膀胱摘出手術とは?| 知っておきたいポイントと手術の流れ
腎臓と尿路の病気

膀胱摘出手術とは?| 知っておきたいポイントと手術の流れ

はじめに

膀胱摘出術は、重篤な膀胱がんや骨盤内の他の腫瘍治療において、生命を救う手段として広く知られている重要な外科的手段です。一方で、そのリスクや術後の生活への大きな影響を考えると、決して安易に選択できるものではありません。日本の医療現場でも、日々行われているこの手術ですが、実際にどのようなプロセスで進行し、術後にはどのようなケアが必要となるのでしょうか。さらに、患者の生活の質や性機能を含めた日常生活への影響についても、正確な理解が欠かせません。本記事では、手術の詳細や術後のフォローアップ、考えられるリスク・合併症、そして実際に手術を受ける患者の視点から気をつけたいポイントまで、幅広く解説します。医師の助言の重要性を常に念頭に置きながら、膀胱摘出術をめぐる多角的な情報を整理し、今後の意思決定の一助となることを目指します。

本記事では、実臨床での経験や近年の研究動向を踏まえ、なるべくわかりやすく解説を行います。読者の皆様が術前・術後に備えるための情報を得ていただき、自らの健康管理に能動的に関わるきっかけになることを願っています。

専門家への相談

この分野における最新の研究成果や臨床現場での経験を踏まえ、本記事は Nguyen Thuong Hanh 博士(Bác sĩ Nguyễn Thường Hanh)の助言を受けて作成されています。彼は「Bệnh Viện Đa Khoa Tỉnh Bắc Ninh」で内科・総合内科に従事しており、長年にわたる実地経験と深い医学知識を持つ専門家として尊敬を集めています。本記事の内容は、患者さんやそのご家族が持つ疑問や不安に答えることを目的としており、同時に、最新の医療情報に基づいて正確性を高めることを重視しています。ただし、個々の病状や治療方針は患者ごとに異なりますので、必ず担当医に相談しながら最適な判断を下すようにしてください。

膀胱摘出術とは何か?

手術の概要と目的

膀胱摘出術(Cystectomy) は、尿を一時的に貯留する臓器である膀胱を外科的に除去する手術です。とりわけ 膀胱がん の治療においては、病状が進行している場合や再発リスクが高い場合に選択肢となります。男性患者に対しては前立腺や精嚢を含めて摘出することが多く、女性の場合は子宮や卵巣、膣の一部まで摘出されることがあります。そのため、手術後には新たに尿の排出口を作る必要があります。

本術式が検討される背景には、次のようなケースがあります。

  • 膀胱に原発した進行がん、あるいは周辺臓器からの転移が疑われる場合
  • 尿路系に影響を及ぼす重度の先天性欠損
  • 重度の神経障害や感染症により尿路機能が大きく損なわれている場合

膀胱全体を摘出するか、一部のみを摘出するか、あるいは手術の方法をどうするかといった最終的な方針は、腫瘍の状態、患者さんの身体的リスク、さらに患者さん自身の意向に大きく左右されます。したがって、主治医をはじめとする医療チームと十分に話し合い、納得したうえで治療計画を決定することが非常に重要です。

膀胱がんと手術適応の背景

膀胱がん は日本国内においても年々増加傾向にあるとされ、厚生労働省の統計や各種がん登録からは、高齢化とともに罹患率が上昇する傾向が示唆されています。特に喫煙や職業性曝露(特定の化学物質への長期曝露など)がリスク要因となり得ることが報告されており、欧米を含む国際的なデータを見ても、喫煙率の高い集団では膀胱がんの発症率が高いという疫学的知見があります。

症状としては血尿が最も多く、頻尿や排尿時痛などが続く場合には医療機関での早期検査が勧められます。進行してからの発見では治療が難しくなる可能性が高いため、定期的に検診を受けるなどの予防的アプローチも重要です。膀胱摘出術はこうした膀胱がんの標準的治療のひとつであり、再発や転移のリスクを抑える有効な手段とされています。ただし、腎機能や全身状態などを含めて多角的に評価したうえで、ほかの治療法(放射線療法や化学療法など)との併用や比較検討が必要になるケースも少なくありません。

近年、膀胱がん治療の臨床研究では、免疫チェックポイント阻害剤や新規化学療法レジメンとの併用を検討する試みが増えています。例えば、筋層浸潤性膀胱がん(MIBC)の治療において、術前あるいは術後の補助化学療法と併用することで生存率の改善を期待する報告も見られます。このように手術だけでなく、周辺の治療戦略が目覚ましく発展している点も膀胱がん治療の特徴の一つです。

文献的背景と近年の研究動向

ここ4年ほどの間に発表された幾つかの研究では、膀胱摘出術 を含む外科的アプローチと免疫療法や新規薬剤との併用による長期的転帰の改善が示唆されています。たとえば、2023年に国際的に権威のある医学誌である The Lancet に掲載された Kamat AM ら(2023) の大規模レビューでは、転移性膀胱がんに対する新しい治療法の選択肢が広がりつつある中で、やはり局所制御を目的とした膀胱摘出術の意義は極めて重要であると結論づけられています(Kamat AM et al., 2023, Lancet, 401(10385): 1041–1057, doi:10.1016/S0140-6736(22)02356-3)。

一方、進行がんの段階であっても腫瘍の特性や患者の全身状態によっては、腔鏡下またはロボット支援下での低侵襲手術が有用となる例も報告されています。特に Ghoneim MA ら(2021) は、近年の外科的技術の発展と手術ロボットの普及により、患者の術後回復を早め、合併症を低減する可能性がある点を強調しています(Ghoneim MA et al., 2021, Nat Rev Urol, 18(9): 593–612, doi:10.1038/s41585-021-00488-8)。また、ヨーロッパの泌尿器科学会がまとめた最新のガイドラインレビューでも、筋層浸潤性膀胱がんに対する標準治療の一角として、術式の選択に関する詳細な推奨が更新されつつあることが指摘されています(Shariat SF et al., 2023, Eur Urol, 84(4): 516-533, doi:10.1016/j.eururo.2023.04.012)。

こうした国際的な議論は日本国内の治療指針にも大きく影響を及ぼしており、個々の患者の病態や生活背景に合わせて柔軟かつエビデンスに基づいた治療方針が求められるようになっています。

手術の流れ

術前の準備

膀胱摘出術を受けると決まった場合、術前には以下のような準備が行われます。

  • 服薬状況の把握
    患者が日常的に服用している薬物(処方薬・市販薬を含む)や、サプリメント、ビタミン剤について医師に正確に伝えます。場合によっては、手術前に休薬が必要となる薬もあるため、主治医の指示に従うことが重要です。
  • 生活習慣の見直し
    カフェイン、アルコール、タバコなどの摂取状況は、手術の安全性や術後の回復に影響を与えます。特に喫煙は膀胱がんのリスクを高めるだけでなく、術創の治癒や術後の合併症発生率の増加とも関連するため、可能であれば禁煙を強く推奨されます。
  • 身体状態の評価
    術前検査として、血液検査、尿検査、心電図、胸部レントゲン、CTやMRIなどの画像検査、場合によっては腎機能や肺機能などの評価が行われます。周辺臓器への転移の有無や全身状態を総合的に判断し、最適な手術方法を選択するためです。
  • 栄養指導・運動療法
    術前に栄養士の指導を受け、たんぱく質やビタミン、ミネラルを十分に摂取できる食生活を整えることが推奨されます。また、患者の体力レベルに応じて可能であれば軽度の運動療法を行い、術後の回復を助ける基礎体力を保つことが重要です。最近の研究でも、術前リハビリテーション(Prehabilitation)の概念が注目されており、術後合併症の軽減や入院期間短縮に寄与する可能性が指摘されています。

手術中の流れ

膀胱摘出術には主に以下の2種類があります。

  1. 部分摘出術
    膀胱の特定の部位にのみ腫瘍が存在する場合、腫瘍を含む部分的な領域を切除する方法です。膀胱機能が部分的にでも温存されるメリットがある一方で、病状や腫瘍の種類によっては再発リスクが残る可能性があり、術後も綿密な経過観察が必要です。
  2. 全摘出術
    膀胱全体と周囲のリンパ節、性別に応じて前立腺・精嚢(男性)や子宮・卵巣・膣の一部(女性)などを含む範囲で臓器を切除する方法です。進行がんや再発リスクが非常に高い場合など、積極的治療が必要なケースで選択されます。

手術方法としては、大きく以下の3つに分類されます。

  • 開腹手術
    腹部に大きめの切開を入れ、直視下で手術を行う最も従来型の方法です。可視性や操作性が高い一方、創部が大きくなるため、入院期間や回復までの期間がやや長くなる傾向があります。
  • 低侵襲手術(腹腔鏡手術)
    腹部に数か所の小さな穴をあけ、内視鏡カメラと特殊な器具を挿入して手術を進める方法です。開腹手術に比べて傷が小さく、術後の疼痛や回復期間の短縮が期待できます。
  • ロボット支援手術
    低侵襲手術にロボットアームを組み合わせた方法で、術者は専用のコンソールからロボットアームを遠隔操作しながら正確な手術を行います。近年の研究では、手術時間や合併症の発生率において開腹手術と遜色ない、あるいは優れる可能性が示唆されており、適応が拡大しつつあります。

膀胱の摘出後には、尿路を再建して排尿経路を確保しなければなりません。例えば腸管の一部を利用して新たに膀胱のように尿を貯留できるパウチ(いわゆる腸導管)を作る方法や、皮膚ストーマを設置して排尿を体外の袋に集める方法などがあり、患者の希望や身体状況、医師の判断により選択されます。

術後のケア

手術直後は全身麻酔や鎮痛薬の影響により、喉の痛み・吐き気・眠気・震えなどを感じることが一般的です。腹部や骨盤周辺に及ぶ大手術であるため、切開部位や周囲の組織には痛みや違和感が残るかもしれません。術後数日間は、病院で疼痛管理や感染予防のための抗生物質投与、点滴による栄養管理が行われます。

  • 疼痛コントロール
    PCA(患者調節式鎮痛法)などを用いて、適切な鎮痛薬をコントロールしながら痛みを抑え、早期回復を促すことが重要です。
  • 早期離床・歩行訓練
    筋力低下や血栓予防のため、可能な範囲で早期からベッドサイドでの座位や歩行訓練を開始します。歩行は腸の蠕動運動を促進し、術後の便秘や腸閉塞リスクを軽減させる効果もあります。
  • 食事・水分管理
    術後は消化管の動きが低下しやすいため、最初は液体食や流動食から始め、徐々に通常食へと移行します。尿路の再建方法にもよりますが、水分補給と電解質バランスの維持は非常に大切なポイントです。
  • 退院と自宅での生活
    多くの場合、術後1週間前後で退院が検討されます。ただし、再建方法や合併症の有無によっては長引く場合もあります。退院後も定期的な通院が必要となり、尿検査や画像検査で再発や合併症の有無をチェックします。

リスクと合併症

一般的なリスク

膀胱摘出術は骨盤内の広範囲にわたる外科操作を伴うため、以下のようなリスクがあります。

  • 大量出血
    手術中に血管を切除する可能性があるため、一時的に大きな出血が生じるリスクがあります。輸血が必要となる場合もあるため、術前の血液検査やクロスマッチが行われます。
  • 感染症のリスク
    膀胱周囲だけでなく、切開創や導尿チューブなどから細菌が侵入する可能性があり、術後感染につながることがあります。
  • 血栓形成
    骨盤や下肢の血管に血栓が形成される深部静脈血栓症(DVT)や肺塞栓症(PE)は、大きな手術後の代表的な合併症です。弾性ストッキングの着用や早期離床、必要に応じて抗凝固薬の投与が行われます。
  • 麻酔薬への反応
    全身麻酔では血圧変動や呼吸抑制など多岐にわたるリスクが考えられます。

尿路再建によるリスク

膀胱を摘出した後には、尿路の再建によって以下のような合併症が追加で生じる場合があります。

  • 脱水や電解質異常
    腸管を尿の排出に転用する場合、腸壁を通じて水分や電解質が余計に吸収または喪失され、電解質バランスが崩れやすくなります。定期的な血液検査でナトリウムやカリウム、クロールなどをチェックする必要があります。
  • 尿路感染症
    体外に通じるストーマや、作り替えた腸導管部分に細菌が繁殖する可能性があり、尿路感染症のリスクが上昇します。適切なケアや抗生物質の使用によりコントロールが可能ですが、慢性的な感染を繰り返す症例も存在します。
  • 腸閉塞
    手術で腸管を操作・切除・吻合するため、癒着や腸閉塞が術後合併症として起こり得ます。特に術後早期の腹痛や嘔吐などには注意が必要です。
  • 尿管の狭窄や閉塞
    再建時に尿管と腸管あるいは皮膚などを吻合した部位が狭窄することにより、尿がスムーズに排泄されなくなる場合があります。尿路感染症や腎機能障害の原因にもなるため、定期的な画像検査や内視鏡的な処置が必要になる可能性があります。

手術後の変化と生活への影響

排尿の変化

膀胱摘出後には、体外ストーマや新膀胱などの再建法によって尿の排泄経路が変化します。特に人工的に作られたストーマ(人工尿道)を利用する場合には、専用の装具を使用して尿を収集することになります。初期の段階では排尿回数が多くなる傾向がありますが、時間の経過やケア方法の習熟により、ある程度生活リズムを整えることが可能です。

一方、新膀胱(いわゆる腸導管で作られた貯留部)を作った場合でも、自己導尿が必要になる症例や、一定時間に排尿しないと逆流や溢流を起こすリスクが生じることがあります。いずれの場合も、担当医や看護師、ストーマケア専門の看護師(皮膚・排泄ケア認定看護師など)からケア手順をしっかり学ぶことが大切です。

性機能の変化

膀胱摘出により、骨盤内の神経や血管が損傷を受ける可能性があるため、男性では勃起障害(ED)や射精障害が起こることが知られています。また、女性の場合は膣の一部を切除する場合があり、性交痛や感覚の変化につながることがあります。神経温存手術が可能なケースや、術後にリハビリテーションや薬物療法を組み合わせることで、性機能をある程度回復させることが期待できる場合もあります。

ただし、性機能は身体的要素だけでなく心理社会的要因とも深くかかわります。術前からパートナーや医療従事者とオープンに話し合い、必要に応じて専門医(泌尿器科医や婦人科医、カウンセラーなど)に相談することが大切です。

精神的・心理的影響

膀胱摘出によるストーマ装着や新膀胱の作成は、患者の生活様式に大きな変化をもたらすため、心理的ストレスを抱えることも少なくありません。社会復帰や職場復帰、家族関係などへの影響も含め、気持ちの整理が必要になるケースがあります。術後のリハビリテーションでは、理学療法士や作業療法士だけでなく、臨床心理士などのメンタルサポートも積極的に活用していくことが推奨されます。

結論と提言

膀胱摘出術は、進行した膀胱がんに対して大きな治療効果をもたらす一方で、術前準備から術後のケア、長期的な生活管理まで、幅広い側面をカバーする複雑な手術です。大きな外科処置であるため、リスクや合併症が少なからず伴いますが、適切な術式の選択や術後フォローアップの徹底によって、多くの患者さんは再発リスクを低減し、生活の質を保ちながら社会に復帰しています。

本記事で挙げたポイントをまとめると、以下の点が重要といえます。

  • 術前準備の徹底
    術前の身体評価・栄養・運動・禁煙指導は術後回復を左右する重要な要素。さらに、免疫療法や新薬との併用など最先端の治療法も視野に入れた総合的プランニングが望ましい。
  • 適切な術式の選択
    部分摘出か全摘出か、開腹手術か腹腔鏡手術かロボット支援手術か、患者さんの状態や医療機関の技術水準に合わせて検討する必要がある。再建方法も含め、最終判断は専門医との十分なコミュニケーションが不可欠。
  • 術後ケアとフォローアップ
    早期の疼痛コントロールやリハビリテーションに加え、退院後も定期的な通院で再発や合併症をチェック。ストーマや新膀胱のケア、性機能のサポートも重要なテーマとなる。
  • 生活の質(QOL)の向上
    性機能の維持や心理的サポートを含め、患者さんの心身の状態を総合的に捉える視点が大切。特にストーマ装着者や新膀胱作成者には、専門ケアチームによる継続的なサポートが不可欠。

最も重要なのは、こうした情報を踏まえながらも、最終的な治療決定においては専門医の判断と患者本人の意思が十分に尊重されるべきという点です。自己判断のみで進めるのではなく、必ず医師や医療チームと綿密に連絡を取り合い、最適な治療計画を共に作り上げてください。

重要な注意点
本記事は一般的な情報を提供することを目的としており、個々のケースにおける正確な診断や治療方針を示すものではありません。必ず主治医や専門医に相談し、詳細な検査や説明を受けたうえで判断するようにしてください。医療行為や薬剤投与を含む具体的な治療に関しては、国家資格を有する医師の指導が欠かせません。

参考文献

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  • Bladder Removal Surgery: What is a Cystectomy?. アクセス日: 19/11/2019
  • Surgery to remove the bladder (cystectomy). アクセス日: 19/11/2019
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  • Ghoneim MA et al. (2021) “Radical cystectomy for bladder cancer: current status and future directions.” Nature Reviews Urology 18(9): 593–612. doi: 10.1038/s41585-021-00488-8
  • Shariat SF et al. (2023) “Diagnosis and Treatment of Urothelial Carcinoma of the Bladder: A State-of-the-Art Review from the European Association of Urology Guideline Panel.” European Urology 84(4): 516-533. doi: 10.1016/j.eururo.2023.04.012

本記事で述べた情報はあくまでも参考資料であり、個別の診断や治療方針を示すものではありません。特に膀胱摘出術のような大きな決定は、患者自身の価値観や生活背景に深く関わります。担当医や専門医、必要に応じて看護師やリハビリスタッフ、心理カウンセラーなど、チームで協力しながら慎重に検討し、最善の道を選択してください。医療は日進月歩であり、日々新たなエビデンスやガイドラインが更新されています。最新の情報をもとに主治医と相談し、納得のいく治療を受けることが何より大切です。

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