血小板減少症とは? 危険な血小板数の基準とは?
血液疾患

血小板減少症とは? 危険な血小板数の基準とは?

はじめに

血液は大きく分けて白血球・赤血球・血小板の3つの成分から構成されており、その中でも血小板は傷ができたときに血を固める重要な役割を担っています。しかし、何らかの理由で血小板の数が基準値よりも少なくなると、止血機能が十分に働かず、思わぬ出血リスクを引き起こす可能性があります。本記事では、血小板が基準値よりも低い状態、いわゆる「血小板減少症(減少性血小板)」について、医学的背景・原因・症状・診断・治療や生活上の注意点を詳しく解説します。

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当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。

この記事は、病院などでの検査・治療を置き換えるものではありません。実際に心配な症状がある場合は、必ず医療機関で専門家の診断・指導を受けてください。

専門家への相談

本記事の内容は、多数の医療関連文献や信頼できる国内外の研究データを基にまとめております。また、病院等の現場で血液学を専門とする医師の臨床知見や、血液学・免疫学の学会誌における近年の報告も参考にしています。たとえば、免疫性血小板減少症に関する最新の治療情報は、国際的にも権威ある学術誌であるNew England Journal of Medicineをはじめとした医学誌の研究(後述参照)を下敷きにしており、読者が安心して理解を深められる内容となるよう努めています。


血小板減少症とは何か

血小板の役割と基準値

血小板は、血管が傷ついた際にいち早く損傷部位へ集まり、血栓(血のかたまり)を形成して出血を止める働きを持ちます。成人で通常、血小板の数は1マイクロリットルあたり15万〜45万個程度が標準的範囲とされます。

血小板が15万個未満になると「血小板減少症」と診断されますが、この状態は以下のような段階に分けられます。

  • 軽度の血小板減少:10万1000〜14万個/μL
  • 中等度の血小板減少:5万1000〜10万個/μL
  • 重度の血小板減少:5万1000〜2万1000個/μL

これらの数値のうち、特に著しく低下した重度の血小板減少では、体内の止血機構が十分に機能しなくなるリスクが高まり、深刻な出血トラブルを引き起こす可能性があります。

どのくらい減少すると危険なのか

血小板数が1万個/μL以下にまで落ち込むと、消化管出血や脳出血などの重篤な出血が起こりやすくなり、命に関わる状態になることがあります。まれではありますが、脳出血に至った場合には救急対応が遅れると致命的な転帰をたどるリスクがあります。また、血小板が極端に減少していると血液循環に異常をきたし、心筋梗塞を引き起こすこともあるため注意が必要です。


血小板減少症の症状

血小板数の軽度の低下であれば、自覚症状がほとんどないか、あるいはごくわずかな出血傾向しか認められない場合が多くあります。しかし、より顕著に血小板が減少している場合は、以下の症状に注意が必要です。

  • 皮下出血によるあざ(紫斑)ができやすい、または広範囲にできる
    正常なら軽微な衝撃ではあざになりにくいところ、血小板減少によりわずかな打撲でも大きなあざが生じたり、治りづらかったりすることがあります。
  • 点状出血(点状の赤紫色斑)
    毛細血管が皮下で破れ、紫色または赤色の非常に小さな発疹のように見えます。特に下肢に多く現れやすいとされています。
  • 切り傷などが止血しにくい、出血しやすい
    血小板が十分に働けないため、少しの傷でも出血が長引くことがあります。
  • 歯茎や鼻からの出血が止まりにくい
    同様に止血力が弱まるため、鼻血や歯茎の出血が続きやすい傾向があります。
  • 尿・便に血が混じる、吐血がある
    体の内部でも出血が起こりやすく、血尿や血便、吐血がみられるケースも存在します。
  • 月経過多(女性の場合)
    月経量が異常に増える、あるいは月経期間が延びるなどの異常出血がみられる場合があります。
  • 疲労感、倦怠感
    実際には血小板減少に伴う強い貧血が併発していない限り、倦怠感が著しくなることは少ないですが、出血や血行動態の変化の影響で全身のだるさを感じることがあります。
  • 脾臓の腫大(脾腫)
    脾臓に血小板が過剰に貯留してしまう場合は、脾臓が肥大し、左上腹部の違和感を訴えるケースもあります。

いつ受診すべきか

下記のような明らかな出血傾向がある場合は、できるだけ早く医療機関を受診することが推奨されます。

  • 便や尿、吐物に血が混じっている
  • 出血がなかなか止まらない、もしくは少しの刺激でも容易に出血が再発する
  • 強い頭痛、吐き気・嘔吐、極度の倦怠感、原因不明のあざや発疹が短期間に増えた
  • 生理や外傷などで出血が著しく増加している

特に、指圧など基本的な方法で止血できないほどの出血がある場合は、救急を要する重篤な状態である可能性があります。


血小板減少を引き起こす主な原因

血小板減少を招く原因は多岐にわたります。大まかに、(1)脾臓への血小板の過剰な隔離、(2)骨髄での血小板産生低下、(3)何らかの要因による血小板破壊・消費亢進の3つに分類されます。

1. 脾臓の肥大による血小板の貯留

通常、脾臓は全血小板の約4分の1を貯留する働きをもっています。しかし、脾臓が何らかの疾患により肥大した場合(たとえば肝硬変などの門脈圧亢進症で脾臓が大きくなるなど)、過剰に血小板がとどまってしまい、末梢血中の血小板数が減少します。

2. 骨髄での血小板産生低下

血小板は骨髄に存在する巨核球という細胞から産生されます。1つの血小板の寿命はおよそ10日ほどといわれ、常に骨髄で新たに生み出されているのですが、下記のような理由で産生そのものが阻害されると血小板減少が起こります。

  • 白血病などの血液腫瘍
    がん化した異常細胞が骨髄を占拠し、正常な血小板産生が減少する。
  • 貧血やその他の血液疾患
    骨髄の機能全体が低下することで血小板産生も減少。
  • ウイルス感染(肝炎ウイルスやHIVなど)
    ウイルスが骨髄や免疫系を傷害し、血小板産生を阻害。
  • 抗がん剤や放射線療法
    骨髄細胞を損傷するため、血小板を含む血球系全体の産生が落ちる。
  • 過度のアルコール摂取
    アルコールの代謝によって骨髄機能が抑制され、血小板生成が一時的または慢性的に低下する。

3. 血小板の破壊・消費亢進が原因の場合

何らかの免疫反応や疾患により、末梢血中を流れる血小板が過剰に消費・破壊されてしまい、産生量と消費量のバランスが崩れることがあります。

  • 妊娠
    妊娠末期に軽度の血小板減少が生じるケースは約5%ほどあるといわれますが、出産後には改善することが多いです。
  • 自己免疫性血小板減少(免疫性血小板減少症)
    免疫システムが何らかのきっかけで血小板を異物と認識して破壊するものです。膠原病(ループス、リウマチなど)が誘因となる場合もあります。原因がはっきりしない場合には「特発性血小板減少性紫斑病(ITP)」と呼ばれ、特に小児や若年者にも起こりうる点が特徴です。
  • 重度の感染症(敗血症など)
    細菌やウイルスが全身にまわり、血小板が消費されてしまうケースです。
  • 血栓性血小板減少性紫斑病
    体内のあちこちで微小血栓が多発し、血小板が大量に使われる比較的まれな疾患です。即時の医療対応が必要となるケースが多いです。
  • 溶血性尿毒症症候群(HUS)
    重度の溶血性貧血や腎不全を併発する疾患で、血小板も急激に消費されます。
  • 薬剤によるもの
    抗凝固薬のヘパリン、抗けいれん薬、キニーネなど一部の薬剤が免疫反応を変化させ、血小板が破壊されやすくなることがあります。

血小板減少症の診断方法

「血小板が少ないかもしれない」と医師が疑った場合、まずは身体所見と問診をおこないます。続いて、以下のような検査が実施されることが一般的です。

血液検査

  • 血球計算(CBC)
    血中の赤血球・白血球・血小板の数を計測します。ここで血小板数が15万個/μLを下回る場合は血小板減少症と判断できます。
  • 血小板に対する自己抗体検査
    免疫異常で血小板が破壊されていないか調べます。
  • 凝固機能検査(PT, aPTT など)
    凝固時間が延長していないか、血液の凝固因子に問題がないかを確認します。

画像検査(超音波検査 など)

脾臓が肥大していないかを確認するため、腹部超音波検査が行われる場合があります。左上腹部に位置する脾臓の大きさや構造異常を評価し、血小板の貯留リスクを探ります。

骨髄検査(穿刺・生検)

骨髄の造血機能に問題があると考えられる場合には、骨髄穿刺や生検によって巨核球の数や形態、またほかの血液細胞の状態を詳細に調べます。たとえば白血病や骨髄異形成症候群など、造血細胞に重大な異常があるかどうかを確かめるために有用です。


治療方法と対処法

血小板減少は原因や重症度によって大きく治療方針が異なります。ごく軽度の血小板減少であれば、特別な治療をせず経過観察のみで済む場合もあります。しかし、重度に至り出血リスクが高い場合は、早急な医療的対応が不可欠です。

原因疾患への対処

  • 原因となる薬剤の中止・変更
    服用中の薬が血小板減少に関与していると判明した場合は、可能なら医師の判断で代替薬剤へ切り替えたり、減量したりします。
  • 妊娠関連
    妊娠末期に軽度の血小板減少がみられる場合、原則的に出産後は改善することが多いとされています。ただし、大幅に減少している際は注意深く経過を見守りながら、必要であれば投薬を検討する場合があります。
  • アルコールの制限
    過度の飲酒が原因であれば断酒または飲酒量を大幅に制限することが勧められます。

重度・中等度の血小板減少への治療

  • ステロイド投与
    自己免疫による血小板破壊が疑われる場合には、免疫抑制効果をもつステロイド薬を使い、血小板が破壊されるのを抑える方法が一般的です。
  • 免疫グロブリン静注療法
    急速に血小板数を上げたい場合や、自己抗体による破壊が強い場合には免疫グロブリン製剤の点滴静注が選択されることがあります。
  • 血小板輸血
    大量出血や危険域まで血小板が減少している際に行われます。ただし、基礎疾患によっては輸血だけでは十分な効果が得られないことも多く、根本治療と併用する必要があります。
  • 脾臓摘出術
    脾臓が大きく肥大し、多量の血小板がとどまっている場合、あるいは自己免疫性で脾臓内で血小板が破壊されていると考えられる場合には、脾臓の摘出が検討される場合があります。
  • 血漿交換療法
    血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)のように血小板消費が急激に進む重症例では、血漿交換によって異常な抗体や凝固因子を除去し、再発を防ぐ治療を行うことがあります。

生活上の注意点

  • 出血リスクを回避する行動
    コンタクトスポーツ(サッカー、ラグビー、バスケットボールなど)のように接触や衝突の多い運動は避けることが勧められます。また、転倒の危険が大きい高所作業などには十分注意が必要です。
  • 出血を引き起こしやすい習慣を見直す
    アルコール摂取量を抑える、刺激性の高い薬剤(アスピリンや一部の鎮痛薬など)を必要以上に使用しないといった工夫が大切です。
  • 健康的な食事
    緑黄色野菜や果物を中心にバランスよく栄養を摂取することが推奨されます。血小板減少を根本的に改善する特効的な食事法は確立されていないものの、全身の免疫機能や造血作用をサポートするうえで、野菜や適切なたんぱく質の摂取は重要とされています。
  • 医師との定期的な連携
    たとえ軽度の血小板減少でも、血液検査での数値変動を把握しておくことが将来のリスク管理に役立ちます。少なくとも半年〜1年に1回程度は血液検査を受けるなど、計画的なフォローアップをおすすめします。

血小板減少症と予後

「血小板減少症は治るのか」「寿命や生活への影響はどうか」と不安になる方も少なくありません。実際、原因が一時的なものであれば、薬や生活習慣の見直しだけで改善するケースもあり、特に大きなリスクとならない場合も多々あります。

たとえば妊娠性の血小板減少は、出産後に自然回復することが期待できます。また、ある特定の薬剤が原因であれば、その薬剤を中止あるいは変更すると改善が見込めます。一方で、骨髄の悪性腫瘍や重度の免疫異常に起因する血小板減少では、長期的な治療や管理が必要となり、状態によっては生活の質(QOL)の低下に注意しなければならないケースもあります。


血小板減少症の予防

血小板減少は、原因によっては予防が難しい場合もある一方で、日常的な注意によってリスクを低減できることもあります。

  • 外傷や衝撃を避ける
    スポーツだけでなく日常の家事、仕事中の事故などにも注意し、ケガを最小限に防ぎます。
  • アルコールの過剰摂取を避ける
    アルコールは骨髄を抑制し、血小板産生を減少させる可能性があるため、摂取量を控えることは有効です。
  • 食事に注意
    ビタミンやミネラルを十分に含む多様な食材をバランスよく摂るよう心がけます。一部の人工甘味料(アスパルテーム)やキニーネを含むドリンク(清涼飲料など)に敏感な方がいる可能性も指摘されるため、状況によっては医師へ相談しましょう。
  • 定期検診を受ける
    血液検査などで早めに異常を見つけることで、深刻化する前に対処できます。

近年の研究動向と新たな治療の可能性

血小板減少症、とくに自己免疫性のもの(ITPなど)をめぐっては、近年新しい治療薬や治療法が次々と報告されています。たとえば免疫調節薬のEfgartigimodが免疫性血小板減少に対して有用であるとする研究が、2023年にNew England Journal of Medicineで公表されました。この研究(Kuterら、2023年、doi:10.1056/NEJMoa2211427)は、多施設共同のプラセボ対照試験の結果をまとめたもので、Efgartigimod投与群では血小板数の改善率と出血症状の減少が有意に良好だったとされています。ただし、長期的な安全性や再発率などはさらなる検証が必要とされています。

日本においても、厚生労働省や学会によるガイドラインの改訂が継続的に行われており、今後さらに治療選択肢が広がる可能性があります。治療法が増えるということは、患者さん一人ひとりの状態や原因に合わせた個別化医療が期待できるという点で非常に心強いことといえます。


おすすめの生活習慣上の工夫

血小板減少であっても普段の生活がまったく送れなくなるわけではありません。ただし、出血リスクへの備えと、身体全体の健康維持を兼ねて、以下のような対策・工夫を考慮すると良いでしょう。

  • 軽い運動習慣を続ける
    ウォーキングなどの適度な有酸素運動は、血行を促進して体力を維持するうえで有効です。ただし転倒や強い衝撃に注意することが大切です。
  • 十分な睡眠とストレス管理
    ストレスや睡眠不足は免疫バランスの乱れを引き起こしやすいとされ、血液細胞の産生や働きに悪影響を及ぼす恐れがあります。
  • こまめな定期検査
    血液検査だけでなく、全身のコンディションを把握するために定期的な健康診断を活用します。血小板に限らず、貧血やコレステロールなどほかの数値も合わせて確認し、総合的な健康管理を行いましょう。
  • 過度のダイエットは避ける
    栄養バランスを欠いた食事制限は、造血機能に不可欠な栄養素を不足させ、血小板数の回復を妨げるおそれがあります。

結論と提言

血小板減少症は、軽度であれば自覚症状がほとんどなく、日常生活に大きく支障をきたさないケースも珍しくありません。一方で、数が大幅に減少すると出血リスクが高まり、時には命に関わる事態を招く可能性があります。原因は脾臓の肥大や骨髄での産生障害、自己免疫反応など多岐にわたり、対策や治療法もそれぞれ異なります。

もし出血傾向や謎のあざ、皮膚の点状出血がある場合は、早めに医師の診察を受け、血小板数をチェックすることが重要です。治療が必要かどうかは重症度や原因病態によって判断され、適切な時期に適切な治療を行うことで、重篤化を防ぐことが期待できます。

そして、予防や悪化の回避を含め、日常生活の中でできる工夫(アルコール摂取の制限、栄養バランスの良い食事、無理のない運動習慣など)を心がけることで、血小板減少にともなうリスクを大きく下げることが可能です。また、近年は免疫調節薬など新たな治療選択肢が登場しており、患者さん一人ひとりの状況に合った個別化医療も進歩しつつあります。


医療上のアドバイスに関する免責事項

本記事で紹介した内容は、血小板減少症に関する医学的な基礎知識や生活のヒントをまとめたものであり、あくまでも参考情報です。個々の症状や原因、病態は人によって異なるため、具体的な診断や治療方針の決定には、必ず医師または医療の専門家と相談してください。また、すでに医療機関で診断や治療を受けている方は、主治医の指示を最優先にお考えください。


参考文献

上記の文献や研究は、いずれも国際的に広く受け入れられている信頼性の高い情報源から引用しておりますが、読む時期や地域によって推奨が変わる可能性もあります。常に最新のガイドラインや主治医の意見を参考にして判断いただくことをおすすめします。

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