はじめに
日常生活で「口を大きく開けられない」「あごがこわばって痛い」といった不調に悩む方がいます。こうした症状が続くと、食事や会話が不便になるだけでなく、歯みがきや日常のケアにも支障をきたしやすくなります。ここでは、いわゆる「顎のこわばり(以下、本記事内では“顎硬直”と表現)」が生じる原因と症状、医療機関での診断・治療法、そして日常生活での予防策などを詳しく解説します。顎硬直は頻繁に見られるものではありませんが、もし該当する症状や不安がある場合は、早めの対策が大切です。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
専門家への相談
本記事の内容は、口腔領域や頭頸部領域を専門とする医師・歯科医師などの見解や研究論文を参考にまとめています。特に、医療機関での診察や専門的な治療を受けるかどうかの判断は、専門家の助言が必要です。本記事では、国内外の信頼できる情報源を参考にしつつ、最終的な医療的判断は必ず医療従事者に相談いただくことを推奨しています。
顎硬直とは何か
顎硬直とは、あごを動かす筋肉(咀嚼筋)が緊張・炎症を起こし、口を大きく開けられなくなる状態を指します。具体的には、上下の歯の間隔を十分に広げられず、口腔ケアや食事時の咀嚼が困難になるのが特徴です。次のような要因で発症しやすいとされます。
- 親知らずの抜歯直後
- 口腔周辺(頭頸部を含む)の手術、あるいは放射線治療を受けた方
- 顎関節症など、顎関節まわりの機能異常がある方
- 外傷(交通事故、スポーツ外傷など)を受けた方
顎硬直が起こると、日常生活での会話や食事、歯みがきなどに支障をきたすことがあります。症状が長期化すると、口腔内の衛生管理が難しくなり、二次的な感染や栄養状態の悪化を引き起こす可能性もあります。
顎硬直の主な症状
顎硬直のもっとも顕著な症状は、「口を大きく開けられない」という点です。以下のような症状を伴うことがあります。
- 口を開けようとしても痛む、あるいは顎に強い圧迫感がある
- 食べ物を噛みにくい、飲み込みにくい
- 歯みがきや歯科治療がしづらい
- 顎に常に張りつめたような違和感がある
症状が進むほど、食事や会話だけでなく、気分的なストレスも増す場合があります。痛みが原因で寝つきが悪くなったり、ストレスによって噛みしめや歯ぎしりがひどくなるケースも報告されています。
顎硬直の主な原因
1. 外傷(あごへの衝撃)
交通事故や転倒、スポーツ中の衝撃などにより、顎の骨折や関節周辺の組織が損傷すると、その回復過程で顎を動かしにくくなり、顎硬直を引き起こすことがあります。骨が回復するまで顎を固定する治療を行う場合、さらに筋肉がこわばりやすくなるため、注意が必要です。
2. 親知らずの抜歯
親知らずや奥歯の抜歯後に顎が開きにくくなることがあります。これは、抜歯時の器具操作や麻酔注射による局所の炎症・損傷、あるいは術後感染などが影響している可能性があります。ある研究によると、抜歯後の顎硬直リスクを下げるために、抗炎症薬を適切に使用することが有用とされています(後述の参考文献を参照)。
3. 顎関節症(顎関節の機能異常)
顎関節症とは、顎関節や咀嚼筋の異常によって起こる症候群の総称です。遺伝的要素や噛み合わせ、生活習慣(歯ぎしりなど)、精神的ストレスなどさまざまな要因が関わると考えられています。顎関節がズレたり炎症を起こしたりすることで、痛みや開口障害(口を大きく開けられない)を引き起こす場合があります。
- 近年の統計によれば、顎関節症を抱える人のうち約11%程度が「口を大きく開けにくい」と感じているという報告があります。
- また、精神的ストレスと咀嚼筋の過緊張が相互に影響し、顎硬直を長期化させる可能性が指摘されています。
4. 頭頸部の放射線治療、口腔がんなど
頭頸部領域のがん治療では、放射線を照射した部位の組織が硬くなり、瘢痕化(組織が瘢痕に置き換わること)を起こすことで顎がこわばりやすくなります。特に口腔がん、舌がん、咽頭がんなどで放射線療法を受けた方に多く見られ、放射線照射後の開口障害は顎硬直の一種として認識されています。
- 放射線治療では、照射範囲に含まれる筋肉や皮膚、粘膜がダメージを受け、痙縮や瘢痕化が起こることが原因とされています。
- 治療後のリハビリテーションとして、開口訓練(TheraBiteなどの機器を使用した訓練)が推奨されるケースも多いです。
顎硬直の診断方法
医療機関で顎硬直が疑われる場合、医師や歯科医師はまず次の点を確認します。
- 口がどれくらい開くか(開口量)の測定
- 開口時に痛みや異音(クリック音)があるかどうか
- 外傷歴や抜歯歴、放射線治療歴の有無
- CTやMRIなどの画像検査
画像検査によって、骨や軟部組織、関節円板などに異常がないかを調べます。顎関節症や外傷に伴う骨折が疑われる場合は、より詳しい検査が行われることもあります。
顎硬直の治療法
1. 開口訓練用デバイスの使用
顎硬直のリハビリテーションには、「顎をゆっくりと広げる訓練器具」が用いられる場合があります。これにより、1日数回、数ミリずつ開口量を広げるトレーニングを行い、筋肉や靭帯の柔軟性を高めます。
- 代表的な機器として「TheraBite」という製品が知られており、あごをこじ開けるのではなく、少しずつストレッチを加えながら訓練する方法が報告されています。
- 海外の臨床研究でも、頭頸部がん治療後の顎硬直改善において、こうした開口訓練デバイスが有効であると示唆されています。
2. 薬物療法(筋弛緩薬・抗炎症薬など)
- 筋弛緩薬や非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、またはステロイド系抗炎症薬が処方されることがあります。
- 親知らず抜歯後の顎硬直に関して、ステロイド薬(プレドニゾロン)とNSAIDsを併用することで、顎硬直や痛みが軽減されたとの研究結果も報告されています。
3. 物理療法(理学療法)
- 顎周囲のマッサージや温熱療法を組み合わせることで、咀嚼筋の緊張緩和を図ります。
- 開口訓練をセラピストや歯科医の指導のもとで行い、少しずつ口を大きく開ける動作を習慣化させるのも有効です。
- 顎関節症が原因の場合は、かみ合わせ調整やスプリント療法(マウスピース装着)を組み合わせることで症状が改善するケースがあります。
4. 食事内容の工夫
- 顎硬直の改善が見られるまでは、やわらかい食事や流動食を中心に摂取するようにします。
- 咀嚼時間の短縮や顎への負荷軽減につながり、痛みや開口制限によるストレスを軽減できます。
5. 放射線治療後のリハビリテーション
- 頭頸部がん治療後に顎硬直が生じた場合、専門のリハビリテーションプログラムを実施することが重要です。
- 放射線照射でダメージを受けた筋肉や軟部組織に対して、開口訓練や筋肉マッサージ、ストレッチなどを組み合わせることで改善を図ります。
- 国内外の複数の研究によると、早期からのリハビリテーションが遅発性の顎硬直や嚥下障害を予防するうえで極めて大切とされています。
最新の研究からの報告(2021年)
頭頸部がん患者に対して、放射線治療中または治療直後から物理療法を導入した群と、数か月以上経過してから開始した群を比較したランダム化比較試験では、早期介入群の方が顎硬直の程度が軽く、口腔摂取率の改善もみられたという結果が報告されています(Changら、Medicine (Baltimore), 100(33), e26976, doi:10.1097/MD.0000000000026976)。この研究は患者数100名規模の比較的大規模な試験であり、早期リハビリテーションの重要性を示す根拠となっています。
日常生活でできる予防・セルフケア
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顎のマッサージ
- 顎関節付近や咀嚼筋を指先や手のひらで軽くマッサージします。血行促進と筋緊張の緩和を目的とします。
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顎のストレッチ運動
- 左右や円を描くようにあごを動かす練習を、痛みがない範囲で行います。1回あたり数分、朝晩に取り組むだけでも筋肉の硬さを軽減できます。
- 口をできるだけ大きく開き、数秒間キープして閉じるストレッチを繰り返す方法も有効です。ただし、痛みが出るほど無理に動かすのは禁物です。
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噛みしめや歯ぎしりの回避
- ストレスや就寝時の歯ぎしりは顎関節や咀嚼筋に負担をかけます。就寝時にマウスピースを装着するなど、歯科医に相談する方法があります。
- 日中でも無意識のうちに歯を食いしばるクセがある場合は、気づいたら顎をリラックスさせることを意識しましょう。
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姿勢の改善
- スマートフォンやパソコンを長時間使用するとき、姿勢の悪さから首まわりや顎まわりの筋肉に負担がかかることがあります。猫背を避け、首を前に突き出さない姿勢を心がけます。
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放射線治療後のセルフケア
- 頭頸部への放射線照射を受けた場合、医療スタッフから指導されるリハビリの内容をできるだけ継続して行います。
- とくに筋肉や関節が硬くなる前からの予防的アプローチが重要とされ、専門家の指導のもと早期から軽い開口訓練を始めると、長期的にみて有効です。
まとめと推奨事項
顎硬直は、口を大きく開けられない、噛みにくい、話しにくいといった日常生活の質を下げる要因となります。その原因は、外傷、抜歯、顎関節症、放射線治療など多岐にわたり、症状も痛みや違和感を伴うことがしばしばです。しかし、早期の診断と適切な治療・リハビリテーションによって、多くのケースで症状の改善が期待できます。
- 治療法としては、デバイスを使った開口訓練、薬物療法、物理療法、食事の工夫などが挙げられます。特に放射線治療後の患者さんの場合は、早期リハビリが顎硬直の予防・改善に大きな効果をもたらす可能性があると示唆されています。
- 日常生活では、無理のない範囲での顎のマッサージやストレッチ、噛みしめ・歯ぎしりの回避などを心がけるとよいでしょう。
もし顎硬直が長期間続いたり、症状が悪化するような場合は、歯科口腔外科や耳鼻咽喉科、頭頸部外科などの専門医へ早めに相談してください。適切な診断と治療を受けることで、口腔機能の回復を目指し、日常の不便を最小限に抑えられる可能性があります。
参考文献
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本記事は、信頼できる情報や研究をもとに執筆しており、顎硬直の症状・原因・治療法について可能な限り詳しく解説しました。ただし、あくまでも参考情報であり、専門家の診察や助言に代わるものではありません。症状が継続または悪化する場合や、治療方針に迷う場合は、必ず医療機関へご相談ください。特に、顎関節や頭頸部関連の問題は早期発見・早期対応が重要となります。自分の健康を守るためにも、定期的な検診や専門家との連携を大切にしてください。