赤ちゃんの夜泣き対策：原因・いつからいつまで・専門家が教える改善法

赤ちゃんの夜泣きとは？

夜泣き（夜驚症とは異なり、睡眠中に泣き出すこと）は、多くの保護者が直面する育児の大きな課題の一つです。医学的に明確な定義はありませんが、一般的には、明らかな原因（空腹、おむつが汚れている、病気など）がないにもかかわらず、夜間の睡眠中に赤ちゃんが泣き出し、なかなか泣き止まない状態を指します⁹。これは、赤ちゃんの成長過程における自然な現象の一部であり、多くの場合、病的なものではありません。しかし、その激しい泣き声は保護者の睡眠を妨げ、深刻なストレスや育児不安の原因となることもあります。

夜泣きが始まる時期と続く期間

夜泣きは、生まれた直後から始まるわけではありません。通常、生後数週間から数ヶ月で始まり、その期間は赤ちゃんによって大きく異なります¹⁰。米国の研究者バリー・ブラゼルトン博士らが提唱した「泣きのカーブ（Crying Curve）」によると、赤ちゃんの泣きの量は生後数週間で増加し始め、生後2ヶ月頃にピークを迎え、その後、生後4〜5ヶ月にかけて徐々に減少していくとされています³。この時期の泣きは、赤ちゃんが新しい環境に適応していくための正常な発達過程の一部と理解することが、保護者の心理的負担を軽減する上で重要です。
では、この夜泣きはいつまで続くのでしょうか。育児メディアCozreが実施したアンケート調査によれば、約44%の赤ちゃんが3ヶ月以内に夜泣きを終える一方で、半年から1年、あるいはそれ以上続くケースも30%以上存在します⁴。乳幼児睡眠の専門家である清水悦子氏は、適切な介入がなければ、多くの場合で夜泣きが2〜3歳まで長引く可能性があり、ある研究では介入なしの場合、3歳になっても半数以上で夜泣きが続いていたと指摘しています¹。このことから、夜泣きは「時が経てば自然に治る」と放置するのではなく、積極的に関わり、赤ちゃんと家族にとってより良い睡眠環境を築いていくことが大切であると言えます。

夜泣きはなぜ起こるの？主な原因を解説

赤ちゃんの夜泣きは、決して単一の原因で起こるわけではありません。多くの場合、以下の要因が複雑に絡み合って生じます¹¹。原因を多角的に理解することで、より的確な対策を講じることが可能になります。

これらの原因を理解することは、夜泣き対策の第一歩です。例えば、赤ちゃんの泣き声が「寝言泣き」のようであれば、すぐに抱き上げずに2〜3分様子を見るという対応が有効な場合があります¹。一方で、甲高い激しい泣き声が続く場合は、何らかの不快感や体調不良のサインかもしれません¹⁵。このように、赤ちゃんの様子を注意深く観察し、原因を探ることが重要になります。

専門家が推奨する夜泣き対策【基本編】

赤ちゃんの夜泣き対策において、最も重要で基本的なアプローチは「生活リズムの確立」と「睡眠環境の最適化」です。これらは、特定のテクニックというよりも、赤ちゃんの体内時計を整え、安心して眠れる土台を作るための継続的な取り組みです。多くの専門家が、これらの基本を徹底することの重要性を強調しています¹⁵¹⁰。

生活リズムを整える

人間の体には、約24時間周期の体内時計（サーカディアンリズム）が備わっていますが、生まれたばかりの赤ちゃんはまだこのリズムが確立されていません¹²。生活リズムを整える目的は、この体内時計を正常に機能させ、夜に自然な眠気が訪れるように導くことです。

• 朝の習慣： 毎朝決まった時間（できれば7時頃まで）にカーテンを開け、太陽の光を浴びさせましょう¹。光を浴びることで体内時計がリセットされ、一日の活動モードが始まります。
• 日中の過ごし方： 日中は、月齢に合わせて適度な運動や遊びを取り入れ、活発に過ごさせましょう¹。お散歩や外気浴も効果的です。ただし、過度な刺激は夜の興奮につながるため、休息時間とのバランスが大切です。また、夕方以降（特に午後5時以降）の長すぎる昼寝は、夜の寝つきを悪くする可能性があるため注意が必要です¹⁵。
• 夜の習慣（入眠儀式）： 就寝時間の30分〜1時間前から、入眠に向けた一連の静かな活動（入眠儀式）を始めます。例えば、「お風呂 → 保湿ケア → パジャマに着替える → 絵本を読む → 静かな音楽を聴く → 就寝」といった流れを毎日繰り返すことで、赤ちゃんは「これから寝る時間だ」と認識しやすくなります¹¹⁶。この時間は、専門家が「イチャイチャタイム」と呼ぶような、親子のスキンシップを深める大切な時間でもあります¹。
• 電子機器の制限： テレビ、スマートフォン、タブレットなどの画面から発せられるブルーライトは、睡眠を促すホルモン「メラトニン」の分泌を抑制します²。就寝前の1〜2時間は、これらの電子機器の使用を避けることが強く推奨されます¹⁰。

安心できる睡眠環境を作る

赤ちゃんが心地よく、そして安全に眠るためには、寝室の環境を整えることが不可欠です。物理的な不快感を取り除き、安全を確保することが、質の高い睡眠につながります。

• 温度と湿度： 赤ちゃんは体温調節機能が未熟です。寝室の温度は、大人が少し涼しいと感じる程度の20〜22℃、湿度は50〜60%が理想とされています⁵¹⁷。エアコンや加湿器を適切に使い、快適な環境を保ちましょう。
• 光と音： 寝室はできるだけ暗く、静かにすることが基本です²。遮光カーテンを利用するのも良いでしょう。もし常夜灯を使う場合は、赤ちゃんの目に直接光が入らない間接照明で、暖色系のものを選びます¹⁸。生活音などが気になる場合は、ホワイトノイズマシンや特定のアプリの音を活用することも一つの方法です¹⁹。
• 寝具の安全性： これは最も重要な項目の一つです。SIDS（乳幼児突然死症候群）のリスクを減らすため、以下の点を必ず守ってください。
  • 仰向け寝の徹底： 1歳になるまでは、昼寝でも夜の睡眠でも、必ず仰向けで寝かせてください⁵⁷²⁰。これはSIDS予防の最も効果的な方法です。
  • 硬めのマットレスを使用： 赤ちゃんの顔が沈み込むような柔らかい敷布団やマットレスは窒息の危険があります。適度な硬さのあるベビー用のものを選びましょう⁵。
  • ベッド周りには何も置かない： 枕（ドーナツ枕含む）、ぬいぐるみ、厚手の掛け布団、ベッドバンパー（柵のクッション）など、窒息の原因となりうる柔らかいものは、赤ちゃんの睡眠スペースからすべて取り除きます⁵⁷。

夜泣きへの具体的な対応方法

生活リズムや環境を整える「守りの対策」と並行して、実際に赤ちゃんが泣き出してしまった際の「攻めの対策」も知っておくことが大切です。ここでの目標は、赤ちゃんを安全に、そして効果的に落ち着かせ、再び眠りに導くことです。保護者の冷静な対応が、赤ちゃんの安心感につながります。

夜泣きした時のステップ別対応

1. まずは数分間、様子を見る： 赤ちゃんが少しうなったり、くずったりし始めたとき、すぐに介入しないことが重要です⁵。これは「寝言泣き」かもしれませんし、赤ちゃんが自力で次の睡眠サイクルに入るための練習をしている可能性もあります。専門家は2〜3分待つことを推奨しています¹。ここで慌てて抱き上げると、かえって完全に起こしてしまうことがあります¹¹。
2. 静かに、優しくアプローチする： 泣き声が続き、助けが必要だと判断したら、静かに赤ちゃんのそばへ行きます。まずは、胸や背中を優しくトントンと叩いたり、「大丈夫だよ」と静かな声で話しかけたりします⁵。この段階で落ち着くこともよくあります。
3. 原因を確認する： 部屋が暑すぎたり寒すぎたりしないか、おむつは汚れていないか、衣服が体に食い込んでいないかなど、明らかな不快感の原因がないか素早く確認します²。
4. 抱き上げて安心させる： 上記の方法で泣き止まない場合は、優しく抱き上げます。縦抱きで赤ちゃんの体を密着させ、ゆっくりと揺らしたり、部屋を歩いたりすることで安心感を与えることができます²。
5. 授乳を検討する： 月齢が低い場合や、最後の授乳から時間が経っている場合は、空腹が原因の可能性があります。その場合は授乳をしましょう¹²。ただし、毎回泣くたびに授乳することが癖にならないよう、他の原因も探ることが大切です。

やってはいけないNG対応と注意点

赤ちゃんが泣きやまないと、つらくていらいらするかもしれません。でも、激しく揺さぶらないでください。

夜泣き対応で心身ともに疲れていると、ついやってしまいがちな行動が、状況をさらに悪化させることがあります。以下の点は特に注意してください。

• 激しく揺さぶる（絶対禁止）： これが最も重要な警告です。どんなに泣き止まなくても、赤ちゃんを激しく揺さぶることは絶対にしないでください。赤ちゃんの脳は非常にデリケートで、激しい揺さぶりによって「乳幼児揺さぶられ症候群（Shaken Baby Syndrome）」を引き起こし、重い障害が残ったり、最悪の場合は命を落としたりする危険があります²⁸。
• 大きな音を立てたり、怒鳴ったりする： 保護者のイライラは赤ちゃんに伝わり、さらに不安にさせてしまいます。大きな声や物音は、赤ちゃんを驚かせ、興奮させるだけです。
• 明るい照明をつける： 夜中に煌々と電気をつけると、赤ちゃんの体内時計が乱れ、「朝だ」と勘違いしてしまいます¹⁷。対応はできるだけ暗い中で行いましょう。
• スマートフォンやテレビを見せる： ブルーライトの刺激は、赤ちゃんを覚醒させてしまいます。安易に動画などで気を引こうとするのは避けましょう¹⁰。

夜泣き対策【応用編】知っておくと役立つこと

基本的な対策に加えて、いくつかの応用的なアプローチやアイテムが、特定の状況で役立つことがあります。赤ちゃんの個性や月齢に合わせて試してみましょう。

夜間の授乳（夜間断乳）について

生後6ヶ月を過ぎ、離乳食が順調に進んでくると、夜間の授乳は栄養補給というよりも、精神的な安心感や入眠の癖のためだけになっている場合があります。この段階で夜泣きが頻繁な場合、「夜間断乳（やかん だんにゅう）」を検討する家庭もあります。夜通し眠るためには、夜中の授乳なしで眠る習慣をつけることが重要だという考え方です¹⁰。しかし、夜間断乳は赤ちゃんの成長段階や個性に合わせて慎重に行う必要があり、実行する前には必ずかかりつけの小児科医や助産師に相談してください。

赤ちゃんを落ち着かせる音やアイテム

• 音の活用： 「シー」という音やビニール袋をくしゃくしゃさせる音は、赤ちゃんがお母さんのお腹の中で聞いていた音に似ていると言われ、安心させる効果があるとされています⁸。また、ホワイトノイズを流すアプリ（例：「ぐっすリンベビー」¹⁹）や、静かなオルゴール曲なども有効な場合があります¹⁶。ただし、聴覚に影響が出ないよう、音量は控えめにし、長時間使い続けないようにしましょう。
• トッポンチーノ： モンテッソーリ教育で用いられる、赤ちゃん用の小さな楕円形の布団です。抱っこする時も寝かしつける時もこのトッポンチーノごと行うことで、ベッドに下ろした際の背中の温度や匂いの変化を最小限に抑え、「背中スイッチ」の発動を防ぐ助けになると言われています¹⁴。

夜泣きが続く・心配な時の相談窓口

ほとんどの夜泣きは成長の一過程ですが、中には病気が隠れている場合や、保護者が心身の限界を感じている場合もあります。以下のような状況では、ためらわずに専門家に相談してください²。

• 夜泣きが異常に激しく、何をしても全く泣き止まない。
• 発熱、嘔吐、下痢、けいれん、呼吸がおかしいなど、他の気になる症状を伴う。
• 体重がなかなか増えない、顔色が悪いなど、普段と様子が違う。
• 保護者自身が、不眠やストレスで精神的に追い詰められている、赤ちゃんを可愛いと思えない、手を上げてしまいそうになるなど、限界を感じている。

相談先としては、かかりつけの小児科、地域の保健センター、子育て支援センターなどがあります。一人で抱え込まず、専門家の助けを借りることは、赤ちゃんと自分自身を守るための大切な行動です。

パパ・ママ自身のケアも大切

夜泣き対応の終わりが見えない日々は、保護者の体力を奪い、精神をすり減らします。しかし、保護者が倒れてしまっては、元も子もありません。赤ちゃんのケアと同じくらい、ご自身のケアも大切にしてください²。パートナーと協力し、夜中の対応を交代制にする、昼間に赤ちゃんが寝ている時間は一緒に休む、家事を完璧にこなそうとしないなど、意識的に休息を取ることが重要です。時には家族や友人、ベビーシッターなどのサポートも活用し、自分のための時間を作ることも忘れないでください。

よくある質問

結論

赤ちゃんの夜泣きは、保護者にとって計り知れないほどの試練ですが、それは赤ちゃんの成長に不可欠な過程の一部でもあります。重要なのは、夜泣きを「問題行動」として捉えるのではなく、赤ちゃんの「コミュニケーション」として理解しようと努めることです。この記事で紹介したように、生活リズムを整え、安全な睡眠環境を作り、保護者が冷静に対応するという基本を忠実に実行することが、解決への最も確実な道です。そして何よりも、SIDSや揺さぶられ症候群といった危険から赤ちゃんを守るための知識を、常に心に留めておいてください。一人で、また家族だけで抱え込まず、地域や専門家のサポートを積極的に活用してください。この困難な時期を乗り越えた先には、赤ちゃんの健やかな成長と、家族の絆の深まりが待っています。