自己治癒力を高める:血小板豊富血漿(PRP)療法の力
筋骨格系疾患

自己治癒力を高める:血小板豊富血漿(PRP)療法の力

はじめに

近年、整形外科領域を中心に、自己の血液から採取した血小板を濃縮して活用する**多血小板血漿(PRP)**が、関節や靭帯・腱などの損傷を早期に回復させるための治療法として注目を集めています。これは患者さん本人の血液を採取・遠心分離し、高濃度の血小板が含まれる血漿成分(PRP)を抽出して患部に注入することで、組織修復のメカニズムを促進させる方法です。自分自身の血液を使うため拒絶反応や感染症リスクが低く、比較的安全に行える点が大きな利点とされています。

免責事項

当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。

本記事では、PRPの基本的な仕組みや、実際にどういった症状・疾患に用いられるのか、そして治療を受ける上で注意すべき点などを、できるだけ詳しく解説します。さらに、近年の研究データに基づく知見も交えながら、PRP治療の可能性と限界について整理し、読者の皆様がより理解を深められるようにまとめました。

専門家への相談

本記事では、PRP(多血小板血漿)に関する情報を紹介していますが、医療機関での診察や相談なしに自己判断で治療方針を決定することは推奨されません。実際に治療にあたっては、医師(ここでは本文中に登場する内科・総合診療領域を担当している医師 Nguyễn Thường Hanhなど)に相談し、ご自身の疾患や体調、生活習慣などに合った治療計画を立てることが何よりも大切です。

多血小板血漿(PRP)とは何か

PRPの基本

血漿は血液の液体成分であり、赤血球・白血球・血小板が浮遊しています。このうち血小板は血液凝固を担う細胞成分であり、多様な成長因子(組織修復因子)を含む点が大きな特徴です。PRP(Platelet Rich Plasma)は通常の血漿よりも血小板が2~8倍ほど高密度に含まれるように濃縮された血漿のことで、「自己血小板ゲル」あるいは「血小板濃縮血漿」と呼ばれることもあります。近年の医療現場においては、自己血液から抽出したPRPが主に用いられ、拒絶反応や感染症リスクを最小限に抑えることが期待されています。

作用メカニズム

血小板に含まれる成長因子は、損傷した組織の修復や新生血管の形成を促進し、炎症軽減疼痛緩和といった効果も期待されています。PRPを患部に注入することで、体内の自己修復機構を強力に後押しし、結果的に関節や腱・靭帯、筋肉などの機能改善回復促進が見込まれます。また、毛髪再生や美容医療などの分野でも使われており、身体のさまざまな部位に応用が検討されています。

PRP自体は注入後約6〜9か月ほどのあいだ体内で効果が持続するといわれていますが、症状や患者さんの状態によってはそれよりも長期にわたって機能修復を支援する可能性もあります。

どのような場合にPRPが使われるか

  • 変形性膝関節症や膝の軟骨損傷
    軟骨組織は血行が乏しく、自然修復が難しいとされています。PRPを注入することで軟骨細胞の増殖や修復を促す効果が期待でき、痛みの軽減や機能改善が報告されています。国内の多くの医療機関でも行われており、手術を回避または先延ばしにできる可能性があるとされています。
  • 慢性腱炎、靭帯損傷
    スポーツなどによる**慢性的な腱・靭帯の炎症(例:テニス肘、アキレス腱炎など)**に対しても有効とされ、局所の炎症を抑えつつ、組織修復を促進することが狙いです。
  • 外科手術の補助
    関節鏡視下手術や靭帯再建など、外科的治療の際にPRPを併用し、術後の組織修復を早める用途で使われることがあります。手術創の治癒をより円滑にし、術後のリハビリ期間を短縮する可能性が示唆されています。
  • 脱毛治療の補完
    頭皮や毛根にPRPを注入することで、毛髪の成長を促し、脱毛症の進行を遅らせたり発毛を促進したりする効果が研究されています。まだ確立したガイドラインは限られますが、将来的な発展が期待される分野です。

最近の研究動向

近年(2021年以降)、PRPの関節疾患に対する有用性を検証する研究が増えており、2022年に学術誌International Journal of Molecular Sciencesに掲載されたシステマティックレビュー(Papalia Rら, 2022, DOI: 10.3390/ijms23116153)では、変形性膝関節症患者を対象にPRP注射を行った複数の臨床研究を分析し、痛みの緩和と関節機能の改善が得られたとの報告がまとめられています。また、同じく2022年にCurrent Reviews in Musculoskeletal Medicine誌(Brown AJら, 2022, DOI: 10.1007/s12178-022-09756-6)に掲載されたレビューでは、PRPが関節や腱の手術後の組織修復を促進し、術後のリハビリテーションを円滑にする可能性があると指摘されました。これらはどちらも一定規模以上の研究を集めた結果であり、日本国内でも適用が広がっている背景を裏付ける資料といえます。

これらの研究は主に成人の膝関節・腱・靭帯損傷を中心に行われており、高齢者からアスリートまで幅広い層への応用が想定されています。ただし、損傷レベルや個人差によって効果や必要回数が異なるため、担当医と十分に相談した上で治療を選択することが推奨されます。

PRP治療を検討する際の注意点

適応外となるケース

PRPは安全性の高い治療法とされていますが、以下のようなケースでは実施ができない、もしくは望ましくないとされています。

  • 絶対的禁忌
    • 重度の血小板減少症や血小板機能不全
    • 注射部位に細菌感染がある場合
    • 妊娠中・授乳中
  • 相対的禁忌
    • 注射部位に1か月以内に局所ステロイド注射をした場合
    • 全身投与のステロイド剤を2週間以内に使用している場合
    • 48時間以内にNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)を内服している場合
    • 患者が悪性腫瘍を持つ場合

治療前の準備

  • 現在服用中の薬剤
    抗凝固薬や一部のサプリメント・ビタミン剤、痛み止めなどは、手技前後に中断や調整が必要になる場合があります。必ず医師に事前にすべて伝えましょう。
  • 患部のケア
    脱毛治療目的で頭皮にPRPを注射する際は、施術当日に髪を洗って整髪料を使用しないよう指示されることが一般的です。
  • 血液採取に備える
    空腹でいると採血時にふらつくことがあるため、事前に食事をとっておくことを勧められる場合があります。

治療後の注意点

  • 痛みや腫れ
    注入部位に軽度の痛みや腫れ、内出血が生じることがあります。ほとんどの場合は2~3日ほどで改善するため、一般的な鎮痛薬(医師の指示を受けたうえでのアセトアミノフェンなど)で対応することが多いです。
  • 抗炎症薬の使用制限
    NSAIDsなどの抗炎症薬は、PRP治療後6週間程度は控えるように指導されることがあります。炎症反応は組織修復に必要なプロセスとされ、過度に抑えるとPRPの効果を減弱させる可能性があるためです。
  • 頭皮への注射後のケア
    頭皮にPRPを注入した場合、48時間は洗髪を避け、その後は普段通りにケアができます。1週間ほどで髪染めなどの処置も可能とされています。
  • 経過観察
    痛みや炎症が長引いたり、発熱や強い腫れが生じたりした場合は、感染のリスクが否定できないため早めに医療機関を受診することが勧められます。

PRP注射の手順と治療の流れ

PRPの調製方法

  1. 採血
    通常、腕の静脈から一定量の血液を採取します。
  2. 遠心分離
    採取した血液を遠心機にかけ、速度や時間を変えて2回遠心することで、赤血球や白血球を含む層と血小板の濃い層を分離します。最終的に多血小板血漿(PRP)を抽出し、血小板を活性化させるためのトロンビン塩化カルシウムなどを加えることでゲル状に加工する場合もあります。
  3. 注射
    治療部位に局所麻酔(リドカインなど)を行い、その後PRPを注射します。関節内注射の場合、エコー(超音波)を使って正確に注入位置を把握しながら行うことが多いです。

この一連のプロセスはおよそ30分~1時間程度で終わり、日帰り治療が可能です。必要に応じて、数週間おきに数回注射を繰り返すこともあります。

治療後の経過

治療直後はある程度の安静や患部への負荷軽減が推奨されます。翌日以降、医師の許可があれば日常生活や軽い運動は可能です。ただし、術後の炎症反応を利用して組織修復を促進するメカニズムでもあるため、あまりに早い段階で痛み止め(特に抗炎症作用のある薬)を積極的に使用すると、PRPの効果が減弱する可能性があると考えられています。

研究事例とエビデンス

PRPに関するエビデンスは過去10年以上にわたり蓄積されてきましたが、特にここ数年で臨床研究の数が増え、質も向上していると報告されています。以下のような研究が代表的な例です。

  • Papalia Rら(2022年)
    前述の通り、変形性膝関節症患者を対象にPRP注射を複数回行った臨床試験・観察研究を分析した結果、痛みと機能面の統計的有意な改善が見られたとされています。研究の規模は各試験で異なりますが、総合的には**「膝関節症の中等度までの症例に有用性が示唆される」**と結論づけています。
  • Brown AJら(2022年)
    関節鏡手術や腱修復手術におけるPRPの補助的利用について幅広くレビューし、「術後の組織修復や疼痛緩和、リハビリ期間の短縮などにつながる可能性があり、適切な適応を慎重に見極める意義がある」と報告しています。ただし、研究デザインや対象症例がバラバラなため、一部ではさらなる検討を要すると結論づけられました。

このように、国内外を問わずPRPは幅広い整形外科分野で試みられており、さらに細やかな適応基準の検討が進められています。日本国内でも中高年からスポーツ選手まで、多岐にわたる集団への治療報告が徐々に増加しており、比較的安全で副作用が少ないとの評価が主流です。しかし、あらゆる症状に対して万能であるわけではなく、疾患の進行度合いや患者の体質によって効果が出にくい場合がある点には注意が必要です。

注意すべきリスクと副作用

PRP治療は「自己血液を用いた治療」であるため、大きな拒絶反応や重篤な免疫反応が起こりにくいと考えられています。一方で、以下のようなリスクはゼロではありません。

  • 感染症リスク
    注射手技を行う以上、針の穿刺による皮膚や組織の微小損傷が生じます。滅菌管理が不十分な場合、局所感染や深部感染のリスクがあります。
  • 神経・血管損傷
    注射時に誤って神経や血管を傷つけるリスクがごくわずかにあります。超音波ガイドを使うことでリスクを低減可能です。
  • 痛みや腫れ、内出血
    組織内に高濃度の血小板を注入するため、一時的に強い炎症反応が生じることがあり、痛みや腫れ、内出血が起こります。通常は数日で治まりますが、長引く場合は医師に相談してください。

推奨されるアフターケアと生活上のアドバイス

PRP治療後の経過は個人差がありますが、共通して推奨される一般的なアドバイスを挙げます。

  • 安静と適度な運動のバランス
    注射直後は患部への負担を減らすため、激しい運動は避けるようにします。一方で、医師からリハビリや軽いストレッチなどが指示される場合もあり、完全に動かさないと筋力低下や関節拘縮を招く恐れがあります。
  • 患部のモニタリング
    腫れや痛みが予想以上に強い場合、熱感や赤みが増す場合などは、炎症や感染症の兆候である可能性があるため、早めに受診しましょう。
  • 再度の注射スケジュール
    症状によっては、PRP注射を3~4週ごとに数回実施することがあります。経過をみながら、必要に応じて追加注射を検討するのが一般的です。

総括

多血小板血漿(PRP)は、自分自身の血液を採取して高濃度に濃縮した血小板を注射することで、組織修復を促進し痛みや炎症を抑える治療法です。整形外科領域、特に変形性膝関節症や腱炎、靭帯損傷などで幅広く応用されてきました。また、脱毛治療や美容領域でも用いられるなど、多方面で研究・開発が進んでいます。

一方で、禁忌例や注意点があり、すべての患者に効果があるわけではありません。副作用は比較的少なく、再生医療として期待が持たれる一方、治療効果の個人差が存在します。研究結果では「軽度~中等度の症状」に比較的有用との報告もありますが、症状が重度に進行している場合は手術が適切となるケースもあります。

PRP治療を検討する場合は、担当医や専門家と相談しながら、適応条件・利点・リスクを十分把握することが大切です。痛みや炎症がいつまでも続く場合、別の原因が潜んでいる可能性があるため、早期に診察を受けましょう。

おすすめの受診・相談ガイドライン(参考)

  • どのタイミングでPRP治療を検討すべきか
    → 痛み止めやリハビリ、既存の保存的治療を行っても症状改善が見られないとき、軽~中程度の膝関節の痛みで日常生活に支障が出ているときなど。
  • どのような医師に相談するか
    → 整形外科・リハビリテーション科・スポーツ整形など、PRPの知見を有する専門医。実績があるクリニックや病院が望ましい。
  • 術後のアフターケア
    → リハビリ・生活指導・定期的な再診。医師とコミュニケーションをこまめに取りながら、自分に合った治療ペースを見極める。

参考文献


医療上の注意・免責事項

本記事の内容は、医療従事者による正式な診断・指導・治療に代わるものではありません。あくまでも健康情報の一助としてご利用ください。実際に治療を受ける際は、必ず専門医や医療機関にご相談いただくことをおすすめします。特に持病や妊娠・授乳中の方、既にほかの治療を受けている方などは、自己判断ではなく担当医と十分に話し合いましょう。

本記事で取り上げた治療法や研究についても、その効果は患者さんの病態や生活習慣、進行度合いによって大きく左右されます。必ずしも全員に効果が保証されるわけではありませんので、ご注意ください。

(以上の情報は参考として提供されるものであり、最終的な治療方針はご自身の意思と主治医との相談によって決定されるべきものです。)

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