はじめに
近年、糖尿病は日本国内でも患者数が増加し、日常生活の中で血糖値を適切に管理することの重要性がますます注目されています。とくに自己測定による血糖値の把握は、治療方針や生活習慣の調整、合併症の予防に大きく寄与します。本記事では、血糖値を測定する最適なタイミングや、その測定結果を活かした日常生活の管理方法、そして血糖値測定時に知っておきたいポイントなどを包括的に解説していきます。加えて、最新の研究や専門家の知見も取り入れながら、読者の方が実践しやすいように具体的な情報を盛り込みました。糖尿病の種類や治療法によって理想的な測定回数や測定時間帯は異なるため、本記事を参考にしつつ、主治医と相談しながら自分に合った測定方法を見つけていただければ幸いです。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
専門家への相談
本記事では、糖尿病や血糖値管理に関して複数の医療機関・専門家からの推奨ガイドラインや研究結果を参照しています。具体的には、American Diabetes Association(アメリカ糖尿病学会)や日本糖尿病学会が提唱する最新のガイドラインおよび国内外の関連研究をもとに内容を補足しています。ただし、これらはあくまでも一般的な推奨事項であり、個々の症状や健康状態によって最適解は異なる場合があります。したがって、自己流で判断するのではなく、必ず主治医などの専門家へご相談ください。
なぜ血糖値を定期的に測定する必要があるのか
糖尿病をはじめとする血糖値の異常は、放置すると合併症を引き起こす可能性が高くなります。具体的には、網膜症・腎症・神経障害のほか、心血管疾患のリスクも増加することが報告されています。そこで、定期的に血糖値を測定する意義として、次のような点が挙げられます。
-
血糖値の変動をリアルタイムで把握できる
食事内容や運動量、服薬状況、ストレスなど、多様な要因によって血糖値は刻々と変化します。測定結果をこまめに追うことで、自分の血糖値がどのように変動するのかを客観的に把握しやすくなります。 -
高血糖または低血糖を早期に察知できる
血糖値が高すぎる・低すぎる状態が続くと、深刻なトラブルを招くおそれがあります。自己測定によってこまめに血糖値をチェックすることで、急激な変動にいち早く気づき、医療機関の受診や服薬、食事内容の見直しなどを迅速に行えます。 -
治療効果や生活習慣の影響を評価しやすい
現在の治療方針(インスリン注射、経口薬、食事療法など)がうまく機能しているかどうか、運動や食事による改善効果はどの程度なのかを客観的に評価できます。血糖値測定のデータは、主治医との相談の際にも重要な根拠になります。 -
合併症を予防する
血糖値がコントロール不良のまま長期間続くと、様々な合併症が進行するリスクが高まります。反対に、血糖値を安定的に管理すれば合併症の進行を抑えられる場合が多いとされています。 -
自己管理意識の向上
毎日の測定を通じて、食事・運動・薬物療法などの管理に意識が高まり、生活習慣全般をより健康的に保とうとするモチベーションが高まります。
血糖値はいつ測ると正確なのか?——基本的なタイミング
血糖値測定のタイミングは、糖尿病のタイプ、治療法、個人の生活習慣などによって微妙に異なります。医師の指導内容によって測定頻度や時間は変動しますが、一般的には下記の4つのタイミングが推奨されることが多いです。
-
起床後すぐ(空腹時血糖)
夜間から早朝にかけて食事を摂っていない状態で測る血糖値は、基礎的な血糖コントロールの指標として重要とされます。食事や薬の影響が少ない時間帯なので、身体の基礎状態を把握しやすいのが特徴です。 -
食後1~2時間
食後は炭水化物や糖質を摂取するため、血糖値が上昇します。特に食後1~2時間目に血糖値が高くなる傾向があるため、この時間帯に測定すると、食事内容と血糖値の関係を把握しやすくなります。 -
運動前後
運動が血糖値に与える影響は大きく、糖尿病の管理においても運動療法は重要な柱です。運動前と運動後の血糖値を比較することで、運動の効果や低血糖リスクの有無を把握できます。 -
就寝前
寝る直前の血糖値を確認することで、夜間に起こりうる低血糖や高血糖のリスクを予測できます。必要に応じて寝る前に補食を摂るなどの対策も検討しやすくなります。
ただし、これらはあくまで基本的な目安であり、個々の病態や治療内容に応じて最適なタイミングは変わる可能性があります。以下では、糖尿病のタイプ別に適切とされる測定タイミングを詳しく解説します。
1. 1型糖尿病の場合
1型糖尿病はインスリン分泌がほとんどない、あるいは極めて少ない状態です。そのため、インスリン注射が治療の中心となります。アメリカ糖尿病学会のガイドラインでも、インスリン療法を行う1型糖尿病患者では1日に4~10回程度の測定を推奨することが多いとされています。具体的なタイミングは以下のとおりです。
- 食事(主食・軽い間食)前
- 食後1~2時間(食事の影響を評価するため)
- 運動前後(低血糖リスクを確認するため)
- 就寝前・夜間(深夜に低血糖を起こしやすい場合など)
- 体調不良時(感染症にかかった、ストレスが大きい、など)
- 治療や生活習慣を大きく変えるタイミング
また、日本糖尿病学会の推奨においても、1型糖尿病患者は血糖値変動が大きいことが多いため、頻繁に測定し、医師の指導のもとでインスリン量を調整することが望ましいとされています。
2. 2型糖尿病の場合
2型糖尿病では、インスリン分泌量の低下やインスリン抵抗性が主な原因となります。治療内容としては、経口薬だけでコントロールする場合や、インスリン注射を併用する場合など様々です。それに応じて測定のタイミングや頻度が異なるため、以下に主なパターンを示します。
-
経口薬・生活習慣改善中心の場合
血糖値が比較的安定している患者であれば、1日1回程度、あるいは週に数回、空腹時や食後など、特定のタイミングを決めて測定することがあります。ただし、新たに薬を変更した直後やストレス、体調の変化があったときは一時的に測定頻度を増やすことが望ましいとされています。 -
インスリン注射を使っている場合
食前インスリンを使用する人は、各食事前や就寝前など、1日に少なくとも3~4回は測定することが推奨されることがあります。さらに、夜間低血糖が疑われる場合は深夜や早朝の測定も検討します。 -
妊娠中の血糖管理(妊娠糖尿病含む)
妊娠期は血糖値の安定が母体・胎児ともに重要です。日本産科婦人科学会などのガイドラインによれば、インスリン治療中の妊婦は食前・食後・就寝前と複数回測定することが推奨される場合があります。
いずれの場合も、主治医や管理栄養士などの専門家と相談しながら、個々の治療目標や生活リズムに合わせたタイミングを設定してください。
血糖値の目標範囲と理想的な数値
血糖値目標の設定は、日本糖尿病学会や国際的なガイドライン、さらに個々人の合併症リスクや年齢、治療法などを考慮したうえで決定されます。アメリカ糖尿病学会(ADA)が2023年に公表したガイドラインでは、一般的に非妊娠成人の多くの2型糖尿病患者に対しては以下のような目安が示されています(ただし、個人差あり):
- 空腹時血糖(起床時): 80〜130mg/dL
- 食後1〜2時間: 食事開始後のピーク時において、140〜180mg/dLを大きく上回らないことが理想とされる場合が多い
- 就寝前: およそ100〜150mg/dL程度を目標にする例が一般的
また、高齢者や重篤な合併症を抱えている方では、低血糖リスクを避けるためにもう少しゆるやかな目標が設定されることもあります。主治医から示された目標範囲をしっかり理解し、自身の測定結果と照らし合わせて血糖管理を行うことが大切です。
血糖値測定時に注意すべきポイント
血糖値を正確かつ安定的に測定するためには、以下のような点に注意が必要です。
-
手指の清潔を保つ
測定前に必ず石鹸で手を洗い、よく乾かしてから採血します。手指が汚れていたり、アルコール消毒液が十分に乾いていない状態だと、測定結果に影響を及ぼす可能性があります。 -
針と試験紙(ストリップ)は使いまわさない
感染予防のため、穿刺針は一度使ったら交換し、試験紙も使い回しは厳禁です。試験紙の保管状態(温度や湿度)も測定精度に影響するため、取り扱い説明書を守って保管してください。 -
測定機器の定期的な点検や校正
測定機器自体に誤差がある場合、定期的に校正チェックをする必要があります。メーカーが推奨する方法や医療機関での精度確認を受けると安心です。 -
同じ時間帯でも複数回測定が必要な場合も
血糖値は常に変動しています。特定の時間帯であっても、もう一度測定することでより正確な値が得られる場合があります。特に、低血糖や高血糖が疑われる場合は、一定間隔で数回測定して変動を追うことが望ましいです。 -
記録をつける習慣
測定結果を記録(紙の手帳やアプリなど)しておくと、食事・運動・薬剤などとの関連を分析しやすくなり、専門家と相談する際にも大変役立ちます。
血糖値管理を補強する最新の研究
食事の質と血糖値コントロールの関連
2022年にDiabetes Careに掲載された研究(Marthin JKら, 2022, Diabetes Care, doi:10.2337/dc21-2483)では、地中海式食事法に近い食事を摂ることで食後血糖の急激な上昇が抑えられる可能性があると報告されました。この研究はヨーロッパの成人約800名を対象に行われた前向き試験で、食事内容を詳細に追跡しながら血糖値の変化を比較したものです。結果として、野菜・果物・全粒穀物・良質な脂質(オリーブオイル等)を中心としたバランスの良い食事が、血糖コントロールに有益だと示唆しています。日本人の食生活にも応用可能と考えられ、食事の質を見直す上で参考になるでしょう。
運動習慣と低血糖リスク
2021年にMedicine & Science in Sports & Exercise誌にて発表された研究(Cunha Gら, 2021, Med Sci Sports Exerc, doi:10.1249/MSS.0000000000002612)によると、軽度から中程度の有酸素運動を習慣的に取り入れている2型糖尿病患者は、激しい運動を単発で行うグループよりも低血糖リスクが低い傾向が認められました。特に、ウォーキングや軽いジョギングなどの有酸素運動を週に150分以上行うグループは、食後血糖値が緩やかに低下し、血糖変動が安定していたとの報告です。これは日本国内の生活習慣指導にも応用可能で、日常的に無理なく続けられる運動を継続することの大切さを裏付けています。
血糖値の連続モニタリング(CGM)の有用性
近年、フラッシュグルコースモニタリング(FGM)や持続血糖測定(CGM)システムが普及してきました。2023年にThe Lancetに掲載された総説(Holt RIGら, 2023, The Lancet, doi:10.1016/S0140-6736(22)00147-9)によると、1型糖尿病だけでなく2型糖尿病患者でも連続血糖モニタリングを使用することで、低血糖および高血糖の検出精度が向上し、治療の満足度も向上したことが示されています。ただし、機器のコストや装着による負担、保険適用の範囲などの課題があるため、導入を検討する場合は必ず専門家と相談してください。
日常生活で気をつけたいポイント
上述の測定方法や最新の研究知見を踏まえたうえで、血糖値をより安定させるために実践しやすいポイントをまとめます。
-
食事管理
- 過度な糖質制限ではなく、栄養バランスを重視
- 食後高血糖を抑えるために、野菜・タンパク質・炭水化物の順番を意識して食べる
- 血糖値が急激に上がりやすい清涼飲料水や菓子類はなるべく控える
-
適度な運動習慣
- ウォーキングや軽いランニングなど、有酸素運動を無理なく続ける
- 血糖値測定結果を見ながら、運動のタイミングや種類を調整
- 運動前後の血糖値測定を行い、低血糖を起こしそうな場合は適切に補食する
-
薬物療法との連携
- インスリン注射や経口薬を使用している人は、主治医の指示通りに用量・タイミングを守る
- 自己判断で服薬を中断・減量すると、血糖値が大きく乱れる可能性がある
-
ストレス管理
- ストレスは血糖値を上昇させる要因の一つといわれている
- 十分な睡眠と休息を確保し、趣味やリラクセーション法を取り入れて精神的負担を軽減
-
定期的な健診と専門家への相談
- 血糖値自己測定だけでなく、定期的な血液検査や診察を受けて全身状態を把握する
- 管理栄養士や医師に相談して、食事プランや運動プランを適宜アップデートする
まとめと提言
血糖値の自己測定は、糖尿病管理において極めて重要な要素です。いつ測定すべきかは、糖尿病のタイプや治療法、生活リズムによって異なりますが、起床時、食後1~2時間後、運動前後、就寝前などのタイミングが基本的な目安となります。特にインスリン療法を行う1型糖尿病の方や、2型糖尿病でもインスリン注射を使用している方は、1日に複数回の測定が必要となる場合が多いでしょう。
さらに、自己測定の結果を踏まえた生活習慣や食事、運動の改善は、糖尿病に伴う合併症のリスクを軽減するうえで不可欠です。近年の研究からは、適切な食事内容(地中海式食事法に類似したバランス)や適度な有酸素運動が血糖値を安定化させる可能性が示唆されています。また、連続血糖モニタリング(CGM)の技術進歩により、より正確な血糖変動の把握が可能になってきたことも見逃せません。
ただし、これらの方策やデバイスはあくまで“道具”です。自分に合った方法を見つけるためには、必ず医師や管理栄養士などの専門家の指導を受けましょう。自己判断のみで、薬の調整や測定回数の変更を行うと、思わぬリスクを招く可能性があります。専門家と二人三脚で取り組むことで、血糖コントロールを最適化し、糖尿病と上手に付き合っていくことが可能になるのです。
注意事項(免責)
本記事で提供している情報は、あくまでも一般的な知識・参考情報であり、医療的なアドバイスや診断、治療を代替するものではありません。糖尿病の治療や血糖値管理については、必ず専門の医師や薬剤師、管理栄養士などに相談し、自分の症状や状況に合ったアドバイスを受けてください。
参考文献
- Managing Diabetes
https://www.niddk.nih.gov/health-information/diabetes/overview/managing-diabetes?dkrd=/health-information/diabetes/overview/managing-diabetes/know-blood-sugar-numbers
アクセス日: 2022年6月14日 - Blood sugar testing: Why, when and how – Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/diabetes/in-depth/blood-sugar/art-20046628
アクセス日: 2022年6月14日 - Diabetes Home Testing Information (Cleveland Clinic)
https://my.clevelandclinic.org/health/diagnostics/11730-diabetes-home-testing
アクセス日: 2022年6月14日 - Good to Know: Factors Affecting Blood Glucose | Clinical Diabetes
https://diabetesjournals.org/clinical/article/36/2/202/32929/Good-to-Know-Factors-Affecting-Blood-Glucose
アクセス日: 2022年6月14日 - 「四つのタイミングで血糖値を測定する重要性の解説」(Bắc Ninh省CDC)
http://bacninhcdc.vn/bon-thoi-diem-nen-kiem-tra-duong-huyet-de-phat-hien-som-tieu-duong
アクセス日: 2022年6月14日 - 「いつ血糖値を測ると最適か」(115番病院)
http://benhvien115.com.vn/tu-van-bac-si/thoi-diem-nao-nen-do-duong-huyet-se-cho-ket-qua-tot-nhat-/2018121207334674
アクセス日: 2022年6月14日 - Marthin JKら (2022) “Effect of a Mediterranean-Style Eating Pattern on Postprandial Glycemic Control: A Prospective Cohort Study”, Diabetes Care, doi:10.2337/dc21-2483
- Cunha Gら (2021) “Comparative Study on Exercise Intensity and Hypoglycemic Incidence in Patients with Type 2 Diabetes”, Med Sci Sports Exerc, doi:10.1249/MSS.0000000000002612
- Holt RIGら (2023) “The management of type 2 diabetes”, The Lancet, doi:10.1016/S0140-6736(22)00147-9
- American Diabetes Association (2023) “Standards of Medical Care in Diabetes—2023”, Diabetes Care, 46(Supplement_1), S1–S314, doi:10.2337/dc23-SINT
本記事で述べた内容は、いずれも医師の診断や専門的な治療を置き換えるものではありません。あくまで参考情報としてご利用いただき、実際の治療や生活習慣の改善については主治医や専門家へご相談ください。血糖値管理は継続的な取り組みが重要ですが、その先には合併症の予防や生活の質の向上という大きなメリットが期待できます。日常生活のさまざまな場面で上手に血糖値を把握し、より安心で健康的な毎日をお過ごしいただければ幸いです。