蜂窩織炎(ほうかしきえん)とは?その足の痛み、人食いバクテリアとの違いは?原因・症状・治療・再発予防のすべて
皮膚科疾患

蜂窩織炎(ほうかしきえん)とは?その足の痛み、人食いバクテリアとの違いは?原因・症状・治療・再発予防のすべて

ある日突然、あなたの足がパンパンに赤く腫れ、触れるだけでも激しい痛みが走る。それは、単なる肌荒れや虫刺されではないかもしれません。特に2024年、日本国内で「人食いバクテリア」として知られる劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)の患者数が過去最多を記録したという報道に触れ、「この症状は、もしかして…」と深い不安を感じている方も少なくないでしょう4。本記事は、そうしたあなたの不安に寄り添い、科学的根拠に基づいた信頼できる情報を提供するための道しるべです。蜂窩織炎(ほうかしきえん)とは一体何なのか、そして最も懸念される重篤な感染症とどう違うのか。原因から最新の治療法、そして何より辛い再発を防ぐための具体的な方法まで、専門家の知見を基に、そのすべてを徹底的に、そして分かりやすく解説します。

要点まとめ

  • 蜂窩織炎は皮膚の深い部分で起こる細菌感染症であり、人から人へはうつりません。
  • 主な原因はレンサ球菌やブドウ球菌で、水虫などでできた目に見えないほどの小さな傷から侵入します3
  • 症状は「赤み、熱っぽさ、腫れ、痛み」が基本ですが、「急速に広がる赤み」「見た目に不釣り合いな激痛」「水ぶくれ」などは命に関わる危険なサインであり、直ちに救急受診が必要です23
  • 治療の三本柱は「抗菌薬(抗生物質)」「患部の安静・挙上」「原因の治療」です。自己判断で薬を中断してはいけません。
  • 再発予防には、保湿などのスキンケア、水虫の完治、体重管理が極めて重要です。特にリンパ浮腫などの基礎疾患がある方は注意が必要です910

第1章:蜂窩織炎の基本知識 – 正しい理解が第一歩

蜂窩織炎について正しく知ることは、不必要な不安を取り除き、適切な行動をとるための最初の、そして最も重要なステップです。

1.1. 蜂窩織炎とは? – 皮膚の深い場所で起こる細菌感染症

蜂窩織炎とは、皮膚の構造のうち、表面にある「表皮」よりも深い層、すなわち「真皮」から、その下の「皮下脂肪組織」にかけて細菌が感染し、炎症が広がる病気です21。炎症が皮下組織で蜂の巣(ハチの巣)のように広がる様子から、この名前が付けられました。体のどこにでも起こる可能性がありますが、特に足(下腿)に最も多く見られます。

ここで非常に重要なことは、蜂窩織炎はインフルエンザや風邪のように、人から人に直接うつる病気ではないということです。感染した部位に触れたからといって、他の人に感染が広がることは基本的にありません22。この点を理解するだけで、ご家族や周囲の方への過度な心配を減らすことができます。しばしば混同される疾患に「丹毒(たんどく)」がありますが、これは皮膚のより浅い層(真皮上層)での感染症で、蜂窩織炎に比べて病変の境界が比較的はっきりしているという特徴があります21

1.2. なぜ起こるのか?蜂窩織炎の主な原因

蜂窩織炎は、細菌が皮膚のバリアを突破して体内に侵入することによって引き起こされます。その原因となる細菌と、侵入を許してしまう経路について詳しく見ていきましょう。

1.2.1. 原因となる細菌:レンサ球菌とブドウ球菌が二大巨頭

蜂窩織炎を引き起こす主な原因菌は、「化膿レンサ球菌(A群β溶血性レンサ球菌)」と「黄色ブドウ球菌」の2種類です22。これらの細菌は、私たちの身の回りや皮膚の表面に常に存在している常在菌ですが、普段は皮膚のバリア機能によって体内への侵入を防がれています。

特に日本の臨床現場における重要な知見として、膿を伴わない(非化膿性の)蜂窩織炎においては、レンサ球菌が主な原因であることが多いと報告されています。総合病院土浦協同病院の盛山吉弘医師らが行った研究では、非化膿性の蜂窩織炎101例を分析した結果、約60%でβ溶血性レンサ球菌の関与が確認され、全例でMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)を最初から標的とする治療は不要であったと結論付けられています11。これは、米国のガイドラインでしばしば強調されるMRSAへの懸念とは一線を画し、日本国内における抗菌薬の適正な使用の重要性を示唆しています。

1.2.2. 細菌の侵入経路:目に見えないほどの小さな傷が引き金に

では、これらの細菌はどのようにして体内に侵入するのでしょうか。その「入口」となるのは、皮膚にできた非常に小さな傷や亀裂です。具体的には、以下のようなものが挙げられます。

  • 切り傷、擦り傷
  • 虫刺されや、それを掻き壊した跡
  • 靴擦れ
  • やけど
  • アトピー性皮膚炎などによる湿疹
  • ピアスの穴

中でも、非常に多く、かつ見逃されがちな重要な侵入門戸が「足白癬(あしはくせん)」、いわゆる水虫です18。特に、足の指の間が白くふやけてじゅくじゅくするタイプ(趾間型)や、かかとがひび割れるタイプ(角質増殖型)では、皮膚に目に見えないほどの細かい亀裂が生じます。この亀裂が、細菌にとって格好の侵入口となってしまうのです。日本皮膚科学会も、足白癬が蜂窩織炎の引き金となり、重症化した場合には命に関わる可能性さえあると警告しています3。米国感染症学会(IDSA)のガイドラインでも、足の指の間のケアの重要性が指摘されています14

1.3. 蜂窩織炎になりやすい人とは? – 知っておくべきリスク因子

蜂窩織炎は誰にでも起こりうる病気ですが、特定の条件を持つ人は、より発症しやすいことが知られています。これらのリスク因子は、体全体の免疫力に関わる「全身性因子」と、特定の部位の防御機能の低下に関わる「局所性因子」に大別できます。

全身性リスク因子:

  • 糖尿病:高血糖の状態が続くと、免疫細胞の機能が低下し、血流も悪化するため、細菌と戦う力が弱まります。
  • 肥満:皮下脂肪が厚いと血行が悪くなりやすく、免疫細胞が感染部位に届きにくくなります。
  • 免疫抑制状態:ステロイド薬や免疫抑制剤を使用している方、HIV感染症の方、がんの化学療法中の方などは、免疫力が低下しているため感染しやすくなります。
  • 肝硬変や腎不全などの慢性疾患:全身の栄養状態や免疫機能に影響を与えます。

局所性リスク因子:

  • リンパ浮腫:乳がんや婦人科がんの手術でリンパ節を切除した後や、放射線治療後などに腕や足がむくむ状態です。リンパ液の流れが滞ると、タンパク質が豊富なリンパ液が細菌の栄養源となり、免疫細胞も届きにくくなるため、蜂窩織炎の最も重要なリスク因子の一つとされています910
  • 慢性静脈不全(下肢静脈瘤など):足の静脈の血流が滞り、むくみ(うっ滞)が生じることで、皮膚の防御機能が低下します。
  • 足白癬(水虫):前述の通り、皮膚に亀裂を作り、細菌の侵入門戸となります。
  • 過去に蜂窩織炎になったことがある:一度蜂窩織炎になると、その部位のリンパ管がダメージを受け、再発しやすくなります。

これらのリスク因子を持つ方は、日頃から皮膚のケアに特に注意を払うことが重要です。

第2章:症状と受診のタイミング – 見逃してはいけないサイン

蜂窩織炎の典型的な症状を知り、特に危険なサインを見逃さないことが、重症化を防ぐ鍵となります。

2.1. これって蜂窩織炎?症状セルフチェックリスト

もしご自身の症状が蜂窩織炎かもしれないと感じたら、以下のチェックリストを確認してみてください。一つでも当てはまる場合は、自己判断せず、早めに専門医に相談することを強く推奨します。

  • 発赤(ほっせき):皮膚が広範囲にわたって赤くなる。境界は比較的ぼんやりしていることが多い。
  • 熱感(ねっかん):赤い部分に触れると、明らかに熱っぽく感じる。
  • 腫脹(しゅちょう):皮膚がパンパンに腫れあがる。指で押すと跡が残ることもある。
  • 疼痛(とうつう):じっとしていても痛む(自発痛)、押すと痛む(圧痛)の両方が見られる。
  • 全身症状:炎症が強くなると、発熱(38℃以上)、悪寒(寒気)、関節痛、頭痛、全身の倦怠感などを伴うことがある。
  • リンパ管炎:感染部位から体の中心に向かって、赤い線が伸びて見えることがある。これはリンパ管に沿って炎症が広がっているサインです。

2.2. 【最重要】すぐに救急へ行くべき危険なサイン(壊死性軟部組織感染症との鑑別)

このセクションは、あなたの、あるいはあなたの大切な人の命を守るために最も重要な情報です。蜂窩織炎と診断されたケースのごく一部に、進行が非常に速く、致死率も高い「壊死性軟部組織感染症(えしせいなんぶそしきかんせんしょう)」、特に筋膜に沿って広がる「壊死性筋膜炎」が隠れていることがあります23。これが、いわゆる「人食いバクテリア」の正体の一つです。以下のサインが見られた場合は、蜂窩織炎とは次元の違う緊急事態です。夜間や休日であっても、絶対にためらわずに救急外来を受診してください。

<絶対に⾒逃してはいけない危険なサイン>

  • 急速な進行:数時間という短い単位で、赤みや腫れが驚くほどの速さで広がっていく。
  • 不釣り合いな激痛:皮膚の見た目の変化(赤みなど)に比べて、ありえないほどの激しい痛みを訴える。「焼けつくような痛み」「引き裂かれるような痛み」と表現されることもあります。
  • 皮膚の色の変化:皮膚に水ぶくれ(水疱)ができたり、血豆のような暗い紫色(暗赤色)に変色したりする。
  • 感覚の異常:初めは激しく痛んでいた部分が、逆に感覚が鈍くなる、または全く感じなくなる。これは神経が壊死している危険な兆候です。
  • 急激な全身状態の悪化:意識がもうろうとする、血圧が急に下がる(ショック状態)、呼吸が速くなるなど、全身の状態が急速に悪化する。

これらの症状は、皮膚の下で組織の壊死が急速に進行していることを示唆しており、一刻も早い外科的処置(壊死した組織の切除)と強力な抗菌薬治療が必要です23。国立感染症研究所のデータによれば、STSSの致死率は約30%にも上ります8。蜂窩織炎との最も重要な違いは、この「進行の速さ」と「痛みの強さ」です。少しでも疑わしいと感じたら、迷わず救急医療を頼ってください。

2.3. 専門家向けコラム:LRINECスコアとは

(このコラムは医療関係者やより専門的な知識を求める方向けの内容です)

臨床現場では、壊死性筋膜炎のリスクを客観的に評価する補助的なツールとして「LRINECスコア(Laboratory Risk Indicator for Necrotizing Fasciitis score)」が知られています。これは、2004年にシンガポールのWong医師らによって提唱されたもので、血液検査の6項目(CRP、白血球数、ヘモグロビン、ナトリウム、クレアチニン、血糖値)の結果を点数化し、合計点でリスクを層別化するものです24。スコアが高いほど壊死性筋膜炎の可能性が高いとされますが、このスコアが低いからといって壊死性筋膜炎を完全に否定できるわけではなく、あくまで臨床所見(特に激しい痛みなど)と合わせて総合的に判断することが極めて重要です。

2.4. 何科を受診すればいい?

足の赤みや腫れに気づいた際、どの診療科を受診すればよいか迷うかもしれません。第一選択となるのは皮膚科です。皮膚科医は、蜂窩織炎だけでなく、丹毒、帯状疱疹、接触皮膚炎(かぶれ)など、似たような症状を示す他の多くの皮膚疾患との鑑別に最も精通している専門家だからです128

もちろん、かかりつけの内科でも初期対応は可能です。しかし、診断が難しい場合や、重症で入院が必要と判断される場合には、感染症を専門とする感染症科や、外科的処置が必要になる可能性を考えて形成外科など、他科と連携して治療にあたることが一般的です。

第3章:診断と治療の進め方

医療機関では、どのように診断が下され、どのような治療が行われるのでしょうか。その流れを理解しておきましょう。

3.1. 医師はこうして診断する

蜂窩織炎の診断は、主に医師による問診と視診・触診によって行われます22。いつから、どのような症状が、どのように変化してきたかといった情報と、皮膚の状態(赤み、熱感、腫れ、痛みの程度など)を詳しく診ることで、ほとんどの場合診断がつきます。しかし、補助的に以下の検査が行われることもあります。

  • 血液検査:白血球数やCRP(C反応性タンパク)の値を調べることで、体内の炎症の程度を客観的に評価します。
  • 画像検査(超音波、CT、MRIなど):皮下に膿が溜まっていないか(膿瘍形成)、あるいは炎症が骨にまで及んでいないか(骨髄炎)などを確認するために行われます。特に壊死性筋膜炎が疑われる場合には、ガス産生の有無などを確認するために重要です25
  • 細菌培養検査:原因菌を特定するために、血液や、傷口から出る滲出液、水ぶくれの内容物などを採取して培養検査に出すことがあります。しかし、蜂窩織炎では原因菌が検出されないことも多く、IDSAガイドラインでは、重症例や免疫不全者などを除き、ルーチンでの実施は推奨されていません14

3.2. 蜂窩織炎の治療法 – 三本柱を理解する

蜂窩織炎の治療は、単に薬を飲むだけではありません。「①抗菌薬(抗生物質)の投与」「②患部の安静・挙上」「③原因・リスク因子の治療」という三つの柱を同時に進めることが、確実な治癒と再発予防につながります。

① 抗菌薬(抗生物質)の投与
治療の基本は、原因となっている細菌を殺すための抗菌薬の投与です。軽症の場合は飲み薬(経口薬)で治療しますが、中等症から重症の場合や、飲み薬の効果が不十分な場合は、入院して点滴(静脈内投与)でより強力に治療します19。日本のプライマリ・ケアの現場では、主な原因菌であるレンサ球菌とブドウ球菌の両方に効果があるセフェム系の抗菌薬(例:セファレキシン、セファクロルなど)が第一選択として推奨されることが多いです18。ここで最も重要なことは、症状が良くなったからといって、自己判断で薬の服用を絶対にやめないことです。処方された期間、薬を最後まで飲み切らないと、生き残った細菌が再び増殖して再発したり、薬が効きにくい耐性菌を生み出す原因になったりします。

② 患部の安静・挙上
薬物療法と同じくらい重要なのが、患部の安静と挙上(きょじょう)です。炎症を起こしている足に体重をかけて歩き回ると、炎症が悪化し、治癒が遅れてしまいます。できる限り安静にし、横になる時や座る時は、クッションや枕などを使って、患部を自分の心臓より高い位置に保つように心がけてください。これにより、患部に溜まった余分な水分(むくみ)が心臓に戻りやすくなり、腫れと痛みを和らげる効果があります。

③ 原因・リスク因子の治療
蜂窩織炎の引き金となった原因を放置すれば、たとえ今回の炎症が治っても、再発のリスクは残ったままです。水虫が原因であれば、皮膚科で適切な抗真菌薬の治療を並行して行い、完治させることが不可欠です3。リンパ浮腫や静脈瘤がある場合は、弾性ストッキングの着用など、適切な圧迫療法について指導を受ける必要があります。

3.3. 入院は必要?治療方針を決める重症度分類

「自分は入院が必要なのだろうか?」と心配になる方も多いでしょう。医師が外来治療でよいか、入院治療が必要かを判断する際には、経験則だけでなく、世界的に用いられている客観的な指標を参考にしています。その代表的なものに「Eron分類」や、それを改変した「Dundee分類」があります1920。これらの分類を理解することで、医師の判断の根拠を知ることができ、治療への納得感にもつながります。

表1:重症度・入院適応の目安(Eron分類に基づく)
クラス(重症度) 特徴 治療の場所の目安
I(軽症) 全身状態は良好で、重い基礎疾患がない。 外来治療(抗菌薬の飲み薬)
II(中等症) 全身状態は良好だが、管理が不十分な基礎疾患(リンパ浮腫、肥満など)がある。または、基礎疾患はないが、発熱など全身的な症状が出ている。 外来治療または短期入院を検討
III(重症) 明らかな全身状態の悪化(意識の変化、頻脈、頻呼吸など)が見られる。または、非常に管理が困難な基礎疾患がある。 入院治療(抗菌薬の点滴)が原則
IV(生命の危機) 敗血症性ショックや壊死性軟部組織感染症など、命に関わる状態。 緊急入院および集中治療・緊急手術

注記: この表はあくまで一般的な目安です。実際の治療方針は、年齢、基礎疾患、症状の進行速度などを考慮し、医師が総合的に判断します。

第4章:再発予防と日常生活の注意 – 最も重要な長期的視点

蜂窩織炎の治療で最も困難な課題の一つが「再発」です。一度治癒しても、根本的な原因が体に残り続ける限り、何度も繰り返してしまう可能性があります。ここでは、辛い再発を防ぐための長期的な視点でのセルフケアを詳しく解説します。

4.1. なぜ再発するのか? – 根本原因の理解

蜂窩織炎が再発しやすい理由は、一度炎症を起こした部位のリンパ管がダメージを受け、むくみ(リンパ浮腫)が残りやすくなるためです。リンパの流れが悪くなると、細菌に対する防御機能が低下し、再び感染を起こしやすい状態が続いてしまうのです9。特に、もともとリンパ浮腫や慢性静脈不全、そして水虫といったリスク因子を持っている方は、その土壌が改善されない限り、再発のリスクと常に隣り合わせになります。患者さんのブログなどでは、「またあの激しい痛みが襲ってくるのではないか」という、絶え間ない不安との戦いが綴られており、その心理的負担は計り知れません10

4.2. 再発を防ぐためのセルフケア大全

再発予防の鍵は、特別な治療法よりも、日々の地道なケアを根気よく続けることにあります。以下の4つのポイントを毎日の習慣にしましょう。

① スキンケア:皮膚のバリア機能を守る

  • 保湿:乾燥した皮膚は、目に見えない細かい亀裂ができやすくなります。入浴後などは、保湿クリームを十分に塗って、皮膚の潤いを保ちましょう。これは最も基本的で重要なケアです。
  • 優しく洗う:体を洗う際に、ナイロンタオルなどでゴシゴシ擦ると、皮膚のバリア機能を担う角質層を傷つけてしまいます。日本のプライマリ・ケアの現場でも、手や柔らかい綿のタオルで、石鹸をよく泡立てて優しく洗うことが推奨されています18

② 傷の管理:細菌の侵入口を作らない

  • 小さな切り傷や擦り傷、虫刺されでも放置せず、すぐに水道水でよく洗浄し、清潔な状態を保ちましょう。必要であれば保護テープなどを貼ります。

③ リスク因子の管理:根本原因を断つ

  • 水虫の完治:症状がなくなったと思っても、白癬菌は皮膚の奥に潜んでいることがあります。医師の指示に従い、根気よく治療を続けてください。
  • 浮腫(むくみ)の管理:リンパ浮腫や静脈瘤のある方は、医師の指導のもとで弾性ストッキングや弾性包帯を正しく着用し、日中のむくみを最小限に抑えましょう。また、定期的に足を高くして休むことも有効です。
  • フットケア:特に糖尿病の方は、毎日自分の足を観察し、傷や色の変化がないかチェックする習慣をつけましょう。爪を切る際は深爪を避け、まっすぐに切るようにします。

④ 免疫力の維持:体の中から強くする

  • バランスの取れた食事、十分な睡眠、適度な運動を心がけ、全身の免疫力を高く保つことが、あらゆる感染症の予防につながります。
  • 肥満は蜂窩織炎の明確なリスク因子です。適切な体重管理も重要な予防策の一つです。

4.3. 再発を繰り返す場合の「予防的抗菌薬」と「お守り薬」

上記のようなセルフケアを徹底しても、年に何度も再発を繰り返してしまう方がいます。そのような場合には、医師との相談の上で、さらに踏み込んだ予防策が検討されることがあります。

一つは「予防的抗菌薬投与」です。これは、感染が起きていない平時から、少量の抗菌薬を長期間(数ヶ月〜数年)にわたって毎日服用し続けることで、細菌の増殖を抑え、発症を予防する方法です。英国のNICE(国立医療技術評価機構)ガイドラインなどでも、年に2回以上の再発を繰り返す患者に対して考慮すべき選択肢として挙げられています15

また、特にリンパ浮腫など基礎疾患を持つ患者さんの間で、日本の臨床現場で時に行われる対応として、「お守り薬(omamori-gusuri)」という考え方があります。これは、再発の初期症状(少し赤くなってきた、痛みが出てきたなど)に気づいた際に、直ちに服用を開始できるよう、抗菌薬を予め処方してもらい、手元に持っておくという方法です10。早期に治療を開始できることで重症化を防げるだけでなく、「いざという時には薬がある」という安心感が、患者さんの心理的負担を大きく軽減する上で重要な役割を果たしています9

ただし、これらの治療法は、耐性菌のリスクや副作用なども考慮する必要があるため、自己判断で決して行うべきではありません。必ず専門医と十分に話し合い、その指導のもとで慎重に進める必要があります。

よくある質問 (FAQ)

Q1. 治療期間はどのくらいですか?

A1. 抗菌薬の投与期間は、一般的に5日から14日間程度です14。重症度や治療への反応によって期間は変わります。症状が改善しても、処方された抗菌薬は必ず最後まで飲み切ることが重要です。腫れや皮膚の赤みが完全に消えるまでには、数週間以上かかることもあります。

Q2. 治療後も腫れや皮膚の色の変化が残っていますが、大丈夫ですか?

A2. はい、蜂窩織炎の強い炎症が治まった後も、むくみ(腫れ)や皮膚の色素沈着(茶色っぽい変色)が数週間から数ヶ月続くことは珍しくありません。これは炎症によってリンパ管などがダメージを受けた影響です。ただし、再び痛みや赤み、熱っぽさが出てくるようであれば再発の可能性があるため、速やかに医師に相談してください。

Q3. 高齢者が特に気をつけるべきことは何ですか?

A3. 高齢者は、糖尿病や血行障害などの基礎疾患を持っていることが多く、皮膚のバリア機能も低下しているため、蜂窩織炎になりやすく、また重症化しやすい傾向があります。症状の訴えがはっきりしないこともあり、発見が遅れるケースも少なくありません。日頃からご家族や介護者が足の状態をよく観察し、小さな変化にも気を配ることが大切です。

Q4. 子供も蜂窩織炎になりますか?

A4. はい、子供も蜂窩織炎になります。子供の場合は、擦り傷や虫刺されの掻き壊しなどから感染することが多いです。特に顔面や首に発症することもあります。子供が急に体の一部を痛がって腫らしている場合は、蜂窩織炎の可能性も考えて小児科や皮膚科を受診してください。

結論

蜂窩織炎は、突然の発症と強い症状で私たちを不安にさせる病気です。しかし、その正体は細菌感染症であり、その原因、症状、そして対処法は科学的にかなり解明されています。この記事を通じて、蜂窩織炎の全体像を理解いただけたことでしょう。

最も重要なメッセージを繰り返します。それは、「危険なサインを見逃さないこと」と「早期に専門家の診断を受けること」です。特に、見た目に不釣り合いなほどの激しい痛みや、急速に広がる赤みは、命に関わる壊死性軟部組織感染症の可能性を示す警告です。ためらわずに救急医療を頼ってください。そして、たとえ典型的な蜂窩織炎であっても、適切な治療と再発予防のための地道なセルフケアが、あなたの健康な未来を守る鍵となります。正しい知識は、不安を安心に変え、あなた自身を守る最も強力な武器です。この記事が、その一助となれば幸いです。

免責事項この記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスに代わるものではありません。健康上の問題や症状がある場合は、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

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