はじめに
骨折は、日常生活やスポーツ、交通事故など、さまざまな場面で比較的よく起こり得るけがの一つです。骨がひび割れたり複数の断片に折れたりした状態を指し、その原因は外傷や衝撃、骨粗しょう症など骨密度の低下を伴う疾患による場合など、多岐にわたります。骨折が生じると大きな痛みを伴うだけでなく、適切な治療を受けないまま放置すると骨の変形や機能障害などの後遺症が残る可能性があります。とくに高齢者の場合は転倒による骨折が増加傾向にあり、治療とリハビリテーションのあり方がますます重要視されています。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
一方、骨折は適切な処置と管理を行えば多くのケースで十分回復が見込めます。本記事では、骨折の治療においてよく取り入れられる保存的治療(ギプス固定、安静、投薬など)や手術(観血的整復固定術など)について、基本的な仕組みと流れ、使用される薬剤や術後のリハビリテーションまで、幅広く解説していきます。さらに、より早期の回復を目指すための生活上の注意点や、近年の研究動向も踏まえながら、骨折治療の効果的なアプローチについて考えていきます。
専門家への相談
本記事で紹介する治療法や考え方は、整形外科領域の文献や医療機関の情報に基づくものですが、個々の症例や患者さんの全身状態によって治療方針は異なります。とくに複雑骨折や複数箇所の骨折がある場合、または骨粗しょう症など骨の強度が低下している場合には、専門的な判断が求められます。
本記事で登場する医師はTiến sĩ – Bác sĩ – Giảng viên Vũ Xuân Thành(ベトナム・Bệnh viện Chấn thương Chỉnh hình TP. Hồ Chí Minh所属)であり、整形外科分野の治療および臨床研究を行っている方です。なお、本記事はあくまで一般的な情報提供を目的とし、個別の診断・治療の決定は担当医や専門家の診察・指示を優先してください。
骨折とは何か
骨折(骨が折れたりひび割れたりした状態)は、骨に過度の力が加わることで起こる損傷です。骨折が起こると、痛みや腫れ、変形、皮下出血などがみられる場合があります。また、患者さんによっては歩行困難や日常生活動作が制限されるなど、機能障害が生じるケースも少なくありません。
骨折は次のような要因で起こることが多いです。
- 外傷・衝撃:交通事故、スポーツ中の転倒や強い接触プレーなど
- 骨粗しょう症:骨密度が低下して骨がもろくなることで、わずかな衝撃でも骨折を起こしやすくなる
- その他の病的骨折:骨腫瘍などによる骨強度の低下
骨折は、適切な対応をしないと骨が変形して癒合したり、痛みや可動域制限が残ったりするリスクがあります。早期発見・早期治療が重要です。
保存的治療と手術的治療
骨折の治療では、まず「骨を正しい位置に整復(戻す)」し、「固定を行いズレを防ぎながら骨が癒合するのを待つ」という流れが基本的な方針となります。骨がしっかり癒合するまでに、患者さんの状態や骨折の種類に応じて、以下のような多様な選択肢が検討されます。
保存的治療の代表例
ギプス固定
もっとも一般的な方法として、ギプス(石膏)やファイバーグラス(ガラス繊維)を用いて折れた骨を外からしっかり固定する治療法があります。固定期間中は骨折部に力が加わりにくくなるため、骨のずれを最小限に抑えつつ、自然治癒力による骨形成を促すことができます。
ただし、ギプス固定期間が長いと筋力低下や関節の可動域制限が起こりやすいため、固定が外れた後にはリハビリテーションが不可欠です。
副木(スプリント)による固定
ギプスほどの強固な固定ではありませんが、一部の骨折に対しては副木を使用して簡易的な固定を行う場合があります。腫れが目立つ初期の段階や、治癒期間が比較的短い骨折などでは副木が選択されることもあります。必要に応じて最初は副木で固定し、腫れが引いた後にギプス固定に切り替えるケースもあります。
牽引法
牽引法は、骨折部位や周囲の筋肉に一定方向へ持続的な引っ張る力をかけることで、骨が元の正しい位置に近づくように整復を補助する方法です。大腿骨など太い骨に用いられることが多く、手術前の一時的な処置としても利用されます。
筋肉が縮こまって骨がずれてしまうのを防ぎ、痛みを軽減させる効果もあります。ただし、長期間の牽引は入院管理を要するなど、患者さんの生活面への影響が大きいため、適応は慎重に判断されます。
リハビリテーション(理学療法)
長期間の固定によって関節や周囲の筋肉の柔軟性・筋力が低下しやすいので、ギプスや副木を外す時期に合わせてリハビリテーションを開始します。関節可動域の回復運動や筋力強化トレーニングなど、段階的なプログラムが組まれます。
とくに高齢者では骨癒合後も筋力が戻りにくく、転倒リスクが再び高まる可能性があるため、歩行訓練やバランス訓練を入念に行うことが望まれます。
手術的治療の代表例
外固定(エクスターナル・フィクサー)
骨折の断片を金属ピンやボルトで皮膚の外部から固定する方法です。骨周辺の軟部組織に重度の損傷がある場合や、複雑骨折で一時的に骨の位置を安定させる必要がある場合に利用されることがあります。
皮膚に直接装置が取り付けられるため、感染症リスクや外観上の負担も考慮する必要がありますが、手術が難しいタイミングなどで一時的に応急処置的に行われるケースもあります。
観血的整復固定術(オープンリダクション・内固定:ORIF)
骨が大きくずれていたり、複数の骨折片が存在していたり、関節面に達する骨折がある場合には、手術で骨を直接元の位置へ戻して固定する方法が選択されます。具体的には次のような手技がとられます。
- 金属プレート・スクリュー:骨折片を直接金属板やビスで押さえて安定させる
- 髄内釘:骨髄腔の中に金属製の棒を挿入し、折れた骨の内側から支える
これらの手術では、骨折部位を目視で確認しながら適切な整復を行い、その上で強固に固定するため、骨癒合率は高くなる傾向にあります。もっとも、手術に伴う出血や感染症、神経・血管損傷などのリスクもあり、患者さんの全身状態や骨折の性質、年齢などを総合的に見極めて適応が判断されます。
手術に伴うリスクと合併症
- 感染症:創部からの細菌感染
- 神経や血管の損傷:手術操作中に周囲組織に損傷が及ぶ可能性
- 血栓塞栓症(静脈血栓塞栓症や肺塞栓症):下肢骨折や術後安静が長引く場合に注意が必要
- 骨癒合不全:何らかの要因で骨の癒合が遅れたり、偽関節を形成してしまう場合
骨折治療をサポートする薬剤
骨折治療では、以下のような薬剤を併用することがあります。あくまでも補助的な役割であり、薬だけで骨折が早く治るわけではありません。医師の指示のもとで安全に使用することが重要です。
鎮痛薬
骨折後は痛みが強く、日常生活に支障をきたすこともあるため、鎮痛薬が処方されることがあります。
一般的にはアセトアミノフェン(パラセタモール)などの比較的安全性が高い内服薬が利用されることが多いです。ただし、長期的に大量摂取すると肝機能障害などの副作用リスクがあるため、医師の診断のもと使用量を調節する必要があります。
ビタミン剤・ミネラル補給
骨の合成には、ビタミンD・ビタミンC・カルシウム・リン・マグネシウムなど、複数のビタミンやミネラルが関わります。とくに高齢者や食事制限のある方、血液検査で栄養不足が認められる場合には、不足を補うためのサプリメントや内服薬が処方されることがあります。
ただし、サプリメントだけに頼らず、バランスの良い食事や屋外での日光浴(ビタミンD合成に関わる)などもあわせて行うことが理想的です。
合成ホルモン製剤(テリパラチドなど)
テリパラチドのような骨形成を促進する作用を持つ薬剤が、骨折治癒の促進目的で使用されるケースがあります。この薬剤は副甲状腺ホルモン(PTH)の一部を合成したもので、骨芽細胞を活性化し、骨形成を高める可能性が報告されています。
ただし、投与期間に制限があったり、使用中に定期的な血液検査が必要とされるなど、医療従事者の管理下での治療が望まれます。
抗炎症薬(NSAIDs・ステロイド)の注意点
炎症反応は短期的には必要な修復過程の一部です。非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やステロイドを過度に使用すると、炎症を抑えすぎて骨癒合を遅らせる可能性があるという見解があります。そのため、骨折治癒が始まったばかりの時期には、NSAIDsやステロイドの使用はなるべく控えたほうがよいと考えられています。
痛みや腫れが強く、どうしても抗炎症薬が必要な場合には、医師と相談のうえ、リスクとベネフィットを十分に検討してから使用します。
骨折後の経過観察とリハビリテーション
骨折は、適切な固定や手術後も時間をかけて少しずつ治癒していきます。そのため、レントゲン検査やCT、MRIなどを用いて定期的に骨癒合の状況を確認し、必要に応じて固定方法の変更やリハビリ計画の再評価が行われます。
また、ギプスや副木を外した後は、関節が固くなったり筋力が落ちたりしているため、段階的なリハビリが必須です。主に以下の点に留意しながらリハビリを進めます。
- 関節可動域トレーニング:固まった関節を少しずつ動かし、可動域を取り戻す
- 筋力強化トレーニング:長期固定により萎縮した筋肉を再生・強化する
- バランス訓練や歩行訓練:特に下肢骨折では再転倒防止や安全な歩行の獲得が重要
- 日常動作の復帰:立ち上がりや階段昇降など、日常生活の動作を安全に行えるように練習する
高齢者などは回復に時間がかかりやすく、再骨折リスクも高まるため、担当医や理学療法士の指導のもとで長期的にケアを続けることが重要です。
新しい研究とエビデンス
骨折治療に関しては、日々新しい研究が行われています。近年、骨癒合を促進するための生物学的製剤の開発や、リハビリテーションのタイミング・方法論の最適化を調べる研究が盛んに行われており、患者さんの回復速度や最終的な機能回復を向上させる可能性が示唆されています。
たとえば、The Journal of Bone and Joint Surgery. American Volumeに2022年に掲載された研究では、骨折直後の免疫応答、とりわけ好中球が骨折治癒過程に及ぼす全身的な役割について観察が行われ、炎症反応と骨形成メカニズムの関連が詳細に示されています(Glass GE ほか, 2022, 104巻13号, 1195–1207, doi:10.2106/JBJS.21.00909)。この研究の結果、急性期の炎症が適切にコントロールされれば骨形成が促進されやすくなる可能性があると報告されました。日本国内の患者さんにおいても、基本的な骨の修復過程は共通するため、炎症を「なくす」よりも「適切にコントロールする」ことの大切さが再確認されています。
また、同誌の2021年号には、高齢者における多発骨折の機能的予後と死亡率に関する大規模研究が報告されています(Clement ND ほか, 2021, 103巻2号, 130–138, doi:10.2106/JBJS.20.00858)。この研究では、高齢者が複数の部位を同時に骨折すると、その後の日常生活機能や死亡率に深刻な影響が出ることが示唆されています。早期からの積極的な治療と包括的なリハビリテーション介入が、合併症を防ぎ、生存率とQOL(生活の質)を向上させるうえで非常に重要だと結論づけられています。
日本でも、高齢化が進むなかで転倒による骨折例が増加している実態があり、多発骨折の管理は大きな課題です。これらの海外研究は、日本人患者に対しても大いに参考となるエビデンスを示していると考えられます。
結論と提言
骨折の治療は、保存的アプローチ(ギプスや副木などでの固定、安静、投薬など)から手術的介入(観血的整復固定術や外固定など)まで、骨折の種類や重症度、患者さんの年齢や健康状態によってさまざまです。基本的には、骨を正しい位置に戻し、ずれを防いでしっかり固定し、自然治癒による骨形成を待つことが中心となります。とくにリハビリテーションを適切なタイミングで行うことにより、関節や筋力、機能の回復が促進される点が重要です。
- 保存的治療:比較的ズレの少ない骨折にはギプスや副木、安静で十分なケースもある
- 手術的治療:複雑骨折や多発骨折、関節面への損傷などがある場合には手術が必要となる場合がある
- 薬剤:鎮痛剤や骨形成を促す薬、ビタミン・ミネラルなどはあくまで補助的手段であり、医師の管理下で使用する
- リハビリテーション:固定中の筋力低下や関節の拘縮を改善し、転倒予防にもつながる
- 合併症防止:感染、血栓、骨癒合不全などを防ぐため、術後・固定中も定期的なチェックが必要
骨折後は、日常生活上の制限や不便を強く感じることがあります。しかし、焦って自己判断で動きすぎたり、逆に痛みを恐れてまったく動かないでいると、回復が遅れたり二次的合併症が生じたりする懸念があります。したがって、担当医や理学療法士、看護師、薬剤師などの専門家チームとしっかり連携をとり、個々の状況に合った治療・リハビリテーションを進めることが大切です。
参考文献
- Nonsurgical Treatment for Nonhealing Fracture (アクセス日: 2021年6月11日)
- Broken leg (アクセス日: 2021年6月11日)
- Fractures (Broken Bones) (アクセス日: 2021年6月11日)
- Treatment for Fractures (アクセス日: 2021年6月11日)
- Bone fractures (アクセス日: 2021年6月11日)
- Glass GE ほか (2022) “Evidence for a systemic role for neutrophils in fracture healing in humans.” The Journal of Bone and Joint Surgery. American Volume, 104(13), 1195–1207, doi:10.2106/JBJS.21.00909
- Clement ND ほか (2021) “Multiple fractures in the elderly: Functional outcome and mortality.” The Journal of Bone and Joint Surgery. American Volume, 103(2), 130–138, doi:10.2106/JBJS.20.00858
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