止まらないくしゃみの原因は?アレルギー・風邪から最新治療まで専門医が徹底解説
耳鼻咽喉科疾患

止まらないくしゃみの原因は?アレルギー・風邪から最新治療まで専門医が徹底解説

止まらないくしゃみや鼻水に悩まされていませんか?それは単なる不快な症状ではなく、体が発する重要なサインかもしれません。くしゃみは、アレルギー、感染症、あるいはその他の体調変化を示す、私たちの体を守るための重要な防御反応です。しかし、それが日常生活に支障をきたすほど続く場合、その原因を正確に理解し、適切な対策を講じることが不可欠です。この記事は、JAPANESEHEALTH.ORG編集部が、日本および国際的な最新の診療ガイドライン、権威ある学術論文、そして政府機関の公的データに基づき、くしゃみに悩むすべての人の疑問と不安を解消するために作成した「決定版ガイド」です。著名なアレルギー専門医の監修のもと、くしゃみの根本的なメカニズムから、ご自身でできるセルフケア、そして医療機関で受けられる最新の治療法まで、科学的根拠に基づいて徹底的に、そして分かりやすく解説します。

要点まとめ

  • くしゃみは、アレルギー性のものと感染性のものが主な原因であり、そのメカニズムは異なります。正確な原因特定が、効果的な治療への第一歩です。
  • 日本の「国民病」ともいえる花粉症(季節性アレルギー性鼻炎)は、2019年の調査で日本人の42.5%が罹患していると報告されています1
  • 治療法は、市販薬から専門的な医療まで多岐にわたります。日本の『鼻アレルギー診療ガイドライン 2024年版』では、症状の重症度に応じた段階的な治療が推奨されています2
  • 根治を目指せる可能性のある治療法として「舌下免疫療法(SLIT)」があり、日本ではスギ花粉用の「シダキュア」やダニ用の「ミティキュア」が保険適用となっています3
  • 既存の治療で効果が不十分な最重症のスギ花粉症に対しては、「ゾレア(オマリズマブ)」という生物学的製剤(抗IgE抗体療法)が保険適用となる場合があります4
  • 症状が続く場合は自己判断せず、耳鼻咽喉科やアレルギー科の専門医に相談し、適切な診断と治療を受けることが最も重要です。

第1部:くしゃみのメカニズム:なぜ「ハックション!」と出るのか?

私たちが日常的に経験するくしゃみ。その一瞬の爆発的な現象の裏には、体を守るための精巧な神経科学的プロセスが隠されています。なぜくしゃみが出るのか、その「なぜ」を理解することは、ご自身の症状を客観的に捉え、様々な治療法がなぜ効果的なのかを納得するための第一歩となります。特に、アレルギーが原因の場合と、風邪などの感染症が原因の場合とでは、引き金は異なれど、最終的な反射に至るまでの体の反応には明確な違いがあります。

1.1. くしゃみ反射の神経科学

くしゃみは、自分の意思とは無関係に起こる「反射運動」の一つです。そのプロセスは、異物が鼻の粘膜に付着することから始まります5。ホコリ、ウイルス、花粉などの異物が鼻腔内に入ると、粘膜にある「三叉神経」というセンサーがこれを感知します。この刺激信号は瞬時に脳の中心部にある「脳幹」へと送られ、「くしゃみ中枢」と呼ばれる司令塔に到達します6。信号を受け取ったくしゃみ中枢は、体を守るために異物を体外へ排出すべきだと判断し、各所へ指令を出します。まず、大きく息を吸い込むように横隔膜が収縮し、肺に空気が溜め込まれます。次に、喉の奥にある声門が閉じられ、胸腔内の圧力が一気に高まります。そして最後に、声門が爆発的に解放されると同時に、横隔膜と肋間筋が強く収縮し、時速160km以上にも達するといわれる高速の呼気が口と鼻から噴出されるのです。これが「ハックション!」の正体です。

1.2. アレルギー性のくしゃみ:免疫システムの過剰反応

アレルギー性のくしゃみは、本来無害であるはずの特定の物質(アレルゲン)に対して、体の免疫システムが過剰に反応することで引き起こされます7。花粉やハウスダストなどのアレルゲンが初めて体内に侵入すると、免疫システムはこれを「敵」と誤認し、「IgE抗体」という特殊なタンパク質を大量に作り出します。このIgE抗体は、鼻の粘膜などに存在する「マスト細胞(肥満細胞)」の表面に結合し、次の侵入に備えて待機します8。再び同じアレルゲンが体内に侵入し、マスト細胞上のIgE抗体に結合すると、それが引き金となってマスト細胞が破裂します。その結果、細胞内に蓄えられていたヒスタミンやロイコトリエンといった化学伝達物質が大量に放出されます。この放出されたヒスタミンが、鼻の粘膜にある三叉神経の末端を強力に刺激することで、くしゃみ反射のスイッチが入り、連続するくしゃみや大量の鼻水、鼻づまりといった一連のアレルギー症状が引き起こされるのです。

1.3. 感染性のくしゃみ:ウイルスとの戦い

一方、風邪(普通感冒)やインフルエンザなど、ウイルス感染によるくしゃみは、体を守るためのより直接的な物理的排除メカニズムです。ライノウイルスやインフルエンザウイルスなどが鼻の粘膜の細胞に感染すると、ウイルスは細胞内で増殖を始め、細胞を破壊していきます9。このウイルスの侵入と細胞破壊を体が感知すると、免疫システムが作動し、ウイルスと戦うための炎症反応が起こります。この炎症反応自体や、ウイルスによって破壊された細胞の残骸が物理的な刺激となり、三叉神経を介してくしゃみ中枢へと信号を送ります。アレルギー性くしゃみが「誤報による過剰防衛」であるとすれば、感染性のくしゃみは「実際の侵略者(ウイルス)を物理的に吹き飛ばして排除しようとする正当防衛」と言えるでしょう。

第2部:くしゃみの主な原因:あなたのくしゃみはどのタイプ?

止まらないくしゃみの原因は多岐にわたりますが、その大半は「アレルギー性鼻炎」と「感染症」に分類されます。しかし、それ以外にも温度変化や刺激物など、様々な要因が引き金となることがあります。ご自身の症状がどのタイプに当てはまる可能性が高いかを知ることは、適切な対処法を見つけるための重要な手がかりとなります。ここでは、主な原因を体系的に分類し、それぞれの特徴を詳しく解説します。

2.1. アレルギー性鼻炎:最も一般的な原因

アレルギー性鼻炎は、特定のアレルゲンによって引き起こされる鼻粘膜の炎症であり、くしゃみの最も一般的な原因です。大きく分けて、特定の季節にのみ症状が現れる「季節性」と、一年中症状が続く「通年性」があります10

季節性アレルギー性鼻炎(花粉症)

日本では、スギやヒノキの花粉が原因となる花粉症が非常に多く、一種の「国民病」とされています11。2019年に環境省が実施した全国調査によると、日本人の42.5%が何らかの花粉症に罹患していると報告されており、その中でもスギ花粉症の有病率は38.8%に達します1。花粉症の症状は、原因となる植物の花粉が飛散する時期に限定して現れます。環境省の「花粉症環境保健マニュアル」によると、主な原因花粉と飛散時期は以下の通りです12

  • スギ:2月〜4月
  • ヒノキ:3月〜5月
  • カモガヤ、オオアワガエリ(イネ科):5月〜8月
  • ブタクサ、ヨモギ(キク科):8月〜10月

通年性アレルギー性鼻炎

一年を通して症状が見られるタイプで、主な原因は室内に存在するアレルゲンです。代表的なものには、ダニ(死骸やフンを含む)、ハウスダスト、ペットのフケやカビなどがあります2。季節に関係なく、特定の環境(例えば、自宅の寝室や掃除中など)で症状が悪化する傾向があります。

2.2. 感染症(風邪・インフルエンザ)

ウイルス感染によって引き起こされる急性鼻炎、つまり「鼻かぜ」も、くしゃみの一般的な原因です。アレルギー性鼻炎が水様性のサラサラした鼻水を特徴とすることが多いのに対し、風邪の場合は初期には透明な鼻水でも、時間が経つにつれて粘り気を帯び、黄色や緑色になることがあります。また、くしゃみや鼻水以外に、発熱、喉の痛み、頭痛、体のだるさ(倦怠感)といった全身症状を伴うことが大きな特徴です。

2.3. 急性鼻副鼻腔炎(蓄膿症)

急性鼻副鼻腔炎は、風邪などに続いて、鼻の奥にある副鼻腔という空洞に細菌やウイルスが感染し、炎症を起こす病気です。日本鼻科学会が策定した『急性鼻副鼻腔炎診療ガイドライン』では、診断の目安として「膿性(黄色や緑色)の鼻汁が10日以上持続する」あるいは「風邪のような症状が5〜7日続いた後に、発熱や鼻汁、顔面痛などが悪化する」といった点が挙げられています1314。粘り気の強い色のついた鼻水、鼻づまり、頬や額の痛み(顔面痛)、頭痛などが特徴的な症状です。

2.4. その他の原因

  • 血管運動性鼻炎(寒暖差アレルギー):アレルゲンが特定できないにもかかわらず、急激な温度変化(暖かい場所から寒い場所への移動など)によって鼻の自律神経が乱れ、くしゃみや鼻水が誘発される状態です。「寒暖差アレルギー」は通称であり、医学的なアレルギー反応ではありません。
  • 刺激物への反応:タバコの煙、香辛料(コショウなど)、香水、排気ガス、化学物質などの物理的・化学的な刺激が鼻粘膜に直接作用し、反射的にくしゃみを引き起こすことがあります。
  • 光くしゃみ反射:強い光(太陽光など)を見たときに、意思とは関係なくくしゃみが出てしまう現象です。これは遺伝的な要因が関わっていると考えられており、病的なものではありません。
  • 薬剤性鼻炎:特定の降圧薬(血圧を下げる薬)の副作用や、市販の血管収縮点鼻薬を長期間使用した後の離脱症状として、鼻づまりやくしゃみが起こることがあります。

第3部:専門医による診断プロセス

症状の原因を正確に特定するため、医療機関では詳細な問診から専門的な検査まで、段階的なプロセスで診断を進めます。医師がどのような点に注目し、どのような検査が行われるのかを理解しておくことは、安心して診察を受ける助けとなり、ご自身の状態を的確に伝える上で役立ちます。

3.1. 問診と視診:医師は何を見ているか

診断の第一歩は、丁寧な問診です。医師は以下のような点について詳しく質問します。

  • 症状の種類:くしゃみ、鼻水、鼻づまり、目のかゆみなど、どのような症状がいつからあるか。
  • 症状のパターン:特定の季節、時間帯(朝方など)、場所(屋内・屋外)で症状が悪化するか。
  • 鼻水の状態:サラサラしているか、粘り気があるか。色は透明か、黄色や緑色か。
  • 随伴症状:発熱、喉の痛み、頭痛、倦怠感、顔面の痛みなど、他の症状の有無。
  • 既往歴・家族歴:ご自身やご家族にアレルギー疾患(気管支喘息、アトピー性皮膚炎など)を持つ人がいるか。
  • 生活環境:ペットの有無、喫煙習慣、職場の環境など。

次に、鼻鏡や内視鏡(ファイバースコープ)を用いて鼻の中を直接観察します(視診)。これにより、鼻粘膜の色や腫れの程度、鼻水の性状、鼻茸(ポリープ)の有無などを確認し、アレルギー性鼻炎に特徴的な青白く腫れた粘膜や、副鼻腔炎を示唆する膿性の鼻汁などを視覚的に評価します。

3.2. アレルギー検査:原因アレルゲンの特定

アレルギーが疑われる場合、原因となっているアレルゲンを特定するためにアレルギー検査が行われます。これにより、治療方針の決定や、具体的なアレルゲン回避策の指導が可能になります。日本の保険診療で一般的に行われるのは以下の検査です。

  • 血液検査(特異的IgE抗体検査):採血により、特定のアレルゲン(スギ、ダニ、ハウスダスト、ペットのフケなど)に対するIgE抗体の量を測定します。一度の採血で複数の項目を調べることができ、患者への負担が少ない検査です。
  • 皮膚プリックテスト:アレルゲンエキスを少量皮膚に垂らし、専用の針でごく浅く傷をつけてアレルギー反応(赤みや腫れ)を見る検査です。15分程度で結果がわかる迅速な検査ですが、抗ヒスタミン薬などを服用していると正しい結果が出ないことがあります。

3.3. 画像検査・内視鏡検査

問診や視診の結果、急性または慢性の鼻副鼻腔炎が強く疑われる場合には、より詳細な評価のために画像検査が行われることがあります。特にCT(コンピュータ断層撮影)検査は、副鼻腔内の炎症や膿のたまり具合を立体的に、かつ正確に把握するのに非常に有用です。また、鼻内視鏡検査は、鼻の奥深くや副鼻腔の入口付近の状態を詳細に観察するために用いられます。

第4部:治療法の完全ガイド:市販薬から最新医療まで

くしゃみの治療は、原因、症状の重症度、そして患者さん一人ひとりのライフスタイルに応じて選択されます。ここでは、日本の診療ガイドラインに基づいた標準的な治療戦略から、根治を目指せる可能性のある新しい治療法、そして重症例に対する最新の医療まで、現在利用可能な選択肢を包括的に解説します。

4.1. 治療の基本方針:日本の診療ガイドラインに基づく層別化戦略

アレルギー性鼻炎の治療において、日本の専門家が作成した『鼻アレルギー診療ガイドライン 2024年版』では、まず症状の重症度を評価し、それに応じた治療を段階的に行う「層別化戦略」が推奨されています210。重症度は、くしゃみや鼻水の回数、鼻づまりの程度によって「軽症」「中等症」「重症」「最重症」の4段階に分類されます。この分類に基づき、軽症例では抗ヒスタミン薬の内服から始め、効果が不十分な場合は鼻噴霧用ステロイド薬を追加するなど、ステップアップしていくのが基本です。このアプローチにより、過剰な治療を避けつつ、個々の患者さんにとって最適な効果を得ることを目指します。

4.2. 薬物療法:症状をコントロールする

現在のアレルギー症状を抑えるための中心的な治療法です。

  • 抗ヒスタミン薬:アレルギー反応の原因物質であるヒスタミンの働きをブロックし、くしゃみや鼻水を速やかに抑えます。現在の主流は、眠気などの副作用が大幅に軽減された「第二世代抗ヒスタミン薬」であり、治療の第一選択薬とされています15
  • 鼻噴霧用ステロイド薬:鼻粘膜の炎症を強力に抑えることで、くしゃみ、鼻水、鼻づまりの3大症状すべてに高い効果を発揮します16。全身への影響はごくわずかで安全性も高いため、中等症以上の症状には積極的に使用が推奨されます。
  • ロイコトリエン受容体拮抗薬:アレルギー反応に関わるもう一つの化学伝達物質であるロイコトリエンの作用を抑える薬です。特に鼻づまりに対して効果が高いとされています。
  • 血管収縮点鼻薬:鼻の血管を収縮させることで、一時的に鼻づまりを劇的に改善します。しかし、長期間(1〜2週間以上)連用すると、かえって鼻づまりを悪化させる「薬剤性鼻炎」を引き起こすリスクがあるため、使用は頓服的、かつ短期間に限定すべきです2

4.3. 根治を目指す可能性のある治療法:アレルゲン免疫療法

アレルギーの原因となるアレルゲンを少量ずつ長期間にわたって体に投与し、免疫システムを慣れさせることで、アレルギー反応そのものを起こしにくくする治療法です。体質改善を目指す唯一の治療法であり、根治や長期的な症状緩和が期待できます。

  • 舌下免疫療法(SLIT):アレルゲンエキスを含む錠剤を毎日舌の下に含み、1〜2分保持した後に飲み込む方法です。自宅で治療が可能で、注射の痛みがなく安全性が高いことから、現在の主流となっています。日本では、スギ花粉症に対する「シダキュア」と、ダニアレルギーに対する「ミティキュア」が保険適用で処方可能です3。治療期間は3〜5年と長期にわたりますが、治療終了後も長期にわたる効果が期待でき、約80%の患者さんで有効性が報告されています。主な副作用には、口内のかゆみや腫れなどがあります。
  • 皮下免疫療法(SCIT):アレルゲンエキスを腕などに皮下注射する方法です。通院が必要ですが、医師の管理下で行われるため、アナフィラキシーなどの重い副作用への対応が迅速に行える利点があります。

4.4. 重症・最重症例のための最新治療:生物学的製剤

従来の薬物療法では十分に症状をコントロールできない重症・最重症のアレルギー性鼻炎患者さんに対する新しい選択肢です。

  • 抗IgE抗体療法(オマリズマブ / 製品名:ゾレア):アレルギー反応の鍵となるIgE抗体に直接結合し、その働きを無力化する注射薬です17。IgEがマスト細胞に結合するのを防ぐことで、アレルギー反応の連鎖を根本から断ち切ります。日本では、既存の治療法で効果が不十分な、重症または最重症のスギ花粉症患者さんに対して保険適用となっています4。適用には、血清総IgE値が一定の範囲内にあることなど、いくつかの条件を満たす必要があります18

4.5. 手術療法:鼻づまりが特にひどい場合に

薬物療法で改善しない重度の鼻づまりに対しては、手術が検討されることがあります。アレルギー反応の主座である下鼻甲介の粘膜をレーザーや高周波で焼灼し、粘膜の容積を減らして鼻の通りを良くする方法が一般的です19。くしゃみや鼻水にも一定の効果が期待できますが、効果は永続的ではなく、数年で再発することもあります。

【重要】治療法選択の比較表

治療法 主な対象症状 効果発現 特徴・注意点 日本の保険適用
第二世代抗ヒスタミン薬 くしゃみ、鼻水 速やか(数時間) 治療の第一選択。眠気の少ないものが主流。 あり
鼻噴霧用ステロイド薬 くしゃみ、鼻水、鼻づまり 数日後 全症状に効果が高い。中等症以上で推奨。 あり
舌下免疫療法 (SLIT) アレルギー体質改善 数ヶ月〜 根治を目指せる。3〜5年の継続が必要。スギ・ダニが対象。 あり
抗IgE抗体療法 (ゾレア) 重症・最重症の症状全般 数週間〜 既存治療で効果不十分な重症スギ花粉症が対象。注射薬。 あり(条件付き)
レーザー手術など 重度の鼻づまり 術後〜 薬で改善しない鼻閉に。効果は非永続的な場合も。 あり

第5部:今日からできるセルフケアと予防策

薬物療法と並行して、日常生活の中で原因となるアレルゲンをできるだけ避けることは、症状をコントロールする上で非常に重要です。ここでは、環境省などの公的機関が推奨する、科学的根拠に基づいた具体的なセルフケアと予防策をご紹介します。

5.1. アレルゲンの回避(環境整備)

環境省が発行する『花粉症環境保健マニュアル2022』では、効果的な室内環境の整備方法が示されています12

  • こまめな掃除:特に床や家具の上、カーテンなどは、花粉やハウスダストがたまりやすい場所です。濡れた布での拭き掃除や、排気のきれいな掃除機をかけることが効果的です。
  • 適切な換気:花粉の飛散が多い日は、窓を大きく開ける換気を避け、空気清浄機を活用しましょう。換気をする場合は、飛散の少ない早朝や夜間に、窓を狭く開けて短時間で行うのが良いとされています。
  • 寝具のケア:ダニは高温多湿を好むため、寝具はこまめに干すか、布団乾燥機を使用するのが効果的です。また、ダニの死骸やフンを取り除くために、掃除機をかけることも重要です。花粉シーズンは、布団を外に干すのを避けましょう。
  • 空気清浄機と加湿:HEPAフィルター付きの空気清浄機は、空気中のアレルゲン除去に有効です。また、室内の湿度を50~60%に保つことで、アレルゲンの飛散を抑える効果が期待できます。

5.2. 日常生活の工夫

  • マスク・メガネの着用:花粉飛散期に外出する際は、顔にフィットするマスクを正しく着用することで、吸い込む花粉の量を大幅に減らすことができます。メガネ(特に花粉症用のゴーグルタイプ)も、目に入る花粉を防ぐのに有効です。
  • 帰宅後の対策:家に入る前に、衣服や髪についた花粉をよく払い落としましょう。帰宅後はすぐにうがい、洗顔、可能であればシャワーを浴びることで、体に付着したアレルゲンを除去できます。
  • 生活習慣の見直し:ストレスや睡眠不足、不規則な食生活は、免疫機能のバランスを乱し、アレルギー症状を悪化させる可能性があります。十分な睡眠、バランスの取れた食事、適度な運動を心がけ、心身の健康を保つことが大切です。

5.3. 鼻洗浄の正しい方法

鼻洗浄(鼻うがい)は、鼻腔内に付着したアレルゲンやウイルス、ホコリなどを物理的に洗い流すのに有効な方法です10。ただし、注意点が一つあります。鼻の粘膜は非常にデリケートなため、浸透圧の異なる水道水をそのまま使用すると、ツーンとした痛みを感じたり、粘膜を傷つけたりする可能性があります。必ず、体液に近い濃度に調整された市販の生理食塩水や専用の洗浄液を使用してください。

第6部:くしゃみとQOL(生活の質):データで見る患者の悩み

止まらないくしゃみや鼻水は、単に身体的な不快感にとどまらず、人々の「生活の質(Quality of Life – QOL)」に深刻な影響を及ぼします。この影響を客観的に評価するために、日本では「日本アレルギー性鼻炎標準QOL調査票(JRQLQ)」という専門的なツールが開発・使用されています2021。この調査は、患者さんが日常生活で実際にどのような困難を感じているかを明らかにします。調査結果からは、「仕事や勉強に集中できない」「夜よく眠れない」「気分が落ち込む、いらいらする」といった、身体症状から派生する精神的・社会的な苦痛が浮き彫りになります22。JAPANESEHEALTH.ORG編集部は、あなたの悩みが単なる「くしゃみ」ではないことを深く理解しています。それは、睡眠を妨げ、生産性を低下させ、日々の楽しみを奪う深刻な問題です。このQOLへの影響をデータで示すことは、あなたの経験が決して大げさなものではないことを裏付け、適切な治療を受けることの重要性を強調するためです。

よくある質問 (FAQ)

舌下免疫療法(SLIT)は誰でも受けられますか?費用はどのくらいかかりますか?

舌下免疫療法は、血液検査などでスギ花粉症またはダニアレルギーであることが確定診断された患者さんが対象となります。一般的に5歳以上から開始できますが、重い気管支喘息がある方や、妊娠中の方、特定の薬を服用中の方などは受けられない場合があります。費用は医療機関によって異なりますが、3割負担の場合、診察料と薬代を合わせて月額2,000円~3,000円程度が目安です。治療は保険適用となります3

重症スギ花粉症に対するゾレア(オマリズマブ)注射は、どのような人が対象になりますか?

ゾレア治療の保険適用には、いくつかの条件を満たす必要があります。具体的には、①スギ花粉のアレルギー検査で陽性であること、②既存の治療法(抗ヒスタミン薬や鼻噴霧用ステロイド薬など)を1週間以上試しても効果が不十分な「重症」または「最重症」であること、③12歳以上であること、④血中の総IgE値が30~1,500 IU/mLの範囲内にあること、⑤体重が規定の範囲内にあること、などです。最終的な適応は医師が判断します18

市販の点鼻薬を使い続けても大丈夫ですか?

市販の点鼻薬の中でも、「血管収縮薬」が含まれているタイプには注意が必要です。これらは一時的に鼻づまりを劇的に改善しますが、1週間以上などの長期間にわたって連用すると、リバウンド現象でかえって鼻粘膜が腫れてしまい、慢性的な鼻づまり(薬剤性鼻炎)を引き起こすリスクがあります。使用する場合は、頓服的に短期間にとどめるべきです。症状が続く場合は、医療機関で処方される鼻噴霧用ステロイド薬など、長期的に使用できる安全な薬に切り替えることをお勧めします2

結論

止まらないくしゃみは、アレルギー性鼻炎から感染症、さらには他の様々な要因まで、多様な原因によって引き起こされる身体からのサインです。この記事では、そのメカニズムから最新の治療法まで、科学的根拠に基づいて包括的に解説しました。重要なことは、症状を放置したり、自己判断で不適切な対処を続けたりするのではなく、その背景にある根本原因を正確に突き止めることです。ご紹介したように、現在では症状を抑える効果的な薬物療法から、体質改善を目指すアレルゲン免疫療法、さらには重症例に対する生物学的製剤まで、治療の選択肢は大きく広がっています。もしあなたのくしゃみが日常生活の質(QOL)を低下させているのであれば、ぜひ一度、耳鼻咽喉科やアレルギー科の専門医にご相談ください。この記事が、あなたがご自身の状態を理解し、主治医と共に最適な解決策を見つけるための一助となることを心から願っています。

免責事項この記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスに代わるものではありません。健康上の問題や症状がある場合は、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

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