本記事の科学的根拠
本記事の科学的根拠
本記事は、提供された研究報告書において明示的に引用されている、最高品質の医学的根拠にのみ基づいて作成されています。以下は、参照された情報源の一部とその医学的指針への関連性です。
- MSDマニュアル プロフェッショナル版および家庭版: 本記事における露出症の基本的な医学的定義、症状、疫学、および治療選択肢に関する記述は、世界中の医師や専門家に信頼されているこれらのマニュアルの情報に基づいています13。
- 米国精神医学会 (APA) DSM-5: 露出症の診断基準に関する記述は、精神疾患の国際的な診断基準であるDSM-5に準拠しており、診断の客観性と信頼性を担保しています24。
- 世界保健機関 (WHO) ICD-11: DSM-5と並ぶもう一つの国際的な診断基準であるICD-11の見解も取り入れることで、診断基準の普遍性を示しています5。
- 厚生労働省 科学研究費助成事業報告書: 日本国内における性嗜好障害の治療の現状と課題に関する分析は、この公的な研究報告書に基づいています。これにより、日本特有の医療環境に関する正確な情報を提供しています6。
- 法務省 犯罪白書および日本の法律専門サイト: 露出行為に関連する日本の法律(刑法、迷惑防止条例)、罰則、逮捕後のプロセスに関する記述は、法務省の公式資料や、刑事事件を専門とする法律家の解説に基づいており、法的リスクに関する正確な情報を提供しています78。
要点まとめ
- 医学的状態としての認識: 露出症は意志の弱さや道徳観の問題ではなく、治療可能な精神疾患(性嗜好障害)の一つです。診断には、同意なき他者への行動化、または本人に著しい苦痛・機能障害があることが必須です1。
- 治療可能性: 認知行動療法(CBT)などの心理療法と、性的衝動を緩和する薬物療法(SSRIや抗アンドロゲン薬など)を組み合わせることで、衝動を管理し、社会生活を取り戻すことが可能です910。
- 深刻な法的リスク: 日本では、露出行為は公然わいせつ罪や迷惑防止条例違反に問われ、逮捕、実名報道、失職、前科といった深刻な法的・社会的制裁を受ける可能性があります8。
- 早期相談の重要性: 問題を一人で抱え込まず、取り返しのつかない事態になる前に、精神科や専門のカウンセリング機関、法的な問題があれば弁護士に相談することが、回復への最も重要な第一歩です。
第1章 露出症とは何か?―医学的定義と社会的一般認識の差異
1.1. 露出症を医学的に理解する
露出症(Exhibitionistic Disorder)は、単なる道徳的な逸脱や犯罪行為としてではなく、性嗜好障害(パラフィリア障害)の一つとして分類される、明確な診断基準を持つ精神医学的な状態です1。この障害の中核的な特徴は、通常は警戒していない見知らぬ人に対して自身の性器を露出することによって、反復的かつ強烈な性的興奮を覚えることにあります1。この行為は、被害者に深刻な精神的苦痛や恐怖を与えるだけでなく、行為者自身も社会生活において重大な困難に直面する原因となります。
医学的な文脈において、「露出傾向(exhibitionism)」という言葉は、より広い意味合いで用いられることがあります。これには、同意のあるパートナーとの性行為中に他者から見られることに強い欲求を抱く場合も含まれます1。このような行為は、関与する全員の同意があり、誰にも苦痛や害をもたらさない限り、精神疾患とは見なされません。この区別は、個人の性的嗜好の多様性を尊重しつつ、非同意の相手に害を及ぼす行為を明確に問題として切り分けるために極めて重要です。
1.2. 「露出傾向」と「露出症」の決定的な違い
露出症を正しく理解する上で最も重要な点は、「露出傾向(Exhibitionistic Tendency)」を持つことと、診断可能な「露出症(Exhibitionistic Disorder)」であることの間には、決定的な違いがあるという事実です。露出したいという欲求や空想を持つ人の大半は、露出症の診断基準を満たすわけではありません3。
精神疾患としての「露出症」の診断は、以下のいずれかの条件が満たされた場合にのみ下されます1。
- 同意していない人に対して、その性的衝動を行動に移したことがある。
- または、その性的衝動や空想が原因で、臨床的に意味のある著しい苦痛を感じているか、社会的、職業的、その他の重要な領域における機能障害を引き起こしている。
この「行動化、または苦痛・機能障害」という基準は、現代精神医学が性嗜好障害を理解する上での根幹をなすものです11。単に非典型的な性的関心を持つことと、それが本人や他者にとって深刻な問題となる病的な状態とを区別するための、明確な境界線と言えます。この基準は、個人の内面的な性的空想を罰することなく、それが現実世界で害をもたらす、あるいは本人を苦しめる段階に至った時に、医学的介入の対象となることを示しています。この区別を社会が理解することは、公衆衛生の観点からも極めて重要です。助けを求めることへの心理的障壁を下げ、早期介入を促すことは、本人の苦しみを和らげるだけでなく、将来の被害者を生まないための予防策としても機能するのです。
1.3. 社会的誤解を解く
露出症を取り巻く社会的な誤解を解くことも重要です。一般に、公の場での露出行為はすべて同一視されがちですが、医学的にはその背景を慎重に評価する必要があります。例えば、極度の酩酊状態での一度きりの行為や、衝動的に行ってしまったものの、性嗜好障害の診断基準である「6ヶ月以上の持続」という期間を満たさないケースは、法的には問題となり得ても、必ずしも露出症という精神疾患に該当するわけではありません12。
また、露出症の人が必ずしもさらなる性的接触や暴力を求めているわけではない、という点も重要な事実です。露出症を持つ者がレイプを犯すことは稀であると報告されています3。彼らの性的興奮や満足感は、多くの場合、相手を驚かせたり、ショックを与えたりすること、つまり被害者の反応そのものから得られるものであり、物理的な接触を目的とするものではないのです2。この点を理解することは、過剰な恐怖や偏見を和らげ、冷静な対応を促す上で助けとなります。
第2章 露出症の主な症状と臨床的特徴
2.1. 中核となる症状
露出症の診断を考える上で、中核となる症状は明確に定義されています。
- 持続的かつ強烈な性的興奮: 警戒していない見知らぬ人に自分の性器を露出することについて、反復的で強烈な性的興奮を覚える空想、衝動、または行動が、少なくとも6ヶ月以上にわたって持続します1。これは一過性の好奇心や出来心とは異なり、その人の性的興奮のパターンとして定着している状態を指します。
- 自慰行為の伴随: 露出行為中、または露出行為を空想しながら自慰行為に及ぶことが多く見られます2。
- 被害者の反応への依存: 性的興奮の核心には、被害者の反応が大きく関わっています。相手が驚き、ショックを受け、あるいは強い印象を受けたように見えることで、行為者の興奮は高まります2。この「反応を引き出す」という側面が、行為の動機付けにおいて中心的な役割を果たしているのです。
2.2. 疫学:誰が、いつ発症するのか
露出症の有病率や発症時期に関する知見は、この障害の理解を深める上で不可欠です。
- 有病率: 男性人口における有病率は約2~4%と推定されています。一方で、女性における有病率は不明確ですが、男性よりも著しく低いと考えられています2。
- 発症時期: 通常、思春期に最初の行為が見られることが多いですが、思春期前や中年期になってから初めて発症するケースもあります3。
- 人口統計学的特徴: 露出症を持つ人の多くは結婚していますが、しばしば結婚生活に問題を抱え、社会的・性的な適応がうまくいっていない場合があります2。また、逮捕された男性性犯罪者の約30%が露出症者であり、その再犯率は20~50%と報告されており、常習性が高いことがうかがえます3。
これらの疫学データは、日本の公衆衛生上の深刻な問題を浮き彫りにします。日本の男性人口を約6000万人と仮定すると、有病率2~4%という数字は120万人から240万人がこの状態にある可能性を示唆します。一方で、法務省の犯罪白書によれば、強制わいせつ等で検挙されるのは年間数千人規模であり、治療の多くは逮捕をきっかけに開始されるのが実情です73。この圧倒的な乖離は、膨大な数の人々が誰にも相談できず、一人でこの衝動と戦っている可能性を意味します。これは、露出症が単なる犯罪問題ではなく、治療へのアクセスが著しく不足している、隠れた巨大なメンタルヘルスの課題であることを示唆しています。
2.3. 患者の内的葛藤:自我異和的な衝動
露出症を持つ多くの人々は、自身の性的衝動を「自我異和的(ego-dystonic)」なものとして体験します2。これは、その衝動が自分の本来の価値観や自己イメージとは相容れない、望ましくない侵入的なものだと感じている状態を指します。彼らは、衝動に駆られる自分をコントロールできないと感じ、強い罪悪感、羞恥心、自己嫌悪に苛まれます。
ある42歳の男性のケースでは、彼は妻と二人の子供を持つ父親でありながら、高校時代から続く露出衝動を抑えきれず、ストレスが溜まると夜中に家を抜け出して行為に及んでいました。彼は家族に対する強い罪悪感を抱き、「このままではいけない」と深く悩みながらも、自力でやめることができず、精神科を受診するに至りました2。このような内的葛藤そのものが、診断基準の一部である「臨床的に意味のある苦痛」に該当するのです1。
第3章 発症の背景:考えられる原因と併存する精神疾患
3.1. 多角的な原因の探求
露出症の発症には、単一の原因ではなく、複数の要因が複雑に絡み合っていると考えられています。
- 気質的要因: 過去の研究では、反社会性パーソナリティ障害やその傾向、アルコールの誤用、そして小児性愛への関心が、露出症の危険因子として指摘されています2。
- 心理学的理論: 古典的な精神分析の理論では、露出行為は、去勢不安や性的不能感といった無意識の脅威に対して、自身の男性性を誇示し、確認するための防衛的な行為であると解釈されることがあります2。
- 環境的要因: 小児期の性的虐待や精神的虐待が危険因子として示唆されたこともありますが、その因果関係は明確には確立されていません2。
- 神経生物学的視点: 近年の研究では、性嗜好障害を衝動性と強迫性のスペクトラム障害として捉える見方が進んでいます。このモデルによれば、脳の深部にある線条体などから生じる「ボトムアップ」の衝動的な欲求と、それを抑制する前頭前野の「トップダウン」の制御機能との間の不均衡が、問題行動の背景にある可能性が示唆されています13。この視点は、問題を「意志の弱さ」から治療可能な「医学的状態」へと認識を転換させる上で重要です。
3.2. 併存しやすい他の疾患
露出症は単独で存在することは少なく、他の精神疾患を併存していることがよくあります。
- 他の性嗜好障害: 窃視症(覗き見)、摩擦症(痴漢)、性的マゾヒズム障害など、他の性嗜好障害が併存することは珍しくありません4。
- パーソナリティ障害: 特に反社会性パーソナリティ障害や、それに関連する素行症(行為障害)との併存が報告されています2。
- ストレスとの関連: 日常生活における情緒的なストレスや、危機的な状況が、潜んでいた露出行為の引き金となることがあります2。
これらの併存疾患を正確に評価することは、治療計画を立てる上で極めて重要です。
第4章 専門家による診断プロセスと国際基準
4.1. 診断の進め方
露出症の診断は、精神科医や臨床心理士などの専門家が、国際的に認められた基準に基づいて行う厳密なプロセスです。診断は、患者の性的行動、空想、衝動の具体的な内容、頻度、持続期間、そしてそれによる苦痛や日常生活への支障の程度を詳細に聞き取る包括的な臨床的評価を通じて行われます4。診断基準を満たすためには、症状が少なくとも6ヶ月以上続いていることが必要です1。
4.2. 国際診断基準:DSM-5とICD-11
現在、世界の精神医療では、米国精神医学会(APA)が発行する「DSM-5」と、世界保健機関(WHO)が発行する「ICD-11」の二つが主に使用されています。これらの診断基準を提示することは、露出症という状態が専門家の恣意的な判断ではなく、世界共通の科学的根拠に基づいた客観的な基準によって定義されていることを示す上で非常に重要です。
特徴 | DSM-5 (米国精神医学会)214 | ICD-11 (世界保健機関)5 |
---|---|---|
中核となる性的興奮 | 警戒していない人への性器露出による反復的で強烈な性的興奮 | 警戒していない人への性器露出を含む、持続的で焦点の定まった強烈な性的興奮のパターン |
期間 | 6ヶ月以上 | 明記はないが、「持続的」という表現で長期性を要求 |
診断要件 | 衝動を行動に移した または 著しい苦痛・機能障害がある | 衝動を行動に移した または 著しい苦痛がある |
除外項目 | 文脈から同意のある行為は除外 | 同意のある露出行為、社会的に認められた形の露出主義は明確に除外 |
特定事項 | 興奮の対象(小児、成人、両方)を特定する | 興奮の対象に関する特定事項は必須ではない |
第5章 回復への道筋:利用可能な治療法と対処法
露出症は治療可能な状態です。適切な治療と支援を通じて、衝動を管理し、他者に害を与えることなく社会に適応した生活を送ることは可能です9。治療は主に、心理社会的アプローチと薬物療法の二つの柱から成り立っています。
5.1. 心理社会的アプローチ(精神療法)
心理療法、特に認知行動療法(CBT)は、露出症治療の中心的な役割を担います。これは、問題行動の背景にある思考パターンと行動様式に直接働きかける、科学的根拠に基づいたアプローチです9。
- 認知の再構成: 「自分の体を見せれば相手は興奮するはずだ」といった、露出行動を引き起こす歪んだ思考(認知の歪み)を特定し、それをより現実的で健全な思考に修正します9。
- 衝動コントロール: 衝動が湧き上がった時に、その衝動をやり過ごすための具体的なスキル(深呼吸、その場を離れるなど)を学びます9。
- 曝露反応妨害法 (ERP): 衝動に駆られても実際に行動に移すことを我慢し、衝動が自然に弱まるのを待つ訓練です15。
- 再発予防: どのような状況で行動に走りやすいか(ハイリスク状況)を自己分析し、効果的な対処プランをあらかじめ立てておくことで、再発を防ぎます16。
- グッドライブズモデル (GLM): 問題行動で満たしていた欲求を、社会的に受け入れられる健全な方法(スポーツや趣味など)で満たせるよう支援する、より人間的なアプローチです16。
5.2. 薬物療法
薬物療法は、性的衝動の強さを和らげ、心理療法に取り組みやすくするために非常に有効な選択肢です。通常、心理療法と並行して用いられます3。
薬剤の種類 | 代表的な薬剤名 | 作用機序 | 主な注意点・副作用 |
---|---|---|---|
選択的セロトニン再取り込み阻害薬 (SSRIs) | フルボキサミン、パロキセチン等 | 脳内のセロトニン濃度を調整。副作用として性欲低下作用があり、これを治療的に利用する。 | 吐き気、眠気、性機能障害。効果発現までに数週間かかる。第一選択薬となることが多い。 |
GnRHアゴニスト | リュープロレリン | 下垂体に作用し、テストステロンの産生を強力に抑制することで、性的衝動を著しく低下させる。 | ほてり、骨密度の低下、肝機能障害。重症例に有効。定期的な医学的モニタリングとインフォームド・コンセントが必須。 |
合成黄体ホルモン製剤 | 酢酸メドロキシプロゲステロン | GnRHアゴニストと同様にテストステロン産生を抑制し、性欲を低下させる。 | 体重増加、血栓症危険性、気分の落ち込み。こちらも定期的なモニタリングとインフォームド・コンセントが必要。 |
重要な注意点: 抗アンドロゲン薬(GnRHアゴニスト等)の使用にあたっては、その効果と副作用について十分な説明を受け、患者本人が納得した上で治療を開始するインフォームド・コンセント(説明と同意)が不可欠です。また、治療中は定期的な血液検査など、医学的なモニタリングが必要となります3。
5.3. 日本における治療の現状と課題
日本国内で性嗜好障害の治療を受ける際には、いくつかの大きな課題が存在します。厚生労働省の研究事業報告書などから、以下の点が明らかになっています6。
- 確立された治療法とガイドラインの欠如: 日本では、性嗜好障害に対する治療法は十分に確立されておらず、主要な学術団体から公式な診療ガイドラインは公表されていません617。
- 治療アプローチの不統一: 治療内容は個々の医師や施設の裁量に大きく依存しており、一貫した治療方針がありません6。
- 専門機関と人材の不足: 専門的な治療を提供できる医療機関や訓練を受けた専門家の数が絶対的に不足しています6。
- 省庁間の連携不足: 犯罪者処遇を担う法務省と、医療を担う厚生労働省との間の連携が不十分であることも指摘されています6。
この「治療のばらつき」という現実は、患者がどの医療機関にたどり着くかで受けられる治療が大きく左右されることを意味します。したがって、患者や家族にとって最も重要な対処法の一つは、認知行動療法(CBT)のような科学的根拠に基づく治療法について知識を持ち、性嗜好障害や依存症の治療経験が豊富な専門家を積極的に探すことです。
第6章 法的側面と社会的影響―知っておくべきこと
露出症は医学的な問題であると同時に、その行為が現実世界で行われれば、極めて深刻な法的・社会的結末を招きます。
6.1. 日本の法律と罰則
露出行為は、複数の法律によって処罰される可能性があります8。
法律 | 対象となる行為 | 罰則 | ポイント |
---|---|---|---|
刑法:公然わいせつ罪 | 公共の場所やネット上での性器露出、性行為など。 | 6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金等 | 最も基本的な罪名。行為のわいせつ性が重視される。 |
迷惑防止条例 (例:東京都) | 公共の場所での卑わいな言動。下着姿になる行為なども含む。 | 6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金 | 各都道府県で内容が異なる。刑法より罰金の上限が高い場合がある。 |
軽犯罪法 | 他の法律に該当しない軽度の肌の露出など。 | 拘留(30日未満)または科料(1万円未満) | 比較的軽微な迷惑行為を対象とする。 |
6.2. 逮捕後の流れと社会的制裁
万が一、露出行為で逮捕された場合、その後の人生に計り知れない影響が及びます。現行犯逮捕または後日逮捕の後、警察での取調べ、検察への送致、そして勾留(最大23日間)といった身体拘束が続く可能性があります20。起訴され有罪判決が下されれば前科がつきます。
法的な処罰以上に厳しいのが、社会的な制裁です。
- 実名報道と信用の失墜: 性犯罪は社会の関心が高く、実名で報道される危険性が非常に高いです。一度報道されれば、デジタルタトゥーとして半永久的に情報が残り、社会的信用は完全に失墜します8。
- 失職: 勤務先に知られた場合、懲戒解雇となる可能性が極めて高いです21。
- 前科の影響: 前科がつけば、その後の就職活動で著しく不利になるほか、特定の資格を取得できなくなるなど、生涯にわたる不利益を被ることになります8。
この法的危機は、皮肉にも治療への重要な介入点となり得ます。日本の刑事司法制度では、被害者との示談が成立すれば、不起訴や減刑につながる可能性がありますが、それは法的な解決に過ぎません21。問題の根本原因を治療するための精神科医への相談と、法的危機に対応するための弁護士への相談を、同時に進めることが真の回復への道を開きます。
よくある質問
Q1: 露出したいという考えがあるだけで、病気なのでしょうか?
いいえ、単にそのような空想や欲求があるだけでは「露出症」とは診断されません。精神疾患としての診断が下されるのは、その衝動に基づいて同意のない他者に対して行動してしまった場合、またはその衝動や空想自体が原因で、ご自身が著しい苦痛を感じたり、仕事や社会生活に深刻な支障が出たりしている場合に限られます1。多くの人は非典型的な性的空想を持つことがありますが、それが問題となるかどうかは、本人や他者への具体的な「害」があるかどうかで判断されます。
Q2: 治療は本当に効果があるのでしょうか?やめられますか?
はい、露出症は治療可能な状態です。認知行動療法(CBT)のような専門的な心理療法や、必要に応じた薬物療法を組み合わせることで、衝動をコントロールし、再発を防ぐことは十分に可能です9。治療の目的は衝動を完全になくすことだけでなく、衝動が起きても行動に移さないための具体的なスキルを身につけることです。適切な治療を受ければ、平穏な生活を取り戻すことができます。
Q3: 逮捕されるのが怖くて相談できません。どうすればよいですか?
そのお気持ちは非常によく分かります。しかし、医療機関には守秘義務があり、相談内容が本人の同意なく警察などに伝わることはありません。問題を放置すれば、いずれ逮捕という最悪の事態につながる危険性が高まります。そうなる前に、まずは精神科や心療内科、あるいは性依存症などを専門とするカウンセリング機関に相談することが、ご自身と社会を守るための最も賢明な選択です。早期の相談が、回復への第一歩となります。
Q4: 家族として何ができますか?
ご家族のサポートは非常に重要です。まず、本人を一方的に非難するのではなく、これが治療を必要とする「病気」であると理解し、専門家への相談を根気強く促してください。本人が治療を開始したら、そのプロセスを非難せずに支える姿勢が回復を助けます。また、この困難な状況に対処するために、ご家族自身もカウンセリングなどの支援を求めることが、共倒れを防ぐために重要です。
結論
露出症は、本人に深刻な苦痛をもたらし、被害者に癒しがたい心の傷を与え、そして重大な法的・社会的破滅を招く、極めて深刻な精神疾患です。しかし、それは絶望的な状態ではありません。その背景には、個人のコントロールを超えた、脳機能や心理的な要因が複雑に絡み合っています。
この包括的な報告書が示すように、認知行動療法や薬物療法といった有効な治療法が存在し、それらを通じて衝動を管理し、再犯を防ぎ、社会の一員として責任ある人生を再建することは可能です。道は決して平坦ではありません。特に日本では、治療体制の未整備という大きな課題も存在します。しかし、問題を正しく認識し、勇気を持って専門家の扉を叩き、医学的、心理的、そして法的な支援を適切に組み合わせることで、回復への道は必ず開かれます。最も重要なメッセージは、「一人で抱え込まないでください」ということに尽きます。
参考文献
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