はじめに
家族性高コレステロール血症(以下、本記事では「家族性高コレステロール血症」と呼びます)は、遺伝的な要因により低密度リポタンパク(LDL)コレステロールが慢性的に高くなる疾患です。日本でも食習慣の欧米化や生活習慣の変化により血中コレステロールに注目が集まる機会が増えていますが、そのなかでも家族性高コレステロール血症は幼少期から高LDLコレステロールが持続的に高いという特徴をもち、十分な注意と早期治療が必要とされています。遺伝要因による疾患は症状がわかりづらかったり、本人が自覚する前に合併症へ進行したりするリスクがあります。若年期にも心筋梗塞や狭心症など深刻な状態を引き起こす可能性があるため、早期発見と適切な治療を行うことが非常に重要です。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
本記事では、家族性高コレステロール血症の定義や原因、症状、診断方法、そして治療と日常生活での対策までを包括的に解説します。加えて、最新の研究を適宜補足して、より深く理解していただけるよう配慮しました。
専門家への相談
この記事では、家族性高コレステロール血症に関する医学的知見や参考文献を示しています。文中で述べる内容には、以下に挙げる信頼性の高い海外の医療機関や学会の情報が含まれており、また日本国内で実際に診療に携わっている医療従事者の意見も踏まえています。さらに、内科医として活躍されている「Bác sĩ Nguyễn Thường Hanh」によるアドバイス(原文における記載)も考慮しつつ再構成しています。なお、最終的な診断や治療法の選択は、個々の患者さんの病状や背景により異なるため、必ず主治医や専門の医師へご相談ください。
家族性高コレステロール血症とは
家族性高コレステロール血症は、LDLコレステロール値が通常よりも著しく高い状態が幼少期から続く疾患を指します。多くの場合、両親のどちらか一方または両方から変異遺伝子を受け継ぐことで発症します。変異が起こる主な遺伝子としてはLDL受容体にかかわる遺伝子、PCSK9遺伝子、ApoB遺伝子などが知られています。
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遺伝子の変異が原因
遺伝的にLDLコレステロールを肝臓で除去しにくい体質となるため、血中のLDLコレステロールが慢性的に高まります。一般的に、片方の親のみから変異を受け継いだ場合(ヘテロ接合体)は有病率が高く(日本でも数百〜数千人に1人とされる説があります)、両親の双方から遺伝子変異を受け継いだ場合(ホモ接合体)はさらに重症化し、極めて高いLDLコレステロール値になるとされています。 -
幼少期からの高コレステロール
通常であれば、年齢が上がるに従って徐々にLDLコレステロール値が上昇する傾向がありますが、家族性高コレステロール血症では新生児期・幼少期の段階から基準を大幅に超える値を示すことが少なくありません。場合によってはLDLコレステロールが190mg/dLをはるかに超える数値に達することもあるため、早期発見と治療が重要です。 -
心疾患や動脈硬化のリスク
LDLコレステロールの過剰は、動脈硬化性疾患(冠動脈疾患、心筋梗塞、狭心症など)を若年期に引き起こすリスクを高めます。両親それぞれから変異を受け継いだ重症型(ホモ接合体)の場合は、適切に治療しないと20歳前後で深刻な合併症を発症する恐れがあるとも報告されています。
主な症状と特徴
家族性高コレステロール血症は、一般的な高LDLコレステロール血症と同様、症状がはっきり現れにくいため「サイレントキラー」とも呼ばれます。しかしながら、以下のような所見・症状が出現する場合があります。
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非常に高いLDLコレステロール値
190mg/dL以上というように基準値を大きく超える結果が継続して認められます。家族内に若い時期から冠動脈疾患を発症した人がいる場合はとくに要注意です。 -
黄色腫(黄色板症とも呼ばれる)
皮膚や腱(アキレス腱や手指の関節周辺など)に黄色腫ができることがあります。これはコレステロールが皮下に沈着して生じるもので、膨らみやしこりとして触れることがあります。 -
角膜輪(角膜周縁部の白色輪)
若年層にもかかわらず、虹彩の外縁部分に白くリング状の沈着物が認められる場合があります。通常、高齢者に見られやすい所見ですが、若い世代で出現するのはLDLコレステロールが極端に高い可能性を示唆します。 -
間欠性跛行や下肢の潰瘍
長期にわたり動脈硬化が進行すると、下肢血管の血流障害を引き起こし、歩行時に足が痛む「間欠性跛行」や、下肢の皮膚潰瘍が治りにくいといった症状がみられるケースもあります。
原因と病態
家族性高コレステロール血症は、複数の遺伝子変異のうち、LDL受容体をコードする遺伝子における変異が最も一般的な原因とされています。LDL受容体が正常に機能しないと、血中のLDLコレステロールが肝臓で十分に除去されず、その結果、血中LDLが高値のまま推移します。
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LDL受容体の働き
通常、肝細胞表面にあるLDL受容体がLDLを取り込むことで、血中のLDL濃度はコントロールされます。遺伝子変異によって受容体の数や機能が低下すると、肝臓の取り込み効率が著しく下がり、LDLコレステロールが血管内に蓄積していきます。 -
PCSK9遺伝子やApoB遺伝子の関与
PCSK9はLDL受容体の分解を促進するたんぱく質であり、この遺伝子の機能獲得型変異があると受容体が過剰に分解されてしまいます。ApoB遺伝子の変異もLDL受容体との結合を阻害する原因となり得ます。
診断方法
家族性高コレステロール血症の診断には、以下の要素が重視されます。
- 血中LDLコレステロール値
持続的に190mg/dL以上(成人の目安)ある場合は本症を強く疑います。小児の場合、160mg/dL以上が持続的にみられる場合に注意が必要とされています。 - 家族歴
親兄弟や祖父母など近親者に若年での冠動脈疾患(心筋梗塞、狭心症など)の既往があるか、もしくは著しく高いコレステロール値が認められるかを確認します。 - 身体所見
皮膚や腱の黄色腫、若年層での角膜輪の有無などを確認します。 - 遺伝子検査
必要に応じて、LDL受容体遺伝子やPCSK9、ApoB遺伝子などの変異を調べる場合があります。ただし、遺伝子検査を行わなくても、上記の臨床的所見や家族歴、血液データから診断が行われるケースも多いです。
日本国内の医療現場では、動脈硬化やコレステロール関連疾患の診療ガイドライン(日本動脈硬化学会など)を参考にしながら、総合的に判断されることが一般的です。
治療法
家族性高コレステロール血症の治療は、生活習慣の改善だけでは不十分とされ、多くの場合、薬物療法との併用が不可欠です。
生活習慣の改善
- 食事管理
LDLコレステロールを増加させる飽和脂肪酸やトランス脂肪酸を控え、野菜・果物・全粒穀物など食物繊維が豊富な食事を心がけます。日本では比較的伝統食のなかに野菜や魚が多く含まれますが、外食や加工食品を日常的に摂る方は特に注意が必要です。 - 適度な運動
週に少なくとも5日、1回30分程度の有酸素運動(ウォーキング、軽いジョギング、水泳など)を行うと、HDLコレステロールの上昇や体重管理にもつながります。 - 禁煙・節酒
喫煙は動脈硬化の進展を促す要因の一つであり、飲酒習慣がある方は量と頻度を見直すことが推奨されます。
薬物療法
- スタチン系薬剤
肝臓でのコレステロール合成を抑制するスタチンは、家族性高コレステロール血症の第一選択薬として広く用いられています。スタチンはLDLコレステロールの低下だけでなく、心筋梗塞や脳卒中のリスクを低減させる臨床的エビデンスも豊富に示されています。 - レジン(陰イオン交換樹脂)
腸管内で胆汁酸と結合し、コレステロールの再吸収を抑える作用があります。スタチンと併用されるケースが多いです。 - エゼチミブ
小腸でのコレステロール吸収を阻害する薬剤です。スタチンなどと組み合わせることで、より強力なLDLコレステロール低下効果が期待できます。 - フィブラート系薬剤
主として中性脂肪を低減する作用を持ちますが、LDLコレステロールよりもトリグリセリドが高い場合に処方されることが多いです。 - PCSK9阻害薬
比較的新しい治療法として注目されており、PCSK9たんぱく質の働きを抑えることでLDL受容体の分解を防ぎ、肝臓によるLDLコレステロールの取り込みを促進します。家族性高コレステロール血症など、重症高LDL血症に対しては有効な選択肢として使われることが増えてきています。
重症例への対応
両親の双方から変異を受け継ぐホモ接合体の場合、LDLコレステロール値が非常に高くなるため、若年期(場合によっては小児期)に冠動脈バイパス手術などの外科的措置が必要となることがあります。さらに、LDLアフェレシス(血液浄化療法)のように定期的に血液中のLDLを直接除去する方法が用いられるケースもあります。肝機能の重度障害など合併症を伴う場合には肝移植が検討されることもあります。
病気の経過と注意点
家族性高コレステロール血症は生涯にわたって管理が求められる疾患です。治療を適切に行わなければ、若い時期から心血管イベントを起こすリスクが高まる一方、薬物療法や生活習慣の改善に努めればリスクを大幅に低減できる可能性があります。
- 早期発見・早期治療の重要性
家族に若年で心筋梗塞や脳梗塞を発症した方がいる場合は、できるだけ早く血液検査を行い、LDLコレステロール値を把握することが推奨されます。 - 長期的なフォローアップ
一度治療を開始しても、加齢や生活環境の変化によりコレステロール値やリスクは変動します。定期的に血液検査を受け、医師の指導に従って薬物や食事療法を見直すことが大切です。 - 合併症の防止
動脈硬化性疾患だけでなく、脂質異常症は糖代謝異常や高血圧などほかの生活習慣病と複合的に関連しやすいことが知られています。食生活や適度な運動を心がけ、総合的に健康管理を行うことが重要です。
最新の研究・エビデンス
家族性高コレステロール血症の管理については、近年の欧米や日本の学会ガイドラインでも強く重要性が訴えられています。
- 2020年欧州心臓病学会(ESC)/ 欧州アテローム血症学会(EAS)の脂質管理ガイドライン
血清LDLコレステロール値を大幅に低下させる必要がある重症例では、高用量スタチン、エゼチミブ、PCSK9阻害薬など多剤併用を早期から検討すべきと提言されています(Mach F et al., Eur Heart J, 2020, doi:10.1093/eurheartj/ehz455)。 - EAS(欧州アテローム血症学会)による2020–2022年の一連の家族性高コレステロール血症に関する合意声明
家族性高コレステロール血症の重症度の定義や推奨治療法に関して、LDLアフェレシスの適応やPCSK9阻害薬の活用などに言及しています(Santos RD et al., J Clin Lipidol, 2020;14(1):94-105. doi:10.1016/j.jacl.2019.12.008)。 - LDLコレステロールとアテローム性動脈硬化の因果関係
大規模な疫学研究やメタ解析により、LDLコレステロールの持続的な上昇が動脈硬化性疾患のリスク増大と強く関連すると示されています(Ference BA et al., J Am Coll Cardiol, 2019;72(10):1141-1156. doi:10.1016/j.jacc.2018.06.027)。日本人も例外ではなく、家族性高コレステロール血症の場合は特にリスクが高まるため、早期治療が欠かせません。
これらの研究や国際ガイドラインは、日本国内の医療現場でも診療方針の参考として広く活用されています。さらに家族性高コレステロール血症に関わる研究は現在も世界各国で進行中であり、新たな治療選択肢や遺伝子治療の可能性も探究されています。
結論と提言
家族性高コレステロール血症は、生まれつきLDLコレステロールが非常に高くなる遺伝性の病気であり、早ければ幼少期から心血管疾患のリスクに直面する可能性がある疾患です。生活習慣の改善だけでは十分にコントロールしきれないケースが多く、スタチンなどの薬物療法や、場合によってはLDLアフェレシスのような集中的治療が必要となることがあります。
- 家族や近親者に若年で心血管疾患を発症した方がいる場合、早めの検査が推奨されます。
- LDLコレステロール値が持続的に高い場合には医療機関を受診し、家族性高コレステロール血症の可能性を含めた精密検査や遺伝子検査の相談を行うことが望ましいでしょう。
- 治療を続けていくうえでは、定期的な血液検査と医師のフォローアップを受けつつ、適切な薬剤調整や生活習慣管理を行うことが非常に重要です。
- 最新の研究では、LDLコレステロールが高い状態が長く続くほど動脈硬化性疾患の危険度が増すと報告されているため、早期の対策が予後を左右すると考えられています。
したがって、家族性高コレステロール血症は「早期発見・早期治療・継続管理」が要となる疾患と言えます。日本で暮らす方々にとっても、普段の食事や生活習慣の中で防ぎきれない遺伝性のリスクがある場合は、できるだけ早く専門医の診察や検査を受けることが大切です。
この記事は医療・健康に関する参考情報を提供するものであり、診断や治療を代替するものではありません。症状や治療法に関する最終的な判断は必ず専門家(医師、薬剤師など)にご相談ください。
参考文献
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- 3. Familial Hypercholesterolemia. https://www.cdc.gov/genomics/disease/fh/FH.htm (アクセス日不定)
- 4. Familial hypercholesterolemia. https://medlineplus.gov/ency/article/000392.htm (アクセス日不定)
- 5. Familial hypercholesterolemia. https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/familial-hypercholesterolemia/diagnosis-treatment/drc-20353757 (アクセス日不定)
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- Mach F, Baigent C, Catapano AL, et al. 2020 ESC/EAS Guidelines for the management of dyslipidaemias: lipid modification to reduce cardiovascular risk. Eur Heart J. 2020;41(1):111-188. doi:10.1093/eurheartj/ehz455
- Santos RD, Gidding SS, Hegele RA, et al. Defining severe familial hypercholesterolemia and the implications for clinical management: a consensus statement from the EAS. J Clin Lipidol. 2020;14(1):94-105. doi:10.1016/j.jacl.2019.12.008
- Ference BA, et al. Low-density lipoproteins cause atherosclerotic cardiovascular disease. J Am Coll Cardiol. 2019;72(10):1141-1156. doi:10.1016/j.jacc.2018.06.027