食道がん患者の食事指南:適切なメニューの組み立て方
がん・腫瘍疾患

食道がん患者の食事指南:適切なメニューの組み立て方

はじめに

食道は、のどの奥から胃までをつなぐ管のような役割を果たす器官です。この部分にがんが生じると、食道が狭くなることで嚥下(飲み込み)に困難が生じたり、食欲不振や体重減少、栄養不良を引き起こしやすくなります。また、食道がんの治療に伴う副作用や痛み、全身状態の変化によっても、うまく食べられない状態が続くことがあります。こうした状況下で重要なのが、適切な栄養管理を通じて体力を維持し、感染症などを予防し、治療効果や回復力を高めることです。

免責事項

当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。

本記事では、食道がん患者の方が「何を、どう食べればよいか」を中心に、日常的に取り入れやすいヒントや注意点を詳しくご紹介します。加えて、実際の治療や状態に応じた食事形態の調整、栄養補給のコツなども取り上げ、しっかり食べることで得られるメリットを詳しく解説します。

専門家への相談

本記事は、海外の医療機関やがんに関する専門サイト、学会のガイドラインなどを参考に作成したものです。代表的な参照先として、URMC RochesterCancer Research UKOncolinkDana-FarberPearlpointMSKCCRoswell Parkなどが挙げられます。これらはがん分野で信頼性の高い情報を提供していることで知られており、日々更新される知見を踏まえた情報を提示しています。ただし、ここで述べる内容はあくまでも「一般的な参考情報」であり、実際には担当医・管理栄養士などの専門家による個別の判断が必須です。ご自身やご家族の状態に合わせ、専門家とよく相談してください。

食道がんにより食事が困難になる理由

食道がんはがん細胞が増殖し、食道管腔の狭窄や潰瘍を引き起こします。腫瘍が大きくなると、物理的に通過がしにくくなり、痛みや違和感により自然に食欲が低下することがあります。また、手術・放射線治療・化学療法の副作用として、口腔内や食道内の粘膜障害、味覚変化、吐き気・嘔吐、飲み込みづらさ、食欲低下、慢性的な疲労などが生じやすく、結果的に十分なエネルギーや栄養が摂取しづらくなります。

以下は、代表的な症状や副作用の例です。

  • 食欲不振
  • 味覚の低下・変化
  • 口やのどの乾燥感
  • 口や食道の痛み、潰瘍
  • 嚥下障害(飲み込みにくさ)
  • 吐き気や嘔吐
  • 胸やけ、消化不良
  • 少し食べただけでもすぐに満腹感を覚える
  • 便秘または下痢
  • 逆流・胸焼け
  • 全身の疲労感

こうした症状が続く場合、医師に相談しながら、必要に応じて薬物療法や栄養補助食品の導入を検討します。同時に食事形態を工夫し、できるだけ負担を減らしながらエネルギーや栄養素を確保することが大切です。

食道がんの患者は何をどのように食べればよいか

食事の基本的な考え方

バランスの良い食事は重要ですが、食道がんの場合、食事形態(固さや大きさ)を調整する必要があります。一般的には「軟らかく食べやすい形状」にする工夫が求められます。噛む力や飲み込む力の低下、口腔・咽頭・食道の粘膜状態に応じて、下記のような方法を取り入れてみましょう。

  1. やわらかい食品に調理する
    肉や野菜はよく煮込む蒸すシチューやスープなどにして、柔らかくほぐれやすい状態にしておく。
  2. ペースト状・すりつぶし・ミキサー食にする
    嚥下が難しい場合は、食材をミキサーでつぶしてペースト状または液状にする。
  3. 一口の量を小さくし、飲み込みやすく
    食事を細かく切る、ひと口ずつ小分けにし、ゆっくり嚥下を確認しながら食べる。
  4. エネルギー密度の高い食材を活用
    少量でも高カロリー・高たんぱくになるよう、油(オリーブオイル等)アボカドバタークリームチーズなどを適度に使用してカロリーを上げる。
  5. 脱水を防ぐ
    十分な水分を摂取する。飲み込みづらい場合は、とろみのある補助食品や、スポーツドリンクなどで補ってもよい。

やわらかい食事例

  • マッシュポテトやポタージュ
    じゃがいも・かぼちゃなどを使ったマッシュ状やポタージュスープは飲み込みやすく、高カロリーにも調整しやすいです。
  • 軟らかく煮込んだ肉・魚
    鶏肉や白身魚など、脂質が少なく消化にやさしい食材を煮込む、シチューや煮物にする。小さく切り、さらに煮崩すことで食べやすくなります。
  • 煮込み・スープ類
    豆類や野菜を煮込み、とろみをつけたスープにする。具材はしっかり柔らかくして、大きすぎないよう注意する。
  • ヨーグルトやプリンなどの乳製品
    手軽にたんぱく質とカロリーが確保でき、飲み込みやすい点がメリット。

ミキサー食やペースト状の食事

より嚥下機能が低下している方は、下記のようにミキサーブレンダーを活用し、食材を滑らかにする方法があります。

  • 肉類や魚介類、野菜などをだし・スープ・水分を加えながら攪拌(かくはん)し、ペーストやスムージー状にする。
  • とろみ剤を加えて適度な粘度をつけ、飲み込みやすさを調整する。
  • 果物のスムージーやヨーグルトドリンクなど、甘みと栄養を同時に補給できるメニューもおすすめ。

十分な水分と高エネルギー・高たんぱくの意識

食道がん患者さんは、体力低下や副作用で一度にたくさんの食事量を摂りにくいことがあります。そのため、

  • 少量高カロリー食
    バターやクリーム、バター入りミルク、クリームスープなどで、少ない量でもエネルギーを確保する。
  • 高たんぱく食
    肉・魚・卵・豆腐・大豆製品・乳製品などを中心に、補助的にたんぱく質を確保する。
  • 水分の補給
    水・麦茶・スープ・スポーツドリンクなど、食事中や食間にもこまめに摂る。飲み込みづらい場合は、とろみ調整飲料を使用するとよい。

食道がん治療後や進行期のチューブ栄養

食道がんの治療後、経鼻チューブ胃ろうなどの方法で栄養を摂取するケースもあります。これは、以下のような理由から導入されることがあります。

  • 食道狭窄が強く、普通食がほぼ不可能
  • 手術後の一時的な嚥下障害
  • 高度進行がんで経口摂取が大幅に制限される

チューブ栄養では、医療用の栄養補助食品(液状の高カロリー食)が使用されることが多いです。これらの製品には、たんぱく質、炭水化物、脂質、ビタミン、ミネラルがバランスよく含まれています。持続的または定期的に注入し、体重や栄養状態が落ちすぎないよう管理します。

食道がん患者さんへの具体的な工夫

  • 1日3食から、こまめに6~8食へ
    従来の朝昼晩3回だけでなく、少量を複数回に分けることで、1回あたりの負担を減らし、合計摂取量を確保しやすくします。
  • 食事中に水分を少しずつ摂る
    一緒に飲み込むことで、食塊が移動しやすくなる。ただし、逆流しやすい場合は医師に相談。
  • 姿勢を工夫する
    食事中は背筋を伸ばすか、上体を約45度起こし、食後も30分程度は同じ姿勢を保つ。誤嚥防止や逆流予防に役立ちます。
  • 一口ごとに嚥下を確認
    途中で喉に詰まりそうになったら、少し休んで水分を追加するなど、ゆっくり食べる。
  • 気分が良い時を狙って食べる
    体調が比較的良く、吐き気が少ない時間帯に主食を持ってくる。少量でも栄養価の高いものを摂る。

避けたほうがよい食品や飲み物

以下は、食道がん患者さんにとって刺激が強い、あるいは嚥下・消化を妨げる可能性があるため、控えることが推奨される代表的な項目です。

  • 固くてパサつく食品
    例えば堅い肉、ビスケット、乾パン、揚げ物、堅い野菜スティックなど。食道に引っかかりやすく、喉の痛みや詰まりを起こしやすい。
  • 刺激の強い香辛料や酸味の強いもの
    唐辛子、コショウ、カレー粉、酢の物、柑橘系の果汁が濃いものなど。粘膜を刺激して痛みや炎症を悪化させる可能性がある。
  • 過度の砂糖を含む甘いお菓子や菓子パン
    短時間で血糖値が上昇しやすく、急激な疲労感や血糖変動を招くことがある。
  • アルコール飲料
    粘膜を刺激し、体内の脱水を助長するリスクがある。
  • カフェインを多く含む飲み物
    コーヒー、エナジードリンクなどを大量摂取すると、刺激や脱水の原因となることがある。
  • 喫煙
    がん治療を妨げるだけでなく、食道や全身への悪影響が大きいため厳禁。

栄養状態を維持する重要性とメリット

良好な栄養状態を保つことで、

  • 体力や免疫力が維持され、感染症を予防しやすくなる
  • 治療(手術、放射線、化学療法など)の副作用からの回復が早まりやすい
  • 体重減少や筋力低下を最小限に抑え、生活の質(QOL)を高めやすい
  • 治療後の合併症リスクを抑制できる

がん治療は長期にわたることが多いため、途中で栄養不足に陥ると治療の継続が困難になることがあります。少しでも多くカロリーと栄養を確保する工夫が非常に大切です。

研究による最新の知見

食道がんの術前・術後における栄養管理の重要性は、近年ますます注目されています。たとえば、Okamura A, Watanabe M, Nishida K, et al. (2021)の報告(Annals of Gastroenterological Surgery, 5(1), 12–28, doi:10.1002/ags3.12412)では、術前のしっかりした栄養介入が術後合併症を減らす効果が示唆されています。この研究は日本人患者を含む集団で行われており、食道がんの周術期管理において実践的に役立つ知見とされています。

さらに、Yamashita K, Makino T, et al. (2022)の調査(Ann Surg Oncol, 29(2), 1234–1245, doi:10.1245/s10434-021-11036-0)では、周術期の栄養管理に加えて、手術後のリハビリを含む包括的なリカバリー・プログラム(Enhanced Recovery After Surgery, ERAS)を導入した場合、栄養状態が良好に保たれ、入院日数の短縮や合併症リスクの低減がみられたと報告されています。これらの結果は、日本国内の医療施設でも適用可能な内容であり、実臨床において患者さんの予後改善につながる可能性を示しています。

推奨事項と注意点

  • こまめな体重測定
    週1~2回程度、体重を測って推移を把握する。急激な減少がある場合は主治医に相談。
  • 不調を感じたら早めに受診
    のどの痛みや嚥下困難が強くなったり、嘔吐が続いたりする場合は、早めに医療スタッフへ連絡し、対策をとる。
  • リラックスして食事する環境づくり
    食卓を整え、ゆっくりと少しずつ口にする。痛みや不安感が強いときは医師に痛み止めを処方してもらうなど、心身の緊張を和らげる。
  • 食事形態は段階的に変更
    一度に普通食に戻すのではなく、医師や管理栄養士と相談しながら軟食→ミキサー食→普通食のように段階的に進めていく。
  • 必要に応じて専門家のサポート
    言語聴覚士による嚥下指導や管理栄養士による栄養指導など、多職種連携の体制を活用する。

結論と提言

食道がんは、嚥下障害や副作用によって十分に食事ができないケースが多い病気ですが、適切な工夫とサポートがあれば、栄養状態を維持・向上させることが可能です。軟らかい食事形態ペースト食を上手に利用し、少量でも効率的にエネルギーとたんぱく質を摂取することが重要です。さらに、適度な水分補給複数回に分割した食事、食事姿勢・食べ方の工夫を通じて、できるだけスムーズに食べられる方法を模索しましょう。

治療法や病期によっては、チューブ栄養(経鼻チューブや胃ろうなど)が必要になる場合もあります。そうした場合でも、医療スタッフと連携を図りつつ、食事や栄養に関する最新の知見やガイドラインを取り入れることで、QOL(生活の質)向上につなげることが期待できます。

大切なことは、無理をせず、しかし「少しでも多く栄養をとる」という意識を持ちながら、段階的に進めることです。手術や放射線治療、化学療法の過程で体力を消耗しやすいからこそ、食事の工夫で回復力や抵抗力を維持していきましょう。

免責事項
本記事の内容はあくまで一般的な情報提供を目的としたものであり、医療従事者の診断・治療・指導に代わるものではありません。個々の症状や状況に応じた正確なアドバイスが必要な場合は、必ず医師や専門家にご相談ください。

参考文献

※本記事で紹介した研究や文献は、いずれもがん医療分野で評価・信頼性の高い機関・雑誌から選定されていますが、引用内容が必ずしも全員に当てはまるわけではありません。最新情報や個々の症例に合わせた判断には、専門家とよく相談することをおすすめします。

最後に、ご自身の症状や治療状況に合わせて医師や管理栄養士の指示をあおぎながら、適切な食事・栄養管理を進めましょう。一人ひとりの体調や生活背景に合った方法を見つけることが、治療を続けながら生活の質を保つために大切です。くれぐれも無理はせず、しかし必要な栄養はしっかりと確保し、ご自身の体と向き合っていただければと思います。

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