はじめに
日常生活の中で、転倒や軽い衝突などによって皮下に血液が溜まり、いわゆる皮下血腫（日本語でよく「青あざ」「打撲による内出血」などとも呼ばれます）が生じることがあります。多くの場合、これらは自然に消えたり大きな問題を起こさないことが少なくありません。しかし、皮下に血液が溜まり続けて大きく腫れたり、強い痛みを伴う場合や、内臓や頭部など重要な部位に近い場所に発生した場合は、適切に対応しないと危険な状態になるおそれもあります。本稿では、皮下血腫の基本的な仕組みや症状、考えられる原因から、受診の目安や治療法、日常でのセルフケアのポイントまで、幅広く解説します。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
専門家への相談
本稿は、医療機関での診断や治療に代わるものではありません。実際の体調変化や不安がある場合は、必ず医師などの専門家に相談してください。また、皮下血腫に関する内容はベトナムの医療現場で実務経験のあるBác sĩ CKI Nguyễn Thị Lê Hương（Huyết học · Bệnh viện Truyền máu Huyết học Thành phố Hồ Chí Minh）より参照した情報が含まれていますが、あくまでも参考情報です。重度の症状や原因不明の出血が疑われる場合は、日本国内でも速やかに医療機関を受診することが望ましいです。
皮下血腫（いわゆる青あざ）とは何か
皮下血腫とは、皮膚やその下にある組織が何らかの衝撃や外力を受けた際、皮膚自体は破れないものの、内部の毛細血管が破れて血液が染み出し、周囲の組織内に血液が溜まる状態を指します。いわゆる「青あざ」「内出血」と呼ばれることも多く、外側からは色の変化がはっきり見える点が特徴です。血液が組織内に留まると、時間の経過とともに赤紫→青紫→緑がかった色→黄色～茶色、と徐々に色が変わり、最終的には自然に吸収されて消えていくことが多いです。
ただし、一口に皮下血腫といっても、できる部位や原因によっては治療が必要となる場合があります。特に頭部など重要な臓器付近で生じた皮下血腫は、場合によっては迅速な検査や治療が必要になることもあります。
主な症状
皮下血腫では、以下のような症状が現れることが多いとされています。
- 色の変化
最初は赤みを帯びた色ですが、次第に赤紫や青紫、緑黄色、茶色と変化しながら最終的に薄れていきます。これは血液中のヘモグロビンやビリルビンなどが分解される過程によるものです。 - 痛みや腫れ
皮下に血液が溜まることで、その周辺が圧迫されて痛みを感じたり、腫れ上がったりすることがあります。特に外力が強かった場合、打撲時の痛みとあわせて強い圧痛を伴うことも珍しくありません。 - 発熱感（熱感）
内出血を起こした部位が、触れると暖かく感じる場合があります。これは炎症反応の一部であり、体が損傷部位を修復しようと血流を増やすために起こると考えられています。
また、青あざが大きくなっていく、あるいは痛みや腫れが長時間持続する、または悪化しているような場合は、ほかの病気や合併症を疑う必要があるかもしれません。その際は専門家の診察を受けることをおすすめします。
重症化が疑われる場合の目安
通常の青あざであれば、数日から1～2週間程度で自然に消失することが多いですが、下記のような場合は注意が必要です。
- 外傷後の頭部に生じた大きな血腫
頭を強く打った際に起こる頭部皮下血腫は、脳震盪や頭蓋内出血など重大な合併症の可能性があります。特にお子さんが転倒して頭を強打し、嘔吐、ふらつき、意識レベルの変化などが見られる場合は、直ちに医療機関を受診してください。 - 血腫がどんどん大きくなる
静止しているにもかかわらず血腫の範囲や腫れが広がる、痛みが強まるなどがある場合、内部で出血が続いていることが考えられます。 - 原因がはっきりしないが多数のあざが生じる
ぶつけた記憶がないにもかかわらず、身体のあちこちに頻繁に青あざができる場合は、凝固因子や血小板に関する血液疾患（例えば血友病、血小板減少症、あるいは白血病など）の可能性も考えられます。 - 高齢者または慢性疾患のある方
血液をさらさらにする薬を服用している人などは、軽微な外傷でも大きな出血につながりやすいことが知られています。
なぜ皮下血腫ができるのか（原因）
皮下血腫（青あざ）の発生要因は多岐にわたりますが、主な原因は以下の通りです。
- 外傷や衝撃
スポーツ中の接触や転倒、交通事故など、日常での衝撃が直接の原因になることが最も多いです。 - 抗凝固薬（血液を固まりにくくする薬）
アスピリン、ワルファリン、クロピドグレルなどを服用している場合、軽い衝撃でも皮下に出血が生じやすくなります。 - 放射線治療や化学療法
がん治療などで体内の血球生成や凝固機能が低下していると、わずかな刺激でも血管が破れやすくなることがあります。 - 凝固因子の異常や血液疾患
肝硬変、血小板減少症、血友病、ビタミンK欠乏などは血液凝固のメカニズムに影響を及ぼし、青あざができやすくなります。 - 自己免疫性疾患など
ループスやリウマチなどの自己免疫性疾患は血管や凝固系に影響し、出血傾向が強まる場合があります。また、まれにコンパートメント症候群という深刻な合併症が起きることもあります。
どのように診断するのか
基本的には、皮下血腫の診断は問診と視診、触診から始まります。具体的には、いつ・どのように外力が加わったか、痛みや腫れの程度、症状の経過などを確認します。そのうえで必要に応じて以下のような検査が行われます。
- 血液検査（CBC、凝固検査）
血小板数や凝固因子（INRやプロトロンビン時間など）を確認し、出血傾向の有無や程度を評価します。 - 骨髄検査
血液疾患が疑われる場合に実施されることがあります。 - 画像検査（X線、CT、MRI など）
骨折や内部の損傷、深部の大きな血腫をチェックするために活用されます。特に頭部外傷ではCTやMRIが重要です。
なお、2022年に国際的な査読付き医学誌Cureusで発表されたシステマティックレビュー（Banda UWら、2022、doi:10.7759/cureus.31771）では、外傷性皮下血腫の診断・治療に関する複数研究を総合的に検討し、血腫の大きさ・深さや圧迫症状の有無などから、画像検査の使用を検討すべきとの推奨が示されています。日本でも画像診断技術は広く普及しており、深部組織や頭部周辺の血腫の有無をより正確に把握できるため、重症例や疑いがある場合は早期の画像検査が有用と考えられています。
皮下血腫の治療方法
治療の基本方針
皮下血腫の治療は、その部位や原因、そして症状の重さによって大きく異なります。多くの場合、軽症の青あざは自然に吸収されて治癒しますが、以下のようなケースでは専門的な対応が必要です。
- 大きな血腫が急速に拡大している
体内で出血が持続している可能性があるため、止血処置や外科的な処置が検討されます。 - 頭部の血腫で神経症状が疑われる
頭蓋内出血や脳圧亢進など、重大な合併症に進展する恐れがある場合、緊急手術を含む集中治療が必要です。 - 薬剤性による血腫
血液を固まりにくくする薬が原因の場合、薬の種類や投与量の調整が行われることがあります。
自宅でできるケア
比較的軽度の打撲による皮下血腫で、日常生活に支障がない場合には、以下のセルフケアが有効です。
- 安静を保つ
血腫の部位を動かしすぎると痛みや腫れが悪化する場合があります。無理せず適度に休みましょう。 - 患部を冷やす
怪我直後から1～2日程度は、1回あたり15分以内を目安にアイスパックや氷などをタオルに包んで冷やします。これは炎症や腫れ、痛みを抑える効果が期待できます。 - 2日以上経過してから温める
怪我直後を過ぎて炎症のピークが過ぎると、温めることで血行を促進し、回復を早めることが期待できます。 - 固定・圧迫
弾性包帯や柔らかいガーゼを使って患部を軽く圧迫することで、出血や腫れを抑える一助になります。 - 患部を心臓より高い位置にする
横になるときや座るとき、患部が心臓より高くなるようにクッションなどで支えると、血液の鬱滞を防ぎ、腫れや痛みを軽減できます。 - 市販の鎮痛薬の使用
強い痛みがある場合は、アセトアミノフェン（パラセタモール）などの一般的な鎮痛薬を医師や薬剤師に相談のうえで使用してもよいでしょう。
こうした対処を行っていても、痛みが激化したり血腫が拡大し続けたりする場合は、自己判断をせずに医療機関を受診してください。
子どもの転倒と頭部の皮下血腫
子どもの場合、活動量が多く、まだ身体のコントロールが未熟なため、転倒や打撲は日常的に起こり得ます。しかし、特に頭部に外力が加わり、血腫ができたり意識がはっきりしなかったり、嘔吐や過度の眠気、ふらつきなどの症状が見られる場合は要注意です。日本国内でも、小児頭部外傷は緊急度の高い症例とみなされることが多く、専門家による画像検査（CTなど）や神経学的評価が必要になるケースがあります。
子どもの場合、本人が痛みや異常を十分に言葉で説明できないこともあり、保護者が小さな変化を見逃さないように観察することが重要です。万が一、意識状態に変化があったり、頻繁に嘔吐したり、様子がおかしいと感じたら、すぐに救急外来を受診しましょう。
日常生活で気をつけること
皮下血腫を予防したり、症状の進行を防いだりするためには、日常生活の中で次のような点に注意するとよいでしょう。
- 転倒や衝突を防ぐ生活環境づくり
玄関や廊下に物を置かない、階段や浴室で滑らない工夫をするなど、安全対策を意識することが重要です。 - 適度な運動と体重管理
筋肉量が低下すると転倒や怪我のリスクが高まります。ウォーキングや軽いストレッチなど無理のない運動を習慣化するのがおすすめです。また、肥満気味の場合も関節や骨に負担がかかりやすいため、適正体重を保つよう心がけましょう。 - 医師の指示のもと薬を管理する
抗凝固薬や抗血小板薬を服用している場合は、定期的に検査を受け、必要に応じて投与量を調整してもらいましょう。 - 偏った食生活の見直し
ビタミンKなど血液凝固に関わる栄養素を含む食品の不足は、出血傾向を高める可能性があります。バランスのとれた食事を意識するとともに、サプリメントを利用する場合は医師に相談すると安心です。
参考文献
- Bruises （アクセス日: 2022年11月19日）
- Easy bruising: Why does it happen? （アクセス日: 2022年11月19日）
- Bleeding into the skin （アクセス日: 2022年11月19日）
- Ecchymosis What Is It, Causes, Symptoms, and More （アクセス日: 2022年11月19日）
- Trẻ bị ngã tụ máu dưới da đầu （アクセス日: 2021年9月30日）
- Traumatic subcutaneous haematoma causing skin necrosis （アクセス日: 2023年12月25日）
- Bleeding into the skin （アクセス日: 2023年12月25日）
- Banda UW, Slothus T, De Gabriele K, et al. (2022). “Traumatic Subcutaneous Hematoma: A Systematic Review and Proposed Algorithmic Approach.” Cureus, 14(11), e31771. doi: 10.7759/cureus.31771
おわりに（推奨事項・注意点）
ここまで解説してきたように、皮下血腫（いわゆる青あざ）は多くの場合、自然に治癒しますが、頭部に生じた大きな血腫や原因不明の多数のあざ、拡大する腫れなどがある場合は、重症化を疑う必要があります。早期に医療機関へ相談し、適切な検査や治療を受けることが大切です。また、凝固因子の異常や血液疾患などの背景がある場合は、あざができやすくなるだけでなく、出血傾向そのものがリスク要因となります。専門の医師と連携して治療計画を進めるのが望ましいでしょう。
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、医療上のアドバイスや診断を行うものではありません。痛みの持続や腫れの拡大など、気になる症状があるときは必ず医療機関を受診し、医師の判断を仰いでください。