若者の低血圧症：見過ごせない健康リスクとは

はじめに

現代の多忙な生活習慣やストレスフルな環境を振り返ると、日常の中で十分な休息や栄養をとることが難しくなっている方は少なくありません。そのような背景から、さまざまな体調不良や症状が若い世代を含む幅広い年齢層で報告されています。その中でも「低血圧（ていけつあつ）」は、一見すると年配の方に多いイメージがありますが、実際には10代や20代の若年層でも決して珍しいものではありません。めまいやふらつきといった軽度な症状から、場合によっては生活に大きな支障をきたすケースまで存在します。

本記事では、低血圧とは具体的にどのような状態で、どのような仕組みで症状が起こるのか、そして予防や改善に役立つ生活習慣や食事面の工夫などを詳しく解説します。日本健康協会（JHA）として、この低血圧という重要な健康課題について情報を共有できることを大変嬉しく思います。低血圧は適切な知識と対策によってコントロール可能な場合が多いため、特に若い方々が早い段階で対処できるよう、本記事を通じて正しく理解していただければ幸いです。

専門家への相談

本記事では、低血圧に関する信頼できる情報として日本健康サービス（JHS）からの助言を参考にしています。JHSは低血圧のみならず幅広い健康問題についての情報発信を行っており、特に生活習慣の見直しや食事指導に関しては定評があります。若年層の低血圧にフォーカスしたアドバイスや、日常生活のなかで無理なくできる改善策など、有用なデータを提示しているのが特徴です。

さらに、本記事でご紹介する情報はあくまで一般的な医学的知見に基づくものであり、個々人の体調や健康状態によって最適な対策が異なる場合があります。症状が気になる場合は医師や薬剤師などの専門家に相談し、適切な診断と助言を受けることを強くおすすめします。

低血圧とは何か

低血圧の基本的な理解

血圧は、血液が血管の壁に対してかける圧力のことを指し、全身への血液循環の指標として非常に重要です。一般的には、収縮期血圧が90mmHg未満、拡張期血圧が60mmHg未満の状態を「低血圧」と呼びます。収縮期血圧は心臓が収縮して血液を送り出すときに最大となる圧力、拡張期血圧は心臓が拡張しているときの最低圧力を示します。

低血圧は一時的なものから慢性的なものまで幅広く、軽度の場合はほとんど症状が出ないことも珍しくありません。しかし、重度になるとめまいやふらつき、失神など日常生活に支障をきたす症状が起こります。また、低血圧は一般的に高齢者に多いと思われがちですが、実際には成長期の子どもから若年層の間にも広く見られます。

低血圧には以下のようなタイプがあります。

• 神経調節性低血圧
  長時間立ち続けた後に起こりやすく、特に子どもや若者に見られます。脳と心臓の間で血圧を調節する信号伝達がうまくいかなくなることで発症します。
• 起立性低血圧
  座位や仰臥位（横になっている状態）から急に立ち上がった際に、血圧が急激に低下してふらつきやめまいを引き起こす状態です。多くの場合は一時的で、しばらくすると安定しますが、頻繁に繰り返すと転倒などのリスクが高まります。
• 急性低血圧
  重篤な感染症、アナフィラキシーショック、大量出血などによって急激に血圧が下がる状態を指します。これは緊急対応が必要となる重大な状態です。

若年層の低血圧は一過性であることが多い一方、体質的に血圧が低くなりやすい方もいます。慢性的に低血圧傾向が続く場合は、生活習慣を工夫したり早めに原因を特定し、必要に応じた対策を講じることが大切です。

低血圧の症状

若い人々における低血圧の症状

低血圧は、症状が軽度であれば無自覚で過ごしてしまうことも少なくありません。しかし、血圧が急激に下がると多様な症状が現れることがあります。特に若年層では、学校生活や仕事、アルバイト、部活動などに集中したいのに集中力が途切れてしまう、あるいは朝起きられずに遅刻が増えるといった問題につながることもあるでしょう。以下は代表的な症状です。

• 頭痛
  頭全体が重く締めつけられるように痛む場合や、片頭痛のように鋭い痛みを感じる場合があります。低血圧で頭痛が起こるメカニズムとしては、脳への血流不足が挙げられます。
• 視界のぼやけ
  急に立ち上がったり、運動直後などに視界が急にかすむ、ぼやけることがあります。これは血圧の低下によって、一時的に脳への血液供給が不足するために起こります。
• めまい・ふらつき
  長時間の立ち仕事や部活での運動後などに立ちくらみを感じる、歩行が不安定になるなど、日常的な動作に支障が出ることがあります。
• 動悸
  血圧が下がった状態に対して心臓が拍動回数を増やして補おうとするため、胸がドキドキする動悸を感じることがあります。緊張状態でも同様に動悸が強くなることがあるため、血圧の問題なのか精神的な要因なのかを見極める必要があります。
• 疲労感
  十分な睡眠をとっているのに疲れがとれにくい、午前中から倦怠感が続く、授業中やデスクワーク中に集中できないといった症状が挙げられます。
• 集中力の低下
  とくに勉強や業務に取り組む若者にとっては大きな問題になります。低血圧の影響で脳のパフォーマンスが落ち、作業効率が下がることもあります。
• 吐き気・嘔吐
  血圧の急な変動や胃腸の機能低下によって吐き気が生じ、まれに嘔吐を伴うことがあります。飲み物や食事を口にしたときに気持ち悪くなるケースもあります。
• 眠気
  日中に強烈な眠気を感じやすい、または急にぼーっとしてしまう場合は、脳への血流低下が影響している可能性があります。
• 失神（気絶）
  重度の低血圧では意識を保てずに失神してしまうことがあります。倒れる際に頭を打つなど二次的な事故を招くおそれもあるため、症状を放置しないことが重要です。

さらに深刻な場合には、皮膚の蒼白や冷感、脈の速さ・弱さ、呼吸の浅さなどショックの症状が見られることもあります。こうした状態は命にかかわる可能性があるため、ただちに医療機関での診察が必要です。

低血圧の原因

若い人々における低血圧の原因

低血圧の原因は非常に多岐にわたります。若い世代に特有のライフスタイルが絡んでいる場合も多く、必ずしも深刻な病気だけが原因とは限りません。以下に代表的な要因を挙げます。

• 妊娠（特に妊娠初期）
  妊娠中は血液量が増加し、血管が拡張します。その影響で血圧が下がることがあります。特に妊娠初期はホルモンバランスの変化も著しいため、めまいなどを感じやすくなる場合があります。
• アルコールやカフェインの過剰摂取
  アルコールは血管を拡張させる作用があるため、血圧が下がりやすくなります。カフェインは一時的に血圧を上げる効果があるものの、摂取量が多いとリバウンド的に急激に血圧が落ち込むことも報告されています。特に若い世代はエナジードリンクやコーヒーを頻繁に飲む傾向があるため、注意が必要です。
• 長時間の立位保持
  ライブやテーマパークの列、イベントなどで長時間立ちっぱなしになると、脚部に血液がたまり、全身の血圧が低下します。これを放置すると神経調節性低血圧につながることもあります。
• 急な体位の変化
  座っている状態や寝ている状態から急に立ち上がった時に、一時的に脳への血流が追いつかず、めまいやふらつきを感じます。起立性低血圧としてよく知られる現象で、朝起きた直後に起こりやすいという特徴があります。
• 高温や低温の環境
  夏の暑い屋外や冬の寒冷地など、極端な温度下では血管の拡張・収縮が大きく変化し、血圧の乱高下を招く場合があります。
• 睡眠不足
  夜更かしや不規則な生活リズムによって睡眠が不足すると、自律神経の働きが乱れ、血圧の調整がうまくいかなくなる可能性があります。慢性的な睡眠不足は全身の不調を引き起こしやすい要因でもあります。
• 不規則な食事や食事を抜くこと
  食事を抜くと血糖値が下がり、それに伴って血圧も低下しやすくなります。特に朝食を抜くことで午前中に体が十分に目覚めず、低血圧症状が出ることがあります。
• 不均衡な食事
  極端に塩分を控えすぎる食事や、水分摂取が不足している食生活は、血圧低下を招く要因となります。過度なダイエットも栄養バランスを崩しやすいため注意が必要です。
• 肥満や過体重
  一見すると肥満は高血圧を連想しがちですが、体重が過剰になることで心臓への負担は増大し、血圧の調整が乱れるケースもあります。肥満はさまざまな生活習慣病につながるので、血圧だけでなく総合的な健康管理が重要です。
• 慢性的なストレス
  試験や仕事、人間関係などのストレスが長期間にわたると、自律神経のバランスが崩れやすくなります。その結果、血圧が必要なタイミングで適切に上昇・維持できなくなる場合があります。
• 脱水症状
  発熱、嘔吐、下痢、または運動や利尿剤の使用などで体液が失われると、血液量が減少して血圧も下がります。特にスポーツをする若者は、汗で大量の水分を失うため、こまめな水分補給が必要です。
• 外傷や内出血による血液損失
  事故やケガによって大量に出血した場合、血液の総量が減少し、血圧が急激に低下します。交通事故やスポーツ中の怪我などに注意が必要です。

また、以下のような病気が低血圧を引き起こすことがあります。

• 腎臓疾患
  腎臓の機能が低下すると、水分や塩分のコントロールがうまくいかなくなり、血圧が下がりやすくなります。
• 神経系の病気（例：パーキンソン病）
  自律神経の働きが乱れると、血管収縮や心拍数の制御が不十分となり、低血圧状態を招く場合があります。
• 内分泌疾患（甲状腺機能低下症や副腎不全など）
  ホルモンバランスは血圧調整に密接に関わっているため、ホルモンの分泌異常が起きると慢性の低血圧を引き起こすことがあります。
• 肺に関する病気（例：肺塞栓症など）
  肺の血流異常によって酸素供給が低下すると、全身の組織への血液供給も不十分になるため、血圧が下がるケースがあります。
• 心臓の病気（例：心不全など）
  心臓が十分に血液を送り出せないと、全身の血圧も当然ながら低くなりがちです。
• 糖尿病
  糖尿病性の自律神経障害は、血圧をコントロールする神経機能に影響を与え、低血圧や起立性低血圧を引き起こす原因になります。
• 低血糖症
  血糖値が極端に低下すると、エネルギー供給不足により血圧も下がりやすくなります。
• 重度の感染症
  敗血症など深刻な感染症では全身性の炎症反応で血管が拡張し、血圧が大きく低下する可能性があります。
• アナフィラキシーショック
  アレルゲンへの過剰反応で急激に血管が拡張し、血圧が危険なまでに下がる状態です。呼吸困難や意識喪失を伴うこともあり、緊急医療が必要です。
• 貧血
  赤血球やヘモグロビンが不足すると、酸素を十分に運べなくなり、全身状態が悪化するとともに血圧も低下しやすくなります。

治療法

若い人々に対する低血圧の治療法

低血圧の治療は原因や症状の程度によって異なります。軽度の低血圧であれば、生活習慣を少し見直すだけでも改善が期待できます。しかし、症状が重く日常生活に大きな影響を及ぼしている場合は、医療機関での詳しい検査や内科的治療が必要となることがあります。

• 水分を十分に摂取する
  脱水症状は血液量を減らし、血圧低下の大きな要因となります。1日に最低でも1.5〜2リットルの水分を摂ることを目安にし、運動をする方や暑い環境で生活する方はさらに多めに補給すると良いでしょう。炭酸飲料や糖分の多いジュースを大量に摂取するのは避け、できるだけ水やお茶を中心に摂取するのがおすすめです。
• 圧迫ストッキングを着用する
  下半身に溜まった血液を心臓へ戻しやすくするために有効です。立ち仕事が多い方や、長時間立ちっぱなしの状況が予想される際に取り入れると、めまいやふらつきの予防につながる可能性があります。
• 適切な塩分摂取
  極端に塩分を控えすぎている場合は、塩分不足が低血圧の要因となっている可能性があります。ただし、塩分の過剰摂取は高血圧を招くリスクもあるため、医師や栄養士と相談して摂取量を調整することが望ましいです。
• バランスの取れた食生活
  ビタミンやミネラルを意識した食事は血圧調整だけでなく、総合的な健康維持に役立ちます。鉄分不足による貧血は低血圧を悪化させる場合があるため、レバーやほうれん草など鉄分豊富な食品を積極的に取り入れることが推奨されます。
• 定期的な運動
  ウォーキングや軽いジョギング、ストレッチなどの有酸素運動を日常に取り入れることで、心肺機能が強化され、血圧調整能力も向上します。ただし、急激な運動や過度な負荷は逆効果となる可能性があるため、無理のない範囲で継続することが大切です。
• 適切な姿勢の維持
  急に立ち上がるときはゆっくりと体を起こし、脳に十分な血液がいきわたる時間を作るように意識します。朝起きる際は、一度ベッドの上で座って数秒から十数秒ほどかけて立ち上がるといった工夫を行うと、起立性低血圧を軽減できます。
• 少量の食事を頻繁に摂る
  1日3食にこだわらず、5〜6回に分けて少しずつ食事を摂ることで血糖値と血圧の変動をなだらかに保ちやすくなります。一気に大量の炭水化物を摂取すると血糖値が急上昇・急降下するため、血圧にも影響が及ぶ可能性があるからです。
• 食事を抜かない
  特に朝食は、睡眠によって空腹状態が長時間続いた体にエネルギーを補給する大切なタイミングです。朝食を抜くとさらに血圧が下がりやすくなるため、軽いものでもよいので朝食を欠かさず摂る習慣をつけましょう。
• 高炭水化物食品の制限
  急激な血糖値の上昇は、その後の急降下とともに血圧に影響を与える可能性があります。特に甘い菓子や清涼飲料水を一度に大量に摂ることは避けましょう。
• アルコールとカフェインの制限
  アルコールは血管拡張による急激な血圧低下、カフェインは摂取直後の血圧上昇とその後の急降下を引き起こす場合があります。いずれも嗜好品として楽しみたい方は、過剰摂取を避けつつ、適度な範囲にとどめることが望ましいでしょう。
• 立ちくらみがある場合の応急処置
  もし立ちくらみを感じたら、すぐに座るか横になり、必要であれば足を軽く高くして血液を上半身に戻す工夫をしましょう。こうすることで脳への血流が回復し、失神や転倒を防ぎやすくなります。
• ストレスの管理と十分な睡眠
  ストレスは交感神経と副交感神経のバランスを乱し、血圧の安定を妨げます。ヨガや深呼吸、リラクゼーション音楽などを活用し、自分に合ったリラックス法を見つけることが重要です。また、毎日一定の時間に就寝し、適切な長さの睡眠を確保する習慣作りも欠かせません。

以上のような生活習慣の改善によっても症状が改善しない場合は、内科や循環器内科など専門の医師に相談しましょう。必要に応じて血液検査やホルモン検査、心電図やエコー検査などが行われ、低血圧の原因が詳しく調べられます。また、薬物療法としては、血圧を上げる作用をもつ薬や自律神経のバランスを整える薬などが用いられる場合があります。

結論と提言

低血圧は高齢者だけの問題と思われがちですが、若年層においても無視できない健康課題となっています。学校や仕事、日々の生活の中で、めまいやふらつき、集中力低下などを引き起こすことでパフォーマンスに影響が出るだけでなく、転倒や失神によるケガといったリスクも存在します。したがって、少しでも気になる症状がある場合は、早めに生活習慣を見直し、必要に応じて医療機関を受診することが望ましいでしょう。

日常の些細な習慣の積み重ねによって、血圧の安定度は大きく変わります。たとえば、朝食をきちんと摂る、こまめに水分補給をする、立ち仕事が多い日は圧迫ストッキングを試すなど、できることはいくつもあります。さらに、ストレスをためすぎないように趣味や運動、リラクゼーションを取り入れ、自分に合った健康的な生活スタイルを確立することが重要です。これらの取り組みを継続することで、低血圧による不快な症状の予防や改善に大きく寄与するでしょう。

参考文献

• Blood Pressure Is Lower in Children and Adolescents With a Low-Saturated-Fat Diet Since Infancy（アクセス日: 2022年12月12日）
• Low blood pressure (hypotension) – NHS（アクセス日: 2022年12月12日）
• Low blood pressure (hypotension) – Mayo Clinic（アクセス日: 2022年12月12日）
• Low Blood Pressure (Hypotension) – Cleveland Clinic（アクセス日: 2022年12月12日）
• Low Blood Pressure (Hypotension) – CHAM（アクセス日: 2022年12月12日）

今後の推奨と注意点

• 本記事の情報は一般的な健康情報の提供を目的としたもので、医師や有資格専門家による正式な診断・治療に代わるものではありません。
• 症状が長引く、または日常生活に支障をきたすほど重度の場合は、速やかに医療機関を受診してください。
• 生活習慣の改善や食事の見直しは、低血圧を予防・緩和する上で重要な要素です。特に若年層は将来的な健康リスクを考慮し、早めの段階で適切な対策をとることが望ましいとされています。
• ストレス管理や睡眠の質の向上も、血圧コントロールには欠かせない要素です。自己流の対策で不安がある場合は、専門家やカウンセラーに相談してみるのも一つの方法でしょう。
• 低血圧の背景には他の疾患が潜んでいる可能性もあるため、症状の程度や頻度に注意しつつ、定期的な健康チェックを行うことをおすすめします。

これらのポイントを総合的に取り入れることで、低血圧のリスクを軽減し、若い方々でも快適に生活できる環境を整えることが期待できます。本記事は情報提供を目的としており、最終的な判断や治療にあたっては必ず専門家への相談を行ってください。