はじめに
骨がもろくなる「骨粗しょう症」は、気づかないうちに進行し、症状がはっきり出る頃には骨折など重大な合併症を引き起こすことがあります。特に50歳を過ぎると、男女を問わず発症リスクが増大するといわれています。しかし日常生活の中では「骨粗しょう症は危険なのだろうか」と深刻に考えずに過ごしている方も少なくありません。本記事では、骨粗しょう症がどのように危険か、その代表的な合併症としてどんなものがあるのか、そして日常生活でどのように予防できるのかを詳しく解説していきます。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
骨粗しょう症は初期段階では症状が分かりにくく、検査や医師の診断を受けるまで進行に気づきにくい病気です。そのため、多くの場合は骨折や脊椎の変形など深刻な状態が表面化してから初めて「実は骨がスカスカだった」と判明することもあります。特に高齢者は転倒しやすく、骨が折れやすい状況にさらされるため、骨粗しょう症による要介護化や寝たきりにつながるケースが少なくありません。さらに近年の研究では、骨折後1年以内の死亡率が高まるとの報告がいくつも見られており、実際に国内外で問題視されています。2022年にOsteoporosis International誌で公表されたCosmanらによる大規模メタアナリシス(doi:10.1007/s00198-022-06399-y)では、世界各国の骨折患者データを総合的に分析し、転倒予防と骨の健康管理を徹底することが高齢者の長期予後に大きく寄与すると結論づけました。
こうした研究は、骨粗しょう症の危険性をより身近な課題として捉え、早めの対策を講じることの重要性を改めて示しています。本記事では、骨折や脊椎圧迫骨折(椎体のつぶれ)、運動能力の低下といった具体的な合併症例を取り上げながら、生活習慣面での注意点や骨の強化に役立つアドバイスを紹介します。さらに、2023年にOsteoporosis International誌で解説を発表したLewiecki EM(doi:10.1007/s00198-023-06755-y)も指摘しているとおり、効果的な薬物治療に加えてリハビリを含む総合的なアプローチを早期に行うことが、合併症リスクを低減し、生活の質を維持するカギとされています。骨粗しょう症が引き起こしうる危険性を十分理解したうえで、適切な対応を心がけることが大切です。
専門家への相談
本記事の内容は、以下の医師による監修をもとに作成された情報を参照しており、また国内外の信頼できる医学文献・研究データを参照しつつ加筆したものです。なお、実際に治療や予防方法を実践する場合は、必ず医療機関での診察・検査を受け、担当医や専門家の指示を仰ぐようにしてください。
- Tham vấn y khoa: Bác sĩ Nguyễn Thường Hanh(Nội khoa – Nội tổng quát · Bệnh Viện Đa Khoa Tỉnh Bắc Ninh)
さらに、日本国内の最新知見としては、学会や研究機関で骨粗しょう症に関する多様な研究が活発に進められています。その概要は本記事の各パートで順次解説していきます。読者の皆さまが自分自身の骨の健康管理をより具体的にイメージし、適切な行動を取るための手がかりとなれば幸いです。
骨粗しょう症は危険な病気なのか
骨粗しょう症は骨密度が低下し、骨組織がスカスカになっていく状態を指します。骨の強度が落ちるので、わずかな衝撃や転倒でも骨折を起こしやすくなることが最大の特徴です。初期段階では特有の痛みや目立った変形がないため、自覚症状に乏しく、「まだ大丈夫」と放置してしまうケースが少なくありません。その結果、以下に示すような深刻な合併症が起きてから初めて骨粗しょう症と診断されることもあります。
特に日本では、高齢化の進行に伴い、要介護や寝たきりの原因として「転倒・骨折」が大きな要因の一つになっています。さらに男性より女性のほうが骨密度低下のリスクが高いと報告されており、更年期以降に女性ホルモン(エストロゲン)が急激に減少するためです。ただし、男性も加齢や生活習慣によって骨粗しょう症を発症する可能性は十分にあるので、自分は関係ないと思い込まずに注意が必要です。
骨粗しょう症が引き起こす主な合併症
骨粗しょう症が進行すると、以下のような合併症が起こりやすくなります。いずれも生活の質(QOL)を大きく損ね、場合によっては命にかかわることもあるため、予防と早期発見が欠かせません。
1. 骨折
骨粗しょう症による合併症の中でもっとも多いのが骨折です。特に大腿骨近位部(股関節付近)や脊椎(圧迫骨折)、橈骨(手首付近)などが典型的な骨折部位として知られています。骨粗しょう症の骨折は、日常生活の軽微な動作や小さな衝撃でも簡単に生じるのが大きな特徴です。
- 大腿骨近位部骨折
高齢者に多く、転倒などで股関節付近を強打すると起こりやすい骨折です。手術やリハビリが必要となり、長期間の入院・介護が避けられません。骨折後1年以内の死亡率が高まることが世界各地の研究で示されており、2022年に発表された国内多施設調査(複数の医療機関が共同で行う調査)でも同様の傾向が報告されています。 - 脊椎圧迫骨折
背骨の椎体(つい体)が圧迫されてつぶれる骨折です。重い物を持ち上げたとき、くしゃみや咳をした際の衝撃でも起こり得ます。圧迫骨折は急激な痛みを伴い、背骨が変形することで姿勢が悪くなり、背中の丸み(亀背)や腰痛などを引き起こします。さらに複数の椎体が連鎖的に変形すると、慢性的な痛みや身長低下にもつながります。 - 橈骨遠位端骨折
転倒時に手をついてしまったり、軽くひねったりしただけでも起こりやすい骨折です。日常生活で頻繁に腕を使うため、骨折後の不自由は非常に大きく、回復にも時間がかかります。
骨折は一度起きると再発リスクがさらに高まるといわれており、高齢者の場合はベッド上安静が長引くことで廃用症候群(身体機能の急激な衰え)や血栓症、肺炎などほかの合併症を誘発する恐れもあります。
2. 脊椎の圧迫による姿勢変化・疼痛
骨粗しょう症が進行すると、脊椎の椎体が押し潰されるように変形し、背中や腰が曲がる、身長が縮む、背骨全体が前方に湾曲する(いわゆる「猫背」や「後弯」)といった症状が出やすくなります。これを放置すると背骨や肋骨周辺に慢性的な痛みが続き、日常生活の動作が大きく制限されます。
さらに、胸椎(背中側)の変形が進むと、胸郭(胸部の骨格)も変形し、呼吸が浅くなる、動くと苦しい、といった呼吸機能の低下を引き起こすことがあります。特に高齢の方や呼吸器系に持病をもつ方は、呼吸機能低下が全身状態の悪化につながることもあるので要注意です。
3. 運動能力の低下
骨が弱くなるだけでなく、骨折や痛みによって身体を動かす機会が減るため、筋力の低下が進みやすくなります。長期間寝たきりになる方も珍しくありません。結果として自力で歩行しづらくなり、要介護状態に陥るリスクが高まります。また、運動不足がさらなる骨密度低下や生活習慣病の悪化につながり、負のスパイラルに陥ってしまうケースもあります。
2023年に発表された国内調査では、骨粗しょう症と診断された高齢者のうち、骨折経験のある人が1年後に介護を必要とする状態へ移行する確率は、骨折未経験の人に比べ有意に高いと報告されています。このように、骨粗しょう症は運動機能の低下や生活の質の大幅な低下につながりやすい深刻な病気です。
骨粗しょう症の合併症リスクが高い人とは
骨粗しょう症が引き起こす合併症は、誰にでも起こりうるわけではありませんが、次のような要因を持つ方は注意が必要です。
- 高齢者・低体重の方
加齢によって骨の新陳代謝が衰え、骨密度が低下しやすくなります。特にBMIが極端に低い(やせ型)の方は骨密度が低い可能性があり、リスクが高まります。 - 運動不足の方
筋肉や骨に適度な負荷がかからないと、骨密度を保つ機能が衰えやすくなります。日常的に歩く量が少ない、座りがちな生活を送っている方は要注意です。 - 過度の飲酒・喫煙・カフェイン摂取
タバコのニコチンやアルコール、過度なカフェインは骨代謝に悪影響を及ぼす可能性があるといわれています。 - カルシウムやビタミンDの不足した食生活
長期にわたってカルシウムやビタミンDが不足すると、骨の再構築が正常に行われず、骨密度が下がりやすくなります。 - ホルモンバランスの乱れ(特に女性)
早期閉経や卵巣摘出などでエストロゲンが急激に減少すると、骨密度が急激に下がるリスクがあります。甲状腺や副甲状腺ホルモンの異常も骨代謝に影響します。 - ステロイドなど特定の薬剤を長期間服用している方
ステロイド系薬剤(コルチコイドなど)は骨密度を減少させる副作用があるため、継続的に服用している方は医師の監督下で骨粗しょう症の検査や予防策を講じる必要があります。
骨粗しょう症による合併症を防ぐための対策
骨粗しょう症が危険である最大の理由は、骨折や脊椎変形といった合併症が私たちの日常生活に大きな支障を与え、回復にも時間とコストがかかるという点にあります。以下では、合併症を未然に防ぐ、あるいは進行を遅らせるための具体的な対策を紹介します。
- 1. カルシウムとビタミンDの十分な摂取
牛乳やヨーグルト、小魚、大豆製品、緑黄色野菜などでカルシウムを補給しつつ、鮭やサンマ、キノコ類でビタミンDを摂取するのが理想的です。日光を適度に浴びることでも体内でビタミンDが合成されますが、天候や生活スタイルに左右されるため、必要に応じてサプリメント(医師に相談の上)を活用すると良いでしょう。 - 2. 適度な運動習慣
ウォーキングや軽めの筋力トレーニング、ヨガなど、骨に適度な負荷をかける運動が推奨されます。研究によると、定期的に1日30分程度のウォーキングを習慣化した人は骨密度が維持されやすい傾向があるとされています。激しい運動よりも長続きしやすい適度な運動を心がけることが大切です。 - 3. 禁煙・節酒・カフェインの摂りすぎに注意
タバコのニコチンは骨をもろくしやすく、アルコールやカフェインも骨の健康を損ねる可能性があります。特に喫煙習慣は骨折リスクを有意に高めるというデータが国内外で多数報告されており、できる限り禁煙を実行することが推奨されます。 - 4. 骨折防止のための環境づくり
室内における転倒リスクを減らすため、床の段差をなくす、手すりを設置する、滑りにくいマットを敷くなど工夫しましょう。特に高齢者の場合、夜間のトイレや起床時に転倒しやすいので、足元を照らす照明の導入も効果的です。 - 5. 適切な検査と早期治療
骨密度測定(DXAスキャンなど)を受けることで、自分の骨の状態を把握できます。結果によっては医師から薬物治療(ビスホスホネート製剤、選択的エストロゲン受容体モジュレーター、抗RANKL抗体など)を提案されることがあります。2023年にOsteoporosis International誌で解説されたLewiecki EMの論文でも、骨折歴がある患者や骨密度が著しく低い患者は、積極的な薬物治療とリハビリを組み合わせることで合併症リスクを減らせると報告されています。 - 6. ステロイドなどの長期服用に注意
やむを得ない理由でステロイド薬を継続している場合、骨粗しょう症のリスク管理は不可欠です。定期的に骨密度検査を受け、カルシウム・ビタミンD・ビタミンKの摂取、主治医との相談に基づく運動指導などを徹底し、骨折を防ぐケアを怠らないようにしてください。
より重症化させないために
骨粗しょう症は自覚症状が乏しいため、早期に対策を打たないと合併症リスクが高くなります。しかし、正しい知識をもって対応すれば、骨密度の低下をある程度抑え、骨折リスクを下げることが可能です。特に注意すべき点は以下です。
- 定期検診や早めの受診を習慣づける
年齢が上がるほど骨量は低下しがちです。定期的な健康診断に骨密度測定を加え、異常があれば早めに専門医を受診することで、適切な治療や予防策を開始できます。 - 生活リズムの改善
運動・食事・睡眠が健康的にバランスされているか見直します。特に睡眠不足はホルモンバランスを乱し、骨密度の維持にも悪影響を及ぼす可能性があります。 - 小さな痛みや違和感を放置しない
背中や腰、関節にちょっとした痛みや違和感を覚えたら、その原因を「年のせい」「運動不足」と安易に決めつけずに、整形外科や内科などで相談してみましょう。骨折や椎体の変形の早期発見につながる場合があります。 - 専門家との連携
整形外科医、内科医、リハビリ専門家、栄養士など、多職種と連携して総合的に対策を講じることが望ましいです。骨折後のリハビリだけでなく、普段から筋肉量を維持する筋トレやバランス訓練など、包括的なアプローチを行うことで再骨折や重症化を防ぎます。
結論と提言
骨粗しょう症は、初期の自覚症状が乏しい一方、骨折や椎体の圧迫変形など重大な合併症を引き起こしやすい疾患です。特に大腿骨近位部骨折は要介護化や寝たきり、死亡率の上昇と深く関わりがあり、脊椎の圧迫変形は慢性的な痛みや姿勢の崩れ、呼吸機能の低下につながります。運動能力の低下はさらに生活の質を下げ、社会的・心理的な影響も大きくなります。
しかし、適切な生活習慣(栄養バランス、運動、禁煙・節酒など)と早期の骨密度検査、必要に応じた薬物治療・リハビリテーションを組み合わせることで、こうした深刻な合併症を大幅に予防することは十分可能です。骨粗しょう症による合併症は決して「他人事」ではなく、誰にでも起こりうる問題だからこそ、日頃からの対策が重要になります。
特に日本の高齢化社会では、転倒・骨折による要介護や寝たきりの増加が懸念されています。骨粗しょう症のリスクが高まる50代以降(女性では閉経期前後)には、骨密度検査を含む健康診断の活用や、適度な運動とバランスの良い食生活への意識が欠かせません。さらに、骨折を経験した方や骨粗しょう症と診断された方は、再骨折リスクが高いことを理解し、日々の生活や職場・家庭環境の改善、専門家による治療・アドバイスを積極的に受けることが望まれます。
最後に、骨粗しょう症や骨折に関わる情報は日々新しい研究が発表されており、診療ガイドラインや治療薬の進歩も続いています。海外の大規模メタアナリシスなどの文献情報でも、早期からの多面的な介入が患者の転倒・骨折リスクを効果的に下げるという知見が蓄積されています。したがって、本記事を参考にご自身の骨の健康に関心を深め、早期の行動と継続的なセルフケアを実践していただければと思います。
参考文献
- Bệnh loãng xương có nguy hiểm không?
https://soyte.hanoi.gov.vn/kham-chua-benh-pho-bien-kien-thuc-y-hoc/-/asset_publisher/4IVkx5Jltnbg/content/benh-loang-xuong-co-nguy-hiem-khong-?_101_INSTANCE_4IVkx5Jltnbg_viewMode=view (アクセス日: 20/10/2021) - Osteoporosis.
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/osteoporosis/symptoms-causes/syc-20351968 (アクセス日: 20/10/2021) - Osteoporosis and its complications.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24994054/ (アクセス日: 20/10/2021) - MANAGING PATIENTS WITH COMPLICATIONS OF OSTEOPOROSIS.
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0889852905700189 (アクセス日: 20/10/2021) - Osteoporosis.
https://www.betterhealth.vic.gov.au/health/conditionsandtreatments/osteoporosis (アクセス日: 20/10/2021) - Cosman F, et al. (2022) “Global approach to lowering fracture risk from osteoporosis: Setting priorities for universal bone health coverage,” Osteoporosis International, doi:10.1007/s00198-022-06399-y
- Lewiecki EM (2023) “Laying the foundation for success in osteoporosis therapy,” Osteoporosis International, doi:10.1007/s00198-023-06755-y
情報提供の免責事項
本記事は一般的な健康情報の提供を目的としており、医療行為の指示や診断を行うものではありません。具体的な治療や薬の選択については、必ず医療機関で専門家の診断・指導をお受けください。ここで紹介した内容は、研究文献やガイドラインに基づいていますが、個々の症状や体質によって異なる対応が必要な場合もあります。疑問点がある場合や治療を検討する場合は、かならず担当医や専門家に相談してください。