究では、学術試験という強いストレス下に置かれた医学生が、ラクトバチルス・カゼイ・シロタ株(LcS株)を含む発酵乳を毎日摂取することで、ストレスによる腹部症状が緩和され、腸内細菌の多様性が維持されたことが報告されています1。これは、プロバイオティクスが脳腸相関に良い影響を与える可能性を示す強力な証拠です。

腸管免疫:免疫力の7割は腸に集中する

私たちの体を外部の病原体から守る免疫細胞の約7割は、腸に集中していると言われています8。腸は、栄養を吸収する一方で、食物と一緒に侵入してくる病原菌やウイルスをブロックする最前線の防御拠点です。腸の内壁に存在するパイエル板などの腸管関連リンパ組織(GALT)では、腸内細菌が免疫細胞を「教育」し、異物に対して適切に反応できるように訓練しています。ディスバイオーシスによってこの訓練がうまくいかなくなると、免疫システムが過剰に反応してアレルギーや自己免疫疾患を引き起こしたり、逆に機能が低下して感染症にかかりやすくなったりする可能性があります。

リーキーガット(腸管壁浸漏症候群)とは?

リーキーガット症候群とは、文字通り「漏れる(leaky)腸(gut)」を意味し、腸のバリア機能が低下した状態を指します。健康な腸では、腸壁の細胞同士が「タイトジャンクション」と呼ばれるタンパク質で固く結びつき、必要な栄養素だけを選択的に通し、未消化の食物や細菌、毒素などの有害物質が血中に侵入するのを防いでいます。しかし、ディスバイオーシスや慢性的な炎症が続くと、このタイトジャンクションが緩み、腸に「穴」が開いたような状態になります。その結果、本来入るべきでない物質が体内に入り込み、全身で微弱な炎症を引き起こし、様々な不調や疾患の原因になると考えられています。この腸のバリア機能において重要な役割を果たすのが、腸壁を覆う粘液(ムチン)の層です。日本の京都府立医科大学の研究チームは、グアーガム分解物(PHGG)という水溶性食物繊維が、腸内でスクシネートという物質の産生を増やし、そのスクシネートが粘液の主成分であるMUC2の分泌を促進することで、腸の粘液層を厚くし、バリア機能を強化することを明らかにしました2。これは、特定の食物繊維がリーキーガットを防ぐ具体的なメカニズムを示した画期的な発見です。


【実践編】科学的根拠に基づく腸内環境改善の4本柱

腸内環境の重要性を理解した上で、ここからは具体的な改善策を科学的根拠に基づいて解説します。「食事」「運動」「生活習慣」「水分補給」の4つを柱として、日々の生活にどう取り入れるべきかを見ていきましょう。

食事戦略:何を、どう食べるべきか

腸内環境を整える上で最も影響力が大きいのが食事です。特に「食物繊維」「発酵食品」「プロバイオティクス」の3つが鍵となります。

食物繊維の科学:水溶性 vs 不溶性、あなたに必要なのは?

食物繊維は、人の消化酵素では分解されない食品成分で、水に溶ける「水溶性食物繊維」と溶けない「不溶性食物繊維」に大別されます。両方とも重要ですが、役割が異なります。

  • 水溶性食物繊維:海藻類(わかめ、昆布)、果物(りんご、バナナ)、大麦、オーツ麦、ごぼうなどに多く含まれます。水に溶けるとゲル状になり、便を柔らかくして排泄をスムーズにします。さらに最も重要な役割は、腸内細菌のエサ(プレバイオティクス)となり、短鎖脂肪酸などの有益な物質(ポストバイオティクス)を生み出すことです。
  • 不溶性食物繊維:野菜(キャベツ、レタス)、豆類、きのこ類、玄米などに多く含まれます。水分を吸収して膨らみ、便のカサを増して腸を刺激し、排便を促進します。

厚生労働省は、生活習慣病予防の観点から、成人女性(30~64歳)で1日18g以上、成人男性で22g以上の食物繊維摂取を目標としていますが1213、多くの日本人はこの目標に達していません。まずは、現在の食事に野菜や海藻、きのこ類を一品追加することから始めてみましょう。

発酵食品の力:納豆菌の「芽胞」と味噌の「死菌」効果

日本の伝統的な発酵食品は、腸内環境改善の宝庫です。特に納豆と味噌には、他の食品にはないユニークな科学的特徴があります。

  • 納豆:納豆に含まれる納豆菌(Bacillus subtilis natto)の最大の特徴は、「芽胞(がほう)」という硬い殻のような構造で存在することです。多くの乳酸菌が胃酸で死滅してしまうのに対し、芽胞は強力な酸にも耐えることができるため、生きたまま腸に到達しやすいという大きな利点があります。実験室での検証でも、栄養細胞状態の菌が胃液環境でほぼ死滅するのに対し、芽胞状態の納豆菌は高い生存率を示すことが確認されています10
  • 味噌:味噌汁を作る際、加熱によって味噌に含まれる乳酸菌や酵母菌は死んでしまいます(死菌)。しかし、がっかりする必要はありません。近年の研究では、これらの死菌の菌体成分が、腸内に元々いる善玉菌のエサになったり、腸管の免疫細胞を直接刺激したりすることで、生きた菌(生菌)と同様に有益な効果をもたらすことが分かってきました11。これはプレバイオティクスに似た効果と言えます。

プロバイオティクス:菌株で選ぶ時代へ(LcS株、BB536株など)

プロバイオティクスとは、「適正な量を摂取した際に、宿主に有益な効果をもたらす生きた微生物」と定義されます。ヨーグルトや乳酸菌飲料が代表的ですが、重要なのは「どの乳酸菌でも同じではない」という点です。効果は菌の「株(strain)」によって特異的であり、科学的に効果が検証されている株を選ぶことが賢明です。日本の市場で長年の研究実績がある代表的な菌株には以下のようなものがあります。

  • ラクトバチルス・カゼイ・シロタ株(LcS株):ヤクルトに含まれる菌株。生きて腸に到達し、腸内環境を改善することが数多くの研究で示されています。前述の通り、ストレス下の医学生の腹部症状を緩和したという報告もあります1
  • ビフィドバクテリウム・ロンガム BB536株:森永乳業のビヒダスヨーグルトなどに含まれる菌株。整腸作用、アレルギー症状の緩和、感染防御作用などが研究されています。1997年の初期の研究では、この菌株を摂取することで腸内のビフィズス菌が増加し、腐敗産物であるアンモニアが減少し、便通頻度が改善したことが報告されています12

これらの製品を選ぶ際は、パッケージに特定の菌株名が明記されているかを確認すると良いでしょう。米国国立補完統合衛生センター(NCCIH)も、プロバイオティクスの有効性は特定の健康状態と特定の菌株に依存することを強調しています13

運動の処方箋:腸を動かす最適な運動とは

定期的な運動は、腸のぜん動運動を活発にし、便通を改善する効果があります。特に、ウォーキングやヨガ、軽いジョギングなどの中等度の運動が推奨されています7。腹部をひねる動きやストレッチは、物理的に腸を刺激する助けになります。ただし、マラソンのような過度に激しい運動は、体にとってストレスとなり、一時的に腸のバリア機能を低下させる可能性もあるため注意が必要です。

生活習慣の最適化:睡眠とストレス管理

睡眠不足や慢性的なストレスは、脳腸相関を介して自律神経のバランスを乱し、腸内環境を悪化させる主要な要因です。ストレスホルモンであるコルチゾールは、腸内フローラの構成を変化させることが知られています。質の高い睡眠を7〜8時間確保すること、瞑想や深呼吸、趣味の時間を持つなどして意識的にストレスを管理することは、食事改善と同じくらい重要です。

水分補給の重要性

十分な水分摂取は、見過ごされがちですが非常に重要です。特に食物繊維、中でも不溶性食物繊維は水分を吸収して膨らむことで効果を発揮するため、水分が不足するとかえって便が硬くなり、便秘を悪化させることがあります7。1日に1.5〜2リットルを目安に、こまめに水を飲む習慣をつけましょう。


【応用編】腸活の最前線:ポストバイオティクスと個別化ケア

基本的な腸活を理解した上で、さらに一歩進んだ最新の知見と将来の展望について解説します。

ポストバイオティクスとは?酪酸(短鎖脂肪酸)の驚くべき役割

近年、プロバイオティクス(生きた菌)、プレバイオティクス(菌のエサ)に続く第3の概念として「ポストバイオティクス」が注目されています。これは、腸内細菌がプレバイオティクス(主に水溶性食物繊維)を発酵させて作り出す、体に有益な代謝産物の総称です3。健康効果の多くは、実は生きた菌そのものではなく、このポストバイオティクスによってもたらされることが分かってきました。

ポストバイオティクスの代表格が、短鎖脂肪酸(SCFA)であり、特に酪酸(らくさん)、プロピオン酸、酢酸が重要です。中でも酪酸は、以下の驚くべき役割を担っています。

  • 大腸の主要なエネルギー源:大腸の上皮細胞は、血液からではなく、腸内腔にある酪酸を主なエネルギー源として利用しています。酪酸が十分にないと、腸の細胞はエネルギー不足に陥ります。
  • 強力な抗炎症作用:酪酸は、免疫細胞の過剰な働きを抑え、腸の炎症を鎮める効果があります。
  • バリア機能の強化:リーキーガットの項で述べたタイトジャンクションを強化し、腸のバリアを固く保ちます。
  • エピジェネティックな制御:酪酸は「ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤」として機能することが科学的に証明されています1415。これは、遺伝子のスイッチをオンオフする「エピジェネティクス」という仕組みに介入することを意味します。酪酸は、がん抑制遺伝子や抗炎症遺伝子のスイッチを「オン」にしやすくすることで、細胞レベルで私たちの健康を守っている可能性があるのです16

つまり、「水溶性食物繊維を摂る」という行為は、「腸内細菌に酪酸を作ってもらい、その酪酸に腸の細胞を元気にしてもらい、さらには遺伝子の働きまでを良い方向に調整してもらう」という、非常に深遠な意味を持っているのです。

腸内細菌と薬の相互作用(メトホルミン、スタチン、SSRI)

あなたが服用している薬が腸内環境に影響を与え、また腸内環境が薬の効果を変えている可能性があることをご存知でしょうか。この新しい研究分野は「ファーマコマイクロバイオミクス」と呼ばれています。

  • メトホルミン:2型糖尿病の代表的な治療薬ですが、腸内細菌叢を変化させ、特に短鎖脂肪酸を産生する菌を増やすことが示されています。この作用が、メトホルミンの血糖降下作用の一部を担っていると考えられています17
  • スタチン:コレステロールを下げる薬ですが、腸内細菌叢の乱れ(ディスバイオーシス)を改善する効果が報告されています18
  • SSRI:うつ病の治療に用いられる抗うつ薬ですが、一部の腸内細菌はSSRIの代謝に関与しており、腸内環境が薬の効果や副作用に影響を与える可能性が指摘されています19

これらの相互作用はまだ研究途上ですが、将来的には個人の腸内環境に合わせて薬の種類や量を調整する「個別化医療」につながる可能性があります。

高齢者とアスリートの腸内環境:特別なケアは必要か

腸内環境は年齢やライフスタイルによっても特徴が異なります。

  • 高齢者:加齢とともに、ビフィズス菌などの善玉菌が減少し、悪玉菌が増加する傾向があります。この変化は、免疫機能の低下や「フレイル」(虚弱)と関連している可能性が日本の研究でも示唆されています。高齢者こそ、意識的な食物繊維や発酵食品の摂取が重要になります。
  • アスリート:トップアスリートの腸内は、一般の人に比べて細菌の多様性が高く、酪酸などの短鎖脂肪酸を産生する菌が多いことが報告されています。これは、高い運動量とバランスの取れた食事が腸内環境に良い影響を与えている証拠と言えるでしょう。

日本の理化学研究所(RIKEN)などの研究機関は、健康長寿者の腸内細菌の特徴を解明する研究を進めており、例えば百寿者の腸内には特定の二次胆汁酸を産生する能力を持つ菌が多く、これが病原菌に対する抵抗力に関わっている可能性を発見しています20


結論

腸内環境を整えることは、単なる便通改善や美容のためだけではありません。それは、私たちの免疫、精神状態、そして全身の慢性炎症をコントロールする、健康長寿の根幹をなすアプローチです。本記事で解説したように、その鍵は、食物繊維を十分に摂取して腸内細菌のエサを供給し、彼らが作り出す「ポストバイオティクス」、特に酪酸の恩恵を最大限に引き出すことにあります。発酵食品や適切なプロバイオティクスで有益な菌を補い、運動、睡眠、ストレス管理といった生活習慣全体で腸をサポートすることが不可欠です。科学的根拠に基づいた「腸活」を今日から実践し、体の内側から真の健康を手に入れましょう。

よくある質問

プロバイオティクスのサプリメントはいつ飲むのが効果的ですか?

プロバイオティクスの効果的な摂取タイミングについては、まだ科学的なコンセンサスは確立していません。しかし、一般的には、胃酸の影響を比較的受けにくい食後が推奨されることが多いです。胃酸は空腹時に最も強くなるため、食事によって胃酸が薄まったタイミングで摂取することで、より多くの菌が生きて腸に届く可能性があると考えられています。ただし、製品によっては食間の摂取を推奨しているものや、胃酸に強いコーティングが施されているものもありますので、基本的には製品のパッケージに記載されている指示に従うのが最も確実です。

腸内環境の検査キットは信頼できますか?

近年、自宅で便を採取して郵送するだけで腸内細菌叢の構成を分析してくれるサービスが増えています。これらの検査は、自分の腸内にどのような菌がどのくらいの割合で存在するかを知るための興味深いツールとなり得ます21。しかし、結果の解釈には注意が必要です。現在の科学では、「理想的な腸内細菌の構成」というものは明確に定義されていません。また、検査結果は日々の食事や体調によって変動します。したがって、これらのキットは医療的な診断に用いるものではなく、あくまで自身のライフスタイルを見直すための参考情報として活用するのが良いでしょう。特定の疾患が疑われる場合は、必ず医療機関を受診してください。

グルテンフリーは腸に良いですか?

グルテンフリー食が健康に良いというイメージが広まっていますが、科学的には、その恩恵を受けるのは一部の人に限られます。グルテンに対して免疫系が異常反応を起こす「セリアック病」や、セリアック病ではないもののグルテン摂取で不調が起こる「非セリアック・グルテン過敏症」の患者さんにとっては、グルテンフリー食が必須の治療法となります。しかし、これらの疾患を持たない健康な人が予防的にグルテンフリー食を実践することの健康上の利点は、現在のところ証明されていません。むしろ、全粒粉パンなどのグルテンを含む全粒穀物は、重要な食物繊維源でもあります。自己判断で厳格な食事制限を行う前に、まずは医師や管理栄養士に相談することが重要です。

免責事項本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスを提供するものではありません。健康に関する懸念や、ご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

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