【医師監修】赤ちゃんのうんちの白い粒は病気?正常な顆粒便と危険な脂肪便の見分け方・受診の目安
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【医師監修】赤ちゃんのうんちの白い粒は病気?正常な顆粒便と危険な脂肪便の見分け方・受診の目安

毎日のおむつ替えは、赤ちゃんの健康状態を知るための大切な時間です。しかし、そのおむつの中に普段と違うもの、例えば白い粒や金色の粒を見つけた時、多くの親御さんは「これは何だろう?」「病気のサインだったらどうしよう?」と、心が締め付けられるような不安を感じることでしょう。特に初めての育児では、些細な変化も大きな心配事になりがちです。このページは、そんな親御さんたちの不安を和らげ、科学的根拠に基づいた正しい知識と具体的な行動指針を提供するために、小児科医の監修のもと作成されました。ご安心ください。ほとんどの場合、これらの粒は心配のないものですが、ごく稀に注意が必要なサインであることも事実です。この記事を最後まで読めば、その違いを明確に理解し、落ち着いて対処できるようになります。

この記事の科学的根拠

この記事は、提供された研究報告書で明示的に引用されている最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下のリストには、実際に参照された情報源と、提示された医学的指導との直接的な関連性が含まれています。

  • 日本小児栄養消化器肝臓学会 (JSPGHAN): 乳児の正常な便の特性に関する記述は、同学会の発行する「小児慢性機能性便秘症診療ガイドライン」を参考にしています1
  • Okajima K & Suzuki T. (2020): 正常な「顆粒便」と病的な「脂肪便」の物理的な違いに関する核心的な科学的根拠は、この国際的な学術研究に基づいています2
  • 日本の公衆衛生プログラム: 「便色カード」の重要性と活用法に関する解説は、国が推進し、札幌市などの自治体が提供する公式な指導内容に基づいています3
  • StatPearls (医学教育文献): 「脂肪便 (Steatorrhea)」の医学的な定義や原因に関する記述は、専門家向けの信頼性の高い医学文献を参照しています4
  • 難病情報センター: 日本における胆道閉鎖症の発生率などの統計情報は、国の指定難病情報を提供する公的機関のデータに基づいています5

要点まとめ

  • 赤ちゃんの便に見られる白や金色の小さな粒は、ほとんどが「顆粒便(かりゅうべん)」と呼ばれるもので、乳脂肪分が消化されずに固まった生理的な現象であり、心配はいりません6
  • しかし、ごく稀に、便全体が白っぽかったり、脂っぽく量が多い「脂肪便(しぼうべん)」は、肝臓や胆道の病気のサインである可能性があります2
  • この二つを見分ける最も重要なポイントは、便全体の「色」です。母子手帳に付属の「便色カード」を使い、便の色が危険なサイン(1~3番の色)に当てはまらないか確認することが極めて重要です3
  • 便の色が明らかに薄い(白・クリーム・淡黄色)場合や、黄疸が濃くなる、元気がないなどの症状が伴う場合は、ためらわずに直ちに小児科を受診してください。

まずは安心!ほとんどの場合、白い粒の正体は「顆粒便(かりゅうべん)」です

おむつの中に白いブツブツとした粒を見つけると驚かれるかもしれませんが、そのほとんどは「顆粒便」と呼ばれるもので、赤ちゃんの健康上の問題を示すものではありません。

顆粒便とは?

顆粒便とは、母乳や育児用ミルクに含まれる脂肪分とカルシウムが、消化しきれずに腸内で結びついてできた小さな固まりのことです6。赤ちゃんの消化器官はまだ未熟なため、栄養豊富な母乳やミルクの成分を100%吸収しきれないことがあります。その結果として現れるのが顆粒便であり、これは赤ちゃんが元気に栄養を摂っている証拠の一つとさえ言えます。見た目は、マスタードの種やカッテージチーズのように見えることがあります。

なぜ顆粒便ができるのか?

赤ちゃんのすい臓から分泌される、脂肪を分解するための消化酵素(リパーゼなど)の働きはまだ十分ではありません。そのため、摂取した脂肪の一部が分解・吸収されずに腸内に残り、これがカルシウムと石鹸のように結合(鹸化)して、白い粒となって便に混じって排出されるのです。これは、赤ちゃんの消化機能が成長する過程で見られるごく自然な現象です。

母乳・ミルク・混合栄養での違いは?

顆粒便は、母乳育児の赤ちゃんにも、育児用ミルクの赤ちゃんにも、またその両方を飲む混合栄養の赤ちゃんにも見られます。一般的に、母乳は育児用ミルクに比べて消化が良いため、母乳育ちの赤ちゃんの便は比較的緩やかですが、顆粒便自体はどちらの場合でも起こり得ます6


注意すべきサイン:「脂肪便(しぼうべん)」との決定的な違い

「しかし、便の中の白いものがすべて顆粒便とは限りません」と専門家は指摘します。ごく稀ですが、より注意深い観察が必要な「脂肪便」という状態があります。親御さんにとって最も重要なのは、この二つの違いを理解することです。

脂肪便(Steatorrhea)とは?医学的な定義

脂肪便は、医学用語で「Steatorrhea(ステアトリア)」と呼ばれ、何らかの病的な理由により脂肪の消化・吸収が著しく阻害され、便中に過剰な脂肪が排出される状態を指します4。これは単なる消化不良ではなく、背景に治療が必要な病気が隠れている可能性を示す重要なサインです。

【科学的視点】顆粒便と脂肪便は見た目が全く違う

幸いなことに、正常な顆粒便と病的な脂肪便は、その見た目や性質が大きく異なります。2020年に発表された日本の研究では、物理化学的な分析を通じて、母乳栄養児に見られる正常な「seedy stool(種のような便、顆粒便に相当)」は、真の脂肪便とは物理的に全く異なるものであることが示されています2

表1:顆粒便と脂肪便の比較
特徴 正常な顆粒便 危険な脂肪便
形状 小さく、ポロポロとした粒状 便全体が脂っぽく、白っぽく、ペースト状または粘土状
通常の便の量 量が多く、かさばる( bulky )
粒は白〜黄色。便全体の色は黄色、茶色、緑色など正常範囲 便全体が白、クリーム色、淡い黄色、灰色など明らかに薄い色
匂い 通常の赤ちゃんの便の匂い(酸っぱい匂いなど) 酸っぱい匂いが非常に強い、または油が腐ったような悪臭
原因 生理的な消化吸収機能の未熟さ 肝臓、胆道、すい臓などの病気による脂肪吸収障害

脂肪便の原因となる可能性のある病気

乳児期に脂肪便が見られる場合、最も懸念されるのは肝臓や胆道系の病気です。

  • 肝臓・胆道系の問題:脂肪の消化に必要な「胆汁」という液体が、肝臓から腸へうまく流れなくなる病気が原因となります。乳児期で最も重要かつ緊急性の高い病気が胆道閉鎖症(たんどうへいさしょう)です。
  • 膵臓の問題:脂肪分解酵素を分泌する膵臓の機能に問題がある場合。ただし、乳児期では稀です。
  • 小腸の問題:脂肪を吸収する小腸の粘膜に問題がある場合。これも乳児期では稀です。

【最重要】危険なサインを見逃さないための実践的ガイド

赤ちゃんの命を救うために、親御さんが家庭でできる最も効果的な方法があります。それは、母子健康手帳に必ず付いている「便色カード」を正しく使うことです。

自宅でできる最強のチェックツール:母子手帳の「便色カード」活用法

日本のすべての赤ちゃんが受け取る母子健康手帳には、胆道閉鎖症を早期発見するための「便色カード」が挟まれています。これは、赤ちゃんの便の色を7段階のカラーチャートと比較することで、危険なサインを視覚的に判断できるように作られた、非常に優れた公衆衛生ツールです3

  1. ステップ1:正しい光の下で比較する
    おむつに付いた新鮮な便を、白い背景の上(おむつのきれいな部分など)に置き、できるだけ自然光に近い明るい照明の下で、便色カードと直接見比べます。
  2. ステップ2:便色番号1~3番は「危険」のサイン
    便の色がカードの1番(白)、2番(クリーム色)、3番(淡黄色)のいずれかに近い場合は、胆汁が腸に流れていないことを示す危険なサインです。直ちに小児科を受診してください。
  3. ステップ3:便色番号4~7番は「正常範囲」
    便の色が4番から7番の範囲にあれば、現在のところ問題ない可能性が高いです。しかし、今後色が薄くなる可能性もあるため、少なくとも生後4ヶ月頃までは定期的にチェックを続けることが重要です。

胆道閉鎖症(たんどうへいさしょう)とはどんな病気?

胆道閉鎖症は、肝臓で作られた胆汁を腸へ運ぶ管(胆道)が詰まってしまう病気です。胆汁が流れなくなると、肝臓にダメージが蓄積し、治療が遅れると肝硬変や肝不全といった命に関わる状態に至ります。この病気は、生後60日以内に手術(肝門部空腸吻合術)を行うことで、その後の経過が大きく改善されることがわかっています。だからこそ、一日でも早い発見が何よりも重要なのです7。日本での発生頻度は、約8,000人から10,000人の出生に1人と推定されています5

チェックリスト:すぐに小児科を受診すべき5つのサイン

以下のいずれかのサインが見られた場合は、様子を見ずに、すぐに小児科医に相談してください。

  • 便全体が白、クリーム色、薄い灰色(便色カード1~3番に該当)
  • 日に日に濃くなる黄疸(おうだん)(皮膚や白目が黄色い状態が生後2週間を過ぎても続く、または濃くなる)
  • 濃い黄色の尿(おむつに濃いシミが残る)
  • 元気がない、哺乳力が弱い、体重が増えない、または減っている
  • 便に血が混じっている(新鮮な赤い血、または黒っぽい血)8

小児科医への相談:何を伝え、どう準備するか

受診する際は、医師が正確な診断を下す助けとなるように、以下の準備をしておくと非常にスムーズです。

  • 持参するもの:心配な便が付いたおむつそのもの(ビニール袋に入れて)、またはスマートフォンで明るい場所で撮影した鮮明な写真、そして必ず母子健康手帳を持参してください。
  • 伝えるべき情報:いつから便がその状態か、頻度はどうか、黄疸や発熱など他の症状はあるか、赤ちゃんの全体的な様子(哺乳量、機嫌、睡眠など)を具体的に伝えられるようにしておきましょう。

結論:赤ちゃんの便は健康のバロメーター

赤ちゃんの便に混じる白い粒は、そのほとんどが心配のない「顆粒便」です。しかし、この記事で学んだように、本当に重要なのは粒そのものではなく、便全体の「色」と赤ちゃんの「全体的な様子」です。便色カードという信頼できるツールを活用し、危険なサインを見逃さないという意識を持つことが、親としてできる最大の愛情表現の一つかもしれません。赤ちゃんの便は、言葉を話せない彼らからの最も正直な健康だよりです。日々の観察を怠らず、少しでも不安や疑問があれば、決して一人で抱え込まずに、かかりつけの小児科医に相談してください。あなたの迅速で適切な行動が、赤ちゃんの健やかな未来を守ることに直結するのです。

よくある質問

Q1. 緑色の便に白い粒が混ざっていますが、大丈夫ですか?

はい、心配いりません。赤ちゃんの便が緑色になるのは、胆汁が腸内を通過する速さや腸内細菌の影響によるもので、黄色や茶色の便と同様に正常な範囲です6。その中に白い粒(顆粒便)が混じっていても、便全体の地の色が便色カードの4番以上の濃さであれば、問題視する必要はありません。

Q2. 離乳食を始めたら、便に変化がありました。

これは全く正常な変化です。離乳食が始まると、赤ちゃんの消化器系は新しい食べ物に適応しようとします。そのため、食べたものがそのままの形で出てくること(例えば、ニンジンのオレンジ色、ほうれん草の緑色の破片など)は非常によくあることです9。これも消化機能が発達していく過程の一部ですので、ご安心ください。ただし、離乳食開始後に便全体が白っぽくなった場合は、これまでと同様の注意が必要です。

免責事項本記事は情報提供を目的としたものであり、専門的な医学的助言に代わるものではありません。健康上の懸念や、ご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

  1. 日本小児栄養消化器肝臓学会. 小児慢性機能性便秘症診療ガイドライン [インターネット]. [2025年7月28日引用]. 入手可能: https://www.jspghan.org/constipation/files/guideline.pdf
  2. Okajima K, Suzuki T. Steatorrhea Versus Normal Stool in Neonatal and Early Infantile Period: Implications for Biliary Atresia. Tohoku J Exp Med. 2020;252(3):193-199. doi: 10.1620/tjem.252.193. PMID: 32943501; PMCID: PMC7522774.
  3. 札幌市. 便色カードの使用方法と発見できる疾患について [インターネット]. [2025年7月28日引用]. 入手可能: https://www.city.sapporo.jp/eiken/org/health/biliary/index.html
  4. Siddiqui MS, Bhimji SS. Steatorrhea. [Updated 2023 Apr 16]. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2025 Jan-. 入手可能: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK541055/
  5. 難病情報センター. 胆道閉鎖症(指定難病296) [インターネット]. [2025年7月28日引用]. 入手可能: https://www.nanbyou.or.jp/entry/4735
  6. 株式会社花王. 【医師監修】新生児のうんち、母乳・ミルク・混合でどう違う … [インターネット]. [2025年7月28日引用]. 入手可能: https://www.kao.co.jp/merries/kosodate-lab/useful/002/
  7. 愛媛県医師会. 赤ちゃんのうんち、 どう? [インターネット]. [2025年7月28日引用]. 入手可能: http://www1.ehime.med.or.jp/epa/booklet/baby%20poo.pdf
  8. 日本医師会. 気になる子どもの症状:血便 [インターネット]. [2025年7月28日引用]. [リンク切れの可能性あり]
  9. World Health Organization. Guideline for complementary feeding of infants and young children 6-23 months of age [インターネット]. [2025年7月28日引用]. 入手可能: https://www.who.int/publications/i/item/9789240081864
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