精神・心理疾患

解離性障害の真実:自我を見失う瞬間

解離とは、単なる意識の不在や物忘れを指す言葉ではありません。それは、本来一つに統合されているべき意識、記憶、自己同一性(アイデンティティ)、情動、知覚、そして行動といった精神機能の統合が破綻、あるいは連続性を失う状態です1。この状態では、これらの感覚を一つにまとめる能力が一時的に失われ、精神機能が分断された形で体験されます1

この記事の科学的根拠

本記事は、日本の公的機関・学会ガイドラインおよび査読済み論文を含む高品質の情報源に基づき、出典は本文のクリック可能な上付き番号で示しています。

  • 国際的な診断基準の進化 (ICD-11): 世界保健機関(WHO)の最新の診断基準では、解離性障害がトラウマを基盤とする明確な疾患群として独立した章に位置づけられました。これは、この分野における科学的理解の大きな進展を反映しています8
  • 日本の公的支援制度: 日本では、厚生労働省が定める自立支援医療制度により、解離性障害のような慢性的な精神疾患の治療における経済的負担が大幅に軽減されます。これは、治療の継続性を社会的に支える重要な仕組みです19
  • 治療法に関する科学的コンセンサス: 国際的なシステマティックレビューにより、解離性障害の治療は、まず安全を確保し生活を安定させる段階を経てから、慎重にトラウマ記憶を扱う「段階的治療」が最も効果的かつ安全であると広く推奨されています11

要点まとめ

  • 解離性障害の根本原因は、多くの場合、小児期の深刻な虐待といった圧倒的なトラウマ体験です。症状は、その苦痛から心を守るための創造的な防衛機制と理解されています26
  • 治療の核心は、薬物療法ではなく、安全な治療関係のもとで行われる長期的な心理療法です。特に、安定化、トラウマ処理、統合という「段階的治療モデル」が国際標準とされています11
  • 日本では、解離性障害の治療は公的医療保険の対象であり、さらに「自立支援医療制度」を利用することで、経済的負担を大幅に軽減しながら治療に専念することが可能です18

第1部:解離の核心 — 「私」が失われるメカニズム

自分が自分でないような感覚に襲われたり、大切な記憶がすっぽり抜け落ちていたりして、「一体自分に何が起きているのだろう」と混乱し、不安に感じることはありませんか。その不思議な感覚は、決してあなたの弱さや気まぐれではありません。科学的には、それは心が耐え難いほどのストレスに直面したとき、システム全体を守るために作動する、いわば「心の安全装置」のようなものなのです。その背景には、圧倒的な体験を生き延びるための、論理的で創造的なメカニズムが存在します。だからこそ、まず大切なのは、その症状が「あなたに何があったのか」を教えてくれる重要なサインだと理解することから始めることです。

1.1 解離とは何か:意識、記憶、自己同一性の統合不全

解離とは、本来であればスムーズに連携しているはずの、意識、記憶、自分が誰であるかという感覚(自己同一性)といった心の機能が、一時的に途切れたり、バラバラになったりする状態を指します1。この現象は、多くの人が日常で経験する正常な範囲のものから、生活に深刻な支障をきたす病的なものまで、幅広い「スペクトラム」として捉えられています。例えば、大阪メンタルクリニックの説明によると、慣れた道を運転していて、どうやって目的地に着いたか記憶が曖昧なのは正常な解離ですが、これが慢性的・深刻化すると「解離性障害」という診断に至ります2。神経生物学的には、これは単なる心理的な現象ではなく、圧倒的なストレスに反応して、記憶や感情を司る脳のネットワーク機能が物理的に変化するプロセスであり、心が自らを守るための防衛機制であると済生会は解説しています3

1.2 現象学的探求:「自我を見失う瞬間」の主観的体験

解離を体験している当事者の内面世界は、言葉で表現するのが非常に難しいものです。主な体験として、あたかも自分を外から眺めているかのような「離人症」や、周囲の世界が非現実的に感じられる「現実感喪失」があります4。また、重要な個人的な出来事を思い出せない「健忘」や、自分が複数の異なる部分からできているように感じる「同一性の混乱」も中核的な症状です5。これらの体験は、当事者自身にとっても混乱を招き、自分の身に何が起きているのかを理解することを困難にします。

1.3 原因論:トラウマという根源

重篤な解離性障害の原因は何かという問いに対して、現在、国際的なコンセンサスが形成されています。その最も一般的な原因は、慢性的で深刻な小児期の虐待(身体的、性的、情緒的)およびネグレクトです。複数の研究報告によると、解離性同一性障害と診断された人々の約90%が、小児期に深刻な虐待を経験していたとされています2。MSDマニュアル家庭版では、人格形成の途上にある子どもが、逃れることのできない恐怖に直面したとき、生き延びるためにその耐え難い体験、記憶、感情を意識から切り離す「区画化」というメカニズムが働くと説明されています6。この心の働き自体は異常ではなく、トラウマの強度と慢性性が、正常な防衛機制を過剰に作動させ、システムを破綻させるのです。この理解は、解離性障害の最も効果的な一次予防が、その根本原因である児童虐待を社会全体で防止することにあるという重要な結論に繋がります。

このセクションの要点

  • 解離とは、意識や記憶の統合が失われる状態で、正常な範囲から病的な障害まで連続体(スペクトラム)をなしています。
  • 重篤な解離性障害の根本原因は、主に小児期の深刻なトラウマであり、症状はそれに対する心の防衛反応と理解されています。

第2部:解離性障害のスペクトラムと診断

自分の症状がどの病気に当てはまるのか、そもそも病気なのかさえ分からず、正しい診断に至るまで何年も医療機関を転々としてしまう。その経験は、決して珍しいことではありません。解離性障害の診断は専門家にとっても非常に難しく、他の多くの精神疾患と症状が重なるため、しばしば誤診されやすいのです。科学的には、この診断プロセスは、いわば「心の地図」を正確に読み解く作業に似ています。世界保健機関(WHO)が発行するICD-11のような国際的な診断基準は、その最新かつ最も信頼性の高い地図です8。この新しい地図では、解離が独自の領域として明確に示されるようになりました。そのため、複雑な心の症状とトラウマの経験がある場合は、この最新の地図を読み解ける専門家に相談し、自分の現在地を正確に評価してもらうことが、回復への重要な第一歩となります。

2.1 国際的診断基準の全体像:DSM-5-TRとICD-11

現代の精神医学における診断のゴールドスタンダードは、米国精神医学会の『精神疾患の診断・統計マニュアル第5版改訂版』(DSM-5-TR)と、世界保健機関(WHO)の『国際疾病分類第11回改訂版』(ICD-11)です7。精神神経学雑誌に掲載された金らが解説するところによると、特筆すべきはICD-11における概念的な進化です8。ICD-11では、解離性障害が独立した一つの章「解離症群」として設立されました。これは、解離を他の神経症圏の症状とは異なる、独自の病理プロセスとして認識する大きな概念的転換であり、解離性障害がトラウマを基盤とする明確な一群の疾患であるという科学的知見が、国際的な診断基準に正式に反映されたことを意味しています。

2.2 解離性同一症 (Dissociative Identity Disorder – DID)

かつて「多重人格障害」として知られていたこの障害は、2つ以上の明確に区別されるパーソナリティ状態によって特徴づけられる同一性の破綻を中核とします5。脳科学辞典によれば、これには自己感覚の著しい不連続性が含まれ、感情、行動、意識、記憶などにおける変容を伴います9。また、日常的な出来事やトラウマ体験の想起における反復性の記憶欠落(健忘)も必須の診断基準です。しばしば「交代人格」と呼ばれる異なるパーソナリティ状態は、完全に独立した別人格というよりは、一人の人間の解離した側面として理解され、それぞれが特定の機能や役割を担っていることが多いとWikipediaの記事では述べられています10

表1:DSM-5-TR vs. ICD-11 解離症群 診断基準比較表
診断カテゴリー DSM-5-TR 基準の要約 ICD-11 基準の要約 主な相違点と臨床的意義
解離性同一症 (DID) 2つ以上のパーソナリティ状態による同一性の破綻。自己感覚と主体性の不連続性。反復する健忘。 2つ以上のパーソナリティ状態による同一性の障害。各状態は固有の体験・知覚パターンを持つ。反復して意識と行動を制御。健忘を伴う。 ICD-11は「部分的解離性同一性症」という下位分類を新設。主たる人格が機能しつつ、特定の状況で他の人格が一時的に現れる状態を記述可能にした8
解離性健忘 重要な自伝的情報(通常トラウマ関連)の想起不能。通常の物忘れでは説明不能。 重要な自伝的情報(通常トラウマ関連)の想起不能。通常の物忘れとは異なる。機能の著しい障害。 ICD-11は「遁走を伴う/伴わない」を下位コードで明示。DSM-5では特定用語として扱う。両者とも遁走を健忘の亜型と位置づける点で一致8
離人感・現実感消失症 離人感または現実感消失の持続的・反復的体験。現実検討能力は保たれている。 離人感(自己からの離隔)または現実感喪失(世界からの離隔)の体験。現実検討能力は保たれている。 ICD-11ではこの障害が「解離症群」の章に移動した点が最大の変更点。これにより、他の解離性障害との病態的な関連性が強調された8
転換症状の扱い 「転換性障害(機能性神経症状症)」として「身体症状症および関連症群」の章に分類。 「解離性神経学的症状症」として「解離症群」の章に分類。 最も大きな分類上の相違点。ICD-11は神経学的症状を解離の身体的表出と捉える一方、DSM-5は身体症状の側面を重視する。臨床での概念化に影響を与える8

2.3 解離性健忘と遁走

解離性健忘の主な症状は、心的外傷や強いストレスに関連する重要な自伝的情報を思い出せなくなることです。これは、通常の物忘れとは質的に異なります3。かつて独立した診断名であった「解離性遁走」は、この健忘に加えて、自己同一性も失われ、一見目的のあるように見える旅行や放浪として現れる状態で、現在では解離性健忘の特殊な一型として分類されています4

2.4 離人感・現実感消失症

この障害は、自分が自分から離れていくような感覚(離人感)や、周囲の世界が現実ではないように感じる(現実感消失)体験が、持続的または反復的に生じることを特徴とします。診断上の重要な鍵は、これらの奇妙な体験の最中でも、本人はそれが現実ではないと認識しており、「現実検討能力」が保たれている点です4。この点が、精神病性障害との大きな違いとなります。

2.5 診断の複雑性と鑑別診断

解離性障害の診断は、当事者が症状を隠したり、自覚していなかったりすることに加え、症状が他の多くの精神疾患と類似しているため、極めて困難です2。例えば、交代人格の「声」が聞こえることは統合失調症の幻聴と、気分の変動は気分障害と誤診されやすいのです1。この診断の難しさは、解離性障害が臨床現場で著しく過小診断されている可能性が高いことを示唆しています。したがって、複雑な精神症状を呈し、かつトラウマ歴を持つ患者に対しては、解離症状に関する系統的なスクリーニングを日常的に行うことが、より正確な診断と効果的な治療への第一歩となります。

受診の目安と注意すべきサイン

  • 重要な出来事や特定の期間の記憶がすっぽり抜け落ちていることに気づいた時。
  • 自分が自分でないような感覚や、周囲が非現実的に感じる体験が繰り返し起こり、苦痛を感じる場合。
  • 自分の知らないうちに行動していたり、身に覚えのないものを持っていたりすることがある場合。
  • 複数の精神科治療を受けてもなかなか改善しない「治療抵抗性」のうつ病や不安障害がある場合(背景に解離が見過ごされている可能性があるため)。

第3部:回復への道筋 — 治療的アプローチの科学的根拠

様々な治療を試みても一向に良くならず、「もう回復は無理なのではないか」と絶望的な気持ちになるかもしれません。回復への道は長く、平坦ではないかもしれませんが、解離性障害からの回復は可能であり、そのための安全で体系的な治療法が存在することを知ってください。科学的には、複雑なトラウマからの回復は、大きな怪我からのリハビリテーションに似ています。いきなり全力疾走を目指すのではなく、まずは傷ついた部分を保護し、安全な環境で基礎的な体力を回復させ(安定化)、その後、専門家の指導のもとで慎重に原因となった部分の治癒に取り組み、最終的に社会生活への完全な復帰を目指すのです。だからこそ、焦ってトラウマを掘り起こそうとするのではなく、まず現在の生活を安定させ、感情をコントロールするスキルを身につけることから始める、専門的な心理療法を探すことが極めて重要になります。

3.1 治療の基本原則

解離性障害の治療は、特定の技法を適用する以前に、その土台となるべきいくつかの基本原則の上に成り立ちます。健康教育指導者講習会の資料によれば、治療の絶対的な最優先事項は、患者の物理的および情緒的な安全を確立し、生活を「安定化」させることです1。次に、多くの患者が過去の人間関係で裏切りを経験しているため、治療者との強固で信頼に基づいた関係(治療同盟)を築くこと自体が、回復の最初のステップとなります。そして、患者自身が解離をトラウマに対する理解可能な反応として捉え直す手助けをする「心理教育」も、自己非難を和らげ、治療への動機を高める上で不可欠です。

3.2 心理療法の最前線

解離性障害治療の根幹は心理療法であり、国際的なコンセンサスとして「段階的治療モデル」が強く推奨されています。2024年に発表されたシステマティックレビューでもその有効性が支持されており、このモデルは治療を体系的かつ安全に進めるための枠組みです11。Wikipediaでも解説されているように、治療は以下の3段階で進められます12

  1. 第1段階:安定化とスキル構築: トラウマ記憶に直接取り組む前に、まず現在の生活を安定させ、感情調整スキルを学び、自己破壊的行動を減らすことに焦点を当てます。
  2. 第2段階:トラウマ記憶の処理: 患者が十分に安定した後、専門家の指導のもとで注意深くトラウマ記憶を処理し、統合していきます。
  3. 第3段階:統合とリハビリテーション: より統一された自己感覚を育み、現在の人生をより豊かに生きるための課題に取り組みます。

EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)13や弁証法的行動療法(DBT)15といった他の治療法も、この段階的治療の枠組みの中で、特に安定化の段階やトラウマ記憶の処理において、補助的に用いられることがあります。

3.3 薬物療法の役割と限界

薬物療法に関して最も重要な点は、解離症状そのものを直接治療する、あるいは「治癒」させる薬は現時点では存在しないということです1。薬物療法の役割は、あくまで心理療法を円滑に進めるための補助的なものです。主な目的は、併存するうつ病や不安症状、不眠などを緩和し、患者を不安定にさせる症状を管理することにあります。SSRI(抗うつ薬)などが用いられますが、厚生労働省の資料でも指摘されている通り、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬は依存のリスクや、かえって解離を悪化させる可能性があるため、使用は極めて慎重に行われるべきです16。PMDA(医薬品医療機器総合機構)の副作用情報にも留意し、薬物療法は専門医の厳格な管理下で行う必要があります17

今日から始められること

  • 複雑性トラウマと解離の治療に関する専門的な訓練を受けた治療者(精神科医や臨床心理士)を探す。
  • 治療法について、「段階的治療」を理解し、実践しているかどうかを尋ねてみる。
  • 薬物療法に過度な期待をせず、あくまで心理療法を支える補助的なものと理解する。

第4部:日本における社会的現実と支援システム

「治療が大切だとは分かっているけれど、経済的な負担が大きいし、周りに理解してもらえず孤立している」。そうした悩みは、回復を目指す上で非常に大きな壁となりますよね。幸い、日本には、そのように困難な状況にあるあなたを社会的に支えるための、優れた公的な制度や相談窓口が存在します。科学的には、これらの支援システムは、治療という車の両輪のようなものです。片方だけでは、前に進むことはできません。この仕組みは、いわば長期的な治療というマラソンを走りきるための「公的な給水所」のようなもの。経済的な不安を和らげ、孤立感を解消することで、あなたが安心して治療に専念し、回復への道を歩み続けられるように設計されています。だからこそ、一人で抱え込まず、まずはどのような支援があるのかを知り、利用を検討することから始めてみませんか。

4.1 医療経済的側面:治療費と公的支援

解離性障害の治療は長期にわたることが多く、経済的負担は大きな懸念事項です。日本において、医療機関で行われる診断および治療は公的医療保険の対象となり、自己負担は原則3割です16。しかし、さらに重要な制度として「自立支援医療制度(精神通院医療)」があります。株式会社リヴァの解説によると、この制度を利用することにより、保険適用の医療費(診察、薬剤、デイケア等)に対する自己負担割合が、原則として1割に軽減されます18。また、世帯の所得に応じて月額の自己負担上限額が設定されるため、経済的な見通しが立てやすくなります。茨城県の公式ウェブサイトにもあるように、解離性障害は本制度の対象疾患に含まれており19、申請は居住地の市区町村の担当窓口で行います。この制度は、治療継続のためのまさに生命線と言えるでしょう。

4.2 支援へのアクセス:どこに相談すればよいか

適切な情報と支援に繋がることは、回復への第一歩です。日本には、専門的な医療機関を探したり、悩みを相談したりするための様々なリソースが存在します。専門的な治療が受けられる精神科や心療内科を探す際には、厚生労働省が運営する公式の医療情報提供サイト「医療情報ネット(ナビイ)」が最も信頼性の高いツールです20。また、同じ悩みを持つ仲間との繋がりは孤立感を和らげます。NPO法人 全国解離性障害友の会は、当事者や家族への情報提供を行っています21。さらに、日本解離研究会(JASD)のような専門家団体も、研究や研修を通じて治療の質の向上に貢献しています22。一人で抱え込まず、まずはこれらの公的な窓口や民間団体に連絡を取ってみることが大切です。NHKハートネットでも、様々な相談窓口が紹介されています23

4.3 当事者と家族が直面する課題

臨床的な困難さに加え、当事者と家族は深刻な社会心理的課題に直面します。症状の特異性から、周囲に理解されにくく、「詐病ではないか」と疑われることも少なくありません3。このような誤解は当事者の孤立感を深めます。また、健忘や人格交代は、仕事や対人関係に深刻な混乱をもたらし、社会生活の維持を困難にします24。家族もまた、回復過程で重要な支援者ですが、どう接すればよいか分からず疲弊してしまうこともあります。日本精神神経学会のウェブサイトで専門家が指摘するように、家族自身も病気について学び、支援を受けることが重要です25。臨床現場での理解と社会一般の認識との間にある「認識のギャップ」を埋めていくことが、当事者が安心して治療を受けられる社会を作る上で不可欠な課題です26

今日から始められること

  • お住まいの市区町村の障害福祉課などに連絡し、「自立支援医療制度」の申請について相談する。
  • 「医療情報ネット(ナビイ)」を使い、通院可能な範囲にある精神科・心療内科をリストアップしてみる。
  • NPO法人や当事者会のウェブサイトを訪れ、どのような活動をしているか確認し、まずは情報を集めることから始める。

よくある質問

解離性障害は本当に治りますか?

はい、回復は可能です。ただし、「治る」という言葉の捉え方が重要です。全ての症状が完全になくなることよりも、解離した自己の部分が互いに協力し、より統合された自己として日常生活や社会生活を安定して送れるようになることが、現実的な治療目標となります12。回復には専門的で長期的な心理療法が不可欠であり、焦らずに取り組むことが大切です。

解離性障害は「多重人格」と同じことですか?

「多重人格障害」は、現在「解離性同一症(または解離性同一性障害)」と呼ばれる診断名の古い呼び方です5。解離性同一症は、数ある解離性障害の中の一つであり、最も重篤なタイプとされています。したがって、「多重人格」は解離性障害の一部ではありますが、全ての解離性障害が多重人格というわけではありません。

家族や周りの人は、どのように接すればよいですか?

まず最も大切なのは、症状が本人の意図的なものではなく、トラウマに対する心の防衛反応であることを理解しようと努めることです25。本人が混乱している時も、冷静に、安全で安心できる環境を提供することが助けになります。また、どのパーソナリティ状態が現れていても、その人自身の一部として尊重することが重要です。家族自身も疲れ果ててしまわないよう、専門家や支援団体に相談し、サポートを求めることをお勧めします26

本人が治療を嫌がる場合はどうすればよいですか?

本人が治療に抵抗を感じるのは、過去のトラウマ体験から、他人を信頼すること自体が非常に困難になっている場合が多いからです1。無理強いすることは逆効果になりかねません。まずは、本人の苦しみに寄り添い、「あなたのことを心配している」というメッセージを伝え続けることが大切です。地域の精神保健福祉センターなどの公的機関に家族だけで相談し、専門家から本人へのアプローチ方法について助言をもらうことも有効な手段です。

結論

本稿では、解離性障害を「自我を見失う瞬間」という体験的な視点から捉え、その科学的背景、診断、治療法、そして日本における支援制度までを包括的に解説しました。最も重要な結論は、解離性障害が不可解な精神の異常などではなく、圧倒的なトラウマを生き延びるために心が編み出した、論理的かつ創造的な生存戦略であるという点です2。その症状は、過去の苦しみの証左であると同時に、心がいかにして自己を守ろうとしたかの物語でもあります。この理解こそが、回復へのアプローチと社会的支援の全ての土台となります。治療の核心は、安全な関係性のもとで、まず現在の生活を安定させることから始める段階的な心理療法にあります11。そして幸いなことに、日本には自立支援医療制度という、その長い道のりを経済的に支える優れた仕組みが存在します18。臨床的介入と社会的支援は車の両輪です。その両方が機能して初めて、自我を見失った人々が再び自己の連続性と主体性を回復していく道筋が拓かれるのです。

免責事項

本コンテンツは一般的な医療情報の提供を目的としており、個別の診断・治療方針を示すものではありません。症状や治療に関する意思決定の前に、必ず医療専門職にご相談ください。

参考文献

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