この記事の科学的根拠
この記事は、提供された研究報告書に明示的に引用されている最高品質の医学的根拠にのみ基づいて作成されています。以下に、参照された実際の情報源と、提示された医学的ガイダンスとの直接的な関連性を示します。
- 日本産科婦人科学会 (JAOG)・日本女性心身医学会: 本記事における過多月経の定義(例:1周期140ml以上)、診断基準、および治療方針の多くは、これらの組織が提供する診療ガイドラインや患者向け情報に基づいています12。
- 英国国立医療技術評価機構 (NICE): 生活の質 (QoL) を重視した過多月経の定義や、レボノルゲストレル放出子宮内システム (LNG-IUS) を第一選択とする治療戦略など、国際的な標準治療に関する指針は、NICEのガイドラインを参考にしています3。
- 厚生労働省 (MHLW): 日本における過多月経の有病率や、それが女性の健康課題として重要であるという背景情報は、厚生労働省の調査データに基づいています4。
- 学術論文 (PubMed, Cochraneなど): 鉄欠乏性貧血との関連性、診断の遅れの実態、そして薬物療法や外科的治療の有効性に関する具体的なデータは、査読済みの臨床研究やシステマティックレビューから引用しています567。
要点まとめ
- 過多月経は「経血量が多すぎて、身体的、精神的、社会的に生活の質を損なう状態」と定義され、1周期の出血量が140mlを超える場合などが目安です。
- 主な原因には、子宮筋腫や子宮腺筋症などの「器質性疾患」、ホルモンバランスの乱れによる「機能性疾患」、そして血液凝固異常などの「全身性疾患」があります。
- 過多月経の最も重大な合併症は「鉄欠乏性貧血」であり、極度の疲労感、めまい、集中力低下(脳の霧)などを引き起こします。日本では成人女性の多くが貧血または「かくれ貧血」状態にあると指摘されています。
- 治療法は、薬物療法(低用量ピル、ミレーナなど)から、子宮内膜アブレーションや子宮動脈塞栓術のような低侵襲手術、そして子宮摘出術まで多岐にわたります。治療法の選択は、原因、症状の重さ、そして将来の妊娠希望などを考慮して決定されます。
- 1~2時間ごとにナプキン交換が必要、夜中に起きる必要がある、7日以上生理が続く、大きな血の塊が出るなどの症状があれば、婦人科の受診が推奨されます。
過多月経(過多月経)とは何か?医学的定義とセルフチェックリスト
ご自身の月経が「多い」のかどうかを判断するには、臨床的な定義と日常生活における具体的なサインの両方からアプローチすることが有効です。これにより、客観的な基準とご自身の体感とを照らし合わせることができます。
医学的定義
医療機関では、主に量に基づいて過多月経を定義しますが、その基準は組織によって若干異なります。
- 日本産科婦人科学会(JAOG)による定義: 1周期あたりの経血量が140mlを超える状態を過多月経としています1。しかし、同学会自身も、実際の経血量を正確に測定することは困難であると認めており、臨床現場での診断は患者さんの訴える症状や生活への支障度に基づいて行われることがほとんどです2。
- 国際的な定義: 海外では、1周期あたり80ml以上10や150ml以上11といった基準が用いられることもあります。
さらに重要なのは、英国国立医療技術評価機構(NICE)などの現代的な診療指針が、より包括的な「生活の質(QoL)」に焦点を当てた定義を重視している点です。NICEは過多月経を「女性の身体的、感情的、または社会的な生活の質に悪影響を与える過度の月経血損失」と定義しています7。これはつまり、経血量が正確な数値を超えているかどうかにかかわらず、月経があなたの日常生活を妨げているのであれば、それは医療的な介入を必要とする問題であると見なされることを意味します。
専門家が推奨する実践的セルフチェックリスト
経血量の正確な測定は現実的ではないため、ご自身で状態を評価する最善の方法は、具体的な徴候を確認することです。以下の項目に一つでも当てはまるものがあれば、過多月経の可能性があります1213。
- 経血量が最も多い日に、ナプキンやタンポンを1~2時間ごとに交換する必要がある。
- 夜中にナプキンを交換するために起きなければならない。
- 月経が7日間を超えて続く。
- 直径2.5cm以上(500円玉大に相当)の血の塊が混じる。
- ナプキンとタンポンの両方を同時に使用したり、ナプキンを重ねて使ったりしないと漏れが心配になる。
- 特に月経中や月経直後に、強い疲労感、めまい、息切れ、動悸を感じる(これらは貧血の潜在的なサインです)。
- 経血量が多すぎるために、仕事や学校を休んだり、社会的な予定をキャンセルしたりすることがある11。
これらの質問に一つでも「はい」と答えた場合は、婦人科医に相談することを強く推奨します。
なぜ私の月経は多いのか?原因の徹底解明
過多月経を引き起こす原因は非常に多岐にわたり、大きく分けて「器質性疾患(構造的な異常があるもの)」「機能性疾患(主にホルモンの乱れ)」「その他の全身性疾患」の3つのカテゴリーに分類されます2。
器質性疾患:子宮の構造的な問題
子宮やその周辺の臓器に物理的な異常が存在する場合です。
- 子宮筋腫(しきゅうきんしゅ): 子宮の筋肉の壁にできる良性の腫瘍で、特に30代から40代の女性において過多月経の最も一般的な原因の一つです14。
- 子宮腺筋症(しきゅうせんきんしょう): 子宮内膜に似た組織が子宮の筋層内にできてしまう状態で、子宮が大きく硬くなり、激しい月経痛と過多月経を引き起こします14。
- 子宮内膜ポリープ: 子宮の内側を覆う内膜から発生する、通常は良性の小さな突起物です。これが過多月経や不正出血の原因となることがあります15。
- 悪性腫瘍(がん): 頻度は低いものの、子宮体がんや子宮頸がんも不正出血や過多月経の原因となり得ます。特に閉経期に近い年代の女性や他の危険因子を持つ場合は、慎重な検査による除外が必要です15。
機能性疾患:ホルモンバランスの乱れ
明らかな構造的異常がなく、身体の調節機能の不均衡が原因となる場合です。
- ホルモンバランスの乱れ: エストロゲンとプロゲステロンという二つの主要な女性ホルモンのバランスが崩れると、子宮内膜が過剰に厚くなり、不規則に剥がれ落ちることで多量の出血を引き起こします。この状態は、月経が始まったばかりの思春期や閉経が近い更年期によく見られます16。
- 無排卵周期症: 正常な月経周期では、排卵がプロゲステロンの分泌を促し、子宮内膜を安定させます。排卵が起こらないと、プロゲステロンの抑制がないままエストロゲンのレベルが高い状態が続き、子宮内膜は厚くなり続けます。やがてその内膜が不安定になり、不規則に剥がれ落ちることで、だらだらと続く多量の出血を引き起こします2。
内科的疾患:全身の健康問題
原因が婦人科系ではなく、他の身体システムに起因することもあります。
- 血液凝固異常: フォン・ヴィレブランド病のような遺伝性疾患や、特発性血小板減少性紫斑病のような後天的な状態で、血液が固まりにくくなり、経血が止まりにくくなります15。
- その他の疾患: 肝臓や腎臓の疾患、甲状腺機能の異常なども、月経周期や経血量に影響を与える可能性があります15。
- 薬の影響: 抗凝固薬(血液をサラサラにする薬)やアスピリン、一部のホルモン剤などの使用が、経血量を増加させる原因となることもあります13。
情報をより個人に即したものにするため、以下の表では年齢層別に一般的な原因をまとめています。
表1:年齢層別に見た過多月経の主な原因
年齢層 | 一般的な機能性原因 | 一般的な器質性原因 | 特記事項 |
---|---|---|---|
思春期 (10-19歳) | 視床下部-下垂体-卵巣系の未熟さによる無排卵周期やホルモンバランスの乱れ17 | 稀ではあるが、子宮の先天的な形態異常を除外する必要がある18 | 初経時に初めて症状が現れることがある、潜在的な血液凝固異常を考慮する必要がある15 |
性成熟期 (20-39歳) | 黄体機能不全、ストレス、急激な体重変化、甲状腺機能障害19 | 子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮内膜ポリープが主要な原因となる2 | 妊よう性(妊娠する力)や生活の質への影響が大きな関心事。将来の妊娠希望を考慮した治療選択が重要20 |
更年期 (40歳以降) | 閉経移行期の激しいホルモン変動や無排卵周期が非常に一般的17 | 子宮筋腫や子宮腺筋症は依然として多い。子宮体がんのリスクが上昇するため、慎重な除外が必要15 | 自然閉経まで症状をコントロールする「逃げ込み療法」が重要な選択肢となる21 |
潜在的な危険性と診断への道のり
危険な関連:過多月経と鉄欠乏性貧血(IDA)
治療されない過多月経が引き起こす最も深刻かつ一般的な結果の一つが、鉄欠乏性貧血(Iron Deficiency Anemia – IDA)です。この関連性は単なる「副作用」ではなく、女性の健康と生活の質に深刻な影響を及ぼす主要な臨床的帰結です。事実、過多月経は世界中の性成熟期女性におけるIDAの主たる原因として認識されています7。
特に日本における現状は憂慮すべきものです。あるデータでは、20代から40代の女性の実に65%が「貧血」または「かくれ貧血」(貯蔵鉄が枯渇しているが、ヘモグロビン濃度はまだ正常範囲内の状態)であると報告されています22。別の研究では、貧血ではない日本人女性の41.8%が鉄欠乏状態にあったことが示されており23、これは非常に多くの女性が自覚のないまま重要な栄養素の欠乏状態で生活していることを意味します。
IDAや鉄欠乏の影響は、単なる「疲れ」をはるかに超えます。鉄は、体中に酸素を運ぶ赤血球内のタンパク質「ヘモグロビン」の必須成分です。鉄が不足すると、体は十分なヘモグロビンを生成できず、以下のような全身性の症状を引き起こします。
- 身体的症状: 極度の疲労感、脱力感、顔色の悪さ、労作時息切れ、動悸、めまい、頭痛7。
- 認知的・精神的症状: 「脳の霧(ブレインフォグ)」と呼ばれる思考力の低下、集中困難、記憶力の減退、仕事や学業の生産性低下(プレゼンティーイズム)、不安、さらには抑うつ状態に至ることもあります24。
- 長期的影響: 慢性的な鉄欠乏は免疫機能に影響を及ぼす可能性があります。特に、妊娠初期の鉄欠乏は胎児の神経発達に悪影響を与え、その影響は永続する可能性があると指摘されています24。
したがって、過多月経へのアプローチには、出血量をコントロールすることと、鉄欠乏を積極的に診断・治療することの二重戦略が不可欠です。日本産科婦人科学会(JAOG)や国際的な組織の診療指針は、診断過程において全血球計算(CBC)とフェリチン(貯蔵鉄の指標)の測定が必須であることを強調しています13。食事療法、鉄剤の内服、あるいは重症例では鉄剤の静脈内投与によって患者さんの鉄欠乏状態が根本的に解決されない限り、過多月経の治療は完了したとは言えません7。
いつ医師に相談すべきか?受診のサインと診察の流れ
沈黙のまま我慢することは解決策にはなりません。警告サインを認識し、積極的に医療の助けを求めることが、早期診断と効果的な治療への鍵となります。
すぐに受診すべき警告サイン
以下のいずれかの状況に当てはまる場合は、婦人科の予約を取ることを検討してください。
- 本記事のセルフチェックリスト(1.2節)に挙げられた症状のいずれかがある。
- 原因不明の極度の疲労感、頻繁なめまい、歩行や階段昇降時の息切れ、青白い顔色など、明らかな貧血症状がある13。
- 月経期間外の出血(不正出血)や性交後の出血がある。これらは他の疾患のサインである可能性があるため、検査が必要です25。
- 骨盤部の痛みが次第に強くなる、または月経期間以外にも持続する18。
- 多量の出血が、仕事、学業、社会活動、あるいは精神的な健康に明らかな支障をきたしている11。
婦人科での診察の流れ
診察で何が行われるかを事前に知っておくことで、不安を和らげることができます。過多月経の診断のための診察は、通常以下のステップで進められます。
- 問診: 最も重要なステップです。医師は以下について詳しく質問します。
- 月経周期: 周期の長さ、出血日数、随伴症状など。
- 経血量: ナプキンの交換頻度や血の塊の大きさといった主観的な描写に基づきます。事前に月経日記をつけておくと非常に役立ちます7。
- 既往歴と家族歴: 過去の婦人科疾患、他の病気の有無、家族の血液凝固異常の病歴など。
- 妊娠希望: 将来的に妊娠を計画しているかどうか。これは治療法の選択に大きく影響します。
- 内診と全身の診察: 骨盤内診を行い、子宮や卵巣の大きさ、形状、圧痛の有無などを評価します。全身の診察は、甲状腺疾患や他の全身疾患の兆候を探すのに役立ちます。
- 血液検査: 以下の項目を確認するための必須の検査です。
- 経腟超音波検査: 主要な非侵襲的画像診断法です。小さなプローブ(探触子)を腟内に挿入し、子宮と卵巣の鮮明な画像を得ることで、子宮筋腫、子宮腺筋症、ポリープ、子宮内膜の異常な肥厚などの構造的異常を検出します15。
- より専門的な検査(必要な場合): 初期の検査結果に基づき、医師は以下の検査を推奨することがあります。
行動計画:医学的治療からセルフケアまで
最重要章:科学的根拠に基づく医療的治療法の全貌
過多月経の治療は近年大きく進歩し、これまで以上に多くの効果的な選択肢が提供されています。現代医療における基本原則は「共同意思決定(shared decision making)」です。これは、医師と患者が協力し、病気の原因、症状の重症度、年齢、全身の健康状態、そして特に将来の妊娠希望などを総合的に考慮して、最適な治療法を共に選択していくプロセスです3。
以下の表は、日本および国際的な信頼性の高い診療ガイドラインに基づき、現在利用可能な薬物療法から低侵襲手技、外科手術に至るまでの主要な治療選択肢を包括的に比較したものです。
表2:過多月経治療選択肢の包括的比較表
治療法 | 作用機序 | 出血減少効果 | 適した対象者 | 副作用・デメリット | 妊よう性への影響 | 主要参考文献 |
---|---|---|---|---|---|---|
薬物療法(非ホルモン性) | ||||||
NSAIDs (イブプロフェン, ナプロキセンなど) | 子宮収縮と血流を増加させるプロスタグランジンの産生を抑制する。 | 20-50%減少。月経痛の緩和にも効果的26。 | 軽度~中等度の症状を持つほとんどの女性。良い第一選択薬。 | 胃の不快感を引き起こす可能性。効果を最大化するため月経開始直後から服用する必要がある。 | 影響なし。妊娠希望中でも安全に使用可能。 | 12 |
トラネキサム酸 (リフシアなど) | 子宮内膜での血液凝固塊の分解を防ぎ(抗線溶作用)、止血を促進する。 | 非常に効果的で、経血量を40-60%減少26。 | ホルモン療法を希望しない、または使用できない女性で、迅速な出血量の減少が必要な場合。 | 消化器症状、頭痛の可能性。血栓症のリスクは非常に低いが、ホルモン性避妊薬との併用には注意が必要7。 | 影響なし。出血の多い数日間のみ服用する。 | 7 |
薬物療法(ホルモン性) | ||||||
ホルモン放出型子宮内システム (LNG-IUS) (ミレーナなど) | 少量のプロゲスチン(レボノルゲストレル)を子宮内に直接放出し、子宮内膜を非常に薄くする。 | 極めて効果的。経血量を最大80-95%減少可能28。NICE等のガイドラインで第一選択薬とされる3。 | 近い将来の妊娠計画がない女性(5年間有効)。全身性の血栓症リスクが低いため、特に40歳以上の女性に適している12。 | 最初の3-6ヶ月は不正出血や点状出血が一般的。稀に脱出することがある。 | 除去後、速やかに妊よう性は回復する。 | 3 |
低用量ピル (LEP/OC) | エストロゲンとプロゲスチンの両方を含み、排卵を抑制し、ホルモンを安定させ、子宮内膜を薄くする。 | 良好な効果。経血量を約40-50%減少させ、月経周期を規則的にする29。 | 避妊も同時に必要で、月経周期をコントロールしたい若く健康な女性。 | 血栓症のリスクを増加させる。特に35歳以上の喫煙者、肥満、家族歴のある人は注意。吐き気、頭痛、気分の変動など30。 | 中止後に妊よう性は回復する。 | 12 |
プロゲスチン療法 (内服薬) (ディナゲストなど) | プロゲスチンのみを含み、エストロゲンの作用を抑制し、子宮内膜を薄く安定させる。 | 効果的。特にディナゲストは子宮腺筋症に適応があり、非常に有効。 | 子宮腺筋症の患者や、エストロゲンが使用できない女性(例:血栓症リスクが高い人)。 | 不正出血が非常に一般的な副作用。特に最初の数ヶ月。 | 中止後に妊よう性は回復する。 | 27 |
GnRHアゴニスト (リュープロレリンなど) | 卵巣の機能を一時的に停止させ、「偽閉経」状態を作り出すことで、子宮内膜や筋腫を萎縮させる。 | 非常に効果的で、多くの場合無月経になる。 | 手術前に筋腫を小さくするための短期治療(通常6ヶ月以内)や、閉経間近の女性の「逃げ込み療法」21。 | ほてり、腟の乾燥、性欲減退などの更年期症状を引き起こす。長期使用は骨粗しょう症の原因となる。 | 中止すれば妊よう性は回復するが、長期的な解決策ではない。 | 12 |
低侵襲手技・手術(子宮温存) | ||||||
子宮内膜アブレーション (MEA – マイクロ波子宮内膜焼灼術など) | 熱やマイクロ波などのエネルギーで、経血の源である子宮内膜を永久的に破壊する。 | 非常に効果的。多くの女性で経血量が激減し、一部は無月経になる31。 | 挙児希望がなく、子宮摘出のような大きな手術は避けたい女性。 | 大きな子宮内筋腫や深い子宮腺筋症には効果が低い。 | この手技の後は安全な妊娠はできない。閉経まで確実な避妊が必要。 | 15 |
子宮動脈塞栓術 (UAE) | X線透視下で、子宮動脈に微小な粒子を注入し、筋腫への血流を遮断して萎縮させる。 | 筋腫が原因の過多月経治療に高い効果を発揮する。 | 症状のある筋腫を持ち、手術を避けたい、子宮を温存したい女性。 | 術後に強い痛みを伴うことがある。稀に早期閉経のリスクがある。 | 将来の妊よう性への影響が明確でないため、妊娠希望者には通常推奨されない15。 | 15 |
子宮筋腫核出術 | 子宮を温存したまま、子宮筋腫のみを取り除く手術。 | 筋腫が出血の主因であれば高い効果が期待できる。 | 症状のある筋腫を持ち、将来の妊娠を希望する女性の第一選択。 | 外科手術であり、出血、感染、癒着のリスクを伴う。将来的に筋腫が再発する可能性もある。 | 妊よう性は完全に温存される。 | 12 |
手術(子宮非温存) | ||||||
子宮摘出術 | 子宮を完全に取り除く手術。根治的な治療法。 | 効果100%。月経と関連症状を永久に終わらせる。 | 他の治療法が失敗した、不適切、または患者が熟慮の上で希望した場合の最終選択肢。 | 大きな手術であり、回復期間も長い。骨盤底機能や性機能への長期的影響の可能性もある。 | 妊よう性は完全に失われる。 | 12 |
科学的根拠に基づくセルフケアガイド
医療的治療と並行して、生活習慣の改善やセルフケアを取り入れることは、症状の管理において重要な補助的役割を果たします。しかし、確かな科学的根拠を持つ対策と、伝統的な経験に基づく助言とを区別することが不可欠です。このアプローチにより、安全性と有効性が確保されます。
科学的根拠のある対策(推奨)
- 鉄分の補給: これは単なるセルフケアではなく、過多月経に悩むほとんどの患者にとって必須の医療的要件です。慢性的な失血により、鉄欠乏性貧血(IDA)を治療・予防するために鉄分補給は極めて重要です。赤身肉、レバー、魚、豆類、緑黄色野菜など鉄分豊富な食事を心がけるとともに、多くの場合、医師の処方による鉄剤の内服が必要です12。
- 生姜(ショウガ): 新たな科学的根拠から、生姜が有用な自然療法の一つである可能性が示唆されています。学術誌「Phytotherapy Research」に掲載されたプラセボ対照ランダム化比較試験では、月経周期の初期に生姜の粉末カプセルを服用した群は、プラセボ群に比べて経血量が有意に減少したことが証明されました (p<0.001)32。その作用機序は、炎症や子宮収縮を促進する化学伝達物質であるプロスタグランジンの合成を、生姜が阻害する能力に関連していると考えられています32。
一般的な支持療法(間接的または弱い根拠)
- ストレスケア: 慢性的なストレスは体のホルモン軸を乱し、エストロゲンとプロゲステロンのバランスに影響を与え、月経トラブルを悪化させる可能性があります19。瞑想、ヨガ、太極拳などのリラクゼーション技法や、趣味の時間を確保することが、体のストレス反応を調整するのに役立ちます33。
- 適度な運動: ウォーキング、水泳、ヨガなどの定期的な身体活動は、血行を改善し、ストレスを軽減し、ホルモンバランスを整える助けとなります34。ただし、腹部の深部マッサージや激しい運動など、骨盤内の血流を急激に増加させる活動は、出血を増やす可能性があるため、経血量の多い日は避けるべきです35。
- 体を温める: 腹部や腰を温めることで、腹痛や不快感が和らぐと感じる女性は多くいます。温かいお風呂に入ったり、カイロや湯たんぽを使用したりすることが推奨されます35。
- バランスの取れた食事: 鉄分に加え、肉や魚、乳製品に含まれるビタミンB12など、造血と全身の健康に不可欠な他の微量栄養素を十分に摂取することも重要です34。
伝統的療法に関する責任ある議論
- 漢方薬: 日本の伝統医療では、血行を改善し「瘀血(おけつ)」を解消するために桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)を、ストレスを和らげ「気」を整えるために加味逍遙散(かみしょうようさん)などを用います33。これらが有効な場合もありますが、効果は個人の「証」(体質)に大きく依存するため、必ず漢方に精通した医師や薬剤師の指導のもとで使用する必要があります33。
- よもぎ蒸し: よもぎは民間療法で人気のハーブですが、その有効性を証明する科学的根拠は現時点では存在しません36。逆に、医療専門家は、デリケートゾーンの火傷、腟内の常在菌バランスを崩すことによる感染症、アレルギー反応などの潜在的リスクを警告しています36。また、一部のよもぎ(Artemisia属)は子宮収縮を誘発する可能性があり、妊娠中の女性には安全ではありません37。したがって、この方法は推奨されません。
表3:セルフケアの科学的根拠レベル評価
対策 | 根拠レベル | 解説と注意点 | 主要参考文献 |
---|---|---|---|
鉄分補給 | 強い根拠 / 臨床的必須 | IDAの治療と予防に不可欠。消化器系の副作用を避けるため、適切な種類と用量を医師と相談する必要がある。 | 7 |
生姜(粉末/カプセル) | 中等度の臨床的根拠 | ランダム化比較試験で経血量減少効果が示されている。副作用は最小限。有用な自然療法の選択肢となりうる。 | 32 |
ストレスケアと適度な運動 | 支持的 / 間接的根拠 | 全身の健康を改善し、ホルモンバランスに良い影響を与える可能性。出血の多い日は激しい運動を避ける。 | 19 |
体を温める・バランスの良い食事 | 支持的 / 経験的 | 不快感の緩和に役立つ可能性。栄養価の高い多様な食事は常に健康に有益。 | 35 |
漢方薬 | 伝統医療 / 専門家の指導必須 | 個人によっては有効だが、専門家による「証」の診断に基づく処方が必要。自己判断での使用は避けるべき。 | 33 |
よもぎ蒸し | 根拠なし / 非推奨 | 有効性に関する科学的根拠が欠如。火傷、感染症、妊娠への影響など安全性への懸念が報告されている。 | 36 |
よくある質問
生理の量が多いというのは、病気なのでしょうか?
はい、その可能性があります。「過多月経」は、生活の質に影響を及ぼす医学的な状態です。原因として子宮筋腫や子宮腺筋症、ホルモンバランスの乱れなど様々な病気が考えられます。また、治療されない過多月経は鉄欠乏性貧血を引き起こし、深刻な健康問題につながることもあります。1~2時間ごとにナプキンを替える必要がある、大きな血の塊が出るなどのサインがあれば、病気の可能性を考えて婦人科を受診することが重要です12。
過多月経の治療でピル(低用量ピル)は効果がありますか?
はい、低用量ピル(LEP/OC)は過多月経の有効な治療選択肢の一つです。ピルは排卵を抑制し、子宮内膜が厚くなるのを防ぐことで、経血量を約40~50%減少させることができます29。また、月経周期を規則的にし、月経痛を和らげる効果もあります。特に避妊も同時に希望する若く健康な女性に適していますが、血栓症のリスクなどもあるため、使用には医師との相談が不可欠です。
過多月経は何科を受診すればよいですか?
過多月経の症状がある場合は、婦人科または産婦人科を受診してください。これらの専門医は、問診、内診、超音波検査、血液検査などを通じて原因を正確に診断し、あなたの年齢、健康状態、将来の妊娠希望などを考慮した上で、最適な治療法を提案してくれます。症状を放置せず、専門家のアドバイスを求めることが大切です。
治療法はどのように決まるのですか?
治療法の決定は「共同意思決定」に基づいて行われます。医師はまず、診察と検査によって過多月経の原因(例:子宮筋腫、ホルモン異常など)を特定します。その上で、あなたの①症状の重さ、②年齢、③将来子どもを望むかどうか(妊よう性の温存希望)、④他の健康状態を総合的に評価し、薬物療法(ピル、ミレーナなど)、低侵襲手術、根治手術といった選択肢の利点と欠点を説明します。最終的には、あなた自身の希望やライフプランを尊重しながら、最適な治療法を一緒に選択していきます3。
結論
過多月経は、決して「個人の体質」や「我慢すべきこと」ではありません。それは、生活の質を著しく低下させ、鉄欠乏性貧血という深刻な健康問題を引き起こしうる、治療可能な医学的状態です。現代の医療は、薬物療法から低侵襲手術まで、個々の状況に合わせた多様な選択肢を提供しています。最も重要なことは、ご自身の体のサインに耳を傾け、セルフチェックリストに当てはまるような症状があれば、ためらわずに婦人科の専門医に相談することです。正確な診断を通じて原因を特定し、医師と協力してご自身のライフプランに最適な治療法を選択することで、つらい症状から解放され、心身ともに健康で活力に満ちた毎日を取り戻すことが可能です。この記事が、あなたが行動を起こすための一助となることを心から願っています。
参考文献
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- Iron deficiency anemia in patients with heavy menstrual bleeding: The patients’ perspective from diagnosis to treatment. PubMed. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40014696/
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- ナプキンが1時間もたないと危険? 生理の血量が多い「過多月経 …」. Available from: https://serai.jp/health/1188816
- 過多月経セルフチェック|症状や原因、治療法を徹底解説 | 治験モニターのススメ. Available from: https://chiken-japan.co.jp/blog/menorrhagia-self-check/
- 過多月経とは?原因と対策、おすすめのナプキンを紹介|elis CLINICS ~エリス クリニクス. Available from: https://www.elleair.jp/elis/clinics/kata
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