血友病とは?原因から最新治療、日本の医療・福祉制度まで徹底解説
血液疾患

血友病とは?原因から最新治療、日本の医療・福祉制度まで徹底解説

血友病は、血液が正常に固まるために必要な「凝固因子」と呼ばれるタンパク質が不足している、あるいは働きが悪いことによって出血が止まりにくくなる遺伝性の病気です1。この記事では、JHO(JAPANESEHEALTH.ORG)編集委員会が、血友病の根本的な原因である遺伝の仕組みから、症状、最新の画期的な治療法、そして日本の患者さんとご家族を支える医療・福祉制度に至るまで、現在利用可能な最も信頼性の高い科学的根拠に基づき、包括的かつ深く解説します。特に、ご家族に血友病の既往歴がないにもかかわらず診断を受けた方々の疑問や、女性保因者特有の健康問題、そして日本の高度な周産期管理体制についても、専門的な知見を分かりやすくお伝えし、患者さんとご家族が抱える不安を解消し、希望を持って病気と向き合うための一助となることを目指します。


この記事の科学的根拠

この記事は、入力された研究報告書に明示的に引用されている最高品質の医学的証拠にのみ基づいています。以下に示すリストは、参照された実際の情報源と、提示された医学的指導との直接的な関連性を示したものです。

  • 世界血友病連盟(WFH): 本記事における、出血時補充療法から定期補充療法への移行が重症型血友病の標準治療であるとの指針は、世界血友病連盟が発行したガイドラインに基づいています22
  • 日本産科婦人科学会周産期委員会: 妊娠・出産に関する推奨事項、特に多職種チームによるケアや安全な分娩計画に関する記述は、同学会が2017年に発表した「エキスパートの意見に基づく血友病周産期管理指針」を情報源としています9
  • 日本血栓止血学会: 後天性血友病Aに関する診断・治療の記述は、同学会が発行した「後天性血友病A診療ガイドライン」に基づいています13
  • 日本血液製剤協会(JBPO): 日本国内の専門医療機関に関する情報や、在宅自己注射に関する指導内容は、同協会が提供する情報を参考にしています831

要点まとめ

  • 血友病は主にX連鎖劣性遺伝形式をとる遺伝性疾患ですが、約30%は家族歴のない「突然変異」によって発症します5
  • 女性保因者(キャリア)も月経過多などの出血症状を経験することがあり、妊娠・出産時には日本の詳細な周産期管理指針に基づく専門的ケアが受けられます9
  • 治療法は飛躍的に進歩しており、従来の凝固因子補充療法に加え、皮下注射が可能でインヒビター保有患者にも有効な「非凝固因子製剤治療」19や、一回の投与で長期的な効果が期待される「遺伝子治療」25といった新しい選択肢が登場しています。
  • 日本では、小児慢性特定疾病医療費助成制度や特定疾病療養受療制度など、複数の公的助成制度を組み合わせることで、高額な治療費の自己負担が大幅に軽減されます34
  • 全国の患者会(友の会)は、情報共有、相互支援、サマーキャンプなどの活動を通じて、患者さんとご家族に貴重なコミュニティと支援を提供しています37

血友病の主な原因:遺伝子の役割

血友病の核心は遺伝子にあります。血液を固めるために不可欠なタンパク質、すなわち凝固因子を作るための設計図となる遺伝子に異常があるために発症します。この遺伝子はX染色体上に存在するため、血友病は「X連鎖劣性遺伝」という特徴的な遺伝形式を示します3

X連鎖劣性遺伝とは?

この遺伝形式は、なぜ血友病がほぼ男性にのみ発症するのかを説明します。男性(XY染色体)は母親からX染色体を1本だけ受け継ぎます。もしそのX染色体に血友病の遺伝子異常があれば、他に正常なX染色体がないため発症します。一方、女性(XX染色体)は、片方のX染色体に異常があっても、もう片方の正常なX染色体が十分な凝固因子を産生するため、通常は重い症状を発症せず「保因者(キャリア)」となります1

遺伝のパターンは以下のようになります。

  • 父親が血友病で、母親が保因者でない場合:息子は全員血友病にならず、娘は全員保因者となります7
  • 父親が血友病でなく、母親が保因者の場合:息子が血友病になる確率は50%、娘が保因者になる確率は50%です7

家族歴がなくても発症する「突然変異」

極めて重要でありながら、しばしば誤解されがちな点として、血友病症例の約30%は、家族内に血友病の人がいなくても発症する「突然変異(de novo変異)」によるものであるという事実があります58。これは、受精卵が形成される過程で、遺伝子に新たな変化が自然に起こる現象です。

この情報は、家族歴がないにもかかわらず診断を受けたご家族にとって、計り知れない価値を持ちます。「なぜ私たちの家族に?」という深い問いや、潜在的な罪悪感に対し、これは誰のせいでもなく、誰にでも起こりうる生物学的な現象であるという明確で非難のない説明を与えてくれます。この記事では、突然変異が血友病の確立された発症経路の一つであることを強調し、ご家族の心の負担を和らげる一助となることを目指します。


女性保因者(キャリア)の方へ:知っておくべきこと

歴史的に、血友病の女性保因者は無症状であると考えられてきました。しかし、近年の知見では、これが必ずしも真実ではないことが示されています。一部の保因者は、月経の量が異常に多い「過多月経」、手術や抜歯後の止血困難、稀には関節内出血といった出血症状を経験することがあります15。「保因者」という言葉自体が重要な概念であり、これらの女性は病気の遺伝子を持ち、子孫に伝える可能性があることを意味します7

この問題の重要性は、日本の2017年版「血友病周産期管理指針」でも強調されています9。この指針は、保因者である母親のケアに特別な注意を払っており、妊娠中の凝固因子レベルのモニタリングや、母子双方のリスクを最小限に抑えるための分娩計画などが含まれています。保因者の症状に関するデータと、日本の詳細な周産期ガイドラインの存在は、「無症状の遺伝子伝達者」から「特有の出血傾向と生殖医療ニーズを持つ可能性のある患者」へと、認識を転換する必要があることを示唆しています。

ご自身が保因者である可能性があり、出血傾向にお悩みの場合や、妊娠・出産を考えている場合は、遺伝カウンセリングや凝固因子レベルの検査を受けることが極めて重要です。


血友病の種類と関連疾患

血友病は、どの凝固因子が不足しているかによって主に2つのタイプに分類されます。最も一般的なのは、全症例の約80~85%を占める血友病A(凝固第VIII因子欠乏)であり、次に血友病B(凝固第IX因子欠乏)が続きます26。2021年の日本の統計によると、血友病Aの患者数は5,657人、血友病Bは1,252人と報告されています11

これらの典型的な血友病と、他の出血性疾患とを区別することは、正確な診断と治療のために不可欠です。例えば、フォン・ヴィレブランド病(von Willebrand disease, VWD)や、遺伝形式が異なる血友病C(第XI因子欠乏)などがあります3。さらに、遺伝性ではない後天性血友病も重要です。これは自己免疫疾患の一種で、体内で自身の凝固因子(主に第VIII因子)に対する抗体(インヒビター)が作られてしまう病気で、高齢者に突然発症することが多いです1。日本には、この後天性血友病Aに特化した診療ガイドラインも存在します13

以下の表は、これらの疾患の主な違いをまとめたものです。

表1:主な出血性疾患の比較概要
特徴 血友病A 血友病B フォン・ヴィレブランド病 後天性血友病A
不足する凝固因子 第VIII因子 (FVIII)10 第IX因子 (FIX)3 フォン・ヴィレブランド因子 (vWF)12 第VIII因子に対する自己抗体1
遺伝形式 X連鎖劣性遺伝3 X連鎖劣性遺伝3 主に常染色体優性遺伝12 遺伝しない13
主な発症性別 ほぼ男性のみ1 ほぼ男性のみ3 男女両方12 男女両方、高齢者に多い13
日本での患者数(目安) 5,657人 (2021年)11 1,252人 (2021年)11 血友病より多い 指定難病として289人 (2019年)14
主な特徴 最も一般的なタイプ6 A型より稀3 最も一般的な遺伝性出血性疾患12 高齢者に突然発症13

症状と重症度

血友病の症状は、血液中に残っている凝固因子の活動レベル(凝固因子活性)によって大きく異なります。重症度は一般的に以下のように分類されます10

  • 重症(凝固因子活性 <1%):明らかな原因なく出血が起こる「自然出血」が特徴です。特に関節(膝、足首、肘)や筋肉内での出血が多く、幼少期から始まることがあります110
  • 中等症(凝固因子活性 1-5%):スポーツでの打撲など、比較的軽い外傷の後に出血することが多いです3
  • 軽症(凝固因子活性 >5%):大きな怪我や手術、抜歯などではじめて出血が問題となることがあります1

一般的な徴候と症状には、原因不明の大きな深いあざ、切り傷や手術後の長引く出血、鼻血、血尿・血便、関節の痛み・腫れ・こわばりなどが含まれます16。乳児では、原因不明のぐずりがサインである可能性もあります1

特に注意すべき合併症

血友病の管理において特に重要な合併症がいくつかあります。

  • 血友病性関節症:最も深刻な長期的合併症です。関節内での出血を繰り返すことで慢性的な炎症(慢性滑膜炎)が起こり、軟骨や骨が破壊され、関節の変形、痛み、機能障害(関節拘縮)につながります1。現代の予防的治療は、この関節症を防ぐことを最大の目的の一つとしています18
  • インヒビター(中和抗体):治療のために補充した凝固因子に対して、体の免疫系が「異物」と認識して攻撃する抗体(インヒビター)ができてしまうことがあります。これは治療を非常に難しくする深刻な合併症です1
  • 頭蓋内出血(脳出血):稀ではありますが、生命を脅かす最も危険な合併症です。特に重症の患者さんでは注意が必要です1

救急受診の目安

以下のような症状が見られる場合は、頭蓋内出血など生命に関わる重篤な出血の可能性があるため、直ちに救急医療機関を受診してください1

  • 激しい頭痛、持続する嘔吐、けいれん、意識の変化
  • 首の痛みやこわばり
  • 急激な関節の腫れと激しい痛み
  • コントロールできない出血

診断までの流れ

血友病の診断プロセスは、通常、症状や家族歴に基づく臨床的な疑いから始まります10。確定診断のためには、以下の段階的な検査が行われます。

  1. 臨床的な疑い:乳幼児期の自然出血や、家族に血友病患者がいることなどから疑われます。
  2. 初回の血液検査:まず、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)などのスクリーニング検査が行われます。血友病ではAPTTが延長することが多いです10
  3. 確定診断のための検査:次に、第VIII因子と第IX因子の凝固因子活性を直接測定する専門的な検査を行い、血友病のタイプ(AかBか)と重症度を確定します10
  4. 遺伝子検査:原因となっている遺伝子変異を特定するために行われます。これは診断の確定だけでなく、女性の保因者診断や、将来の家族計画において極めて重要な情報となります10

妊娠・出産を考えている方へ:日本の周産期管理

保因者の方やそのご家族にとって、妊娠・出産は大きな関心事です。日本では、世界的に見ても非常に高い水準の「血友病周産期管理指針(2017年版)」が整備されており、母子の安全を確保するための詳細な体制が整っています9。将来親となる方々にとって、このような保護的な枠組みが存在することを知ることは、大きな安心材料となるでしょう。

日本の指針が推奨する主な安心・安全対策は以下の通りです9

  • 多職種チームによるケア:産科医、小児科医、血液内科医などが連携し、妊娠中から出産、産後まで一貫してサポートします。
  • 安全な分娩計画:胎児が血友病である可能性を考慮し、鉗子分娩や吸引分娩など、出血リスクの高い方法は可能な限り避ける計画を立てます。母親の凝固因子レベルも厳密に管理されます。
  • 迅速な新生児診断:出生後すぐに臍帯血(へその緒の血液)を用いて凝固因子活性を測定し、迅速に診断を確定します。
  • 安全な予防接種:血友病の新生児へのワクチン接種は、筋肉内出血のリスクを避けるため、皮下注射で行われます。

これらの具体的な対策は、未知への恐怖を、計画的で管理可能なプロセスへと変えてくれます。日本において、保因者の方々が安心して子どもを産み育てるための明確で安全な道筋が存在することを示しています。


血友病の最新治療法

血友病の治療は、ここ数十年で劇的に進化しました。かつては生命を脅かし、重い身体障害を引き起こす病でしたが、現在では多くの患者さんが健常者と変わらない生活を送ることが可能になっています17。ここでは、治療の基本から最先端の治療法までを解説します。

治療の基本:凝固因子補充療法

現代の治療の根幹をなすのが、不足している凝固因子を静脈注射によって補充する「補充療法」です18。これには二つの主要なアプローチがあります。

  • 定期補充療法:出血が起こるのを「予防」するため、週に数回、定期的に凝固因子製剤を注射する方法です。世界血友病連盟(WFH)なども推奨する現在の標準治療であり、特に関節症などの長期的合併症を防ぐ上で最も効果的です1822
  • 出血時補充療法:出血が起こった「後」に、止血のために注射する方法です。軽症の患者さんや、定期補充療法が困難な状況で選択されることがあります。

在宅自己注射(家庭治療)

日本の血友病治療における重要な要素が「在宅自己注射」です15。患者さん自身やご家族が、医療機関でトレーニングを受けた上で、自宅で凝固因子製剤の注射を行います。これにより、出血時に迅速な治療が可能になるだけでなく、定期補充療法を継続しやすくなり、生活の質(QOL)が大幅に向上します。

出血時の応急処置:RICE(ライス)療法

関節などに出血が起きた際の初期対応として、RICE療法が重要です19。これは、Rest(安静)、Ice(冷却)、Compression(圧迫)、Elevation(挙上)の頭文字をとったもので、痛みや腫れを和らげ、出血を最小限に抑えるのに役立ちます15

新しい選択肢:非凝固因子製剤治療

近年の最も大きな革新の一つが、「非凝固因子製剤」の登場です。代表的な薬剤が、二重特異性モノクローナル抗体であるエミシズマブ(製品名:ヘムライブラ®)です19

この薬剤は、不足している第VIII因子を補充するのではなく、その「働きを模倣」します。具体的には、第IXa因子と第X因子という二つの凝固因子を結びつけ、止血反応を進める橋渡しの役割を果たします19。患者さんにとっての主な利点は以下の通りです。

  • 皮下注射:従来の静脈注射ではなく、皮下注射で投与できます。
  • 投与頻度の減少:効果の持続時間が長いため、週に1回、2週間に1回、あるいは4週間に1回の投与で済みます。
  • インヒビター保有患者にも有効:第VIII因子に対するインヒビターを持つ患者さんにも効果を発揮します1922

この他にも、血液を固まりにくくする体内の物質(抗凝固因子)の働きを抑えることで、相対的に血液を固まりやすくする「リバランス療法」と呼ばれる新しいアプローチの薬剤も開発が進んでいます24

治療の未来:遺伝子治療

血友病治療における最も革命的な進歩が「遺伝子治療」です。これは、患者さん自身の体が不足している凝固因子を自律的に産生できるようにすることを目指す、潜在的な「一回限りの治療法」です25

この治療では、無害化されたウイルス(アデノ随伴ウイルスベクター、AAV)を運び屋として利用し、正常な凝固因子遺伝子(F8またはF9遺伝子)のコピーを患者さんの肝細胞に届けます21。これにより、肝臓が凝固因子を製造する工場へと変わります。
すでに米国食品医薬品局(FDA)によって、重症血友病Aに対するバレムノゲーン ロキサパルボベク(製品名:ロクテビアン®)(2023年6月承認)と、血友病Bに対するエトラナコジェン デザパルボベク(製品名:ヘムジェニクス®)(2022年11月承認)が承認されています21

ただし、期待と現実を正しく理解することが重要です。遺伝子治療は大きな希望をもたらしますが、以下のような課題や限界も存在します。

遺伝子治療に関する主な質問

どのように行われるのですか?

一回限りの静脈内への点滴投与によって行われます27

誰が対象になりますか?

現在のところ、重症の成人患者が主な対象です。また、運び屋となるAAVベクターに対する既存の抗体がないかなど、事前の適格性評価が必要です21

リスクは何ですか?

肝機能への影響、効果の個人差、長期的な安全性については、まだ研究が続けられています26

永続的な治療法ですか?

長期的な凝固因子発現を目指しますが、その持続期間についてはまだ研究段階です26

修正された遺伝子を子どもに遺伝させますか?

いいえ。この治療は体細胞(肝細胞)の遺伝子を変えるものであり、精子や卵子といった生殖細胞系列のDNAは変化させないため、子どもには遺伝しません27

遺伝子治療は、血友病ケアの未来を大きく変える可能性を秘めていますが、現時点ではその恩恵を受けられる患者さんは限られており、専門家との十分な相談が不可欠です。

以下の表は、現代の主要な治療選択肢をまとめたものです。

表2:現代の血友病治療選択肢の概要
治療法 作用機序 投与方法 主な対象 主な特徴・注意点
凝固因子補充療法 不足している凝固因子を直接補充する18 静脈注射 (IV)18 血友病A/B 定期補充が標準。在宅自己注射が可能15
非凝固因子製剤治療 第VIII因子の機能を模倣する19 皮下注射19 血友病A (インヒビター保有者含む) 投与頻度が少ない。インヒビターに有効19
遺伝子治療 機能的な凝固因子遺伝子を体内に導入する25 一回限りの静脈注射 (IV)21 重症の成人血友病A/B 長期的な因子産生を目指す。適格性評価が必要26

日本の患者さんのための生活・支援ガイド

病気そのものを理解することと同じくらい、日本で患者として生活していく上での具体的な情報を知ることは重要です。ここでは、専門医療機関の見つけ方から、経済的支援、そしてコミュニティとの繋がりまで、実践的なガイドを提供します。

専門医療機関を見つける

血友病の治療は高度に専門化されており、全国の特定の病院やセンターに集約されています29。これらの「包括的医療センター」では、血液内科医、小児科医、整形外科医、看護師、理学療法士、臨床心理士など、多職種の専門家がチームとなって包括的なケアを提供します20

専門的な治療は日本全国で利用可能です。信頼できる治療センターや指定された血友病専門医のリストは、一般社団法人日本血液製剤協会(JBPO)などの機関によって維持管理されています。お近くのセンターを見つけるには、これらの団体のウェブサイトを参照するのが最も確実です31

医療費助成制度について

血友病の治療は非常に高額になる可能性がありますが、日本では手厚い公的助成制度が整備されており、これらを組み合わせることで、患者さんの自己負担はほとんど、あるいは全くなくなります3334。しかし、制度は複雑で、年齢などによって利用できるものが異なります。

特に、先天性血友病は国の「指定難病」には該当しませんが33、別の手厚い助成制度の対象となります。一方で、後天性血友病Aは指定難病として扱われ、異なる助成制度が適用されます35

経済的な負担は患者さんにとって大きな不安の一つです。この複雑な制度を解き明かし、明確な道筋を示すことは、その不安を和らげる上で非常に価値があります。以下は、先天性血友病の患者さんが利用できる主な制度の概要です。

表3:先天性血友病に対する日本の医療費助成制度ガイド
年齢 利用する制度 自己負担額(月額上限) 申請窓口
20歳未満 1. 医療保険 費用の2〜3割
2. 特定疾病療養受療制度 1万円 加入している医療保険の保険者34
3. 小児慢性特定疾病医療費助成制度 実質0円に お住まいの地域の保健所33
20歳以上 1. 医療保険 費用の1〜3割
2. 特定疾病療養受療制度 1万円 加入している医療保険の保険者34
3. 先天性血液凝固因子障害等治療研究事業 実質0円に お住まいの地域の保健所34

注意:後天性血友病Aは「指定難病医療費助成制度」の対象となります36。詳しくは保健所にご相談ください。

患者会とのつながり

日本には、地域ごと、また全国規模の血友病患者会(通称「友の会」)のネットワークが存在します37。これらの団体は、新たに診断された患者さんやそのご家族が孤立感を抱えることなく、同じ境遇の仲間と繋がるための貴重な場を提供しています。

友の会は、情報交換、相互支援、サマーキャンプや医療講演会の開催、そして政府や医療機関への要望を伝えるアドボカシー(政策提言)活動など、多岐にわたる活動を行っています37。コミュニティと繋がることは、病気と共に生きる上での大きな力となります。

表4:日本の主な血友病患者支援団体
組織名 連絡先情報(代表者など) ウェブサイト 主な活動
ヘモフィリア友の会全国ネットワーク 会長:松本 剛史 氏38 hemophilia-japan.org39 全国組織の連携、情報提供、政策提言39
むさしの会(武蔵野ヘモフィリア友の会) 荻窪病院内40 (メールアドレス等が公開)40 荻窪病院の患者さん中心の活動32
神奈川ヘモフィリア友の会「新生会」 代表:高橋 邦尚 氏38 shinyukai1987.web.fc2.com40 地域の医療講演会、交流イベントなど40

注:全国各地に友の会があります。全リストは「ヘモフィリア友の会全国ネットワーク」のウェブサイトなどで確認できます38


よくある質問

遺伝子治療を受ければ、血友病は完全に治りますか?

遺伝子治療は「機能的な治癒」を目指すものであり、一回の治療で長期間にわたり患者さん自身の体が凝固因子を作り続ける状態を目標とします25。しかし、現時点ではその効果が永久に続くかどうかはまだ研究段階であり、「完治」という言葉は慎重に使われます26。また、すべての患者さんが治療の対象となるわけではありません。

女性の保因者ですが、自分も治療が必要ですか?

多くの保因者は無症状ですが、一部の方は過多月経や手術後の止血困難など、治療を必要とする出血症状を経験します1。凝固因子活性が低い場合は、男性患者と同様の治療アプローチが取られることもあります。気になる症状があれば、血友病の専門医に相談することが重要です。

治療費が非常に高額だと聞きましたが、支払うことができますか?

ご安心ください。日本では、複数の公的な医療費助成制度が利用できます。これらを組み合わせることで、血友病の治療にかかる自己負担額は月額1万円、あるいはそれ以下に抑えられ、多くの場合は実質的にゼロになります34。詳しい手続きについては、お住まいの地域の保健所や、加入している医療保険の保険者にご相談ください。

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インヒビターができてしまったら、もう治療法はないのでしょうか?

いいえ、インヒビターができてしまっても治療法はあります。従来は、インヒビターを迂回して止血作用を発揮する「バイパス製剤」が使われてきました10。近年では、インヒビターの有無にかかわらず効果を発揮するエミシズマブ(ヘムライブラ®)のような非凝固因子製剤が登場し、治療の選択肢が大きく広がりました22。インヒビターをなくすための免疫寛容導入療法(ITI)という治療法もあります。


結論

血友病は、かつてのイメージとは大きく異なり、その理解と治療法は革命的な進歩を遂げています。遺伝の仕組みという根源的な原因から、関節症を防ぐための定期補充療法、そして皮下注射や遺伝子治療といった最先端の選択肢まで、治療のパラダイムは大きく変化しました。これにより、血友病患者さんはより豊かで活動的な人生を送ることが可能になっています。

さらに重要なのは、日本には世界でも有数の手厚い医療・福祉制度と、患者さんを支える強力なコミュニティが存在するということです。専門的な医療へのアクセス、経済的負担をほぼゼロにする公的助成、そして経験を分かち合う仲間たちの存在は、病と共に生きる上での大きな支えとなります。この記事が、血友病と診断された方々、ご家族、そして支援するすべての方々にとって、正確な知識を得るための一助となり、未来への希望を灯す光となることを、JHO編集委員会一同、心より願っています。

免責事項この記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスを構成するものではありません。健康上の懸念がある場合や、ご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

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