はじめに
こんにちは、JHOです。今回取り上げるテーマは、血栓塞栓症という状態です。血栓塞栓症とは、血流中に現れる血栓や気泡などの異物によって血管が詰まり、正常な血液循環が妨げられる病態を指します。この状態は、一見すると自分とは無関係に感じるかもしれませんが、実際は誰にとっても避けられないリスクと言えます。血液は全身をめぐり、脳、心臓、肺など生命維持に欠かせない臓器へ酸素や栄養素を供給しています。そのため、血管が閉塞されると、その先にある組織は正常な機能を保てなくなり、深刻な損傷を被る可能性があります。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
なぜこのトピックが重要なのかといえば、血栓塞栓症は突然発生し、重篤な合併症につながる場合があるからです。多くの方々が日常生活の中で気づかぬうちにリスク要因を蓄積していることもあり、特に高齢者や長時間座ったままの仕事をする方、生活習慣が偏りがちな方には知っておいてほしい問題です。本記事では、原因や症状、診断・治療法から予防策まで、より専門的な内容も交えつつ、初めて耳にする方でもわかりやすいように丁寧に解説します。ぜひ最後までご覧いただき、日々の生活習慣の中で意識してみてください。
専門家への相談
この記事の執筆にあたり、ベトナムにある Bac Ninh General Hospital に所属し、内科分野で豊富な臨床経験を持つ Dr. Nguyen Thuong Hanh 氏に協力いただきました。実臨床に基づく知見は、患者さんを多数診療してきた経験から得られるものであり、非常に貴重です。また、本記事の内容は、信頼性の高い情報源として広く活用されている NHS や Healthgrades、Britannica などの国際的医療情報をもとに精査しています。こうした専門家と公的医療機関の知見を組み合わせることで、読者の皆様に安心感を持って読み進めていただけるよう努めています。
血栓塞栓症とは何か?
血栓塞栓症とは、血液の流れに乗って運ばれた血栓や気泡、脂肪、コレステロール、羊水などが血管をふさぎ、臓器や組織への血流を遮断する病態です。その結果、重要な臓器(脳、心臓、肺、網膜など)に十分な酸素や栄養が行き届かなくなり、組織損傷や臓器不全へと進展する可能性があります。
具体的な症例としては、次のようなものがあります。
- 脳卒中: 脳の血管が血栓で詰まることによって脳細胞への血流が途絶し、突然の片麻痺や言語障害など深刻な後遺症が残る恐れがあります。早期発見と即時の医療対応が極めて重要です。
- 肺塞栓症: 血栓が肺動脈を塞ぎ、血液が酸素を取り込む過程を阻害します。呼吸困難や胸痛、場合によっては命に関わる事態を引き起こすため、非常に危険な症例と言えます。
その他にも、網膜血栓塞栓症では網膜に血液が行き渡らなくなり、視力低下や失明を招くことがあります。また、ダイビング後の急浮上で生じる気体塞栓など、特定の環境下で起こるケースも少なくありません。こうした様々な状況で血栓塞栓症が発生する可能性があるからこそ、誰しもが自分や身近な人のリスクとして知識を備えておくことが大切です。
症状
血栓塞栓症による症状は、「どの部位の血管が詰まるか」によって大きく異なります。たとえば、脳の血管が閉塞して起こる脳卒中(脳梗塞など)では、以下のような症状が代表的です。
- 顔の片側が垂れ下がる
- 片腕がうまく上がらない、動きが鈍い
- 言葉が出にくい、ろれつが回らない
これらの症状を見つけたら、できるだけ早く医療機関に連絡する必要があります。発見が遅れると後遺症が残るリスクが高まるため、一刻を争う対応が求められます。
一方で、肺塞栓症が起こると、鋭い胸痛や呼吸困難、動悸、不整脈などの症状が目立ちます。日常生活を送るのが困難になるほど急激かつ重度な呼吸器症状や循環器症状が出る場合もあり、こちらも早期の対応が鍵となります。
さらに、深部静脈血栓症(DVT)が生じていた場合、血栓の一部が肺に流れ込む経路をたどることがあります。その際、下肢には特有の兆候が見られることも少なくありません。代表的なものとしては、下記が挙げられます。
- 片足のみの痛みや腫れ、特にふくらはぎ周辺の強い違和感
- 痛みのある部位を触ると熱を帯びている
- 血流障害による皮膚の赤み
下肢に生じるこれらの症状は、血液の循環が停滞し、炎症が起こっている可能性を示唆します。ダイバーの方は潜水後にこうした異常を感じたら、ただちに休息を取り、必要なら医療専門家の意見を仰ぐべきです。また、日常生活を送る一般の方でも、似たような兆候を自覚した際は、早めに専門医に相談してください。
原因
血栓塞栓症は、血液の流れに「異物」が入り込む、あるいは血管内でそれが形成されることで起こります。代表的な原因を挙げると以下のとおりです。
- 血栓: 血小板などが固まって塊を作ることで、本来は出血を止める防御反応として働きます。しかし、生活習慣病や血管の損傷などで血栓が過剰に作られると、正常な血流を遮断する大きなリスク要因となります。
- 脂肪: 長い骨(大腿骨など)が折れた際、骨髄から脂肪成分が血流に入り込むことがあります。外傷が重度な場合に発生しやすい特殊要因です。
- 気泡: ダイビング後の急浮上で体内に気泡が生じ、血管を塞ぐケースがあります。減圧症に関連してよく知られたリスクですが、適切な浮上手順を守らないと大きな事故に直結します。
- コレステロール: 動脈硬化によって血管壁にプラークが形成され、そこからコレステロール片が剥離して血流に入り込むことがあります。心臓や脳などの重要な血管を詰まらせる可能性があり危険です。
- 羊水: 非常に稀ではあるものの、出産時に羊水が母体の血流へ流れ込み、循環障害を引き起こす症例が報告されています。
これらの要因が血管を物理的にふさいでしまい、血行動態に深刻な乱れをもたらします。原因物質の種類が違えば大きさや性質、流れ着く先の血管も変わるため、発症のタイミングや重症度のパターンにも多様性が生まれます。
リスク要因
特定の要因がある場合、血栓塞栓症になるリスクはさらに高まります。
- 肥満(体重指数30以上): 体脂肪が多いほど血管に負担がかかりやすく、高血圧や脂質異常症を併発しやすいため、血栓形成のリスクが増します。
- 妊娠中: 妊娠に伴う血液量の増加やホルモンバランスの変化により、血液が凝固しやすい状態になることが知られています。特に出産直後はさらに注意が必要です。
- 60歳以上: 加齢で血管の弾力性が低下し、動脈硬化が進むほか、運動量が減ることで血流が滞りやすくなります。
- 喫煙: タバコの有害物質が血管内皮を損傷し、血栓形成を促進する一因となります。
- 心疾患: 心臓のポンプ機能が低下する不整脈や心房細動があると、血液の流れが乱れ、血栓ができやすくなります。
- 長時間動かない生活習慣: デスクワークや長時間の移動で同じ姿勢を保つことが多い場合、特に下肢の血流が停滞し、血栓が形成されやすくなります。
生活習慣や年齢、体質や職業などから生じるこれらの要因を把握しておくと、自身に当てはまるリスクを早期に認識し、予防策を講じやすくなります。
診断と治療
血栓塞栓症が疑われる場合、医療機関では問診や身体所見、各種の検査が行われます。主な検査手法としては次のようなものがあります。
- X線撮影: 骨折の有無や著しい構造異常をチェックします。
- CTスキャン: 脳や肺などの臓器を詳細に撮影し、血管の閉塞部位や損傷範囲を正確に把握できます。
- 血管造影: 造影剤を血管内に注入し、リアルタイムで血管の形状や詰まり具合を観察する方法です。より詳細な診断が必要な場合に有効です。
- ドップラー超音波: 非侵襲的な手法で、血流速度や血管壁の異常などを確認できます。下肢深部静脈血栓の診断などによく用いられます。
治療方法
治療は患者の症状や原因、重症度によって異なります。一般的には、以下のアプローチが考えられます。
- 手術的治療: 塞栓物が明確に取り除ける範囲であれば、外科的に排除することで症状の改善を図ります。
- 抗凝固薬: 血液が凝固しにくくなるよう働く薬剤(ワルファリンやダビガトランなど)が投与され、新たな血栓の形成や既存血栓の拡大を抑制します。
- 高圧酸素療法: 気体塞栓のケースでは、高圧環境下で酸素を供給することで体内の気泡を圧縮・溶解し、血流から取り除きます。
選択される治療法は、基礎疾患や全身状態、発症部位などを総合的に評価した上で決定されるため、一律ではありません。治療後のリハビリテーションや生活指導が重要になることもあり、長期的なフォローアップが必要な場合もあります。
なお、血栓塞栓症に関しては近年、多角的な治療や予防手段の研究が進んでいます。たとえば、2022年にNew England Journal of Medicineで発表された研究(Weitz JI, Bauersachs R, Becker B, Freitas R, ほか, 2022, 巻386, 2497-2507, doi:10.1056/NEJMoa2201459)では、要因となる凝固カスケードの上流を抑制する新しい経口薬の有用性が示唆されており、将来的には血栓予防の幅がさらに広がる可能性が指摘されています。こうした研究成果も含め、個々の患者に最適化された治療が行われるようになりつつあります。
予防
血栓塞栓症を完全に防ぐことは難しい場合もありますが、日頃の習慣を見直すことでリスクを大幅に下げることは十分に可能です。以下のような予防策を意識してみましょう。
- 栄養バランスの確保
脂肪分を過度に摂取せず、食物繊維が豊富な全粒穀物、果物、野菜を積極的に摂ることが重要です。血液の粘度を正常に保ち、血管内皮の機能をサポートするとされます。伝統的な和食では、野菜の煮物や発酵食品などが多用されており、日常の食卓に取り入れやすい特徴があります。 - 塩分制限
1日6グラム以下を目標にし、塩分摂取を抑えることで血圧の上昇を防ぎます。味噌汁や漬物などは塩分濃度が高くなりやすいため、減塩タイプを選択する、あるいは調味料を工夫するなどして対策を講じることが可能です。 - 適正体重の維持
肥満が血栓塞栓症のリスクを高めることは明らかです。有酸素運動(ウォーキングや軽いジョギング)や筋力トレーニングを定期的に行い、適切な摂取カロリーを守ることで体重をコントロールしましょう。週150分程度の運動が心血管系リスクの低減に有益とされています。 - 長時間同じ姿勢を避ける
デスクワークや長距離移動の際も、定期的に立ち上がりストレッチをする、膝や足首を動かすなど、小まめに血流を促すことが有効です。とくに飛行機などで座りっぱなしになる場合は、途中で簡単な足踏みやふくらはぎのマッサージをするだけでも下肢の静脈血栓形成を予防できます。
こうした日常的な取り組みはどれも大きな負担を伴わず、生活習慣として取り入れやすいのが特徴です。さらに、定期的な健康診断を受けたり、医師のアドバイスに従って血液検査を行ったりすることで、リスクや早期兆候をいち早く把握できるようになります。
結論と提言
血栓塞栓症は、私たちの体が常に直面している潜在的なリスクでありながら、適切な知識と対策を行えば、重篤化を防ぐことが十分可能な病態です。生活習慣の見直しや、軽度な症状の段階で医療機関を受診するなど、小さな心がけが将来の深刻な合併症を遠ざけてくれます。具体的には以下の点を意識すると良いでしょう。
- 定期的に血圧や血中脂質、血糖値をチェックし、異常があれば医師の診断を仰ぐ。
- 運動習慣を取り入れ、適正体重を維持することで血流を良好に保つ。
- 食事は塩分と脂質を控えめにし、野菜や果物、全粒穀物を積極的に摂取する。
- 長時間の座位や同じ姿勢を避け、こまめにストレッチやウォーキングを行う。
万一、脳卒中や肺塞栓症を疑うような症状が突然現れた場合は、可能な限り速やかに医療機関を受診してください。こうした迅速な行動が、後遺症を最小限にとどめ、回復を早める大きな要因となります。
注意事項と医師への相談
本記事で紹介した内容は、信頼できる専門家や国際的に評価の高い医療機関の知見をもとに執筆されたものですが、あくまで一般的な情報提供を目的としています。個々の症状や体質、既往歴によって最適な治療方法や予防法は異なりますので、具体的な診断や治療を受けたい場合は、必ず医師や薬剤師などの有資格の専門家にご相談ください。
「自己判断で放置してしまった結果、重症化してしまう」というシナリオは決して珍しい話ではありません。特に血栓塞栓症は、突発的に重大な合併症を招く可能性があるため、異常を感じたときは早めに受診することが大切です。少しでも不安を覚えたら遠慮なく専門家へ相談し、日頃から生活習慣を整えることでリスクを抑えるように心がけましょう。
- この記事の情報は公的機関や専門家の知見をもとに作成されていますが、あくまでも一般的な情報提供です。個々の状況に応じた治療・指導は医師の診断が必要です。
- 血栓塞栓症は早期対応が重要であり、自己判断を避けて医療機関のアドバイスを積極的に活用してください。
参考文献
- Embolism – NHS(アクセス日: 26/02/2020)
- Embolism – Healthgrades(アクセス日: 26/02/2020)
- Embolism – Britannica(アクセス日: 26/02/2020)
- Weitz JI, Bauersachs R, Becker B, Freitas R, ほか. 「Oral Factor XIa Inhibition to Prevent Venous Thromboembolism」. N Engl J Med. 2022;386(26):2497-2507. doi:10.1056/NEJMoa2201459