【科学的根拠に基づく・2025年最新版】血液型と新型コロナの全貌:日本人における感染・重症化リスクの科学的真実
感染症

【科学的根拠に基づく・2025年最新版】血液型と新型コロナの全貌:日本人における感染・重症化リスクの科学的真実

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが始まって以来、「特定の血液型の人は感染しやすい、あるいは重症化しやすい」という説は、私たちの間で絶えず関心の的となってきました。多くの情報が錯綜し、「A型は危険」「O型は安全」といった断片的な知識は広まりましたが、その科学的根拠や、特に私たち日本人における真のリスクについては、明確な結論を得られずに不安を感じていた方も少なくないでしょう。JAPANESEHEALTH.ORG編集委員会は、その疑問に終止符を打つべく、本記事を執筆しました。本稿では、2025年時点までの世界中の最新研究と、日本の研究機関による極めて重要な知見を統合し、血液型とCOVID-19の関連性について、現在科学的に言えることの「すべて」を、そのメカニズムに至るまで徹底的に、そして分かりやすく解説します。これは、あなたの疑問に対する最終回答となることを目指す、決定版の医学解説です。

この記事の科学的根拠

本記事は、入力された研究報告書に明示的に引用されている、最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下に、参照された実際の情報源と、提示された医学的指導との直接的な関連性をリストアップします。

  • Japan COVID-19 Task Force(中鉢正太郎医師ら): 本記事における「日本人集団ではAB型が最重症化の独立した危険因子である」という核心的な指摘は、この研究機関が発表した日本人コホート研究に基づいています1
  • Ellinghaus D. らによるゲノムワイド関連解析(NEJM誌): 「A型は重症化リスクが高く、O型は低い」という世界的な基本傾向に関する記述は、この画期的な大規模遺伝子研究を主要な根拠としています2
  • Pairo-Castineira E. らによる研究(ATVB誌): 「非O型の血液型がCOVID-19による血栓症リスクを増大させる」というメカニズムの解説は、重症COVID-19が冠動脈疾患と同等のリスクをもたらすことを示したこの2024年の最新研究に基づいています3
  • Soriano JB. らによる縦断研究: 「血液型とコロナ後遺症(Long COVID)の発症リスクに有意な関連はない」という結論は、この大規模な観察研究の結果を引用しています4

要点まとめ

  • 世界的な研究では、A型の人は新型コロナへの感染リスクがやや高く、O型の人はやや低い傾向が一貫して示されています。
  • 【日本人における最重要知見】日本の大規模研究により、AB型の人は高流量酸素療法や人工呼吸器装着、死亡を含む「最重症化」に至るリスクが、O型の人に比べて統計的に有意に高い(調整オッズ比1.84倍)ことが判明しました。
  • 血液型によるリスク差の背景には、①ウイルスに対する自然抗体の働き、②血液の固まりやすさ(血栓症リスク)に関わる因子の違い、③ウイルスと細胞の直接的な結合しやすさ、という3つの科学的メカニ-ズムが考えられています。
  • 現時点の研究では、血液型とコロナ後遺症(Long COVID)の発症リスクとの間に明確な関連は見つかっていません。
  • 血液型によるリスク差は存在するものの、年齢、基礎疾患の有無、ワクチン接種歴といった要因の方が重症化への影響は遥かに大きいため、血液型に関わらず基本的な感染対策を徹底することが最も重要です。

世界的コンセンサス:「A型は感染しやすく、O型はしにくい」は本当か?

パンデミック初期から、世界中の研究者が血液型と新型コロナウイルス感染症の関連性に着目してきました。その結果、一貫して見出されてきたのが「A型は感染・重症化リスクが比較的高く、O型は保護的に働く」という傾向です。この議論の科学的基盤を築いたのは、2020年に権威ある医学誌『The New England Journal of Medicine』に発表された、画期的なゲノムワイド関連解析(GWAS)です2。この研究は、呼吸不全を伴う重症COVID-19患者約1,900人の遺伝情報を解析し、ABO血液型を決定する遺伝子領域が重症化と強く関連していることを突き止めました。具体的には、A型血液を持つ人はO型の人に比べて重症化リスクが1.45倍高く、逆にO型の人はリスクが0.65倍と低いことが示されたのです2

この発見は、その後の多くの研究によって裏付けられました。例えば、2022年に発表された複数の研究を統合したシステマティック・レビューおよびメタアナリシスでは、SARS-CoV-2への感染リスクにおいて、O型と比較した場合のオッズ比(かかりやすさの指標)は、A型で1.29倍、B型で1.15倍、AB型で1.32倍と、いずれも統計的に有意に高いことが確認されています5。これらの大規模な国際的研究から、「A型はリスク増、O型はリスク減」という傾向は、世界的なコンセンサスと見なされています。


【本記事の核心】日本人における特有のリスク:AB型と「最重症化」の関連性

世界的な傾向が明らかになる一方で、私たちにとって最も重要なのは「日本人ではどうなのか?」という問いです。この問いに決定的な答えを示したのが、慶應義塾大学の中鉢正太郎(ちゅうばち しょうたろう)医師らが主導する、日本の多施設共同研究プロジェクト「Japan COVID-19 Task Force」による大規模な研究です16

この研究グループは、日本人COVID-19患者約2,400人のデータを詳細に解析しました。その結果、まず世界的な傾向と同様に、A型の遺伝子を持つ人はO型の人に比べて感染リスクが高いことが確認されました。しかし、この研究がもたらした最も衝撃的かつ重要な発見は、重症化に関する日本人特有の傾向でした。

分析によると、高流量酸素療法、人工呼吸器装着、あるいは死亡に至った「最重症」例に限定して解析したところ、AB型の血液を持つ人が、最も重症化リスクが高い独立した因子であることが明らかになったのです。年齢や性別、基礎疾患といった他のリスク要因の影響を統計的に調整した後の調整オッズ比(aOR)は、O型と比較して1.84倍と、顕著に高い値を示しました17。これは、世界的な研究で主にA型のリスクが注目されてきた中で、日本人集団においてはAB型が最も警戒すべき重症化リスク因子である可能性を示唆する、極めて価値の高い知見です。


なぜ血液型で差が生まれるのか?科学が解き明かす3つの有力なメカニズム

では、なぜ血液型という遺伝的な違いが、ウイルス感染症への反応に影響を与えるのでしょうか。その背景には、複数の生物学的なメカニズムが複雑に関与していると考えられています。現在、科学的に有力視されている3つの仮説を解説します。

メカニズム1:体内の「自然抗体」による防御壁

私たちの体内には、自分の血液型とは異なる抗原に対する「自然抗体」が存在します。具体的には、O型とB型の人はA型抗原に対する「抗A抗体」を、O型とA型の人はB型抗原に対する「抗B抗体」を持っています。一方で、A型の人は抗B抗体のみ、B型の人は抗A抗体のみ、AB型の人はどちらの抗体も持っていません。SARS-CoV-2ウイルスが感染者の細胞(特に気道の上皮細胞)で増殖して放出される際、その細胞表面にあるA型やB型の糖鎖抗原をまとってしまうことがあります。ウイルスがこの「A型様の偽装」をした場合、血中に豊富な抗A抗体を持つO型やB型の人の体内では、この抗体がウイルスに結合して無力化し、ウイルスが次の細胞に感染するのを防いでいるのではないか、という仮説です。これは、O型が保護的に働く一因を説明する有力な考え方です。

メカニズム2:血液の固まりやすさ(血栓症リスク)の違い

COVID-19の重篤な合併症として、血管内に血の塊(血栓)ができる血栓症が知られています。そして、血液の固まりやすさには血液型が深く関与しています。具体的には、非O型(A型、B型、AB型)の人は、血液凝固に重要な役割を果たす「フォン・ヴィレブランド因子(vWF)」と「第VIII因子」の血中濃度が、O型の人に比べて元々25%ほど高いことが知られています。これが、COVID-19によって引き起こされる過剰な炎症と相まって、非O型の人々における血栓症のリスクを高める一因となっている可能性が指摘されています。

この関連性を裏付ける衝撃的な研究が、2024年に米国心臓協会の専門誌『Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology』に発表されました。この研究によると、重症のCOVID-19で入院した非O型血液型の患者は、その後の心筋梗塞や脳卒中といった血栓性イベントを発症するリスクが、O型患者と比較して1.65倍に上昇し、そのリスクレベルは「既存の冠動脈疾患を持つこととほぼ同等」であると結論づけられています38。日本静脈学会や厚生労働省関連の診療指針でも、COVID-19における血栓症予防の重要性が指摘されており9、このメカニズムは臨床的にも極めて重要です。

メカニズム3:ウイルスと細胞の「直接結合」における相性

もう一つの興味深いメカニズムは、ウイルス自体と細胞表面のA型抗原との直接的な親和性です。2023年に血液学のトップジャーナル『Blood』に掲載された研究では、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質が、呼吸器系の細胞表面に存在するA型抗原に対して、他の血液型抗原よりも優先的に結合することが実験的に証明されました10。重要なことに、この結合のしやすさは、パンデミック後期に主流となったオミクロン株を含む複数の変異株でも確認されており、A型の人々が感染しやすい傾向にあることを分子レベルで説明する強力な証拠となっています。


新たな疑問:コロナ後遺症(Long COVID)との関連は?

感染後の長期的な影響として懸念されるコロナ後遺症(Long COVID)と血液型の間に関連はあるのでしょうか。多くの人が抱くこの疑問に対し、現在の科学は明確な答えを提示しつつあります。2023年に発表された、約1万人を対象とした大規模な縦断研究によると、ABO血液型とLong COVIDの発症リスクとの間に、統計的に有意な関連は見出されなかったと報告されています411。つまり、現時点の科学的根拠に基づけば、特定の血液型だからといってコロナ後遺症になりやすい、あるいはなりにくいということはない、と結論づけることができます。


科学的な視点:全ての研究結果が一致しているわけではない

本記事では、多くの大規模研究で示された主要な傾向を中心に解説してきましたが、科学の世界では常に多様な視点が存在します。究極の信頼性を期すため、全ての研究が同じ結論に達しているわけではないことにも触れておく必要があります。例えば、フランスの空母内で発生した集団感染の調査など、一部の研究では血液型と感染リスクの間に明確な関連が見出されなかった、あるいはその影響は非常に小さいと結論付けられたものも存在します。これは、研究の対象となる集団の特性や環境、流行したウイルスの種類など、様々な要因が影響するためと考えられます。科学的真実の探求は、こうした一見矛盾するような結果も含めて総合的に解釈することで、より確かなものになっていくのです。


よくある質問

Q1: 私はAB型です。日本人で最も重症化リスクが高いと聞いて非常に不安です。

A: まず落ち着いてください。日本人集団においてAB型が「相対リスク」として最も高いというデータは事実ですが1、これは運命を決定づけるものでは決してありません。COVID-19の重症化における「絶対リスク」は、年齢、肥満、糖尿病などの基礎疾患の有無、そして何よりもワクチン接種歴といった要因に遥かに大きく左右されます。血液型は数あるリスク因子の一つに過ぎず、その影響度は限定的です。ご自身の血液型を知ることは重要ですが、過度に恐れることなく、ワクチン接種や基本的な感染対策を徹底することが、ご自身を守る上で最も確実で効果的な方法です。

Q2: O型なので、もうマスクは不要ですか?油断しても大丈夫でしょうか?

A: いいえ、決して油断してはいけません。O型が持つ保護的な効果は、あくまで「部分的」かつ「相対的」なものであり、感染を100%防ぐものではありません5。O型の人も当然ウイルスに感染しますし、重症化する可能性も、無症状のまま他人に感染させてしまう可能性も十分にあります。統計的なリスクのわずかな差に安心するのではなく、血液型に関わらず、全ての方が等しく感染対策を継続することが、社会全体を守る上で不可欠です。

Q3: この血液型の情報は、ワクチン接種の必要性に影響しますか?

A: 全く影響しません。むしろ、ワクチンの重要性を再確認するものです。ワクチン接種による感染予防、特に重症化や死亡を予防する効果は、科学的に明確に証明されており、その効果は血液型によるわずかなリスクの差を遥かに凌駕します。ご自身の血液型が何であれ、利用可能なワクチンを接種し、推奨される追加接種を受けることが、ご自身と大切な人々をCOVID-19の脅威から守るための最も強力な手段であることに変わりはありません。

結論

本記事で詳述してきたように、血液型と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の間には、科学的に無視できない関連性が存在します。世界的にはA型のリスク増とO型の保護的効果が、そして特に日本人集団においてはAB型の最重症化リスクという重要な知見が明らかになりました1。しかし、これらの情報を前にして私たちが心に留めるべき最も重要なことは、この関連性が持つ意味を正しく理解し、過度に恐れたり油断したりしないことです。

大阪大学大学院の忽那賢志(くつな さとし)教授のような多くの専門家が繰り返し強調しているように12、COVID-19の重症化を左右する最大の要因は、依然として高齢、基礎疾患の有無、そしてワクチン接種歴です。血液型は興味深い科学的知見ではありますが、その影響はこれらの主要なリスク因子と比較すれば限定的です。したがって、私たちが取るべき最善の行動は、自らの血液型に一喜一憂することなく、科学的根拠に基づいた普遍的な予防策、すなわちワクチン接種、適切な換気、そして手指衛生を、誰もが例外なく実践し続けることです。それが、自分自身と社会全体を守るための、最も確実な道筋なのです。

免責事項本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的助言を構成するものではありません。健康に関する懸念や、ご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

  1. Chubachi S, Kusumoto T, Omae Y, et al. Association between ABO blood group/genotype and COVID-19 in a Japanese population. J Infect Chemother. 2023;29(11):1118-1124. doi:10.1016/j.jiac.2023.07.013. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37581712/
  2. Ellinghaus D, Degenhardt F, Bujanda L, et al. Genomewide Association Study of Severe Covid-19 with Respiratory Failure. N Engl J Med. 2020;383(16):1522-1534. doi:10.1056/NEJMoa2020283. Available from: https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2020283
  3. Pairo-Castineira E, Rawlik K, Bretherick AD, et al. COVID-19 Is a Coronary Artery Disease Risk Equivalent and Exhibits a Genetic Interaction With ABO Blood Type. Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2024;44(11):2310-2321. doi:10.1161/ATVBAHA.124.321001. Available from: https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/ATVBAHA.124.321001
  4. Soriano JB, Pelayo-García I, Llordés M, et al. ABO blood group as a determinant of COVID-19 and Long COVID: An observational, longitudinal, large study. PLoS One. 2023;18(6):e0286769. doi:10.1371/journal.pone.0286769. Available from: https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0286769
  5. Balaouras G, Kriebardis AG, Papageorgiou A, et al. Systematic review and meta-analysis of the effect of ABO blood group on the risk of SARS-CoV-2 infection. PLoS One. 2022;17(8):e0271451. doi:10.1371/journal.pone.0271451. Available from: https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0271451
  6. コロナ制圧タスクフォース. Japan COVID-19 Task Force [インターネット]. [引用日: 2025年7月23日]. Available from: https://www.covid19-taskforce.jp/
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  8. American Heart Association Journals. COVID-19 Is a Coronary Artery Disease Risk Equivalent and Exhibits a Genetic Interaction With ABO Blood Type. Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology [インターネット]. 2024 [引用日: 2025年7月23日]. Available from: https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/ATVBAHA.124.321001
  9. 日本循環器学会. 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)における血栓症予防および抗凝固療法の診療指針 [インターネット]. 2022 [引用日: 2025年7月23日]. Available from: https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2022/06/JCS_notice_20220627_1.pdf
  10. Stowell SR, Girard-Pierce K, Hoff P, et al. Blood group A enhances SARS-CoV-2 infection. Blood. 2023;142(8):742-753. doi:10.1182/blood.2023020369. Available from: https://ashpublications.org/blood/article/142/8/742/496471/
  11. ResearchGate. ABO blood group as a determinant of COVID-19 and Long COVID: An observational, longitudinal, large study [インターネット]. 2023 [引用日: 2025年7月23日]. Available from: https://www.researchgate.net/publication/371254181_ABO_blood_group_as_a_determinant_of_COVID-19_and_Long_COVID_An_observational_longitudinal_large_study
  12. researchmap. 忽那 賢志 (Kutsuna Satoshi) – マイポータル [インターネット]. [引用日: 2025年7月23日]. Available from: https://researchmap.jp/kutsunasatoshi
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