この記事の科学的根拠
この記事は、引用元として明記された最高品質の医学的根拠にのみ基づいて作成されています。以下は、参照された実際の情報源の一部と、本記事で提示される医学的ガイダンスとの関連性です。
- 世界保健機関 (WHO): 本記事における「近視は世界的な公衆衛生上の優先課題である」という位置づけは、WHOが発行した「World report on vision」に基づいています3。
- 文部科学省: 日本の学齢期における視力低下の全国的な傾向に関するデータは、同省が毎年実施する「学校保健統計調査」の最新結果を引用しています1。
- 慶應義塾大学医学部: 都市部における小学生・中学生の極めて高い近視有病率に関する具体的なデータと分析は、同大学眼科学教室が実施した大規模な疫学調査に基づいています2。
- 日本眼科学会・日本眼科医会: 近視の進行を予防するための生活習慣の推奨事項(屋外活動、近業作業の注意点など)や、国内の標準的な診療方針に関する記述は、これらの国内最高権威機関の公式な提言やガイドラインに準拠しています4。
- 日本近視学会: 低濃度アトロピン点眼薬やオルソケラトロジーといった最新の近視進行抑制治療に関する解説は、日本の近視研究を専門とする同学会の公式見解と情報を参照しています5。
- 米国眼科学会 (AAO): 治療法の有効性を評価する上でのエビデンスレベルの考え方や、国際的な診療基準に関する記述は、AAOが発行する診療ガイドライン(Preferred Practice Pattern)を参考にしています6。
要点まとめ
- 日本の子供の近視は急増しており、特に都市部では中学生の約95%が近視という危機的な状況です2。
- 近視は単なる視力低下ではなく、強度近視に進行すると緑内障や網膜剥離など失明に至る病気のリスクを高める「疾患」です7。
- 近視の進行予防には「1日2時間の屋外活動」が科学的に有効とされています4。一方でスクリーンタイムの1時間の増加は近視リスクを21%上昇させます8。
- 子供の近視進行抑制には、科学的根拠のある治療法が存在します。特に「低濃度アトロピン0.05%点眼薬」は有効性と安全性のバランスが最も優れていると報告されています9。
- 強度近視による「目が小さく見える」悩みは、フレーム選びと「両面非球面レンズ」などの最新レンズ技術によって大幅に軽減できます10。
- 近視の進行抑制治療や屈折矯正手術は、原則として保険適用外の「自由診療」です。弱視などの治療用眼鏡とは明確に区別する必要があります11。
第1章:近視の基本 — なぜ単なる「視力低下」ではないのか?
近視は多くの人にとって身近なものですが、その本質や危険性については十分に理解されていません。なぜ近視は「悪いこと」なのか、その科学的な理由から解説します。
1-1. 近視とは何か? — 光が網膜に届かない状態
私たちの目は、カメラのようにレンズ(角膜と水晶体)を使って光を屈折させ、網膜というスクリーンにピントを合わせることで物を見ています。正常な目の場合、遠くを見たときに光はちょうど網膜上で焦点を結びます。しかし、近視の目では、主に眼球が前後に長くなること(眼軸長の伸長)が原因で、光が網膜の手前で焦点を結んでしまいます。その結果、網膜に届く像がぼやけてしまい、「遠くのものがはっきりと見えない」という状態になるのです12。このピントのずれを補正するために、光を外側に広げる性質を持つ「凹レンズ」を使った眼鏡やコンタクトレンズが必要となります13。
1-2. 近視の種類:「軸性近視」と「屈折性近視」
近視はその原因によって、主に二つのタイプに分類されます。
- 軸性近視: 眼球の長さ(眼軸長)が正常よりも長く伸びてしまうことで生じる近視です。一度伸びた眼軸長は元に戻らないため、進行性であることが特徴です。日本の子供たちの近視のほとんどがこの軸性近視に該当します14。
- 屈折性近視: 眼軸長の長さは正常であるものの、角膜や水晶体の光を曲げる力(屈折力)が強すぎるために生じる近視です。
現代の子供たちで問題となっているのは、眼軸が伸び続ける「軸性近視」であり、本記事で解説する進行抑制治療は、この眼軸の伸長をいかに抑えるかを目的としています。
1-3. 最も危険な「強度近視」と「病的近視」
近視の度が進んだ状態を「強度近視」と呼びますが、これは単に「度の強い眼鏡が必要」という問題ではありません。眼軸長が異常に伸長することで、網膜や視神経が物理的に引き伸ばされ、薄く脆弱な状態になります。この状態がさらに進行し、網膜剥離や緑内障、そして失明の主要な原因となる近視性黄斑変性症などを発症した状態を「病的近視」と呼びます15。病的近視は、日本の失明原因の上位を占める深刻な疾患です。東京医科歯科大学の世界的権威である大野京子教授は、病的近視研究の第一人者であり、「近視は単なる屈折異常ではなく、生涯にわたる眼疾患のリスク因子である」と警鐘を鳴らしています7。したがって、特に成長期の子供において近視の進行を可能な限り抑制することは、将来的な失明リスクを低減させるために極めて重要なのです。
第2章:日本の近視の現状 — データが示す「静かなる危機」
日本の近視問題がどれほど深刻か、最新の公的データと詳細な疫学調査からその実態を明らかにします。
2-1. 驚くべきデータで見る日本の近視
文部科学省が毎年実施している学校保健統計調査は、日本の子供たちの視力の経年変化を示す最も基本的な指標です。令和4年度の調査では、裸眼視力1.0未満の児童生徒の割合は、小学生で37.87%、中学生で61.23%、高校生では71.56%に達し、過去最高を更新し続けています1。これは、約40年前と比較して小学生の視力低下が2倍以上に増加したことを意味し16、問題が構造的かつ長期的に悪化していることを示唆しています。
この全国的な傾向は、都市部においてさらに深刻化します。慶應義塾大学医学部の研究チームが東京都内で行った大規模な疫学調査では、眼軸長を含む精密な検査により、小学生の76.5%、中学生の実に94.9%が近視であることが判明しました2。もはや「例外」ではなく「標準」となりつつあるこの状況は、「都市型近視クライシス」とも呼ぶべき事態です。さらに憂慮すべきは、将来の眼疾患リスクが高い「強度近視」の割合も、小学生の4.0%に対し、中学生では11.3%と急増している点です17。これらのデータは、都市型の生活習慣が近視の進行を強力に後押ししていることを明確に示しています。
2-2. 近視の二大要因:「遺伝」と「環境」
近視の発症には「遺伝」と「環境」の二つの要因が複雑に関与しています。親が近視の場合、子供も近視になりやすいという遺伝的素因は確かに存在します。しかし、ここ数十年の間での爆発的な近視人口の増加は、遺伝だけでは説明できません。日本眼科医会や日本近視学会などの専門機関は、この急増の主な原因が「環境要因」にあるとの見解で一致しています4。特に重要なのが、以下の二点です。
- 屋外活動時間の減少: 1日2時間程度の屋外活動が近視の発生・進行を抑制する効果があることが、多くの研究で示されています。これは、屋外の明るい光(木陰でも室内よりはるかに明るい)が、眼軸の伸長を抑制する生化学的なシグナルを眼内で引き起こすためと考えられています4。
- 近業時間の増加: 読書、勉強、そしてスマートフォンやタブレットなどのデジタルデバイスの使用といった、近くを長時間見続ける作業(近業)は、近視進行の強力なリスク因子です。2024年に発表された約33万人を対象としたメタアナリシス(複数の研究を統合した解析)では、デジタルスクリーンタイムが1日1時間増加するごとに、近視になる確率が21%も上昇するという明確な関係が示されました8。
第3章:【子供の保護者必見】近視の進行を止めるために今できること
お子様の近視の進行を食い止めるために、保護者が今日から実践できる科学的根拠に基づいた対策と、最新の医療について詳しく解説します。
3-1. 生活習慣の改善(エビデンスに基づく推奨事項)
日本眼科医会や日本近視学会は、以下の生活習慣を強く推奨しています4。これらは、近視の進行を抑制するための最も基本的かつ重要な取り組みです。
- 1日2時間の屋外活動を心掛ける: 晴れた日の屋外は10万ルクス以上、曇りの日でも1万ルクス程度の照度があります。一方で、明るい室内でも500〜1000ルクス程度です。この光の量の違いが、近視進行の抑制に重要とされています。通学や休み時間などを活用し、合計で2時間程度、屋外で過ごす時間を作ることが理想的です4。
- 「30-30ルール」を徹底する: 読書や勉強、ゲームなど近くを見る作業をするときは、目から30cm以上離すことを徹底しましょう。さらに、30分に1度は20秒以上、窓の外など遠くの景色を見て目を休ませることが推奨されます4。
- 適切な学習環境を整える: 部屋の照明は十分に明るくし、正しい姿勢で机に向かうよう指導することも大切です。
3-2. 最新の近視進行抑制治療:エビデンスレベル別・徹底比較
生活習慣の改善だけでは進行が止まらない場合、医学的な介入が選択肢となります。治療法は近年多様化しており、その有効性や安全性、費用も様々です。ここでは、各治療法を科学的根拠の強さ(エビデンスレベル)に基づいて公平に比較し、ご家庭での意思決定をサポートします。
表1:小児近視進行抑制治療法の国際比較
治療法 | エビデンスレベル | 期待される効果 (進行抑制率) | 主な副作用・リスク | 費用の目安 (年間) | 国内承認状況 | 対象年齢の目安 | 1日の手間 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
低濃度アトロピン点眼 (0.05%) | A (最高) | 30~70% 9 | 軽微な眩しさ (稀)。副作用は少ない | 自由診療 (約4~7万円) 18 | 一部承認薬あり (リジュセア®) 19 | 幼児~ | 少ない (就寝前1回点眼) |
オルソケラトロジー | B+ (高い) | 32~63% 5 | 角膜感染症 (最重要)、レンズ管理の煩雑さ | 自由診療 (初年度10~20万、次年度以降数万円) 20 | 承認レンズあり | 小学生~ | 多い (毎日のレンズ洗浄・装着) |
レッドライト治療 | B (中程度) | 約88% 21 | 長期的な安全性はデータ蓄積中 | 自由診療 (初年度約25万、次年度以降約10万円) 22 | 未承認 (医療機器) | 幼児~ | 中程度 (1日2回、各3分) |
多焦点ソフトコンタクトレンズ | A (最高) | 約59% (MiSight®) 5 | コンタクトレンズ関連の一般的な合併症 | 自由診療 (約8~12万円) | 承認申請中 (MiSight®) 5 | 小学校中学年~ | 多い (毎日のレンズ着脱・ケア) |
累進屈折力眼鏡 | D (低い) | 10~20% (臨床的に推奨されず) 23 | 見え方の慣れが必要 | 保険適用 (眼鏡として) | – | – | なし (通常の眼鏡と同じ) |
【各治療法の詳細解説】
- 低濃度アトロピン点眼薬: 現在、世界で最も広く行われている治療法です。2024年に発表された最新のネットワークメタアナリシスでは、有効性と安全性のバランスから「0.05%濃度」が最適と推奨されています9。日本では2024年12月に参天製薬の「リジュセア®ミニ点眼液 0.025%」が承認され、国内での治療選択肢が大きく広がりました19。副作用が非常に少なく、手間もかからないため、第一選択肢として考慮されることが多いです。
- オルソケラトロジー: 夜寝ている間に特殊なハードコンタクトレンズを着けることで、日中は裸眼で過ごせるという大きな利点があります。しかし、レンズの管理を怠ると重篤な角膜感染症を引き起こすリスクがあり、ガイドラインを遵守した厳格な管理と定期検診が絶対条件です20。日本の10年間の追跡調査では11.1%に何らかの有害事象が報告されています24。
- レッドライト治療: 自宅で低出力の赤色光を照射する新しい治療法で、非常に高い進行抑制効果が報告され注目されています21。しかし、新しい治療法であるがゆえに長期的な安全性に関するデータはまだ蓄積途上である点を理解しておく必要があります。
- 多焦点ソフトコンタクトレンズ: 米国食品医薬品局(FDA)が子供の近視進行抑制用具として唯一承認している「MiSight® 1 day」が有名で、高い有効性が示されています5。日中に装用するため、子供自身がある程度の自己管理ができる年齢からが対象となります。
- 累進屈折力眼鏡: かつて効果が期待されましたが、その後の研究で効果が非常に限定的であることが判明しており、日本弱視斜視学会は「一般の診療では推奨されていません」と明確に述べています23。
第4章:近視の矯正方法 — 眼鏡から最新手術まで
近視の進行を抑制すると同時に、ぼやけた視界をクリアにするための「矯正」も必要です。それぞれの方法のメリット・デメリットを正しく理解しましょう。
4-1. 眼鏡
眼鏡は、最も安全で手軽、かつ基本的な視力矯正方法です。特に成長期の子供にとっては、感染症のリスクがなく、取り扱いも簡単なため、第一選択となります。近年の技術進歩により、レンズやフレームの選択肢も格段に増えています。
4-2. コンタクトレンズ
スポーツをする際や、見た目を気にされる方に選ばれることが多い選択肢です。ソフト、ハード、使い捨てタイプなど様々な種類がありますが、いずれも眼に直接装用するため、不適切な使用は角膜障害などの深刻な合併症を引き起こすリスクを伴います。眼科医の指示に従い、正しいレンズケアと定期検査を徹底することが絶対条件です。
4-3. 屈折矯正手術
成人し、近視の進行が止まった方が対象となる選択肢です。代表的なものにICL(有水晶体眼内レンズ)とレーシックがあります。
- ICL(眼内コンタクトレンズ): 眼の中にレンズを挿入することで視力を矯正する手術です。角膜を削らないため、万が一の場合にはレンズを取り出して元の状態に戻すことが可能で、強度近視の方にも適応できます。
- レーシック: エキシマレーザーで角膜の形状を変化させ、屈折力を調整する手術です。手術時間が短く、視力回復が早いという特徴があります。
これらの手術は、眼鏡やコンタクトレンズの煩わしさから解放されるという大きなメリットがありますが、いずれも外科手術であるため、合併症のリスクもゼロではありません。日本白内障屈折矯正手術学会(JSCRS)などが提供する情報を参考に、適応やリスクについて十分に理解した上で、信頼できる医療機関で相談することが重要です25。
第5章:【強度近視の方向け】「目が小さくならない」眼鏡の選び方
強度近視の方が抱える大きな悩みが、「眼鏡をかけると目が小さく見える」「フェイスラインが歪む」といった審美的な問題です。これらの問題は、光学的な知識と適切な製品選びによって大幅に改善できます。
表2:強度近視者向け眼鏡フレームとレンズの選択マトリクス
悩み | 解決策(フレーム) | 解決策(レンズ設計) | 具体的なアドバイス | 光学的な根拠 |
---|---|---|---|---|
目が小さく見える | レンズの横幅が狭く、全体的に小さいフレームを選ぶ。リム(縁)が太く、色が濃いものを選ぶ。 | 両面非球面レンズを選ぶ。 | 顔のサイズに合わせつつ、レンズ径ができるだけ小さいフレームを探す。黒や濃い茶色など、存在感のあるフレームを試す。 | デルブーフ錯視:小さい円で囲まれたものは大きく見えるという錯覚を利用。濃い色のフレームがアイライン効果となり、目元を強調する10。 |
レンズが厚い・重い | レンズ径が小さいフレームを選ぶ。 | 高屈折率の薄型レンズを選ぶ。 | フレーム選びの段階で、レンズの厚みが目立たないデザイン(例:リムに厚みがあるもの)を店員に相談する。 | 凹レンズの特性:凹レンズは中心が最も薄く、周辺にいくほど厚くなる。レンズ径が小さいフレームを選ぶことで、最も厚い周辺部分を削り落とすことができる26。 |
顔の輪郭が凹む | 顔の幅に合った、ジャストサイズのフレームを選ぶ。 | 両面非球面レンズを選ぶ。 | フレームが顔の輪郭の内側に入り込まないサイズを選ぶ。目とレンズの距離をできるだけ近づけるフィッティングを依頼する。 | レンズの収差:球面レンズは周辺部の歪みが大きく、輪郭が内側にずれて見える。両面非球面レンズはこの歪みを最小限に抑える10。 |
【レンズ設計の進化を理解する】
レンズの見た目や見え方の質は、その設計によって大きく変わります。
- 球面レンズ: 最も基本的な設計。安価ですが、レンズ周辺部の歪みが大きく、フェイスラインの凹みの原因となります27。
- 非球面レンズ: レンズのカーブを特殊な設計にすることで、周辺部の歪みを軽減し、より薄く軽いレンズを実現します10。
- 両面非球面レンズ: レンズの表と裏の両方を非球面設計にすることで、歪みを極限まで抑え、最も自然な視界と見た目を実現します。強度近視の方にとって、審美的な悩みを解決するための最も効果的な選択肢です10。
これらの知識を持って眼鏡店に行くことで、専門スタッフとより具体的で的確な相談が可能になり、満足度の高い眼鏡を手に入れることができるでしょう。
健康に関する注意事項
本記事で紹介した近視進行抑制治療や屈折矯正手術は、いずれも専門的な医学的判断を必要とします。自己判断で治療を開始したり、中断したりすることは絶対におやめください。特に、オルソケラトロジーやコンタクトレンズの使用に伴う角膜感染症は、重篤な視力障害につながる可能性があります。レンズのケアや定期的な眼科受診を怠らないでください。お子様の視力に変化を感じた場合や、治療に関して疑問がある場合は、必ず眼科専門医に相談してください。
よくある質問
Q1. ブルーライトカット眼鏡は近視予防に効果がありますか?
A1. 現在のところ、ブルーライトそのものが近視を進行させるという明確な科学的根拠(エビデンス)は確立されていません。日本眼科医会をはじめとする専門機関は、小児に対してブルーライトカット眼鏡を推奨する十分な根拠はないとの見解を示しています。近視予防でより重要なのは、ブルーライトを浴びることよりも、スマートフォンなどを長時間見続ける「近業」そのものを減らし、屋外で活動する時間を増やすことです4。
Q2. 一度悪くなった視力は、トレーニングなどで回復しますか?
A2. 眼軸長が伸びてしまったことによる軸性近視は、残念ながらトレーニングなどで元に戻すことはできません。インターネット上には様々な「視力回復法」が存在しますが、その多くは科学的根拠に乏しいものです。眼の筋肉をほぐすことで一時的なピント調節機能の改善(偽近視の緩和)が見られることはあっても、眼軸長が短くなることはありません。最も確実なのは、科学的根拠のある方法で近視の「進行を抑制」することです。
Q3. 子供の近視治療に、公的医療保険やこども医療費助成は使えますか?
Q4. 近視と老眼は打ち消し合って、将来的に眼鏡が不要になりますか?
A4. これはよくある誤解ですが、打ち消し合うわけではありません。近視は「遠くが見えにくい」状態、老眼は「近くのピント調節がしにくくなる」状態で、原因が全く異なります。軽い近視の人は、老眼が始まっても眼鏡を外せば手元が見えるため、一見「老眼になっていない」かのように感じることがあります。しかし、強度近視の人は、老眼になると「眼鏡をかけても手元が見えず、外してもピントが合わない」という、より複雑な見え方になります。この場合、「累進屈折力レンズ(遠近両用レンズ)」など、遠くと近くの両方にピントが合う眼鏡が必要になります29。
Q5. どの治療法を選べば良いか分かりません。
A5. 最適な治療法は、お子様の年齢、近視の進行度、ライフスタイル、そしてご家庭の価値観(費用、手間、リスクに対する考え方など)によって異なります。本記事の「表1:小児近視進行抑制治療法の国際比較」を参考に、まずはご家庭でどのような点を重視したいか(例:効果の高さ、安全性の高さ、費用の安さ、日中の裸眼生活など)を話し合ってみてください。その上で、眼科専門医に相談し、それぞれの選択肢のメリット・デメリットについて詳しい説明を受け、最終的な方針を決定することが最も重要です。
結論
日本の近視問題は、もはや個人の努力だけで解決できる範囲を超えた、社会全体で取り組むべき公衆衛生上の危機です。しかし、科学の進歩により、私たちはもはや近視の進行をただ座して見ているしかできなかった時代にはいません。本記事で解説したように、屋外活動の重要性から、低濃度アトロピン点眼やオルソケラトロジーといったエビデンスに基づいた進行抑制治療まで、子供たちの未来の目の健康を守るための具体的な選択肢が存在します。
また、すでに近視になってしまった方々にとっても、最新のレンズ技術は、単に見え方を改善するだけでなく、「目が小さく見える」といった審美的な悩みを解消し、生活の質を大きく向上させることができます。重要なのは、溢れる情報に惑わされることなく、科学的根拠に基づいた正しい知識を身につけ、信頼できる専門家と相談しながら、自身や家族にとって最善の道を選択することです。JapaneseHealth.orgは、皆様がその一歩を踏み出すための、信頼できるパートナーであり続けたいと願っています。
参考文献
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