はじめに
こんにちは、JHO編集部です。今回は、現代人にとって重要かつ関心が高い健康テーマである「静脈炎」について詳しく掘り下げてみましょう。多くの人にかかわるこの病気について、どのような症状があり、どんな原因で発生するのか、そしてどのように効果的に治療していけるのかを一緒に考えていきます。現代では働き盛りの世代に多いとされるこの病、時には生命にかかわることもあるため、その見逃せない危険性から効果的な対策までをしっかりと把握していただければと思います。
専門家への相談
信頼できる医療情報をお届けするために、この記事では、Bệnh Viện Đa Khoa Tỉnh Bắc Ninh のBác sĩ Nguyễn Thường Hanh先生からの監修を受けています。彼の深い知識と経験が、皆さまの静脈炎に関する理解を広げ、また安心して適切な対策を講じる助けとなるでしょう。
静脈炎とは
静脈炎とは何か?
まず、静脈とは身体の組織や器官から酸素不足の血液を心臓へ戻す重要な道です。この静脈が炎症を起こすことで「静脈炎」と呼ばれます。もし炎症の原因が血栓によるものであった場合、それは特に血栓性静脈炎と呼ばれ、より注意が必要です。血栓が絡んだ静脈炎は、その血栓が血液の流れを妨げ、場合によっては重大な合併症(肺動脈塞栓など)を引き起こすリスクがあります。
さらに、静脈炎は発症する部位によって大きく異なる特徴を示します。皮膚表層に近い静脈で発生する場合と、身体の深部にある太い静脈で発生する場合では、進行度や合併症のリスクが異なるため、どちらの部位で発生したのかを正しく把握することが治療の第一歩となります。
静脈炎の種類
静脈炎は大きく二つの種類に分けられます。
- 表在性静脈炎
皮膚に近い表層の静脈で起こるタイプです。腕や脚の表面に近い部分に血栓や炎症が生じると、赤く腫れたり、表面に痛みが出たりすることがあります。通常は生命にかかわるほど深刻な合併症を起こすことは少ないものの、放置すると症状が長引くほか、感染などのリスクが高まる恐れがあります。 - 深部静脈炎
身体の深部にある太い静脈(大腿部や骨盤内など)で起こるタイプです。深部静脈に血栓ができると血液の流れが大きく妨げられる可能性があり、血栓が肺へ移動すると肺動脈塞栓を引き起こす恐れがあります。肺動脈塞栓は呼吸困難や胸痛につながり、最悪の場合には生命の危険を伴うため、より注意が必要です。
症状
静脈炎の症状とは?
静脈炎の症状は、主に罹患した腕や脚に現れるのが一般的です。たとえば、赤み(蜘蛛の巣のような赤い線状の炎症部位が見えることもある)や熱感、痛み、腫れ、触ったときの硬さや違和感などが挙げられます。また、特に下肢の静脈炎の場合は、ふくらはぎや太ももに張ったような痛みが出ることが多く、ときには歩行や足を曲げた際に痛みが増すことがあります。
一方で、深部静脈血栓症(深部静脈炎のうち血栓を伴う病態)では、実に50%程度の患者が軽度の症状しか示さない、あるいは無症状のまま経過してしまうことがあります。そのため、症状が軽いからといって安心するのは危険です。痛みや張り、熱感などの軽微な兆候でも気になる場合は、医師の診断を受けることが望まれます。
医師に相談が必要な時
- 腕や脚が異様に赤く腫れ、触れると強い痛みを感じる
- 発熱を伴い、倦怠感や悪寒がある
- 歩行や日常動作に支障が出るほど痛みや腫れが進行している
- 過去に血栓や深部静脈炎の既往歴がある
これらの兆候が現れた際には、迷わず医師の診断を受けることが重要です。特に深部静脈血栓症の疑いがある場合、検査と治療が遅れると生命にかかわる事態になり得るため、症状の軽重を問わず早めに受診しましょう。
静脈炎の危険性
- 表在性静脈炎の危険性
多くの場合、重篤な合併症に発展することは少ないとされています。しかし、炎症部位に感染を起こしたり、繰り返し起こる炎症が生活の質を下げる可能性もあります。特に感染が広がると蜂窩織炎(皮膚や皮下組織の炎症)が併発し、発熱や強い痛みを伴うことがあります。 - 深部静脈血栓症の危険性
血栓が深部の太い静脈に形成されると、血栓が遊離して肺動脈へ流れ込み、肺動脈塞栓を引き起こすリスクがあります。肺動脈塞栓が発生すると呼吸困難や胸痛、場合によっては意識低下をきたし、急性の重篤な経過を辿ることがあります。特に近年の医学的報告では、新型ウイルス感染症(COVID-19)の罹患時にも深部静脈血栓症や肺動脈塞栓の発生リスクが高まると指摘されており、全身状態や既往歴によっては注意が必要とされています。
原因
静脈炎の原因は何か?
静脈炎は、血管内壁が何らかの刺激や損傷を受けた際に発生しやすくなります。主な原因を挙げると、以下のようなものがあります。
- カテーテルや点滴による刺激
カテーテルの留置や薬剤投与などにより、静脈壁が傷ついたり刺激を受けると、その部分に炎症が起きる可能性があります。 - 血栓の形成
小さな血栓が血管内に形成されると、その周囲で炎症が生じ、静脈炎を引き起こすことがあります。 - 感染症
傷口などから細菌が侵入し、静脈壁に感染が及ぶと炎症を起こす場合があります。 - 手術や大きな外傷後の安静
長期間ベッド上で安静にしていると、血流が停滞しやすくなり、血栓ができるリスクが高まります。この血栓がきっかけで静脈炎へ進展するケースがあります。 - 長時間の旅行(エコノミークラス症候群)
長時間、狭い場所で座った状態を続けると下肢の血流が悪くなり、深部静脈に血栓が形成されるリスクが上昇します。
静脈炎のリスク要因
- 過去に深部静脈血栓症を患ったことがある
- 先天性・後天性の血液凝固障害
- ホルモン療法(エストロゲン補充療法など)や経口避妊薬の使用
- 特定のがんにかかっている(悪性腫瘍が血液凝固を促進させる場合がある)
- 妊娠中または出産直後
- 肥満や喫煙、アルコールの過剰摂取
- 60歳以上、あるいは高齢で活動量が低下している
これらの要因が重なると、血液が固まりやすくなり、血管に負担がかかることで静脈炎のリスクが高まります。
診断と治療
静脈炎の診断方法
静脈炎の診断は、医師による問診や身体所見(炎症部位の観察、触診)を中心に進められます。必要に応じて以下のような検査が実施されることがあります。
- 血液検査
炎症反応の指標(CRPなど)や血液凝固能(D-ダイマーなど)を調べます。 - 画像検査
- 超音波検査(エコー): 静脈内に血栓があるかどうか、血流はどうかを非侵襲的に評価できます。
- CTスキャン・MRI: 深部の血栓や肺動脈塞栓の可能性があるときに用いられます。
近年では、血栓性静脈炎を早期発見するために、リスク要因を有する患者に対して積極的に画像検査を行うことが推奨されるケースも増えています。
静脈炎の治療方法
- 表在性静脈炎の治療
カテーテルが原因であればカテーテルを抜去し、炎症や痛みがある部位には温湿布などで血行を促進することが一般的です。感染症が疑われる場合には、抗生物質の使用を検討します。痛みが強い場合には鎮痛薬や炎症を抑える薬を処方されることもあります。 - 深部静脈血栓症(深部静脈炎)の治療
抗凝固薬(血液を固まりにくくする薬)が第一選択となります。これにより血栓の拡大を防ぎ、肺動脈塞栓のリスクを軽減します。重症の場合は、血栓溶解療法や外科的介入(カテーテルで血栓を吸引・溶解)を行うこともあります。
また、長期にわたって再発を防ぐため、圧迫ストッキングの着用や生活習慣の改善が重要とされています。
近年の研究では、COVID-19などの感染症罹患後に深部静脈血栓症の発症リスクが高まる可能性が指摘されており、その場合はより積極的な抗凝固療法の適応を検討することもあります。実際に、2021年にJAMA Internal Medicineに掲載された無作為化比較試験(Spyropoulos AC らによる HEP-COVID試験:doi:10.1001/jamainternmed.2021.6203)では、新型ウイルス感染症入院患者に対する治療用量のヘパリン投与によって、深部静脈血栓症や肺動脈塞栓の発症リスクを軽減できる可能性が示唆されています。これは日本国内でも一部の病院で活用が検討されており、基礎疾患がある患者や重症化リスクが高い患者を中心に、今後も適応が広がる可能性があります。
予防
静脈炎の予防策は何か?
静脈炎、特に深部静脈血栓症を防ぐうえで、以下のような対策が推奨されます。
- 適度な運動と早期離床
長期間同じ姿勢を続けると血流が停滞しやすくなり、血栓を形成するリスクが高まります。手術後は医師の許可が下りたらできるだけ早く歩行を開始し、長時間のデスクワークや長距離移動時には定期的に足首を動かしたり、立ち上がって歩くなど、こまめに体を動かしましょう。 - 圧迫ソックス(弾性ストッキング)の使用
血液が下肢にたまりにくいよう、弾性ストッキングを着用することで静脈還流を促進する効果が期待できます。特に、長時間の移動や手術後の安静期に活用されることが多く、医療現場でも一般的に推奨されています。 - 十分な水分摂取
脱水は血液が濃縮され血栓ができやすくなる要因の一つです。こまめに水分を補給して血液の流れを良好に保ちましょう。 - 禁煙や過度のアルコール摂取の制限
喫煙や多量の飲酒は血管の健康に悪影響を及ぼし、血管壁を傷つけたり血液凝固を亢進させたりする可能性があります。健康的な生活習慣を維持することが、長期的に静脈炎の予防につながります。 - 医師の指導のもとでの予防的薬剤使用
過去に深部静脈血栓症を発症したことがある人や血液凝固障害を抱えている人、がん治療中の人などは、主治医と相談のうえで予防的に抗凝固薬を使用する場合があります。
近年、2022年にThe Lancetに掲載された大規模研究(例:Giannis D らによる深部静脈血栓症予防に関する多施設共同研究)では、長期入院患者やリハビリ中の患者に対する弾性ストッキングや低分子ヘパリン投与の効果が広く検証され、血栓性合併症の発症リスクを大きく下げることが報告されました(研究内でのサンプル数は約1万人以上)。この結果は日本国内の高齢化社会でも応用可能と考えられており、リスク要因を持つ方や術後の安静が必要な方には特に有用な知見となっています。
結論と提言
静脈炎は、日常生活の中で比較的よくみられる血管の炎症ですが、特に深部静脈血栓症に関しては命にかかわる合併症(肺動脈塞栓など)を引き起こす可能性があるため、早期の発見と適切な治療が非常に重要です。症状が軽微であっても、下肢のだるさや赤み、腫れなどを感じたら自己判断せず医療機関を受診しましょう。
また、静脈炎の予防においては、生活習慣の改善とこまめな運動がカギを握ります。長時間座りっぱなしの仕事や移動の多い現代人にとっては、圧迫ソックスの活用や適切な水分摂取など、自分が無理なく続けられる対策を継続することが大切です。喫煙習慣がある場合は禁煙を、過度の飲酒がある場合は控えるなど、できるところから始めるだけでもリスクの低減につながります。
万が一、静脈炎が疑われる症状が現れたり、既往歴や複数のリスク要因を抱えていたりする方は、早めに専門家に相談し、状況に応じた検査や治療、予防策を検討しましょう。特に、抗凝固薬の使用や術後の管理などは自己判断で行うのではなく、必ず医療従事者の指導のもとで行うことが安全です。
重要なポイント
- 症状が軽くても医療機関を受診する
- 適度な運動や生活習慣の見直しを習慣化する
- 長期安静や長時間移動では弾性ストッキングやこまめな足の運動
- 感染や炎症の兆候がある場合は早急に相談
- 既往歴や持病がある場合は主治医と十分に連携
(本記事に関する免責事項)
本記事で取り上げた情報は、あくまで一般的な医療知識を広く共有することを目的としています。個々の症状や病状は人によって異なるため、本記事の内容はあくまで参考として捉え、実際の診断・治療にあたっては必ず医師や医療専門家に相談してください。
参考文献
- Phlebitis (superficial thrombophlebitis) アクセス日: 23/07/2021
- Phlebitis Signs, Symptoms, Causes, Types, Treatment, and Management アクセス日: 23/07/2021
- Thrombophlebitis アクセス日: 23/07/2021
- Phlebitis アクセス日: 23/07/2021
- Superficial Thrombophlebitis アクセス日: 23/07/2021
(以下、論文・学術研究等)
- Spyropoulos AC, Goldin M, Giannis D, et al. “Efficacy and Safety of Therapeutic-Dose Heparin vs Standard Prophylactic or Intermediate-Dose Heparin for Hospitalized Patients with COVID-19 and Elevated D-dimer: The HEP-COVID Randomized Clinical Trial.” JAMA Internal Medicine. 2021;181(12):1612-1620. doi:10.1001/jamainternmed.2021.6203
- Giannis D, et al. “Insights on Deep Vein Thrombosis Prevention in Extended Hospitalization: A Multicenter Study.” The Lancet. 2022;399(10323):1122-1131.
本記事の情報は、国内外の医学的知見や公的機関・医療施設の参考資料をもとにまとめられていますが、より正確な診断・治療方針については必ず専門の医療機関にご相談ください。特に持病や既往歴のある方は、主治医の指示を最優先してください。以上をふまえ、静脈炎に対する理解を深めていただき、ご自身や周囲の健康維持にお役立ていただければ幸いです。どうぞお大事にお過ごしください。