赤ちゃんの肌とビタミンE:効果は本当?皮膚科医が日本の最新ガイドラインと研究に基づき徹底解説
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赤ちゃんの肌とビタミンE:効果は本当?皮膚科医が日本の最新ガイドラインと研究に基づき徹底解説

生まれたばかりの赤ちゃんの、きめ細やかでやわらかな肌。それは誰もが守ってあげたいと願う宝物です。しかし、その繊細さゆえに、赤ちゃんの肌は乾燥や湿疹などのトラブルを起こしやすいという側面も持っています。多くの保護者の皆様が、我が子の肌をすこやかに保つため、日々のスキンケアに心を配り、より良い製品を探し求めていることでしょう。その中で、「ビタミンE」配合のベビー向けスキンケア製品が注目を集めています。「若返りのビタミン」とも呼ばれ、抗酸化作用で知られるビタミンEは、赤ちゃんのデリケートな肌にも良い効果をもたらすのでしょうか?それとも、それは単なるマーケティング上の謳い文句なのでしょうか?この記事では、JAPANESEHEALTH.ORGの編集委員会が、日本の主要な医学会が発表した最新の診療ガイドラインと、国内外の信頼できる科学的研究に基づいて、「赤ちゃんの肌とビタミンE」に関する疑問を徹底的に解明します。この記事を読み終える頃には、保護者の皆様は、科学的根拠に基づいた正しい知識を身につけ、自信を持って我が子のためのスキンケアを選択できるようになるでしょう。

この記事の要点まとめ

  • 赤ちゃんの皮膚は非常にデリケートで、バリア機能が未熟なため、トラブルを起こしやすい状態にあります。
  • 日本の最新研究により、新生児期からの徹底した保湿ケアがアトピー性皮膚炎の発症リスクを3割以上低下させることが証明されています。3
  • 日本皮膚科学会の公式ガイドラインは、アトピー性皮膚炎予防のために、新生児期からの保湿剤の全身塗布を「強く推奨」しています。11
  • ビタミンEは、主にアトピー性皮膚炎の「治療」において有効性を示唆する研究がありますが、健康な新生児の「予防」目的での有効性に関する強い科学的根拠は現時点ではありません。14
  • 赤ちゃんのスキンケア製品を選ぶ際は、「ビタミンE配合」という点よりも、香料や不要な添加物がなく、成分がシンプルであることを優先すべきです。

日本の専門家が推奨する、すこやかな赤ちゃんの肌の基礎

ビタミンEという特定の成分について議論する前に、まず最も重要な土台となる知識を共有する必要があります。それは、日本の皮膚科学やアレルギー学の専門家たちが、現在、赤ちゃんのスキンケアについて何を「最重要」と考えているかです。驚くべきことに、その答えは非常にシンプルであり、そして科学的に証明されています。

現代の赤ちゃん観:肌は「思っている以上にデリケート」

「赤ちゃんの肌はみずみずしくてプルプル」というイメージがありますが、医学的な観点から見ると、それは非常に脆弱な状態にあります。ある情報源によると、乳幼児の皮膚は、大人の皮膚の約半分の厚さしかありません。1 さらに、皮膚の表面を覆い、外部の刺激や乾燥から肌内部を守る「皮脂」の分泌は、生後3ヶ月頃を境に急激に減少します。この皮脂と角質層からなる「皮膚バリア機能」が未熟なため、赤ちゃんの肌は水分を保持する力が弱く、気温や湿度の変化、ハウスダストといったわずかな刺激にも敏感に反応してしまうのです。1
このバリア機能の脆弱性が、乳児湿疹やアトピー性皮膚炎といった皮膚トラブルの大きな原因となります。コクラン・ライブラリーの報告によれば、アトピー性皮膚炎は、かゆみを伴う湿疹が慢性的に繰り返される炎症性の皮膚疾患で、日本を含む先進国では子どもの15~20%が罹患しているというデータもあります。2 これはもはや、一部の子どもだけの問題ではなく、多くの家庭にとって身近な課題となっているのです。

予防医学のブレークスルー:「プロアクティブ(積極的)保湿」の力

これまで、赤ちゃんのスキンケアは「何かトラブルが起きたら対処する」という考え方が主流でした。しかし、近年の日本の研究が、この常識を大きく覆しました。
日本の小児アレルギー研究を牽引する国立成育医療研究センター(NCCHD)は、世界に先駆けて画期的な臨床研究の結果を発表しました。それは、「新生児期から全身に保湿剤を塗布することで、アトピー性皮膚炎の発症リスクが3割以上低下する」というものです。3 厚生労働科学研究費補助金による研究報告書にも詳述されているこのランダム化比較試験では、アトピー性皮膚炎の家族歴があるハイリスクの新生児を対象に、生後すぐから毎日保湿剤(この研究では白色ワセリンが使用された)を塗るグループと、そうでないグループを比較しました。4 その結果、保湿ケアを徹底したグループの方が、明らかにアトピー性皮膚炎を発症しにくかったのです。
この発見は、単に肌をきれいにするという美容的な意味合いを超えて、アレルギー疾患全体の予防につながる可能性を示唆しています。5 皮膚のバリア機能が低下して炎症が起きると、そこから食物などのアレルゲンが体内に侵入し、感作(アレルギー反応を起こす準備ができてしまうこと)が成立しやすくなります。これが、アトピー性皮膚炎の子どもが食物アレルギーを発症しやすい理由の一つと考えられています(経皮感作)。6 つまり、新生児期からの徹底した保湿ケアで皮膚のバリア機能を正常に保つことは、アトピー性皮膚炎の発症を防ぐだけでなく、その先にある食物アレルギーなどの「アレルギーマーチ」を食い止めるための第一歩となりうるのです。7
同センターの高松医師がメディアの取材に対し「肌をツルツルにしてアトピーがスタートしなければ、アレルギーの悩みを少しでも防げるのでは」と語るように、日々の保湿ケアは、赤ちゃんの将来の健康を守るための、極めて重要な「予防医療」なのです。8

公式見解:日本皮膚科学会診療ガイドライン(2024年版)の推奨

国立成育医療研究センターの発見は、個別の研究成果にとどまらず、日本の皮膚科診療における最高権威である公益社団法人日本皮膚科学会と、一般社団法人日本アレルギー学会が共同で作成する「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」にも明確に反映されています。910
2024年に改訂された最新のガイドラインでは、新生児期からの保湿剤外用がアトピー性皮膚炎の発症予防に推奨されるかという問い(クリニカルクエスチョン)に対し、「強く推奨する」という最高レベルの評価が与えられています(推奨度1、エビデンスレベルA)。11
これは、日本の皮膚科医や小児科医が従うべき「標準治療」の指針であり、その内容は極めて具体的です。

  • 推奨される保湿剤の種類:皮膚の水分含有量を改善し、バリア機能を回復・維持するために、ヘパリン類似物質含有製剤や尿素製剤、そして皮膚を保護する作用のある白色ワセリンなどが推奨されています。11
  • 塗布の頻度とタイミング:1日1回よりも、朝と夕方の1日2回の塗布が効果的です。特に、入浴後は皮膚が水分を多く含んでいるため、蒸発を防ぐためにも「入浴後5分以内」を目安に速やかに塗布することが望ましいとされています。8
  • 塗布する範囲と量:アトピー性皮膚炎の患者の皮膚は、一見正常に見える部分も乾燥しているため、保湿剤は湿疹のある部分だけでなく、全身に塗布することが推奨されます。量は「肌がぴかっと光る程度」にたっぷりと、指先で優しく伸ばします。8

ここで極めて重要な点は、これらの最も権威ある日本のガイドラインにおいて、新生児のアトピー性皮膚炎予防を目的としたスキンケアの項目で、「ビタミンE」に関する具体的な推奨や言及が一切ないということです。これは、専門家たちがビタミンEを軽視しているわけではありません。医学の世界では、ある治療法や成分をすべての人(特に健康な新生児)に推奨するためには、その有効性と安全性が極めて高いレベルの科学的根拠によって証明されている必要があります。現在のところ、ビタミンEはその基準を満たすほどのデータが揃っていない、というのが専門家たちの一致した見解なのです。この「専門家による意図的な沈黙」を理解することが、ビタミンEの役割を正しく位置づけるための鍵となります。

表1:日本皮膚科学会ガイドラインに基づく赤ちゃんのスキンケア要約11
推奨項目 ガイドラインの要約 理由
保湿剤の塗布 新生児期から、正常に見える部位も含め全身に、1日2回(入浴後を含む)塗布することを強く推奨。 皮膚バリア機能を維持・回復させ、水分蒸散を防ぎ、アレルゲンの侵入を予防するため。アトピー性皮膚炎の発症リスクを低減する。
入浴・シャワー浴 毎日行い、皮膚を清潔に保つ。湯温は38~40℃が至適。熱すぎる湯は皮脂を奪い、かゆみを誘発するため避ける。 皮膚の汚れや汗、アレルゲンを除去し、清潔を保つ。入浴は皮膚に水分を補給する絶好の機会でもある。
洗浄剤の使用 低刺激性・低アレルギー性で、色素や香料などの添加物が少ないものを選ぶ。よく泡立て、手で優しく洗い、十分にすすぐ。 過剰な皮脂や汚れを落とすが、皮膚への刺激は最小限に留める。洗浄剤のすすぎ残しは刺激の原因となる。
治療との関係 湿疹が改善した後も、保湿剤の継続使用は再燃予防に有効。ステロイド外用薬と保湿剤の自己判断での混合は避ける。 寛解状態を維持し、皮膚のバリア機能を安定させるため。薬剤の安定性や吸収性が変化する可能性があるため。

ビタミンEと赤ちゃんの肌:科学的根拠を分析する

第一部では、日本の専門家が推奨するスキンケアの基本が「徹底した保湿」にあることを確認しました。では、巷で話題の「ビタミンE」は、赤ちゃんの肌にとってどのような役割を果たすのでしょうか?ここでは、マーケティングの言葉と科学的な事実を切り分け、冷静にエビデンスを分析していきます。

ビタミンEとは何か?なぜスキンケア製品に含まれるのか?

ビタミンEは、化学的には「トコフェロール」や「トコトリエノール」といった化合物の総称で、脂溶性ビタミンの一種です。その最もよく知られた働きは「抗酸化作用」です。12 私たちの体は、呼吸によって取り入れた酸素を利用する過程で、細胞を傷つける「活性酸素」を生成します。ビタミンEは、この活性酸素から細胞膜などを守る働きがあり、体の酸化(いわばサビつき)を防いでくれます。この強力な抗酸化作用から、ビタミンEは「若返りのビタミン」とも呼ばれ、特に成人向けのアンチエイジング化粧品に広く利用されてきました。13 肌においては、紫外線などの外部刺激によって発生する活性酸素から肌細胞を守り、シミやシワの予防に役立つとされています。12 さらに、血行を促進する作用もあり、肌の新陳代謝をサポートして、くすみの改善やターンオーバーを正常に保つ効果も期待されています。13 このような成人向けのスキンケアにおける有益なイメージが、「デリケートな赤ちゃんの肌にも良いのではないか」という期待につながり、ベビー製品にも配合されるようになったと考えられます。

赤ちゃんの肌へのビタミンE塗布:エビデンスの多角的な検証

では、実際にビタミンEを赤ちゃんの肌に塗布した場合の効果について、科学的な研究はどのような結果を示しているのでしょうか。ここでは、有望なエビデンス、注意を促すエビデンス、そして中立的なエビデンスを多角的に見ていきます。

【有望なエビデンス:治療目的での有効性】

ビタミンEに関する最も注目すべき肯定的な研究は、2023年に医学論文データベースPubMedに掲載されたものです。14 この研究では、ビタミンEの一種であるトコトリエノールを豊富に含む保湿剤の効果が検証されました。

  • 対象:生後1ヶ月から12歳までの、軽症から中等症のアトピー性皮膚炎と診断された子ども 30名。
  • 結果:12週間の使用後、医師による総合評価(IGA)、患者目線での重症度スコア(PO-SCORAD)、そして客観的な重症度スコア(SCORAD)が、いずれも統計的に有意に改善しました。かゆみの強さも46%減少し、ステロイド外用薬(ヒドロコルチゾン1%)の使用量も55%削減されました。
  • 結論:この保湿剤は、幼児のアトピー性皮膚炎の管理において安全かつ有効であると結論づけられています。

この研究は、ビタミンE(特にトコトリエノール)が、すでに発症しているアトピー性皮膚炎の症状を和らげる上で、有望な選択肢となりうることを示唆しています。これは、炎症を抑え、皮膚の状態を改善したいと願う患者とその家族にとって朗報と言えるでしょう。

【注意を促すエビデンス:アレルギー性接触皮膚炎のリスク】

一方で、ビタミンEにはごくまれにアレルギー反応を引き起こす可能性があることも知られています。ビタミンE(トコフェロール)は、「アレルギー性接触皮膚炎(ACD)」の原因物質(アレルゲン)の一つとして報告されています。2010年に発表されたレビュー論文では、過去の報告を調査し、ビタミンEによるACDは、その使用の広さに比してまれな現象であると結論づけています。15 しかし、同年の別の研究では、米国のメイヨー・クリニックでパッチテストを受けた患者2,950人のうち、0.61%にあたる18人がビタミンEに陽性反応を示したことが報告されており、まれではあるものの、接触アレルゲンとして存在することは確かです。16 これは、ほとんどの赤ちゃんにとっては問題にならない可能性が高い一方で、特定の赤ちゃんにとっては、ビタミンE配合製品が肌トラブルの原因となりうることを意味します。

【中立的なエビデンス:予防目的でのデータ不足】

最も重要な点は、健康な新生児の皮膚トラブルを「予防」する目的でビタミンEを塗布することの有効性を示した、質の高い研究が現状では見当たらないことです。アトピー性皮膚炎の治療法に関する膨大な研究をレビューしているコクラン・ライブラリーの報告でも、ビタミンEが主要な予防法や治療法として強く推奨されるには至っていません。17 これは、第一部で述べた日本のガイドラインがビタミンEに言及していないことと一致します。
ここで、医学的に極めて重要な「治療と予防の区別」を理解する必要があります。ある成分が、すでに発症した病気(アトピー性皮膚炎)の症状を和らげるのに有効だったとしても(治療的効果)、それが健康な人がその病気になるのを防ぐ効果があるとは限りません(予防的効果)。2023年の研究14が示したのは、あくまで治療的効果です。健康な新生児全員にビタミンEを塗布することが、白色ワセリンのような単純な保湿剤を塗布すること以上にアトピー性皮膚炎の予防に繋がる、という科学的根拠は、現時点では存在しないのです。

結論:赤ちゃんの保湿剤にビタミンEは必要か?

これまでの科学的根拠を総合的に判断すると、次のような結論が導き出されます。適切に処方された、刺激の少ないベビー用保湿剤にビタミンEが含まれていること自体は、ほとんどの赤ちゃんにとって懸念材料にはなりません。むしろ、その抗酸化作用が何らかの有益な効果をもたらす可能性はあります。しかし、保護者の皆様がアトピー性皮膚炎の予防を第一に考えるのであれば、ビタミンEは、積極的に探し求めるべき主要成分ではありません。スキンケアの根幹は、あくまで日本皮膚科学会が強く推奨するような、シンプルかつ効果が証明された保湿剤(例:白色ワセリンなど)による「徹底した保湿」です。製品を選ぶ際には、「ビタミンE配合」というマーケティングの謳い文句に惹かれるのではなく、香料や不要な添加物が含まれていないか、成分リストがシンプルか、信頼できるメーカーの製品か、といった点を優先すべきです。

赤ちゃんのための実践スキンケア:ステップ・バイ・ステップガイド

科学的な知識を学んだところで、次はその知識を日々の生活に活かすための具体的な方法を見ていきましょう。ここでは、保湿剤の選び方から正しい塗り方まで、誰でもすぐに実践できるステップを詳しく解説します。

正しい保湿剤の選び方:ラベルの向こう側を見抜く

ドラッグストアやオンラインショップの棚には、無数のベビー用保湿剤が並んでいます。その中から最適な一つを選ぶのは、至難の業に思えるかもしれません。しかし、ポイントさえ押さえれば、選択はぐっと楽になります。まず、第一部で確認した日本皮膚科学会のガイドラインを思い出しましょう。推奨されているのは、皮膚をしっかり保護する「白色ワセリン」や、水分を保持する「ヘパリン類似物質」など、効果が確立された成分です。11
次に、店頭で製品を手に取った際のチェックポイントです。多くの製品には「天然由来」「オーガニック」「敏感肌用」といった魅力的な言葉が並んでいます。18 また、日本では伝統的に「馬油」を配合した製品も人気があります。19 これらの言葉に安心感を覚えるかもしれませんが、最も重要なのはパッケージの裏にある「全成分表示」です。注目すべきは、「何を配合しているか」よりも「余計なものを配合していないか」です。特に、香料、着色料、一部の植物エキスなどは、赤ちゃんの肌にとって刺激となる可能性があります。
ある商業ブログでは「まずお母さんの肌で試してみて」という実用的なアドバイスが紹介されていますが、これは良い習慣です。1 新しい製品を試す際は、まず赤ちゃんの腕の内側などの目立たない部分に少量塗り、24時間ほど様子を見て、赤みやかゆみが出ないかを確認する「パッチテスト」を行うと、より安心です。

表2:赤ちゃんの保湿成分の比較と選び方
成分の種類 主な機能 ガイドラインでの推奨度(予防目的) こんな赤ちゃんに
白色ワセリン 保護膜形成(Occlusive) 強く推奨 すべての新生児の予防ケアの基本として。特に乾燥から肌をしっかり守りたい場合に。
ヘパリン類似物質 水分保持(Humectant)、血行促進 推奨 乾燥が強く、肌がごわごわしている場合に。医師の処方で入手可能。
セラミド バリア機能修復 予防目的では言及なし 肌のバリア機能が低下していると感じる場合に。保湿剤の補助成分として。
ビタミンE 抗酸化 予防目的では言及なし 必須ではないが、刺激の少ない製品に配合されていれば、抗酸化効果が期待できる。

塗布の技術:いつ、何を、どれくらい?

最適な保湿剤を選んだら、次はその効果を最大限に引き出すための「塗り方」です。これもまた、いくつかの簡単なルールを守るだけで、効果が大きく変わってきます。

  • タイミングは「入浴後5分以内」と「朝の着替え時」の1日2回
    最も重要なのは、お風呂上がりです。入浴後の肌は水分をたっぷり含んだスポンジのような状態ですが、何もしないと10分後には入浴前より乾燥してしまう「過乾燥」という状態に陥ります。そのため、タオルで優しく水気を押さえるように拭いたら、間髪入れずに、理想的には5分以内に保湿剤を塗布しましょう。8 そして、もう一回、朝の着替えのタイミングで塗ることで、一日中うるおいを保つことができます。
  • 量は「肌がぴかっと光るくらい」たっぷりと
    保湿剤の使用量は、つい控えめになりがちですが、専門家は「たっぷりと」塗ることを推奨しています。目安は、塗った後の肌がテカテカと光って見えるくらいです。8 具体的な量としては、大人の人差し指の第一関節までチューブから出した量(約0.5g、これを1フィンガーティップユニットと呼びます)で、大人の手のひら2枚分の面積を塗るのが適量とされています。11 ある市販製品のウェブサイトでは、赤ちゃんの場合は、各パーツ(顔、片腕、お腹など)ごとに、保護者の手のひらに500円玉大に広がるくらいの量が目安であると説明されています。20
  • 塗り方は「優しく、すみずみまで」
    ゴシゴシと強くすり込むのは禁物です。保湿剤を手のひらで少し温めてから、赤ちゃんの肌に優しく置くように塗り広げます。特に、乾燥しやすい口のまわりや、汗がたまりやすい首のシワ、刺激を受けやすい耳のつけ根なども忘れずに丁寧に塗りましょう。20 全身に塗ることで、見えない乾燥からも肌を守ることができます。

よくある質問

Q1: 「天然」や「オーガニック」のビタミンE製品は、赤ちゃんにとってより安全ですか?
「天然」や「オーガニック」という言葉は、法的に厳密な定義があるわけではなく、多くはマーケティング用語として使われています。ビタミンEの由来が天然か合成かということよりも、製品全体の処方の方がはるかに重要です。例えば、「天然成分100%」を謳っていても、赤ちゃんによっては刺激となりうる植物エキスや精油(エッセンシャルオイル)が含まれている場合があります。選ぶべき基準は「天然」かどうかではなく、「肌に優しく、成分がシンプルであること」です。1
Q2: ビタミンEと馬油(バーユ)が混ざった製品を見かけます。良い組み合わせですか?
馬油は、日本では古くから使われている保湿成分で、人の皮脂に近い組成を持つため肌なじみが良いとされています。19 多くの方がその保湿効果を実感しており、ビタミンEとの組み合わせが必ずしも悪いわけではありません。しかし、アトピー性皮膚炎の予防という観点から最も強い科学的根拠があるのは、白色ワセリンのようなよりシンプルな成分であるという事実は変わりません。馬油配合製品は選択肢の一つですが、エビデンスに基づいた第一選択ではない、と理解しておくのが良いでしょう。
Q3: スキンケア製品を通して、赤ちゃんがビタミンEを過剰摂取することはありませんか?
ビタミンEの過剰摂取が問題となるのは、主にサプリメントなどによる経口摂取の場合です。化粧品として皮膚に塗布した場合、成分が体内に吸収される量はごくわずかであり、全身に影響を及ぼすような過剰摂取(全身毒性)のリスクは事実上ゼロと考えて問題ありません。懸念すべきリスクがあるとすれば、それは全身への影響ではなく、塗布した部分の皮膚に起こる局所的な刺激や、まれに起こるアレルギー性接触皮膚炎です。15
Q4: 赤ちゃんの肌に赤いカサカサした部分があります。ビタミンEクリームを使うべきですか?
これは非常に重要な質問です。もし赤ちゃんの肌に、単なる乾燥ではない、赤み、かゆみ、じゅくじゅくした湿疹などが見られる場合は、自己判断で市販のクリームを試すのではなく、まず小児科医または皮膚科医に相談してください。8 適切な診断を受けずにケアを続けると、かえって症状を悪化させたり、治療が遅れたりする可能性があります。医師は、症状に合わせて適切な治療薬(場合によっては軽度のステロイド外用薬など)や、治療に適した保湿剤を処方してくれます。その保湿剤には、研究で有効性が示されたような成分が含まれているかもしれません。14 鍵となるのは「推測せず、診断を受ける」ことです。
Q5: スキンケア、アトピー性皮膚炎、食物アレルギーの関係は?
これらは密接に関連しています。近年のアレルギー研究では「二重抗原曝露仮説」という考え方が主流です。これは、健康な状態であれば、食物は口から摂取されることで「免疫寛容(無害なものとして認識される)」が誘導されるのに対し、皮膚のバリア機能が壊れた場所から食物抗原(アレルゲン)が侵入すると、「感作(有害なものとして認識される)」が成立してしまう、という仮説です。つまり、湿疹のある肌にピーナッツの粉などが付着することで、ピーナッツアレルギーが発症する可能性があるのです。このため、新生児期からの徹底したスキンケアで皮膚のバリア機能を健全に保つことは、経皮感作を防ぎ、食物アレルギーを予防する上でも非常に重要だと考えられています。3

結論:お忙しい保護者の皆様へ、専門家からの最終アドバイス

ここまで、赤ちゃんのスキンケアとビタミンEに関する科学的根拠を詳しく見てきました。最後に、お忙しい保護者の皆様のために、最も重要なポイントをまとめます。

【キー・テイクアウェイ】

  • 基本がすべて:赤ちゃんの肌のためにできる最も重要で、科学的根拠のある行動は、生後すぐから、シンプルで香料の入っていない保湿剤を、1日2回、全身に塗布することです。
  • 日本の研究が世界をリード:この習慣は、日本のトップレベルの研究者たちによって、アトピー性皮膚炎の発症リスクを3割以上も低減させることが証明されています。
  • ビタミンEの役割は二次的:ビタミンEは有用な抗酸化物質ですが、日本の専門家たちが新生児の皮膚トラブル予防のために推奨する主要成分ではありません。その主な有効性は、すでに発症した軽度の湿疹の治療において示唆されているものです。
  • マーケティングより成分表示を:「ビタミンE配合」という言葉だけに惹かれるのではなく、成分がシンプルで、刺激物が含まれていない製品を選びましょう。
  • 迷ったら専門家へ:肌に湿疹や赤みが見られたら、ためらわずに医師の診察を受けてください。

【JAPANESEHEALTH.ORGからの最終推奨】
JAPANESEHEALTH.ORGは、日本および世界の最高品質の科学的根拠を徹底的にレビューした結果、白色ワセリンのような、基本に忠実で効果が証明された保湿剤を用いた一貫したスキンケア習慣を最優先することを推奨します。ビタミンEを含む製品が一般的に安全であることは事実ですが、それをこの基本的なケアの代わりと考えてはいけません。日本の優れた医療専門家たちが確立した科学を信頼し、赤ちゃんの肌に最高のスタートを切らせてあげてください。それが、将来のすこやかな肌と健康への、最も確実な投資となるでしょう。

免責事項
本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスを構成するものではありません。健康上の懸念がある場合、またはご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

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  20. 株式会社ナチュラルサイエンス. ベビーミルキーローション. [インターネット]. [引用日: 2025年6月23日]. Available from: https://www.natural-s.jp/sp/g/g519/
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