足首トンネル症候群:原因と治療法
脳と神経系の病気

足首トンネル症候群:原因と治療法

はじめに

日常生活の中で足首や足に痛みやしびれ、あるいはチクチクとした不快感を覚えた経験がある方は少なくないかもしれません。なかでも、内くるぶしのあたりから足裏にかけて鋭い痛みや感覚異常が続く場合には、いわゆる「足根管症候群(タースルトンネル症候群)」と呼ばれる状態が疑われることがあります。これは手首の正中神経が圧迫される手根管症候群に類似した病態ですが、足首の内側に位置する脛骨神経またはその枝が圧迫されることで足裏などに特有の症状を引き起こすのが特徴です。

免責事項

当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。

足根管症候群の症状は、単なる足の痛みやしびれと混同されがちですが、放置すると足の機能低下につながる可能性があるため、早期に原因を究明し、適切なケアや治療を行うことが大切です。本記事では、足根管症候群の定義、主な症状、原因、リスク要因、診断方法、治療法、そして日常生活での注意点について詳しく解説します。また、近年の研究成果からわかった知見もあわせて紹介し、理解を深めていただくとともに、今後の対策やケアの参考にしていただければ幸いです。

専門家への相談

本記事の内容は、これまで医学領域で参照されてきた信頼ある文献・データを基にまとめています。特に、足や足首周辺の痛みやしびれに関する症状は、単なる疲労やねんざと紛らわしい場合も多いため、自己判断だけで放置すると思わぬ悪化を招くリスクがあります。もし痛みやしびれが強く、生活に支障をきたしている場合は、できるだけ早めに整形外科医、リハビリテーション科医、または足の専門家(足病医など)に相談することが大切です。

足根管症候群とは

足根管症候群の定義

足根管症候群(タースルトンネル症候群)は、脛骨神経が足首の内側(内くるぶし付近)を通過する「足根管(タースルトンネル)」と呼ばれる狭い管状の通路で圧迫されることによって生じる状態です。この脛骨神経は、足首から足裏にかけての知覚や一部の運動をつかさどっているため、ここが圧迫されることで足裏に痛み、しびれ、感覚麻痺などが生じます。

脛骨神経が通る「トンネル」は、骨や靭帯、腱、血管など多くの組織に囲まれており、なんらかの理由で腱鞘炎や骨の変形、炎症が起こって狭くなると神経が圧迫されやすくなります。これは手首の正中神経が圧迫される「手根管症候群」と同様のメカニズムです。

なぜ足根管症候群が起こるのか

足根管症候群は比較的まれな病気と言われることがありますが、日常生活の中で足の酷使や靴のサイズ不適合、または足首周辺の外傷などが積み重なることで神経が圧迫され、症状が現れるケースも少なくありません。

たとえばマラソンや球技など繰り返し足首に負担をかけるスポーツを行う方や、立ち仕事で長時間足に体重がかかり続ける方、さらには捻挫や骨折後に足首周辺の構造が変化してしまった方などは要注意とされています。放置すると症状が進行し、歩行や立位が困難になることもあるため、早期の発見と対応が求められます。

足根管症候群の主な症状

症状の特徴

  • 足首から足裏にかけての痛み
    内くるぶし付近を中心に、足裏やかかと付近にかけてビリビリ・チクチクした痛み、あるいは焼けつくような疼痛を感じることがあります。長時間立っていたり、歩いていたりすると悪化しやすく、夜間に強まる傾向も見られます。
  • しびれや感覚麻痺
    神経が慢性的に圧迫されると、足裏やつま先にかけてしびれや感覚の鈍麻を感じることがあります。感覚の異常は場所によっては明確に範囲がわかるほどで、皮膚の温度や触覚がわかりにくくなる場合もあります。
  • 足の運動機能の低下
    脛骨神経は足裏の小さな筋肉のコントロールにも関与しています。そのため、圧迫が長期にわたると、足裏の筋力低下や、指をうまく動かせない、足裏アーチの崩れにつながる可能性もあります。進行すると足の形態や歩行バランスに影響が出ることもあり、日常生活の質が低下するリスクがあります。
  • 痛みが発作的に消えたり出たりする
    しびれや痛みが断続的に出現し、突然症状が消失してはまた発作的に戻る、という経過をたどる場合があります。このため、痛みが一時的に軽快すると問題ないように思われがちですが、再燃を繰り返すことがあるため油断できません。

症状の進行とリスク

初期段階では痛みが軽度で、不定期に足裏やかかと部分に軽い違和感がある程度のこともあります。そこから運動や仕事などでさらに足首に負担がかかる環境が続くと、症状は徐々に悪化していくおそれがあります。長期にわたり神経が圧迫されると、感覚麻痺や足の変形、歩行障害につながり、日常生活の質を大きく損ねるリスクがあるため、早期発見と治療が非常に重要です。

足根管症候群の原因

代表的な原因

  • 骨折や捻挫などの外傷
    過去の足首骨折や捻挫によって、足首周辺の骨・靭帯・腱が変形または肥厚し、足根管が狭くなり神経圧迫を招くことがあります。外傷後に腫れがなかなか引かず、慢性的な炎症が続くと、神経に悪影響を及ぼしやすいとされています。
  • 足首周辺の腫瘍や嚢胞(のうほう)
    良性・悪性を問わず、腫瘤やのう胞が足根管付近にできるとスペースが狭まり、神経が圧迫される可能性があります。
  • 腱や滑膜(かつまく)の炎症
    腱鞘炎や滑膜炎が起こると、炎症により腱や周辺組織が肥厚し、神経を圧迫するケースがあります。足首の反復的な動作や不適切な靴の着用などが原因となることも珍しくありません。
  • 足の構造的問題
    扁平足(足裏のアーチが低下している状態)やハイアーチ(足裏のアーチが極端に高い状態)によって足首内側の関節や靭帯に負担がかかり、神経を圧迫しやすくなる場合があります。また、肥満や体重増加によって足首にかかる負荷が大きくなることも原因の一つとされています。

靴や生活習慣の影響

  • 合わない靴
    サイズや形状の合わない靴を長時間履くと、足首や足裏への圧迫が強まり、足根管の神経に負荷をかける原因になり得ます。特に先の細い靴やヒールの高い靴などは注意が必要です。
  • スポーツや立ち仕事
    長時間の立位やハードな運動、繰り返し足首に衝撃を与えるようなスポーツ(例:バスケットボールや陸上競技など)は、足首内側に継続的なストレスがかかります。適切なサポートや休息が不足すると炎症や腱鞘炎が起きやすくなり、足根管症候群のリスクが高まります。

足根管症候群のリスク要因

  • 肥満
    体重増加によって足首にかかる荷重が大きくなり、神経圧迫のリスクが高まるとされています。
  • 関節炎
    変形性関節症、関節リウマチ、リウマチ性疾患などによる炎症や腫れは、足首周辺組織に影響を及ぼし、神経を圧迫する可能性があります。
  • 捻挫後の変形
    捻挫から十分に回復できず、靭帯が緩んだり、骨格のアライメント(配列)が乱れたりすると足根管に負担がかかりやすくなります。

診断方法

足根管症候群が疑われる場合、医師は病歴や症状の聞き取り、視診・触診、神経学的検査などを総合的に行います。具体的な検査としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 触診(チネル徴候など)
    足首の内くるぶし付近を軽く叩いてしびれや痛みの放散が起こるかどうかをチェックする「チネル徴候」が有名です。
  • 画像検査
    X線撮影で骨折や変形の有無を確認し、必要に応じてMRI(磁気共鳴画像法)や超音波検査で腱や靭帯、神経、腫瘤の有無を調べます。
  • 神経伝導速度検査(NCS)や筋電図(EMG)
    神経が適切に信号を伝達できているかを調べます。神経圧迫が長引くと、伝導速度の低下や筋電図での異常がみられる場合があります。

近年の研究として、2023年にFoot & Ankle Specialist誌で発表された包括的レビュー(Park YW, Sung KS. Tarsal Tunnel Syndrome: A Systematic Review and Meta-analysis. Foot Ankle Spec. 2023; doi:10.1177/19386400221132977)では、超音波検査やMRIの活用が早期発見に有用であると報告されています。このレビューは多数の患者データを統合したメタアナリシスであり、神経周辺の炎症や腫瘍など、原因が特定できる場合は特に画像検査が極めて重要であることが示唆されました。

治療法

保存的治療

  • 薬物療法
    非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などによる痛みや炎症の軽減を図る方法があります。ただし、これらは神経圧迫そのものを除去するものではないため、症状の原因が明確にほかにある場合には、より根本的な対処が必要です。
  • インソール・足底板の使用
    専門的に作られたインソール(足底板)を靴に入れることで、足首から足裏にかかる荷重バランスを整え、神経への圧迫を軽減することが期待できます。扁平足や足のアーチ異常がある人にとってはとくに有効とされています。
  • 生活習慣の見直し
    長時間の立位や合わない靴を避ける、足首に負荷が大きい運動を控える、体重コントロールを行うなど、原因と思われる要因をできる限り取り除くことが重要です。

リハビリテーション・理学療法

  • ストレッチと筋力強化
    足首や足裏の筋肉、腱、靭帯の柔軟性を高めるストレッチを行い、負荷を分散しやすくすることが推奨されます。また、足部周辺の筋力強化によって過度なストレスを減らし、症状の進行を抑制する効果が期待できます。
  • 物理療法
    温熱療法や超音波治療、低周波治療などを組み合わせることで、炎症を抑え筋緊張を和らげることがあります。リハビリ専門家の指導に基づく適切な運動と物理療法の組み合わせが、機能回復や痛みのコントロールに役立つとされます。

外科的治療

保存的治療を試みても改善が見られず、日常生活に支障が出るほど症状が進行している場合や、腫瘤や骨変形など明確な圧迫要因がある場合は手術が検討されることがあります。手術では、足根管を形成する靭帯や周囲組織を適切に開放し、神経への圧迫を取り除きます。

ただし、手術には以下のようなリスクがあります。

  • 痛みが改善しない、または再発する
  • 神経の瘢痕化(はんこんか:手術後の瘢痕組織が神経を巻き込む)
  • 神経損傷による麻痺の悪化

術後の回復には数週間から数か月かかることが多く、その間はリハビリと安静のバランスを取りながら慎重に経過を観察する必要があります。2021年にThe Journal of Foot & Ankle Surgeryに掲載された論文(Soomekh D. Comprehensive Tarsal Tunnel Release: A Clinical and Anatomical Based Approach. J Foot Ankle Surg. 2021;60(3):564-570. doi:10.1053/j.jfas.2020.07.025)では、適切な手術手技と術後リハビリテーションの組み合わせにより、多くの患者で痛みと機能改善が得られたと報告されています。論文によると、症例ごとの解剖学的特徴に合わせた手術法の選択が重要であると指摘されており、日本国内でも同様の知見が徐々に広まってきています。

日常生活での注意点・セルフケア

靴選び

足首と足裏を安定させる形状かつ適度にフィットした靴を選ぶことが、足根管症候群の症状緩和や再発予防にとって重要です。ヒールの高い靴や、先が極端に細い靴はなるべく避けましょう。

運動・ストレッチ

  • 軽いストレッチの習慣化
    朝起きたときや長時間座った後など、こまめに足首やふくらはぎのストレッチを行うことで筋肉や腱の柔軟性を保ち、神経への負担を軽減しやすくなります。
  • 低負荷の運動
    水泳や自転車こぎなど、関節への衝撃が少ない有酸素運動は血流を促進し、筋肉を維持するのに役立ちます。痛みがあるときは無理せず、専門家の指導のもとで運動プランを立てましょう。

休養と自己モニタリング

  • 足を高くして休む
    寝るときや休むときに足をやや高い位置に保つことで、むくみを予防し血行を改善することができます。
  • 痛みやしびれの程度を観察
    日記などに痛みの強度や時間帯、靴の種類、運動量などを記録し、自分の足がどのような状況で悪化しやすいかを把握すると予防に役立ちます。

結論と提言

足根管症候群は、足首の内くるぶし付近を走る脛骨神経が圧迫されることで、足裏に痛みやしびれ、感覚異常を生じる病態です。初期には症状が軽微で見逃されやすい一方、放置すると歩行障害や感覚麻痺など、日常生活の質を著しく低下させる深刻な問題につながる可能性があります。

本記事では、足根管症候群の定義や主な症状、原因、リスク要因、診断方法、そして保存的治療から外科的治療までの多面的なアプローチについて詳しく解説しました。合わない靴の着用や捻挫などの既往歴、長時間の立ち仕事や運動など、生活習慣や環境的要因が大きく関与する一方、靴選びの見直しやインソールの活用、体重管理、ストレッチ・筋力強化によって症状を改善または予防できるケースも多いとされています。痛みやしびれを感じた場合には我慢せず、できるだけ早い段階で整形外科などの医療機関を受診し、適切な検査とケアを受けることが重要です。

もし保存的治療で改善が見られない場合や原因となる腫瘤などが明確にある場合は、外科的治療を検討することになります。手術にはリスクも伴いますが、適切な手技と術後リハビリテーションにより改善が期待できると報告されています。ただし、術後も再発を防ぐために生活習慣の見直しやフォローアップが必要です。

足首や足裏の痛みやしびれは、日常生活を送りやすい方ほど放置しがちです。しかし、これらの症状が長期化・再燃化すると、働き方や生活の質に大きな影響を及ぼします。痛みや違和感が続く場合は早めに医師の診断を受け、原因究明と治療方針を明確にすることをおすすめします。

推奨事項と注意点(医師への相談のすすめ)

  • 痛みやしびれが強く、日常生活に支障が出る場合は早期に整形外科など専門家を受診する
  • 合わない靴の見直し、足底板・インソールの活用
  • 適度な運動とストレッチ、体重管理に留意して足首への負担を軽減する
  • 保存的治療で改善がない場合や腫瘍などが疑われる場合は手術も視野に入れる

参考文献


免責事項
本記事は医療の専門家による診断や治療の代替とはなりません。痛みやしびれなどの症状が続く場合や不安がある場合は、必ず医師などの専門家にご相談ください。また、個人差があるため、治療法の選択や効果には個人ごとの状況が大きく関係します。必ず医療機関で正確な診断を受け、担当医の指示に従ってください。

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