赤ちゃんの胎動完全ガイド:いつから?感じ方、数え方、そして「いつもと違う」ときの対処法まで徹底解説
妊娠

赤ちゃんの胎動完全ガイド:いつから?感じ方、数え方、そして「いつもと違う」ときの対処法まで徹底解説

妊娠という奇跡的な旅路において、お腹の中の赤ちゃんの存在を初めて物理的に感じる瞬間、それが「胎動」です。この小さな生命の合図は、多くの母親にとって感動的な体験であると同時に、赤ちゃんの健康状態を知らせる重要なバロメーターでもあります。しかし、初めての経験では「いつから始まるの?」「この感じ方は普通?」「動きが少ない気がする…」といった不安や疑問がつきものです。本稿では、JHO編集委員会が最新の医学研究と国内外の診療指針を徹底的に分析し、胎動の全貌を解き明かします。科学的根拠に基づき、胎動の定義から、妊娠週数ごとの変化、正しい数え方、そして「いつもと違う」と感じたときに取るべき具体的な行動まで、あらゆる疑問に答える包括的な情報をお届けします。この記事を読めば、あなたは赤ちゃんの言葉なきメッセージを深く理解し、自信を持って妊娠期間を過ごすことができるようになるでしょう。

この記事の科学的根拠

この記事は、ご提供いただいた研究報告書で明示的に引用されている、最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下に示すリストは、実際に参照された情報源と、提示された医学的ガイダンスへの直接的な関連性を示したものです。

  • 米国産科婦人科学会 (ACOG): 本稿における胎動カウントの推奨事項(例:「10回カウント法」で2時間以内に10回の動きが目安)は、ACOGが発行したガイドラインに基づいています。
  • 日本産婦人科医会 (JSOG): 妊娠後期の胎動が減少するという誤解の否定や、胎動減少時の医療機関への連絡推奨など、日本の臨床現場における指針は、JSOGの見解を参考にしています。
  • 英国国民保健サービス (NHS): 「赤ちゃん自身の正常なパターンを知ること」の重要性を強調するアプローチは、NHSが妊婦に提供しているガイダンスに基づいています。
  • Cochraneレビュー: 胎動カウントの有効性に関する科学的議論についての分析は、質の高い医学研究を評価することで知られるCochraneの系統的レビューの結果を引用しています。

要点まとめ

  • 胎動は赤ちゃんの生命の証: 胎動は、お腹の赤ちゃんの健康状態を示す最も直接的で重要な指標の一つです。
  • 赤ちゃんには個性がある: 他の妊婦と比較するのではなく、あなた自身の赤ちゃんの活動頻度、強さ、時間帯といった「いつものパターン」を把握することが最も重要です。
  • 「変化」と「減少」は違う: 妊娠後期に胎動の「種類」が変わる(キックから、うねるような動きへ)のは正常ですが、「回数」が著しく減ることはありません。出産直前でも胎動はなくなりません。
  • 客観的な確認ツール「10回カウント法」: 不安なときに赤ちゃんの状態を客観的に確認する方法として「10回カウント法」が有効です。国際的な目安は「2時間以内に10回の胎動」です。
  • 母親の直感を信じる: 回数を数えられても「いつもと違う」「何かがおかしい」と感じたら、その直感を信じて医療機関に相談することが重要です。

胎動とは?その医学的定義と生物学的意義

医学的に、胎動(Fetal movement)とは、子宮内にいる胎児の動きを母親が知覚できる現象として定義されます1。これは単なる感覚的な体験にとどまらず、胎児の神経筋系の健全な発達と全体的な生命力を反映する、極めて重要な臨床的指標です2

超音波検査の証拠によれば、胎児は妊娠7週から8週という非常に早い段階で体の動きを開始します1。妊娠12週にもなると、指をしゃぶるなどのより複雑な行動も見られるようになります3。しかし、この初期段階では、母親がこれらの動きを感じることはありません。胎児が動き始めてから母親がそれを感じ取るまでには、通常8週間から12週間という生理的な時間差が存在します。

この時間差の主な理由は、胎児の大きさと子宮内の環境にあります。妊娠初期の胎児は非常に小さく、その動きも微弱です4。加えて、胎児は比較的広々とした羊水腔に浮かんでおり、豊富な羊水が効果的な緩衝材として機能し、動きによる衝撃のほとんどを吸収してしまうため、子宮壁まで伝わりません4。したがって、妊娠初期に胎動を感じないのは完全に正常な生理現象です。この仕組みを理解することは、特に初産の母親が抱きがちな「赤ちゃんは動いていないのでは?」という不必要な不安を和らげる上で非常に価値があります。


初めての胎動:時期、感覚、そして個人差の理由

母親が赤ちゃんの最初の動き、いわゆる「胎動初覚」を感じる瞬間は、妊娠期間における忘れがたい記念碑となります。ほとんどの女性は、妊娠16週から22週の間に最初の胎動を感じると報告されています5。最も一般的に記録されている時期は、妊娠20週頃です1

初産の母親と経産の母親の違い

最初の胎動を感じる感覚は非常に繊細で、腸の蠕動運動やガスが移動する感覚と間違われやすいものです1。母親たちはこの感覚を「蝶々が羽ばたいているよう(蝶々が羽ばたいている)」、「小魚が泳いでいる感じ(小魚が泳いでいる)」、「泡がポコポコ弾ける(泡がポコポコ弾ける)」、あるいは「ポップコーンが弾けるよう(ポップコーンが弾ける)」といった詩的な表現で語ります1。また、「ウニョウニョ」とした動きや、リズミカルなしゃっくりとして初めて胎動を認識する人もいます6

胎動を感じる時期には、出産経験の有無が大きく影響します。初めて出産する初産婦(primiparous)は感覚に慣れていないため、胎動を感じるのが遅くなる傾向があり、平均して20週頃(19〜22週)です1。対照的に、出産経験のある経産婦(multiparous)は、一度経験した感覚を脳が記憶しているため、より早く、平均18週頃(16〜19週)に気づくことが多いです1。これは、赤ちゃんの成長速度の違いではなく、母親の経験と感受性の違いによるものです。

表1:初産婦と経産婦における胎動初覚の比較
特徴 初産婦 経産婦 科学的背景
平均時期 約20週 (19-22週)1 約18週 (16-19週)1 過去の経験により、微細なサインを早期に認識できる。
最初の感覚 曖昧で、腸の動きなどと混同しやすい1 初期から比較的明確に認識できることがある1 脳が前回の妊娠で胎動の感覚を「学習」している。
心理的影響 20週を過ぎても感じないと不安になりやすい。 個人差への理解があるため、比較的安心していられる。 経験が時期に関する不安を軽減する。

胎動の感じ方に影響するその他の要因

胎動の感じ方は、母親と胎児双方の様々な要因によって左右される複雑な信号です。これらの要因を理解することは、他者との比較による不必要な不安を避けるために重要です。

  • 母親側の要因:
    • 体型と腹壁の脂肪: 細身の女性や腹壁の皮下脂肪が薄い女性は、胎動をより早く、強く感じやすい傾向があります1。腹壁の脂肪は緩衝材として機能するため、厚い場合は感覚が鈍くなることがあります。ただし、肥満の女性でも胎動の知覚は可能ですが、合併症のリスクから胎動減少を報告する頻度が高い可能性も指摘されています7
    • 母親の活動レベル: 母親が活動的で忙しくしている間は、注意が外部に向けられているため、繊細な胎動に気づきにくいです1。リラックスしている時、特に横になっている時や就寝前に最も感じやすくなります。
  • 胎児・子宮側の要因:
    • 胎盤の位置: これは最も大きな影響要因の一つです。胎盤が子宮の前面(母親のお腹側)に付着している「前壁胎盤(anterior placenta)」の場合、胎盤が厚いクッションの役割を果たし、胎動が感じにくくなったり、感じ始める時期が遅くなったりすることがあります1
    • 羊水量: 羊水が少ないと胎児の動きが子宮壁に伝わりやすくなり、逆に多すぎると伝わりにくくなることがあります4
    • 胎児の姿勢: 赤ちゃんの背中が母親のお腹側を向いている場合、手足が母親の背中側を向くため、キックやパンチを強く感じやすくなります。

これらの要因を認識することは、「なぜ友人は自分より早く胎動を感じたのか?」といった社会的比較から生じる無用なストレスを防ぐ上で不可欠です。重要なのは、他人と比較することではなく、あなた自身の赤ちゃんの「いつもの正常なパターン」を学び、それに慣れることです。


妊娠週数別・胎動の変化と特徴

胎動は静的な現象ではなく、胎児の成長と発達を反映して、その強度、頻度、性質が絶えず変化していきます。この変化を理解することは、赤ちゃんからのメッセージを正しく解釈する助けとなります。

妊娠中期(16〜27週):胎動の「黄金期」

妊娠中期、特に20週以降は、胎動の「黄金期」と見なされます。この時期、ほとんどの母親は胎動を明確に、力強く、そして定期的に感じ始めます2。その理由は、胎児が動きの衝撃を伝えられるほど十分に大きくなり、かつ子宮内にはまだ自由に動き回れるスペースが豊富にあるためです3

この段階では、胎動の感覚は「ポコポコ」という微細な振動から、母親が容易に識別できる「ボコッボコッ」という力強いキックやパンチに変化します3。手足を伸ばしたり、体を回転させたりと、多彩な動きを見せてくれます2。その強さは、他の人が母親のお腹に手を当てることで感じられたり、時にはお腹の表面が動くのが目で見えたりするほどです3。母親と赤ちゃんの絆が、胎動を通じて最も明確に感じられる時期と言えるでしょう。

妊娠後期(28週以降):質の変化と注意点

妊娠後期に入ると、胎児は急速に成長し、その力も増していきます。胎動は依然として非常に力強く、時には母親に軽い痛みを与えたり、眠りを妨げたりすることもあります2。しかし、子宮内のスペースが狭くなるにつれて、胎動の「質」に顕著な変化が現れます。以前のような自由な宙返りや力強いキックの代わりに、手足をぐーっと伸ばしたり、ゆっくりと体を回転させたりする動きが主になります。これにより、「ぐにゅー」と内側から強く押されるような感覚が増えます28

ここで極めて重要なのは、「動きの種類の変化」と「回数の減少」を混同しないことです。「出産が近づくと胎動は減る」というのは、危険な俗説であり、医学的に全くの誤りです9。日本および国際的なすべての信頼できる医療ガイドラインは、動きの種類は変わるものの、胎動の頻度と存在は陣痛が始まるその時まで安定して維持されるべきだと断言しています8。胎動が突然著しく減少したり、消失したりすることは、常に深刻な警告サインであり、直ちに医療機関への連絡が必要です8

この時期(32〜35週頃)、胎児はより明確な睡眠と覚醒のサイクルを確立します。このサイクルは通常20〜40分、時には最大で75〜90分続くことがあります3。深い睡眠の段階では胎児はほとんど動かないため、一時的に静かな時間帯が生じますが、これは正常な生理現象です10

特別な胎動:赤ちゃんのしゃっくり

胎動の中でも、胎児のしゃっくりは多くの母親の好奇心や時に不安をかき立てる特別な現象です。医学的には「しゃっくり様運動」と呼ばれ、「ピクピクッ」あるいは「トクントクン」と表現される、心拍のように軽やかでリズミカルな痙攣として感じられます11。このしゃっくりは数分から30分近く続くこともあります12

生理学的に、胎児のしゃっくりは横隔膜の不随意な収縮によって引き起こされると考えられています。これは、出生後の呼吸機能のための「練習」の一環であり、正常な発達過程の一部と見なされています13。神経系と呼吸器系が成熟していることを示す良い兆候であり、胎児にとって何ら不快感や危険をもたらすものではありません13。しゃっくりはリズミカルで局所的な動きであるため、胎動カウントの際には通常、その回数に含めないとされています14


胎動で赤ちゃんの健康を見守る:具体的な行動計画

ここでは、理論的な知識を具体的な行動指針へと転換し、母親が赤ちゃんの健康を自身で監視し、適切なタイミングで医療的支援を求めるための明確なツールとプロセスを提供します。

「いつもと違う」に気づくことの重要性

胎動モニタリングの核心は、絶対的な回数を記録したり、他人と比較したりすることではありません。臨床的に最も価値があるのは、母親自身が「赤ちゃん自身の正常なパターン(いつもと同じか)」からの変化に気づく能力です10。胎動減少(Decreased Fetal Movement – DFM)は、胎児が危険な状態にあることを示す最も早期かつ重要な警告サインの一つです。研究によれば、死産に至ったケースの約半数で、その数日前に母親による胎動減少の自覚があったと報告されています15。胎児機能不全、酸素不足、胎盤の問題など、深刻な状態を示唆する可能性があるため、胎動のいかなる顕著な減少にも注意を払うことが不可欠です7

胎動カウントの方法と基準

胎動カウントは、母親が自宅で客観的に胎児の健康を監視するための、簡単で費用のかからない効果的な方法です16。産科医は通常、妊娠後期、多くは28週から32週頃にこの習慣を始めることを推奨します3

世界中の医療機関で最も広く推奨されている方法は「10回胎動カウント法(10-Count Method)」です。この方法の目的は、母親が10回の明確な胎動を感じるまでに要した時間を測定することです9

表2:「10回胎動カウント法」の詳細な手順
ステップ 詳細なガイダンス 参照
1. 準備 赤ちゃんが最も活発な時間帯(例:食後、夜)を選びます。静かでリラックスできる場所を見つけ、始める前にトイレを済ませます。 16
2. 姿勢 胎児への血流を最大化するため、左側を下にして横になるか、足を高くした楽な姿勢で座ります。お腹に手を当てて集中しやすくします。 9
3. 開始 時計を見て開始時刻を記録します。最初に感じた動きからカウントを始めます。 17
4. 数え方 キック、パンチ、回転、うねりなど、明確な動きをすべて数えます。「ボコボコボコ」といった連続した動きは1回と数えます。リズミカルなしゃっくり(ピクピク)は通常カウントに含めません。 18
5. 終了 10回の動きを感じたら、すぐに時計を止め、経過時間を記録します。 19
6. 解釈 結果を下記の「警報の閾値」と比較します。 20

いつ医療機関に連絡すべきか:警報の閾値と対応フロー

適切なタイミングで助けを求める方法を知ることは、母子の安全にとって極めて重要です。

警報の閾値(アラームサイン)

  • 日本の指針 (JSOGなど): 健康な胎児は通常15〜30分で10回の胎動があります。10回数えるのに2時間以上かかる場合は胎動減少と見なされ、医療機関への連絡が推奨されます20
  • 米国の指針 (ACOG): 2時間以内に10回の動きを感じられれば「安心できる(reassuring)」兆候とされます。この基準に達しない場合は、医師または助産師に連絡すべきです9

不安を感じたときの行動フローチャート

  1. 不安を感じたら、まず赤ちゃんを「起こして」みる: 冷たい飲み物や甘いジュースを飲む、軽食をとる、数分間歩き回るなどの方法を試します。これらは血糖値を上げたり環境を変化させたりして、赤ちゃんの活動を促すことがあります9
  2. 胎動カウントを実行する: 上記の方法を試した後、静かな場所で左側臥位になり、「10回カウント法」を開始します。最大2時間、計測します。
  3. 結果を評価し、行動する:
    • 2時間以内に10回カウントできた場合: これは良好で安心できるサインです。
    • 2時間経っても10回カウントできなかった場合: ためらわずに、すぐに病院、クリニック、または担当の助産師に電話して指示を仰いでください。
  4. 緊急の場合: 長時間(例:1〜2時間以上)にわたって全く動きを感じない場合、または赤ちゃんのいつものパターンから突然、著しい減少を感じた場合は、上記の手順を省略して直ちに医療機関に連絡してください。待つ必要はありません21

医療機関では、胎動減少の懸念に対して、ノンストレステスト(NST)による心拍数モニタリングや、超音波によるバイオフィジカルプロファイル(BPP)評価などが行われます10


【専門的分析】胎動カウントは本当に有効か?国内外の指針と科学的議論

胎動のモニタリングは世界共通の認識ですが、その具体的な方法論については、医療専門家の間でも微妙な見解の違いや科学的な議論が存在します。

国内外の診療指針の比較:日本、米国(ACOG)、英国(NHS)

日本産婦人科医会(JSOG)、米国産科婦人科学会(ACOG)、英国民保健サービス(NHS)は、いずれも母親が胎動を意識することの重要性を強調し、出産前に胎動が減るという誤解を否定し、胎動減少時の迅速な医療相談を強く推奨するという点で、核となる原則は一致しています15

しかし、アプローチには微妙な差異が見られます。日本と米国の指針は「2時間で10回」という具体的な数値目標を提示する定量的アプローチです。これは母親に明確な指標を与えます。一方、英国のNHSは、特定の回数よりも「赤ちゃん自身の正常なパターンからの変化」を認識することに重きを置く定性的アプローチを採ります。これは柔軟性がありますが、具体的な指針を求める母親にとっては判断が難しい場合もあります15

科学的視点:「数える」ことと「感じること」

科学的根拠をさらに深く見ると、議論はより複雑になります。胎動減少と死産を含む有害な妊娠転帰との間に否定できない関連があることは、数多くの研究で示されています7。これが、胎動モニタリングが重要であることの根拠です。

一方で、「正式な胎動カウント」が死産率を減少させる介入として有効かどうかは、まだ議論の余地があります。Cochraneレビューのような大規模な系統的レビューでは、正式なカウントが、母親が自身の判断で胎動を意識する場合と比較して、明確に優れた結果をもたらすとは断定できていません22

ではなぜ、臨床現場では依然としてカウントが推奨されるのでしょうか。それは費用対効果と安全性の観点からです。胎動カウントは費用がかからず、非侵襲的で安全であり、母親に主体性を与える介入です。最高レベルのエビデンスはまだ確立されていなくとも、緊急事態を早期に発見できる潜在的な利益は、いかなるリスクをも上回ると考えられています7

最近の研究では、胎動の「回数」だけでなく「質」にも注目が集まっています。ある研究では、母親が感じる胎動の「強さ」が増すことは、胎児の大きさに関わらず良好な兆候であることが示唆されました23。これは、機械的に数を数えるだけでなく、母親の全体的な感覚を信頼することの重要性を示しています。

コミュニケーションとしての胎動

胎動は単なる健康指標ではなく、母親と赤ちゃんの間の最初の、そして最も親密なコミュニケーション手段です。このプロセスは、母子の情緒的な絆(愛着形成)を深めるのに役立ちます3。父親などパートナーの役割も重要です。父親がお腹に手を当てて一緒に胎動を感じることは、家族全体の絆を育む貴重な体験となります17


よくある質問

臨月になると本当に胎動は減らないのですか?

はい、減りません。これは非常に重要な点です。「出産が近いから胎動が減るのは当たり前」という考えは医学的に誤っており、危険な俗説です8。赤ちゃんの動きの「種類」は変わります。スペースが狭くなるため、力強いキックから、体をうねらせるような「ぐにゅー」とした動きに変化しますが、動きの「回数」や「頻度」は陣痛が始まるまで維持されるべきです。もし明らかに動きが減ったと感じたら、すぐに医療機関に連絡してください。

赤ちゃんのしゃっくりは胎動として数えるべきですか?

いいえ、通常は数えません。しゃっくりは「ピクピク」というリズミカルで規則的な動きであり、赤ちゃんが自発的に行っているキックやパンチ、体の回転とは性質が異なります18。「10回胎動カウント法」では、しゃっくり様運動を除いた、赤ちゃんの不規則で明確な動きを数えることが推奨されています。しゃっくり自体は、呼吸の練習をしている正常な発達の証なので、心配する必要はありません13

胎動が激しくて痛いのですが、赤ちゃんは大丈夫でしょうか?

一般的に、胎動が力強く活発であることは、赤ちゃんが元気であることの良い兆候です2。妊娠後期になると赤ちゃんの力も強くなるため、母親が痛みを感じることも珍しくありません。特に、肋骨の下や膀胱のあたりを蹴られると強く痛みを感じることがあります。ただし、もし痛みが持続する場合や、お腹の張りや出血など他の症状を伴う場合は、念のため医療機関に相談することをお勧めします。

胎盤が前壁にある(前壁胎盤)と言われました。注意点はありますか?

前壁胎盤は、胎盤が子宮の前面(お腹側)に付着している状態です。これは病的な状態ではなく、正常なバリエーションの一つです。ただし、胎盤が厚いクッションのように働くため、胎動を感じ始めるのが他の人より少し遅かったり、感覚がやや弱く感じられたりすることがあります1。そのため、胎動カウントを行う際は、より静かな環境で集中することが大切になるかもしれません。感じ方が弱いからといって赤ちゃんが元気でないわけではありませんので、あなた自身の赤ちゃんの「いつものパターン」を知ることがより重要になります。

結論

胎動は、お腹の赤ちゃんと母親をつなぐ、かけがえのない最初の対話です。それは単なる感動的な体験ではなく、赤ちゃんの健康と幸福を監視するための、科学的根拠に裏打ちされた重要な手段でもあります。本稿で詳述したように、胎動の感じ方には個人差があり、そのパターンは妊娠の進行と共に変化します。最も重要なメッセージは、他人と比較するのではなく、「あなた自身の赤ちゃんの正常なパターン」を学び、信頼することです。そして、「10回胎動カウント法」という客観的なツールを活用しつつも、もし「いつもと違う」という母親としての直感が働いた場合には、決してためらわずに専門家の助けを求めてください。赤ちゃんの声に耳を傾け、知識という羅針盤を持つことで、あなたは自信と安心をもって、この素晴らしい生命の旅を続けていくことができるでしょう。

免責事項本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスを構成するものではありません。健康上の懸念がある場合、またはご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

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