本記事は、「鼻アレルギー診療ガイドライン 2024年版(改訂第10版)」1112や環境省の「花粉症環境保健マニュアル2022」10、厚生労働省の資料23など、日本の公的機関・専門学会の情報と、国内外の査読付き論文をもとに、Japanese Health(JHO)編集部が作成しました。ご自宅で実践できる科学的根拠に基づいたセルフケアから、専門医による治療やアレルゲン免疫療法、生物学的製剤といった最新の選択肢まで、できるだけわかりやすく整理します。長年悩まされてきた鼻づまりから少しでも解放されるための「信頼できる日本語ガイド」として、ご自身やご家族のケアに役立ててください。
この記事の科学的根拠と作成体制
本記事は、厚生労働省、日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会、日本アレルギー学会、国立研究機関、Cochraneレビューなど、信頼性の高い情報源に基づき、JHO(JapaneseHealth.org)編集委員会が作成しました。公的ガイドラインや査読付き論文の内容を、一般の方にもわかりやすい形に整理することを目的としています。
- 日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会:アレルギー性鼻炎の診断・治療・重症度分類・生物学的製剤や免疫療法の位置づけについては、「鼻アレルギー診療ガイドライン2024年版(改訂第10版)」の内容を中心に整理しています。111214
- 環境省・厚生労働省:日本における花粉症の有病率、花粉飛散と対策、生活への影響に関する記述は、「花粉症環境保健マニュアル2022」10や「的確な花粉症の治療のために(第2版)」23などの公式資料に基づいています。
- Cochrane・国際的なレビュー:鼻洗浄(鼻うがい)や慢性副鼻腔炎に対する生理食塩水洗浄の有効性については、Cochraneレビューや関連するシステマティックレビューの結果を踏まえて解説しています。151624
- 専門家の見解とガイドラインの実臨床への落とし込み:花粉症とプレゼンティーズムの関係、最新の治療戦略や免疫療法・生物学的製剤の位置づけについては、大久保公裕教授をはじめとする日本の専門家の講演・論文・解説記事を参考にしています。1122
また、編集プロセスやJHO編集委員会の体制については、JHO(JapaneseHealth.org)編集委員会の紹介ページで詳しくご説明しています。
この記事の要点
- 鼻づまりは、アレルギー性鼻炎・感染症・構造的な問題・薬剤の影響・妊娠による変化など、複数の要因が重なって起こることが多く、原因ごとの対策が重要です。
- 鼻うがい、加湿、体を温める、姿勢の工夫などのセルフケアは、多くのガイドラインでも推奨されている対処法ですが、やりすぎや誤った方法は逆効果になることもあります。
- 花粉症による鼻づまりには、「花粉症環境保健マニュアル」10で示されている生活環境の工夫(外出時のマスク・洗濯物の室内干し・掃除・空気清浄機など)が、医薬品による治療と同じくらい重要です。
- 市販の点鼻薬の中には、血管収縮薬を含み、1週間以上の連用で薬剤性鼻炎を引き起こすリスクが高いものがあります419。ラベルの注意書きや薬剤師の説明を必ず確認しましょう。
- 症状が長引く、片側だけの鼻づまりが続く、痛みや発熱を伴う、睡眠時無呼吸が疑われるなどの場合は、セルフケアだけに頼らず耳鼻咽喉科で原因精査を受けることが最も安全です。
- 重症の花粉症では、ガイドラインに基づき、アレルゲン免疫療法(舌下免疫療法など)や生物学的製剤(オマリズマブなど)が選択肢になる場合もありますが、適応や費用も含め専門医とよく相談する必要があります622。
鼻づまり解消の完全ガイド
夜も眠れないほどの鼻づまりや、日中の集中力を奪う息苦しさは、本当に辛いものです。仕事や勉強が手につかないだけでなく、口呼吸になることで喉を痛めたり、睡眠不足による頭痛やだるさが続いたりと、全身の不調につながることも少なくありません。
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こうした耳鼻咽喉科領域の症状を「なんとなく放置」せず、仕組みを理解したうえで適切に対処することが、つらさから抜け出す第一歩です。耳鼻咽喉科疾患の完全ガイドでは、鼻づまりを含むさまざまな耳・鼻・喉の症状の背景にある原因や検査、治療法を、大人から子どもまでを対象にわかりやすく解説しています。
鼻づまりが長引く場合、単なる風邪ではなく、慢性的な炎症や構造的な問題が関与している可能性があります。特に、粘膜の腫れや副鼻腔のトラブルが背景にあると、セルフケアだけでは改善しづらくなります。慢性鼻炎の原因と治療を知ることで、「なぜ自分の鼻づまりは良くならないのか」を整理しやすくなるでしょう。
自宅でできる即効性のある対策としては、鼻の中を物理的に洗浄する方法が、ガイドラインでもセルフケアの一つとして紹介されています。アレルゲンや粘液を洗い流す効果的な鼻洗浄(鼻うがい)は、正しく行えば痛みも少なく、多くの方で症状緩和に役立つとされています。
つらい時期には市販薬を上手に活用するのも一つの方法です。ただし、成分や特徴を理解しないまま自己判断で使用すると、薬剤性鼻炎をはじめとしたトラブルにつながることもあります。鼻づまりに効く市販薬の選び方では、代表的な市販薬の種類や注意点を整理しています。
また、市販の点鼻スプレーの中には、本来短期間だけ使うべき血管収縮薬が含まれるものがあります。長期間使用すると、かえって粘膜が腫れ上がり、薬剤性鼻炎という難治性の鼻づまりを引き起こすことが知られています。自己判断での長期使用は避け、必ず添付文書と薬剤師の説明を確認しましょう。
鼻づまりは生活の質を大きく下げる要因ですが、原因に合ったセルフケアと適切な医療的サポートを組み合わせれば、多くの方が「よく眠れる・日中も集中しやすい状態」を取り戻すことができます。本記事を読みながら、今日からできる小さな一歩を見つけてみてください。
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なぜ鼻はつまるのか?鼻づまりの主な原因
鼻づまりの不快な感覚は、主に2つのメカニズムによって引き起こされます。一つは、鼻の内部を覆う粘膜が何らかの刺激によって炎症を起こし、腫れること(浮腫)。もう一つは、その炎症反応によって鼻水などの分泌物(鼻漏)が増え、鼻腔内に溜まってしまうことです。これらの結果、鼻の空気の通り道が狭くなり、息苦しさを感じます。実際には、複数の原因が重なり合っていることが多く、「花粉症+構造的な問題」「風邪をきっかけに慢性化」など、背景は人それぞれです。
アレルギー性鼻炎(花粉症など)
特定の物質(アレルゲン)に対する免疫系の過剰反応によって、くしゃみ・鼻水・鼻づまりなどが繰り返し起こる状態です。日本ではスギやヒノキなどの花粉が原因となる季節性のもの(花粉症)が特に知られており、2019年に行われた大規模調査では、スギ花粉症の有病率はおよそ42.5%に達すると報告されています10。そのほか、ハウスダストやダニ、ペットの毛などが原因となる通年性アレルギー性鼻炎も多く、年中鼻づまりが続く方も少なくありません。
アレルギー性鼻炎では、鼻粘膜の腫れによる鼻づまりだけでなく、頻回のくしゃみやさらさらした鼻水、目のかゆみ、睡眠の質の低下、集中力の低下など、日常生活に幅広い影響が出ることが知られています21。
急性鼻炎・副鼻腔炎(風邪など)
風邪のウイルスや細菌に感染することで、鼻の粘膜に急性の炎症が起こった状態が急性鼻炎です。一般的には数日から1週間程度で改善しますが、炎症が鼻の奥にある副鼻腔まで広がると、副鼻腔炎(蓄膿症)に発展し、粘り気のある鼻水や顔面痛、後鼻漏などを伴うことがあります。急性副鼻腔炎が適切に治療されないまま慢性化すると、長期にわたる鼻づまり・頭重感・嗅覚低下などにつながるため、自己判断で長く様子を見すぎないことも大切です。
構造的な問題(鼻中隔弯曲症・鼻茸など)
左右の鼻の穴を隔てている壁(鼻中隔)が大きく曲がっている「鼻中隔弯曲症」や、鼻の中にポリープ(鼻茸)ができている場合など、鼻の解剖学的な構造そのものが鼻づまりの原因となることもあります78。この場合、セルフケアだけでの改善は難しく、症状の程度によっては手術的治療が検討されます。特に片側だけの鼻づまりが続く場合は、構造的な問題や腫瘍性病変が隠れている可能性もあるため、早めに耳鼻咽喉科での精査が推奨されます。
その他の原因(薬剤性鼻炎、妊娠性鼻炎、ホルモン・生活習慣など)
市販の点鼻薬の過度な使用が原因で起こる「薬剤性鼻炎」4や、妊娠中のホルモンバランスの変化による「妊娠性鼻炎」、甲状腺機能異常、一部の降圧薬などが原因となる鼻づまりもあります7。また、喫煙や受動喫煙、強い香料・刺激性のある化学物質、室内の乾燥やほこりなど、生活環境の要因も鼻づまりを悪化させる重要な因子です。
このように、鼻づまりは一見「同じような症状」に見えても、背景にある原因やリスクは大きく異なります。セルフケアで様子を見る場合でも、「いつまで・どの程度なら様子を見てよいか」「どのタイミングで受診すべきか」を意識しておくことが重要です。
自宅でできる鼻づまり解消法:即時的な症状緩和を目指すケア
ここでは、つらい鼻づまりを「今すぐ少しでも楽にしたい」ときに役立つ、即効性が期待できるセルフケア方法を科学的な視点からまとめます。各方法について、「やり方」「科学的根拠」「注意点」を明確に示し、どのような場面で活用しやすいかも補足します。
1. 鼻うがい(鼻洗浄):アレルゲンや異物を物理的に洗い流す
やり方:
体温程度に温めた生理食塩水(0.9%の塩水、人間の体液とほぼ同じ濃度)を使用します。自宅で塩と水を混ぜて作ることもできますが、濃度のずれや衛生面のリスクを避けるためには、市販の専用キット(例:ハナノア、ハナクリーンなど5)を用いるほうが安全です。片方の鼻の穴からゆっくりと洗浄液を流し込み、もう片方の鼻の穴や口から出す、という手順を左右交互に繰り返します5。鼻を強くすするのではなく、「自然に流れ出るように」意識すると負担が少なくなります。
科学的根拠(The Science Check):
鼻うがいは、鼻腔内に付着した花粉やハウスダストなどのアレルゲン、ウイルスや細菌、そして鼻水を物理的に洗い流すことで、鼻の炎症を和らげ、鼻づまりや後鼻漏を改善する効果が期待されます。慢性副鼻腔炎を対象としたCochraneレビューでは、生理食塩水による鼻洗浄が症状改善に有効である可能性が示されており151624、日本のガイドラインでも、適切な方法で行われる鼻洗浄はセルフケアの一つとして位置づけられています1718。ただし、エビデンスの質は低〜中程度と評価されており、「万能の治療法」ではありません。
注意点とリスク:
必ず清潔な水と塩を使用し、体液に近い濃度の生理食塩水を用意してください。真水や濃度の高すぎる塩水で行うと、鼻の粘膜を刺激して痛みやしみる感覚が強く出てしまいます。また、水道水をそのまま使用するのではなく、煮沸して冷ました水や精製水を使うことが推奨されます。1日に何度も繰り返すと、鼻の正常な粘液や防御機能まで洗い流してしまう可能性があるため、1日1〜2回程度を目安とし、症状が落ち着いたら回数を減らしましょう20。
2. 温めるケア(蒸しタオル・入浴):血行促進と加湿
やり方:
濡らしたタオルを電子レンジで温めて蒸しタオルを作り、鼻の付け根や頬のあたりを温めます。必ず手で温度を確かめ、熱すぎないことを確認してから顔に当ててください。また、日本人に馴染み深い入浴も非常に効果的です。湯船にゆっくり浸かることで体全体が温まり、湯気による加湿効果も得られます320。
科学的根拠(The Science Check):
温めることで鼻周りの血管が拡張し、一時的にうっ血が改善して鼻粘膜の腫れが和らぐと考えられています。また、湯気などの蒸気を吸い込むことで、乾燥した鼻粘膜を潤し、固くなった鼻水を柔らかくして排出しやすくします。大規模な臨床試験による強固なエビデンスはまだ十分ではないものの、生理学的に合理的であり、実際に「楽になる」と感じる方も多い、安全性の高い方法です。
注意点とリスク:
蒸しタオルは、電子レンジから取り出した直後がもっとも高温になります。低温やけどを防ぐため、必ず一度広げて軽く冷ましてから当ててください。高温のお湯への長時間の入浴は、心臓や血圧への負担になることもあるため、持病がある場合は医師の指示に従い、無理のない範囲で行いましょう。
3. 空気の加湿:鼻粘膜の乾燥を防ぐ
やり方:
特に空気が乾燥する冬場や、エアコンを長時間使用する環境では、加湿器を使って室内の湿度を40〜60%程度に保つことが推奨されます2。就寝時に加湿器を使用すると、夜間の鼻づまりによる睡眠の質の低下を防ぎやすくなります。加湿器がない場合でも、濡れタオルを室内にかけたり、洗濯物を部屋干しすることで、多少の加湿効果が得られます。
科学的根拠(The Science Check):
鼻の粘膜は、適度な湿度がある環境で最も正常に機能します。空気が乾燥すると粘膜が傷つきやすくなり、ウイルスやアレルゲンの侵入を受けやすくなるだけでなく、鼻水が固まりやすくなり鼻づまりを悪化させます。湿度を適切に保つことは、鼻の防御機能を維持し、症状を和らげるための基本的な環境整備として、公的なマニュアルでも重要性が指摘されています10。
注意点とリスク:
加湿器のタンクやフィルターはこまめに清掃し、カビや雑菌が繁殖しないように注意が必要です。湿度が高すぎる(おおむね60%を大きく超える)状態が続くと、逆にカビやダニの増殖を助長し、アレルギー症状を悪化させる可能性もあります。
4. 十分な水分補給と温かい飲み物
やり方:
喉が渇いたと感じる前から、こまめに水分を摂取し、体が脱水状態にならないようにします。常温の水やお茶に加え、ショウガ湯やハーブティーなどの温かい飲み物は、体を内側から温めると同時に、湯気による加湿効果も期待できます5。就寝前のカフェイン飲料は、寝つきを悪くすることがあるため控えめにするとよいでしょう。
科学的根拠(The Science Check):
十分な水分は、全身の粘液を柔らかく保つのに役立ちます。これにより、鼻水の粘り気が減り、鼻腔からの排出がスムーズになります。ショウガなどに含まれる成分には抗炎症作用を示唆する研究もありますが、鼻づまりに対する直接的な効果については、まだエビデンスが限られているのが現状です25。そのため、「薬の代わり」ではなく、「全身状態を整える補助的なケア」として取り入れるのがよいでしょう。
注意点とリスク:
利尿作用の強いカフェイン飲料やアルコールは、かえって脱水を招きやすく、水分補給には適さない場合があります。腎臓病や心不全などで水分制限が必要な方は、主治医の指示に従って摂取量を調整してください。
5. 体の姿勢を工夫する
やり方:
横になって寝る際は、詰まっている側の鼻を上にして寝ると、一時的に通りが良くなることがあります2。また、枕をいつもより少し高めにして、頭の位置を心臓より高く保つことも、鼻への血流を減らし、うっ血を和らげるのに役立ちます。日中でも、前かがみの姿勢が続くと鼻づまりが悪化しやすいため、パソコン作業中などは姿勢を時々リセットするよう意識しましょう。
科学的根拠(The Science Check):
これらの方法は、重力の影響を利用した物理的な対処法です。体位によって鼻への血流や粘膜のうっ血の程度が変化するため、頭を高くしたり、詰まった側を上にしたりすることで、鼻粘膜の腫れが一時的に軽減すると考えられています。特に就寝時や夜間だけ症状が強くなる方にとって、試してみる価値のあるシンプルな工夫です。
注意点とリスク:
効果はあくまで一時的なもので、根本的な治療にはなりません。また、無理な姿勢を続けると首や肩を痛める原因になるため、自分が楽に保てる体勢の範囲で行いましょう。
6. 鼻周りのマッサージとツボ押し
やり方:
鼻の両脇にある「迎香(げいこう)」や、親指と人差し指の付け根にある「合谷(ごうこく)」といったツボを、心地よいと感じる強さで数秒間押して離す、という動作を数回繰り返します20。また、鼻筋に沿って指の腹で優しくマッサージすることも、血行促進やリラックスにつながります。
科学的根拠(The Science Check):
ツボ押し(指圧)や鍼灸は、東洋医学に基づくアプローチであり、自律神経系への刺激によって鼻粘膜の血管トーンに影響を与える可能性があると考えられています。一部の研究では、鍼治療が鼻症状を改善したとする報告がありますが27、全体としては質の高い科学的エビデンスはまだ限定的です。そのため、「大きなリスクは少ないが、効果には個人差があるセルフケア」として位置づけるのが現実的です。
注意点とリスク:
強く押しすぎると皮膚や血管を傷つける可能性があるため、「痛気持ちいい」程度の圧を目安にしましょう。顔面の手術歴や皮膚疾患、出血傾向がある方は、事前に主治医に相談することをおすすめします。
根本的な改善と予防のためのアプローチ
即時的な対処だけでなく、「そもそも鼻づまりが起こりにくい状態をつくる」ことも重要です。ここでは、アレルゲン対策や生活習慣の見直し、医療機関での治療、免疫療法や生物学的製剤といった、より長期的な視点のアプローチを整理します。
7. アレルゲン対策の徹底(特に花粉症とハウスダスト)
内容:
アレルギー性鼻炎が原因の場合、アレルゲンの除去・回避は、薬物療法と並ぶ最も基本的な対策です。環境省の「花粉症環境保健マニュアル2022」10では、以下のような具体的な対策が推奨されています。
- 花粉飛散量の多い日は、不要不急の外出を控える。
- 外出時は、花粉防止用のマスクやメガネを正しく着用する。
- 帰宅時は、玄関前で衣服や髪についた花粉を払い落とし、すぐにうがい・洗顔・できればシャワーを行う。
- 花粉シーズン中は、窓を閉め、洗濯物は室内干しにする。
- こまめに掃除機をかけ、空気清浄機を活用して室内のハウスダストや花粉を減らす。
ダニ・ハウスダストが主な原因の場合は、寝具の高温洗浄や布団乾燥機の活用、カーペットやぬいぐるみの管理など、室内環境の見直しが特に重要になります。
8. 食生活と天然由来のサプリメント
内容:
一部のハーブや食品成分がアレルギー性鼻炎の症状緩和に役立つ可能性を示唆する研究があります。例えば、ヨーロッパで伝統的に用いられてきたバターバー(Petasites hybridus)は、いくつかの臨床試験で症状改善に寄与したと報告されています26。また、ペラルゴニウム・シドイデスやブロメラインなど、抗炎症作用が期待される成分も研究対象になっています27。
注意点とリスク:
これらのサプリメントの効果や安全性に関するエビデンスは、現時点ではまだ十分とは言えません。また、天然由来であってもアレルギー反応や肝障害などの副作用のリスクがあります。既存の治療薬との相互作用が問題になることもあるため、「薬の代わり」ではなく「補助的な選択肢」として位置づけ、使用を検討する際は必ず医師や薬剤師に相談してください。
9. 市販薬(OTC医薬品)の正しい知識と使い方
内容:
市販の点鼻薬には主に2つのタイプがあります。一つは、ナファゾリンやオキシメタゾリンなどの血管収縮薬を含むタイプで、即効性があり短時間で鼻が通るのが特徴です。ただし、1週間程度を超えて連用すると、かえって鼻づまりを悪化させる「薬剤性鼻炎」を引き起こすリスクが高くなります419。もう一つは、ステロイドや抗ヒスタミン成分を含むタイプで、効果の立ち上がりは穏やかですが、適切に使用すればより安全に長期間使いやすいとされています。
錠剤やカプセルなどの内服薬(第二世代抗ヒスタミン薬やロイコトリエン受容体拮抗薬など)は、くしゃみ・鼻水・鼻づまりをバランスよく抑える作用があり、ガイドラインでも中心的な治療薬として位置づけられています171823。
注意点とリスク:
購入・使用の際は、必ず薬剤師に相談し、用法・用量を厳守することが極めて重要です。眠気が出やすい薬や、持病・妊娠中には注意が必要な薬もあります。複数の市販薬を併用すると成分が重複し、思わぬ副作用を招くこともあるため、「似たような効果の薬を重ねて飲まない」ことを意識しましょう。
10. 専門医による治療:いつ病院へ行くべきか?
内容:
セルフケアで改善しない、あるいは以下のような症状が見られる場合は、自己判断を中止し、速やかに耳鼻咽喉科を受診してください。これは、最も重要で安全な「自宅でできる対処法」の一つとも言えます。
- 鼻づまりが1〜2週間以上続く。
- 黄色や緑色の粘り気のある鼻水が出る。
- 顔面(頬や額)に痛みや圧迫感がある。
- 発熱や強いだるさを伴う。
- 鼻づまりが片側だけに起こる、または片側の症状が特に強い。
- 鼻水に血が混じる状態が繰り返し起こる。
- いびきが急に悪化した、睡眠中に呼吸が止まっていると言われた。
専門医は、問診・内視鏡・画像検査・アレルギー検査などを組み合わせて原因を明らかにした上で、抗ヒスタミン薬や点鼻ステロイド薬などの処方、アレルギー体質そのものを長期的に改善する可能性のある「アレルゲン免疫療法(舌下免疫療法など)」、鼻中隔弯曲症や鼻茸に対する手術といった、より専門的な治療法を提案することができます1121。
11. アレルゲン免疫療法・生物学的製剤という選択肢
内容:
重症または最重症の花粉症で、通常の薬物療法(内服薬+点鼻ステロイドなど)でも十分なコントロールが得られない場合、アレルゲン免疫療法(舌下免疫療法など)や、抗IgE抗体製剤(オマリズマブなど)の生物学的製剤が選択肢となることがあります622。免疫療法は、原因となるアレルゲンを少量から継続的に投与することで、アレルギー反応を起こしにくい体質へと変化させることを目指す治療です。効果が現れるまでに時間を要しますが、長期的な症状の軽減や薬剤使用量の削減が期待できます。
一方、生物学的製剤は、アレルギー反応に関わる分子をピンポイントで標的とする薬で、ガイドラインでも重症例に対して検討される治療として位置づけられています1222。高額な治療であり、保険適用には細かな条件があるため、「どの程度の重症度でどの治療を選ぶのか」は専門医とよく相談する必要があります。
鼻づまりが生活の質や睡眠に与える影響
鼻づまりは「よくある軽い症状」と思われがちですが、実際には仕事・勉強・家事・育児・睡眠など、日常生活のあらゆる場面に影響を及ぼします。ここでは、生活の質(QOL)という観点から鼻づまりを整理し、「どのような影響が出ていると受診を検討すべきか」の目安も紹介します。
仕事・勉強・家事への影響とプレゼンティーズム
アレルギー性鼻炎や花粉症による鼻づまりは、集中力・判断力・作業効率を低下させることが知られており、「会社や学校には行っているが、実際には十分なパフォーマンスが出せていない」状態(プレゼンティーズム)を招きます11。会議や授業中に何度も鼻をかむ必要がある、頭が重くボーッとする、話すときに息苦しさを感じるなどの状況が続くと、本人のストレスだけでなく、周囲とのコミュニケーションにも影響が出ることがあります。
睡眠と日中の不調
鼻づまりがあると、寝ている間に口呼吸になり、喉の乾燥や痛み、いびき、睡眠の質の低下につながります。十分な睡眠時間を取っていても、「朝起きても疲れが取れない」「日中の強い眠気」「イライラしやすい」などの症状が出る場合、鼻づまりが一因になっている可能性があります。また、いびきが急に悪化したり、「睡眠中に呼吸が止まっている」と指摘されたりする場合は、睡眠時無呼吸症候群が隠れている可能性もあるため、早めに医療機関での検査を検討してください。
心の健康への影響
長引く鼻づまりや花粉症の症状は、「また今年もこの季節が来てしまった」「どうせ良くならない」といったあきらめや不安、イライラの原因にもなります。集中できない・よく眠れない状態が続くと、気分の落ち込みや意欲低下につながることもあるため、「つらさを我慢する」のではなく、医師や薬剤師に相談しながら、少しでも楽になる方法を一緒に探していくことが大切です。
年齢やライフステージ別の鼻づまり対策
同じ鼻づまりでも、年齢やライフステージによって「気をつけるポイント」や「使える薬」が変わります。ここでは、子ども、妊娠中・授乳中の方、高齢者の方に分けて、一般的な注意点を整理します。
子どもの鼻づまり
乳幼児や小さな子どもは、自分でうまく鼻をかむことができません。そのため、鼻水がたまりやすく、中耳炎や睡眠障害の原因になることがあります。自宅では、市販の鼻吸い器を用いて、優しく鼻水を吸い取ることが有効とされています2。加湿や室内環境の整備も、大人と同様に重要です。
子どもの場合、市販の点鼻薬や内服薬については、成分や年齢制限が大人と大きく異なります。特に血管収縮薬を含む点鼻薬は、小児では慎重な使用が求められ、自己判断で使用することは避けるべきとされています4。鼻づまりが続くときは、小児科や小児耳鼻咽喉科で診察を受け、年齢に合った治療を選んでもらうことが大切です。
妊娠中・授乳中の鼻づまり
妊娠中は、ホルモンバランスの変化や血液量の増加などの影響で、「妊娠性鼻炎」と呼ばれる鼻づまりが起こることがあります。妊娠中は使える薬が限られるため、基本的には、加湿・鼻洗浄・マスクやメガネによる花粉対策など、非薬物的な対策を優先するのが一般的です23。
一部の点鼻ステロイド薬や第二世代抗ヒスタミン薬は、妊娠中でも比較的安全性が高いとされるものがありますが、どの薬をどのタイミングで使うかは個々の状況によって異なります。自己判断で薬を中止・開始するのではなく、産科医や耳鼻咽喉科医と相談し、「母体と胎児の両方の安全」と「症状コントロール」のバランスを一緒に考えていくことが大切です。
高齢者の鼻づまり
高齢者では、加齢に伴う粘膜の変化や、複数の薬の内服(ポリファーマシー)、高血圧や心疾患などの基礎疾患が鼻づまりに関与していることがあります。眠気やふらつきを伴う抗ヒスタミン薬は、転倒リスクを高めることがあるため、特に注意が必要です。薬局で市販薬を選ぶ際には、「他に飲んでいる薬」や「持病」を薬剤師に必ず伝えましょう。
受診前にできる準備と医師に伝えたいポイント
耳鼻咽喉科を受診するときに、あらかじめ情報を整理しておくと、診断と治療方針の決定がスムーズになり、限られた診察時間を有効に使えます。以下のようなポイントをメモして持参すると良いでしょう。
- 症状が始まった時期と経過(いつから・どのように悪化/改善しているか)。
- 症状のパターン(季節性か通年性か、朝晩どちらがつらいか、片側 or 両側か)。
- くしゃみ・鼻水・鼻づまり・目のかゆみ・咳・頭痛・顔面痛など、伴う症状。
- これまで試したセルフケアや市販薬、その効果と副作用の有無。
- 持病や現在服用している薬、アレルギー歴(薬・食物・ラテックスなど)。
- 妊娠中・授乳中かどうか、将来の妊娠希望の有無。
スマートフォンのメモや写真(市販薬のパッケージなど)を見せながら相談するのも良い方法です。「この薬を飲み続けていて大丈夫か」「もっと楽になる方法はないか」など、心配な点は遠慮なく質問して構いません。
比較表:あなたに合った鼻づまり解消法は?
ここまで紹介したセルフケアや医療的なアプローチを、「作用機序」「科学的根拠」「向いている人」「注意点」という観点から整理したのが下の表です。ご自身の症状や生活スタイルに合わせて、どの方法を組み合わせるとよいか考えるヒントにしてください。
| 方法 | 主な作用機序 | 科学的根拠レベル | こんな人におすすめ | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 鼻うがい | アレルゲン・異物の物理的除去 | 中程度(診療ガイドラインで推奨) | 花粉症、ハウスダスト、副鼻腔炎の方 | 必ず生理食塩水を使い、1日1〜2回まで |
| 温めるケア | 血行促進、加湿 | 低い(経験則・生理学的機序に基づく) | 風邪による鼻づまり、手軽な方法を試したい方 | 蒸しタオルでのやけどに注意 |
| 加湿 | 鼻粘膜の乾燥防止 | 中程度(予防の基本として推奨) | 乾燥する季節、エアコン環境にいることが多い方 | 加湿器の清掃を徹底し、カビ・ダニを防ぐ |
| 姿勢の工夫 | 重力による血流コントロール | 低い(物理的原理に基づく) | 特に夜、横になると鼻が詰まる方 | 効果は一時的、無理のない姿勢で |
| ツボ押し | 自律神経への刺激(東洋医学) | 低い(科学的エビデンスは限定的) | 薬に頼りたくない方、手軽な刺激を試したい方 | 強く押しすぎない |
| 市販薬(血管収縮剤) | 鼻粘膜の血管を強制的に収縮 | 高い(即効性) | どうしても今すぐ一時的に楽になりたい方(緊急時のみ) | 連用は厳禁(薬剤性鼻炎のリスク大) |
| 市販薬(抗ヒスタミン薬など) | アレルギー反応の抑制 | 中〜高い(ガイドラインで標準治療) | 花粉症・通年性アレルギー性鼻炎で、くしゃみ・鼻水・鼻づまりがつらい方 | 眠気・相互作用に注意。持病がある人は医師・薬剤師に相談 |
| 専門医への相談 | 正確な診断と根本治療 | 高い(ゴールドスタンダード) | 症状が重い、長引く、原因が不明なすべての方 | 最も安全で確実な選択肢 |
| アレルゲン免疫療法 | アレルギー体質そのものの長期的な改善を目指す | 中〜高い(ガイドラインで推奨) | 重症花粉症で、毎年症状に強く悩まされている方 | 効果発現まで時間がかかる。一定期間継続が必要 |
| 生物学的製剤(オマリズマブなど) | IgEなど特定分子を標的とした治療 | 高い(重症例で有効性が示されている) | 既存治療でコントロール不十分な重症・最重症の花粉症 | 適応や費用、通院頻度について専門医と要相談 |
よくある質問
子供の鼻づまりにはどの方法が安全ですか?
鼻うがいは1日に何回までしていいですか?
一般的には、1日に1回から2回程度が目安とされています20。症状が強い時期でも、頻繁に行いすぎると、鼻の粘膜が持つ正常な防御機能まで洗い流してしまい、かえって感染のリスクを高めたり、鼻の乾燥や違和感につながったりする可能性があります。
鼻うがいを行った後に強い痛みや耳の詰まった感覚が続く場合は、やり方や使用している液の濃度が適切かどうかを見直し、それでも不調が続く場合は耳鼻咽喉科で相談してください。
鼻をつまんで息を止める方法は本当に効きますか?
花粉症の鼻づまりを軽くするために、シーズン前からできることはありますか?
鼻づまりと睡眠時無呼吸症候群には関係がありますか?
鼻づまりが強いと、寝ている間に口呼吸になりやすくなり、いびきや睡眠の質の低下につながります。特に、肥満やあごの形、扁桃肥大などの要因と重なると、睡眠時無呼吸症候群のリスクが高まることが知られています。
「大きないびきが続いている」「寝ている間に息が止まっていると家族に指摘された」「十分寝ても日中の強い眠気がある」といった場合は、単なる鼻づまりだけでなく、睡眠時無呼吸症候群が背景にある可能性も考えられます。耳鼻咽喉科や睡眠専門の医療機関で、検査や治療について相談してみてください。
結論
鼻づまりは、多くの人が経験するありふれた症状でありながら、その背後にはアレルギー、感染症、構造的な問題、薬剤やホルモンの影響など、さまざまな要因が隠れています。本記事で紹介したように、科学的根拠に基づいたセルフケア(鼻うがい・加湿・温めるケア・姿勢の工夫など)を正しく行うことで、多くの場合は症状を和らげることが可能です。
同時に、アレルゲン対策や生活環境の見直し、適切な市販薬の活用、必要に応じた専門医受診を組み合わせることで、「毎年つらい」「いつも我慢している」といった状態から一歩抜け出せる可能性が高まります。例えば花粉症の方であれば、シーズン前からの初期療法と環境対策を行い、必要に応じて免疫療法や生物学的製剤を含めた治療の選択肢を、耳鼻咽喉科専門医と相談しながら検討していくことができます。
そして何よりも大切なのは、「つらい症状を一人で抱え込まない」ことです。セルフケアには限界があり、自己判断で市販薬を長期連用することは、薬剤性鼻炎など新たな問題を招くリスクもあります。改善しない、悪化している、日常生活や睡眠に大きな支障が出ていると感じたときは、ためらわずに専門医の扉を叩いてください。それが、あなた自身の健康と生活の質を守るための、最も賢明で安全な選択肢です。
JHO(JapaneseHealth.org)編集部は、今後も公的ガイドラインや信頼できる研究にもとづき、日本に暮らす方々の不安や疑問に寄り添う情報を発信していきます。編集体制や情報の取り扱いについては、JHO編集委員会の紹介ページもあわせてご覧ください。
免責事項
本記事は情報提供のみを目的としており、個々の診断や治療方針を直接指示するものではありません。健康に関する懸念がある場合、またはご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。
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